第93話 姉
短くしてほしいと頼んだはずなのに説教が終わらない…。
反省するべきことは全て話したはずなのにお母さんが話してくれない。リアが警戒してから殺すと決断するまでに私が気づくべき点は話し終えているはずだけれど、何か見落としているのかな…。
お母さんの雰囲気が怖くなってきた。簡単なことに気づけていないと伝えているのだと思う。だけど姉が封印解除されてから私の見た行動について考えているのに違和感を覚えることが残っていない…。
「リアがディアに監視されていると気づいたのが何故か考えていないわ。これだけで敵だと認識してもいいくらいなのよ。アンジェも見ていたのだから気づきなさい。」
お母さんが溜息を吐き呆れているように話した。それだけで簡単なことに気づいていないのだと分かる。お母さんに呆れられるのは精神的に辛いけれど、リアが一番辛い思いをしたのだから私だけ楽な道を選ぶことはできない。
リアは監視されている想定ではなく確信することができた。私も見ているのだからリアと一緒にいたときだと考えられる。自宅で気づいたとは思えないのでそれ以外だとリオリナに乗って空を飛んでいたときと帰ってきて桜の木を貫いたとき。
そして姉と会ったのは桜の木を貫いたときだけ。あのとき姉は索敵してから私たちの元に転移してきた。索敵を気づかせて転移してきたのだと思う。姉が優秀だと思い込んでいる私は違和感を覚えなかった。リアには違和感を覚える光景だった。
これは流石に呆れるよ…。
「索敵で地形や植物などは分からないのに木が並べられている道に乗馬した状態で転移してきた。座標を間違えたら死ぬか体の一部が吹き飛ぶ。敷地に詳しくても林の中に転移してくるのはあり得ない。無警戒だったことも言い訳にならない見落としだね…。」
「気づいたみたいね。リアはそのときに監視がついていると気づいたの。さて、まだ見落としているわよ。アンジェが見落としていることに全て気づいたら説教は終わり。」
説教から指導に変わっているのはお母さんの優しさだね。
姉が索敵で何を見ていたのか分からないけれど、二度使用している事と解除していないのは間違いない。それに馬が道を外れて歩いて行った理由が分からない。お城から来た馬が自分の意思で道を外れたとは考えにくいね。
「お母さん、姉の乗馬していた馬が道を外れた理由は何かな?」
「馬の行動を不自然に思う前に自分の行動を不自然に思いなさい。空を飛んでいたのは30分程よ。二度の索敵がディアの作戦通りなら、すぐに帰ってきて木を貫いたのも作戦内だと思わないの?」
監視されていたのだから強制命令を受けていた可能性はある。言動に違和感がなければ気づかないし無警戒な私では抗うことすらできない。隙のないリアとリオリナに使って抗われたら終わりなので私だけに使ったのだろうね…。
「世界一周すると言ったリアに説教決定だとは言ったけれど、リアとリオリナは強制命令を受けている気がしない。高速飛行する練習はできたのだから急いで帰る必要はなかったはずだよ。」
「世界一周も自由に空を飛び回るのもリアの楽しみだと知っているでしょ。普段のアンジェなら自宅の近くで自由に飛び回ろうと言う気がするけれど、違うの?勢いで世界一周と言ったリアに説教決定としか言わないアンジェ。ゆっくり飛んでも時間はそれほど変わらないのに全力で帰るとリオリナに指示したのは普段のリアらしくないわね。そのときリアはアンジェに甘えて自分も甘く考えていると反省して、絶対に家族を失いたくないと思っていたのよ。」
リアと一緒にリオリナに乗って世界一周するのを楽しみにしている。初日に世界一周は無理でも自由に飛び回る時間は十二分にあった。それなのに説教決定とその理由しか言わないのは不自然だね。
恐らくリアは私の発言に嫌な予感がしたので帰ることにしたのだと思う。帰ると言ったリアに喜んでいる私を見て強制命令だと確信しているはず。だけど目的が分からない。
帰ってから今の体の強さを知るべきだと私が言って木を貫いた。リアとリオリナも同じことをしたのは必要な行動だと感じたのかもしれない。その場に姉が転移してきたけれど、目的はまだ分からない。
緊急事態だと呼びつけられたことで目的を知ったリアは翌日に解決した。お母さんの力を借りているとはいえ、姉は完全に無警戒だったと思うので流石だよ。
「姉はリアを動かす道具として私を利用したけれど、リアは私が人質にされていると思ったので姉の望み通りに行動した。そして二度の索敵の目的は魔力と感情で自宅を把握すること。それに姉がリアと私を分断した理由はお母さんに気づかれていないのか確認するため。だけどリオリナが姉の目的をリアだと確信した。リアは私が強制命令されたときから姉を殺すつもりで、リオリナの行動で目的が推測できたので殺す決断をした。つまり昨晩の説教はもう少し手加減してもよかったと思う。今日の説教はリアが思い通りに動いてくれないので八つ当たりでしょ。」
「リアとリオリナは自分の意思で行動したので文句ないわ。三馬鹿の1人が強制命令で動かされているのに気づかないのは問題だと思わない?娘が隙だらけなのは母として思うところがあるの。賢いアンジェなら分かってくれるでしょ?」
自力で導き出した答えでもないのに調子に乗ったのは認めるよ。今更ではあるけれど、姉の言動には別の意味が隠されていて、それを繋げることで目的が見えてくる。頑張った気になってしまった…。
推測とはいえお母さんの知識なしで正解に近い答えまでたどり着いているリアとリアの危険を察知して姉から全力で離れるリオリナはとても凄いよ。
優しい微笑みで威圧してくるお母さんが用意してくれた体は丈夫なので床が凹んでも大丈夫。それよりも聞きたいことがある。
「お母さん、私も姉は警戒していたよ。何か隠されていると思っていた。それなのに強制命令に抗えないのは何故かな?」
「この状況で質問してくるなんて胆が据わったのかしら。答えはそれでも見逃したからよ。迷いに迷って選別から除外した姉を疑うことはできない。アンジェは警戒しないようにしていたのよ。リアが救ったというのも理由の一つでしょうけれど、一番の理由は違うでしょ。姉を殺すことになるのが怖くて選別から除外した。記憶の中の姉は優しいのだからそのように思って当然。自分の気持ちは素直に受け入れなさい。それから警戒するべきだと思った理由を考えればいいのよ。自分の気持ちを否定しながら別の理由で正当化した。今のままでは心に隙がありすぎるわ。心の整理の仕方は人それぞれなのよ。アンジェはどうするの?」
本を作ってくれた姉さんはとても優しかった。勉強や魔法の練習を一緒にしてくれた。それに両親から疎まれる私の唯一の味方だった。姉さんと比べられて泣いている私を慰めてから両親を黙らせていた。姉さんは憧れだった。姉さんのようになりたいと思っていた。
嫌いになれるはずがない。それなのに記憶にいる姉さんは分身だった…。
「あなたの姉は当時世界一アンジェを愛してくれた分身では駄目なの?人殺しの命令を聞き続けて妹の憧れる姉になれるの?妹に本を作れと命令されただけの分身はアンジェを守り続けてくれた。分身も心があれば立派な人よ。あなたの姉はどちらなの?」
「私の姉さんはとても優しい分身だよ!」
分身だから何だというの。分身は姉さんを否定する理由にならない。迷う理由なんてどこにもない。今の私なら自信を持って言える。私の姉さんは世界一優しい人だった。
「選別を迷ったのは何故かしら?気持ちを言葉にすることができる?」
「リアが姉を救ってくれたときは嬉しかったよ。本当に嬉しかった…。だけど封印中の姉を見ていると他人のように感じたの。間違いなく本物なのに他人に感じる理由を知るのが怖かった。私の記憶にいる姉さんを否定したくなかった。否定できなかったんだよ…。矛盾していると分かっていたのにリアの救った命という事で自分を納得させた。私は死んだ人間だから過去と今を切り分ければいいと思ったのに本物の姉は私の大切な過去を簡単に否定した…。何で殺せなかったのか不思議だよ。」
他人だと感じていたのに別人だとは思えなかった。姉さんは分身かもしれないと考えることができなかった。クロアの記憶を知っていて私たちも分身だったのに情けないね…。
「もっと考えなさい。本物が自宅を隠れ家にする予定だったのなら必要なことがあるでしょ。」
「自宅にいる姉さんの記憶を追記していた。封印解除されたときに戸惑っている感じはなかったので成長した私の姿を知っていたと思う。」
理由も素直に話してリアとリオリナに謝らないとね。
「リアはアンジェの姉のことをどのように思っているのか忘れたの?フィディーと向き合ったことに感謝しているのにディアを殺したことは何も言っていない。リアの性格はよく知っているでしょ。」
「優しい姉だと思っていたし妹だと考えていたよ。それにリアの性格なら極悪人でも私の姉を殺したら謝罪すると思う。だからディアを私たちの姉ではないと判断しているんだよ。だけどそのことをはっきり言うと思うのに何も言わなかった。無理してでも言う気がするんだよね。お母さんは理由を知っているでしょ?」
リアは絶対に私たちの姉ではないので殺したと言う。そこまで気づいていたことに驚くけれど、何も言わない理由が分からない。私が怒るとは思わないので違う理由がある。それに私が怒ったとしても正直に言う。リアは私に隠し事を絶対にしない。
もしかしたら何も言わなかったのではなく何も言うことがなかったのかもしれない。
「姉をまだ殺していないの?」
「リアはこのように考えた。アンジェが殺せなかったディアの中には姉さんがいる可能性があるとね。そしてディアの精神は濁っていない。だから不要な記憶と経験を消せと私に言ってきたのよ。だけど何も知らないリアはアンジェに希望を持たせる発言をしなかったわ。何故それをしてほしいのか理由を聞いたら娘の我儘だそうよ。これを我儘だと言えるのなら全て背負うようなことをしなければいいのに本当に困った子。リアが起きるまで待とうと思ったけれど、アンジェが素直になれたので呼びましょう。」
お母さんが口にしたという事は姉さんがいて戻すことができたんだ。リアの姉のつもりなのに助けられてばかりいる。命を狙われていたのに姉さんのことまで考えてくれていた。
説教部屋に姉さんが転移してきた。
あぁ…、この懐かしい雰囲気は間違いなく姉さんだよ。
「2人で話しなさい。専属馬を決めに行ってもいいわよ。遊んでいる馬を見て決めなさい。」
お母さんは歩いて部屋を出た。
「お母さんから事情は聴いているよ。抱きついて寝た経験がないので10歳にしたの。私に妹が3人いる
みたいだね。アンジェはまだ泣き虫のままなの?」
「姉さんに会いたがっだの!いつがら個性があっだの!?」
当時分身だと知ったときにどのように思ったのかは分からない。
だけど会えて嬉しいと思っている今の気持ちは本物だよ。
「アンジェを叱る両親にイライラしたときだと思う。私が個性を得て動いているのは本体にとっても都合がよかったみたい。それよりも専属馬選びを避けるのはもうやめなさい。世界一周は家族で楽しめばいいでしょ。専属馬も小さくすれば連れていける。当時は魔法が大切だったので魔法の訓練を重視していたけれど、今は違う。全て大切だけれど、最も大切なのは心だと思うよ。泣くのをやめなさい。行くよ!」
「感動の再会の余韻とかないの?心が大切なのは間違いないけれど、急ぐ必要はないよ。」
姉さんは教育熱心だったね。
涙が吹き飛んだよ…。
「リアはフィーを救う方法を思考把握されても気づかれないように考えた。そしてリオリナから自由を奪うかフィーを洗脳する、それだけしか答えが出せなかった。どちらかを選ばなければ姉妹で殺し合いになるとお母さんも認めているよ。それでもリアは悔しくて疲労で倒れたの。命と本気で向き合う心がアンジェにはあるの?リアはアンジェが選別で姉を除外したことには何か意味があると思って私を見つけたよ。そのときあなたは後悔して立ち止まっていた。今のままでいいの?焦る必要はないとお母さんに言われたけれど、今から始めない理由は何もないよ。リアがあなたを見捨てることはないけれど、あなたがリアに劣等感を抱いたら私が許さないからね。行くの?行かないの?」
「行くよ!これ以上リアに負担をかけたくないからね。それに行かないと私を3日間は無視するでしょ。魔法の訓練を思い出して涙が出そうだよ。」
また涙が出そうだけれど、必死に我慢した。
説教されると知っているからね…。
この懐かしいやり取りもリアか私が望まなければ生まれることはなかった。大好きな姉さんを諦めた私と私を信じて姉さんを見つけたリア。命との向き合い方が違うのは勿論分かっているけれど、いつもリアは諦めない。赤ちゃんだからと考える不愉快な存在はいない。
そして姉さんは私がリアに劣等感を抱くことがないと分かっていて言っている。私はリアが大好きだからリアの成長は素直に嬉しい。実際の年齢には差があるし人間だったときの感覚が抜けていない。だからリアを保護者のように見てしまう。姉さんはそれに気づいたのかお母さんに教えてもらったのかは分からないけれど、私の姿勢を正そうとしている。世界の管理人に相応しくするつもりだね。
1日の中でリアと話す時間が減るのは寂しいけれど、リアと話せなくなる日が来るのかは分からない。姉さんと努力しながらリアとお母さんに愚痴る日々も悪くないと思えるよ。
「姉さん、私は姉さんが作った本を全て読んだよ。努力はしているよ。」
「それは当然だよ。お母さんが用意してくれた本を全て読み終えたら褒めてあげる。」
無愛想なことを言っている姉さんが少し嬉しそうなのは黙っておいた方がいいね。
アンジェは姉を諦めていません。自分の気持ちを正しく読み取るのは難しいです。




