第97話 欲
今日もリオリナの声で目が覚めた。顔を洗い着替えてリビングの椅子に座る。
いつもなら資料館に直行するはずの私がリビングの椅子に座ったのでお母さんとアンジェも椅子に座った。真剣な表情をしているのでリオリナは私を膝の上に座らせるのを諦めて隣の椅子に座った。
嫌だけれど、確認しなければならない…。
努力する姿勢だけでもいいので見せてほしい。協力させてほしい。
「お母さん、妖精は自宅で一緒に暮らすの?」
「妖精が出て行くと言わなければ自宅で一緒に暮らす予定よ。理解していると思うけれど、妖精を補佐するのもあなた達の役目になるわ。」
「妖精は特別枠だね。自宅で一緒に暮らすのだから家族同然として受け入れてあげるべきだと思う。」
妖精に蘇らせた種族の教育を任せるのだから補佐するのも保護するのも私たちの役目なのは当然だと思う。教育内容など様々なことを一緒に話し合って決めていきたい。
ここから先が問題になるはず…。
「妖精が生まれるのはもうすぐだね。一緒に話し合うのは当然だしお互いのことをよく知る必要がある。妖精の大きさから考えると私の肩に座って…。」
「不敬です!そこまで許す必要はありません!」
私の発言を止めるためにリオリナが声を上げた。
感情だけで声を上げて何も考えていないと思う。
妖精が生まれる前に確認しておいてよかった…。
「リオリナ、妖精は家族同然で世界の発展を考えると私たちよりも重要な役目がある。私たちと妖精の関係は良好であるべきだよ。それなのに妖精が肩に座ることの何が不敬なの?」
「妖精が肩に座れば私たちよりも上位の存在だと思われます。世界の管理者として問題があります。」
「リオリナ、お母さんが自宅で一緒に暮らすことを予定しているのだから私たちと妖精に上下関係はないの。そして私たちとの関係が良好であることを多くの人に見せることで妖精が安全に行動しやすくなる。妖精が勘違いしたら注意すればいい。それに世界の管理者は人を従える役目ではないよ。問題を解決する力があればいいの。」
「リオリナ、今こそ自分の心と向き合うべきなのよ。昨晩の話を忘れたの?」
言い訳をしていたら心を鍛えられない…。
自分の心と向き合ってくれる切っ掛けになればいいけれど。
「不敬ではないとしてもリア様の独占を邪魔されたくありません。」
「リオリナ、妖精は家族同然だよ。家族からリアを孤立させないと言っていたのにリアを孤立させることになると理解しているの?」
「リオリナ、リアを悲しませたくないのであれば心と向き合いなさい。心を鍛えなさい。」
「今のリオリナが私の隣にいたら世界の管理者として何もできないけれど、リオリナはそれを望んでいるの?心を鍛えてくれないの?」
感情に従って発言しているとしか思えない。
「リア様が私を突き放し皆に責められます。妖精を受け入れることは強制なのですか?独占欲を抑えるために心を鍛えるのです。妖精を受け入れるためではありません。当然リア様が世界の管理者として行動できるように心を鍛えます。」
発言が矛盾していることにも気づいていない。
心を鍛えるつもりがないの?
「リオリナは私と同じ寿命になるために言ったことを覚えている?私の肩に座れるのは妖精だけかもしれないけれど、幼い子が私に抱きついたらどうするの?昨晩の話し合いを思い出して心と向き合って。」
「あのときの話は関係ありません。体を交換してくれたのはクロアではなくお母さんです。それに私が隣にいれば幼い子がリア様に抱きつく前にとめることができます。必要なときが来たら心と向き合います。心を鍛えます。今は必要ありません。」
「リオリナ、本気で最低だよ!」
私への想いではなく独占欲を満たすために上辺だけの言葉を重ねていた。状況が悪くなれば覚悟や約束を平気で反故にする。それがリオリナの独占欲であり本性なのかな…。
「リオリナを家族だと思うのはやめる。独占されるつもりもない。欲に従って発言しているだけのリオリナを信じることはできない。家族でも専属でもないので記憶を消して馬に戻して保護区域に移動させて。」
「私はリア様の遊び道具ではありません。昨晩の約束さえ守れないリア様は最低です。今すぐ撤回してください。リア様は私に独占されるべきなのです!」
「お母さん、早く終わらせて。リビングが血塗れになるよ。」
「リアの言葉通りにしたわ。アンジェは殺気を抑えなさい。」
リオリナが一瞬で隣の席から消えた。
≪色変更≫
髪の毛を黒色に変えた
「アンジェ、私も黒髪でいいよね?」
「勿論いいよ。それでお母さんは想定外なの?」
「未知数だったわ。リアがリオリナに合わせていたので本性が見えてこないの。リアはそれが気になって確認したのでしょ?」
杞憂に終わってほしかった…。
「そうだよ。リオリナが望まない方向に進み続けたときの反応が気になった。私の言葉と気持ちを無視して欲望に従って発言していたのが顕著だったので心を鍛えるつもりはないと判断したよ。妖精が生まれる前に確認しておかないとリオリナを殺すことになると思ったので今しかなかった。」
「リア、早く勉強しに行こう!」
アンジェがお母さんを見たのでこれ以上はリオリナに触れる必要はないと伝えたのだと思う。お母さんが何も言わないのを確認してアンジェが席を立った。
席を立たない私の手をアンジェに引かれて席を立ち資料館に向かって歩く。途中で何か聞かれると思ったけれど、資料館に入り目的の本を手に取り席に座るまで何も聞かれなかった。
「リアの大切な家族だったのは私がよく知っているよ。」
「うん…。」
アンジェが私の背中を軽く叩いて呟いた。
暫くの間は文字が滲んで本を読むことができなかった。
妖精が生まれた後にリオリナと一緒に別の家で暮らして話し合えば改善する可能性があるかもしれないと思っていたけれど、それがないと分かって悲しかった…。
心を鍛える時間が足りないと言ってくれたら協力した。自信がないと言われても協力した。お母さんが何も言わなかったのでリオリナに心を鍛えるつもりが一切なかったのは間違いない。
私の接し方が間違っていたのだと思う。だけど当時の独占を注意していたらリオリナの精神がすぐに濁った気がする。過去に戻れないので結果は分からないけれど…。
「リア、組手する?」
「厩舎に行こう。専属馬を決めて乗馬しないとね。」
勉強の時間が終わったときにアンジェが私の表情を確認しながら聞いてきたので、努めて平気な振りをして明るく答えた。アンジェに隠せるとは思わないけれど、気を遣わせたくない。アンジェは私よりも辛い思いをしているのに隠している。本当は私がアンジェを励まさないと駄目なのに…。
乗馬服に着替えてからアンジェの転移で厩舎に移動したけれど、ここに来たのは久しぶりに感じる。乗馬することに決めたのだからリオリナのことは絶対に考えない。
「お母さんは専属馬を決めているの?」
「決めていないよ。毎日違う子に乗馬していたからね。牝馬にするのでしょ?」
馬に罪はないけれど、男性の印象がよくないからね。
「そうだね。牝馬にするよ。」
◇◇◇
念話中。
アンジェが念話を繋げてくれた。
「ジェリア、私たちは厩舎のすぐ外にいるので主のいない牝馬を連れてきて。」
「はい。分かりました。」
返事が聞こえた馬房から1頭の馬が出てきた。
薄茶色の毛で鬣と尻尾は白色の可愛い子。
そのあとアンジェの転移で厩舎のすぐ外に移動した。
「アンジェがあの子を選んだ理由は何かな?」
「一番可愛く見えたからだよ。単純すぎた?」
凄く純粋な理由でいいと思う。そのまま口にするとアンジェは拗ねるだろうね。
「とても大切な理由だよ。乗馬は楽しめているの?」
「今日から楽しんで乗馬するよ。3日間は勉強だと思って乗馬していたので謝らないとね。」
心を伝える訓練に付き合わされて乗馬を楽しむ余裕がなかったのだと思う。
雑談していると4頭の牝馬が私たちの前に並んで頭を下げた。
頭を下げる必要なんてないのに…。
「頭を上げて。私が皆の視線に合わせるよ。」
私の声を聞いて馬が頭を上げた。
≪風魔法≫
馬の頭と同じ高さまで飛んで静止する
「選ばれなくても気にせず楽に過ごしていいからね。それにお母さんが守っているので安心安全。この子に決めたよ。集まってくれてありがとう。自由に楽しんできて。」
馬の額を優しく撫でて決めたことを伝えた。
藍色の毛で鬣と尻尾は青色の臆病で可愛い子。
「よ、よろしく、お、お願いします。」
凄く緊張しているね…。
主のいない2頭は私たちに頭を下げると草原に向かって歩いていった。
「アンジェ、今日は別行動にしない?」
「その方がよさそうだね。ジェリア、行こう。」
「はい。分かりました。」
念話終了。
◇◇◇
飛行して馬の背中でうつ伏せになる。
≪風魔法解除≫
≪念話≫
「私の名前はアンジェリア、愛称リア。あなたの名前はリーリア。リーリアと仲良くなりたいので私をリアと呼んで。敬語も不要だよ。」
「そ、それは、許されるのですか?」
選ばれた側からすれば緊張もするし試されていると考えてもおかしくはない。
それに人が怖いのを隠しているみたいだけれど…。
「使い分けるのが難しい?無理をさせたいわけではなくて私と気軽に話してほしいの。」
「クロニクル様と話すときもありますから間違えてしまいそう、です…。」
私のせいでお母さんに怒られるのは余りにも可哀想。
お母さんがここに残った馬を怒ることはないと思うけれどね。
「それなら私の名前だけ敬称なしでリアと呼んで。それ以外は今まで通りでいいよ。」
「助かります。」
緊張しているのは伝わってくるけれど、緊張しすぎている。
このままではリーリアが辛いので話を進めた方がいい。
「リーリアの好きなように散歩して。早速だけれど、リーリアは人が怖いの?それとも私が怖いの?私の質問に対してリーリアが何を言っても怒らないと誓うよ。答えたくなければ『答えたくない』と言えばいいからね。」
「リアが、怖いです…。クロニクル様の試験ではありませんよね?」
歩き出そうとしたリーリアは私の質問で足を戻した。
お母さんが私の姿に変身していると思っているのかもしれない。
「同じ雰囲気を感じているのかもしれないけれど、別人だよ。母を呼べば安心できる?」
「絶対にやめてください!絶対ですよ!」
お母さんはこの世界の序列1位だから緊張しても仕方ないと思う。
「元気になったね。これで私を怖がる理由はなくなった?」
「リアが呼ぶとクロニクル様は来るのでしょうか?」
気にしている理由が何となく分かったよ。
これは呼ぶしかないね。
「私とアンジェが呼べば来てくれるよ。それと母の娘は2人だけ。ジェリアに乗馬しているアンジェと私だよ。母が突然来たら娘が説教される可能性が高いね。これで緊張する理由はなくなった?」
「なくなりません!何故私を選んだのですか?」
理由を正直に話したらどのような反応をするのか分からない。
だけど嘘を吐かず正直に話そう。
「私を見て緊張していたからだよ。他の2頭は選ばれるのか分からない不安で緊張していたと思うけれど、リーリアは違った。母と娘に緊張しているだけではなく人が怖い。それなのに残ったので勇気があると思った。感じたことを話しているので実際は違うのかもしれないけれどね。詮索しているわけではないので嫌なことは話さなくてもいいよ。」
「それが分かるリアが凄いです。臆病な私のどこに勇気があるのですか?」
やはり臆病だと自覚している。
だからこそ勇気があると思ったけれど、臆病な自分が嫌いなのかな。
「ここにいる人がいつまでも優しいとは限らない。それに多くの馬が自由を望み保護区域に移動したのにリーリアはここに残った。それはここが安心安全で十分な自由があると思ったからではないの?」
「その通りです。それが勇気のある理由になりますか?」
リーリアは私たちが普通の人間ではないと考えているのかもしれない。
その通りだけれど、残酷な人間と同じことをする可能性はある。
「母を見たら絶対に逆らえないと感じたでしょ。だけどリーリアは母を信じて残ると決めた。多くの馬は母を恐れて逃げた。だからリーリアは勇気があるよ。違うのかな?」
「クロニクル様は絶対に信じるべきだと思いました。だけど他の人を信じてはいません。クロニクル様を信じると勇気があるのですか?」
お母さんを信じるのは当然だと考えているね。普通なら絶対に逆らえない人は怖いと思うけれど、リーリアは違うみたいだから伝え方が難しい。
「リーリアは母から『人を信じなさい』と言われたら信じるの?」
「信じる努力をしますが絶対に信じられるとは言えません。」
お母さんの言葉に対して自分の気持ちを正直に言えるのは勇気があると思う。
盲目的に信じているのではなく自分で考えて答えを出している。
絶対者に対してそれができるのは心が強い証拠だよ。
「リーリアは臆病だけれど、勇気があって正直だよ。納得できないのであれば母を呼んで同じことを言ってもらうけれど、どうする?説教されるけれど、リーリアが認めなければ来てもらうよ。」
「説教されるのが前提で呼ぶのですか。クロニクル様の説教は厳しいのですか?」
甘い説教だから呼べると思っているね。
「床に正座させられて押し潰されそうになる程の威圧という力を使われるよ。前回の説教は床を砕いて首まで地面に沈んだところで許してもらえた。どうする?」
「え…、えーっと。勇気があると認めなければリアが説教されるのですね。クロニクル様の説教が厳しいから認めると思いましたか?残念ながら逆ですよ!私に勇気があると認めさせたいだけで説教をリアが受けるとは思えません。」
厩舎の前だけれど、別にいいかな…。
お母さん、今すぐ来て!
この場で私を沈めてもいいから。
「リーリア、あなたは臆病だけれど、勇気があって正直ね。リア、下りて正座しなさい。」
「はい。」
「なっ…、なんで…。」
お母さんはいつの間にか椅子に座っている。背凭れと肘置きのある立派な椅子はいつ用意したの?それに厩舎の前で立派な椅子に座っている姿は違和感しかない。
私はリーリアから下りてお母さんの前で正座する。
この体は窒息しないと思うので笑ったら全身沈められそう。
「手抜きをするために私を呼ぶとは思わなかったわ。」
「お母さんを信じているのでお母さんが認めてあげるのが一番だと思ったの。」
リーリアは無言で固まっている。
私の体は既に沈み始めている…。
「心を通じ合わせるのが乗馬ではないのかしら?」
「心を通じ合わせるのも大切だけれど、リーリアが自分の心と向き合うためにはお母さんの言葉が必要だと感じたの。」
お母さんの表情はいつもの恐ろしい微笑み。
私は腰まで沈んでいる。地面に沈むのはおかしいよね!
「それでもリアなら時間を掛ければできたはずよ。急いだ理由は何かしら?」
「妖精も乗馬を楽しむと思う。だけどリーリアは妖精を恐れる可能性がある。だから何かあればお母さんが守ってくれるのを見せてあげたかった。私を信じてもらうのは時間を掛けるけれど、お母さんを信じていても守ってくれるのかは分からない。私が説教されるだけでリーリアは自分の心と向き合うことができて、お母さんがここを監視していると実感してくれる。そして動物はお母さんを信じているのだからお母さんが守っていると伝えるべきだよ。手抜きしているのはお母さんだよ!」
お母さんは恐ろしい微笑みのままリーリアを見た。
間違いなく動物を守る表情ではないよ。
「リーリアは私を信じているのに守ってもらえるとは思わなかったの?」
「こ、ここは守られていると、お、思っています…。で、ですがここで問題が、お、起きたときは、どのような対応をされるのか、わ、分かりません…。」
リーリアの声が震えている。少しは考えてよね!
「リーリアと私が問題を起こしたら私は説教で済むけれど、リーリアは殺されるかもしれないと考えてもおかしくない。お母さんが何も伝えていないので娘の専属になるのは怖いよ。だから動物を保護する基準を決めて伝えて。それとリーリアに言っておくけれど、この説教はかなり痛いからね。腕を切断したときよりも痛い。」
お母さんの責任だと強調しすぎたね。
微笑みが更に恐ろしくなっている…。
「リーリアがこの説教の辛さを信じるにはどうすればいいのかしら?実際に経験してみるのは駄目よ。娘以外は死んでしまうの。だけど痛そうには見えないでしょ?」
「話を変えないでよ。お母さんが基準を決めて伝えればいいの。この説教の辛さなんて私の頭に石でも置けば分かるよ。一瞬で粉末になるからね。」
「恐ろしい説教だと伝わりました!見ているだけで恐ろしいです!」
馬の感性ならお母さんの雰囲気で恐ろしいと分かる。
刺激が強すぎたのかもしれない…。
「リアの要望をアンジェにも伝えるべきね。アンジェの専属馬も怖がっているでしょ。」
「私の名前は出さず娘の専属になることが怖いか確認してから沈めてね。アンジェは謝ると言っていたので謝罪が足りないことにすればいいよ。」
アンジェの専属馬が怖がっていなければ問題なし。
「妖精が動物と遊ぶ前に不安を消してあげるのは大切なことね。リアの忠告通りに基準を決めて伝えるわ。今回はこの辺で許してあげる。アンジェの専属馬が怖がっていないことを祈りなさい。」
お母さんが笑顔で椅子と一緒に転移した。アンジェの専属馬は怖がっているみたいだね。この辺で許すと言われたけれど、肩まで沈んでいる。服の中に土が入らないようにしてくれたのかもしれない。
お母さんは世界だから娘を抱きしめている感覚で沈めている気がした。
説教が終わったので地上に出て魔法で地面を元通りにした。服と靴には汚れが付かないので手に付いた土を払ってから飛行してリーリアの背中でうつ伏せになる。
「リーリア、これで認めてくれる?」
「それはいいです!最初からクロニクル様が私たちを守ってくれるのを証明するためだと教えてくれなかったのは何故ですか!?」
それを聞いてくれるのだから優しい子だね。
緊張は解けたみたいで良かった!
「リーリアは母だけを信じているのでしょ。説教されると信じていなかったのに、説教される理由だけは信じてくれたの?証明するためだと聞いた後に説教されたら自分の責任だと思うでしょ。だけど説教されたのは私の我儘が原因。それを利用して母が動物を守る基準を決めて伝えていないと訴えることに意味があったの。これで安心できるでしょ。」
「確かに説教されると信じていませんでした…。リアの我儘は私が臆病だけれど、勇気があって正直とクロニクル様に言ってもらうことですよね。見ているだけで恐ろしいと分かる説教を受けてまで私に認めさせたかったのですか?」
信じていないことを認めて伝えてくれるだけで十分だよ。
「違うよ。臆病だけれど、勇気があって正直と母に言われたけれど、それは私の我儘。母がそのように思っているのかは分からない。私の我儘だから無視することもできる。だけど母も本当に思っている可能性がある。だからリーリアが自分の心と向き合って確認してほしい。その切っ掛けを作りたかっただけ。自分を知るのはとても大切なことだからね。リーリアはどうするの?」
「私が自分の心と向き合う切っ掛け作りのためにですか…。私が心と向き合ったかどうかはリアに分からないはずです。どのように確認するのですか?」
リーリアが純粋すぎて私がいたずらっ子みたい。
「母を呼んでリーリアが自分の心と向き合ったのか確認してもらう。私は何度でも説教に耐えるよ。そのくらい自分を知るのは大切なことなの。私が専属に求めるのは自分を知ってほしい。余裕があれば私も知ってほしい。そして間違った方向に進めば注意するし私のことも注意してほしい。」
「クロニクル様を利用するのですね。恐ろしいです。私がリアを信じると言ったらどうするのですか?」
恐ろしい微笑みのお母さんが何度も来るのは怖いからね。
「その言葉を信じるよ。リーリアを信じると決めて選んだから。だけど裏切られたときの辛さは知っているのでリーリアは私を信じなくてもいいよ。ところでリーリアは私に何も求めないの?」
「リアは変わっていますね。それとも私が知っている人間がおかしいのでしょうか…。復讐を求めてもいいのですか?」
ここにいる馬は心に傷があるので復讐を求めるのはおかしなことではない。だけど殺したいほど憎んでいるようには感じない。恐らくやられたことをやり返したいのだと思う。
「現在は世界に3人しか人がいない。人間は殲滅したので復讐相手も死んでいるよ。母が絶滅した種族を蘇らせていくのでこれから人が生まれてくるけれど、復讐相手は生まれない。だから別のことを求めて。」
「えっ…、えーっと…。誰が何のために殲滅したのか教えてくれますか?」
理由は当然気になるよね。
「私が世界に不要だと判断して殲滅した。私が殺した事実は変わらないので不要だと判断した理由は気にしないで。母も不要だと判断すると思えば気にならないでしょ。だから別のことを求めて。」
「複雑な事情がありそうですね。リアからは人殺しの雰囲気を全く感じません。とても不思議です。それに求めなくても大概のことはしてくれる気がしますね。私が求めることはなさそうです。」
それもリーリアの自由でいいと思う。
「いつでも私と話せるようにしておくので何かあったら迷わずに呼んで。それと求めたいことが見つかったら教えて。それでは雑談しながら散歩しよう。休憩は自由だよ。」
「何かあればリアが助けてくれそうですね。求めたいことが見つかったら話します。驚きすぎて緊張が飛んでいってしまいました。ところで休憩に昼寝も含まれますか?」
緊張が飛んでも乗馬中に昼寝を望む馬は少ないと思う。
リーリアは面白いね。
「勿論含まれるけれど、私は眠ると自分で起きられないので起こしてね。それと背中かお腹に抱きつきたいけれど、いいかな?」
「赤ちゃんですね。見た目より大人だと思っていましたよ。それでは昼寝に行きましょう!」
思考力が16歳だからそのように感じるのだと思う。
実際は未熟な赤ん坊だけれどね…。
リーリアが元気な足取りで牧草地に向かって歩き始めた。
「生まれて2ヵ月経たない赤ん坊だよ。少し知識があって強いだけ。見た目の年齢は母が変えてくれるので12歳にしているよ。」
「何でもありですね。赤ちゃんはお腹に抱きついていいですよ。甘えさせてあげましょう!」
下馬した後にリーリアが牧草地の木陰で腹這いになったのでお腹に抱きついた。
悲しんでいる雰囲気は出さないようにしていたけれど、気づかれてしまった。だけど理由は聞かれない。リーリアの温もりと一緒に優しさが染み込んでくるように感じた。
余りにも心地よくて涙が溢れてくる。
リーリアと私の秘密だね…。
生まれたばかりのリアがリオリナの欲を意識しながらうまく接するのは無理です。




