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世界は子を愛す  作者: 大介
第1章 現実

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第65話 笑顔と涙

 クロアと一緒に朝食の後片付けを終えてリビングに戻るとクリスとミュリエルは乗馬服に着替え終えていた。クリスが「先に行くねー!」と言って手を振りながらミュリエルと一緒に出ていった。

 そして不機嫌な顔をしているアディとローア、不安な顔をしているディアとロディが私たちを見ている。クリスたちに先を越されたことに不満がある2人と体を得たばかりで不安な2人…。クロアはディアとロディの頭を優しく撫でながら部屋に向かった。私はアディとローアに左右の手を引かれて自室に向かった。


「5分は待ったよ!」

「アディ、それは違うよ。10分は待ったからね!」


 自室に入るとすぐに2人が口を開いた。この子たちが大きくなるまでは食事の後片付けの度に言われることになる気がする。食事中は気を遣える優しい3歳児だったのに我儘全開3歳児になっているね。


「一緒に乗馬するつもりなの?私の専属馬は走らせないよ。それでもいいの?」

「いいから待っていたの。私たちを普通の3歳児と一緒にしないでよ。」

「その通りだよ。それに理由があるから待っていたの。聞いてよ!」


 可愛い顔して我儘全開だよ…。

 理由があれば言えばいいのに聞かないと駄目みたい。


「ローア、何故待っていたの?」

「お姉ちゃんと散歩するのも偶にはいいかなと思ったの。それとクロア姉ちゃんの飛ばされた馬が言っていた序列による扱い方が正しいのか分からないから。」


 可愛い理由と真面目な理由だね。

 ここでは馬の調教を目的としていないのでより難しい。


「馬が人に多く乗ってもらうために序列を上げるのは不自然なの。本来なら馬は人を乗せるために生まれた動物ではないのだから。だけどここでは序列の意味が自然界とは違うよね。まずは人を乗せたいのか聞きなさい。乗せたいのであれば朝からと昼からで2頭に乗りなさい。そして心を開いてくれるまでは序列順に話して序列順に乗る。乗馬したときにはたくさん話して馬の心に寄り添ってあげるのが大切だよ。何故なら本当に求めていることを知る必要があるから。求める内容次第では序列の高い馬に乗る回数が少なくてもいいの。序列の高い馬が求めていることを優先してあげる。だから決まった答えはないよ。ここで乗馬する難しさが分かったでしょ。」

「難易度が跳ね上がったよ。3歳児を楽しませる乗馬だと思っていたのに勉強だよ。」

「お姉ちゃんは難しいから成長に繋がると言っていた。だから勉強でもあるんだよ。そして馬の数だけ答えがあり傷を癒してあげないと本当の気持ちが分からない。楽しめるのは先になりそうだね。」


 今は馬を走らせることが楽しみだと考えているみたいだけれど、馬房でも乗馬中でも馬とたくさん話していれば自然とその時間が楽しくなるはず。主として命令するのではなく馬と心を通わせるのが乗馬の目的なのだから。


 ぶつぶつ呟きながら着替える2人を微笑ましく思いながら私も着替えた。


「準備できた?お姉ちゃん、転移してよ!」

「そうだよ。私たちは遅れているからね。転移してよ!」

「その慌て方で私の散歩に付き合うのは退屈だと思うよ。それも勉強になるかな。」


≪転移≫

厩舎の東側にある出入口に移動した


「馬房から出たくないと言わない限りは2頭とも外に出してあげなさい。」

「分かったよ。」


 厩舎は全長50m、高さ5m、幅10mはある建物で東西に出入口がある。馬房には両側から押して開くことのできるドアが付いているけれど、上下に空きがあり成馬が楽に顔を出せる高さまでしかなく密室にはしていない。それに子供がしゃがめば見えるようにもなっている。

 ここでは主の許可なく外に出て自由に行動してもいいけれど、2日目でそれをするのは厳しい。そして心に傷があるのだから猶更だよ…。


「フィディー、どこにいるの?馬房から出てきて!」


 馬房は序列順にするのか固定なのかクロアに聞いていないけれど、フィディーの馬房は東側の出入口から一番近くにあった。そしてフィディーの姿が見えた直後に念話を繋いだ。

 今後のことを考えると繋いだままでいい気がする。消費魔力は気にする程でもないしフィディーが私と話したいと思わなければ声が届かない。繋いだままで数日過ごしてみて問題なければそのままにする。


「もー、待ちましたよ!遅いです!遅すぎます!」


 甘えん坊だね。甘えたいときや寂しいときは胸に鼻を押し付けてくるのは昨日と変わらない。落ち着くまで両側の首筋を撫で続けた。フィディーが首を上げた後に胸を見たら序列外なのに白金だった。とてもクロアらしいよ。


「今日は他の馬と一緒に散歩するけれど、大丈夫?」

「走らなくてもいいのですか?」


 他の馬と一緒なのはいいみたい。それなら何も問題ない。


「走らないよ。一緒に散歩したいと言ったからね。走りたくなったら私たちを置いて走っていくよ。フィディーの意思を無視して走らせることは絶対にしない。それに序列外だから何も言われない。そのかわり散歩しながら見回りするよ。半日もかからないから大丈夫。私の指示した場所まで歩いてくれるだけでいいからね。乗ってもいいかな?」

「早く乗ってください。私を序列外にできるという事はフィオナも特別なのですか?」


 そのように思っても不思議ではない。序列外なのに序列1位と同じ扱いなのだから。

 クロアが特別に感じるので私にも何かがあるのかもしれないと考えているのだと思う。私に特別なことは何もないけれど、一緒に見回りを楽しんでほしい。それに楽しませてあげたい。

 

 身体強化で飛び乗るのはフィディーの負担になるかもしれない。


風魔法(フライ)

フィディーの背の上に飛びゆっくり下りて跨った


 うつ伏せになりフィディーの体温を全身で感じると心地よい。

 アディとローアは何しているのかな?


「フィディー、妹が2人厩舎にいるからそこまで歩いて。それと私は特別ではなくクロアの姉で長女なの。見回りは皆が楽しく過ごせるように直すところがないのか考えるため。実際に直してくれるのはクロアだよ。フィディーも気になることがあれば何でも言ってね。」

「フィオナが考えてクロア様が直すのですね。私はそのお手伝いをすればいいのですね。厩舎も馬房も良くなりすぎて快適ですので何もありません。2人子供がいます。それでは向かいます。」


 厩舎の中だと足音が響く。パカッパカッと心安らぐ気持ちのいい音が続く。いつまでも聞いていられる。昔を思い出して寂しい気もするけれど、今を大切にしないとね。

 フィディーがしゃがんでいるアディの後ろで止まった。するとアディが立ち上がって振り向いた。


「お姉ちゃん、乗馬の姿勢がおかしいと思うよ。」

「この子に負担がなければいいの。それより何しているの?5分は待ったよ。」


 念話を傍受することができないので何を話していたのかは分からない。だけどアディがしゃがんで馬を見ていただけだとは思えない。


「昨日は問題なかったのに馬房から出たくないと言っているんだよ。それに理由を教えてくれないから困っているの。」


 心当たりはあるけれど、そこまでしたのかなという思いもある。


「フィディー、理由を聞いてみることはできる?」

「聞いてみます…。外が怖いと言っています。」


 王女様はそこまでしていたのね…。


 間違いなくアディとローアの馬を念話で脅している。

 自分の専属馬が飛ばされた腹いせなのかもしれない。


「クロアの分身いるでしょ?出てきて!」

「姉さんは気づいていないのに呼ぶね。誰もいなかったら恥ずかしいよ?」


 クロアの分身が姿を現したけれど、この雰囲気は知っている。私のために怒ってくれた子。生みの親であるスピリを無視するような個性が出たのでクロアが精神を保護したみたいだね。


「問題を見つけるのも私の役目なのに解決するクロアがいないはずがないでしょ。それに検証の後始末を綺麗にしなかったスピリかクロアを恥じなさい。今からクロアとディアとロディの馬以外からディアとロディの記憶を消して。鶏や牛にも念話しているかもしれないから確認してみて。それとあなたはクロアから名前を付けてもらったの?私を守るために消えるのを拒んだの?そうだとしたら嬉しいよ。ありがとう。」

「念話で脅しているね。記憶を消したから大丈夫だよ。姉さん、私はただの分身だよ。」


 ただの分身はそのように言わない。気づかれたのが恥ずかしいのかな?


「絶対に違う。分身はクロアがしない経験をすることが多いから性格に変化が出る可能性が高い。8人の処理は特に酷かったからね。それに隠しているみたいだけれど、スピリかクロアにまだ怒っているでしょ。クロアとしては反省の意味を込めてあなたを残したのかもしれないけれど、あなたも楽しまないと駄目だよ。それに精神はそのままでクロアに新しく作り直してもらっているね。」

「どのようにすれば姉さんは納得してくれるの?」


 思考把握して私が納得する理由を探しているの?


「ただの分身なら違うと言って消える。私に違うと思ってもらおうとしているのが個性のある証拠だよ。何故隠そうとするの?隠したいのであれば私の護衛を拒めばよかったじゃない。不器用なところはクロアのままだね。早く名前を教えてよ。」

「分身にまで頑固すぎるよ…。名前はアグリ。何故激怒した理由を聞かないの?」


 私のために怒ってくれたのは嬉しいけれど、それだけではない。アグリは私のために分身を超えた。ただの分身ではなく私のために怒ってくれるアグリになった。目的のためなら主を無視できるくらいに強く私を想ってくれた。守られてばかりの弱い姉だけれど、私はそれが嬉しい。


「それは野暮だよ。分身という枠を超えてまで私のために怒ってくれたのだから。そして私がアグリだと分かるのはそれで十二分。アグリは今でも私を守ろうとしてくれている。とても嬉しいけれど、結界内にいるときくらいは一緒に楽しもうよ。」

「無性に恥ずかしいから交代してくるよ。」


 アグリは姿を消した。本当に交代を要求するのかな…。


 どのようになるのか私でも分かることなのにアグリが分からないはずがない。交代を要求する相手はクロアかスピリだと思うけれど、絶対に交代させてもらえない。個性的になったと却下されて終わりだよ。


「お姉ちゃん、もういいの?私たちは準備できているよ。10分は待ったからね!」

「アディ、それは違うよ。15分は待ったからね!」

「あなた達の専属馬が馬房から出ない理由を考えて解決したフィディーとアグリに感謝しなさい。2頭を馬房から出して序列が高い方に乗馬しているの?散歩することに納得しているの?全く見えないでしょ。少しは私に姿を見せるように努力しなさい。」


 2人の声は聞こえるけれど、フィディーの左右にいないので姿が見えない。


「全く見るつもりのない姿勢で乗馬しているお姉ちゃんに言われたくないよ。それに分身の違いが分かるのに私たちの違いが分からないのは酷いと思う。」

「その通りだよ。お姉ちゃんこそ反省して努力してよね!」

「精神の入っていない魔力だけの仮想体を見ても分からないの。話したり近くにいれば分かるよ。目の色が違うから分かると思っていたの?今後は乗馬で感性を磨きなさい。話せるので楽になったけれど、それでもあなた達を信じるまでは素直に話してくれない。感情把握などの能力を使わずに相手を感じる力を身につけなさい。分かった?」


 姉を甘く見すぎだね。末っ子4人の目の色が同じでもクロアと私は絶対に判別できる。そして見えるものだけに頼る癖がつく前に自分の感じたことを大切にしてほしい。私は外に出ると過去の癖で何も感じないようにしてしまうから…。


「とても難しいことを言っているね。お姉ちゃんは何頭の馬の主になれるの?」

「それは気になります。心に傷のある馬を何頭癒してあげることができるの?」

「私はここにいる馬を全て癒してあげることができるよ。だけどフィディーかフィディーの仔にしか乗るつもりがないの。過去に50年以上は馬を世話してきたし20頭までなら同時に見てあげることができる。聞きたいことがあればいつでも聞きなさい。納得したのなら散歩に行くよ。」


 反論したいけれど、できなくて悔しがっているのが顔を見なくても分かるよ。

 経験の差を言い訳にして強引に自分を納得させるつもりだね。


「そんなの納得するしかないじゃない!」

「そうだよ。経験の差がありすぎるよ!」

「アディ、ローア、乗馬している今を大切にして。それでは散歩に行くよ。」


 言い訳も聞いてあげないとね。それに2人の言葉を潰すのではなく成長に繋がる言葉をかけてあげるのも姉の役目だね。とても簡素な言葉だけれど、実際に行うのは大変なことだから。


「フィディー、待たせてごめんね。奥の出入口から真っ直ぐ歩いて。すぐに牧草地があるはずだから見てみたいの。」

「分かりました…。フィオナ、私が仔を産まなかったらどうするのですか?」


 私のことを考えて心配してくれている。強情なことを言えば責任を感じて仔を産もうとしてしまう。それだけは避けなければならない。


「他の馬と会話したり昼寝することはあるかもしれないけれど、背には乗らない。だけどフィディーが仔を産むのか産まないのかは自由だよ。仔を産むのであれば何頭でも私が主。産まなければフィディーだけの主。それは私が決めただけでフィディーの考えがあれば言いなさい。気になること、困っていること、悩んでいること、何でも言えばいいの。フィディーは人が怖いのに私を乗せてくれる。克服しようと前に歩いている。初めて会ったときは乗せないと殺されると思った。今日は違うけれど、頑張りすぎないで。のんびり散歩しながら背に乗っている私を感じて。私はフィディーをたくさん感じているよ。」

「私もフィオナを感じています。フィオナを乗せても安心だと昨日で分かりました。フィオナと散歩したいから乗ってほしいと思いました。頑張っていません。フィオナ以外は乗せたくありません。それにフィオナの方が辛い過去がたくさんある気がします。フィオナが自分の育てた馬を無視して逃げるとは思えません。私に乗ると辛い過去を思い出すはずです。それなのに優しさがたくさん伝わってきます。フィオナは私に仔ができたらどうするのですか?」


 フィディーの感受性が高いのは当然だね。本来なら持てる力を全て使って自然界を生き抜くのだから。そして自然界を絶対に生き抜くことができる動物はいないけれど、全ての命が繋がっている。だからこそ遊びで命を奪う行為は許せない…。


「私のことをたくさん感じてくれていて嬉しいよ。お腹に仔かいるときはフィディーが負担だと感じるまでは背に乗って散歩するよ。背に乗られるのが辛いと感じたら一緒に散歩して昼寝する。仔が産まれたら一緒に遊ぶ。そのときだけはフィディーに乗るよりも仔馬と追いかけっこする時間が長くなるね。仔馬が大きくなったら自分だけで走り回りたいのか私を乗せたいのか聞く。そこから先は一緒だよ。フィディーは仔を産むとしたらもう少し成熟してからだね。まだ若いのに確認しておきたかったの?フィディーの思った通りのことしか言っていないと思うよ。」

「その通りですが直接聞きたかったのです。母になると気持ちが変わるのかもしれませんが自分の仔が羨ましく感じそうです。まだ私が若いからでしょうね。おー!これは凄いですね!草が踏まれた跡がありません。もしかして私が一番ですか?」


 辺り一面牧草だけれど、水が飲める場所があるのかは分からない。そして壁で囲まれているように黒い影が左右と奥に見える。

 防護壁だと思うけれど、近づいたときにフィディーがどのように感じるのか知りたい。


「そうだよ。それが私たちの役目なの。この牧草地で大丈夫なのか確認しないとね。そして馬と牛はここで仲良く過ごせそう?」

「これだけ広ければ争う理由がありません。あっ!池はありますか?水の奪い合いが起きるかもしれません。」


 気になることを言ってくれた。やはり最初に水を確認する。お腹いっぱい食べられることは幸せだけれど、水がなければ死ぬのだから。


「一番奥まで少し速く歩いて行ってみよう。牧草をどんどん踏み込んで進んで!」

「分かりました!速く歩いて奥まで行きます!」


 期待に胸を躍らせて歩いていく。フィディーは楽しさを覚えれば騎士のことを克服できるのかもしれない。恐怖よりも期待が上回っていると感じる。それに今は騎士のことを忘れている気がする。


「アディ、ローア、私たちは奥まで見に行くけれど、ここで遊んでいる?ついてくるのであれば気になったことがあれば教えてね。」

「ついていくよ。お姉ちゃんの馬は走れないのに速くない?」

「ついていきます。確かに走っているように感じますね。」


 フィディーが走れば相当速いと思う。そこそこ速く歩いても背が揺れないようにしてくれている。この子が走ることを楽しいと思えるのかは気にしない。だけど心の傷は治してあげるからね。


「もっと速く歩けるよ。見たいの?」

「走っているでしょ。本当に歩いているの?」

「ギリギリです。必死に歩いてくれています。」


 練習した最高速の歩きを見せてあげないとね。序列外だから何も言われないとフィディーには言ったけれど、嫉妬などを感じることがあるかもしれない。そして本当に何も言われないのかは分からない。だから他の馬とは違うところを見せておく必要がある。


「フィディー、あなたの歩く速さを見せつけてあげなさい。妹たちが必死に追いかけてくると思うけれど、走らなくていいからね。」

「分かりました!全力で歩きます!皆は走らないとついてこれないのですか。それは楽しいですね!」


 全力で歩くのね。歩いている自分に他の馬が走らないとついてこれないのを楽しいと感じるのであれば本来のフィディーは追いかけっこが好きなのだと思う…。


「お姉ちゃん、速すぎるよ!何て指示したの?」

「走らないと絶対に無理です。指示の内容が気になります。」

「歩く速さを見せつけてあげなさいと言っただけだよ。フィディーは凄いでしょ!」


 風が気持ちいい。これほど速く歩く馬はいないと思う。

 何故なら速く歩く理由がないから。


「走っているよ!絶対にそれは走っているよ!」

「お姉ちゃん、それは走っていますよ。何故それを歩いていると言うのですか?」

「それは違うよ!あなた達がどのように思ってもいいけれど、フィディーは歩いているの。この子にとってこの速さは歩きだよ。乗馬している馬の気持ちをもっと感じなさい。たくさん話しなさい。それに私の役目をこの子が手伝ってくれているの。この子は私のために速く歩いているだけなの。」


 今は本当に歩いているからいいけれど、この子が走ったときには何も言わないように注意しないと駄目だね。それに走るのを恐れている子に走っていると言うなんて今晩は説教する必要があるかな…。


「フィオナ、私は走っているのですか?」

「私はフィディーに歩いてと指示を出したのだから歩いているよ。それにフィディーと私が歩いていると考えているのだから歩いているに決まっているでしょ。それとも私の指示を無視して走りたいと思ったの?それなら正直に言えばいいよ。」


 やはり2人の言葉を気にした…。説教決定だよ!


「いいえ。私は全力で歩いています!」

「それでいいの!私たちは歩く速さを変える練習をしたけれど、他の馬はしていない。それに話せても意味が正しく伝わっているのかは主と馬の関係で違う。私が断言してあげる。フィディーは練習した速さで歩いているよ。」


 話せても言葉の意味が伝わっているのかは分からない。他の馬はフィディーがこの速さで歩く理由が分からない。それに速く歩く練習もしていないのにできるはずがない。


「普通は歩くか走るか速く走るしかありませんね。歩く速さを練習するのはフィオナだけです。」

「嫌なことを無理にさせたくないの。そして私には皆が楽しく過ごせるように直すところがないのか考える役目がある。だからフィディーに手伝ってもらい速く歩いて終わらせたいの。それと序列外にしたのは私を手伝うことでフィディーの仕事は見栄えする。序列1位の馬よりもね。序列に加えると走れないと文句を言ってくる馬がいるかもしれない。だから特別な序列外にしたの。自慢するのは格好悪いから自分を誇りなさい。そのように思うことで自信が持てるし魅力が増す。それによりフィディーに圧倒されて周りは何も言えなくなる。言いたいことがあれば私に言いなさい。我慢せず私に愚痴を言いなさい。分かったね?」


 やはり黒い影は5m以上ある防護壁だった。せっかく広い牧草地でも圧迫感が凄い。そしてフィディーの動揺が伝わってきた。防護壁で動物を守っていると考えたのは人でありフィディーは壁を見て動揺した。壁というのは草食動物にとって致命的な逃げ場になるのだから。


「分かりました。フィオナの仕事を手伝った自分を誇れるようになります。」

「フィディーなら大丈夫だよ!牧草地に入って200mは歩いたね。そして終点は壁だね。このまま壁に沿って左に歩いて。」


 歩く速度が落ちた。黒い影が壁だと分かったからだと思う。


「分かりました。とても広いですね。」

「池がどこにあるのか分からないね。日陰がなくても大丈夫?」


 縦横200mの土地を牧草地にしているのだと思う。これでは馬と牛が楽しめる環境ではない。これだけ広いのだから牧草を食べて終わりではなくここで1日過ごせるようにした方がいい。そして楽しく過ごせるようにした方がいい。


「厩舎の中にいることが多ければ日陰はいらないと思いますが、外に出る日が多いと思いますので日陰がほしいです。」

「左端の奥に池があるね。10mくらいかな。次は壁に沿って右に歩いて。流れの緩やかな川なら水は飲める?」


 私が改善するのを前提に雑な仕事をしたの?

 この場所を作ったのは甘えん坊のスピリで決定だね。


「飲めますが砂を飲まないようにすると勢いよく飲むことができません。」

「それなら川の底が岩なら大丈夫だね。」


 池と川の壁と底に無敵紙を貼り付けて岩に見えるようにするのか岩にする方がいいのかは任せよう。それよりも期待に胸を躍らせていたフィディーに最高の光景を見せてあげたい。


「岩なら大丈夫ですけれど、川を作るのですか?」

「この牧草地を過ごしやすくて楽しめる場所にするの。考えて提案するのは自由だよ。右端にも池だね。この牧草地では楽しめないから作り直してもらう。フィディー、私たちの仕事がどのような変化を生むのか見ていなさい。」


 アグリいるのでしょ?早く出てきてよ!

 分かっているのに出てこないのは名前を呼ばれたいからなのかな?


「アグリ、出てきてよ。大仕事だよ!」

「姉さんが私を呼ぶから交代させられたよ。とても酷くない?そして違うからね!」


 すぐに姿を現したね。

 恥ずかしいから何が違うのかは言わないみたい。


「スピり班に配属されたでしょ。甘えん坊のスピりが面白がって交代を許すはずがない。ここの牧草地を作ったのもスピりだよね。」

「姉さんは鋭すぎるよ…。川を作って終わるはずがないよね。」


 よく分かっているじゃない。最適を考えているのだから手抜きはしない。


「スピりに下手くそと言えるね。まず牧草地を防護壁で囲むのをやめて。圧迫感がある。結界は更に先だから問題ないでしょ。無敵紙を貼り付けた木の柵にして。高さ3m、隙間0.3m、木の幅0.3mね。大変なら幻影でもいいよ。それと奥の左右にある池は消して牧草に変えて。そして中心に半径10mの池を用意して。中心の深さ0.5mのボウル状で底は岩だよ。そこから左右に川を作って。幅3m、深さ0.3mで底は岩だよ。怪我しないように壁の角は取ってね。そして川を挟むように木を植えて。10mごとに1本だよ。川から2mは離して。大木だと嬉しい。池は木で囲まなくていいからね。どのくらいでできるのかな?」

「防護壁は馬と牛に圧迫感を与えるみたいだね。池と川の壁や底は岩じゃなくても吸い込めないようにした無敵紙を岩に偽装するよ。池から緩やかに流れる川を左右に作るね。そして大木が36本。馬と牛が木陰の奪い合いをしないようにするためだね。大仕事どころではないからスピりに文句を言ってくるよ。」


 スピリに文句を言う理由ができて嬉しそうに消えた。

 甘えん坊はアグリから文句を言われた後にクロアから説教されるといい。


「お姉ちゃん、今のはできなくてもいいから言ってみたの?」

「お姉ちゃんが今のように変えるべきだと考えたんだよね。何故自信を持って言えるの?」

「私の役目だからね。自信がないのなら何も言うべきではないの。絶対に採用されるから。そして私の考えた案より最適だと思うことがあれば言えばいい。私はフィディーと話しながら決めたよ。あなた達は歩きながら考えていた?乗馬している馬のことを考えていないと駄目。そして馬の気持ちが分かるようにならないと駄目。意識しなくても考えながら馬の気持ちが分かるようになりなさい。」


 とても難しいことだけれど、楽しみながら覚えなさい。

 乗馬している馬のことを心から好きになれば自然と分かるようになる。


「フィディー、牧草地の出入口の方を見ていなさい。私たちが考えたことで何が起きるのか期待していなさい。一緒に考えたのだから絶対にフィディーの期待は裏切らないよ。」

「い、今の話が全て実現するのですか…?」


 期待と不安が入り混じっている。

 期待しすぎているのかもしれない。そして落胆したら私を悲しませることになる。そのようなことを考えているみたいだね。


 安心しなさい!

 少ししてアグリが姿を現した。


「姉さん、終わったよ。勉強を中断して総動員だよ。スピりは説教されるね。」

「ありがとう。アグリたちは乗馬しないの?私についているのなら乗馬する馬を探してくればいいじゃない。クロアに精神を保護されているのだから人として行動しないと駄目だよ。」


 フィディーが歓喜の声を上げているけれど、止まる気配がない。

 そして私の言葉を待ってくれている。


 せっかくだから皆で楽しみたい。アグリとスピリと他の班長も含めて皆で楽しんだ方が今をより楽しめる。今をより大切にできる。


「改善が落ち着いたら姉さんの意見としてクロアに聞いてみるよ。今は姉さんの馬との接し方をクロアに伝えないといけないからね。だけど姿を見せていると姉さんと話してしまうよ。それにクロアの2頭目の馬に乗る日が決まっているので全く遊ばないわけではないからね。」

「そうなのね。あなたと昼寝できる日を楽しみにしているよ。」


 アグリは笑いながら姿を消した。

 ディアはクロアの分身が笑えることをどのように思うのかな。


「フィディー、これが私たちの仕事。作ったのはクロアたちだけれど、考えたのは私たち。壁が消えて閉じ込められている感じがしなくなったでしょ。それにここからでも水が飲める場所が分かる。水遊びもできる。フィディーの意見と感情を元にこれを考えたよ。私たちでは作ることができないから自慢はしない。だけど誇りなさい。さあ、見に行くよ!」

「はい!見に行きます!」


≪多重念話≫


「アディ、ローア、これからはこの子に走ったと言わないで。先程は本当に歩いていたけれど、今は無自覚で走っている。分かったね?」

「分かったよ。速すぎるね。」

「分かったよ。速すぎです。」


≪多重念話終了≫


 予想していたよりも速い。

 流石にこの姿勢では厳しい。それに池に飛び込むつもりでいる。


「池の深さは0.5mだよ。底は固いけれど、飛び込んでみる?それと鬣を掴んでもいい?」

「いいのですか!?水浸しになるかもしれませんよ!?鬣は掴んでもいいですよ!」


 池に向かって走りながら何を言っているの。


「よく分かったよ。飛び込みなさい!絶対に足で池の底に着地しなさい!」

「行きますよ!本当に行きますよ!」


 この改善で正しいのか確認が必要だからね。


「フィディー、これを考えた私たちが最初に遊べるの。行きなさい!」

「行きまーす!」


 視界が流れる。耳から聞こえるのはビュービューという風の音だけ。

 そしてフィディーが跳ぶと私の心臓が浮いたような気がした。あっという間に着地したと思う。だけど私にはとても長い時間跳んでいたように感じた。


 バシャンと音と共に水が舞い上がる。しかし私には余り水がかからなかった。

 これでは物足りないね!


「派手に飛び込んだね。深さはこれでいいの?馬は足がつかない深さの水に入っても前に進めるはずだよ。フィディー、決めてみなさい。」

「試してみたいです!」


 挑戦する気持ちまで湧いている…。


 心の傷は簡単に治らない。まだ深く残っているけれど、血は止まったね。あとは私が優しく両手で傷を閉じてあげればいい。傷が繋がり治るまで。そして治った後も両手で温め続けてあげるね。


「それでは陸に戻って。」

「分かりました。」


 絶対に名前を呼んでほしいから出てこないよね。


「アグリ、池の半径6mは深さ3mにして。そして陸に上がれるように滑らない坂にしてね。」

「楽しそうだから私も今度飛び込むよ。変更完了だよ。そして違うからね!」


 アディとローアは様子を見ている。私たちを邪魔しないように気を遣ってくれている。だけど早く飛び込みたくてうずうずしているのが分かるよ。


 楽しさがそこにあるのならフィディーは走ることができる!


「フィディー、先程と同じ速さで飛び込んでね。」

「任せてください!柵まで戻ります…。それでは行きますよ!」


 柵からの距離を使って全速力で飛び込むつもりだね。

 走り出した。先程よりも速い。楽しいね!フィディーも楽しいよね!


 そして跳んだ…。

 一瞬なのにとても長い時間。私も期待に胸を躍らせてしまう。

 

 ザバァーンという音と共に私とフィディーが水中に沈んだ。

 初めての水中で驚くのは分かるけれど、そろそろ泳ぎなさい。首を指で少しだけ強く押すと私が背にいることに安心してくれたみたい。水底を蹴ってすぐに浮上した。


 ぷはっ!泳がないかもしれないと焦ったよー。


「あはははは!フィディー、楽しめた!?」

「凄いです!初めてです!少し苦しかったです!それに足がつかないのに水の中を進んでいます。フィオナの脚は水の中に入っていますよね。全身に水がかかったと思いますが大丈夫ですか?」


 このおバカさんは何を言っているのかな。楽しすぎて興奮しているね。

 背中を少し強く叩くとパチャンと音がした。パチャンパチャンパチャンと叩いた。


「水中に沈んだの。脚が水の中に入っていても気にならないよ。フィディー、私たちの仕事は楽しいこともあるけれど、危険も見つけなければならない。陸に上がってからこの遊びは何が危ないか考えてみて?」

「そうですね…。飛び込む前にぶつからない。そして池の中を確認しておくことです。」


 ザバァーン、ザバァーンと池に飛び込む音が続いた。アディとローアがほぼ同時に飛び込んだね。後ろを見るとつれてきた2頭目は飛び込まない。人が乗っていないと怖いのか序列を気にしているのだと思う。2人と2頭が水中から顔を出したので話に戻ろう。


「全ての馬が水中に沈んでも大丈夫だとは限らないの。ここでは馬だけで遊ぶことができる。最初から飛び込むのではなく水中を進めるのか確認してから遊ぶことができる。だけど序列上位の馬が水を怖がる下位の馬に無理やり飛び込ませたら命が危ない。クロアがいるから絶対に命は助かるけれど、池が怖くて近づけなくなるかもしれない。だから皆が楽しく過ごせる場所にするためには決まりが必要なの。そこまで考えるのが私たちの仕事だよ。この場所の決まりごとをフィディーが考える?」

「えっと…、フィオナ。間違えてしまうのが怖いです…。考えられません。」


 素直でいい子だね。考えてみて考えられないと判断した。


「フィディー、私たちは飛び込んで遊んだけれど、皆が楽しく過ごせる場所にしなければならない。馬と牛が一緒に過ごすからここでは飛び込むべきではないの。3mの深さがあれば飛び込んで遊べると分かった。それなら飛び込んで遊べる場所を作ればいいだけだよ。ここでの決まりごとは飛び込まない。池の深さを1mに変更する。ここは牧草を食べながらゆっくり過ごす場所。飛び込む場所は別に作る。そうすれば危険は減るでしょ。」

「フィオナは私にそれを教えるために深くしたのですか?」


 私は先生ではない。フィディーが大好きな主だよ。


「違うよ。フィディーが楽しそうだったので深くしてもらったの。だけど昼寝するためにここに来たのに飛び込む音が煩かったら嫌でしょ。」

「私が楽しんでいたからですか。私のためだけなのですね…。」


 恥ずかしいのかな?

 私は晴天なのにずぶ濡れ姿でいる方が恥ずかしいよ。


 アグリは呼ばないと姿を現すつもりがないね。反抗期かな?


「アグリ、池の深さを1mに変更して。そして飛び込める場所を作ろう。北と南どちらが水回りがいいのかな?隣に作って柵で分ければいいよ。縦横200mの土地で地面は芝生でいいよ。そして北側か南側のどちらかに縦30m、横30m、深さ3mの先程の池のような飛び込む川を作って隣と繋げて。それと柵に透明な無敵紙を貼り付けて防音して。柵だけで防音してくれるので結界は必要ないよ。」

「姉さん、改善ではなくて改造しているよ。飛び込む側で水を生んだ方が楽だから北だね。飛び込みもできるし安全に追いかけっこもできる。疲れたら隣に行って休めばいい。仔馬と仔牛のことまで考えた遊び場所だね。スピリが雑な仕事をしたから今日は大変だよ。また文句を言ってくる。そして違うからね!」

「お姉ちゃん、クロア姉ちゃんの力を好き勝手に使って遊んでいると思ったけれど、真面目に考えているんだね。」

「お姉ちゃん、私は全く思っていないよ!アディはとんでもないことを言うよね。お姉ちゃん、アディも改善した方がいいよ。皆が楽しく過ごすためには必要なことだよ。」


 やはりアグリは反抗期なのかな?話し終えるとすぐに姿を消してしまう。

 そして即座に姉妹を売る素晴らしい家族愛が見られたよ。


「姉さん、スピリが泣きそうな顔をしていたよ。素晴らしいね!今日はこのくらいかな?」

「あとは牛を牛舎から転移させて牧草地で休ませてあげたいと考えているよ。栄養のある食事も大切だけれど、家の中にずっといるのは退屈だからね。今日はそのくらいで後はゆっくり散歩して気になった場所があれば改善かな。牛の序列1位に確認してみて。」


 反抗期だと疑われたからアグリは姿を消さないのかな。


 牛がどんどん転移されてきた。最初は驚いたけれど、場所を見て安心したね。ゆっくりできる場所だと理解してくれた。そして反抗期なのを隠すためだけにアグリは分身して確認させたのかな。


「姉さんの思った通りだったよ。余り歩けなくても牧草地なら休めるし喜んでいるね。屑を処理するより仕事して喜んでもらえる方が楽しいね。私も勉強させてもらったよ。ローア、説教は確定しているから諦めてね。そして絶対に違うからね!」

「嘘でしょ!?私は無罪だよ!」

「私を止めなかったから有罪だよ!」

「2人とも心に傷のある子に言ってはいけない言葉を何度も口にしたよね。その説教は15分くらいで終わるよ。だけどアディは更に1時間は必要かな。私がクロアの力を使って好き勝手に遊んでいると言ったからね。残念ながらそのようなことは一度もないの。アディの性根を叩き直すのは大変そうだね。お尻叩きの方が早いのかな。明朝に回復魔法を使ってもいいよ。好きな方を選びなさい!」


 アディが項垂れたね。私たちの仕事を馬鹿にしたから当然だよ!

 そして反抗期のアグリは否定してから消えたね。


「フィディー、私たちに変える力はないけれど誇れる仕事でしょ。飛び込みたいのなら気が済むまで遊んでいいよ。どうするの?」

「はい!私もたくさん考えて意見が言えるようになりたいです。そして新しくできた川に飛び込むのも私が最初です!」


 アディとローアの馬が必死に走っているけれど、差が開いていく。

 今でも走るのが怖いのは変わっていないはずだけれど、フィディーは全力で走っている。飛び込むことだけを考えているから無意識だけれど、走っていると意識したら今は走れなくなると思う。

 だけど考えてくれる。何故走ったのかを理解すればフィディーは成長する。そして走ることは楽しみに繋がるとまで思ってくれたら最高だけれど、簡単ではない。それでも時間はたくさんある。


 これからも焦らずに2人で楽しもうね!


 午前中に全力で走り川に飛び込み続けたフィディーはお昼前に疲れ切っていた。午前中はそこで乗馬を終わりにして2頭目がいるアディとローアを別行動にした。昼食後に顔を見に行くとフィディーは起きていて乗ってほしいと言った。絶対に私を乗せるという意思を感じた。

 散歩したら倒れてしまうと感じたのですぐに牧草地に行った。そしてフィディーに頭を乗せて昼寝したいので腹ばいになってと指示した。フィディーはその指示を拒まなかった。絶対に昼寝するという私の意思を感じたからだと思う。

 私がどのように寝ようか考えているとフィディーがどこでも大丈夫と言うので、お腹に上半身を乗せても大丈夫なのか聞いてみたら「本当に大丈夫です!」と笑われた。

 上半身をお腹に乗せて仰向けになった。苦しくないのか聞いたけれど、「絶対に大丈夫です!」と更に笑われた。どうやら私が心配しすぎているみたい。


 牛がモーモーと鳴いていてる牧草地でフィディーの体温と鼓動を感じながら目を閉じた。

 少しするとフィディーの焦りを感じたので首の付けてを優しく撫でた。


「フィディー、動かないで。妹が会いに来ただけだだよ。不死の体でクローディアを特別だと考え私を弱いと内心で馬鹿にしている。精神安定のための長女だと考えている。それでも家族だと思ってくれているだけでよかった。だけどあの子たちは生きることを簡単だと考えたのね。私でも100年間生きているから。だけど朝の乗馬だけで命を感じて恐怖した。そして何も言わないので思考把握したら人形に苦しめられたクロアと一緒に人形として過ごしたいと考えている。予想通りだとして姉に何を聞きに来たの?」

「姉さんだけなの…。人と動物に配慮しながらそれでも私をただのクロアとして見てくれる。一緒に過ごしたのはまだ半年くらいだけれど、姉さんだけが私の幸せを考え続けてくれている。姉さん、私は今でも幸せだよ。だけど人形になりたい2人をこのままにしておけない。ディアとの約束も洗脳されていたときで一緒に死ぬのは間違っていると思う。姉さんに焚き付けられたから立ち上がってくれると思っていた。そして生きていれば姉さんのことも理解してくれる日が来ると考えていた。姉さんが道化になってくれたのに…。私のしようとしていることは間違っているのかな?」


 記憶を完全に消して3年間の記憶を入れれば2人とも個性のないクローディアになる。それが一番簡単で一番確実で家族を減らすことはない。だけどディアとロディという名前が同じ別人を育てることになる。クロアはそれをする前に私に確認しに来たのね。


 今のディアとロディの個性は残してあげられない。それでも生きた1日を大切にしたい。

 ごめんね…。


「クロア、初めて会ったときのディアを忘れたの?あのときのディアの優しさは洗脳ではないと思っているよ。ディアには拷問の2日目までの記憶がある。拷問に怯えるディアを助けてあげて。ロディは初めて外に出たとき命を奪うことを悲しんでいた。初めて外に出た理由を変えて。そして2人を名付けたのもクロアにする。2人は人形によって心を変えられてしまった。消すのではなく助けてあげる。妹を助けてあげるのは姉の役目でしょ。それとアディとローアからディアとロディの記憶を消して。助けたロディからもディアの記憶を消して。クリスとミュリエルは事情を話せば理解してくれる。クロア、最高の笑顔で2人を助けてきて。クロアが笑えば2人は絶対に安心するから。」

「この状況でも私との約束を守るんだね。今から妹を助けに行くことになるとは思わなかったよ。長女がいつも障害を排除してくれるね。行ってくるよ!」


 次女が笑顔で末っ子を助けに行った後に反抗期の妹が来た。

 私のために何故泣いているの?


 目を開けた。


「アグリ、何故泣いているの?命を捨てるように生きてきた私が家族の命を大切にするのが納得いかないの?」

「違うよ!姉さんはいつも人のために悲しむのに自分のために悲しまない。姉さんが仮想体のディアとロディの変化に気づかなかったのも2人が思考誘導されていたから。自分を責めるのはやめて!命を全て家族に捧げるのもやめて!」


 家族のために命まで捧げているとは知らなかった。


 私が死ぬことで家族の誰かが生き残ることができるのなら笑顔で死地に行ける気はするけれど、そのように考えることをやめてほしいのね。だけどできないと知っているでしょ。それにこれから先も家族に尽くすつもりだから何も変わらない。


 それでも泣くほど私を変えたいの?

 本気なの?


「アグリ、クロアから体をもらって。反抗期だから10歳かな。幼い頃から夢見て憧れていた家族に全てを捧げてしまうのが無意識だと知っているでしょ。100年間もいつ殺されるのか分からない日々だったから目標を考えられない。言葉だけでは生き方を変えられない。私の生き方が間違っていると思うのであれば変えて。私を変えることに縛られることなく一緒に人生を楽しんで。分身の枠を超えてさらにその枠を壊してみる?本気なら私の細胞で私の妹になりなさい。」

「無茶苦茶すぎて笑えてくるね。姉さん、本気だよ!家族のことを考えて一緒に暮らす。そして私たちも目標を持って人生を楽しむのなら問題ないね。私が消されるのか10歳の姉さんの姿で妹になるのかどちらかな。体を作るのに魔法で加速させても2週間はかかるね。今から世界の女王様と交渉するよ…。姉さん、交渉成立だよ。今から名付けてよ。」


 本気なのね…。

 命のある家族の言葉は無視できない。


 私のために消滅まで覚悟して行動してくれた。

 初めて考えた名前はこの子に贈りたい。新しい名前を考えるから許してね。


「クロア並みに常識を壊すね。オフィーリアとして妹になりなさい。私が初めて考えた名前はあなたに贈りたい。黒髪にしてね。家族で派閥を作りたくないから。次に会う日を楽しみにしているよ、オフィーリア。」

「姉さんは今を大切にするね。家族になるのに壊すようなことはしないよ。それにクロアから姉さんを幸せにするように頼まれた。アディとローアも可愛がってあげないとね。姉さん、三女のことは秘密にしておいてね。何度か消されるかもしれないと思ったけれど、覚悟して前に進んだら今に繋がった。スピリが悔しがっていたよ。4女になりそうな勢いだね。姉さん、それでは行くね。」

「早く帰ってきなさいよ、オフィーリア。」


 満面の笑みを残してオフィーリアが姿を消した。


「さあ、フィディー。昼寝するよ。」

「フィオナは何故私にも優しくできるのですか?」


 今日は妹に質問される日なのかな?

 

「フィディーも私の甘えん坊の妹だと言ったはずだよ。だから今を大切にして楽しんでほしい。今日は朝に楽しみすぎたので昼寝するの。絶対に無理はさせない。嫌なこともさせない。だけど姉の昼寝には付き合いなさい。それと明日にはくだけた口調になっているよね。」

「そうでしたね…。明日まで…、には…。グー、グー。」


 フィディーの空寝で脱力した。計算してくれた演技ではないけれど、心が軽くなったよ。

 牛の鳴き声が少しずつ小さく聞こてくる。はぁ…、疲れたよ…。

クロアはフィオナを救う方法を探していました。そしてアグリがフィオナのためにスピリを無視したので何かの切っ掛けになると考えました。アグリに体をほしいと言われしかもフィオナの許可を得てフィオナの細胞で作ることになったので即採用です。

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