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世界は子を愛す  作者: 大介
第1章 現実

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第63話 嘘

 池から厩舎まで5往復した。ゆっくり走りゆっくり止まる。そしてゆっくり休む。だけどこのゆっくりは私のゆっくりでありフィディーのゆっくりではない。私の速さにフィディーが合わせているだけだから。私が近寄ると首を下げてくれるので睨めっこが楽にできる。手元に時計はないけれど、陽の高さから15時くらいだと思う。夕暮れ前までには十分な時間がある。


「フィディー、私のゆっくりは見せたよ。今度はフィディーのゆっくりを見せて。」


 睨めっこで目を逸らさなかったのは初めて。自信があるみたい。


≪乗馬≫


 鐙に左足を乗せてふわりと鞍に跨り鐙に右足を乗せる。そして右手で手綱を握り左手でフィディーの左首筋をトントンと優しく指で叩いた。


「フィディー、あなたのゆっくりを見せて。」


 嘶いてフィディーが走り始めた。だけど前のめりにはなっていない。それなのにゆっくりが速い。これがフィディーのゆっくりだとすると全力は初めて走ったときよりも速い気がする。

 1回目の片道でゆっくり走ってゆっくり止まれるのが分かった。休憩の判断はフィディーに任せているけれど、私も注意して見ている。休憩しなかったので残りの片道9回全て違う速さでゆっくり走ってゆっくり止まれるのか聞くと任せろと言わんばかりに嘶いた。

 ゆっくり走ったこと、ゆっくり止まれたこと、違う速さでゆっくり走り始めたこと、全てを褒めてあげた。フィディーは馬も信じていない可能性が高い。破落戸騎士団の厩舎では酷いことを言われていた気がする。


 人でも馬でもいいから信じられる相手がいるのは大切なことだと思う。


「フィディー、池に着いたら休憩。そのあとに少しだけ楽しく走ってみるよ。走りたくないのであれば鼻を鳴らしなさい。鼻を鳴らしても何もしないから心配しないで。」


 耳がピクピク動いている。走りたくないけれど、鼻を鳴らすのが怖いのね。


「走るのはやめよう。池の近くで夕暮れ前まで休憩するのかのんびり歩くのかどちらがいいかな。左耳を倒せば休憩、右耳を倒せば歩く。両耳を倒したら別の案を考えるよ。どれにするのかな?」


 右耳がピクピク動いているけれど、倒すことはしない。どのような内容であっても自分の意思を伝えるのが怖いのね…。


「今日は夕暮れ前まで歩くことにしたよ。左耳を倒せば私を乗せて歩く。右耳を倒せば並んで歩く。どちらがいい?」


 左耳がピクピク動いている。私たちだけの状況ならゆっくり動けるのが分かったから次は自分の意思を伝えられるようになってくれると嬉しい。


「フィディーに乗って歩くことに決めたよ。左耳を倒せば少し休憩する。右耳を倒せば夕暮れ前まで歩き続ける。どちらがいい?」


 右耳がピクピク動いている。これが本当にフィディーの意思なのか私には分からない。耳をピクピク動かしていることで判断しているので実際は違うのかもしれない。だけどそれでもいいと思う。賢い動物だから耳を動かした方が採用されているのは分かっているはずだから。

 フィディーに行動を選んでもらうときは動かした耳の通りになると分かってもらうだけでいい。それに心を通じ合わせるのには時間がかかる。そして心の傷を治すのにも時間がかかる…。


 フィディーの両肩を優しく撫でた。寿命まで楽しく過ごしてほしいと願いながら。


「フィディー、好きな速さで好きなように歩いて。今日は厩舎に戻る指示を出すだけで他の指示は出さないよ。だからフィディーも楽しんでほしい。私はフィディーと一緒にいるだけで楽しいから。」


≪下馬≫


 フィディーの背中から落ちたり滑らないように脚で挟み上半身も背中に乗せた。そして背中の上で両手を重ねてその上に顎を乗せる。私がのんびりしたいときの乗馬の姿勢。昔もこのようにして背中に乗っていた。いつの間にか寝ていたこともある。

 馬は人よりも少し体温が高いけれど、それほど差はない。だから一体化したような心地よさがある。フィディーの体温を感じていたい。そして私の体温を感じていてほしい。


「馬具は邪魔だから外したよ。今からフィディーの背中で横になっているね。落ちないように脚で挟んでいるから大丈夫。だけどお腹が苦しかったら鼻を鳴らすか嘶いて。私はフィディーの体温を感じて心地いいから好きなように歩いて。歩いている振動を感じるのも好きなの。」


 馬はとても優しい動物。馬具を外して横になると振動が小さくなるように歩いてくれる子が多い。ゆっくり歩きながらフィディーも私の体温を感じてくれているのかな。

 本当に馬が大好き。個性豊かな馬をたくさん育てた。そして厩舎からいなくなった成馬は貴族に引き取られていると思っていた。だけどゴミ女が食用だと笑いながら言ったときに馬より牛の方が美味しいと言っていたのに何故馬なのかが分からなかった。


 馬は走るのが速い。そして権力者たちがドラゴンの姿になり逃げる馬を追いかけて生で食べるのを楽しんでいた。何故それを知っていて何時それを見たのかは覚えていない…。


 人は生きていくために動物を食べる。だから馬を食べることだけを否定することはできない。だけど馬を育てているのにそれを知らなかった。城中で私だけが知らなかったのだと思う。それに私が怒っても憎んでも何も変えられない…。


 それでも遊びながら命を奪うことだけは許せない。


 馬の育て方を変えた。速く走れるように訓練した。逃げる場所を教えた。攻撃する所を教えた。私がドラゴンの姿になることで恐怖に飲まれないようにした。それにより馬は森や林に隠れた。そして馬に蹴られて急所を潰された権力者もいるらしい。

 全て私の責任として拷問されているときに知ることができた。それを聞いて笑った。大笑いした。拷問が酷くなっても壊れたように泣きながら笑い続けた。だけど予想通り馬の世話を辞めさせられた。何頭か逃げ延びていて元気に生きているのを願うことしかできなかった。


「フィディー、とても優しい子だね。揺れないように歩いてくれているのは分かっているよ。だけど揺れるのも好きだから歩く速さはフィディーの自由だよ。私は落ちないし落ちたとしても怒らないから心配しないで。それに私の好きな速さを探そうとしないで。フィディーと一緒にいることが楽しいの。」


 私の感情がフィディーに伝わっているとすれば歩く速さを変えても止まっても一緒だと気づく。私はずっと心地よく乗っているのだから後はフィディーが心地よく過ごすだけだよ。

 それでもフィディーは揺れないように歩き続けている。だけど体から緊張が少し抜けた気がする。今日はそれだけで十分かな。一緒にゆっくり前に進もう。


 フィディーと一緒にいると色々と考えてしまう。

 馬との思い出がたくさんあるから…。


 何故昔の自分を反映させたのかが分からない。心の奥底では人間と偽ドラゴンを同一の存在だと認識していないはず。それなのに人間の男性8人に対して反映させている。

 今回の件とお城の雑用で共通しそうなことは性欲と子作り。だけど色々な国を歩いてきて性欲で満ちた目とその先まで考えているような男性は何度も目にしている。

 そういえばクロアが象徴的な言動を見てと言っていた。だけど男性8人は歩かせてもいないはず。それなのに全裸になる程の屑。もしかしたら過去の私がされたことのある行動をしたのかもしれない。


 そうだとすれば無意識に切り替えてしまう可能性がある。


≪念話≫


「クロア、分身のクロアに念話を繋いでくれないかな。間違いなく残っているはずだから。」

「それはいいけれど、何か気になることがあるの?」


 クロアに話しても大丈夫なのかな…。


「何故私が過去の状態になったのか想像できたからだよ。クロアと分身は勘違いしている気がする。私が切り替えるようになったのはお城での暮らしで頭がおかしくなりそうだったから。そしてゴミ女に隙を見せるわけにはいかなかった。過去の記憶を見せたのは私に注意を促すためだと思う。今回は私が殺すか分身を連れて退避するのが正解だった。それと日常生活に影響が出ないようにしてくれている自己防衛を切ることはできないよ。精神を守り続けてくれているからね。」

「ゴミ女、アイダは姉さんの弱点が分かるとそこを攻め続けてくる。だから何をされても終わった後は平気な振りをする必要があった。アイダは姉さんに色々な恐怖を植え付けようとしたけれど、効果がないように見せ続けた。本当は多くの恐怖症を持っていてそれを表に出さずに行動できるだけ。そして今回は男性恐怖症で動けなくなった…。姉さんの100年は男性に無防備で襲われるよりもアイダに男性恐怖症だと気づかれたときの方が被害が大きくなる。そして姉さんはあらゆることをされてきたから何に恐怖しているのかが分からない。時間経過による改善しか思い浮かばないよ…。私の大失態のせいでごめんなさい。姉さんが想像した内容を私が聞くと男性恐怖症が酷くなるの?」


 普通ではあり得ないことをされてきたから日常でそれを見ることはない。だけど私の想像をクロアがどのように考えるのかが分からない。


「私がクロアの分身に話して確認するかクロアが分身に私の想像を聞いてもいいか確認するしかないね。普通は私の男性恐怖症が表に出るはずがないの。それを踏まえてクロアの判断に任せるよ。」

「私だけが守られているのは嫌だから確認するよ。それに姉さんが8人を追い出そうとしていたのに残したのも私だから…。姉さんの想像は正解みたい。だけど達したのは1人だけだと言っている。全て私の責任だから聞くよ。それで克服する時間が延びても気にしない。だから姉さんの想像したものを教えて。」


 私の記憶を知っていて気づかなかったことを悔やんでいるのかな。気にしなくてもいいのに真面目で優しい妹だね。だけど私の記憶は忘れたい経験ばかりで得られるものが少なすぎる。それにクロアが集中して見ては絶対に駄目な内容が多い。


「クロアが悪いことは何もない。恩を仇で返す屑が悪い。それらを忘れないで。それと今から話すことを深く考えないで。想像したのは8人が同時に全裸になり硬くした性器を見せつけてきた。そのときには分身が私の背中に隠れていたと思う。そのため屑8人が性器を私に向けて自慰を始めた。そして1人が射精した。それを見て私は過去の状態になった。このくらいの状況でないと切り替えない。クロア、大丈夫?」

「実際に見ていたわけではないから大丈夫だよ。効率よく実験するため男女ともに人形か偽ドラゴンに洗脳されていたと思うけれど、その行動は流石に異常だよ。自己回復が消える前に洗脳していた可能性もあるけれど、姉さんはどのように考えているの?」


 確かにクロアへの嫌がらせで洗脳していた可能性はある。だけどお城での日々はそのようなことが平気で行われていた。妻がいる男性でもゴミ女に命令されて喜んでいたから洗脳は関係ないと思う。


「私の考えでは洗脳に左右されず同じことをしたと思う。それに洗脳では無理な事前準備をしていた気がするけれど、分身に聞けば分かるね。そして異常な行動だけれど、お城での日々に近い。クロアの症状を知っていてそのようなことをしたから殺意が湧いたけれど、1人のときに同じことをされていたら何も考えずに殺していたと思う。それとクロアが今の力を自覚してから抑えているけれど、精神の弱い人は性根を隠せなくなっているように見える。実験場ではクロアの見た目だけで理性をなくす馬鹿が多いから面倒な力だと思っているだろうけれどね。」

「確認してみるよ…。計画性があり準備万端で悪意しか感じなかったみたい。分身の激怒が治まる気配がない。詳しく教えてくれないけれど、何を見て知ったのかな…。本当に馬鹿すぎるよ…。姉さんの過去を知っていて恐怖症が原因だと考えられなかった。対策できると言ったのが恥ずかしい。姉さんの過去が酷すぎるので男性恐怖症と繋がる切っ掛けも酷いのね…。力を全開で全方向に解放したくなるよ。魔獣まで消えるからできないけれど…。」


 精神的に疲れている気がする。休ませた方がいいね。


「クロア、結界内だからといって全て背負う必要はないよ。夕食の時間になったら起こすから休みなさい。アルティーは夕暮れ前に厩舎に戻るように指示を出して馬具を外して放し飼いにしておけば大丈夫だよ。」

「全然疲れていないけれど…、分かったよ。それでは起こしてね。」


≪念話終了≫


 クロアが疲れていないと感じているのであればその方がいい。何故ならクロアが疲れたと言って休んだ場合は何日眠り続けるのかが分からない。倒れる直前まで疲労を隠す癖があるから怪しいと思ったら休ませた方がいい。今回の実害はクロアが私の話を聞いて疲れた。それに分身もクロアなのだから任せればいい。間違いなく綺麗に片付けてくれる。

 そして末っ子が成長するまで私たちが倒れるわけにはいかない。クロアに任せていることが多くクロアにしかできないため私には体調を気にしてあげることしかできない…。

 困ったことに多忙なはずのクロアは自ら仕事を増やしていくやんちゃな女王様なので見ている私としては気が気でない。分身に任せているといっても全てを集約して何をするべきなのか考えて実行させているのは本体なのだから。


 クロアは優しすぎるよ。世界一苦しんだ子が悲しみ続けなければならない世界なら消した方がいいと本気で思っている。


 そういえば試してみたいことがあった。

 クロアの力の効果範囲は結界内で止めている気がするから。


≪念話≫


「フィディー、夕暮れ前までは結構時間があるよ。休まなくて大丈夫なの?」

「は、はい。あ、歩いているだけですから、だ、大丈夫、です。」


 えっ!?


 返事があるとしても鳴き声だと思っていたのに会話できた。女性の声色で胸に鼻を押し付けてくる甘えているときの鳴き声に似ている気がする。それに言葉を理解しているのだから念話なら話せても不思議ではないのかもしれない。全ては女王様の力のお陰だと思うけれどね。


「落ち着いて話して。何か聞きたいことがあれば答えるよ。何もなければ質問に答えてね。」

「いつまで歩いていいのですか?いつまで馬具を外したまま乗るのですか?」


 歩き続けていることが不安で馬具を装着されていないことも不安なのね。

 このまま捨てられると考えているのかもしれない…。


「いつまで歩くのかはフィディーが決めていいよ。馬具は私が好きじゃないの。それに馬具を装着しなければ私を乗せたまま水も飲めるし草も食べられるから楽でしょ。私が重たかったら下りるから安心して。暗くなる前に厩舎に戻るとか蹴ったり噛んだりしたら駄目だとか少しだけ規則はあるけれど、私と一緒にいる時間はフィディーが好きなように使ってよ。フィディーには私だけが乗るから大丈夫。誰かに何か言われたら私に報告して。注意か説教するからね。」

「フィオナ様は本当にそれでいいのですか?アルティーに走れと言われたらどのようにすればいいのですか?」


 序列がただの数字ではなく意味を持たせてあげよう。


 だけど序列1位に心の傷を抉られると考えているのはおかしい。クロアが皆に嘘を吐いた…。それに馬の演技にも気づかなかった。今日は騙されてばかり…。クロアを頼りすぎて確認が甘くなっている。16歳の少女が見ていてくれるから問題ないとしているのは情けない。私も反省しないと駄目だね。


 とりあえず後にしよう。今はフィディーと一緒にいる時間なのだから。


「私に様はつけないでフィオナと呼んでね。それに序列は自然界を生き抜くためのものでしょ。序列で乗る日数を変えたりするのは3頭を主に持つ末っ子4人だけ。だからアルティーに走れと言われたらクロアに注意してクロアがアルティーを叱る。ここは自由なのだからフィディーも序列が下の子に命令しないで。そのかわりフィディーに命令もさせない。」

「クロア様を注意するのですか…。そのようなことが許されるのですか?」


 女王様の普段は世界一強い世界一の美少女で私の妹だから。

 考えるまでもなく普段でも十分に凄い存在だね。


「クロアが世界の女王様でも関係ないよ。知らないことは教えるし間違っていると思えば注意する。私にはクロアのような力はないけれど、皆が楽しめる環境を考えて維持する役目があるの。だから大丈夫だよ。」

「分かりました。フィオナは私に何も求めないのですか?」


 下手くそな指示のせいで殺されるところだった。だから余り指示を出したくない。

 それに必要な指示は既に出しているから大丈夫だと思わせてあげるべきだね。


「求めているでしょ。背中に乗ってのんびりする。そのうち寝ているかもしれないよ。それと偶には一緒に昼寝するのもいいね。だけど違う指示を出してほしいのであれば言えばいいの。それに指示してほしいけれど、走りたくないでも問題ないよ。念話で会話できると分かったのでフィディーと会うときは必ず念話を繋ぐ。だから会話したいのであれば話せばいいの。無言でいいのであれば何も言わなければいいの。今日は夕暮れ前までどのように過ごすの?フィディーが決めて。」

「会話しながら歩きたいです。フィオナに聞きたいことがあります。」


 私のことが気になるのはいいね。過去を話せば親近感がわくのかな…。


「勿論いいよ。返事がなければ寝ているから揺らすか落として。何でも聞いてよ。」


 馬は優しい子が多いから落とさない。破落戸の騎士が乗っている馬なら落とすのかもしれないけれど、弾かれる馬は対象外。屑に染められてしまった可哀想な馬だけれど、一緒に楽しんでいるのだから同類だよ。


「何故馬具を装着するのが嫌いなのですか?」

「先程から緊張しているのは分かるけれど、くだけた口調で話せるように努力してね。私が主だけれど、フィディーを支配するつもりはないよ。甘えん坊の妹が増えたと思っているの。それで馬具についてだけれど、馬が馬具を装着されて嬉しいとは思えないから。それに私はフィディーが走ったとしても手綱だけがあれば十分。鬣を掴んでいいのなら手綱もいらない。馬具がなくても乗れるからいらないけれど、フィディーが馬具を装着した方が好きなのであれば言えばいいよ。」


 馬具は人が馬に乗り指示を出すためのものだから会話できるのであればいらない。それに体温を余り感じられないから好きにはなれそうにない。


「なるほど。妹ですか…。努力しま…、するよ?これから頑張ります。乗るのが上手だという事はフィオナは厩舎で働いていたのですか?」

「フィディー、正直に話すけれど、何も気にしないでね。私はクロアに助けられるまでいつ処分されるのか分からない奴隷のような存在だった。そのときに馬を世話していたの。乱暴な馬、我儘な馬、見下す馬など色々な子がいたけれど、馬を世話しているときが一番幸せだった。世話を丁寧に素早く終わらせて優しい子の背中に乗って昼寝していたよ。予定の時間を過ぎると殴られるけれど、気にしなかった。馬と一緒にいる時間の方が私には大切だったから。それに馬具の装着された馬に乗ったことがなかったからね。」


 かなり誤魔化しているけれど、フィディーの過去にも触れている。

 殺される恐怖について聞いてくるだろうね。


 実際は馬を世話しているときに自殺する気配がないからいつの間にか放置されるようになっていた。死にたかったけれど、馬と一緒にいられる時間を使って死にたくなかった。馬が大好きで当時は馬を世話しているときに自殺することを考えられなかった。今だからあの時間に自殺できたと思える。だけど今でも馬と一緒にいる時間を選択するだろうね。


 一番幸せな時間に死にたくないから。


「殺されるかもしれないではありませんか。怖くなかったのですか?」

「回復魔法といって体を治癒する魔法があるのだけれど、それを使って拷問され続けていたの。拷問されていたときの痛みは怖いよ。今でも怖いから。だけど死ぬのは怖くなかったの。早く殺してほしかった。拷問するのが趣味の屑だったから馬の世話は拷問する時間まで遊ばせておくのが勿体ないと考えたからだと思う。仕事内容に関係なく拷問されるから馬を可愛がっていたの。」


 拷問の痛みは死ぬ怖さを超える…。


「あの…、それは…、聞くべきではありませんでした。すみません…。」

「何も気にしないでと言ったでしょ。次に気になるとすれば死ぬよりも痛みの方が怖い理由だよね。例えば10分放置されたら死ねた。それが5分のときもあったと思う。そのため回復魔法がなければ死ぬ拷問をされ続けていた。生きていることが苦痛だった。だけど馬の世話は幸せだった。それに突然死ねと言われたら怖いよ。それでも普通ならば死ぬはずの拷問をされ続けていると死の恐怖より拷問の恐怖が上回るの。死ぬのは1回だけれど、拷問は何百回、何千回と続くから。」


 私の話を聞いても殺されるのかもしれなかった恐怖は克服できない。それにその恐怖が克服できる話があるとは思えない。死を怖がり避けることは全ての生物の本能だと思うから。


「あの…、私は殺されるのが怖いです…。それは臆病なのですか?」

「それが普通だから臆病ではないよ。だけどここで過ごすのに殺されるのが怖くてビクビクしていたら勿体ないと思う。ここはクロアが守る世界一安全な場所。そして誰もフィディーを殺さない。今すぐ信じられなくてもいいと言ったでしょ。フィディーが乗るなと言わない限り私が乗るからね。だけど一緒に楽しみたいからフィディーが信じてくれると嬉しい。時間が解決してくれるのであれば待ち続けるよ。フィディーを焦らせないし信じることも強要しない。ずっと信じられなくてもフィディーを責めたりはしない。だから決めるのはフィディーだよ。」


 何も抵抗できない状況で殺されるのを待ち続けた恐怖を簡単に克服できるとは思わない。それに人間が殺そうとしたのだから、私たちを信じられなくても当然だと思う。

 人が人を信じることが難しい世界で馬が人を信じるのは相当難しいと思う。それなのに殺される恐怖まで経験しているからどのように接してあげればいいのか分からない。フィディーが乗るなと言わない限り会話できるだけでも十分なのかもしれない。


「何故そこまで私を自由にするのですか?信じてほしいのであればフィオナが私に命じればいいではありませんか。」

「フィディー、それは主から命令されたので信じている振りをするだけでしょ。私は言葉だけで信じてもらえるとは思っていないよ。会話できるのだから気になること、気に入らないこと、嫌なことなど何でも言えばいいよ。それに何かを変えたいと思ったら言いなさい。面白いことを思いついたよ!フィディー、私を手伝いなさい。厩舎のことや土地のことで気になったことは何でも言いなさい。あなたの言葉で馬の心地よい環境を作るの。それなら楽しめるでしょ。」


 馬のために何が必要なのかを馬に考えてもらう。それを序列2位のフィディーにしてもらう。序列を考えて序列1位のアルティーがフィディーへ頼むという形にするけれどね。

 間違いなくアルティーはフィディーの序列を下げる。クロア、アルティーの失敗を見て気づいて。そして反省しなさい。


「分かりました。そ、それでは言います。とても綺麗な厩舎で馬房も広く寝床も気持ちよさそうな藁が敷いてありました。そして綺麗な水が流れていました。だ、だけど飲みにくいの、です!言ってしまいました…。」

「任せると言ったのだからフィディーの発言は私の責任だよ。だから何も気にしなくていいからもっと具体的に教えて。厩舎や馬房を見ていないから分からないの。」


 馬が水を飲みやすくするのは馬房を見なくてもクロアにお願いすれば改善してもらえる。だけどフィディーが自分の意思で改善を求めることが大切だから。


「流れていると水を少量しか飲めません。ですから水が溜めてある方がいいのです。高さは脚の付け根くらいでいいです。バケツのような入れ物に水を溜めてほしいです。それと我儘ですがここでは外にいる時間が長い気がします。だから水が悪くなる気がします。それも何とかしてほしいです。」

「大丈夫だよ。厩舎の水が悪くなることは絶対にないから。清潔に保たれているよ。汗をかいて厩舎に戻っても体を水で流した後のようにスッキリすると思う。ところでクロアの分身いるよね。念話を盗聴しているでしょ。出てきなさい!」

「姉さんと馬の触れ合い方を見て勉強するように言われているの。だから盗聴ではないよ。」


 今は林の中を歩いているけれど、木陰から姿を見せるのではなく私の真横に突然現れた。足音がしなかったし足跡もない。姿を消して飛んでいたのだと思う。そして女王様が白と言えば黒でも白になる。だけど常識を教えるのも私の役目だから…。


「あ、あの、あの、クロア様、すみません!許してください!」

「何故クロアに謝っているの?私との話を忘れないで。それにクロア、それが盗聴なの。自分がされて嫌なことは人にしない。するのなら気づかせない。話を戻すけれど、アボット街の望みと騎士団の厩舎を合わせたみたいだね。動物の飲み水は溜めるようにして。部屋の角に置いて怪我しないように円柱で直径50㎝、高さは脚の付け根で水が溜まり続けるようにして。溢れた水は下水に利用するのか蹄を洗う水に利用して。鶏は部屋に浅い池を用意してあげて。深さ4㎝で直径100㎝のボウル状でいいよ。それと鶏は砂浴びをした気がするから砂場も用意してあげて。大きさは任せるよ。」

「フィディーに仕事を任せるとは思わなかったよ。姉さんは凄いね。それと牛の要望も聞いてほしいの。私には何も言ってくれないから。」


 頂点がクロアだと本能で分かるからだね。

 だけどそれではクロアが寂しいよ…。


「牛にも馬と同じように序列があると思うから元気になったら序列が分かるようにしておいて。フィディーとの散歩で放牧地を通るようにするから。序列1位はクロアに報告する仕事。序列管理、問題行動の注意、喧嘩仲裁、各個体の体調不良や妊娠などを全て報告。序列2位が環境改善をまとめる。但し、最終決定はクロアにする。ここでは序列が余り意味ないけれど、序列1位はクロアが乗りクロアと多く話せて仕事が多いから満足してくれると思う。序列2位の仕事は序列1位から頼まれたことにして。序列1位の仕事は1位がすることに意味があり効果的。クロアがアルティーに伝えてアルティーから序列2位に伝わるようにして。牛は今後だね。私たちは序列に関与しないのだから何かしてもらうにしても序列1位を通した方がいい。だからアルティーを立てる。本体は休んでいるのよね?」

「本体は休んでいるよ。何も言わないから報告を仕事にする。そして序列1位を立てて序列2位に嫉妬しないようにする。動物の世話は本体がすると言っていたけれど、姉さんから頼まれたら断れないね。アルティーには分身が乗って遊んでいるよ。それでは終わらせてくるね。」


 分身も遊びたいよね。だけど本体が休んでいるときに遊ぶのは流石だよ。本体の代わりに見回りをしていたと言い訳ができるのだから。

 それよりも分身は私の考えを把握したはず。何も言わないのは本体が間違っていると考えているからなのか本体に報告するのが仕事だからなのかは分からないね。


 自宅に戻れば分かるけれど…。


「フィディー、今の話は知らない振りをしてね。序列1位から仕事を頼まれたことにするから。その方が面倒事に巻き込まれなくなる。フィディーの序列が下げられても気にしないで。アルティーに頼まれたら皆から聞き取りをして教えてね。それに最終決定をクロアにしたから誰も文句が言えないよ。」

「序列は関係ないと言っていましたが気を遣うのですか。最終決定がクロア様だから問題ないですね。だけど私の序列は間違いなく下がります。私としてはその方が嬉しいですけれど、フィオナの仕事ができなくなります。いいのですか?」


 アルティーが序列2位だけの仕事だと判断する可能性が高い。序列と私たちは関係ないことにしているから序列2位の馬が改善案をまとめてクロアに伝えることで環境がよくなるのであればその方がいい。だけどフィディーの言葉で絶対に無理だと分かる。


 問題のある馬はアルティーだけではなさそうだね。


「フィディーとのんびり散歩するからいいよ。」

「あ、あの…。暮らし難くなったら我慢するしかないのですか?」


 フィディーの序列を下げて暮らし難くなった場合は私が介入する。序列2位の馬の主に言うのかクロアに言うのかどちらかになると思うけれど、専属馬の暮らしを守るのも主の役目だから。


「何度も言っているでしょ。フィディーに何かあれば私に言いなさい。主が専属馬を守るのは当然のことでしょ。厩舎の雰囲気が悪くなった、序列が下がって見下された、馬同士の仲が悪くなった、馬房に差があるなど何でも言えばいいの。会話して終わるだけなのかもしれないし解決するのかもしれない。話すことで気持ちが楽になることもあるでしょ。それと明日からはどのようにしてほしいの?」

「えっ?ええっ!?私が決めるのですか…。な、なるべく早く来てください…。」


 理由は何であれ会いたいと思ってくれているのは嬉しい。そして会話できることを大切にする。今はそれを積み重ねていくしかない。


「自宅で朝食と昼食と夕食を作るのは私の役目なの。食事して後片付けを終えたらすぐに行くよ。フィディーと自然な会話ができるのは明日なのか1週間後なのか1ヵ月後なのか1年後なのかそれ以降なのか楽しみだね。」

「会話するくらいすぐです。明後日です。多分明後日です。明後日の気がします。そろそろ厩舎に戻ります。今日はたくさん会話しました。明日もたくさん会話したいです。」


 フィディーとのんびり散歩しながら会話するのはとても贅沢な時間。アボット街との契約は失策だったけれど、動いたからフィディーと出会えた。


 嫌なことも遭ったけれど全体を見ると前進しているね。


「そうだね。たくさん会話しよう。私も楽しみにしているよ。」


≪念話解除≫


 厩舎までフィディーと一緒に行って厩舎の様子や馬房を見てから自宅に帰った。そして自宅に入ると休んでいるはずのクロアがリビングで椅子に座っていた。


 無意識ではなく選別からメスを除外するのを指示した。そしてアルティーに悪意があることも知っている。大切に飼えば何とかなると考えているのかもしれないけれど、それはない。これはクロアに説教して今日中に動く必要がある。今なら無意識を私に指摘されたことにできるしクロアの嘘を隠せる。今回のクロアの嘘は絶対に隠さなければならない…。


 クロアの正面に座った。

 まだ誰も帰ってきてはいない。乗馬を楽しんでくれているみたいだね。


「姉さん、私に黙って動物小屋で色々としたね。」

「フィディーが水を飲みにくいと言ったから念話を盗聴しているクロアの分身に頼んだだけだよ。それにクロアの分身が動物が話してくれないと困っていたから話してくれるようにもしておいた。そして今後の改善は全てクロアが最終決定することにしたから。鶏については色々としたかもしれないけれど、大切に飼うのであれば必要なことだよ。それでどこに問題があるのかな?」


 どこにも問題はないように思えるけれど、クロアには問題があると分かる。アルティーが必ず失敗すると理解しているのだから。


「それはいいです。序列2位の馬をアルティーが変えるように仕向けましたね。」

「フィディーの序列を下げて馬だけで環境改善できれば一番じゃない。私の役目をそのままにしようとすると私の専属馬を序列2位に固定するか序列外にするしかない。クロアは別として序列と主は関係ないとしたのに私の専属馬の序列まで固定したら不満が出る。クロアが好き勝手にしたいと言っていたから最終決定でクロアが提案を検討するのも視野に入れているよ。牛が元気になって放牧されるようになったら環境改善をまとめるけれどね。それでは駄目かな?」


 何も言えないでしょ。悪意がなければ何も問題は起きないのだから。


「駄目とは言えないよ。私が悪いの?」

「そうだよ。だから餌を入れた。ここでは余り序列が関係ないから仕事も与えた。私はここで飼育するのに相応しくない動物は戻せと言った。そしてクロアは全ての動物を大切に飼うと言った。つまり見せしめを行う馬が序列1位にいるのはクロアが望んだこと。下品な馬と同類になりたくないという理由で破落戸騎士団の厩舎には残れない。クロアが嘘の片棒を担いでいる。もしかして動物を大切に飼うという事が分からないの?動物の好き勝手にさせることが大切に飼うことなの?これからどのようにするのか教えて。」


 悪意がある馬は恐らく近衛騎士と下級騎士の団長と副団長の予備馬だと思う。役職があれば馬を複数所持できるようにしていても不思議ではない。


「姉さん、動物を大切に飼うのは本気だよ。嘘を吐いたのも序列1位にはそれなりの理由が必要だと思ったから。だけど駄目みたいだね…。何を間違たのか教えてください。」

「相応しくない動物からメスを除外した。馬はアルティーの取り巻きにならないと心労で死んでいくよ。牛とも険悪になる。ここが平等とはかけ離れた環境になる。アルティーは団長の予備馬でしょ。下級騎士か近衛騎士か知らないけれど、権力者の行動を真似しようとしている。全員を今すぐ自宅に戻して飛ばす動物の記憶を消して馬具や無敵紙も消す。そのあと厩舎に行って専属馬が残っているのか確認。いなければ厩舎に残っていた8頭から選ぶ。主が変わるから8頭の記憶も消す。クロアが乗る馬はクロアの力を借りられるでしょ。だから序列1位の馬はクロアの専属馬。私の専属馬は序列から除外。厩舎と牛舎の環境改善と関係維持をする。馬については序列1位の仕事を序列2位や3位に分けなさい。そしてクロアに報告するのはそれぞれの序列にする。序列1位の馬はクロアが乗るだけで十分。クロアが乗らなくても分身が乗っているから問題ない。そして理由を全員に説明しなさい。但し、嘘を吐いたことだけは言わないで。」


 私の本気が伝わったみたいだね。

 クロアが頷くとリビングに全員が集まった。


 悪意のある馬のために家族に嘘を吐いたと伝える必要はない。全てを正直に話して楽になりたいと思うのかもしれないけれど、正直に話すことが良い結果に繋がるとは限らない。


「乗馬を楽しんでいたのにごめんなさい。私の失策が原因で問題が起きる前に対処することにしたよ。全員の馬は馬房に入れて全ての動物を検査する。選別で無意識にメスを除外していたの。もし厩舎に行って乗っていた馬がいなければ厩舎に残っていた8頭から専属馬を選んで。記憶を消して名前を決め直せるようにする。4人を3頭の主にする予定だったけれど、皆の専属馬のために諦めて。私の乗る馬は序列1位、姉さんの乗る馬は序列から除外。この決定に不服があるのなら今すぐ代案を出して。」

「私は別にいいけど、お姉ちゃんの考えではないよね。それでもお姉ちゃんが考えたことにしたいのかは教えてよ。」


 ディアはクロアが嘘を吐きたいのか知りたいだけだから私の考えだと話せばいい。それに話さなくても私の考えだと分かっているはずだよ。


「姉さんに指摘されて姉さんの考えを私が実行する。ディア、説明はそれでいい?」

「やっぱりそうだよね。今のままだと問題が起きるのでしょ。早く対処した方がいいよ。」

「勿論いいです。」

「問題が起きるのだから仕方ないよ。」

「私もいいです。」


 我儘を言わず拗ねてもいない。乗馬中に馬の気持ちを知ろうと頑張ったみたいだね。それが楽しくて専属馬がいない人は可哀想だと思えるようになった。短い時間で成長しているね。


「クリスとミュリエルはいいの?」

「いいよ。まだ初日じゃない。乗馬体験したと思えばいいだけだよ。」

「私の専属馬は消える気がします。乗せてくれましたが見下されていると感じました。それを調教するのが選んだ私の責任だと思っていましたが違うのであれば何も問題ありません。」


 ミュリエルは相手の感情を把握することが命に繋がっていたから…。見下された原因は服装が平民に見えるからだと思う。これで最低2頭が消える。


「それでは全員の許可が出たので実行します…。4頭減りました…。姉さんの指摘通りだね。それでは移動します。」


 4頭は多い。今日中に対処しなければ夜間の厩舎で問題が起きた可能性がある。それに末っ子4人に普段は感情把握を禁止しているけれど、寝る前に感情把握で厩舎を確認するかもしれない。それによりクロアの専属馬が主動で悪意を振りまいていたら家族にまで問題が起きるところだった。


 クロアの転移で厩舎に移動した。


「専属馬がいなければ教えてください。私の専属馬はいませんね…。」

「やはり私もいません。」

「私の専属馬もいないじゃない。」

「私もいないです。」


 クロアとディアとロディとミュリエルの専属馬がいない。専属馬を決めるときに半分の馬に悪意があったのは最悪だね。だけど動物を信じた事と男性恐怖症を理由にすればいい。


「厩舎に残っていた8頭を連れて自宅前に移動します。」

「クロア、末っ子を平等にしたいから先に2頭を選んで。序列1位と序列1位の補佐にすればいいから。ディアとロディとミュリエルは今から相談するよ。それと末っ子4人の準専属馬も選び直しにする。だから8頭の記憶を消しておいて。それと飛ばした馬の記憶も全ての馬から消しておいてね。」


 クロアと末っ子は2頭の主になる。クロアの2頭目は分身が乗って遊ぶから問題ない。末っ子4人も3頭から2頭に減るけれど、大変なのは変わらない。


 クロア、精神が強い馬は心が綺麗だと思っていたと言いなさい。クロアが精神をどのように見ているのかは誰にも分からない。何か言われたら選別された馬の精神は綺麗だと思っていたと言えばいい。


 家族をバラバラにしたくないのであれば飲み込みなさい。


「分かりました。精神が綺麗な馬を見て選びます。選別された馬の精神は綺麗だと思い込んでいたのが間違いでした。無意識は怖いです…。」


 聞かれる前に全て話したね。

 これならクロアが失敗した理由が想像できるから問題ない。


「この子とこの子にします。あなた達は今からワーディーとユニティーです。ワーディーは序列1位、ユニティーは序列1位の補佐です。仕事内容は後で説明します。それでは決めてね。」


 ワーディーは焦茶色の毛の馬で鬣と尻尾は茶色。

 ユニティーは薄茶色の毛の馬で鬣も尻尾も薄茶色。


 どの馬も可愛いよね。


 私が感情把握を切っていなければ問題はすぐに発覚した。クロアはまだ16歳で洗脳されていたのだから全てを任せてはいけない。やはり私の方が反省することが多い。


≪結界≫

防音してクロアを除く7人を包んだ


「まずは専属馬から選んで。3歳児2人の次にミュリエルでいいかな?」

「はい。私は最後で構いません。」

「お姉ちゃんを説教できるのはフィオナ姉ちゃんだけだよ。相当な覚悟がいるからね。長女は次女にも平等に説教するから自宅は平和だよ。ロディは準専属馬にする?」

「私は牛の毛色のような馬を専属馬に選びます。」


 ディアは気づいていたのではなく私が誰でも説教するという事を言いたかったみたいだね。それに長女が次女を恐れて末っ子ばかり説教していたら不満に思うに決まっている。そしてディアは特にクロアを神聖視している。その通りだしそれは別にいい。だけどクロアを孤独にはしない。それが私の覚悟だよ。


「それなら私は黒色で額が白色の馬にするよ。」

「私は髪に近い毛色の赤茶色の馬にします。似た馬がいてよかったです。」

「それでは末っ子4人で準専属馬を選んで。一緒に決めた方がいいからね。」

「フィオナも頑張っているね。私も頑張ってここでドラゴンにも乗れるようにするから楽しみにしていてよ。」


 そうなったら勉強できないね。

 少しは勉強させたいと思っているのに難しくなりそう。


「凄くドラゴンが気になるじゃない。アディとローアはそのままでいいの?」

「残っているからいいよ。」

「私もいいですよ。」


 2頭目も金髪に繋がる馬を選んでいるみたい。本当に可愛い子。


「それならロディ次第だね。どうする?」

「勿論そのままです。これでディアも決まりましたね。」


≪結界解除≫


「クロア、決まったよ。魔法を作り直して不要な魔法は消してあげて。それと無敵紙で名前を付けてあげて。序列については以前の順位を1つ上げて引き継がせて。すぐに変わると思うけれどね。そしてミュリエルに念話を教えてあげて。クロアのお陰で念話を使えば馬と話せるよ。結界内の全ての動物と念話で話せると思う。あれ?誰も気づいていないの?ここではクロアが常識だよ。クロアが念話で話しているように見えたので試したら話せたから驚いたね。」

「姉さん、普通は試さないよ。乗馬中は追跡されていると思っていてね。乗馬魔法は直して不要なものは消したよ。ミュリエルも念話が使えるからね。」

「会話できるの!?今日は自宅で寝るよ。」

「話せました。少し怖がっているみたいです。会話できると乗馬が変わりますね。」

「今夜は作戦会議だよ!」

「絶対に必要です!」

「今夜で会議が終わるのかな…。」

「完敗です。だけど反則だよね!」


 ローアも負けを認めたね。姉に勝てる末っ子はいない。圧倒的な勝利だよ!


「クロア、馬を厩舎に戻して私たちも自宅に戻ろう。やはり姉に勝てる末っ子はいないね。」

「姉さんは結界内の全てを守っているね。仕事とここでの規則は明日の朝に伝えるから厩舎に戻って休んでいて。それでは自宅に戻ります。」


 皆がリビングのいつもの椅子に座り末っ子4人はすぐに会議を始めた。会話できれば遊び方が広がるからね。ミュリエルはドラゴンが少し気になったみたいでクリスに聞いている。クリスはドラゴンについて話すのが好きだから終わらないだろうね。


「姉さん、手伝うよ。」

「とても助かるよ。料理の腕もクロアには勝てないからね。」


 皆が仲良く話しているリビングを見届けて料理部屋へ入ろうとしたらクロアが手伝うと言ってきた。まだ話し足りないみたいだね。


「心が綺麗な馬を選んだと言った時点で駄目だったのね。急がせたのはフィディーを守るためではないのでしょ。何故なの?」

「クロアと末っ子が楽しめないからだよ。末っ子は馬と触れ合い心を学ぼうとしている。それなのに馬が悪意に染まったらどのように考えるのかが分からない。だからアルティーに失敗させてクロアに気づかせようと思ったけれど、クロアは知っていた。知っているのと知らないのでは問題が起きたときに皆の捉え方が変わる。そして今日中なら色々と揉み消せると思ったけれど、問題が表面化したらクロアの責任を誤魔化せない。大切に飼っても心は綺麗にならないと人間で学んだばかりだよ。クロアの嘘はクロアと末っ子を不幸にする。そのため許容することはできない。それと今後も嘘を吐いたと明らかにしてはいけないからね。」


 フィディーだけなら私が守れる。だけどクロアの嘘により専属馬と準専属馬が悪意に染まるか衰弱する。それはクロアが原因だと明らかで末っ子は許せるのかな…。だけど分からない危険な選択をする必要はない。家族を守るためなら嘘も吐く。だけどクロアの嘘は家族を不幸にするものだった。それを放置することはできない。


「姉さん、既に疑われているよ。家族に嘘を吐いた罰だね…。」

「誰にも疑われてはいないよ。私を思考把握して話したでしょ。だから無意識と男性恐怖症が原因だと誰もが考える。家族の平和を守るために嘘を吐くのが辛いと感じるのであれば、それが家族に嘘を吐いた罰だよ。」


 クロアが私の考えた通りに話してくれたから何も問題はない。だけど嘘を明らかにできない苦しさがクロアに残る。それはクロアが抱えなければならない。それでも辛くなったときは私に言えばいい。甘えればいい。私がクロアに嘘を吐かせた。そのように考えてもいい。16歳の少女が間違えることは普通だから。それに私の確認不足が原因だとして私の責任にしてもいい。自宅にいるときのクロアは16歳の普通の少女。私には家族を守る役目があるのだから何も気にならない。リビングで仲良く会話している。それが誰もクロアを疑っていない証拠だよ。


「姉さんに罪を着せる気にはならないよ。16歳の普通の少女には何が足りないと思う?」

「そうだね。クロアは自分自身について把握することを大切にしているのに精神が見える理由を考えていないでしょ。見えるから問題ないとしている。見える力を強力なものにするのも大切なことだけれど、見えなくても感じるものを大切にしてほしい。見て把握することが癖になれば身につかない。人が本来持っている力を弱める。能力を鍛えても自分が弱ければ役に立たない。見えるから無意識に見ないようにしてしまう。だけど人が持つ本来の力を高めれば違和感を覚えたはず。両方の力をうまく使えるようになりなさい。」


 クロアの能力は強すぎる。だけどそれに依存してしまうと必ず失敗する。見たくないものを見ようとしないのは普通だと思う。だから能力を十全に使うには自分自身も強くならなければならない。


「その通りだね。精神が見えるのは何故か、動物と話せるのは何故か、余り深く考えないようにしていたよ。そして能力に頼れば無意識が入り込むと失敗するね。3歳から感情把握で見ることが癖になれば見えるものだけを信じてしまう。だから姉さんは見えないものを感じることができるように禁止した。姉さんが8人を追い出そうとしていたのも見えない力。自分の不思議な力については勉強するけれど、本来の力を身につけるには時間が必要だね。動物と触れ合うときに感じるものを大切にしてみるよ。今回の件は急だったのに誰も不満に思っていないし私を疑っている人もいないみたいだね。他にはないのかな?」

「あるよ。動物を大切に飼うことで鶏が数え切れない程に増える。鶏は有精卵でも無精卵でもある程度の数を産むと温めようとする。確か21日で卵が孵化する。雄と雌を分けることも大切だよ。鶏は自然界で生き残れない。大切に飼うことができるのは何羽までなのか考えないと駄目だよ。」


 クロア1人だけで世話するなら何羽でも多い気がする。

 馬と牛を世話しながらだからね。


「鶏も元気になって交尾するようになってから考えるよ。なるべく50羽以内に納まるようにする。品種改良されているから自然界では生きられないからね。姉さんは自由なように見えて全く自由がない。だけど代われる人がいない。それでも姉さんに不満はないの?」

「全くないよ。楽しんでいるから大丈夫。それに自由を楽しんでいるよ。仕事だとは思っていないからね。だから自由に行動して気になったことをクロアに言うだけ。難しいことをクロアがしているのだから結界内は私が見て回るよ。」


 自分を犠牲にしているとは思わない。楽しいからしているだけだよ。


 末っ子が3歳で復讐を考えているのは早すぎる。我儘全開で楽しいことを考えて遊ぶのが大切だよ。そのために必要な環境は私が考える。だから全力で楽しんでほしい。

 そして次女も動物の世話を楽しめる。これから忙しい朝になると思うけれどね。


 何て贅沢な日々を過ごせているのかな…。

 猛省しないと駄目だね。私の確認不足で家族がバラバラになるところだった。


「頑固だね。姉さんは頑固すぎるよ…。」

「16歳の普通の少女には逃げ道も必要だよ。力で捻じ曲げるよりも逃げてくれた方が嬉しい。それに逃げ道になれなくても背中に隠すことはできるから。今日は勉強になったね。反省することも多いけれど、前進できた。障害物が多すぎて前に進むのが大変だよ。」

大変な1日でした。

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