第89話 問題
≪念話≫
「お待たせしました。引き続き乗馬しても構いませんか?」
「お話は聞こえていました。それなのによろしいのですか?」
フィーが薦めてくれたことを言っているのでしょうか?
リアがリオリナを贔屓していることではないと思いますが確認するべきですね。
「妹に薦められた話ですか?私は感情や気持ちを読み取ることが苦手です。具体的な内容を話してください。3人が木を拳で貫いていたのは問題ですが他に何かありましたか?」
「私が推薦してもらった話です。私がフィーに頼んだのです…。」
とても深刻なことが起きているような声で話しますね。フィーがいた場所では酷い罰を受けるようなことなのかもしれません。
「推薦してもらった理由が何であれ問題ありません。私が気になったので選んだことにしましょう。ここではフィーが血塗れになることも馬が血塗れになることも基本的にはありません。自由を望んだ馬も殺されたわけではありません。魔力のない動物を保護しているのでそこに移動してもらったのです。焦っているは何故ですか?危険だと思っていたのであれば何もしない方が安全だと思えます。」
「早々に気づかれるとは思いませんでした。気づかれた後でも専属として気に入ってもらうことができていれば追い出されることはないと思えました。ここで最も安全なのは専属になることです。専属になるのが危険だとすれば全ての馬が危険です。今日は本当でも明日は違うかもしれません。人間は同族にも他種族にも残酷です。危険だと分かっていても専属になりたいと考えました。それにクローディア様なら専属の声を聞いてくれると思えたのです。」
お母さんの言葉は信じることができても娘の暴挙を止めるのかは分かりません。それにここにいる人が私たちだけだとは知りません。他の人間に何かされそうになったとき私の専属という立場は他の馬を守ることができるほど強い力を発揮してくれると考えたのでしょう。
これまでフィーは残酷な目に遭ってきているのだと思います。それを知っているのでフィーの力だけでは足りないと考えた可能性が高いです。だから危険だと分かっていても私の専属という立場がほしかったのでしょう。本当はフィーと一緒に過ごしたいはずなのに立派ですね。
「乗馬しながら話しませんか?」
「はい。お乗りください…。」
≪乗馬≫
「適当に歩いてください。喉が乾いたら自由に水を飲んで構いません。川があると言っていましたので池もあるはずです。間違いなく綺麗な水ですので安心してください。草を食べても構いませんよ。」
「はい。分かりました…。」
ゆっくりと歩いてくれましたが緊張していると分かります。何も知らないので怖いのが当然ですね。私が安全だと言っても守られる保証があるとは思えないでしょう。
リオリナも人間の残酷さを知っているのでリアの言うことしか聞かないのかもしれません。そのように考えると改めてリアの凄さを実感しますしリオリナの態度が理解できます。
リアを独占したいという気持ちは離れるのが怖いからでしょう。リアの専属ではなければ死ぬというのはリアが生きる理由だという事とリア以外は信じられないという事なのでしょう。
この子が私に1日で心を開いてくれるはずがありません。
私にできることを精一杯にしましょう。
「あなたの目的はフィーと家族を守ることですね。私の専属であれば人間に何かされることはなくあなたが家族を守るように動けば人間は何もできません。フィーは残酷な目に遭い続けてきたのでしょう。だからフィーだけでは止められない問題でも長女の私なら止められると考えた。私の性根は分かりませんが賭けてみたのですね。私のことはディアと呼んでください。敬称は不要です。今のは私の予想ですが当たっていますか?」
「その通りです…。罰は私だけにお願いします。」
相当酷い環境ですね。腐った国が関わっていた気がします。アンジェを人質にされたときに従うのではなく脅迫するべきでした。そして滅ぼすべきだったのです。
私の甘い考えでどれ程の不幸を生み出したのか想像できません。滅ぼさなかったので今の生活があるのですが何とも言えない気分になります。
「この件に関して罰はありません。あなたにはフィーが名付けているのではありませんか?フィーの専属になりたいですか?信じられないかもしれませんがここでは問題を起こさない限り罰はありません。それに人間は残酷だと身を以て知っていますし嫌いです。ここには母を含めて6人いますが人間ではありません。母が世界ですから私たちもそれに近い存在です。つまりフィーも残酷な目に遭う存在ではありません。そして母は命に対して平等ですが私たちは人間だけではなく人が嫌いです。今後ここに入れる人がいたとしても厳選された高潔な方だけです。ここで暮らしている家族や動物が不快な思いをするようなことをしたら殺します。母も怒らないでしょう。今すぐ私を信じるのは難しいと分かっています。それでも私にできることがあれば教えてください。」
「フィーは名付けることを禁止されていたので名はありません。フィーに首を振った私が専属になりたいとは言えません。それに5人姉妹なのに末っ子のフィーが5頭も専属にしています。悪目立ちしていないのか心配です。クローディア様にできることですが、私を専属にして名付けてください。」
5人姉妹ではなく4人姉妹で1人は専属だと言っても理解できないでしょう。
怖くて仕方ない状況だと思いますがフィーを心配しています。自分を守りたいだけでは言えません。
そして私に専属を頼むのも怖いはずです。専属にするだけで信じてもらえるとは思えませんが私にできるのはそれだけですね。
「分かりました。今から私の専属で名はアイデーです。主が原因で専属にした子が不満を持てば母に説教されます。世界一怖い説教ですのでフィーには勇気がありますね。私は多くの専属を満足させられる自信がありません。アイデーが仔を産めば専属にしますが私にはそれが限界でしょう。ですがアイデーが専属にしてほしい子がいれば専属にしてもいいですよ。」
「ありがとうございます!誠心誠意ディアに仕えると誓います。フィーと一緒に来た子はもういません。自由を望みフィーを裏切りました。ディアは自由について教えてくれますか?」
フィーが悔しいと感じたように一緒に来た子から見ても裏切ったと感じるのですね。
「妹は専属を家族と同じだと考えています。私は愛情をよく知りませんがアイデーを家族として接します。だから私の言動が間違っていると思ったら遠慮せずに教えてください。それでは自由について話します。全て自己責任です。食事と水は自分で探す必要があります。病気に罹っても怪我をしても私たちは助けません。そして肉食動物もいますので身を守らなければなりません。自然界では当然のことなので母も説明しませんでした。騙したと思いますか?アイデーはどのように思いますか?このことは秘密にしてください…。」
「家族として接してくれるのですか…。それでは遠慮するのが失礼ですね。思ったことを素直に言います。私も自然とはそういうものだと思います。魔獣の餌にされたり殺されていたのであれば騙したと感じますが自由を望み人を避けたのですから問題ないと思います。自然界に馬だけが自由に過ごせる環境があるとは思えません。クロニクル様が話していた序列を作りまとまって生活するのが自然界で生きる馬の姿なのでしょう。秘密にする理由があるのですか?」
遠慮なく接することで私を試しているのでしょうか?
どのような理由であれ遠慮なく接してくれた方が嬉しいので十分ですね。自然界は弱肉強食で食物連鎖により環境が維持されます。それを当然だと言っているのが本音なのかは分かりませんが、秘密にする理由は話さなければなりません。
「全ての馬が震えながら頭を下げたときに母はとても寂しそうでした。人間が嫌いだから自由になりたいのも理由なのでしょうが、ここで暮らしていたのに自由を望んだ馬は母から逃げたのです。アイデーが知らない馬も自由を望んだのがその証拠です。お母さんから逃げたのが秘密にする理由です。」
「私たちは来たばかりですがここでは以前から馬を飼育していたのですね。病気や怪我を治してもらい十分な自由と安心と安全を与えてもらっていたのにクロニクル様を見てから自由になりたいと望んだ。絶対に逆らえないと感じました。それが理由で逃げたのですね…。私は無意識に頭を下げていました。余りにも格上の存在だと感じて震えました。本当に最低ですね…。」
落ち着きましょう…。
冷静にならなければ威圧してしまいます。
お母さんの「乗馬しないので安心しなさい」と言った意味をすぐに理解することができませんでした。今も正しく理解できているのかは分かりませんが、乗馬したくないのだと思います。
お母さんが専属を決めて乗馬したことで立場が上になったと勘違いした馬は追い出すだけです。ですが頭を下げていた時点でお母さんから逃げたいと考えていたのであれば話が変わります。
追い出した馬には拒絶されたと考えているでしょう。お母さんが乗馬した後に逃げたいと思われたときは再度拒絶されたことになります。それだけは嫌なのだと思います。
家族以外の命は平等に愛しているお母さんが命から拒絶されるのが許せません。
このことまで踏まえるとリオリナが可愛いと思うのは当然です。お母さんが特別な存在だと理解していてもリアがお母さんを乗せて空を飛び回りたいと言えばリオリナは平気で実行すると確信できます。リア最優先のリオリナは絶対にお母さんを拒絶しません。問題児と言っていましたが可愛くて仕方ないのでしょう。
私がリアに頼むべきではありませんね。お母さんが乗馬しないと伝えるだけで十分です。それを聞いたリアが何をするのか見てみたいのです。
「そういうことです。これまでここを管理していた人は専属を拒否する権利や乗馬を拒否する権利まで与えていました。母から逃げたい馬も甘い考えをしている馬も追い出されて当然だと考えています。私の言葉が嘘か本当なのかは時間をかけて証明するしかないと考えています。気になることがあれば言ってください。」
「馬を保護しているような環境だったのですね。秘密にする理由も納得しました。そして気になることがあります。広すぎて迷子なのです…。厩舎が全く見えません。柵を越えなければ安全ですよね?その柵も見当たりません。ディアは歩いている場所を全く気にしていませんが今は森の中です。せめて厩舎の方向を教えてください。」
魔法で移動したので分からないのですね。そして私も分かりません。歩いている場所が気にならないほど会話に集中していたみたいです。魔法を使い相手を拒絶するための会話をしてきた影響ですね。
明日の午前中にでも飛行して全体を把握しておきましょう。
長女が敷地で迷子は恥ずかしいです…。
≪索敵≫
鶏舎に向かえば大丈夫ですが結構離れていてうまく案内する自信がありません。
川や池で遠回りするかもしれませんね…。
「魔法で戻りませんか?初日に森の中を探検するのは不安ですからね。」
「はい。お願いします。」
よかったです…。
≪転移≫
鶏舎の前に移動しました
「ここは鶏舎です。この隣が牛舎でその隣が厩舎です。一度厩舎を見てみましょう。半数以上減ったので厩舎を縮小しているかもしれません。」
「これが鶏舎ですか…。お邸ですね。」
自宅よりも広いですね。天井から木が突き出ているので自然を意識した環境にしているのでしょう。動物の過ごしやすい環境についてはお母さんに任せるべきです。私のような素人が考えた環境を動物が喜ぶとは思えません。
牛舎は鶏舎の倍以上の広さがあります。厩舎の広さも同じくらいになっているでしょう。30頭以上いたときの厩舎は広すぎました。縦300m、横30mとお母さんが言っていましたからね。
何故でしょう?
お母さんが厩舎の前に立っています。
「お母さん、何しているのですか?厩舎の広さも変わっていないように見えます。」
「老朽化しないのでこのままでいいの。30頭前後を維持できたらいいと思っているわ。ところでリアに言うつもりなの?」
やはり気にしていますか。
「専属を決めず乗馬しないと言うだけです。嫌ですか?」
「リアの行動を予想できているわけではないでしょ。私も予想できないわ。気にすることはないのに困った子ね…。大体の予想を聞かせて。」
外れたら説教でしょうか…。
お母さんをリオリナに乗せてほしいのですが、専属馬を決めず乗馬しないと聞いて空を飛び回ることになるとは思えません。それは今後に期待してリアならお母さんが安心して乗馬できる馬を見つけることができる気がします。
「絶対に安心できる馬を探してお母さんの専属馬だと勝手に決めると思います。」
「甘いわね。リアは私のことを考えているようで自分の利益も忘れないの。外れても説教しないわ。ところで魔法を使わないといつもより考えることが多いでしょ。ディアは今でも十分に賢いけれど、まだまだ伸びるわ。妹は長女を追い越そうと努力するものよ。だから圧倒しなさい。抑圧されてきた環境でもそれだけの能力を得るほど努力してきたのです。今なら無理せず普通に勉強するだけで十分よ。それと木を貫いた三馬鹿やフィーと比べると大人しすぎるわ。迷惑をかけなければ我儘でいいの。隙を見せないように生きてきた感覚が残っているのは仕方ないけれど、年齢を下げた意味がないわ。ディアなら誰にも文句を言わせない我儘ができるはずよ。突然は難しいと思うので心に残しておいて。アイデーの序列は1位よ。ディアを頼るのはいいけれど、家族を守りたいのであれば問題を起こさないように管理しなさい。蹄の色が序列1位の証よ。数字も入っているわ。全頭に周知したので大丈夫。それでは行くわね。」
お母さんは満足した雰囲気で転移しました。
リアの予想はついでに聞かれたようです。勘違いではなければ私のためにここで待っていて会話するつもりだったとしか思えません。念話を使えば楽なのに会いに来てくれたことがとても嬉しいです。
私の欠点を指摘してくれる人はいませんでした。過ごしている環境を理解してくれる人もいませんでした。これからするべきことを教えてくれる人もいませんでした。もっと我儘に生きて楽しんで過ごしなさいと言われた気がします。そして長女としての力を妹に見せつけなさいと言われた気がします。
とりあえず1000年は妹の上に君臨しましょう。1万年後には横並びになっているのかもしれませんがそれまでは私が妹の目標であり続けましょう。
それに私が教育の責任者なのです。全力で誰にも迷惑をかけない我儘をしましょう。
このようなことは初めての経験でフワフワしています。
これが幸せという感情なのでしょうか?
アイデーのことを考えて冷静になれました。お母さんがいたときアイデーは序列1位に選ばれても無言でしたし震えていました。私が乗馬しているので序列1位なのであればお母さんが乗馬できる馬が残っていると思えますが、全ての馬を見て序列1位だと判断したのであれば乗馬できる馬がいません…。
「アイデー、家族を守れる立場になれましたね。現状で悩んでいることはありますか?」
「え、えっと、そうですね。問題を起こすことはないと思うのですが何か思い当たりますか?」
家族が問題を起こすとは思えないのでしょう。ですが人が変わるように馬も変わるはずです。ここの環境に慣れたときが一番危ないです。それに家族として接しているのはいいのですが私の前ではフィーを主として敬うことができるのでしょうか…。
「人間は残酷で今日と明日は違うかもしれないと言いましたね。それは人間だけだと思いますか?ここの好待遇に慣れた馬は優遇されていると勘違いするかもしれません。他種族に悪意を持って攻撃したら終わりです。喧嘩は必ず仲裁してください。権力と慣れは動物も変えるでしょう。専属という立場を利用してが問題を起こした場合も終わりです。アイデーも気をつけてください。それにフィーが5頭と走り回っています。仮にアイデーがフィーに走り回りたいとお願いすれば『好きなように走っていいよ』と言う気がします。フィーの家族が荒い言動をすればフィーが先に注意されます。家族はフィーの注意を聞きますか?問題を起こせば専属でも許されません。フィーの家族は勘違いしないといいのですが、家族は意外と脆いのです。だからこそ大切に守らなければなりません。アイデー、既に問題の前兆はあるのです。母の言葉はアイデーへの警告です。『家族が問題を起こさないように管理しなさい』と言われたばかりではありませんか。家族が問題を起こすので言われたと思うべきです。」
「そうですね…。走り回りたいのはフィーではなく馬でしょう。お願いされたらフィーは断りません。クロニクル様が家族を強調していたのはそういう意味があったのですね。フィーと5頭を呼んでいただけませんか?現状を確認させてください。」
◆◆◆
≪念話≫
「フィー、5頭を連れて厩舎の前に来てください。今すぐにです。推薦した子は私の専属にしました。その子からのお願いです。推薦については秘密にしますので安心してください。そして着いたら下馬してください。」
「分かったよ。すぐに行く!」
≪念話終了≫
◆◆◆
≪下馬≫
「呼びました。すぐに来るそうです。フィーにも下馬するように伝えています。序列1位の家族として問題が起きないように話し合ってください。仮に家族ではなくても馬の問題は馬だけで解決するのが一番です。」
「はい。その通りですね。呼んでくださりありがとうございます。私の声を皆が聞こえるようにしてください。無理だと判断したときはお願いします。」
自分の力ではどうにもならない可能性を考えての発言でしょう。フィーの幼さを理解しているのだと思います。フィーの専属という立場を利用して悪事を働いたときには世界一恐ろしい目に遭う可能性があります。そこまで想像できているのでしょう。
蹄の足音が大きく聞こえてきました。フィーが近づいてきたようです。
この勢いで好き勝手に走り回っていたとすれば問題を起こす日は近いですね。
≪念話終了≫
≪多重念話≫
フィーも下馬しました。私もいるのですから普段の関係とは違いフィーを主として立ててくれることを期待しましょう。侮辱したり見下すようなことがあれば…。
「フィー、名前はアイデーにしました。私たちが会話に参加しない方がいいと理解していますね?」
「アイデー、姉さんの専属になれてよかったね。それが分かりやすいように下馬したのでしょ。」
フィーは理解してくれていますね。
「フィーとかなりの勢いで走り回っていたようですね。それはフィーの頼みですか?」
「俺だよ!好きなように走っていいんだぜ。問題ねえだろ!」
早速ですか…。
完全に調子に乗っていますね。既に問題が起きていたようです。フィーには残念ですが解決できるとは思えません。名も色も覚える必要はないでしょう。
「他の動物の迷惑にならなければ好きなように走ってもいいのです。今は牛だけですが動物は増えると考えています。当然だけれど、そのくらいのことは考えて走っていたのよね?残りの4人はどうなの?」
「今は牛だけしかいねえから問題ねえよ。それに足音で分かるじゃねえか。まあ、動物が増えても避けてやるよ。4人は俺の走りについてきただけだ。巻き込むんじゃねえよ!」
自分が巻き込んでいる自覚はなさそうです。
とても家族の会話に聞こえません。普段からこのような会話で家族と考えていたのでしょうか?それとも序列1位になったアイデーが気に入らないのでしょうか?
フィーが悲しんでいることに気づいていますか?今すぐに殺したくなります…。
「序列1位になったから私たちを説教したいの?それとも説教の練習相手にしたいの?」
「フィーの推薦のお陰で序列1位になっただけでしょ。私たちを管理するつもりなの?」
「序列に意味あるの?他の馬には関係あっても私たちには関係ないでしょ。」
「問題があるから呼び出されたと考えるべきです。クローディア様も話を聞いているのですよ。」
喧しいですね!
アイデーの序列1位が気に入らないのは間違いなさそうです。家族だから序列は関係ないと考えてもいるようです。恐らく今まで縛りつけられていたので解放感に酔っていますね。黄茶色の毛の1頭は冷静なようですが残りの4頭は駄目ですね。
「ここではフィーが主で家族の長です。この状態を放置しても大丈夫だと思いますか?ディアが心配しすぎていると思いましたが間違いでした。問題が起きる前に注意しようと思っていたのに問題が起きているではありませんか。私の言葉を無視するなら追放です。これ以上悪化するなら処刑されます。」
アイデーは理解できているようですね。
このままでは処刑です。私が殺すことになるでしょう。
序列1位の馬が問題のある馬に注意しているのです。馬の問題を馬だけで解決できなければ駄目なのです。それに家族なのでしょ?家族の注意も真面目に聞けないのですか?心配されているのを無下にするのですか?
「序列1位は脅しも許されるのか?俺たちはフィーの家族だがフィーが長ではねえよ。お前が勝手に決めんな。長も何か言ってやれ。」
「フィーの専属になったのですから私たちの長はフィーです。本来なら主従関係がありますがフィーが家族として接してくれているので今までと変わらないように感じているだけです。家族だから序列1位の話を無視していいとはなりません。序列1位を決めたのはクロニクル様です。」
「フィーに従えってこと?それじゃあ家族と言えないでしょ。」
「専属じゃなければいいんじゃない?それならフィーに従う必要もないでしょ。」
「それじゃあ長以外は専属やめる?」
本気で煩いですね…。
そろそろ我慢の限界です。
「アイデー、馬が血塗れになることはないと言いましたが例外はあります。私の妹を侮辱して許されると思いますか?フィー、あなたの家族なので我慢していますが殺してもいいですか?」
「待って待って!リア姉とリオリナのようになれなくても楽しく過ごせると思ったんだよ。姉さん、何とか保護区域に追放できないかな。精神は濁っているし私に暴言を吐くし勝手に追放してもお母さんが殺してしまいそう。姉さん、お願い…。」
フィーの意思を無視して殺すことはできませんね。
冷静になりましょう…。
「お母さんは私たちの想いを否定するようなことはしません。お母さんに追放してもらいましょう。2人で甘えれば保護区域に追放してくれます。駄目なら全員で甘えましょう。お母さん来てください。」
来るのが早すぎます。そしてお母さんを見るだけでここにいる6頭は震えるのですね…。
「フィー、4頭はあなたを下に見ていたの。それでも家族の説得なら聞くと思ったけれど、駄目だったみたいね。フィーに酷いことを言ったのが本来の姿。それでも許してあげるの?フィーを家族だと言っていたのに血塗れのフィーを見下すことで安心するような馬よ。本当に許すの?」
「一番酷い扱いを受けてる私を見て安心してたんだ。ずっと陰で馬鹿にされてたんだね。許せなくなってきた。もうどうでもいいや…。」
お母さんは本当に殺したいのでしょうか?黙って殺すことができたはずです。フィーも鋭いですが酷い扱いを受ける孤独な環境にできた家族に甘えてしまったのでしょう。フィーを責めることはできません。
私も殺したいと言ってしまったので止める側になれません。
一番命を大切にするリアを頼りましょう。
アンジェはお母さんがいることを知って来ないはずです。
◆◆◆
≪念話≫
「リア、今すぐに来てください。緊急事態です!」
「すぐに行くよ!」
≪念話終了≫
◆◆◆
リアとリオリナが転移してきました。
周りを見て理解できない状況だという顔をしていますね。
「どうしたの?」
「お母さんが過去を話してフィーがここにいる馬を殺したくなってしまいました。私も殺すつもりでいましたので止める権利はありませんし何が正しいのか分かりません。リアに頼らせてください。」
「リアまで呼んじゃったの。我儘に驚くわね。」
「リア様、私が殺しましょうか?」
リオリナがリアの敵だと判断したみたいですね。
「リオリナ、殺すことができるのと実際に殺したことがあるのとでは大きな違いが生まれる。私と一緒に殺さないための訓練しているのに殺したいの?どうしようもないときと敵以外はなるべく殺さない方がいいんだよ。教えたばかりだよね?」
「リア様の敵だと判断しました。どうしようもないときに含まれます。」
この状況でリアのことしか考えていないのは流石としか言えません。
「それは何度も聞いたよ。だけど私が殺せない相手が敵だった場合は一緒に戦ってと言ったの。ここにいる馬を私が殺せないと思うのかな?相手の力を把握するのも訓練だよ。それで私より強い馬がここにいるとリオリナは判断したの?私が馬より弱いとリオリナは言いたいの?」
リアはリオリナに極力殺しをさせるつもりがないのですね。リオリナが単独で襲われたときはどうしようもないときや敵に含まれますが間違いなくリアの隣から離れないでしょう。リオリナが殺す前にリアが瞬殺するでしょう。
「いないです…。ディア様が緊急事態だと言うので強い敵でも現れたのかと思いました。」
「私の言葉が悪いのですか?今まで全く気にしていなかったのに凄い流れ弾を当ててきますね。」
「私の専属馬を処理する状況を訓練に利用しないで。リア姉とリオリナには常識が足りないよ。」
「アンジェは私の説教を恐れて来ないみたいね。リア、訓練に利用したのなら責任を持って最後まで訓練に利用しなさい。」
アンジェがお母さんを恐れて来ないのは想定内なので声をかけなくてよかったです。ここまでの流れは無茶苦茶ですがリアの判断に任せることができます。最後まで訓練に利用するというのはおかしいと思いますが気にしない方がいいでしょう。
「娘に殺しを押し付ける母が一番常識がないよ。フィーの近くにいる5頭のことだよね?フィーが一番大切だと思っている馬も殺す対象なの?」
「それは違うよ。黄茶色の毛と白い鬣と尻尾の子は私のことを主だと思ってくれたんだ。それ以外は私が酷い目に遭っているのを見下して安心してたみたい。」
「その過去をお母さんが話したのでフィーが殺してもいいと思ったのです。その前までは保護区域に追放する予定でした。」
「ディア、私を悪人のように言わないでよ。知らないことがいいこともあるけれど、今回に関しては知るべきだと思ったの。心が弱っているときは相手に付け込まれるわ。これまでは仕方ないけれど、これからのことを考えて知っておくべきだと考えたのよ。」
これからのことを考えた勉強ですね。
幼くてもお母さんの娘なのです。早いうちに知ることも大切でしょう。
「フィーは馬を殺すことで何か変わるの?馬を殺さなければ楽しく暮らせないの?」
「リア姉は殺さないの?」
絶対に殺しますね。
リアは命を大切にしますがそれ以上に家族を大切にします。
「家族を侮辱した相手は絶対に殺すよ。だけど姉さんが殺すつもりでいたのに生きているのがおかしい。姉さんは殺すのを我慢してフィーの家族だから確認した。保護区域に追放したいと姉さんを止めたのはフィーでしょ。違うの?」
「その通りだよ…。」
本当に鋭いです。魔法を使わずに言い当てることができるものなのですね。私の性格を把握しているのでしょう。そしてリアの性格も把握しているのでどのようなやり取りがあったのか会話の中に含まれる情報から推測することができているのですね。
「追い出すことで問題が起きるのであれば殺すべきだけれど、何の影響もない。それなのに自分の意思を曲げるの?それにフィーは追い出してほしいと姉さんに頼んだ。その姉さんを裏切り追い出すという約束まで破るの?フィーを主だと思ってくれている馬は今後も思ってくれるのかな。自分の言動には責任を持つべきでしょ。フィーに責任感はないの?」
「私にも責任感はあるよ。殺さないと決めたから殺さない。同じことが起きたら次は殺す。」
「フィーが殺す前に私が殺します。フィーの隣には私がいることが多くなりますからね。それではお母さん、末っ子の決断を尊重して保護区域に追い出してください。」
「分かりました。保護区域に転移したわよ。」
リアはフィーに殺してほしくないのだと思います。そして説得する言葉は厳しいと感じました。ですが残ってくれた馬のためにフィーは今回のことを教訓にするはずです。簡単なことですが守り続けるのが非常に難しいことをリアはフィーに要求しました。
フィーの性格を把握していなければ今の説教はできませんね。何事もなかったかのように追い出したお母さんを見るとフィーに殺させるつもりはなかったのだと思います。
リアの訓練ではなくお母さんの授業に巻き込まれたようですね。
それでは巻き込まれてください。
「リア、お母さんが乗馬しないそうです。専属馬も決めないようです。どうしますか?」
「馬は何頭いるの?封印を解いたらどのような状態になったの?」
「今は10頭よ。封印を解いたら震えて頭を下げていたわ。」
状況確認は大切なことです。普通の受け答えをしただけのようですが、ここからリアが何を言いだすのかが楽しみで仕方ありません。
「お母さんには時間があるという事でいいの?」
「そうね。準備は終わっているので生まれるまでは時間があるわ。」
お母さんなら準備はすぐに終えるでしょうが生まれるまでの時間はどうしようもありません。
リアに専属馬や乗馬という選択肢はなさそうです。野生の馬を探しに行くという展開もありますけれど、お母さんの時間をどのようにするつもりなのでしょうか。
「リオリナ、全力飛行訓練に付き合ってくれる人を見つけたよ。お母さんが一緒なら時間を気にする必要がないね。世界一周できるかもしれないよ。」
「流石お母さんです。よろしくお願いします。」
「今のリオリナだと世界一周するには一月以上かかるわよ。流石に無理ね。」
全力飛行訓練は分かりませんがお母さんをリオリナに乗せるつもりですね。お母さんが一緒にいれば夕暮れに間に合わなくても怖くないという完璧な流れです。そして一切お母さんに遠慮しないリオリナが頼もしいです。
「だから訓練するの。最初からうまくできるはずがないでしょ。まずはすぐに全力飛行するための訓練だよ。うまくできたら身体強化と結界を組み合わせた訓練に変更だよ。訓練が1日で終わるはずがないでしょ。できるまで訓練だよ。アンジェは説教が怖くてすぐに引き返したからね。訓練の時間は長い方がいいでしょ?」
全力飛行訓練は実際に行ったみたいですね。一緒に乗っていたアンジェが夕暮れまでに帰れなくなりそうな雰囲気をリアから感じて戻らせたのでしょう。そのあと桜の木を貫いているのですから結末は変わりませんでしたね。
それにしても想像していた以上にお母さんを巻き込んでいますね。訓練が終わるまでお母さんはリオリナに乗り続けることになります。お母さんが乗らない日は訓練をしない可能性まであります。
「その通りです。お母さん、訓練中に全力飛行するためのコツを教えてください。」
一緒に訓練するので教えてくださいというのは普通のことなのですが、リオリナがお母さんに直接言ったのは驚きです。自分の成長は全てリアのためという考えなのでしょう。ですがお母さんがリオリナを可愛いと思うのは当然ですね。別枠と言っていましたが娘と考えているのでしょう。
この光景を見ているだけで妹を圧倒するのは大変だと分かります。
「言った通りでしょ。リアは自分の利益を忘れないのよ。付き合ってあげるわ。明日から?」
「リオリナ、世界最強のお母さんが甘いことを言っているよ。笑っちゃうね。」
「リア様、お母さんは世界最強だから余裕があるのかもしれません。笑ったら説教です。それでは今から始めましょう。このくらい離れれば大丈夫そうですね。」
美しいドラゴンですね。リオリナの純粋な精神が輝いているようです。
ドラゴンは本でしか見たことがありませんがこのような姿と色をしたドラゴンは知りません。それよりも馬の前でドラゴンに変身するのは怯えられます。気遣いができるのに周囲への配慮は一切ないようです。フィーに常識がないと言われても仕方ないでしょう。
「嘘でしょ!?厩舎の前で変身するの?馬と牛が怖がるわよ。」
「リオリナを侮辱したら殺すだけだよ。怖がるだけなら許してあげる。」
「リア様はとても寛大ですね。それでは乗ってください。」
お母さんは未来予知ができるわけではないので本気で驚いていますね。そしてフィーが馬を殺すのを止めたとは思えない発言を平気でしています。2人の会話を聞いていると頭が麻痺しそうですね。寛大さの欠片も感じられません。
「お母さん、私と同じ身長になって前に乗っていいよ。だけど助言はしてあげてね。」
私が勝手に期待していたことをその日に実現してくれるとは思いませんでした。
リアの本当の目的は間違いなくお母さんをリオリナに乗せてあげることです。発言に遠慮がなくあえて分かり辛くしているようにさえ感じます。お母さんが乗る理由をリオリナの訓練のためだと周知しているみたいです。お母さんがリオリナを贔屓していると思わせないためなのでしょう。
「翼の形が見たいから私はこの位置でいいわ。」
「なるほどね。それなら私はお母さんの後ろに乗るよ。リオリナ、出発!」
「それでは飛びます。強風にお気をつけてください。」
お母さんがリアと同じ身長になると翼の付け根の少し後ろに座りました。リアはその後ろに座りました。約束は守るという事ですね。
≪結界≫
リオリナが翼を広げても邪魔にならない天井のない結界で囲みました
何も発言する気が起きません。お母さんが指摘しても無視し続けているのです。私が指摘しても絶対に無視されると分かります。傍観しているのが賢い選択でしょう。
「それが分かっているのならここで飛ばなければいいでしょ。ディアが結界を張ってくれたことに感謝しなさい。聞いているの?」
「転移で移動して飛ぶのは隠れているみたいで嫌だよ。堂々としないと格好悪いでしょ。今度姉さんとフィーも一緒に乗ろうね。自分で飛ぶのとは違って楽しいよ!」
「リア様が楽しんでくれて嬉しいです。」
「全力のリオリナに乗れるのを楽しみにしています。」
「私はいつでもいいよー!」
翼を広げて飛ぶ姿も美しいです。物語の一幕を見ている気分になります。ドラゴンを知っている人でも見惚れてしまうでしょう。リオリナに感謝しなければなりません。お母さんの寂しい顔を吹き飛ばしてくれました。リオリナが自然な姿でいてくれるので全ての動物に逃げられるわけではないと思うことができるのです。
羽ばたく音が凄いので周囲の馬と牛の視線を集めているでしょう。
リオリナの狙い通りですね…。
≪結界解除≫
「お母さんが笑顔になれてよかったよ。問題が残ったけど夜に話し合うしかないね。」
「夕暮れまで乗馬を楽しみましょう。このような後で楽しめないかもしれませんが楽しめるくらいの覚悟がなければ話になりません。」
≪多重念話終了≫
今回の問題で重要なのはリアとリオリナが怒っていることでしょう。リア最優先のリオリナですがお母さんが大切なのは当然です。2人が残っている馬を失格だと判断しました。それにリオリナがいるので私たちが何を言っても言い訳にしかなりません。
私も甘く考えていましたが漸く分かりました。お母さんは乗馬するまでもなく無言で近くにいるだけでここにいる馬は逃げたいと考えます。
格上の存在だから震えたと言いましたが、恐怖で震えたのだとよく分かりました。
自分の理想を願ってしまうのは自然なことだと思います。




