表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界は子を愛す  作者: 大介
第1章 現実

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

64/136

第64話 長女と姉

 夕食の時間に皆が揃うと賑やかになる。食事が始まっても末っ子4人の作戦会議は終わりそうにない。食事よりも会話が優先されていくのが目に見えて分かる。だけどクロアの一言の破壊力は凄い。「私たちの作った料理よりも会議が大切なの?」この言葉だけで作戦会議は中断した。


 クリスとミュリエルはドラゴンの話を続けている。ミュリエルは知らないことを楽しむことができるのでクリスとの会話は楽しいに違いない。

 それにクリスが馬と話せるという理由で泊まっていくとは思わなかった。ドラゴンと話せるようにするための参考になると考えているのかもしれないし、久しぶりに皆で過ごしたくなったのかもしれない。


 食事を楽しんでいるときに大切なことを思い出した。


 クロアに動物の星にするのが無理だと伝える必要がある。ドラゴンも魔獣も動物だけれど、クロアの考えている動物の星とは違うはずだから。

 クリスがあらゆる動物を生み出せるのであれば別だけれど。


「クロアが生きている限り動物王国は維持できるけれど、それが限界だと思う。動物の星にしてあげたいけれど、草食動物だけしかいなければ必ず自滅する時が来る。実験場に魔力を持たない肉食動物がいるのであれば食物連鎖ができるけれど、肉食の魔獣ではそれができない。魔獣からは絶対に逃げられないから絶滅する。それを考えると魔力を持つ動物と魔力を持たない動物は生息域が違ったはずだよ。そして動物は子孫のために個体数を調整することがないからね。」

「敵がいなければ植物を食べ尽くして餓死するまで増え続けるという事だね。その敵が肉食の魔獣だとあっという間に食べ尽くされてしまう。ここでは私が飼える個体数を維持してドラゴンの星にするしかなさそうだね。他にも気づいたことがあるのでしょ?」


 クロアだけで世話するのは今でも変わらないみたい。


 気づいたというよりも知っている知識を教えようと思ったけれど、人が飼育してきた環境が最善だとは思えない。それよりも動物に聞いた方が確実だから。そして明日になれば人と馬と牛が言うと思うけれど、これだけは先に対策しておくべきだね。


「色々と言いたくなったけれど、クロアが動物と相談して決めればいいことに気づいたよ。だけど鶏舎だけは防音しておいてね。」

「姉さん、鶏に防音してとは言われていないよ?」


 動物が自分の鳴き声を迷惑だなんて考えるはずがない。それに迷惑だと気づいているのであれば大声で鳴かないでほしい。そしてクロアには誰でも知っていると思うようなことでも確認して教えてあげることが大切。それも私の役目だね。


「鶏が言う訳が無いでしょ。早いと午前3時くらいから大声で鳴き出すから絶対に防音して。馬と牛が起こされるよ。当然だけれど、私たちもね。それと動物小屋には陽の光が入るようにしてあげて。陽の光で起きた方がいいから。そして鶏に毎日卵を産むのか季節や気温によって卵を産まなくなるのか聞いてみて。卵を産まなくなるのであれば鶏舎には気温を反映させて。卵を産み続けるのが鶏にとっていいことだとは思えないから。大声で鳴く理由は分からないけれど、餌が欲しいなどの理由ではないので防音しても大丈夫だよ。」

「厩舎と牛舎には気温を反映させなくてもいいの?」


 季節の違いは陽の出入りが間違いないと思うけれど、気温で判別する動物がいてもおかしくはない。それに繁殖期は本能で動物自身は特に意識していないのかもしれない。

 そのときは気温を反映させた方がいいと思うけれど、確認した方がいい。そして寒暖差の少ない場所の方が体にかかる負担が軽く過ごせると思うけれど、それは私が思っているだけなのかもしれないから。


「陽の出入りだけで季節を判別しているのであれば気温は反映させなくても問題ないと思う。鶏舎も含めてね。だけど動物には繁殖期があるので気温を反映させた方がいいのかもしれないから確認してみて。繁殖期はメスが妊娠できる期間で出産するときに子が過ごしやすい季節にするためにあるの。」

「動物を大切に飼うのは難しいね。明日から色々と聞いてみる。とりあえず姉さんの言ったことは改善したよ。分身も漸くお城から帰ってきた。絶望させてきたみたいだね。だけど激怒していた理由は結局教えてくれなかった。」


 無防備な私を思考把握したのだと思う。そのときに私が何を考えていたのかは分からないけれど、昔のままであれば何も考えていないはず。残念ながら記憶には残ってしまうけれど…。

 だけど今日はクロアを守るつもりでいた。だから切り替える予兆を感じて意思を持ち込めたのかもしれない。それが激怒の理由になるとは思えないけれど…。


 それよりも分身が本体を無視していることの方が気になる。


 食事が終わり一息吐いたところでクロアと一緒に食器を片付けて皆でお風呂に入った。クリスが「お風呂も偶にはいいね!」と嬉しそうに言っていたけれど、研究所ができてから初めてだと思う。一切汚れない体だから別に問題はないけれど、昔も余りお風呂に入っていなかった気がする。


 お風呂から出たら寝るまで自由時間。


 クリスの部屋はないからリビングで紅茶を飲みながらミュリエルとドラゴンの話を続けていた。ミュリエルが部屋に入ると孤独になってしまうので寂しかったのかもしれない。それに1人になるクリスを気遣って話を聞いている気もする。


 そして私も自室に行くとアディとローアが椅子に座っていた。


「枕投げか作戦会議すると思っていたよ。何故いつも最初は黙っているの?言いたいことがあるので部屋に来たのではないのかな?」

「お姉ちゃんがクロア姉ちゃんを説教しているとは知らなかったよ。ディアが言っていたクロア姉ちゃんに説教する覚悟って何なの?」


 ローアが質問してきたけれど、2人とも真剣な顔をしているのでディアの言葉が私の命に関わっていると考えているのだと思う。そしてディアがそのように考える心当たりを2人が隠している気がする。


 恐らく私が家族を大切にしているから…。


 クロアを説教した私に覚悟と発言したディアだけではなくロディも私を殺したいと考えたのであれば原因は見当が付くけれど、クロアがそれを検証しているとは限らない。

 だから2人の命を守るためには今まで通りでいてほしい。それに今から動けば最悪の結末も考えられる。それだけは絶対に避けなければならない。


 今晩は私が考えている覚悟を伝えて明朝にクロアと話す。

 アディとローアが話す内容だけで問題ないと判断していた私の失態。


「クロアは世界最強で世界の女王様だよ。怒らせたら全てを無かったことにする力がある。だけどクロアを信じていれば何も怖くない。覚悟が必要だとしたらクロアを信じること。それとクロアが自分のことを信じていると疑わないことだね。家族なのだから何を言ってもいいの。汚い言葉は別にしてだよ。」

「クロア姉ちゃんに一番近いディアがお姉ちゃんにしかできないと言っているんだよ。私たちとお姉ちゃんでは決定的に違うところがあるはずだよ。」


 アディが本当に言いたいことは別だと分かる。


 クローディアではない私の命が一番危険だと分かったよ。だけどそれを言ってしまうと家族で私だけが仲間外れになるので避けている。本当に優しい子…。


「妹を特別扱いしないことかな。3歳も16歳も一緒だよ。間違っていると思えば指摘したり説教する。だけど私にも同じようにすればいいの。家族は平等だと本気で思っているよ。もしディアがクロアを説教している回数が少ないと言ってきたら自信を持って3歳児が間違えていることが多すぎると言える。それが長女の覚悟だよ。」

「これからもクロア姉ちゃんを説教したりするという事なの?」


 もう一度クロアを説教したと知ればディアが私を殺しに来る。あなた達が私を心配してくれているのは伝わっている。だけどあなた達が望む言葉をかけてあげられなくてごめんね…。


「何故今日が初めてだと思ったの。クロアを説教したことは少ないけれど、指摘したり注意したことは何度もあるよ。末っ子が知らないだけ。終わったことを聞かれても何も言わないからね。」

「お姉ちゃんの長女の覚悟は分かったけれど、絶対に足りないよ。無知な人が説教紛いのことをするのとはわけが違うから。本当の覚悟は秘密なの?」


 理由があるのなら教えてほしいのね…。

 あなた達の言葉が私の甘さを痛感させる。


「ローア、難しく考えればいいものではないよ。それに長女の覚悟を軽く見すぎ。長女でいるためには家族が必要なの。血の繋がりのない私たちが家族になって日が浅い。だから些細なことでもバラバラになる可能性がある。あなた達が成人して好きなことをするために独立するのであれば別だけれど、それまでは家族を維持するつもりだよ。家族を維持し続ける。問題が起きても末っ子まで届く前に潰す。それが長女の覚悟だよ。」

「ごめんなさい…。」


 謝らないでと叫びたい…。


 末っ子の間で問題が起きてもほぼ毎晩お風呂上りに話を聞いているので大丈夫だと考えていた私の失態だから。それにあなた達が私のために嘘を吐くとは考えていなかった。だけどその賢さは自分のために使ってほしい。部屋にいるときはあなた達だけの姉なの。あなた達が最優先なの!


「謝ることではないよ。それと明日乗馬する馬の心には傷があるの。癒しあげなさい。あなた達は幼く馬から見れば頼りない。それなのに2頭の主で序列も意識しなければならない。だけど難しいからこそ成長に繋がるよ。どうにもならないときには聞きなさい。分かったね?」

「分かったよ。任せて!」

「絶対に癒してあげます!」


 2人の表情を見ると不安を消してあげることができなかった…。


「それでは寝よう。布団に行くよ。」

「はーい。」


 リビングではクリスとミュリエルが話し続けていた。クリスがミュリエルのことを勘違いしている気がするから少し注意しておこう。


「クリス、話している最中に悪いけれど、ミュリエルは普通の人間だからね。人間として暮らすのか私たちのようになるのか考え中だよ。まだ話し続けるのであればそれについても話してあげて。」

「えっ!?世界一運が良い人間じゃない。何か悩みがあるの?」

「目的や目標がないとここでは暮らせませんし後悔しそうですから。それに何も見つからないのです。何をすればいいのか分かりません。」


 クロアと同じように今まで自分で考えたことがない。支配されてきたから。だけど理由は何でもいい。自分で決めたという事が大切なのだから。


「フィオナ、ミュリエルはクロアに近いの?」

「私からは言えないよ。ミュリエルが過去を話してもいいと思うのであれば話して。」

「人の過去を話してはいけないという事ですね。私の過去は隠すことでもないですし話します。気づいたときには貧民街で残飯漁りをしていました。そして悪い組織に捕まりました。それからの日々は名前も知らない王子を殺すためだけの教育でした。その場所には他にも色々な人がいましたが目の前で殺されました。そして王子を殺すためにどこかの国の王女としてお城に入りました。ですが王子は殺されていました。慌てて組織に戻ると壊滅していました。王女として通された部屋に立て籠もるのが安全だと考えて実行しましたが王女と間違われて集められました。その日から孤児院で働くことになりましたが孤児院が潰れたときに私以外の働いていた女性は帝都に帰って行きました。私には帰る場所もないのでここで暮らすことになりました。傷は治してもらいました。今はやりたいことを探すために勉強中です。」


 王子を殺す教育がまともなはずがない。全てを教育として受け入れてきた。そして精神的に追い詰め逃げる気を起こさせないように何人も目の前で殺している。

 ミュリエルは気づいていないけれど、命令を成功しても殺す組織。使い捨てにできる命として貧民街の子を攫っていた。


「自分の意思で何かしたことがないのはクロアと一緒だね。まだ20歳未満だと思う。普通に生きていてもやりたいことは簡単に見つからないよ。多くの人が何となく生きて何となく死んでいくの。残酷な言い方をすると寿命を延ばして生きるのが辛いと感じたら殺してもらえばいいよ。それにやりたいことは見つけるよりも見つかることの方が多いからね。そしてやりたいことを探すために勉強するのは辛く苦しいから知識を得るためでいいの。私の助言としては寿命を延ばして強くなって知識を得て世界を知るべきだね。」

「悪くない助言だけれど、殺す側のことを考えてよね。苦しみから解放するためだと思えばいいのかな…。ミュリエルが勉強を続けて世界を知りたいと思うのであればクロアに言えばいいよ。但し、クリスに言われたからではなく自分の意思で決めなければ駄目だよ。」

「分かりました。時間を見つけて伝えてみます。」


 クリスの助言で決めたみたい。

 辛く苦しい日々を過ごしてきたので今後はたくさん楽しめるといいね。


「という事で程々にしてあげて。それでは寝るよ。」

「遅いよ!5分は待ったからね!」

「アディ、5分を気にして行動したことがないよね。それに斬新な発想で面白かったよ。」


 アディに腰を押されながら布団部屋まで歩いた。


 襖を1人通れる幅だけ左に引くと右側の布団には3人が眠っていた。クロアは既にディアとロディに抱きつかれていた。


 先に入りアディとローアを部屋に入れてから襖を閉めると、いつもと同じ明るさで布団がぼんやりと見える。左から2枚目の布団に入ったけれど、今晩はアディとローアを安心させてあげなければならない。やはりすぐに2人が抱きついてきた。


 起きているのに抱きついてくるのは不安を感じているときだと知っている。


 そして今は私の死がちらついているのが原因だと分かっている。孤児院が潰れたときやディアとロディに負けていると実感したときもすぐに抱きついてきた。

 このようなときは決まって2人の背中を優しく撫で続ける。2人の体から緊張が解けるまで。そのあとに私も眠る。部屋で話すときと眠るときは長女ではなく2人だけの姉だから。


 目が覚めると襖上の壁の中心に付いている時計を見る。針と数字がほんのりと光っているので顔を動かすだけで時間が分かる。7時5分を少し過ぎた頃だったので私に抱きついたまま眠っている2人の背中を軽くパンッと叩く。「ンー」や「ウーン」と言っているのでもう一度叩くと不機嫌な顔をして2人が起きる。


 眠っている人がいるときに声を出すとクロアに怒られると身に染みているので不機嫌な顔で二度叩かれたことに不満を表している。

 可愛い顔を不機嫌にしても可愛いので気にせず私も起きて布団部屋から出るとアディとローアが左右の手を握った。私が食事を作りに行く前に話したいことがあるのね…。


 ディアとロディだけが座っているリビングを素通りして自室に入った。

 そしていつもの丸椅子に座った。


「何か言いたいことがあるのでしょ?」

「お姉ちゃんに目的や目標はあるの?」


 アディ、家族を維持してほしくないのであればそう言いなさい。

 今朝は昨晩と違い動くからね。


「長女ではなくあなた達だけの姉として質問するから答えて。私が出て行くとき一緒についてくるのか残るのか教えて。」

「ついていく!」


 破顔するほど我慢していたのね…。


「私のために嘘を吐かせてごめんね。今から解決してくるので部屋で待っていなさい。そして殺されることは絶対にないから安心しなさい。それに戻ってきてからあなた達に言いたいことがあるの。」

「クロア姉ちゃんと話すのでしょ。絶対はないよ!」

「その通りだよ。最強と話すのに絶対はあり得ないよ!」


 当然確認する。

 いなければ3人で行かなければ不安だから。


「今からそれを確認するよ。クロアの分身いるでしょ。姿を見せなさい。あなたの検証によってこの子たちが懐疑心を持ってしまった。私には黙っていてもよかったけれど、この子たちを巻き込まないで。命だけを守ればいいというものではないよ。事情を説明して万が一のためにこの子たちを守っていて。」

「姉さん、怒らないで。4人で楽しそうに話しているし感情にも異常がない。それに会話の内容で判断することができない。他にも理由があるけれど、姉さんなら気づいているでしょ。アディとローアには説明しておくからよろしくね。」


 2人がクロアの分身を見て何か事情があるのだと納得してくれた。そのため3人に手を振りながら自室を出て料理部屋に向かった。


 クロアが会話の内容で問題があると気づくのは難しい。子供のときに遊んだ経験がないから。更にアディとローアの楽しそうにしている演技が完璧で見抜けなかった。

 思考把握しても2人に不満がなかったのだと思う。私のために現状を受け入れてくれていたのかもしれない。


 そこまで徹底できる2人でも私の死が見えたから行動した。

 私のためだけに行動させてしまった…。


 料理部屋に入るとクロアが料理を作っていた。


「クロア、ディアとロディを思考誘導していたでしょ。」


 クロアはコンロの火を止めると私を見た。


「やはり気づくよね…。姉さんを長女だと思うように思考誘導していたよ。だけど何も反応がないから不満はないと思っていた。そのため解除したけれど、姉さんが私を説教していると知ったら姉さんを強く否定した。思考誘導が付与されている状態でも一緒だったと思う。私を説教したと知った瞬間に反発する。昨晩ディアとロディを感情把握と思考把握して記憶まで確認したけれど、ディアの考える長女は私の精神を安定させるための存在でしかなかった。だから姉さんが許すことのできる条件を教えてほしい。」


 やはり思考誘導していた。反応がないというのも嘘だね。本当は思考誘導しなければ家族を維持することができないと考えたからだと思う。

 そこまでしていたのならアディとローアを平等に扱うための思考誘導も付与しておきなさい。


「あなたは本体だと思っているクロアの分身だよ。ここに来れば本体が待っていると思っていたけれど、まだ分身が残っていたみたいだね。納得できる理由があるのよね?」

「なるほど…。その言葉で私が分身だと思い出したよ。本体を呼び出すね。姉さんが納得できるのかは分からないけれど、ディアとロディをどのようにするべきか決められないの。私はやはり疑わしかった?」


 クロアも相当焦っているみたい。ディアとロディを納得させるために情報を集めたけれど、2人を納得させる自信がない。

 2人は絶対に約束が守れるのでクロアに残る選択をしたのに、クロアが出て行けと言わなければならない。それは流石に厳しいと思う。


 そういうときこそ私を頼りなさい!


「思い返せばいくつも疑うところはあるけれど、一番はディアを思考誘導したことだね。そして体のない未熟な精神は健全に成長しない可能性がある。クロアに分身体をもらってからディアとロディは一度も本体に帰っていない。クロアの中に残る選択をした2人だけれど、それが本当に正しいことなのか分からない。情報が何もないから自分の分身も一緒に試験してみた。あなたはディアとロディを思考誘導しないと家族を維持できないと考えたのでしょ。今のディアとロディは世界の女王様の妹で世界の王女様になっている。そしてアディとローアに対する思考誘導を付与していなかったのでディアの言葉に2人は危機感を持った。2人の前では世界の王女様だったから。この状態をディアに教えても毎晩本体に戻ると言うだろうね。それでも問題は残る。本体に戻れば大丈夫なのかも分からない。仮想体を解除することが本体に戻ったことになるはずだから。だけどディアは仮想体を解除したことがないから。」

「何を検証していたのかまで把握しているね。流石姉さんだよ。」

「姉さん、お待たせ。あなたも一度私に戻りなさい。違いがよく分かる。」


 クロアが分身を解除してから新しい分身を作っただけのようにしか見えない。だけどクロアの言葉は分身に個性があるかのように聞こえた。

 そして分身に個性を持たせれば自分とは違った考え方をしてくれる。分身を作ったことがない私では想像することしかできないけれど、それでも難しいことをしているのは分かる。


「これは駄目だね。勉強部屋の分身も定期的な解除が必要だよ。姉さん、私は精神解析班の班長スピリ。迷惑をたくさんかけてしまったけれど、楽しかったよ。姉さんとはまた会う気がする。それでは行くね。」

「会えるよ。乗馬しに来るでしょ。またね。」


 スピリは笑顔で手を振りながら転移した。

 名前と個性があり解除して作り直すと現在と過去の自分を比較できる。


「クロア、班長の精神だけを自分の下に配置しているの?そして班長を並列にして自分と繋げているのかな?」

「その通りだよ。姉さんには敵わないね。普通は分身に名前を付けて精神を残すなんてあり得ないと考えるはずだよ。それと姉さん、ごめんなさい…。騙したのは事実だしアディとローアにも迷惑をかけてしまった。」


 クロアの検証は配慮が欠けていたと思うけれど、絶対に必要なことだった。そして欠けている部分を私が埋めなければならないのに何もできなかった。

 クロアができる最善の方法で検証したのだから悪いとは思わない。自分の分身も検証の対象にしていたので、私に教えると普段と違う行動をするかもしれないから言えなかったのだと思う。


「姉さん、頑固すぎるよ…。この検証でアディとローアを心配させてしまったのは間違いなく私が原因なのだから。」

「長女として末っ子を平等に見るために笑顔で会話しているのであれば内容を気にしていなかった私も悪い。それにほぼ毎晩アディとローアと会話していて気づけなかったのだから少なくとも同罪だよ。それでディアとロディの体は用意してあるのでしょ。自宅にいるディアとロディの仮想体は消したの?」


 自室で会話しているときに内容だけで問題の有無を確認していた。アディとローアの表情や仕種を注意深く見ていれば気づけたかもしれないのだから。


「姉さん、本当に頑固すぎるよ…。仮想体は消したから大丈夫。ディアとロディの精神は封印してあるけれど、説得する方法が思いつかないの。姉さんを頼ってもいい?」

「任せなさい。私なら説得できるよ。だけど確認するから問題ないか調べてね。」


 仮想体でクロアの中にいるときには鈍化するのか問題ないのかは分からない。だけど仮想体で生活し続けることで精神に悪影響を及ぼすのだから全く問題ないとは思えない。

 そして精神が悪化した一番の原因は買い出しだと思う。それに人間の寿命だと問題ないかもしれないけれど、少なくとも2000年は生きるディアとロディの精神に影響がないとは思えない。


 但し、クリスに問題ないことから精神が成熟すれば大丈夫だと思われる。しかしクリスは封印されていた期間が異常に長く参考にしてはいけない気がする。


「姉さんに任せるね。問題は絶対に見逃さない。今から封印を解いて2人の仮想体を私が作った分身体に入れるね。」


 クロアが話し終えるとディアとロディの分身体が作られた。仮想体が入っていないと精巧な人形にしか見えない。そして2人の仮想体が入ると雰囲気が変わった。生きている力のようなものを感じる。


「何この部屋?何この状況?」

「ディア、フィオナ姉ちゃんが教えてくれると思います。」


 料理部屋を知らないのは当然だね。

 知っていても広がりすぎているから分からないよ。


「ディア、ロディ、今から真面目な質問するから真剣に答えて。クロアの失敗に気づき私が説教したら2人はどのように思う?」

「これを真剣に答えるの?普通のことだと思う。」

「何も思わないです。」


 クロアを見ると頷いた。

 本来のディアとロディがクロアの悲しむことをするはずがない。


「それでは何が起きたのか話すよ。仮想体で過ごしていた2人の精神は濁りディアが私を殺そうと考えた。精神が未熟な3歳が仮想体で生活するとすぐに精神が濁ると分かった。そこで2人のために体を用意したの。クロアの中から出たくないのであれば仮想体を解除して二度と出ない。体を得ても精神を成長させてからクロアの中に戻ることもできる。但し、精神が成熟するまでの100年間は体を得て生活する。その後なら大丈夫だよ。世界最強のクロアが100歳で死ぬはずがない。最低でも2000年は生きると思うけれど、100年間が我慢できないのであればクロアの中で一緒に死になさい。毎晩戻れば大丈夫だと言い訳することも分かっているよ。それだと精神は少しずつ濁りクロアの中にはいられなくなる日が来る。そのときはクロアの体があなた達を消す。世界の女王様に浄化されるのが本望ならそれでもいいよ。」

「それなら16年間でいいじゃない。何で100年間なの?」


 やはり短くする方法を探すね。


「ディアがそのように言うのも予想通りだよ。クロアは仮想体ではないけれど、分身で過ごしていたら性格が変わっていった。検証を続けていれば精神が濁ったかもしれない。2人の仮想体を検証していたクロアが自分の分身を検証しているのは当然じゃないの。それに100年間の理由は私だよ。意思がぶれないからね。そしてあなた達と同じ体だから。だけど100年間の生活で精神が濁ったらクロアの中には戻れないけれどね。勿論分かっているよ。無理だとね。無理だと分かっていても伝えたの。3歳だから怖くて無理だよね。そういえばアディとローアは大丈夫だよ。3歳でも無理ではない子が家族にいるね。末っ子のために乗馬まで考えたけれど、無理でしょ。あなた達の専属馬は記憶を消して私たちが世話するよ。」

「無理無理と言わないでよね。お姉ちゃんの分身でも影響があるのならどうしようもないじゃない。分かったから早くしてよね。」


 ディアとロディも賢いからクロアから出なければ問題が起きるのだと分かる。そして今は馬のことしか考えていないはず。3歳児が馬の魅力に勝てるはずがない!

 

「馬と念話で話せるけれど、末っ子は2頭の主だからね。だけど心に傷があるの。序列を意識して心を癒してあげながら乗馬で一緒に楽しむ必要があるよ。流石に無理でしょ?」

「無理じゃないから!お姉ちゃんがこれまでの記憶を流さないのは悪意に染まっているからでしょ。ロディ、とりあえず馬に乗ってから考えよう。」

「馬に乗って心の傷を癒す方法を考えるべきです。」


 やはり馬に夢中だね。その気持ちはよく分かるよ。


「2人とも同意したと考えていいのね?」

「いいよ。馬に乗るのは食事の後でしょ。私たちの馬の記憶は消して。名前を付け直したい。」

「勿論です。そして馬の名前を付け直すべきです。」

「クロア、今日の朝食はお願い。アディとローアに言いたいことがあるの。それと馬を変更することはできないからね。クロアと末っ子は2頭の主、クリスとミュリエルと私は1頭の主で残りの馬はいないよ。クロア、馬との接し方と禁止事項も教えておいて。」


 僅かに影響が出ているのかもしれないけれど、最善を考えて今まで過ごしてきた記憶を全て消すことはしないはず。それでも影響が少ない方がいいに決まっているのでロディが私たちの妹になった日までの記憶は残している気がする。


「姉さんの想定通りだよ。朝食も乗馬についても任せて。」

「これが私たちの役目だからね。」


 長女として最低限の仕事はできたのかな。

 命のある体だからこそ学べることがあると思う。


「障害に関係なく姉さんは前に進むね。」

「私の失態だよ。確認するべきだと提案しなければならなかった。16歳の少女に仕事させすぎているよ。歳を取っただけの駄目な長女でごめんね。」


 少し考えれば分かることを考えてもいなかった。そして気にもしていなかった。明らかに不自然な状態なのだから調べなければならなかった。検証しなければならなかった。


 100年間も逃げ続けてきたので現状を受け入れることが当然になっている気がする。私の精神は恐怖症で溢れている。だけど過去が原因でこれからの日々を壊したくない。だから考える癖をつけなければならない。


「姉さんは戦い続けたの。卑下するようなことを考えないで。」

「ありがとう…。考え方を変えてみるよ。」


 3人に手を振りながら料理部屋を出て自室に向かった。


 自室に入るとアディとローアが椅子に座っていたけれど、クロアの分身がいなくなっていた。説明が終わり2人の安全が確保できたからだと思う。とりあえず私も椅子に座った。


「クロアの分身に聞いたね。それで私が何を言いたいのか分かる?」

「二度と嘘を吐くなでしょ。」

「そうだね。正直に話せばすぐに解決したのだから。」


 嘘を吐いたことが悪いと考えている。だけどその嘘は私のためでしょ。


「昨晩は私の真意を探ろうと遠回りに色々と質問してきたね。だけど自室ではあなた達だけの姉であなた達が最優先だと何度も言っているでしょ。言いたいことや聞きたいことがあるのなら真っ直ぐ私にぶつけなさい。私のために嘘を吐いたことを叱るつもりはないよ。だけど今後は会話の内容だけではなく全てを見て感じ取るよ。これからも嘘を吐きたければ好きにすればいいけれど、気づかれたときには覚悟しなさい。それで言いたいことや聞きたいことはないの?」

「お姉ちゃんの生きる目的を教えてよ。」


 真っ直ぐ聞いてきたね!


「アディ、私の生きる目的はあなた達の独立を見届けること。そのあとは決めていないの。だけど死ぬつもりはないよ。死ぬまであなた達を見ていたいからね。目的と言えば精神を綺麗にして魔力器の精神を赤ちゃんに入れて育てるつもりなの。私の記憶は全て消してね。そのときは可愛がってね。」

「当然可愛がるよ。ところでお姉ちゃんとクロア姉ちゃんには何か絶対にある。ディアが言った覚悟は関係なくだよ。それは秘密なの?」


 気になることはそのように聞けばいいの!


「ローア、私たちには役目があるの。クロアは外敵から私たちを守り生きていく環境を用意して維持する。私はクロアが用意した環境で皆が楽しく過ごせるように考える。だから改善するべきものがあればお願いするし、環境が悪化するようなことをしたら説教する。それと家族関係を良好に維持するのも私の役目。そのため悪意のあるディアとロディをクロアが擁護するのであれば、関係を良好に維持するのが不可能だから出て行く決断をするよ。」

「私たちが問題を長引かせたね…。お姉ちゃんはどのように考えていたの?」


 それは違う。あなた達は何も知らず私のために嘘を吐いてまで家族を維持しようとしてくれた。だから何も悪くない。それを見抜けない私が悪い。


「昨晩あなた達が私を心配するからクロアが何しているのか予想できたよ。だけど何も気づいていない振りをしてクロアとだけ話すのが安全だと考えたの。予想でしかない私の言葉であなた達の感情が揺れるのは危険だと考えていたからね。今朝になり私が出て行くときにあなた達がついてくるのか確認した。そして予想通りならクロアは護衛をつける。だから護衛がいるのか確認してクロア本体と話して解決してきたよ。だけど護衛がいなければ3人でクロアと話してから出て行くつもりでいたけれどね。」

「それだと同じ検証でも護衛がいなければ出て行くという事だよね。それでいいの?」


 2人を巻き込む検証をしたのだから守るのが当然だよ。


「当然いいよ。末っ子の命に差をつけたら許せない。4人は平等なの。ディアとロディに遠慮しない。譲らない。お互いに譲らなければ平等に判断する。今のディアとロディの状態は聞いているよね?今日から一緒に遊べる?」

「お姉ちゃんの考えは分かったよ。今日から一緒に遊ぶのかは話してから決める。体を得るという気持ちが分からないからね。」

「世界一安全なクロア姉ちゃんの中から出たので不安かもしれないね。ディアとロディも流石に今日はクロア姉ちゃんと一緒にいたいのかもしれないよ。」


 我慢してきた日々を水に流し、それどころかディアとロディを心配している。

 優しすぎるこの子たちが自分自身を傷つけることがないように注意深く見ている。そして何かあれば必ず手を差し伸べる。私にできることは全てする…。


「それでは朝食に行くよ。」

「はーい。」


 リビングに行くと食事が机の上に用意されていて皆が私たちを待っていた。席に座ると食事が始まった。食事中にディアとロディがアディとローアに謝ったけれど、2人は何も気にしていないと笑った。その笑顔には陰や嘘が一切なかった。


 そのあとローアがディアとロディの気持ちを確認していた。子供同士だから本音で話せることがあるのだと思う。3人の会話を静かに聞いていたアディが「今日はクロア姉ちゃんと一緒に乗馬した方がいいよ」と言った。

 そして「今の環境を実際に見て馬の心の傷を確認して今晩4人で作戦会議しよう」と続けた。それにディアとロディも納得した。


 不安や恐怖などの言葉を一度も言わなかったのはアディとローアの優しさだと思う。

 とても心温まる光景だった。


 何故か涙が出そうになったので必死に抑えた…。

涙の理由は複雑ですが、綺麗な涙です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ