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世界は子を愛す  作者: 大介
第2章 命

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第88話 現在

 お母さんはリオリナが上空の結界を越えたあとに厩舎の前に封印されている馬を並べました。


「封印を解く前に言っておくわね。ディア、動物と触れ合うときは感情把握と思考把握をやめなさい。頼りすぎると感性が衰えてしまう。それと2人に言っておくことがある。リオリナは普通の馬よ。私が用意したわけではないしリアが何かしたわけでもない。リアの専属をリアの寿命まで続けたいとリオリナが望んだの。それを乗馬する子に言わせたりしたら駄目よ。ここにいる子たちは人間に殺されかけた経験を持っている。それはリオリナも同じよ。それでもリアに命を預けたの。リアに必要とされなくなったときは死ぬ。リアが死んだときも死ぬ。死という条件さえもリオリナが望んでいるの。私が普通の存在ではないと理解しているのに気にされないのは面白かったわ。一番右端にいる子はフィディーという名前でアンジェが自由にさせてあげている子よ。専属馬にするのであれば名付けしてあげて。毎日違う子と乗馬を楽しみたいのであれば名付けしては駄目。質問がなければ封印を解くわ。」

「私が望んだ場合でも駄目なの?」


 言われた通りに感情把握と思考把握を切りました。

 当たり前の状態なのに僅かな恐怖を感じています。間違いなく衰えていますね。


 そしてフィーの望みは絶対に駄目でしょう。相手に不死を強制しこちらが望んだときには死ねという事になります。お母さんは娘の私たちだけは特別だと考えていると思いますが他の命に対しては平等に接するはずです。


「フィー、それならあなたが馬の寿命に合わせなさい。あなたが死んだときには家族に戻れるようにします。突然不死にされ死ぬのはフィーの気持ち次第。それを馬が望むと思うの?望んでいなければ急速に精神が濁ることになる。それをフィーは更生させることができるの?フィーの望みで不死にされた子はフィーに捨てられて死ぬことになる。これから多くの生と死を見ることになるわ。家族以外の命を特別に思うのは自由だけれど、なるべく命に対して平等な気持ちを持っていなければ辛いだけよ。私は選んでもらったつもりでいるけれど、苦しいと思うのであれば普通の人にしてあげるわ。どうするの?」


 フィーにはうまく伝わっていないのかもしれません。仲の良さに関係なく誰もが先に老いて死にます。それが苦しいのであればこれからの日々には耐えられません。

 お母さんが説得ではなく確認しているのも同じ理由でしょう。この体は説得されたので選ぶべきものではなく妥協して選ぶべきものでもありません。自ら望むべきものなのです。


 そして望めば誰でも得られる体ではありません。それを理解しなけらばならないのです。命に愛情を持つことも大切なので自宅の敷地は特別扱いとしているのでしょう。


「お母さんの言っていることは分かるよ。姉は寂しさを克服しているの?」

「それは違うわよ。命とはそういうものだと理解しているの。そして姉に共通する想いは家族の命が最優先。世界に一切の命がなくても家族さえいればいいと思っているわ。それに人を憎んでいる。だから家族が殺されることは許せないけれど、他の命が殺されても納得できてしまう。それと必要以上に人と仲良くするつもりがない。人が増えたときに特定の誰かを私たちが贔屓すれば心が綺麗な人でも病むわ。私たちと接することで勘違いはしなくても周囲からの嫉妬には耐えられない。そのため私たちとの接触を拒否するようになる。自分が特別な存在だと理解しなければならないし、それに相応しい行動をしなければならない。寂しいという感情が抑えられないのであれば自宅に帰って家族以外には見られないようにする。特別が楽なだけではないと分かったでしょ。フィー、決断しなさい。特別なのにという感情は精神を濁らせるわ。特別なのか普通なのかどちらがいいの?」


 家族さえいればいいのです。間違えましたが今回は大丈夫です。

 フィーは自分自身で決断しなければなりませんね。


 そういえばリアは楽しい国をつくりたいと考えていても国で遊ぶつもりがありません。人の欲を嫌っているだけではなく憎んでいるのであれば楽しい国をつくる理由はアンジェのためなのかもしれないですね。そして今はそこに私も含まれている気がします。


 2人で買い物などが楽しめる国にしたい。だから蘇らせる種族には興味がない。私が教育するのに歩けない国はないでしょう。それに不愉快であればリアが躊躇なく消す気がします。


「特別に生きる。私も家族と離れたくない。」

「分かったわ。それとディアの考えていることは正解だけれど、言わないでね。3人の考えが統一されてしまうと必要ないでしょ。それだとつまらないわ。フィーにも楽しんでもらいたいのよ。だから家族みんなで楽しめる目標にしておいてね。」

「分かりました。目標を楽しみたいと思います。」


 リアはリオリナと世界を自由に飛び回りたいと考えていたので本当の目的は生命の溢れる世界。だけどアンジェの話を聞いて生命の溢れる楽しい国をつくろうという事になったのでしょう。そして私たちが国について本音で話し合うと国と人には興味がないと結論が出てしまう。


 お母さんは楽しい国をつくるよりも国づくりを楽しんでほしいと思っているのでしょう。国が形になればフィーにも役割が見つかるはずです。国づくりが趣味なのですから面白いですね。


「それでは封印を解くわよ。私はリオリナの封印を解いたときと同じ状態です。リオリナが特別だと納得できるわ。さて、封印解除。」


 封印解除された馬が一斉にお母さんを見ました。左からフィー、お母さん、私と横に並んでいるけれど、視線の先はお母さんだと分かります。


 そして全ての馬が芝生に頭を付けました。仔馬も頭を付けています。強制命令されたようにしか見えません。それに全ての馬の脚が震えています。お母さんが専属馬を決めれば勘違いするか心が壊れるのは間違いないでしょう。私たちはお母さんが娘と言ってくれていたので平気だったのかもしれません。


 リアはこの光景を知っていたのですね。だから誰が皇帝になってもお母さんに頭を下げるので気にする必要がないと思えたのでしょう。私もそのように思えます。


「顔を上げてこちらを見なさい。私の右手にいるのがクローディア、愛称ディア。私の娘で長女。そして左手にいるのがフィオナ、愛称フィー。この子も私の娘で末っ子。2人をよろしくね。あなた達の序列を決めたり食事を用意するのは私。だけど乗馬しないので安心しなさい。娘に名付けられたら専属よ。それと自宅の裏に行けば私たちが一切干渉しない山と森と草原や川と池があるわ。但し、出たら戻れない。そこが本当の自然界に近いわ。さて、名付けられず自由に過ごしたい馬は私の右手側に固まりなさい。名付けられてもいい馬は左手側に固まりなさい。どちらでも怒りません。」


 餌をもらい自由に過ごしたいだけの馬をお母さんがここで育てるとは思えません。そして分ける理由に勘付いて嫌々名付けられる側にいる馬も対象外になるでしょう。


「フィーの大好きな馬はどちら側にいますか?」

「名付けられたい側にいて私を見てくれてるけど他にも名付けたかった馬は私をチラ見して名付けられたくない側に移動した。生まれたときから可愛がってたけど独り善がりだった。押し付ける前に現実を知ることができてよかったよ。寂しくて悲しくて少し悔しい…。3年間毎日ブラッシングして可愛がってたのに気持ちが通じなかったのか血塗れの私が怖かったのかな。」


 馬を世話していたことに驚きましたが血塗れなのは最悪ですね。馬の世話で血塗れになるはずがなく血塗れになるようなことをされて着替えも血を拭くことさえも許されずに過ごしてきたのでしょう。

 初めて見た瞬間に元母親の細胞で生み出された子だと分かりました。成長したら性格まで似るかもしれないと思いましたが杞憂ですね。フィーは私の大切な妹です。


◇◇◇

念話中。


「そこの親子に聞きます。仔馬も納得しているの?母馬は黙っていなさい。」

「僕は名付けられてもいいです。」


 母馬は人間嫌いだと思いますが仔馬は嫌いになるような光景を見ずに過ごせたのですね。


「母馬と離れることになってもいいの?後悔しない答えを言える?」

「母は人間が嫌いだと言っているけど母が嫌うような人間はここにいないと思います。だからここに残ります。後悔しません。」


 人間が嫌いなのは仕方ないと思いますがそれを仔に強制するのは駄目だと思います。救われたのですから目の前にいる私たちを見て判断するべきですが母馬にはそれができないようですね。


「母馬も発言を許します。」

「人間はいつ豹変するか分からないわ。酷い目に遭いたいの?」

「お母さんは怖くて頭を下げたの?僕は頭を下げるのが当然だと感じた。全員頭を下げたのに普通の人間なの?僕は頭を下げた人から離れたがる方が不思議だよ。」


 普通に考えればお母さんに屈服したと言える状況です。残って従うべきだと思う方が自然だと思います。母馬は人間が嫌いなせいで素直になれないのかもしれません。


「本来ならあの方に従うべきだと思いますが選ばせてくれています。だから自由を選ぶのです。自由に生きることが許されるているのですからこの機会を逃すべきではありません。」

「従うべき人がいるから残る。それにあの人なら従えと命令することもできるのに選ばせてくれるんだよ。お母さんが嫌いな人間とは違うでしょ。」

「母馬は出て行く。仔馬は残るでいいの?あえて言っておくわ。とりあえず様子見して何かあれば出て行くつもりの馬と甘い汁を吸うつもりの馬はどちら側にいても出て行ってもらいます。ここに残ると決断できない馬は自然界で生きなさい。外の様子は見えないですしこちらの様子も見えません。私が用意した動物保護区域ですから私たち以外の人と魔獣は入れません。」


 そのような甘い考えの馬がいるという事ですね。先に出て行った馬が楽しく過ごしているのか確認してから出て行く。お母さんを見てその選択をすること自体が間違っています。従っている振りをして裏切るのと同じなのですから。


「ここに残ります!」

「私は出て行きます。本当に馬鹿な子ね。後悔せずに生きなさい。」

「それでは自由に生きて。序列を作りまとまって行動しなさい。さようなら。」


 30頭以上はいた馬が14頭にまで減ってしまいました。人間が嫌いでも目の前の人を見極めることは大切なのに感性の鋭い動物でもそれができないのは残念です。


念話終了。

◇◇◇


「私の自己紹介をしましょう。名はクロニクル。本来の姿は世界です。この世界で起きたことで私の知らないことはありません。動物保護区域は魔力のない動物を保護するために用意しました。ここにはいなかった馬もいます。フィディー、仔馬と遊びながらここを案内してあげて。ディアとフィーは乗馬する馬を決めて。2人に乗馬魔法と下馬魔法を渡します。乗馬したい馬に触れて使用しなさい。」


 馬から動揺したような雰囲気を感じました。


 フィディーはお母さんに頭を下げてから仔馬に話しかけているみたいです。もらった魔法の魔法式を見ましたが理解できない記述が多いです。転移後に姿勢を変えるのもそうでしたが魔法も奥が深いです。


「フィー、先に名付けてきてください。可愛がっていた馬は1頭だけですか?」

「5頭いるけど専属をそんなに増やしてもいいの?」

「勿論いいわよ。5頭に不満を持たせないようにして牛と一緒に遊ぶ方法を考えることができるのならね。慌てなくても1年後からでいいわ。牛は痩せすぎているので元気になるのが先なの。」


 フィーはお母さんに「できるよ!」と元気に言って馬が集まっている場所まで走りました。5頭は固まっていたようでフィーが念話で名付けてもいいのか確認しているのだと思います。


「お母さん、保護区域に行った馬は肉食動物を知っているのですか?」

「騎士団にいた馬ばかりよ。魔獣の討伐で見たことがあるわ。魔力のない肉食動物は知らないけれど、本能で分かるでしょう。本当に問題児が可愛く見えるわ。私は地下の研究所に行くので楽しんで。ディアが乗馬する馬を決めたら自由行動でいいと伝えてあげてね。」


 了承したことを伝えるとお母さんは研究所に転移しました。とても寂しそうな表情でした。普通に立っていただけで震えて頭を下げられたのです。支配欲のある人なら満足する光景なのかもしれませんが、お母さんは拒絶されたように感じるのでしょう。


 ですがリア最優先のリオリナはお母さんとも普通に話せていました。お母さんを無視するほどリアにしか興味がないのは問題ですが、それでも頭を下げられるよりは断然いいのでしょう。


≪転移≫

フィディーと仔馬の前に移動しました


 フィディーはとても驚いていますね。私が来た理由が分からないからでしょう。


≪念話≫


「フィディー、あなたは私とフィーを知っていますね。それは秘密にするべきことですか?」

「他の馬には秘密ですが話しても大丈夫だと思います。同じ名前で年齢の違う2人がここを管理していたのです。フィオナは私の元主ですので同一人物なのかもしれないと思いましたが違うようです。クローディアさんも別人ですね。」


 私たちの細胞を利用して実験し家族まで演じさせていたみたいですね。あの国は腐っていましたが腐敗は更に進んでいたようです。


「リアはどのように過ごしていましたか?その人たちが消えた原因を言えますか?」


 フィディーの話はとても酷い内容でした。フィオナはリアに母と呼ばせておきながらリオリナの背中で眠るのが当然の生活をさせています。動物を管理する立場でありながらそれを放置しているのは異常です。それなのに食事を作らせ頭に爆発する魔石を入れられたことを訴えたら、体を捨てて消えろですか…。

 洗脳だけが原因とは思えません。リアが私たちに嫌悪感を持っていないのは別人だと認識できているからでしょうが、リオリナの隣で眠ることを望んでいるのは家族に捨てられたときの恐怖が残っているのでしょう。リアはリオリナの隣で眠ることが当然だと思っているだけだと思いますけれど…。


「フィディーはフィオナのことをどのように思っていたのですか?」

「他の人は絶対に背中に乗せるつもりはありませんでした。フィオナがいればいいと思っていました。」


 過去形なのはフィオナの本性を見たからでしょう。ですが考え方はリオリナと同じです。何が2頭の大きな違いになっているのでしょうか。


「フィディーは事実をお母さんから聞くまで知らなかったでしょう。反抗しなかったのですか?」

「あの方を見た直後に頭を下げていました。あの方の言葉を遮ることは許されないと思いました。リアさんがあの方の説明を止めてくださり言いたいことがあれば言えばいいと説明を代わりました。そしてアンジェさんが私に時間を与えてくれました。私に生き方が見つかるまでは誰も主にならないようにしてくれているのです。」


 お母さんの説明を聞いて震えているフィディーを見兼ねてリアが止めたのですね。お母さんに悪気はなくフィディーも恐怖で震えていたわけではないので分からなかったのでしょう。

 フィオナだけを背中に乗せると決めていたフィディーの記憶は消さずに説明してあげるお母さんは善意の行動でしょうし、お母さんの話を止めるリアも優しいですね。


 リアとフィオナの差は歴然としているのですがリオリナとフィディーの差が分かりません。


「フィオナと一緒に過ごしていたときにフィオナが突然死んだらどうしたと思いますか?」

「生涯誰も乗せることなく死んだと思います。」


 普通に考えれば強い好意を抱いていたと分かりますがリオリナのリアに対する好意が強すぎるのでしょう。その好意の差になったのが主の差なのか馬の差なのかは分かりません。


 これ以上過去に踏み込むのは野暮でしょう。これから家族で楽しく過ごすためには知っておいた方がいいと考えただけなのですから。

 仔馬も待っているのが辛そうですからね。


「お話してくださりありがとうございます。妹には内緒にしておいてくださいね。それでは楽しんでください。アンジェは少し鈍いところがありますが優しい子です。リアならフィディーに念話を入れたでしょうがアンジェはそういうことが苦手なのです。」

「確かにリアさんなら一言だけでも伝えてくれる気がします。厩舎で暮らす馬の憧れでしたからね。皆がリオリナを羨ましがっていたのです。リアさんはリオリナを家族だと思っているはずです。あそこまでされたら独占したくなる気持ちも分かります。」


 主の差ですね。フィディーもリアに憧れていたように聞こえました。

 そしてアンジェに注意しておきましょう。


「ありがとうございました。それでは行きますね。」


≪念話終了≫


≪転移≫

佇んでいる馬の前に移動しました


 感情把握と思考把握を切っている私も鈍いようです。リアがどのように接していたのかを聞くのは駄目だと思いました。命と触れ合うのですから私も自分が思う家族のように接してみたいと思います。


 私が来てから緊張しているのが伝わってきます。お母さんの長女という肩書を重く感じているのでしょう。私と目が合う馬がいたら決定したのですが残念ながら逸らされてしまいます。こういうときに魔法を頼りたくなるのが駄目ですね。


 どれほど私の感性は衰えているのでしょう…。

 馬は私の考えが分からないのですから同じ立場にならなければ良い関係は築けません。


「ディア姉、悩んでいるの?」

「その通りです。私と目を合わせてくれませんのでどのように選ぼうか考えています。」


 後ろを振り返ると乗馬しているフィーの服が変わっていました。魔法使用者の体型測定する魔法式が記述されていたのですね。撥水効果のあるものを作るのは魔法式を見て分かりましたが余りにも高度です。あらかじめ魔法式に体型の数値を入れたとしても魔法で服を着替えるのは難しいです。


 それに複数の色を使った水玉模様の可愛い上着とズボンで上着の左胸にはポケットが付いていて名前まで刺繍されています。


「それなら右から2番目の青色の毛の馬にしてみるといいよ。牝だから安心でしょ?」

「フィーの経験で分かるのですか?何か理由があるのですか?」


 人間の男性は嫌いですが口に出したことはありません。フィーがそれに気づいていて考慮してくれていることに驚きました。馬の牡は嫌いではありませんが牝の方が楽しく乗馬できると思いますので…。

 元母親は気にしてもくれずお金になるとしか考えていませんでした。


「ディア姉は目を合わせようと視線を横に動かしたでしょ。だけど視線が通った後の馬の視線を気にしてないみたいだったからね。その馬がディア姉に最も興味があるのは間違いないよ。流石に相性までは分からないけどね。」

「私が見ていないときの視線は完全に盲点でした。ありがとうございます。ところで何故フィーは牝だと安心できると思ったのですか?」


 見られていたことにすら気づけないのですね。魔法で周囲を警戒し続けていた結果なのでしょうが今は必要ありません。自宅と敷地では劣った感性が少しでも成長するように努めましょう。


「ディア姉が視線を下げないようにしてるからだよ。平等に選ぶのなら試験することになる。専属になるかもしれないので好きな馬を選ぶのが一番だよ。馬も選ばれなかった理由が分かった方がいいと思う。」

「フィーは鋭くて賢いですね。この子に決めました。理由は一番私に興味を持ってくれたからです。他の馬は自由行動です。好きなように過ごしてください。」


 青色の毛の馬に近づいたとき私と同じ位置まで顔を下げてくれましたので額を撫でながら告げました。他の馬は自由行動ですので好きな場所に向かったのだと思います。


 試験して成績が優秀な馬を選ぶつもりはありませんでしたので平等はあり得ないですね。フィーは私がどの馬を選ぶのか見ていたのでしょう。視線の動きだけで私が男性嫌いだと気づいています。感性を磨けばどこまでのことが分かるようになるのか楽しみです。


「フィー、ありがとうございます。この子とゆっくり話してみます。」

「私の方が助けてもらう回数が多くなるので気にしなくていいよ。それじゃあ行くね。」


 フィーが合図したのでしょう。5頭が一斉に走り出しました。


≪念話≫


「乗馬しても構いませんか?」

「はい。勿論です。」


≪乗馬≫

馬の背中に移動しました


 下半身を馬の背中に貼り付かせて落馬しないようにしているのですね。馬が転んだら私も痛いでしょうが今の体なら平気なのかもしれません。


 そして服の模様がフィーと違います。白地に薄桃色の花びらが風で舞っているように見えます。これは桜の花びらでしょう。満開の桜の花びらが少し強い風で散ったときの光景を思い出します。

 この世界にも桜があると嬉しいですね。


 馬に声をかけようとしたときにズドンという音が三度聞こえてきました。


≪索敵≫

音の出どころには3人いるようです


「魔法で移動しますね。悪人ではないので大丈夫です。」

「はい。分かりました。」


≪転移≫

3人の近くに移動しました


「説教が必要なようですので一旦下りますね。」

「はい。お待ちしています。」


≪下馬≫

馬の左横に下りました


 服も元通りですね。本当に凄い魔法です。


≪念話終了≫


 あらあら、桜並木がここにあるではありませんか。


「アンジェ、あなたは私の好きな花を知っていますよね?奇遇にもあなたの腕が貫いていますけれど、不思議なことがあるものです。わざわざ敷地内で新しい体の力を試してみたのですか?今すぐ治すか私と模擬戦です。好きな方を選びなさい。リアの反応速度は素晴らしですね。治っていないのは1本だけです。」

「待って待って、すぐに治すから。模擬戦と言っておいて私のお腹を貫くつもりでしょ。」

「アンジェ、こういうときは黙って治してから謝罪が一番だと思うよ。姉さん、ごめんなさい。」

「ディア様、すみません。調子に乗ってしまいました。」


 素晴らしい連携ですね。リオリナが貫いた穴もリアが瞬時に塞ぎました。そしてアンジェがモタモタ言い訳しているので指摘したのでしょう。リアはフィーよりも鋭いのかもしれません。


「姉さん、最初から治すつもりだったよ。偶々下りた場所に偶々程よい大きさの桜の木があってリオリナと模擬戦する前に身体強化せずにどのくらいの力があるのか知る必要があったんだよ。」

「つまりアンジェが提案したという事ですね。リア、この木はここに元々ありましたか?」

「違う木だったはずだよ。同じ木が左右に並んでいる道は流石に気づくからね。」


 この世界にあったのかどうなのかは分かりませんがお母さんが植えてくれたのは間違いなさそうです。そしてリアは自分が提案していたら隠すような子ではありません。

 提案したのはアンジェですね。


「リア、提案したって言ってよ。最も被害が少ない方法なのに…。」

「アンジェ、姉さんに嘘を吐けると思っていることが間違っているよ。アンジェも素直に謝罪していれば最も被害が少なく済んだね。それと姉さん、その子をフィーに薦められたでしょ。育てた馬が姉さんを気に入っているので紹介したのだろうね。男性嫌いでその子が一番姉さんに興味を持っていると言われたら選んでしまうでしょ。姉に指名されたいと望む家族を後押しするなんてフィーらしいよ。言い訳してそうだけれどね。」


 なるほど。だから私が選ぶのを待っていたのですね。言い訳は相性までは分からないという言葉でしょう。大切な家族を私に紹介してくれたのですから嬉しいくらいです。あの場で正直に言ってしまうと他の馬からの嫉妬等があるかもしれないと考えて言葉を選んだのでしょう。


 リアとフィーは馬を家族と考えて接しているのですね。


「この件はお母さんに任せます。それとフィディーに連絡していないでしょ。リアの中にいたのにその程度の気遣いもできないのですか?フィディーは仔馬と遊ぶようにお母さんが言いましたがアンジェは連絡をしておくべきです。」

「リア様と比べられてはアンジェ様も酷でしょう。いつでも私と話せるように念話を繋ぎ続けてくれましたし、不審な牡馬に襲われたときも一瞬で助けに来てくれました。馬房の中も私の脚を庇うような形にしてくれましたし、一緒に歩く練習をするために川まで用意してくれました。練習で疲れた後も昼食を作る時間まで私の背中で仮眠していましたし、昼食後も一緒に歩く練習をしました。夜も私が寂しがらないように背中で眠ってくれました。」

「お母さんの説教とか本気なの?無言で微笑み続けているだけなんだよ。あの恐ろしい笑顔を見続けるよりも姉さんに貫かれた方が楽だね。さあ、死なないように貫いてよ。」

「リオリナは褒めすぎ。私が平等なんて興味ないと姉さんに気づかれたじゃない。それとアンジェはフィディーに連絡しないと。明日は会いに行くと言えば喜ぶと思うよ。」


 リオリナを驚くほど贔屓しているのに他の馬から不満が出ずに羨ましがられていたのは凄いです。恐らく仔馬や仔牛も遊べるようにしてリオリナのためだと分からないようにしていたのでしょう。

 それでもリアの姿を見ることでリオリナが愛されているのが分かるので羨ましいと思ってしまうのですね。

 フィディーもフィオナしか背に乗せたくないと思いつつリアとフィオナを比べていたのでしょう。


 大切な馬なのか大切な家族なのかが大きな差になったのですね。


 私もリアのように愛情深く接することができるように努力しなければなりません。お母さんに抱きしめられたときに初めて純粋な愛情を知りました。同じだけの愛情を感じてもらえるように頑張ります。家族以外を愛するつもりはありません。だからこの子を家族として愛してみようと思います。


「お母さんに貫かれなさい。私は今から乗馬を楽しみます。長女が次女のお腹を貫くところを見たら誰でも恐怖すると思いませんか?少しは考えて発言しなさい。それとフィディーに早く連絡しなさい。」

「アンジェ、姉さんの好きな花が咲く木だと知っていて貫いたら駄目だよ。私も同罪になると思うので諦めよう…。リオリナ、訓練するよ。間違いが起きないようにしないとね。それに特別なのだから皆が納得する姿を見せなければならない。私は防御するからリオリナは全力で攻撃して。手加減は許さないよ。」

「はい。リア様に恥を掻かせないように全力で攻撃します。」

「リアの前向きな姿勢は凄いね。説教の恐怖を知っているのに時間を無駄にしたくないので訓練するのでしょ。私もフィディーに連絡してから分身と訓練するよ。はぁ…。」


 リオリナが不意に攻撃してしまうと相手を殺してしまいますね。リアは防御する方法を見せて勉強させるつもりなのでしょう。リオリナが大切だから厳しく接することができる。


 信頼関係が築けていなければとてもできません。


 リオリナが特別扱いされたことは間違っていないと認めさせたいので誰よりも努力する。努力させるのではなく一緒に努力する。これがリアの愛情なのですね。


 この世界の愛情はとても素敵です。

お母さんに説教されたくないのでお腹を貫かれたら、そのことで説教されます。

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