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「……それで、俺がこの書類を提出したらあやは生まれ変わるわけだけど、そのに何かやりたいことってある?」
「やりたいこと?」
俺が言うと、あやはオウム返しに尋ねてくる。
ぴんと指を立てて解説口調で説明した。
「例えば、この死後の世界での娯楽を楽しむやつもいるし、ここで担当である俺と話していくやつもいる。
すでに死んだ家族や友達と再会して喜ぶやつもいるけど……って、お前は関係ないのか」
今相手にしているのは子どもの魂であることを思い出して、口を動かすのをやめる。
何を言えばいいのかわからなくて口をつぐむと、あやは気にしなくていいよ、と笑った。
「うーん、それじゃ、現世に戻ることはできるの?」
「ああ、できるよ。けど現世でいう幽霊になるけど、それでいいのか?」
「もちろんっ!」
あやは相変わらずの笑顔でうなずく。
俺は珍しいなと思いつつ、そうかとつぶやいた。
大体、人に怖がられたくないという理由で現世に戻る人は少ない。
まぁ、霊感がない人に接する程度なら関係ないのだけど。
いわゆる無視されてる光景になるから辛いかものかもな。
とりあえず俺は現世に着いていく必要はないから、仕事はいったん終わる……
帰って昼寝の続きでもするかーと考えていると、
「んじゃあ、担当さんも!行こ!!」
「うえっ!?」
なぜか腕を引っ張られ、俺も現世へ降りるはめになった。
体が拒否反応を起こしつつ、抗えずに現世へ降下していくのを感じながら確信する。
こいつ面倒な部類の中でも、
特別めんどうなやつだ……!!
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「なんで俺も……」
「だって私だけじゃ寂しいし」
「はぁ?」
寂しいとかよく分からない理由で現世に道連れにされた。
ないとは思うが、もし仮にこいつが生まれ変わってまた死んだときに担当回って来たら、絶対断ってやる。
そのことを心に誓いながら、久しぶりに来る現世をきょろきょろと見渡す。
たった数十年来ないだけでこんなに景色が変わるのか、と関心していると、
「ほら!突っ立ってないで行こ!」
「ちょ、観光くらいさせろよ」
また引きずられた。
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「1日ぶり!あいむばっくまいほーむ!!」
「誰もいないけどな」
そしてただいまのあいさつ独特、とツッコミを入れながら辺りを見渡す。
あやの家だと言われて連れてこられたのは、ごく普通の平凡な家だった。
てかあやの親とか親戚だとか、集まってないのか。
いま葬式中ってとこなのかな……
そう考え込む俺の横で、あやは
「よし、ネットネット……ってか、スマホ反応しないじゃん!!」
ネットサーフィンをしようとしていた。
「いや、現世に戻ってきて1番最初にするの、ネット!?」
「あったりまえじゃん!ネットの友達に死亡報告しなきゃだしね」
「死亡報告を死んだ本人がするって、ジワるな」
鼻で笑うと、あやはそれな、歯を見せた。
「てか、スマホなんで反応しないの?」
「あー、そうか。スマホ自体をつかむことはできても、スマホって確か電気が指に流れることで反応してるから……」
「そうなの?よく知ってるね、あの世で暮らしてるのに」
「色々覚えろって、毎日大量の資料渡されんのー」
「うわぁ……大変」
あやの口から、同情するような声が出てくる。
それに加えて、お前に現世に連れて来られたおかげで仕事が増えてるけどな。
本当だったら家でゆっくり寝てるはずだったのによ。
本人が目の前にいるにも関わらず、内心で愚痴る。
俺が呪っている当の本人は、パソコンを使えばいいことに気がつきノートパソコンを開いていた。
そのうち、横からカタカタカタ...というタイピング音が耳に入ってくる。
ここで一言。
「暇だな」
超ひま。
そう思って呟いた独り言も、あやの耳には全く届いていないようだった。
少しいたずら心が出て、あやのパソコンの画面をのぞいてみる。
勝手にパソコンを見ると嫌がる人がいるって聞いたことあるけど、仕事を増やしてるあやへの仕返しだ。
そうやって自分を正当化して画面をのぞくと、あやがやっているのであろうブログの編集画面がうつし出されていた。
あやが指を動かすたびに、並ぶ文字が増えていく。
自分の訃報を書いているようだ。
ていうか……
「あや、妹の名義で死亡報告してんの?」
「当たり前じゃん。私本人が言ってますって書いたって信じられるわけないよ」
(名前)はこちらをチラリとも見ずに答える。
それはそうなんだけど、あやは幽霊になってることとか、全部書き込むんだと思ってた。
あやにも現実的なところがあるようだ。
「……意外」