第92話 後悔
馬が8頭にまで減るのは全く想定していなかった。お母さんの考えは理解できるし当然のことしか言っていない。人に世話されているのに人を避けたいのであれば自然界で生きればいい。
魔獣がいる森ではなく魔力のない動物しかいない広大な保護区域まで用意して逃がしてあげているのだから十分に優しいと思う。自由を望んで出て行った馬の考えは甘い気がするけれど、自業自得でしかない。
だけどこの状況でフィディーを庇い続けるのは無理だね…。
時間をかけて好きな生き方を見つけてくれたらいいと考えていたけれど、そのような選択肢はない。リアも生き残る機会を与えたくて私を頼っただけでそれ以上は望んでいない気がする。
子が親を選べないように馬も主を選べない。フィオナの専属馬だったからといってフィディーを恨んでも仕方ない。お母さんが要求しているのは難しいことではないのだから賢い馬ならここで生き残る道を選択する。意識して走ることができないフィディーは自然界だと生き残れる気がしないけれど、人がいなければ普通に走れるかもしれないのでフィディーが考えればいい。
≪分身≫
自由意思を持つ分身を作った
「仔馬と遊んできて。フィディーと話すから。」
「分かったよ。とりあえず昼まで遊んでくる。」
≪念話≫
分身が仔馬を連れて牧草地から軽く走って離れていく。仔馬は分身を追いかけるのをとても楽しんでいるように見える。分身は仔馬の額を撫でて追いかけっこを始めた。分身は追いつけそうで追いつけない速さで走ったり、追いつかれても触れられないように上手く避けている。
自画自賛する馬鹿なのかな…。
気を取り直して、私は木陰に腰を下ろしフィディーは腹ばいになってもらった。
「フィディー、早速本題に入るね。状況がここまで変わるのは想定していなかった。私たちは専属馬が不満を抱えていると説教されると伝わっているでしょ。それなのに乗馬しないのは専属馬の望みだからだと周りの馬から思われる。だけどそれは許されていない。分かっているよね?」
「勿論です。追い出される状態ですから…。」
フィオナ以外を乗せるつもりがないのは乗馬拒否になる。現時点で追い出されていても不思議ではないのだけれど、理由が分からない。
リアと私に専属馬を利用した授業をする意味はないので配慮してくれているだけだと思う。それでも噂になるまで放置するとは思えないので決断してもらう。
「専属馬として人を乗せる、出て行くのどちらにするのか今日中に決めなければ追い出されると考えた方がいい。私の専属馬として残してくれたと思うので専属馬にならないという選択肢はないよ。2日目だから決まっていないよね?」
「はい…。決まっていません…。」
確認のために聞いてみたけれど、決まっていないとは思わなかった。
2択なのに悩む理由があるのかな…。
もしかしたら言えないだけなのかもしれない。フィオナの記憶を残したまま死にたいと言えば記憶を消されて殺されると考えるはず。フィオナの記憶を消すつもりはないけれど、言葉で伝えた方がいいね。
「フィオナの記憶を残したまま出て行きたいの?それを望んでも殺したりはしないよ。」
「それでお願いします。記憶が大切なのでここに残ることはできません…。」
フィディーは直接フィオナに何かされたわけではない。記憶を見て別人のようになっていたと知っていても、それが自分に向けられることまでは想像したくないのだと思う。
これも想いの形だね。否定することはできないし記憶を消して残すという事はしたくない。
「母に確認するよ。問題なければ突然移動することになるので立っていた方がいいね。」
「ありがとうございます。恩に報いることができず、すみません…。」
フィディーは私に感謝を告げるとゆっくりと立ち上がった。
私は何もしていないし謝罪する必要もないよ。
フィオナに出会ったことをどのように考えるのかはフィディーだね。
私が勝手に決めつけるのは烏滸がましいと思う。
「死んだ命をどのように想うのかは生きている命の自由だよ。何も気にする必要はない。フィディーの答えを聞けただけでリアも満足してくれる。楽に死にたいのであれば痛みなく殺してあげるけれど、自然界で生きるという事でいいよね?」
「自殺するつもりも楽に死ぬつもりもありません。自然界で抗ってみます。」
十分だね…。
≪念話終了≫
お母さんに確認しよう。自宅にいるのは分身かな?
≪念話≫
「お母さん、フィディーの意思を尊重してあげて。」
「アンジェの命に対する向き合い方はリアと似ているわね。特別に見逃したのに出て行くことに満足しているみたいなのでそうしましょう。移動させたわ。話は変わるけれど、ディアとフィーに呆れているのをもう少し隠しなさい。リアにも言わなければならないわね。馬と向き合えるのに姉妹とは向き合えないの?」
フィディーは気持ちよく送り出してあげることができた。本当に満足しているよ。
それにしても良い気分が台無しだね…。
お母さんは何を言っているの?リアを馬鹿にする2人を姉妹だと思えるはずがない。何もできなかった私に感謝と謝罪ができるフィディーを見習わせるべきだよ。
「救ってくれたのが赤ちゃんだから感謝しなくてもいいの?赤ちゃんだから本気で行動し動物に気持ちを伝えることができると信じてもいる。専属馬の問題で緊急事態なんてあり得ないよ。誰でも呆れるね。お母さんが用意した2人の勉強だったみたいだけれど、程度が低すぎる。それなのに帰ってきたリアとリオリナを質問攻めにした。そして姉さんは自分ができないことには理由があると考える。だから赤ちゃんで納得した。リアがリオリナに何をしたのか聞いた後だから言葉もないよ…。2人は感謝することもできないので何も変わらない。初日で姉妹との向き合い方が分かってよかった。」
「リアの家族はアンジェとリオリナよ。私は線上でしょう。ディアとフィーは家族として扱うだけ。勿論リアが今の考え方になってしまったのは私の責任。だけど普通に見える自宅内が最悪の状態なのよ。2人がリアとアンジェに感謝する日は来ない。感謝の気持ちがないのは間違いないわ。だからアンジェが2人を評価してリアに伝えてほしいの。あなた達は2人の成長を気にしないでしょ。それができるのはアンジェだけなの。」
リアを裏切れと言っているの?どうでもいい2人の成長を見て評価する意味が分からない。その程度のことはお母さんがすればいいよ。
そして命を救われたことに感謝できない2人が成長すると更に不愉快になりそうだよ。せめてお母さんが2人を説教してから私に話すべきだと思う。非常識な2人を黙認しているお母さんも共犯だよ。
何もしなかった自分が一番不愉快だけれど…。
「リアは否定され説教され侮辱され裏切られた。食事を作らされていたのに食事の時間に会話せず夜はリオリナの背中で眠っていた。それと比べたら姉さんとフィーは好待遇だよ。リアに感謝もしていないのに緊急事態と呼びつけて問題を解決させた晩に質問しても答えてもらえる。そしてリアにとって飛行訓練は遊びの延長だった。お母さんを巻き込んだのは私たちを巻き込むなと警告したのかもしれないよ。リアならお母さんが馬を震えさせているのか馬が自然に震えているのか考える。自宅に帰ってきたら質問されて2人の勉強のためだと知った。それに2人のことばかり考えているお母さんは線上なの?今も飛行訓練しているの?私が話しているのは分身だといいね。」
「これ以上は成長のために自分たちで考えると言っていたわ…。思考把握で命を狙われた経験があるので大切なことは思考しないのかもしれない。2人のことばかり考えている母親の授業に最悪な形で巻き込まれた。アンジェは何故そのように思ったの?」
自宅の近くで訓練しているのはリアとリオリナだね。これでお母さんを飛行訓練に巻き込んだのは警告のためだとよく分かる。お母さんは2人の性根が問題だと理解していないの?
それに最悪な形で巻き込んだと思っているのなら2人を説教するべきだよ。お母さんの対処で2人が増長していくことになる。家族の問題はお母さんが解決するべきで私たちは問題を起こしていない。
「赤ちゃんが動物に好かれるのか私に聞いたからだよ。普段のリアなら興味ないので聞かない。事実を知りたければリオリナに聞くよ。そしてリオリナは2人が課題を出されたと言った。普段のリオリナならリアが赤ちゃんであることは関係ないと必ず否定する。それだけで十分だよ。緊急事態だと呼びつけに応じたら2人の専属馬の問題だった。その晩に話し合いが行われてリオリナとの関係を赤ちゃんだからという事にされた。だけどリオリナは2人の課題で関係ないと否定している。リアは辛いことがあるとリオリナに抱きついていたけれど、昨晩はリオリナが抱きしめてあげていたでしょ。リアは姉さんに勉強方法を教えてもらうと言っていたけれど、読むべき本だけを聞いた。それで姉さんが飛行訓練を重視していたので勘違いしていると確信した。お母さんは現状維持を選択した娘の心を変えられるの?感謝と謝罪できない娘を変えるべきではないの?」
「リアはディアに緊急事態だと呼びつけられて専属馬を殺すか殺さないか決断することになったわ。リアは課題が残るように解決したけれど、リオリナが怒っているの。皆の前で私に全力飛行するためのコツを聞いてその場で変身して飛び立った。2人は馬に乗馬できない私への気遣いだと考えていたけれど、訓練中のリアを呼びつけて問題を押し付けるのを許容したのだから少しでもリアに貢献しろという事でしょう。帰ってきて質問されたリアとリオリナは課題が継続するように話しているわ。それなのに2人はリアに特別な力があると考えていた。2人が真似できない赤ちゃんを理由にするのが一番なの。だけどリアとリオリナは気持ちをアンジェに伝えていたのね。2人が変わるのであれば当然そうしているわよ。」
お母さんの課題がどうかは関係なく最悪だよ。緊急事態という言葉で呼びつけて専属馬の生死をリアに押し付けている。非常識にも程がある行為で姉妹の関係改善は不可能だと理解したよ。
そしてリアとリオリナの関係をリアの特別な力が理由だと考えている。2人共だから質が悪い。
私なら問題が起きる前に終わらせることができていた…。
お母さんが諦めているほど2人の性根が腐っているのだから。
お母さんがリアを赤ちゃんだと言ったのは2人が真似できないから時間稼ぎには使えるけれど、気づかれる日が必ず来る。場の空気も分からない馬鹿2人と一緒には暮らせない。
資料館の本を読み終えたらお別れだね。
「はぁ…、分身は解除して仔馬は他の馬と遊ばせているわ。今すぐ来てもらうわよ!」
≪念話終了≫
お母さんは何を言っているの!?
念話が切断された。
はぁ…、見慣れた部屋だよ。
説教部屋で正座させられているのは何故かな…。
リアとリオリナは立っているのが不自然に思えてしまう。
「課題を終えたわ。それとフィディーは保護区域に行くことを望んだので叶えた。リアとリオリナはお風呂に入ってから布団部屋で眠りなさい。アンジェが念話で妄想を語り出すから本気で焦ったわよ。」
「現場にいなかったアンジェが勘違いするのも仕方ないよ。妄想の前にフィディーと向き合ってフィオナを選んだことを認めてあげたんだね。アンジェ、ありがとう。少し元気になれたよ。リオリナ、抱っこ…。」
リアが倒れそうになったところをリオリナが受け止め抱っこした。
精神的な疲労が原因だと思うけれど、何が起きていたの!?
「お母さん、リア様は数日間起きないかもしれません。睡眠を優先しますね。」
「そうね。安心と疲労で気が抜けたのでしょう。ゆっくりと休ませてあげて。」
リアとリオリナが部屋から出ると昨晩の説教を思い出すね。
「姉妹関係が最悪だと理解していたのだから念話の傍受を警戒しなさい。アンジェ、あなたはディアとフィーとお城の馬を選別から除外した。そしてディアの過去を知るのを避けた。殺すのが好き、拷問を見るのが好き、拷問するのが好きだったわね。その条件で選別するとディアとお城の馬が消える。フィーは今後そのように成長する。見た目通りの思考力ではないと知っているでしょ。専属をリオリナのようにするために何でもするでしょう。異常な執着心だったわ。感情把握と思考把握と精神の色は余り当てにするべきではないけれど、リオリナを知ってからフィーの精神は濁り始めた。アンジェ、見たくないので見ていない。知りたくないので調べていない。その結果がこれよ。それでは考えて私に質問しなさい。」
未然に防ぐことができた問題を放置しリアの精神に負担をかけてしまった。私のために救ってくれた姉を殺す決断をしたのが一番負担になった気がする。
そして実験対象に選ばれる子の思考力と年齢が合わないことは知っている。フィーが専属をドラゴンにしたいと思っていることには気づいていたのに精神の色を見ていない。
私はまた何もしていない。逃げていただけなんだね…。
「過去はリアも知らなかったことだから姉の行動とリアの推測を教えて。それとお母さんが何をしていたのかも合わせて教えて。」
「私のしていたことは単純よ。危険だと判断した2人に問題を起こさせるつもりでいた。まずは封印解除された直後から新しい体に交換するまでディアは何も疑っていない。寧ろ喜んでいた。隙を潰して生きてきた子が何も疑わずに体を交換するのはおかしいでしょ。リアは思考を隠してディアを警戒することにした。そして専属馬で問題が起きたときにディアは私を呼んだ。私はフィーの意思が変わる話をした。予定通り保護区域に追い出すつもりが殺すことになった。ディアはその後にリアを緊急事態だと言って呼んだ。殺すつもりでいたので止める権利はない。何が正しいのか分からないという理由でね。リアはディアに呼ばれた理由を私に反抗できるのか見るためだと考えた。私には逆らえないと聞いていたのに逆らっているリアに目を付けたのよ。私を呼んだ後にリアを呼んで解決させるのは非常識だと知らなかったみたい。リアはディアの狙い通りにフィーの意思を変えた。そこまではリアの予定通りで私を訓練に誘うことでディアの動きを見るつもりでいたわ。それなのにリオリナが私に全力飛行のコツを教えてほしいと言って、今から始めると言って、その場で変身までしたの。リオリナの危機察知能力を信じているリアは確定だと判断した。だけどリアには極小の監視がついていたわ。今日の昼に念話で専属馬選びが終わったら教えてと言ってきた。課題を終わりにしてよと思考しながらね。リアが気づいていると知ったのはそのときよ。2人を殺して課題を終えるつもりでいたから。ディアの目的はリアの乗っ取りで必ずリオリナは殺される。アンジェも近くにいる可能性が高いので殺される。ディアはリアを乗っ取れば私を殺せると考えていた。そのためリアは転移と念話を警戒する必要があった。それでも早期解決にした理由はアンジェとリオリナを守るためよ。」
「リアは何故お母さんからも隠せたの?」
隙を潰し常に警戒していた人が何も疑わずに体を交換して喜んでいるのは怪しいと思う。私がその時点で疑うべきだったけれど、思考を隠すことができない。それに私が疑っていても安易に殺すことはできないと考えて解決するのに時間がかかる可能性まである。
慎重さに欠けるので殺しに来たのかもしれないけれど…。
「思考していないわ。ディアのやることは全て疑わしいと判断して見たままを受け入れて終わり。そして蓄積されていく記憶を元にして危険だと感じたときに行動するつもりだったのだと思う。それよりも先に最も鋭いリオリナが危険だと判断したのよ。」
「自分を信じていないとできないね。話し合いにも意味があったのでしょ。」
お母さんは私が妄想したと言っていたけれど、別の意味があったのだと思う。話し合いを不愉快に感じていることに気づいていたはずなので理由を伝えてくれていたに違いない…。
思考で気づかれないようにしているのだからそのままでよかった。深読みしすぎだよ!
「その通りよ。アンジェが深読みしすぎたの。赤ちゃん扱いされたけれど、2人の課題のため。そしてリアとリオリナが冷静なので、気にしていないのでアンジェも落ち着いてという事になるわね。」
「状況を少しでも理解できていたら、思考できないので思考しないでという意味も含まれていると分かるよ。フィーはリオリナへの執着と命を軽薄に扱うのが問題だったの?」
リアは決断した後だから辛かったんだね。リオリナもそれを感じて優しく抱きしめてお風呂で眠らせてあげた。お母さんは何か理由があると考えてそのまま布団部屋で眠らせてあげた。
怒っていただけの私が本当に馬鹿だとよく分かる。
そして3歳のクローディアは大人びた発言をしていた。実験対象は間違いなく年齢以上の思考力を持っている。フィーが年齢通りならもっと感情的に質問攻めにしていたはず。実際は余りにも大人しすぎる。
本音を隠そうとしていたことが思考力が高いことを裏付けているね。
「リオリナを専属にしたいフィーは動物を支配して恐怖で無理やり言わせたでしょう。だけどリオリナは1人しかいないわ。動物の生死や個性を気にしていない。大人になって精神が濁り切ったら力を持つ悪人になっていた。欲塗れの生命は立ち入り禁止の聖域に欲塗れの世界の管理人がいたら最悪よ。それに嫉妬でリアと殺し合いになる可能性が高い。リオリナを奪えばいいと考えてね。ここは悪人の更生施設ではないの。」
「姉はどういう人なの?」
フィーについては想像できてしまう。リオリナのような専属がほしいのではなくリオリナがほしいと考えている。更生させるためにはリオリナの想いと願いを無視することになる。リアはそのようなことを考えたくもないし言いたくもない。
リアに相手の年齢や経歴は関係なくリオリナ以外を選ぶ理由は存在しない。だけどリアは非情になりきれない。頭では分かっていても心を痛めてしまう。
私はリアの優しさを守れていないね…。
姉は愛情で涙を流しても殺しに飢えているのだと思う。
愛情よりも殺しへの飢えが勝る異常者だろうね…。
「大量殺人犯。正当防衛で殺せば社会に役立つと本気で思い込んでいる。覚えた魔法で人を殺したくて仕方のない少女よ。思い込みが強すぎて殺しているのは悪人だと信じて疑わないので精神が濁らないの。自宅にいたのは分身で妹のために本を作らせていた。自宅を万が一のための隠れ家にするつもりだったの。ディアの魔法技術があれば人目を避けることができたのに人通りの多い道を歩いて殺す相手を探していたわ。悪の組織を潰してお金を得ていたので生活に困ることはなかった。自信過剰で何でもできると考えていて私に気づかれない行動方法を探していた。私に記憶を読み取られるとは思っていなかったみたいね。弱者しか相手にしていないので隙だらけなのよ。それを有り余る魔法の才で補っていたわ。余りにも殺しすぎて裏の研究所に目を付けられた。それが分かっていても殺しをやめることができなかったので捕まったのよ。」
「悪人も善人も関係なく姉が殺せば悪人扱い。行動が早いのにも納得できる。世界に不幸を撒き散らして不幸を呼び寄せて、宇宙にまで不幸を撒き散らした。過去を知っていたとしてもリアは自分を責める。殺す以外の方法が見つからなかったから?お母さんに頼むしかなかったから?」
私が選別で除外したことに気づかないはずがない。それなのに全て自分の責任にして私を責めることはない。気づいていたことを絶対に認めないだろうね…。
「自分で救いアンジェに希望を持たせておいて自分で殺す決断をしたことよ。そして殺した理由が推測で相手はアンジェの肉親だと言える子だから。アンジェに殺させるわけにはいかなかったのよ。それに救った命は自分が責任を持つべきだとも考えているわ。だけど一番は後悔したくないからよ。リアは絶対に失いたくないものを知っているわ。それを守るためになら躊躇しないで不公平に命を助ける。大切な人を最優先に行動するのは素敵だと思わない?アンジェ、後悔するのはもうやめなさい。後ろばかり向いていると過去に縛られるわ。リアが悲しむと思って選別を避けた。リアがアンジェを信じているのと同じくらいアンジェもリアを信じなさい。あなたが正しい選別をしてリアが救った命が失われてもリアはアンジェの判断が正しいと思う。アンジェも分かっているはずよ。」
勿論分かっているけれど、逃げて避けたんだよ…。
私の調査や選別が原因でリアが必死に救った命を殺すことになるのが嫌だった。リアはそれも分かっているので私を責めない。そこまで分かっていて何もしなかった卑怯者なの…。
「後悔しているという事はリアの命が失われる可能性があったと考えているのでしょ。後悔することは二度としないわね?アンジェも最優先は大切な人でしょ。それなら守るために行動しなさい。大切な人を守ることができた失敗なら反省して努力して成長しなさい。娘に後悔する子はいないはずなのに、アンジェはどこで後悔なんて覚えてきたの?今すぐに忘れなさい!」
「もう忘れたよ!リアとリオリナを守るためには失敗が大きくなるかもしれないけれど、これからは躊躇も遠慮もしない。」
リアは私のために姉を救った。フィオナのためにフィーとお城の馬を救った。そしてリアには救った命を確認する余裕がなかった。だからこそ私が選別するべきだった。リアに託されたことなのに…。
私の後悔は何もしていないのだから成長に繋がるはずがない。次の機会を考えても意味がない。今動かなければ明日がないかもしれないと考えるべきだよ。
リアは自分のためではなく私とリオリナのために動く。私はリアとリオリナのために動く。理由は簡単でいい。危険だと感じたら排除する。それだけでいい。そのためには力が足りない。どこで何をするにしても力は邪魔にならない。
「その通りね。だけど念話で妄想を話したことや勘違いで私を責めたことは説教するべきだと思っていたのよ。私は後悔しないためにアンジェを説教するの。後悔しないアンジェなら分かってくれるでしょ?」
「躊躇も遠慮もしないと言ったよね。説教は拒否だよ!」
まずは目の前の絶望に抗ってみるよ!
「姿勢を正して黙りなさい。リアが起きるまで続けたいの?」
「はい。ごめんなさい。失敗したので反省する時間が必要だから短めにして。」
やはり力が足りない。
眉毛や唇の角度を微妙に変えて不満を伝えるのはやめてほしい。だけど私がやるべきことを避けた結果だから仕方ない。避けたいと思った自分の感性を信じて調査するべきだった。これでリアやリオリナが殺されていたら生きる意味を失ってしまう。
今でもリアとリオリナは極力お母さんの力を頼らないようにしている。殺すことを頼むのは相手より弱いからだけれど、その結論に至るまでは自分で言動している。お母さんの知識を頼りにしてはいない。
そしてリアの精神に負担ばかりかけている。2日間だからいいとならない。2日間で殺すことになる命を私が残してしまった。避けたり逃げたりすると何倍にもなって帰ってくる。それに対処するのは私だけではない。被害を受けるのも私だけではない…。
リアは嫌だと思う気持ちを押し殺して決断した。私は何もできず気づくこともなかった。本当に情けなくて悔しくてリアの気持ちを考えると悲しいよ…。
お母さんに説教されなくても頑張るし努力する。そして後悔は二度としない。
私の目的はリアと一緒に楽しむことだよ。
リアとアンジェはお母さんについて思考していません。
仮にリアかアンジェの記憶をディアが覗いていたらその瞬間にお母さんが消していました。




