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世界は子を愛す  作者: 大介
第2章 命

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第78話 反抗期

 リオリナに起こしてもらい念のために回復魔法をかけてから料理部屋に転移した。部屋にいるのが姉さんだけという事はお母さんとミュリエル姉さんはリビングで話しているのだと思う。


 昨晩から始めた魔力操作の練習では姉さんの凄さを改めて思い知ることになった。魔力に分け目などなく重さもないので感覚で操作するしかない。魔力を薄く小さくしようとすると毎回違う厚みと大きさになってしまうので基礎であり極意だと強く実感した。そして私の魔力操作が酷いとよく分かった。

 練習は物凄く地味だけれど、魔法の実験や検証だけではなく思考にも利用できるので習得は必須。起きている時間に焦るよりも眠っているときに魔力操作の練習を集中して行うことが重要だと思う。

 できるようになっても反復練習し続ける。精神状態に関係なく同じことができなければ意味がないので状態を日替わりにして練習した方がいい。


 何もできていないのに先のことを考えているのは焦っている証拠だよ…。


 家族と一緒にいるときはその時間を大切にし、リオリナと一緒にいるときはその時間を大切にする。今の私にできることは少ないけれど、焦らない。


 私が朝食に作るのは卵料理が多いけれど、末っ子がいないので随分と量が減る。戻ってきたときには賑やかになりそう…。

 朝食を作り終えてリビングに行くとお母さんとミュリエル姉さんが談笑していた。


 いつもの席に座り食事を始めたとき、ふと昨晩の会話に違和感を覚えた。

 そして姉さんの記憶に疑問が湧く…。


「リオリナ、ごめん。会議が長引いて朝は行けないと思う。理由は乗馬中に説明するね。」

「分かりました。お待ちしております。」


 焦らず疑問を解消しよう。そのまえに実験が必要だね。


「姉さん、私とリオリナは世界に記録されてもいいので除外して。理由は言わなくても分かるでしょ。」

「クロア、除外してあげて。赤ちゃんの反抗期よ。」

「分かったよ…。除外したけれど、家から出て行くつもりなの?」


 姉さんは私の存在意義を知っているのに何を言っているのかな。

 とりあえず実験を始めよう。


「3人は黙って聞いていてね。この世界を消す。醜い世界は消した方がいい。止めたいのなら今すぐ私を消してみなさい、根暗で雑魚の世界さん。」


 3人とも唖然としている。


 お母さんも姉さん程ではないけれど、間違いなく洗脳されている。命を一番大切にしているお母さんが気づかないのはおかしい。


「世界なんて所詮この程度。この状況で世界が記録しない人を姉さんが決めるのは人質が誰なのか知りたいだけ。これで私とリオリナは世界に記録されない。実験だから世界に消されてもよかった。姉さんが私の精神と記憶を保管しているのでいつでも蘇ることができるからね。だけど世界に洗脳されているお母さんと姉さんは蘇らせてくれないかもしれない…。世界から生きている細胞を提供してもらうことに違和感がないのでしょ?体を作ってから記憶を入れるのが一番代償が少なく済むと思うけれど、死者を誰でも蘇らせることができる。命を大切にしているとは言えないね。」

「全く…、命で実験するなと叱ることもできないよ。細胞の提供に違和感を覚えなかった…。クロア、赤ちゃんの反抗期につきあうしかないよ。」

「赤ちゃんに説教される日が来るとは思わなかったよ。」


 命を大切にしていないことも問題だけれど、一番の問題は何も知らないこと。敵を星だと考えそれを潰すことだけしか考えていない。新しい情報を得ようとせず手元にある情報だけで終わりだと考えている。

 姉さんが洗脳されているので情報は得られないと思うけれど…。


「納得してくれたね。それなら初代クローディア、クローディアの実験を最初に考えた人、器を最初に考えた人、魔力器に精神を閉じ込めることを最初に考えた人、魔力拡散器を最初に考えた人、証を最初に考えた人、魔石人形を最初に考えた人、実験場を最初に計画した人、実験場の結界を最初に考えた人、この人たちの記憶を魔力にして別々の魔石に入れてほしい。体が新しくなる4人を関係者にすれば安全に記憶を用意することができると思うけれど、何も知らないままでいいの?」

「終わったことなので気にする必要はないよ。」

「目的も知らずに終わったと考えるのは早計よ。記憶を魔石に入れてもらうだけなら私たちの命だけでも十分な気がするけれど、4人を関係者にしておけば間違いが起きない。クロア、体を乗っ取られてから甘くなりすぎだよ。早く克服しないと取り返しがつかなくなる。」


 やはり昨晩から姉さんは洗脳された状態でお母さんも洗脳されていたけれど、今朝は元に戻っている。このことから世界は女王と関係者を洗脳できると考えられるけれど、それだけではない気がする。

 姉さんが情報を得ようとしないので何か隠されている可能性が高い。


 こういうときはお母さんを見習って最悪を想定する。


 実験は終わっておらずこの星が実験場だと考えると結界の外に出てからも何かが起きる。お母さんは記憶を消されて永遠に女王と関係者を続けることになると言っていたけれど、それに近い内容で酷いことが予想できる。永遠に実験が終わらないのかもしれない…。


「私の予想を話しておくね。この星が実験場だよ。女王を生み出し好きな世界を作らせる。女王が死ねば更地に戻して実験を再開する。実験場が発展せずに変わらないのは定期的に実験場に住む人を殲滅して記憶を消して蘇らせているから。それに実験内容を考えると偽ドラゴンを滅ぼしたのが姉さんだけなのも不自然だよ。実験最後のクローディアが偽ドラゴンを滅ぼす役なのかもね。まだ説教しないの?」

「赤ちゃんに煽られたのに何も言い返せないね。細胞の提供という事実があるので否定できない。クロア、確かめるのはやめなさい。相手は間違いなくそれを待っているよ。」

「赤ちゃんの予想でしょ。違うかもしれないじゃない。」


 私を赤ちゃんと呼んでいるので少しは洗脳に抗っているみたいだけれど、洗脳は続いている。そして自分が洗脳されている意味を理解していない。洗脳に最も強い姉さんが洗脳に気づけないのであれば誰も気づけない。実験で多少の誤差が生まれても洗脳で簡単に修正できる。死もなかったことにできる。


 クローディアの実験の管理人は世界の可能性が高い。


 それに雑草と水だけで6年間も生きていけるとは思えない。力を入れられていたので大丈夫なのか食事を胃に転移させる精神が体内に貼り付いていたのかもしれない。どちらにしても不愉快だよ…。


「実験場が発展しない理由、クローディアの実験が終わらない理由、結界で閉ざされた実験場だけに人と動物が生きている理由。予想でしかないけれど、世界にそれが可能なのは事実でしょ。実験を終わらせた姉さんが死んで1周だよ。今が何周目なのかは分からない。姉さんが洗脳されている時点で敵の手のひらの上だよ。それでも姉さんは諦めないので実験の最後を飾るにふさわしいと敵に思われている気がする。お母さん、初代クローディアが生まれた星はここではない可能性がある。この星に住んでいた生命を全て滅ぼして実験場にしたのかもしれない。世界がどのように細胞を提供するのか不明だから。私が何を言いたいのか分かるかな?」

「無理やり流れを変えようとしているの?危険なのは間違いないのだから少し抑えなさい。クロア、細胞の違いを確認せずに体を作り始めたでしょ。」

「そうだね…。自然に体が動いているように感じて違和感に気づけないよ。」


 私がここにいるのは偶然だと思う。姉さんとの関りが薄く分身が個性を持っただけの存在でお母さんを変えるためにここにいる。だからお母さんを守るためなら抑えるつもりはない。

 世界と敵対する発言を続けているのに私が消されないのは監視と記録をされていないからなのか影響なしと判断されているからなのかは分からない。どちらにしろ止まるつもりはない。


「私の予想だと姉さんの洗脳は自動化されているよ。そして細胞を得る手段も自動化されている。私は不自然な存在だよ。だから壊せるのは私だけ。姉さん、この世界以外で生きているクローディアの細胞とこの世界を支配する生物の細胞は手に入るかな?確認だけしてまだ動かないでね。」

「何か考えがあるみたいだね。赤ちゃんの言う通りに確認してみて。」

「少し待ってね…。できるみたい。赤ちゃんの予想通りだよ!」


 2つの細胞は恐らく同じだから慌てて体を作りに行く必要はない。それよりも姉さんの思い込みを壊すのが先。思考把握していないのは世界に記録させないためだと思うけれど、最強である姉さんを変えなければ敵が来る前に皆殺しにされる危険が残り続ける。


「姉さん、実験で気づいたことはある?」

「それは私の実験中という意味だよね。ここに皆がいるのは偶然じゃないという事?」


 やはり気づいていない。


「違うよ。実験を生き抜くために姉さんは予想と推測を続け敵を潰してきたけれど、敵が姉さんの予想と推測通りに動かされていたとは思わないの?姉さんの思考は誰も知ることができないと思い込ませるための罠なのかもしれない。敵を潰すと決めたとき姉さんの予想と推測は外れない。当たりすぎているよ。それなのに姉さんは洗脳されている。大枠は決められているけれど、細かな設定は姉さんが考える人形劇だね。」

「お母さん、無敵赤ちゃんの鼻をへし折ってよ!」

「無敵なので諦めなさい。それで危険だと考えている日はいつなの?」


 姉さんは弱体化されている。それなのに敵の目的は姉さんと戦うことだと考えられる。絶対に勝てる戦いしかしないのはクローディアしか思い浮かばない。実験初期の人だと思うけれど、歪みすぎている。もしくは壊れている。姉さんを殺しにいく理由すら忘れているのかもしれない。


「星を破壊するか脱出しないことを前提にすれば姉さんが敵と同じくらいの強さになるまでは安全だと思う。だけど洗脳され体と精神と魔力を弱体化されている姉さんでは勝ち目がない。そして世界が提供する細胞にも何か仕掛けられている可能性が高い。敵の作った機械で敵から手に入れた細胞で体を作るので絶対の安全はないよ。だから強くなるよりも細胞の仕掛けを見つけて消すのが先だと思う。仕掛けを見つけられるまで魔法技術を高めたら敵が襲ってくる可能性が高いけれど、それを確実に防ぐ術が思いつかない。それにお母さんとミュリエル姉さんも親を知らないので同じ仕掛けが細胞にあると思う。私がここにいるのは偶然かもしれないけれど、お母さんとミュリエル姉さんがいるのは必然だよ。ミュリエル姉さん、精神の色が見える?」

「私には見えません。」


 精神の色が見えるのは魔法に近いのだから見ようと思えば見えるのは明らかにおかしい。作られた体にどれだけの仕掛けがあるのか分からないままでは勝ち目がない。そして罠を全て消さなければ敵より強くなっても必勝にはできない。

 この星に貼り付けてある精神を消し敵を起こさずに消すのが最善だけれど、陽の光が当たる星を全て消さなければ終わりだと断言できない。だけど星を消せば起きる可能性が高く他の星でも同じ実験をしているのかもしれない。


 最悪を想定して考えると絶望的な状況…。

 だけど姉さんと同じように私も諦めない。


「4人も精神の色が見えない。私は精神と体が不一致でも精神の色が見える。つまりクローディアの精神は関係なく姉さんの記憶の有無だけが条件になっている可能性が高い。脳に特定の記憶があれば精神の色が見えるのは怪しすぎる。姉さん、精神の色が見える切っ掛けとなった記憶をミュリエル姉さんに入れてあげて。」

「ミュリエル、大丈夫?」

「はい。必要なことだと思いますのでお願いします。」


 間違いなく見える。3人が一緒に暮らしているのには意味があると思う。


「精神の色が見える?精神の色を見ようと思わなければ駄目だよ。」

「お母さんも精神の色が見えるのか確認してみて。自分の精神の色を確認するような細工をしているとは思えないからね。」

「私は見えました。頭が半透明になり光る球体が見えます。」

「私も見えたよ。赤ちゃんの予想が現実に変わったね。急成長が嬉しくて涙が出そう。操られていない自信はあるの?」


 昨晩は眠たかったので話を聞いているだけだった。今も頭を使いすぎているので眠たくなってきたけれど、まだ頑張れる。話し終えて生きていたら布団で昼食を作る時間まで眠ろう。一度くらいはお母さんの布団で寝てみたい。


 洗脳されている気がしないね!


「あるよ。私がいなければ4人が問題を起こすことはなかった。それに敵が姉さんの前に突然現れて絶望させる予定だったのかもしれないけれど、私のせいで台無し。姉さんは自分の細胞で作った体の女王クローディアとクロアの2人になってね。新しい体にしないと絶対に勝てないから。私の予想できることはお母さんと姉さんなら確実に予想できるので対策を考えてね。」

「それに関してはクロアに任せる。赤ちゃんの確認したいことはこれで終わり?」


 世界に条件を伝える女王を全員洗脳できるのだから無意味。予め決められたものだけを守ればいい。記録係がいたのかも分からない。それに何周もしていれば…。


「大きな勘違いをしていたことに気づいたよ。姉さんが最後を飾る必要はなく姉さんだけを生み出せばいい。実験場と全く同じ環境でお母さんが一定の年齢まで育つのを待つ。姉さんが殺され実験場を復元した後にお母さんは他の星からこの星に転送される。この星は姉さんとミュリエル姉さんが拷問される星でお母さんが拷問される星は別にある可能性が高い。だから100年前後で敵が来る。最悪の場合は複数の星の複数の島で同時にお母さんを拷問して封印しておくことだけれど、それよりも敵は姉さんの拷問を優先すると思う。反抗期のアグリは激怒だよ!」

「赤ちゃんは焦らずに前に進むのでしょ。どうしてそのように考えたの?理由を聞かせて。」

「お母さん、赤ちゃんの話を聞き流すのが苦しくなってきた。」


 目の前のお母さんが一番大切だけれど、拷問されていると思うと救いに行けない自分に腹が立つ。絶対に強くなって必ず後悔させる。


「女王が生まれる度に洗脳して条件を言わせるのが面倒だと思ったからだよ。姉さんは全ての条件を確認したの?どれだけの数の条件があったの?どうして条件があると分かったの?先に条件に気づいた女王が徹底的に条件を追加すれば絶対に勝てない殺し合い。実験を生き抜いて女王になったクローディアが弱すぎるでしょ。それに記録係がいたのかも分からないし怒って条件を破棄した世界が条件をまた作るのは頭が悪すぎる。これも違和感と言えるね。そして私を説教したお母さんと姉さんはいつでも洗脳されるからね。姉さんは全ての条件を確認したつもりでいるけれど、何も覚えていない。他のクローディアが弱すぎると思うのは姉さんが強すぎるからかな?私でも身の安全を考えれば女王が張った結界には誰も入れないと条件に追加する。クローディアは全員馬鹿という結論でいいよね?」

「赤ちゃん、反抗期なのは分かるけれど、クロアで怒りを発散するのはやめてあげて。クロアも偶には反撃しなさい。」

「無敵赤ちゃんの鼻をへし折りたいのに何も言い返せない。まだ言いたいのでしょ?」


 結果で示されて納得してしまった。それは都合よすぎると思えなかった。姉さんは全てを把握していると思っていたので確認しようと思わなかった。

 お母さんを守るためにはそれでは駄目だよ。反省しなければならない。


「そうだね。最後の条件を今入れておく必要はなかったよ。そして世界に条件を伝える姉さんが洗脳されているので今の条件が何か分からない。恐らく条件を追加や変更はできなくされているよ。条件を確認するだけで姉さん以外は死ぬかもしれない。更に保管してある精神と記憶を破棄する可能性まである。姉さんの声を保存しておいて記憶だけ消せばいい。3人とも人間不信で動物好きになるようにしているのも腹が立つ。完全に遊ばれているよ。」

「赤ちゃんに隙がないね。もう卒業してしまったの?」

「これで終わりかな?」


 姉さんはまだ洗脳されているのかな…。

 細胞を確認することで敵の正体がある程度は掴めるよ。


「ここからが本番だよ。お母さんとミュリエル姉さんの細胞がこの世界以外にあるのか確認してみて。あれば新しく体を作り直して。それと世界の細胞があるのか確認してみて。あればこの世界以外で生きているクローディアの細胞とこの世界を支配する生物の細胞の3つに違いがあるのか確認して。そして世界の細胞で体を作り直して。ドラゴンの精神を換えるのも忘れないでね。」

「酷い解釈をさせているね…。全員の体を作り直すよ。お母さん、確認を手伝って。」

「ようやく研究所に行くのね。」


 姉さんの転移で2人は研究所に移動した。


 世界が提供する細胞は1つの星に集めているはずなので同じ可能性が高い。貼り付ける精神に自由を与えすぎると裏切る可能性があるので決められたことだけをしている。断言はできない…。

 幼いお母さんがどの星で拷問されているのかが分からない。この星の精神を解析できれば細胞をどの星から持ち出しているのかは分かるけれど、そこにお母さんが拷問されているお城があるとは限らない。


「リアは凄いですね。2人が赤ちゃんと呼ぶ理由は分かりますか?」

「誰の発言なのか世界に記録させないためだよ。そういう建前を用意しておいて本当は悔しいだけ。2人とも洗脳されて都合のいいように利用されているからね。」


 姉さんは洗脳されたことを絶対に許さない。これまで洗脳されてきて漸く自由になれたと思ったのに全て洗脳で生み出された結果だと考えることもできてしまう。


「なるほど。それでは酷い解釈とは何でしょう?」

「敵は自分自身を世界とし貼り付けた精神を世界の一部と設定しているみたい。姉さんが勝てないのだから何かしていると思ったけれど、殺しに来ておいて害意を向けたり直接攻撃すれば星から攻撃される。敵が勝てないと思えば自爆させられる。苦しむ姉さんを見て楽しみたいだけなのかもしれない。」


 どのような理由があるにせよ実験された恨みは責任者と研究者だけにぶつければいい。

 姉さんを苦しめる理由はない。


「私が家族のためにできることはありますか?」

「マリベルと一緒に動物と遊ぶことだと思う。やりたいことが見つかればそれでもいいと思う。戦いに参加するためには今の姉さん以上の力が必須だよ。それよりもマリベルに戦いなんて起きないと思わせてあげないと可哀想だから。」


 私が4人を気にする必要はない。


「よく分かりました。姉さんが負けたら全員死にますがリアは関係なく戦いに参加しそうですね。」

「私がここにいるのは記憶を消したお母さんとの約束だからね。お母さんより先に死ぬことは絶対にないよ。逆縁は凄く親不孝だと思うけれど、私は元分身だから。お母さんと一緒に結界内を守るために働いて個性ができた分身のアグリ。そのときはクリスの精神が体を乗っ取っていたから私は姉さんとの関係が薄い。これだけ悪辣な罠を仕掛けているのは姉さんに必勝するためなのかもしれないけれど、異物の私を排除できるのか楽しみだね。」


 私が強くなる理由はお母さんとリオリナを守るため。焦らず真剣に努力し続ける。100年前後ではなく50年前後としておいた方がいい。敵が予想通りに動いてくれるのはあり得ない。

 姉さんに任せきりにするつもりもない。敵を一瞬だけ油断させることができれば姉さんなら勝てる。最低でもそれだけの強さにならなければならない。全てを守るなんて自惚れるつもりはない。


「異物ではなくお母さんの娘ですよ。それにリアのお陰で死ぬ確率が下がりました。昨晩リオリナの元に言ってから考えていたのですか?」

「昨晩は色々あって眠たかったけれど、今朝は食事中にふと細胞の提供に違和感を覚えたの。自分を使って世界に監視されていないのか確認してみて私の声は聞いていないと想定して話したよ。話していると疑問が増えていくので止まらなかった。赤ん坊に夜更かしは無理だからね。」


 貼り付けられている精神と敵対して消されなければ話すことにした。細かいことまで気にしていたら何もできない。姉さん以外は消される可能性があったけれど、死を待つことはできない。

 私の努力だけで勝てる相手とは思えないので姉さんの力が必須。そして姉さんも最悪を想定するので100年前後の時間があるとは考えない。


「あれは酷すぎましたね。4人は心の底から反省しリアに謝罪することになりました。痛みと出血の伴う説教は言葉で反省しなかった場合です。」

「説教も必要ないよ。自主的に謝罪してきた子を説教する方がいいかな。」


 お母さんと姉さんに説教されたら謝罪するに決まっている。だけど4人を普通の3歳児だとは思っていないので幼いから許すという事はない。


「分かりました。私から伝えておきますね。洗脳と言葉は分けて考えるべきだと思いますので。」

「よろしくね。謝罪したので仲良くしろと言われたら困るよ。」


 お母さんと姉さんが転移で戻ってきた。


「3つの細胞は同じだった?それとも2つだけ同じだった?」

「3つとも同じだったよ。そして動物の細胞も多く提供してもらった。ところで2人は何故暗いの?」


 細胞の提供を気づかれ難くしたんだね。

 ミュリエル姉さんと私は暗い表情をしていないと思うけれど、お母さんにはお見通しみたい。会話の内容も予想できている気がする。


「姉さん、体を交換するのが遅くなるけれど、クロア姉さんに力を入れるのを任せてね。体を作る機械と実験場の結界と水竜と呼ばれる機械の確認もクロア姉さんに任せてね。それとお母さんの質問はミュリエル姉さんに任せているよ。」

「その方が安全ではあるね。クロアは3歳にして余分な記憶は消しておくよ。あとから自分で体を作ればいい。動物の世話と料理以外はクロアに任せるよ。」

「ミュリエル、理由を聞かせて。」

「分かりました。4人を説教する必要はありません。自主的に反省して謝罪した子を説教するのが一番だという事になりました。私もその考えは正しいと思います。お母さんと姉さんに説教されたので謝られたとしても許せません。自主的に謝られたとしても許せるのか分かりません。洗脳により感情は影響を受けていたと思いますが選んだ言葉は自分の意思です。リアが4人の敵を見逃してあげただけです。姉さんを敵だと考えたのであれば別ですけれど、違いますよね?」


 ミュリエル姉さんが厳しいことを言ったのを初めて聞いた。私の考えと何も変わらない。過酷な環境を生き抜くためには敵と味方を曖昧にすることなどできないのだと思う。


「なるほどね。それで本気で脅迫したクロアはどのように思われたの?」

「私に対しては何も思わなかったよ。全てリアの責任にしていた。リアは何故4人を見逃したの?」

「お母さんと約束したからだよ。そして皆にとっては家族でしょ。新しく家族になるマリベルは別だけれど、私が話しかけると5人で仲良く遊べないかもしれないので離れているよ。それに私は敵を許す方法を知らないので何をされても無理だよ。自主的に謝罪されても私が許す理由にはならない。その子のために説教すればいいと思っただけ。取り返しのつかない言葉もあるとね。」


 お母さんと姉さんは間違いなく敵を許したことがない。ミュリエル姉さんも敵とは一切関わらないはず。だから誰も私に許せとは言えない。その言葉を私に言えば何を言い返されるのかが分かるから。


「リアの気持ちは分かったよ。クロア、4人が私の思いを否定したのは事実だね。リアを家族と思っていない。記憶を消す前の私がこの状況を知ったらどのように行動したのか教えて。」

「お母さんの娘はリアとミュリエルと私で4人は私の娘にして話すことはないと思う。お母さんの意思でリアを家族にしているのでリアが娘なのは絶対に譲らない。リアを家族に誘うときの記憶をお母さんが見たらよく分かると思う。」

「記憶を見てお母さんが判断する流れになっているよね?私はただの元分身だよ。誰とも比べる必要はないからね。私は反抗期のアグリだよ!」


 私を妹に誘うときにお母さんが何を考えていたのかは分からない。だけど姉さんの記憶ではそれが全て分かってしまう気がする。そしてお母さんと話せないと知ったアディとローアは確実に私を憎む。だから姉さんの予想通りになるのは避けたい…。


「リアを家族に誘うときの記憶がないのはやはり駄目だね。クロア、記憶を入れて。」

「分かったよ。お母さんは知るべきだと思う。リアを見る目が間違いなく変わるから。」


 このあとの展開が全く分からない。だけど許さない私が悪いとは思わない。お母さんの娘であることを誰にも否定されたくない。


「リアが妹になった理由を分かったつもりになっていた私が馬鹿だとよく分かった。リアが否定しないので当たっていると思っていたけれど、記憶を見た後だと昨晩リアが侮辱されているのを黙って観察していることはできなかった。リアにとって家族は私だけでいいのね。4人を許せない理由は私の娘であることを否定されたから。だけど全て私の我儘。私を変えるためという言葉の重みと覚悟が全く違う。命懸けで私を変えるつもりなのに日常会話のように話すので気づけなかったよ。リア、全員死ぬことになっても私より後に死になさい。クロア、私に何を決めてほしいの?」


 我儘と言いながら私に目的を変えろと言わないのは私の存在意義を否定しないため。そして私が目的を変えることはないと分かっているのだと思う。

 逆縁については守るしかない。絶対に助からないと思ったらお母さんと一緒に死ぬ。リオリナも一緒。フィディーについては聞かないと分からないけれど、お母さんがいない世界に興味はないと思う。


「4人は悩みの種にしかならないよ。どうするの?」

「今の記憶を残したままではマリベルも弾くからね。だからアディとローアは封印解除直後まで記憶を消して私の細胞で体を作り直し私が事実を教える。ディアとロディは個性が残るところまで記憶を消してクロアが事実を教える。それか4人をクローディアとクロアで監視する。これ以上の温情はないよ。敵は殺せるときに殺すべきなのだから。」


 マリベルまで認めないとすれば私のことを体のない存在だと見下していたことになる。それは姉さんを否定することでもあるし自分たちのことも否定している。

 そして私に敵として殺すと言えたのはお母さんと姉さんが助けてくれる前提だった可能性が高い。だけど2人がそのような甘い考えを許すはずがないしミュリエル姉さんも同じだと思う。

 記憶を消すのであれば何もなかったことにするべきだね。お母さんが育てるのであれば同じような子になると思うけれど、姿も似ているので私に対して同じように接するとは思えない。


「記憶を消すことにするね。ロディには特に厳しく言うよ。」

「決定だね。朝食の後片付けしてから昼食まで自由行動だよ。」

「分かりました。」


 もう疲れているのに最悪の予想が思い浮かんだ。姉さんを恨む存在に心当たりがある…。


「私の予想で振り回してごめんなさい…。姉さんを拷問するのが目的だと考えると敵の正体が見えてきたよ。それは姉さん…。実験初期は強い精神を見つけるのが目的だった可能性が高い。その精神は実験で生み出されてから一度も壊れることがなく実験終了まで生き抜いた。頭の中で鍛錬して星の生命体を全て封印し研究資料を読み自分が生み出された実験は森で魔獣の餌になり続けるという内容を知り同じ実験をしてみた。だけど常に自分が生み出されることが許せなくて実験中期までの内容を混ぜてみた。それでも生き残る。それが今に繋がっているのだと思う。実験中期から後期の内容を知らないので戦えば勝てない。お母さんと姉さんは大問題に気づいていないよ…。」

「無敵赤ちゃん、絶対に当たっているよ…。」

「謝ることではないよ。言いたいことを全て吐き出しなさい。壁に穴を空けたら駄目だよ。」


 姉さんは感じていたのかもしれない。

 これだけ理不尽な状況を生み出すことができるのは自分だと。


「小さなことは別にいいと思ったけれど、壁に穴を空けたら駄目なので話すね。竜王一家は人形ではないよ。人形には汚れがない。それよりも竜王妃の魔法を洗脳して自然の魔力で回復魔法を使わせればいい。そして竜王がニョロを呼んだときも自動化できる。精神の奥にいる人形の念話を繋いだままにしておけば人形が転移を使うだけ。全ての人形が同じとは限らないからね。それに姉さんの食事が水と雑草だけでは6年間も生きられない。それなのに痩せこけたこともないので胃に食事を転移させる精神が貼り付けてあったのかもしれない。あとはディアとロディが体を得たら生きるのを怖がったのが不可解。体がその考えを否定するはずだから。分身の嫌がらせで感情を固定されていたのかもしれない。背中の能力と話すことや精神の奥にいる人形と話すのに精神の色は関係ないよ。器が能力を洗脳するかしないかの違いで十分。人形と話せるのは念話が繋がっているのかどうかだよ。精神の色に根拠が何もない。見ようと思えば見えることを疑うべきだと思う。ここまでは気にしなくてもいいからね。」

「私とクロアを壁に埋めたいのね。その気持ちが痛いほど伝わってきたよ。」

「突き進んだ結果だね。お母さんと私は壁に埋まったのにまだあるんだね。」


 次は動物小屋に突っ込むのかな…。


「それでは大問題を話すね。お母さんは削られた命の年数が分かるの?姉さんの削られた命の年数まで言っていたよね。そして2人とも寿命を残り1年まで削ったのに老化していないのは何故なの?貼り付けられた精神が寿命を数値化して削ることができるのなら勝ち目がない。実験後期は寿命の数値化だったのかもしれないけれど、これに違和感を覚えないのは駄目だと思う。」

「頭が麻痺しているね。本気で駄目だよ。私は分かった気がしただけ。今は分からないよ。」

「努力で身につけられるものではないね。一線を越えているし知るべきではない。それなのに頼ること自体が間違っていると思えなかった。違和感も覚えなかった。私を起こさずに終わらせることはできない。赤ちゃんには終わらせる方法がある?」


 お母さんは洗脳された状態で言わされたと感じている。そして姉さんだからこそ自分を相手にした場合が想定できるのだと思う。


「皆が許すのであれば交渉して仲良くなる。このようなことをする理由も分かる。最低でも1万年以上は実験を耐え抜いているよ。クズ能力に記憶があったのだからこれは間違いない。それだけの期間拷問を続けられたことでゆっくり過ごしたいと思ったはず。だけど恐怖があって死ぬことができない。誰かが同じような実験をしたらまた自分になると分かってしまったから。関係者を同じ条件で拷問したら全員の精神が自分と同じになった。誰をどこで拷問しても自己回復と回復する人がいれば同じ精神になる。だから自分と同じ精神が実験対象にならない方法を探しているのだと思う。それは難しいことではないはずなのに自由度の高い精神を2つの星に貼り付けてしまったせいで強く影響を受けている気がする。姉さんに隙はないので星に貼り付けた精神と全ての体が蜘蛛の巣のように繋がっているはず。そのため拷問を見たい精神が主に気づかせないようにしている可能性が高い。」

「赤ちゃんが超能力に目覚めたよ!」

「お母さん、赤ちゃんの話はあり得るよ。私は同じ方法で仕返しする。それなのに全員自分と同じになるのは恐怖だよ。どこかの星で生命が誕生して同じことをする馬鹿がいた場合は自分と同じ精神が犠牲になる。実験の関係者全員が駄目でクローディアで試すしかなかった。精神が換わる回数が圧倒的に多い。お母さんとミュリエルが過酷な日々を過ごす理由も必ずある。交渉する?」


 戦えば勝ち目はない。相手も被害者の可能性が高い。長く人生を楽しみたいのであれば交渉するべきだけれど、お母さんとミュリエル姉さんの答え次第だね。


「交渉でいいわよ。一番の被害者と被害者が殺し合うのは馬鹿げているからね。」

「私も交渉で構いません。相手に怒りはありませんので。」


 相手次第だけれど、話しかけたら瞬殺される可能性もあるので死んだらごめんなさい。だけど交渉するなら私が一番適任だと思うから許してほしい。お母さんを守るのは私の役目だから。

疑問が膨らみ右往左往しましたが止まった場所は…。

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