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「カイルー仕事入ったぞー」
「はぁ?俺、昨日休暇に入ったばっかなんだけど」
「まぁまぁ、そんな怖い顔すんなよ。今、現世は冬だろ?冬は死ぬやつが増えるんだって」
「んなこと知ってるけどよ……」
天使の仕事では珍しい休暇の2日目。
気持ちよく眠っているのを仕事仲間に起こされた挙げ句、仕事に行けと言われた。
ざっけんな。
……と、言いたくても、なんとかなるものでもなく。
仕方なく着飽きた仕事着に着替えて、現世とこの世界の境目に向かう。
……今回のやつ、面倒じゃないといいけど。
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「こんにちはー!!」
「……こんにちは」
面倒な部類のやつだった。
俺なんかしたか?
仕事だるいって悪態ついたの、見られたとか?
それにしても、この仕打ちはひどすぎるだろ。
速攻のフラグ回収に心底うんざりしつつも、仕事は終わらせないとなので、見飽きた書類を睨みながら手続きを進めていく。
ていうか……
「15歳で死んだの?」
「そうそう!しかもさ、誕生日に死んだんだよ?びっくりだよねー!」
そう言って、カラカラと笑う目の前のやつ。
書類を見て、こいつは 葉月あや だということを確認する。
子どもの魂を担当するのは初めてではないけど
大人になってないのに、死んだことにあっけらかんとしてるやつ、初めて見るな……
不思議に思うも平然を保ち、目の前のイスをすすめて、書類の空欄を埋めるための質問を始める。
「死因は?」
「交通事故かな……たぶん」
「生きてたころの生きがいは?」
「推しと友達!」
「……生きてみてやり残したこと」
「うーん……」
ここであやの口が止まった。
腕を組み、うーんとうなって考えこんでいる。
まぁ、この質問は即答するやつと考え込むやつ、2つのタイプに分かれる。
きっとこいつは後者なのだろう。
気長に待つか。
そうみなして待つ体勢に入ると、あっとあやは口を開いた。
「遺書を残すの忘れた」
「あーね」
うなずき、納得する仕草を見せる。
遺書を残し忘れたという人はけっこういる。
けど、それは大抵年寄りで、子どもの魂は「もっと生きたかった」だとか、そういう類のことを言うことが多い。
まぁ、俺も子どもの魂を担当するのは久々だし……
今の現世では子どもでも遺書を残すのか?
頭にクエスチョンマークを浮かべつつも、書類にあやの言ったことを書き込んでいく。
「よし。とりあえず書類はほとんど埋まったし、あとは何に生まれ変わるか決めるだけだな」
「え、わたし生まれ変わるの?」
言うと、あやは目を丸くしてきょとんとする。
あれ、言ってなかったけな
「まぁ、そうだな。また現世に生まれ変わることになるけど、何に生まれ変わる?」
試すようにあやをまっすぐ見つめて聞く。
大体の人は、ここで1番迷う。
でも、結局はまた同じ生物に生まれ変わることを望むのがほとんどだ。
虫でも、植物でも、もちろん人間も。
けれど、
「ダンゴムシで!」
あやはそう答えた。
「……え?」
思わず、口から感嘆詞がこぼれる。
「だから、ダンゴムシだってば!だ!ん!ご!む!し!」
あやは自分の声が俺に聞こえなかったと勘違いしたのか、さっきより大きな声で言う。
「……そうか」
なぜか少し寂しいような気持ちになりつつも
書類の 甲殻類 という欄を探し、そこに ダンゴムシ と書き込んだ。