第85話 愛
◇◇◇
念話中。
リアを封印した後に姉さんとフィーも封印した。
リアを封印する原因となった存在が許せない。姉さんと幸せに暮らすよりもリアを守る方が私には大切だから。太陽と別の世界とクリスは心底どうでもいい。
リアの怒りが急激に増した理由も仮想体を残した理由も知っている。私は存在を消されリアは記憶を消されるかもしれない。それでもリアは私が消えたことに気づくと思う。それが嬉しいけれど、悲しい…。
仮想体を太陽まで移動させ監視させている。
太陽への命令は全て世界に伝えた。
あとは最終確認を残すのみ…。
「今朝私たちが死んでいた条件を教えて。見ていたのだから余裕があったのでしょ?」
≪家族の名前、魔法名、太陽を口に出すことや思考したら頭に仕掛けられていた魔石が爆発しました。他にも家族の声を聞いてはいけない。魔法を使ってはいけない。襖を開けて外に出てはいけない等もありました。勿論魔石が爆発する前に止めることは余裕です。それと爆発の音で研究所も爆発するように仕掛けられていましたね≫
爆発しないようにして見ていたのとはまるで違う。娘を大切にする母親だとは思えない。
リアが爆発する条件を避け続け、敵が焦れて母親に助けを求めるように言った。絶望的な状況でも敵の望む念話を使わずに心で助けを求めた。他にできることはなく実在するのかも分からない母親に助けを求めて何もなければ死ぬつもりでいた…。
リアが何も起きなくてもいいと思った理由がよく分かる。
「目覚めた直後から爆発を避け続けたリアにどのような知識があれば防げたの?世界最強のクリスが仕掛けた罠を生まれて1週間のリアが努力して覚えることができる知識でだよ。どのような罠が仕掛けられているのか分からない状況だと理解しているよね?」
≪私の娘で助けを求めることができると知っているだけでよかったのです。リアは自分自身を知る努力が足りませんでした。偽の家族を助ける方法ばかり考えて自分を磨く努力も足りていません≫
リアは絶対に逃げていないよ。本当に辛かったね…。
余りにも酷すぎる。知っているので言えるだけでリアには知ることができない。
「分身として作られたと考えているリアがそれを知る術があるの?分身に親がいるなんて聞いたこともないし考えもしない。それに親がいるようなことを言ったのは敵なんだよ。リアが封印を望んだ理由も知っているのでしょ。母親が声をかけるだけで終わる話なのに娘の責任にするのは異常だよ。人の感情が理解できないみたいなので二度とリアに話しかけないで。」
≪私が名乗ればリアは殺されていました。ですがアンジェがリアに事実を教えていればそれだけでリアは自分の特異性に気づきました。それにアンジェの言葉を疑ったことがありません。あり得ない状態なのに受け入れて甘えました。それが駄目なのです。そしてあなたに私とリアを引き裂く権利はありません≫
娘の頭が爆発するかもしれないのに平然と見ていることができる母親が何を言っているのだろう。子のためにならない親がいることは身を以て知っている。本当にリアの母親だとしても封印を望む原因を作るような存在は必要ない。それにリアを守れなければ私がいる意味がない。二度目の人生はリアと共に生きていきたいから。
「私を消したいの?消す前にリアの新しい体を教えて。」
≪リアの害になると理解してくれましたね。遺伝子情報を書き換え遺伝子組み換えをすることで人になれるドラゴンをドラゴンになれない人に変えるのです。遺言があればリアに伝えてあげます≫
私が害ならあなたは厄災。存在するだけでリアを不幸にすると確信できた。それにリアと話していたときにはその方法を知らなかった気がする。ここでは人間の弱体化と管理に関する人体実験だけをしていたと思うから。それに実験結果をリアの体で示すことになる。
娘の命と体を軽視する母親は害悪だよ。
「人体実験を否定するようなことを言って実験結果を利用する。予想通りだけれど、不愉快だよ。遺言は私を消したらあなたも消える。核に貼り付けてある魔力を消すのではなくあなたが消える。余計なことをしても消える。豊富な知識で消えない選択肢を見つけてよ。さあ、いつでもどうぞ。」
≪嘘で生き延びようとするなんていじらしいところもあるのですね。謝罪して私に忠誠を誓うのであれば許します≫
私に忠誠を誓えと…。
命乞いもできないみたいだね。
「太陽にいる仮想体に終了と伝えて。」
≪分かりました。そのあとであなたの忠誠が本物か試します≫
安全が確認できたら私を消すか洗脳するつもりでいると思う。
私はこの存在を消したいと思っているけれど。
少し待つと仮想体が帰ってきた。私に「お疲れ様」と言って精神にある部屋に転移した。あの存在は気にしていなかったけれど、太陽にいた仮想体が私の本体。ほとんど違いはないけれど。
クリスと宇宙に行ったときにもリアの本体にある部屋に仮想体を残しているはずなのに何も覚えていない。クリスが太陽の力を利用して仮想体を消したのか洗脳されて戻ってきた私の本体が消したのかは分からない。どのような罠を仕掛けたのか記憶にないし高度な罠を作る知識もない。
それに短時間の洗脳で都合よく動かすことができるとは思えないけれど、太陽の力を利用すれば大体のことができてしまう気もする。どちらにろ太陽とクリスの洗脳や強制命令に抗えないので今の私が考えても答えは出せないのが悔しい。
本体が交代を要求してきたのでリアを激怒させた存在の処理について確認した。
とても満足できる内容だったので自身を解放した。
◆◆◆
先程まで話していた世界に目的を気づかれないように太陽で確認作業するとだけ思考し仮想体を作り体を任せた。太陽に移動してからクリスと実験関係者の記憶を消して灰にした。リアが心配していたけれど、拷問して長生きさせるつもりはない。心底どうでもいい相手だから。
更にクリスと実験関係者の記録を追跡してあらゆる痕跡を消した。
残したのは自宅のある世界の記録のみ。
そのあと世界の個性を消せるのか、この世界の核が入れ替えられていないのかを調べた。
太陽は世界の個性が核にあると知っていたけれど、他には何も知らなかった。個性は核の記録を太陽に翻訳させても分からず確認するために太陽と世界の核を魔力で繋ぐのは危険だと判断した。
そのため世界が核に記録できなくなる方法を調べた。核の中心を消すと記録できなくなると分かったので、消す世界の核を使い検証した。
星を消すときには魔力も残さないようにした。
太陽にも何も残さずに帰ってきた。
クリスは机に貼り付けた精神に入れ替える核の大きさを合わせる指示を出すことはできても、私たちに反撃される可能性を考えていない。太陽の中で実験関係者を拷問して遊んでいたのには呆れた。まとめて灰にしたけれど、お似合いな最期だと思う。
クリスの自己保身で家族の洗脳が解かれていたけれど、それで自分の責任ではなくなると考えるのは常識を疑わざる負えない
核を入れ替えた後にこの世界の核が消されていたら最悪だったけれど、生物のいない世界の核と入れ替えていた。つまり先程まで話していたのは記録を複写されていただけの核でリアの母親ではない。リアの母親は記録を全て消されていた。リアを殺すことができた後に消す予定だったのかもしれない。
リアの母親の核に先程まで話していた核の記録を複写して入れ替えた。リアを激怒させ封印を望ませた核の個性を許すことができないので星ごと消した。
私怨で星を消したけれど、後悔は全くない。
「声は聞こえるはずです。私もお母さんと呼んでいいですか?」
私は何を言っているの?
余りにも自然に確認してしまった。
≪勿論いいわ。母に畏まった口調で話す必要はないのよ。そして助けてくれてありがとう。クリスはリアを警戒して私とアンジェを消すことができなかったみたいね。疑問には何でも答えるわ≫
「言葉を崩すよ。リアをどうしたかったの?命についてどう思っているの?」
確認しているのに答えを聞く前に安心している。そして話してから聞く必要がなかったとさえ思っている。間違いなく洗脳されていないのにどうして…。
間違いなく洗脳されていない!?
≪多くの命から愛されてほしいと思っているわ。リアに計画を伝えておいたのは私が消されるかもしれないと感じたからよ。クリスが初めてこの世界に来てから記録したくない惨劇が続いた。私は残酷な実験で亡くなった子の魂を保護して新しい命に宿らないようにすることしかできなかった…。来世では愛される日々を過ごせる命に宿してあげたいの。魂とは新しい命に宿らせることができる仮想体のようなものよ。記憶を消して精神も綺麗にしてあるので私にしか分からない自己満足ね…。記録を消されたけれど、今でも魂を保護できていて本当によかった≫
お母さんの言葉を疑えない。洗脳されていないと確信までしている。
リアのお母さんは優しいはずだと思っていた。だけどそれだけでは私の状態が説明できない。世界を憎んでいるのにお母さんを信じてしまっている。
「私がお母さんを疑えないのは何故なの?」
おかしなことを聞いている自覚はある…。
疑っている相手にこのようなことを言えるはずがない。
≪世界と人間を憎んでいるので気になるのね。全てを知りたいの?リアと一緒に過ごすことになった理由を知りたいの?≫
「全てを知りたい。私がここにいるのはおかしいでしょ。」
ここにいる理由だけは不自然に思えたのが少し笑える。
故郷の世界は何も考えずに私を新しい命に宿すと思えた。
≪アンジェの自殺は世界の全てを否定したのだと思う。それに激怒した世界はアンジェの魂を捨てた。世界に捨てられた魂は太陽に集まり生命のいる世界に届けられるの。私の元に来たアンジェを幸せにしてあげたいと思ったわ。だけど当時の世界は発展しかけている最中で争いが絶えなかったの。世界が安定してからにしようと待っていたらクリスが来た。核に貼り付けられた精神を見てクリスが太陽にいると知ることができたので目立つ行動は避けた。なるべく自然に見えるようにクリスが再度来るときにリアを生み出した。リアは私の分身に近いのでアンジェの魂をそのまま入れたの。アンジェをリアに入れた理由は2つあるわ。1つ目は保護している子で最古参のアンジェは世界を憎んでいるのに私の中は居心地が良かったみたい。2つ目は実姉を救うことができるかもしれないと思った。疑問についてだけれど、世界で生まれた命は同じ世界の言葉を信じてしまう。アンジェの魂は私に染まっているわ。リアに最も近い存在で今は私が故郷になっているの。私はアンジェが姉でリアが妹だと思っているわ≫
念話終了。
◇◇◇
温かい雫が頬を伝った。襖が滲んで見えたときに泣いていると気づいた。
両親に裏切られた、姉さんが捕まった、自殺した、姉さんを救えたときにも泣いていない。今も泣いている理由が分からないのに涙が大粒になり溢れてくる。涙が止まる気がしない。下を向いて涙が止まるのを待つことにした。
涙が止まる前に温かな両手に頬を優しく挟まれて顔を上げさせられた。その人は涙をハンカチで拭いてくれている。初めて見るのに知っている女性。声を押し殺していたけれど、限界だった…。
お母さんは涙を拭くのを止めて私を軽く押した。私はその力に逆らわず仰向けに倒れるつもりだったけれど、途中でお母さんの腕が止めた。お母さんが布団で横になっていて私を引き寄せると抱きしめた。私もお母さんの背中に手を回した。この温もりを失いたくなかった…。
お母さんに抱きしめられて涙は自然と止まった。このまま眠りたいけれど、起きたらお母さんがいないかもしれないと思うと怖かった。
「お母さんは何で私の記憶を消さなかったの?」
「太陽から届けられた子はアンジェだけなの。だから私の我儘でアンジェがこの世界で生きたいと思うまで待つことにした。それには記憶が必要でしょ。だけどクリスが来て台無しよ…。そして100万年経つ頃には世界を憎むのは変わらないけれど、私の中は居心地が良いと思うようになっていたの。それで考えを変えた。リアの中に入って楽しめる世界を一緒に作ればいいとね。しかし懸念があった。アンジェがリアから出ないかもしれない。リアはアンジェとリオリナが最優先でアンジェはリアが最優先。それでも私が母親として自宅にいれば変わるでしょ。リアは余り変わらない気がするけれど、アンジェは確実に出てくれる。違ったかな?」
お母さんが私のために自宅に残ってくれるのが嬉しい反面、甘えん坊で恥ずかしい。だけど恥ずかしいから大丈夫とは言えない。絶対に言いたくない。
「リアから出るよ。決意した理由をリアに言わないでね。」
「姉としての面子があるものね。それでどのくらい楽しみたいの?」
1万年とは言えない…。
人体実験を肯定するような後ろめたさがある。
「できるだけ長い方がいいよ…。」
「娘が母に遠慮してどうするの。リアと一緒に宇宙一楽しい世界を作るのでしょ。飽きるまで楽しみなさい。体はリオリナの分も私が用意するわ。夫婦として誰かと生活したくなったら別の体を用意してあげる。亡くなったときには自宅に戻ってきてもいいし新しい命に宿ることにしてもいい。特別扱いするかわりに世界を管理してもらう。それでいいわね?」
お母さんの顔は涙でよく見えなかったし抱きついているので分からないけれど、声と雰囲気で30歳前後だと思う。恐らく好きな年齢で成長を止めることができる。そしてお母さんが世界なのだから不死と似たような存在になる。楽しい世界を作るためには世界を管理する必要があるのだから特別なことは何もしなくていい。このような話は疑うべきだけれど、何一つ気にならない。
「お母さんが蘇らせた種族を保護しながら世界を発展させていけばいいんだね。」
「その通り。あなた達に損はないけれど、遊びすぎたら説教よ。私の名前や皆の年齢は後で話し合うとしてアンジェは私の娘としての姿を選ぶのかフィオナの娘としての姿を選ぶのか決めて。」
考える必要もないよ。
「フィオナの娘は死んで今抱きついているお母さんの娘として生まれたの。リアと双子になってお母さんと三つ子になるのかな?」
「絶対にならないわ。アンジェは私以上の年齢にするつもりがないでしょ。それにリアはアンジェの姿を選ぶわ。リアは気づいていないけれど、アンジェに母を感じているの。姉のように思っているのでそのままにしておいて。2人は姉妹のように楽しんでほしいの。」
お母さんを知らないリアは私がお母さんのように感じるみたい。リアと私はお互いを家族のように思っているけれど、間違いではなかった。話した時間は1日にも満たないけれど、時間は関係ない。
そして私が以前の姿を望めばリアはお母さんの娘としての姿にする可能性があるけれど、私がお母さんの娘としての姿を望んでいるのでリアは気兼ねなく私の以前の姿を望むことができる。
あのときの話をリアが反故にするはずがない。これではどちらが姉か分からないよ。リアの性格を考えれば簡単に分かることなのに…。
お母さんに自然と抱きつける年齢にしたいと思っている。
もしかして…。
「お母さん、私は愛されたことがないの?」
「勿論あるわよ。私はアンジェと出会ってから愛しているの。クローディアとリアは姉妹として愛しているわ。だけどアンジェは母の愛がほしかったのよ。」
会えなくても母として愛してくれていると感じて嬉しくて涙が出たのだと思う。だけど会いに来てくれて限界だった。抱きしめられて感じている温もりを初めて知った気がする…。
過去を気にする必要はなかった。
私を愛してくれるお母さんに抱きしめられているのだから。
一度目の人生の記憶を持つからこそ母の愛を誰よりも強く求めていました。




