表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は子を愛す  作者: 大介
第2章 命

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

67/136

第67話 三女

「姉さん、それでは脱衣所に行こう。」

「クロア、オフィーリア、待って。オフィーリアの愛称をリアにしよう。それでリア、とても重要で大変な作業をクロアに頼まれているでしょ。」


 愛称を決めた後でその流れはおかしい。


 私の動きに不審な点があったのかもしれない。クロア姉さんに料理部屋へ入れるようにしてもらった後に3人で部屋の中を見た。そして脱衣所に向かう途中のリビングテーブルの前で止められた。思考に私を疑う言葉はなかったので直感だと思うけれど…。


 姉さんに嘘を吐きたくないので正直に話そう。


「爆弾処理してからクリスとミュリエルに何が起きたのか説明するまでを頼まれているよ。」


 姉さんに少し怒りが湧いた。クロア姉さんが私に頼んだことを怒っている。それは何故なのかとても理由が気になる。私が信用されていないわけではないと思うけれど…。


「クロア、リアは生まれて間もないの。記憶があれば大丈夫だと思わないで。リアには経験が足りない。恐らく別人格の記憶でクロアの危機感が鈍っているよ。爆弾処理は結界内を全て封印してから始めた方がいい。過去に一度しているので同じことをしたら爆発するか敵が蘇る。クロアとリアはどのように考えているの?」


 先程の光景を見た直後で私にはとても言えない。これが長女として家族と平等に接すると決めている姉さんの姿勢。光り輝くクロア姉さんに怯むこともなく抱きしめて体を冷やしていた。誰にでもできることではない。姉さん以外には知らない。


「姉さんが気づいたことに驚いているよ。確かにリアの責任にするべきではないね。考えていることを教えて。見落としがあれば私とリアが甘いという事でいい?」

「それでいいよ。今すぐクロアはリアからもらった魔法を確認して何も言わないで。そして私たちを除く結界内を全て封印して。」


 記憶だけで正しく行動できるのか確認するという事だね。失敗すれば家族が死ぬのだから姉さんが妥協するはずがない。クロア姉さんにだけ魔法を確認させているのにも必ず意味がある。姉さんは意味がないことをほとんどしないから。


 クロア姉さんが私たちを除く結界内を全て封印した。


「それでは今から言うよ。敵を殲滅したと考えているのが甘い。リアの精神に別人格が入っていたとき、リアの中に精神が2つ以上あるとき、リアの魔法に精神が貼り付けてあるとき、世界が消してくれていると思う?リアはクロアに魔法を渡すときに内容を確認した?クロアも私に言われるまで確認していなかった。リアも同様でしょ。そして今なら何でも魔石に変えられるので極小にしてどこにでも隠せる。だから無敵紙を消去。人と動物の体内以外の精神を消去。魔石保管庫を魔石ごと消して結界内の魔石を消去。武器庫と結界内のアダマンタイトを消去。人の体内以外の魔力器を消去。必要なものは全て作り直した方がいい。畑もだよ。ここからの作業が大変だけれど…。どうなのかな?」

「姉さん、何故魔石が作れると思ったの?」


 確かにクロア姉さんは姉さんに言われてから魔法を確認している。そして私は何も確認していない。それに姉さんが想定している敵の仕掛けや仕込みが悪質すぎる。姉さんの感性が疑っているのだから当たっていると思う。感性なのかな…。


 魔石が作れるといつ気づいたの?


「料理部屋が異常に感じたからだよ。鍋が熱で加工したものには見えなかったからね。金属を自在にできるのであれば硬貨も怪しい。白金貨や金貨の中を魔石に変えられる。そしてクロアの精神に別人格は絶対に入っていないの?クロアの精神に別人格が入っていると知ることができた敵は間違いなく自分の精神を入れる方法を見つけて実行している。敵が考える一番安全な場所は私たちの精神の中だよ。綺麗な精神を得るためにクロアの細胞で精神のある赤子を生み出すとか言わないでね。そのように軽々しく命を扱うべきではない。それにクロアがディアと同じことをしたので封印中に敵が好き勝手に動けた。リアが鉄壁だと言えるのであれば別だけれど…。それで今の魔法技術は無敵紙と魔石やアダマンタイトが交互に入っていても一度で消せる?魔力器も同様に消せる?」

「姉さん、無敵紙を消す魔法は無敵紙を通過するから全ての無敵紙を消去できるよ。そして魔石の中は全て魔石に変えてから、アダマンタイトの中は全てアダマンタイトに変えてから消去する。魔力器は中身ごと消去できるので大丈夫だよ。」


 班長が私より強いこともそうだけれど、分身を姉さんの味方だと考えていた。そのため私を気にせず好勝手に動けた。誰も警戒していない無防備な状態だった…。

 そして封印中のクロア姉さんに別人格を再度仕込む可能性がある。これが約半年間の記憶を消して料理部屋を見た長女の言葉。妹の不甲斐なさが際立つ…。


 やはり家族の危機を解決する能力は姉さんが一番高い。


「後先何も考えず感情だけで行動してしまった。間違いなくディアと一緒だね…。家族全滅の危機がまだ残っている。リア、クリスの魔石を魔法から保護するために預かるよ。」


 頭を右に傾けてコンコンと左側頭部を軽く叩くと小指の爪と同程度の大きさの魔石が右耳の穴から出てきた。これは縮小化して耳の中に隠しておいたクリスの魔石で元の大きさに戻してからクロア姉さんに手渡した。


「クロア姉さん、これがクリスの魔石だよ。姉さん、私より魔法技術の高い班長が何かしていたら私では止められない。それに味方だと思っていたので監視もしていない…。」


 クロア姉さんが私からクリスの魔石を受け取ると魔石を見ている。仕掛けがないのか確認しているのだと思う。そして一瞬で魔石が消えた。どこにあるのか分からない…。


「それでは始めるね。無敵紙を消去。人と動物の体内以外の精神を消去。魔石とアダマンタイトと人の体内以外の魔力器を消去。魔石保管庫と武器庫を撤去する。畑は後回しだね。」


 落ち着かなければならない。冷静に対処しなければならない。

 それなのに少しずつ闇に飲み込まれていくような気持ちになっている。


「次は精神の数を確認して魔法を全て消して強制命令が付与されていたら解除して。空の入れ物も消すのを忘れたら駄目だよ。クロアは動物を確認してきて。リアは布団部屋ね。」

「すぐに見てくるよ。」

「見てくるね。」


 私の方に分かりやすい作業を割り振ってくれたのだと思う。

 クロア姉さんは転移を使わずに動物小屋に向かって走っていった。


 とりあえず姉さんの魔法を入れ物ごと全て消す。姉さんに精神は1つしかない。

 そして布団部屋に入り掛け布団をめくっていく。皆の魔法を入れ物ごと全て消すことはできたけれど、精神が2つある。強制命令は付与されていないけれど、独断で動くべきではないと判断してリビングに戻る。


「姉さん、姉さんとクロア姉さん以外には精神が2つあるよ。私についてはクロア姉さんに聞かないと分からない。皆の魔法と入れ物は全て消してきたけれど、強制命令は付与されていなかった。だけど封印されていた2人に精神が1つしかないのがとても怪しく思う。精神の中に敵の人格が入っている気がする。」

「精神に濁りや歪みはないの?」


 姉さんは私がクロア姉さんと同じことができると考えている。似たことはできるけれど、クロア姉さんには遠く及ばない。これが自分で手にした力ともらった力の差だと思う。


 今の私ではクロア姉さんの力を使いこなせていない。

 使いこなすための努力もしていないのだから…。


「そこまでの確認は今のところクロア姉さんにしかできないよ。私では精神の数と曖昧に色が見えるだけだから…。」

「精神に番号はないの?そして魔力器の精神を入れ換えることはできる?」


 精神に番号はないけれど、魔力器の精神を入れ換えることはできる。

 先程から姉さんの言葉に驚かされてばかりいる。姉さんにはロディの封印を解いた日よりも過去の記憶しかない。それなのに魔力器の精神を入れ換えられている可能性を考えているのだから。


「番号はないけれど、魔力器の精神を入れ換えることはできるよ。」

「それなら仮想体で体内に入って強制命令で魔力器の精神から名前を聞いて。魔力器以外の名前を答えたら偽物だからどちらの精神を残したいのか聞いて両方とも消す。魔力器と答えた場合は保留する。そして私たちを見るときも封印してから。仮想体で体内に入ると自爆する精神が貼り付けられている可能性がある。とりあえずその作業までは進めよう。ところで分身や精神消去に強制命令などが続いているのか確認してみた?」


 私は何もしていない…。


 クロア姉さんが確認しているときも見ていただけ。

 姉さんから指示されないと何もできない証拠だよ。


 すぐに確認を始める…。


 分身に強制命令が続いている。精神消去にも強制命令が続いている。

 今回の対処で使うと思われる魔法には強制命令が続いているのだと思う。


「その様子だと強制命令か別の魔法が続いているみたいだね。作業を中断してクロアを待つよ。」

「分かったよ。足りない経験とは家族の命を守ることなんだね…。」


 命を守ることがこれ程までに怖いとは思わなかった。自分のできることをするだけでいいと思っていた。それなのに言われたことができない。できるはずなのに失敗が怖くてできない…。

 姉さんは問題が起きても命懸けになる前に対処してきた。今はその記憶がなくても結界内をまとめ続けてきた経験がある。それに姉さんは命懸けで家族を守っている。家族に命を捧げている。だから動揺しない。いつもと同じように考えて行動することができるのだと思う。


 だけど家族に命を捧げることだけはやめてほしい。今日を見てより強く思う。姉さんとクロア姉さんは激しい痛みに耐え続けた後だとは全く思えない平気な顔をしている。強がっているのではなくそれが普通になってしまっている。


 絶対にやめさせたいのに私が弱くては何もできない…。


 クロア姉さんが走って戻ってきた。魔法を確認したのに使わないのは何故?

 半年間も別人格の記憶があるので独断で魔法を使うのが怖いのかもしれない。


「戻ったよ…。動物に魔法が与えられていて強制命令も付与されていた。精神も2つあった。魔法は消してきたよ。これからどのように動けばいい?」

「クロア、リアの魔法を全て消して。そして新しく入れてあげて。その上でどのような問題があったのか教えてあげて。」

「クロア姉さん、教えて。命を守ることが怖くて何もできていないから…。」


 姉さんに肩を叩かれた。励まされたのだと思う。

 思考把握が使えなくなった直後にしたのは絶対にわざとだよ。


「精神操作系の魔法には強制命令が続いていたよ。それと分身もだね。強制命令を解析した結果は人格の交代だと思う。初めて見た魔法式だけれど、精神に何かしているのでそれしか考えられない。それに入れ物は結界外に出ると強制命令を発動させるように作られていた。そして動物の体内を仮想体で見たけれど、大切な臓器には自爆する精神が貼り付けられていた。とりあえずこのくらいかな。」

「リア、勉強になったね。クロア、私とリアを封印して。そして魔力器の精神が本物か確認して偽物なら消して。確認方法は私の記憶を見れば分かるよ。」

「クロア姉さん、お願い。」


 間違いなく足手纏いになっている。あっ…、意識が…。


◇◇◇

3日後。


 薄暗い部屋の中で目が覚めた。


 おかしい…。

 何故私は布団で眠っていたの?


「姉さんがリアを気遣ったの。リビングテーブルを見れば対処内容が紙に書いてあるよ。」


 クロア姉さんに起こされたみたい。


 記憶まで消されている…。

 私に知られるべきではない対処をしたのかな。


「姉さん、起きて。姉さん!」

「んー!あれっ!?クロアの方が先に起きたの!?やはり私は弱いね。」


 姉さんの疲労が大きいのは私が理由のような気がする。

 何故なら弱いはずがないから。


 アディとローアも目を覚ました。

 眠っていたのではなく封印されていた気がする。


 2人とも姉さんに抱きついていない。


「お姉ちゃんはこの人を知っているの?」

「お姉ちゃんに似ているよ。誰なの?」

「クロアの分身だったのに私の妹になりたいと願った子だよ。オフィーリア、愛称はリアで10歳。新しい家族だよ。お風呂上りに話す子が1人増えたね。2人のお姉ちゃんだから仲良くしてね。」


 私の愛称はいつ決まったの?

 紙に書いてあると思うけれど、皆と見に行けばいいね。


「分かったー!」

「私に抱きついて寝てもいいよ!」


 アディとローアがとても可愛い!

 絶対に抱きついてくれないと分かっているのに口が開いた。


「それはないよ。私の特権だからね。」

「うん、ないよー!」

「それならローアの布団に入ろうかな。隙間が空いているからね。」


 また自然と口が開いた。寂しく感じているのかな?


「それくらいなら許してあげて。寂しいのよ。」

「お姉ちゃん、4人の布団を繋げたら?」

「いいのかな?」

「お風呂上がりの時間と布団に入っている時間は特別だよ。姉さん、繋げるよ?」


 アディ、最高の案だよ!


 敷布団を転がればロディの体温を感じながら眠ることができる。

 やはり寂しいみたい。だけど何故寂しいのかは分からない…。


「部屋が分かれているので布団を繋ぐのは大丈夫だよ。布団はあなた達が成長したときに離れたいと言われると思ったので分けているだけなの。リア、掛け布団と敷布団を繋いで。」

「今から繋げるよ。この部屋ができる前と一緒になるけれど、その日が来たら姉さんが妹離れを頑張るしかないね…。それではリビングテーブルを見に行こう!」

「見に行こー!」


 皆で布団部屋を出てリビングテーブルに向かった。


 リビングテーブルには紙が1枚だけ置いてあるけれど、何について書かれているのか見た直後に最悪な気分になった。クズ分身に騙された。時間稼ぎに利用されていたのかもしれない…。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 ※分身による結界内への攻撃対処報告


 0.次女と三女が甘えていたので長女が説教した。(別人格の記憶が影響している)

 1.長女と次女により分身が勉強している拠点を殲滅。結界内以外で精神が貼り付けてある、もしくは精神が入っている、無敵紙と魔石とアダマンタイトと魔力器を世界から消去。

 そして三女が分身に騙されていた。強制命令により別人格になりそうだったので封印した。

 2.長女と次女を除く結界内を全て封印した。(精神が動く切っ掛けを与えないため)

 3.皆の精神が2つに増えており片方は敵の精神。本物の精神には敵の人格が入っていた。そして魔力器の精神は敵の精神と入れ換えられていた。そのため敵の精神と敵の人格を消去。

 4.皆の魔法に強制命令が続いていたので消去。

 5.動物の精神が2つに増えており魔法も入れられていた。それに強制命令も付与されていた。そのため精神が綺麗な雛と仔牛と仔馬のものに替えた。そのあと魔法を消去して強制命令を解除。

 6.結界内の無敵紙を消去。

 7.人と動物の体内を除く結界内の精神を消去。人と動物の体内に貼り付けてある精神を消去。

 8.結界内の魔石を消去。魔石保管庫を撤去。(クリスの魔石はクロアが保護している)

 9.結界内のアダマンタイトを消去。武器庫を撤去。

 10.人の体内以外の魔力器を消去。

 11.畑の無敵紙と精神と魔石とアダマンタイトと魔力器を消去。

 12.自宅と畑を直した。

 13.長女と次女は寝ることにした。(3人の記憶消去。長女は次女に専属馬フィディーの記憶を残してもらった。これは三女に入れてもらった記憶)

 14.起きたら三女オフィーリア、愛称リアの歓迎会。


 ※対処報告終了


 姉さん、ごめんなさい。


■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■


 気遣ってもらっているのに…。


 0番が問題点をよく表している。全てのことを甘く考えてきた記憶があるのでクロア姉さんも姉さんの指示で動き続けたのだと思う。

 そして結界内では分身に騙されていた私がいても好き勝手に行動できた。それに私は眠っていたわけではなく封印されていた。だけど封印された理由は違う気がする…。


 クロア姉さんは何を謝っているのかな。


「クロア、謝ったのは記憶を残しているからなの?」

「姉さんが忘れるべきだと言った記憶は間違いなく消したよ。消したと覚えておけるようにしているから。だけど殲滅後の結界内での対処は全て覚えているよ。外で姉さんと話した後の記憶は自宅で姉さんに説教されるから。」


 クロア姉さんを思考把握しても何も分からないけれど、魔法技術の差であるとは思えない。精神のある魔法を消すために思考や感情が表に出ないようにしていたからだと思う。そして記憶にも残らないようにしていた。


 姉は魔法に頼らなくても強い。

 魔法だけに頼っている相手なら油断させて消せる。


「私が納得できる理由があるの?」

「私はリアに全てを任せていた。そして姉さんが気づいて止めなければ全滅していたの。だけど生まれたばかりのリアには経験が足りない、それに記憶があれば大丈夫だと考えるべきではないと姉さんに説教された。リアは姉さんに説教された後でも魔法の確認していなかった。私も姉さんに言われてから魔法を確認した。それと姉さんに別人格の記憶で危機感が鈍っていると指摘された。だから私が考えた対処方法は1つもない。リアが皆の命が懸かっていることに怯えたのは当然だと思う。それでも私が考えないのは絶対に間違っている。姉さんに指示される前に準備や確認できたことはいくつもあったのだから。それなのに姉さんの指示を待つだけで何もしなかった。」


 クロア姉さんが姉さんの指示で動き続けたのであれば、皆の命を背負って指示していた姉さんの負担が大きくなるのは当然だと思う。それなのに対処方法を考え指示して解決に導いた姉さんのどこが弱いのか分からない。謙虚すぎるよ…。

 そして私が封印された本当の理由は情けないけれど、自分の失敗で誰かが死ぬと考えると今でも怖い。怯えていて何もできないのであれば封印した方が安全だと私でも思う…。


「反省内容は記憶できたね。それでは今すぐ消しなさい。その記憶には問題が入っている気がする。何も考えずに消しなさい。」

「姉さん、気づいてしまったよ…。リア、今すぐ私の記憶を消して。外で姉さんと話していてリアが姿を見せる直前まで。そのあと姉さんが言った『私が納得できる理由があるの?』から『反省内容は記憶できたね』の直前まで入れて。」


 姉さんから強い焦りを感じる。それにクロア姉さんも危機感を隠せていない。2人が暗黙の了解で禁じている力があるのだと思う。実際はそれを使うしか勝てない不利な戦いだった。だから記憶の調整を細かくして使ったことを忘れようとしている気がする。


 覚えていることで万が一の情報漏洩を避けたいのだと思う。


記憶消去(メモリデリート)

記憶追加(メモリアッド)


 クロア姉さんの記憶を消して追加した。そのあと姉さんに促されてクロア姉さんが紙を確認した。そしてクロア姉さんが紙から目を離した後に声をかけた。


「クロア姉さん、今の記憶で大丈夫かな。」

「ありがとう。これで私が甘えていたことだけを残せる。魔法は自分で作って何度も使わないのであれば消すのが当然だった。魔法式の確認は絶対にしていた。それなのに半年間の記憶でこれ程までに影響が出たのは怖いね。再度自分で考えることを癖にしなければならないよ。」


 私もクロア姉さんから任されて大丈夫だと考えていた。


 だけど実際に対処していたら全滅か敵の人格に代わられていた。

 間違いなく私もクロア姉さんの別人格の記憶に毒されている。何も考えずにできると返事しているのだから…。


「クロア、4人を料理部屋に入れてクッキー作りを見せてあげて。リアと話したいことがある。」

「分かったよ。ディア、ロディ、アディ、ローア、料理部屋に入れてあげるのでクッキー作りを騒がずに見ていることができる?」

「できるー!」


 3歳児らしい素直で元気な返事だね。

 記憶を消す前のディアとロディよりも今の方が自然でいいと思う。


 私と話をするために姉さんがいつもの席に座った。

 記憶を消す前に座っていた席だから今とは違うけれどね。


「リア、隣に座りなさい。クリスとミュリエルも座って。それとリア、緑茶と紅茶とカップを4つ用意できる?」

「お茶はクロア姉さんが作り置きしてくれているので大丈夫だよ。カップも出せる。」


転移門(ゲート)

緑茶と紅茶のポットとカップを4つ取り出した


 ポットはリビングテーブルの中心に置いてカップは皆の前に置いた。


「リアはどちらを飲みたいの?」

「姉さんと同じ緑茶でいいよ。」

「それなら私たちの方に紅茶のポットを置いておくよ。」


 姉さんが緑茶を自分と私のカップに入れた。10歳になっている私も飲んでいいの?

 そしてクリスは紅茶を自分とミュリエルのカップに入れた。そのあと紅茶のポットを2人の手が届くところに置いた。


 ここで何を話すのかな…。


「リアは2杯目から麦茶ね。もしかして自室で話したい?それなら移動してもいいよ。」

「そうだね。私は何もしていないけれど、ここで話すのは気まずいよ。」


 リビングで話すのと自室で話す違いはまだ分からない。

 だけど今は姉さんの妹なのだから自室で話したい。


「クリス、ミュリエル、私たちは自室に行くよ。リア、お願いね。」

「分かったよ。」


 姉さんが声をかけるとクリスは軽く手を挙げてミュリエルは軽く頭を下げた。

 姉さんは緑茶のポットとカップを持っているので私も自分のカップを持った。 


≪転移≫

私たちの自室に移動した。


 姉さんと私はポットとカップを円卓に置いた。


 円卓は少し大きくしてある。そして椅子も増やしてある。

 お風呂上りに4人で話す準備は姉さんが封印されていたときにしておいたけれど、最初に2人だけで話すことになるとは思わなかった。


 姉さんは席に座ると緑茶を1口飲んで落ち着いた表情をしている。

 私も姉さんの正面に座って緑茶を1口飲んだ…。苦味しか分からない。


「言いたいことがあるのでしょ。実際の対処は記憶にないのでクロアの言葉と紙に書き残した内容から推測するよ。さあ、何でも言いなさい。」

「姉さんは自分の指示で人が死ぬことは怖くないの?記憶を消しているので魔法技術の進歩が分からない状態で対処を考え指示していたはずだよ。」


 姉さんを護衛していたときには思考把握できていたのに今は何も分からない。魔法に頼るなと叱られている気分になる。だから結界内が平穏なときは思考把握と感情把握を使わないようにしよう。


「指示する方が怖がれば指示された方も怖くなる。だから怖いという感情を押し殺す。そして全力で最善の対処方法を考える。失敗は考えない。それは結果で分かるから。リア、自分の失敗が怖いと思っているのでしょ。」

「その通りだよ。クロア姉さんの話を聞いて考えてみたけれど、自分の失敗で家族が死ぬのは怖いよ。」


 今まで魔法を使うのが怖いと感じたことはなかった。それなのに失敗すれば家族が死ぬと考えると魔法を使うのが途端に怖くなる。

 魔法を使えば助けられる状況だとしても魔法を信じられない気がする。


「リア、怖い理由は必要な魔法が記憶にしかない。もしくは想像して作るしかない。それでは駄目だよ。作った魔法の魔法式を見て改善まで考えて自分が納得できる形にする。そこまですれば信じて使える。クロアはどのような魔法でも魔法式を見て改善を考えている。想像しただけの魔法を使うことはない。新しいことを生み出すために想像はとても大切なことだよ。だけど人は感情で想像が変わる。不変ではないものを大切な人の命が懸かっている状況では使えない。リアはまだ子供なの。これからゆっくり学べばいいよ。」

「姉さんの言葉は身に沁みるね。だけど私は体が10歳で精神が16歳ではないの?」


 姉さんは私がほしい言葉をくれる。怖がっている理由を言葉にしてくれる。感性を磨けばここまで分かるようになるのかな。何か見落としている気がする…。

 私が使える魔法の中に私が作ったものや確認したものや改善したものがない。誰かが作った魔法で大切な人の命を助ける。その誰かが敵なのだから使うのが怖いに決まっているね…。

 クロア姉さんのように状況に合わせて必要な魔法を作ることができる自信はない。それが分かったのだから平穏なときに人の命を助けられるような魔法を作るべきで、魔法式を見て改善も考えなければならない。想像で作った魔法だと無駄が多く魔力消費も多い。

 それに魔法式を見て改善することが癖になれば0から魔法式で魔法を作ることができるようになる気がする。魔法の仕組みが理解できるようになる気がする。

 感情に左右されずに使える魔法は大切だけれど、感情を押し殺して魔法を作れるようにもならなければならない。


「精神は肉体と同じ年齢になると思う。精神は体にとても影響を与える。それなら体から精神に影響を与えることもあるはずだよ。それに本来なら不一致はあり得ない。だから生命として許されないと思う。それと勘違いしてはいけないのが精神が若いのを未熟な理由にしてはいけない。100歳を超えても未熟な精神のゴミ女がいた。それでも精神の年齢は100歳を超えていると思う。大切なのはどのように生きてきたのか、生きていくのかだよ。生きていれば体も精神も歳を取る。体は食事で成長するけれど、精神を成長させるのは自分自身だよ。それに本当に16歳の精神なの?クロアの精神に別人格が入っていたので2人とも精神を換えたはず。そのときに別人格だけを消す魔法が作られていたのならリアは恐怖していない気がする。今回の対処ではそれが一番難しいことなのだから。」

「替えていたよ…。何故姉さんにはそれが分かるの?分身でいる2週間は違和感を覚えなかったけれど、体に入ってから幼くなったように感じる。だけど何故分身のときは違和感を覚えなかったのかな?」


 そういえばクロア姉さんと私の精神はアディとローアの精神を複製したものに替えた。だけど姉さんはそれを知らない。それなのに話していると姉さんも知っていたと勘違いしてしまいそうになる。

 敵の分身は間違いなく姉さんを恐れた。本体よりも弱くなる分身とはいえクロア姉さんの別人格の分身だからクロア姉さん以外を殺すことはいつでもできたに違いない。それでも行動に移らなかったのは姉さんの存在が大きい気がする。

 姉さんを不意打ちで瞬殺するのが相当難しい。できなければ別人格のクロア姉さんが救助に来て回復が間に合う。それに悪意があれば分身でも結界内に入れない。どちらにしても姉さんを襲った時点で分身の殲滅は確定だけれど、同時に家族の誰かを襲って殺していたとしたら分身は姉さんの逆鱗に触れることになる。

 あらゆる痛みを経験している姉さんの拷問は怖すぎて考えたくもない…。


「分身のときにリアは精神を成長させたの?精神は自分で成長させると言ったばかりだよ。クロアの分身のときは精神が未熟な状態しか知らないから違和感を覚えなかった。だけど10歳の体に入り精神も10歳に合わせた。つまり体が幼くなったことで精神が未熟だと気づけたの。もっと詳しく話そうか?」

「もう大丈夫だよ…。姉さんの言葉は胸に深く刺さるね。姉さんに分からないことはないの?私が姉さんの妹になった理由は話していないよね。」


 精神が成長していないアディと同じ状態だから気づけたという事かな。そうだとすれば姉さんは精神が見えなくても家族の精神まで把握できることになる。

 分身は安易に近寄れない。そして実際に近寄らなかったのだから姉さんを警戒していたことは正しい。つまりクロア姉さんが最も強いと考えているのは姉さんの可能性が高い…。


「そうだね。だけど私が妹をほしがる理由はない。それなのにリアは私の妹になっている。そして簡単に私の細胞で家族になれる方法が1つだけあるの。それが私からクロアに提案する。それだけはクロアも審査しない。だから私から妹になれと言っている気がする。多分リアは私に何かしたい。それは分身の言葉では届かない内容だった。そのため私にしたいことがあるのだから妹になりなさいと言った。それで何がしたいの?」

「姉さんが家族に命を捧げるのをやめさせて目標を持ち日常を楽しむことだよ。」


 私が妹になるまでの流れを完全に把握されている。姉さんはいつも通りの優しい表情で何がしたいのか言えと私に要求してくる。自分の考えを全く疑っていない。恐らく私が姉さんの妹になるためにはその方法しかないのだと思う。クロア姉さんからの提案だと姉さんの妹にはなれない気がする。

 家族内で一番権力を持つ姉さんは家族の誰よりも自分自身に厳しい。無駄な提案をしないし自分のためだけに提案もしない。そして姉さんがいなければ家族はまとまらない。それだけで十分なのだから命まで捧げる必要はないよ!


「私が家族に命を捧げていると初めて知ったよ。命懸けで何かしたの?」

「していないよ。私の目の前で切り替えたときに思っただけ。姉さんの自己犠牲はクロア姉さんよりも酷い。自分が死ねば家族が助かるのなら躊躇なく死ぬ。他の方法を考えずにそれが一番だと考えて…。」


 姉さんは私が守る!絶対に強くなって私が守る!

 姉さんが死を選択する状況を全て排除する!


「結界内に私が切り替えるようなクズがいたのね。確かに自分のことを考えると家族に命を捧げている気がしたよ。だけど妹の成長を見たいから死にたいと思ってはいないよ。それでも誰か死ぬば助かる状況ならば私が死ぬ。それでも考えずに死を選んでいるわけではないよ。クロアと私は死ぬ直前なら助かると考えているので周りから見ると死を選んでいるように見えるのかもしれない。クロアとリアを突破できる敵がいないのだから家族に命を捧げていても変わらない気がするけれど。」

「邸で暮らしていた8人だよ。偽ドラゴンに対する恐怖がなくなったら男尊女卑の最低なクズになった。そして敵がいなくても姉さんの中には家族だけしかないので駄目だよ。家族を大切にしている状態で自分の目標が持てるようにする。家族の成長を楽しみながら自分のやりたいことも楽しめるようにする。姉さんが私に自分では変えられないので変えてよと言ったのだから絶対に変える。50年後から100年後くらいになると思うけれど、姉さんの中にある邪魔な記憶を消す。せっかくの感性が外で発揮できない。恐怖症が多すぎて無意識に感性を閉ざしてしまう。理由は分かっているので私が強くなって姉さんを守り続けるよ。そのあと私もやりたいことを見つける。」


 姉さんが死ななければ助けてもらえると考えていないのは知っている。そして姉さんは最悪を想定して行動するけれど、自分自身については考えていない。それに家族が助かる方法を考えても危険なことは自分自身を使って検証すると思う。だから姉さんの考え方や生き方を絶対に変える。


 今の私では弱すぎて無理だけれど、絶対に強くなって姉さんを変える。


「命を捧げているから他に目が向かない。だからお城での記憶を消した後から本格的に動くわけだね。よく分かったよ。リア、とりあえずクロアの結界にリアの結界を重ねて。クロアが気絶したら魔獣に攻められる状況を改善しておきたい。それでクロアの精神的な負担も減らすことができる。それにしても何故変えてと言ったのかな。家族を見る目が曇ると感じたからなのかリアと一緒に楽しみたいと感じたからなのか…。どちらでもいいね。リアにお願いしたのは私なのだから。言いたいことは全て言えたの?」

「結界はクロア姉さんに確認してから張るよ。今回の件で構成を変えている気がする。それと姉さんの感性を知りたいから質問するよ。私とクロア姉さんの精神は誰のものだと思う?」


 姉さんは家族というものに対して自己洗脳している。家族に違和感を覚えても自己洗脳が邪魔する。家族が笑顔なら問題ないと考えてしまう。ほとんど初対面の私のことがここまで分かるのに家族のことが分からないはずがない。それでも信用していると思い込み違和感を有耶無耶にしてしまう。それが限界に達したのだと思う。自分でどうにかしようとしても家族に対しては問題が表面化するまで動けなかった。だから変えてほしいと言ったのだと思う。


「リアはアディ、クロアはローアだね。理由も聞く?」

「即答したのに理由があるんだね…。理由は聞かなくてもいいや。姉さんは何故思考把握がいらないの?」


 やはり精神まで把握している…。


 間違っているとは微塵も思っていない。理由も実験については言わないと思うので私が聞いても理解できる気がしない。とても重たい家族愛を語られそうだからね。


「思考把握に頼ると自分の感じたことを疑うことになるかもしれないからだよ。クロアのように考えた行動と実際の行動を変えることができる人もいる。相手の考えていることが分かるからと信じる癖がつくと痛い目に遭う。クロアはそれを分かって使っていると思うのでリアも気をつけなさい。」

「はーい。気をつけるよ。姉さんが能力を嫌いなのはクズ能力とクロア姉さんの戦いを知っているから?」


 先程叱られた気がした後から使っていないので大丈夫。それに姉さんも思考把握できるときとできないときがあるから使っていると痛い目に遭いそう。クロア姉さんも大概だけれど、姉さんも同様だから。姉のお陰で私は大丈夫だよ。


 それだけ追いつき追い越すのが大変なのだけれど…。


「嫌いではないよ。だけど能力で人を把握した気になるのは危険だと考えているの。感情把握と思考把握と思考誘導は抜け道があると覚えておきなさい。人が作った能力であれば自分のことだけは知られたくないと考えるはず。抜け道があるのかないのか魔法式を見て確認しなさい。そしてあった場合は潰すのか残して使うのかを考えなさい。それと自分が使う魔法は必ず魔法式を見て理解すること。最初の方でも言ったけれど、それが自信に繋がるよ。それに今はそのように考えていなくても使い続けていると感覚が麻痺する。特に子供が使うと危険だからね。」

「はーい。絶対に気をつけるよ。そして必ず確認する。逆に姉さんがほしいと思う魔法はあるの?」


 抜け道という発想はなかった。確かに凄く便利な魔法を作ったとしても自分に使われると不利な状況になるとしたら必ず抜け道や対抗策を用意しておく。もしくは魔法式を書き換えて違う魔法にするか所持魔法を全て消すように細工する…。


「勿論あるよ。自分の精神の色が分かる魔法、自分の感情が分かる魔法、自分の思考が分かる魔法、自分の魔力量が分かる魔法などがあるといいね。鍛えれば敵に気づかれない方法まで考えることができる。そして敵を騙せるようになれる。精神の色と魔力量だけは私が気になるからだよ。」

「姉さん、ここまでの会話がほとんど私のためだとしたら誰を倒すことを想定しているの?」


 気づくのが遅すぎる…。

 全ての会話が私の足りない力についてだと思う。


「当然クロアだよ。強くなりたいのでしょ。自室でだけの秘密の会話だからね。今夜からクロアに力を追加してもらいなさい。結界を張るのはそのあとでいいよ。ここでは何でも言えばいいの。」

「姉さんがクロア姉さんより強くなる方法を考えてくれるんだ。アディとローアの気持ちが分かったよ。ディアとロディも同じ気持ちかもしれないけれどね。」


 クロア姉さんに命を助けてもらった姉さんがそのようなことを考えるとは思わなかった。私が考えていることに気づいて助言してくれたのだと思うけれど、優越感が凄いよ!

 分身では知ることができなかった感情で体を得て妹になった実感が湧いた。

 姉さんは仮想体を作る練習もできないくらいに日々やることが多い。それなのにお風呂上りなど自室で話すときには私たちのことだけを考えてくれている。

 今までの会話には全て意味があり助言なのだと考えよう。そうすると姉さんは直感で答えていないことになる。感性を口にしただけでもない。私が成長するように話してくれている。何故私が分からないのかも教えてくれている。だから話してくれたことだけを焦らず身につけていく。

 必ず意味があり絶対に役に立つのだから。そして姉さんを変える!

妹を虜にする長女です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ