第99話 新しい家族
お風呂から出たあとリビングの椅子に座った。お母さんとアンジェも座っているので家族は揃っているけれど、やはり寂しく感じてしまう。だけど立ち止まれない。アンジェの笑顔も大切なの…。
アンジェが先を見据えていると言っていたので今後について話し合いをしなければならない。心配させてしまうのは本意ではないし私が立ち直らなければ妖精と暮らせない。
「お母さん、今から真面目な家族会議をしよう。とりあえず私のことは気にしなくてもいいので明日には妖精を連れてきて。勘だけれど、種族としての必要な知識を与えて封印しているでしょ。」
「よく当たる勘ね。明日の午前9時に連れてくるわ。妖精に聞かせたくない話し合いをしておきたいのでしょ。それは将来の問題についてかしら?」
「なるほど。私たちが解決しなければならない最重要な問題だね。」
問題が起きるのか分からないけれど、起きるのを前提にしておいた方がいい。だけどお母さんとアンジェは太陽と直接戦うことを想定しているような気がする。
その可能性が絶対にないとは言えないけれど、限りなく低い。
「お母さん、私たちも魂が見えるようにすることはできる?魂を消滅する方法や消滅したら何になるのか知っている?それと魂を保護するための条件を知っている?お母さんの核は金属だと思うけれど、太陽の核にはそれらしき物はなかった。だけど太陽は大量の魂を保持しているはず。お母さん、自分を知るのは大切なことだよ。」
「手厳しいわね。アンジェが生命のいる星を太陽の力で消しているのに太陽から魂が届かない。クローディアの体に入っていたクリス本人の魂もない。生命のいる世界でしか魂の再利用ができないはずなのに太陽が保持しているのは間違いない。だから世界の知らない知識があるはずよ。これでは問題に対応できないわね。世界が自分を知らないのだから…。これから実験していくしかないでしょう。議題はそれだけかしら?」
「リアはお母さんに最も近いので何か感じているのかもしれないね。」
世界は自分の意思で学んだことがないのが大問題。知識と力を与えられているだけで、それについて疑問を持ったことさえない。だから世界に個性を持たせた理由が分からない。
太陽に洗脳されていないのだとすれば世界には馬鹿しかいない。逆に問題のある種族が誕生したときに世界を洗脳して太陽が管理する設定なのかもしれない。
結局は太陽と世界が命に興味がなくなる悲惨な状態になっているけれど。
思考しているだけなのは優しさだよ。
恐ろしい微笑みを向けてきたので少しは理解しているのかな。
「記憶と精神が残る魂なら魔力に魔法式を書き込むことはできる?魂が消滅すると魔力に変わり魂が魔力に魔法式を書き込むことができるのであれば太陽の子を生み出すことができる。だから太陽もお母さんの真似をして敵の中に放り込むかもしれないよ。違いがあるとすれば太陽の子は恐ろしく強いと思う。」
太陽が私たちを憎んでいるのであればアンジェが精神を貼り付けて太陽の力を借りていたときに滅ぼされていると思う。クリスさえ太陽は殺さなかったのだから私たちが憎まれているとは思えない。
問題なのは命に興味のない太陽が新しい遊びを知ってしまったこと。お母さんが私を生み出したことで太陽も自分の子を生み出して戦わせてみたいと考えても不思議ではない。
予想なのでお母さんも考えて発言して。
微笑みを向ける前に思考して!
「それも実験が必要ね。太陽に精神を貼り付けたアンジェが無事なのだから強くなる時間を与えられたと考えるべきね。命に興味のない太陽は私がリアを生み出したことで遊び方を知ってしまった。恐らく太陽に興味があるのは太陽の子と世界の子のどちらが強いのかだけでしょう。」
「太陽が本気なら簡単に星を消せるからね。最悪な予想だけれど、当たっている可能性が高いと思う。リア、そろそろお母さんに噛みつくのをやめてあげて。美味しいの?」
アンジェが噛みつくのは珍しいね。
無知のお母さんに噛みついても味がしないと言いたいのでしょ。
お母さんは微笑む元気もなくなったのかな?
宇宙は太陽を核とした星だと考えてみる。そのとき世界は1つの命でしかない。だから太陽と戦うのは余りにも無謀で勝ち目がない。そして太陽も直接戦うことは望まないと思う。
だけど何もしないのは退屈だから遊ぶつもりでいると考えておくべき。お母さんと私たちに差があるように太陽とお母さんにも差があるのだから。
「お母さんは世界なので星から出られない。太陽の力という例外はあるけれど。だから私たちが魂を見ることができて移動させることもできるようになるのが最善だよ。本気で実験してほしい。」
「その通りよ。本来は出られないはずなのに太陽の力で私を星の外に出すことができている。力の差がありすぎるわね。とりあえず自分のことを知るわ。あなた達は私よりも強くなりなさい。」
「お母さん、星ごと転移して月を作り太陽の役目をしてもらうのも有りだと思うよ。魔法で制御すればどうにでもなるでしょ。」
アンジェの視点は面白いけれど、追跡された場合は逃げ切れないと思う。だけど太陽の影響圏から外れることができて魂もその場で消滅するのであれば有りだね…。
太陽の子は魂を見ることも移動させることもできると思うけれど。
「お母さん、月は作っておこう。この星を中心に回るようすれば利用価値は高いよ。私たちにできることは大してないのだから日常を楽しんだ方がいい。家族会議の目的はお母さんに自分を知ってもらう事と2人が太陽と直接戦うつもりでいる気がしたので考えを変えてほしかった。太陽がこの星を滅ぼすのは簡単なのだから現時点では対策を考えても無意味だよ。鶏がドラゴンと戦う方法を考えても絶対に勝てないからね。それよりも日常を楽しみながら努力した方がいいよ。」
「太陽がドラゴンなら私は鶏であなた達は雛なのだから対策を考えても確かに無意味ね。月は魔力に余裕があれば作りましょう。開き直って日々を楽しく過ごす方が大切だわ。無理せずに努力しなさい。」
「リアは月を知らないはずなのにいつの間に勉強したの?分身か仮想体で読書を続けているみたいだね。無理しているとは言えないので叱れないけれど。」
アンジェは私の読んでいる本を知っているのだから気づかれて当然だね。少し焦ったけれど、よくよく考えてみれば無理していないし悪いことをしているわけではないので問題なし…。
だけどアンジェに隠していたのが問題かな。
「私には知識がないので勉強したかったの。総魔力量の5割を読書と魔力操作の練習に使っているよ。それと20歳まで成長するようにして。魔力器も成長するし回復量も変わる気がするから。」
「私も今後のことを考えると成長した方がいいのは分かるけれど、まだお母さんに甘えたいのでこのまま固定にしておいてね。」
「成長については分かったわ。それでは寝ましょう。」
寝るのはまだ早いよ。大切な話が残っているのだから…。
「お母さん、妖精は女王を頂点とした一族で暮らすと本に記載されていたけれど、女王とその女王の子を蘇らせることができたの?他の女王の子が混ざっていたらまとまらない気がする。それと保護している魂を宿していないよね?」
「同じ一族なのかは確認していないわね…。それと女王以外は保護している魂を宿したけれど、何か問題があるのかしら?」
「お母さん、本当に考えるのが苦手みたいだね。お母さんは魂を見れば元の主が分かる。つまり魂に何らかの情報が残っている証拠だよ。それなのに何が残っていて元の主が分かるのかお母さんは説明できないでしょ。だから魂が人格に影響を与えても不思議ではないと思う。それと私たちが知っている人の魂ではないよね?」
はぁ、嫌な予感がする。
「フィオナの家族の魂を宿したでしょ。」
「その通りよ。新しい命で家族になれた方がいいでしょ?」
「それはお母さんの考えでリアの気持ちを全く考えていないね。憎まれ殺意を向けられ殺されそうになった人たちと家族になりたいと思えるはずがないでしょ。何も考えずに保護した順番に宿したと言われた方が幾分よかった。世界は人の気持ちが分からないの?勉強すれば分かるようになるの?」
妖精の寿命は約1000年。過去を気にせず守れるのかな…。
「お母さん、気になって眠れないと思うので今すぐ妖精を連れてきて。自宅の中は明るいので今連れてきても大丈夫でしょ。」
「私も気になる。面影が見えないといいけれど…。」
「分かったわ。そのまま座って待っていて。」
お母さんが転移で移動した。自宅の地下にある研究所に行ったのだと思う。
少し待つとお母さんが転移で戻ってきた。
周りには妖精が飛んでいる。1、2、3…、合わせて11人。
背中の翅が4枚あるのは女王でそれ以外は2枚。翅が光を反射して綺麗だね。そして翅の色が違うのは得意な魔法を表していると本に記載されていた。
顔はエルフに似ていて色白で耳が尖っている。妖精には女性しかいない。20cm程の大きさで幼さを感じる。赤ん坊の私が言えたことではないけれどね。
既に女王以外は怒っているけれど、何故かな…。
「初対面でその表情はよくないよ。怒っているように見えるけれど、気のせいだよね?」
「リア、流石にそれはないよ。緊張しているの。」
アンジェは妖精の態度を確認したいみたい。真面目だね。
私は女王に確認して終わらせてもいいと思っているよ…。
1人の妖精が私たちに近づいてきた。女王の側近なのかな?
何を言うのか分からないけれど、私たちが不愉快になるのは間違いない。
「人間、頭が高いですよ。女王様に無礼です。早く跪きなさい。」
「初対面なのに面白いことを言うね。君が天井付近まで飛べば跪いているように見えるよ。それと今の態度が妖精の本性なら動物と遊ぶのは無理。勉強を教えるのも無理。謝罪するのなら早くしてね。」
「君たちと上下関係なく家族同然として受け入れるつもりでいるの。妖精の中で上下関係があるのは自由だけれど、私たちと女王に上下関係はないよ。君の発言が妖精の総意だとすれば追放することになる。明らかに種族差別して見下しているからね。これがお母さんの計画なの?」
妖精の顔が更に赤く染まった。
アンジェはお母さんを追求することにしたみたい。
「計画は女王に同意してもらっているわ。家族同然として一緒に暮らし、衣食住と安心安全を保障する代わりに他種族を教育してもらう。今のが妖精の本性なの?それとも教育する時間が足りなかったの?」
この中に何人女王の子がいるのか確認しないの?
お母さんは自分の行為が正しいと主張したいの?
教育する時間なんてほとんどなかったはずだよ。
「申し訳ありません。伝えてはいるのですがこのような態度を取るとは思いませんでした。クロニクル様の庇護下にあると考えて増長しているのかもしれません。今すぐ謝罪しなさい!一緒に暮らす方を見下すなど以ての外です!」
「女王様はクロニクル様と同格です。何故ご自分を下になさるのですか?一緒に暮らすのですから上下関係は初めに教えておくべきです。お考え直しください!」
これは世界と妖精女王が同格だと言っている感じではないね。
妖精を蘇らせたお母さんと女王が同格だと考えている。
お母さんの力に気づかない種族がいるとは思わなかった。
魂から影響を受けていれば話は別だけれど…。
「お母さん、蘇らせた種族に早速侮辱されているね。世界と世界の娘を同時に侮辱するなんて妖精はとても偉いのかな?それに女王と君だけしか話していないけれど、他の子は話したら駄目なの?」
アンジェが煽り気味に話しているのは魂の情報が残っているのか確認するためだね。
「世界と世界の娘とは何ですか?蘇らせてくれたことには感謝していますが理解できないことを言われても困ります。妖精は人間と違いとても偉いです。理解したら早く跪きなさい。」
「黙りなさい!あなたが妖精を代表して話していいと認めていません。」
お母さんの力は誰でも分かると思っていたけれど、違うみたい。
恐らく3歳児4人も分からないのだろうね…。
そして女王を無視できる妖精は女王の子ではないのか特別な理由でもあるのかな。
「怖がられないように力を抑えているけれど、それでも分かると思っていたのが間違っていたのね。あなたにも立場があるように私にも立場がある。何故1人だけ女王を無視して話しているの?説明しなさい。」
「女王に何かあったときのための女王候補だからです。自分が女王になったときのことでも考えているのでしょう。ですが女王と候補でここまで能力に差があるとは思いませんでした。」
女王候補は普通の妖精にしか見えない。
お母さんは女王候補だと知っていて蘇らせたのかな。
「それならこの子を追放するか殺せばまとまるの?」
「女王様、もう我慢できません!人間の子供が偉そうに!その体に恐怖を刻み込んであげましょうか?死なないように手加減はしてあげますので安心しなさい。何度でも教育してあげますよ!」
アンジェに殺意を向けた…。
拷問を示唆しているし1人殺すのは決定。
「お母さん、この妖精の魂は3歳児に宿っていたものでしょ。自分の行為を正当化する材料を探しているのか確認作業中なのか教えて。これでもお母さんの立場を尊重しているつもりだよ。」
「力の差を把握できないのに殺意を向け、人を甚振るのが好きだと思われる発言をした。考えるまでもなくリアに殺意を向けた4人の3歳児と重なったよ。魂の影響を受けているとしか思えないね。」
「失敗を正当化するほど厚顔無恥ではないわ。魂からの影響を確認しているのよ。あなた達の言葉通り3歳児に宿っていた魂よ。女王以外はあなた達に殺意を向けているわね。女王候補は一族に必要だと思って蘇らせたの。女王、あなたの子はここに何人いるのかしら?」
「1人もいません。」
妖精を見ると髪の毛の色や目の色に統一性がないので個性なのか別の一族だからなのか理由は分からない。考えても答えが出るはずがないので気分転換に女王を観察しよう。
服は緑色の布を巻いて胸を隠し緑色の半ズボンを履いている。お母さんが用意した服だと考えると雑な仕事だね。もしかしたら当時の服を再現したのかな。
翅は虹色だから全属性の魔法が得意だと思う。そして輝く白髪が腰まで伸びていて透き通るような青色の目をしている。妖精の中では特別な存在だと姿を見ただけで分かる。
「女王に名前はあるの?お母さんの名前を考えたのも私だから女王の名前も考えていい?」
「純白のドレスを着て黄金のティアラを載せれば完璧な女王様だよ。靴もヒールの付いたものが似合うと思う。目の色と合わせて青色はどうかな?」
「すみません。問題が残っておりますので余裕がありません。」
問題はないと思うけれど、女王として責任を感じているみたいだね。
女王候補は私たちに無視されているからなのか顔を真っ赤にしてプルプル震えている。
「アンジェに殺意を向けていて不愉快だから早く処理してよ。迷うことがあるの?」
「無数の命を殺して今の世界にした私たちには分からない迷いがあるんだよ。」
「クロニクル様、何も言わないのですか?」
「事実だから何も言えないわ。人種の絶滅に関与した存在を殲滅したのは2人なの。今は何も考えていないけれど、10人の妖精を瞬殺しないことに呆れているでしょうね。現状は私の力不足なのか経験不足なのか不可能なのか何も分からないけれど、魂に残されている情報を確認することはできない。元の主の人格に似ていて精神も濁り始めているので影響を強く受けているのは間違いないのに…。今晩はここまでにしましょう。さようなら。」
私たちに殺気を向けていた10人の妖精が一瞬で消えたことで空気が澄んだみたいに感じる。
お母さんが椅子に座ると円卓の上に小さな座布団を置いた。女王が座る場所だね。
「女王はこの座布団に楽な姿勢で座って。リアは女王の名前を考えるのでしょ。妖精の食事は果物だけでいいの?それと子はどのくらいの間隔で生み出せるの?」
「女王の名前はプリムス・コンティネントでいい?」
「はい。名付けていただきありがとうございます。妖精は果物や木の実しか食べません。お肉は無理だと思いますがエルフほど偏食ではないと思いますので挑戦したいです。子は生み出すために必要な魔力量と安全を考えて3日に1人が限界です。教育を考えると更に延びると思います。ところでコンティネントは姓だと思いますが何か意味が含まれていますか?」
「安全なのは大切だよ。1人だけ子を生み出して、ここで暮らすための規則や自習できるだけの教育が済んだ時点で記憶を複写して保存しておけば大丈夫。名前はそこまで教育が終わった後に決めれば問題はないよ。2人目からは保存した記憶を入れるだけだから一族はすぐに増やせる。だからプリムスが従えることのできる人数だけ子を生み出せばいいよ。それと姓について、お母さんは世界の支配者でワールドだからプリムスは大陸の支配者でコンティネント。リアの考えそうなことだね。」
女王は名前でも格を示した方がいい。
それと敷地はかなり広いので妖精が自由に飛び回っているのは楽しい光景になりそう。
「それでしたら必要な教育が終わった後は子を生み出し続けられますね。200人程なら上下関係を工夫すれば従えることができます。ですが妖精200人と一緒に暮らすとうるさいですよ…。あと私が大陸の支配者というのは似合わない気がするのですが…。」
「子を200人生み出しても体に負担がないのであればお願いね。大勢で暮らした方が賑やかで楽しいから。全員の名前を覚えられる自信はないので服に名前の刺繍があると嬉しい。それに他種族と関わるのだから女王には格があった方がいいよ。この大陸はプリムスの支配領域の一部を他種族に貸してあげる形にしよう。教育するのも妖精なのだから何かでお金は貰うべきだよ。出世払いでもいいと思う。」
「確かに無料で教育するのもおかしな話ね。私がプリムスの支配領域だと認めたことにするので大丈夫よ。寝るときの希望はある?一緒に寝ると潰してしまいそうで怖いけれど、別の部屋で寝るのは寂しいわ。」
「話題にまとまりがないよ。それに大きなことを簡単に決めているけれど、問題が起きたときに簡単に変えるのは駄目だからね。」
アンジェは真面目だね。
「契約書の形式や契約内容についてはアンジェにお願いするよ。契約を破るとすれば相手だから。」
「草案を作るので最終確認は皆でしてよ。国が大きくなれば土地の所有権を認めさせるために戦争を仕掛けてくる気がするけれどね。」
「物騒なお話をしていますが、妖精は木の枝に蔦を巻いてその上で寝ます。」
「今晩は魔法で体を綺麗にして結界で潰されないようにするので私の胸の辺りで寝てみて。明日は相談しながら妖精200人と同居できる自宅に建て直しましょう。そのあと自宅周りに果物の木を植えて衣類や日用品などを一式揃えてみるわ。早く準備できたとしても1人目を生み出して教育するのを焦らないで。3年間は新しい種族を蘇らせないことにしているのよ。3年間は目安だから早くなっても遅くなっても問題ないわ。」
お母さんが話し終えたときにはプリムスの服が白い絹の寝間着になっていた。
光沢のある袖なしのワンピースで背中は翅を出すために腰まで開いている。
「とても着心地がいいです。サラサラしていますね。」
「気に入ってもらえてよかったわ。さて、寝ましょう。」
「はーい。」
布団部屋に行くために席から立つとプリムスが飛んだ。
そういえば言っていないね…。
「プリムス、飛び続けなくても私の肩に座ればいいよ。寝る部屋は近いけれど、移動が大変なときや疲れたときは遠慮なく座って。私には敬称も不要だよ。」
「リア、それでは失礼しますね。」
プリムスが私の右肩に座った。すぐに座ることで仲良く過ごそうという私の気持ちを受け入れてくれたのだと思う。驚くほど軽い。
体重が気になるけれど、女王に聞くのは失礼だね。
何故これが許せなかったの?
私が感情のない人形でもよかったの?
ふとリオリナのことを考えてしまったけれど、答えてくれる人はどこにもいない。
お母さんが布団部屋の襖を開けたので中に入る。お母さんとアンジェも中に入った後にお母さんが襖を閉めた。普段より部屋が少し明るい。
初めてこの部屋に入るプリムスのためにお母さんが少し明るくしたのだと思う。
「私が先に布団に入るのでアンジェは右手側、リアは左手側、プリムスは胸の辺りね。小さな枕も用意してあるわ。」
「はーい。」
「リア、枕とは何ですか?」
木の枝に蔦を巻いて寝ていたのだから使わないし知らないよね。
「寝るときに頭を置く綿だけで作られた袋のようなものだよ。お母さんの体の上で寝るのが強制ではないので暑いと思ったら好きな場所で寝てね。そういえば…。今更だけれど、喉は乾いていない?トイレは行かなくて大丈夫かな?えっと、トイレは用を足す場所だよ。それとお母さん、プリムスが襖を開けるのも玄関のドアを開けるのも大変にしか思えないよ。」
「頭を置くのが枕ですね。妖精は暑がりでも寒がりでもないので大丈夫だと思いますが、辛くなったら適当な場所で寝ます。喉は乾いていませんし、乾いたときは魔法で出した水を飲みます。トイレも大丈夫です。それに妖精は小さいですが意外と力があるのです。それでも人数が増えたときには別の出入口があった方がいい気がします。」
「それを考えるのは明日の朝よ。早く布団に入ってきなさい。」
「はーい。」
「分かりました。」
お母さんは鎖骨より少し下から布団を掛けているのでプリムスは枕を胸骨の先端に置いて仰向けで寝た。この光景に違和感を覚えないことに違和感があるね。
私も布団に入りお母さんに抱きつく。左手をお母さんの胸の下に置いたらアンジェの右手に触れたのでアンジェの手を下にして重ねた。アンジェはお母さんに甘えたいと強く思っているから。
甘えたいことを隠していないのに理由を言わないのは本人も分からないからだと思う。
「おやすみなさい。」
「おやすみー。」
「おやすみなさい。」
あれっ…。今日は涙が枯れるほど泣いたと思っていたけれど、涙はまだ出るみたい。瞼を閉じても溢れ出てくる。お母さんが背中を優しく摩ってくれるので涙は気にしないことにした。
リオリナ、妖精女王のプリムスは礼儀正しくて優しいよ。気配りもうまくできると思う。
家族の一員になれると感じたけれど、その中にリオリナがいないのはとても悲しい…。
アンジェとリオリナのお陰で私は生きている。だから2人のために頑張っているつもりだった。
世界を今の状態にする計画は3人で自由に楽しむため。楽しい世界を作るのは余った時間の暇潰し。3人で世界一周するのを一番楽しみにしていたのを知っていたでしょ…。
リオリナが私たちを乗せて世界を飛び回ってくれるのではなかったの?リオリナは飛べなくなったので世界一周を中止にするよ。3人が一緒にいなければ本気で楽しめないからね。
生きる楽しみが1つ消えたよ。リオリナのバカ…。
お母さんは無知であることを知りました。




