第58話 契約した街 前編
孤児院の子たちを飛ばした翌日の買い出しはとても静かだった。末っ子4人の元気がないのが顕著でクロアとミュリエルの買い物を楽しんでもらおうという気分にはなれなかった。訪れた国に小麦粉屋はなくクロアは追いかけてくる男性を屋根の上や防護壁の上に飛ばしていた。
私は料理に書かれていた主食、副食、主菜、副菜となりそうな食材を購入していった。更にこの国の食事に使われる食材も購入した。重複して購入した食材もあるけれど、気にしていない。料理の上達には考えて作った数が大切だと思っているのだから。
邸の男性たちも食材を買い終えたところで買い出しは終了した。末っ子4人がお菓子を買わなかったのはクロアのクッキーを基準にしたからなのか孤児院の子たちについて悩んでいるからなのか分からない。どちらにしても自分で乗り越えなければならない問題だと思う。
朝食はクロアが焼いたパンと私が作った野菜スープだけだったけれど、十分お腹が膨れた。お菓子の本に書いてあったのかクロアは当然のように私がスープを作り始めたらパン生地を焼き始めた。パンには多くの工程があるけれど、焼ける状態の生地にしておく方法を見つけたみたい。
朝食後に少し休憩を挟み勉強に行こうとする5人をクロアがリビングテーブルに残るように声をかけた。恐らく孤児院の子たちの状態について何かが分かったのだと思うけれど、いい情報だとは思えない。クロアの表情が悔しそうに見えるのがその理由なのだと思う。
皆が席に座ったところでクロアが話し始めた。
「孤児院の子たちの状態についてクリスに聞いたけれど、脳に今回のような洗脳をするのは無理だと考えている。だから孤児院の子たちがされていたのは刷り込みだと予想していた。刷り込みとは簡単に言えば卵から孵ったばかりの雛が最初に見たものを親だと考える。それが例え人であろうと関係なく親だと考える。それでは孤児院の子たちにどのようにして刷り込みを行ったのかだけれど、精神の奥にいる人形が強制命令をかけ続けた。孤児院に住み続ける。勉強はしない。これらの強制命令をされ続けた場合、見かけで判断するのは不可能。強制命令は抗うのに強い精神力が必要となる。つまり命令自身も強いものだと考えられる。最高で一月。最短で7日。刷り込みがいつ消えるのかは不明。寿命まで消えない可能性もある。逆の刷り込みを行った場合は精神が壊れる。孤児院から強制的に追い出しても精神が壊れる。命を助ける手段はあるけれど、あの子たちの人生を救う手段はない。クリスが実験場にいる人の扱いがよく分かると言っていた。殺す予定の実験動物と同じだとね。」
それは強制命令を常在させる事と同じ。抗えるのはクロアとロディしかいなかった程の強い魔法での命令。そして命令され続けていると子供たちは命令内容が当然だと考える…、考えるのではなく無意識だと思う。嫌がらせだけで命を奪い人生も壊す。最悪なクズたち!
「クロア、注意するために話したの?助ける方法を考えるために話したの?それとも完全に諦めさせるために話したの?」
「どちらかといえば情報共有の意味が強いよ。私たちが生きているのは残酷な世界。このような実験が20万年近く行われてきた実験場。無意識にそのように考えているから解除できない。今回のように強制命令が使われてしまうと解除する方法がないと思われる。もしかしたら仕事しないも強制命令に入っていた可能性がある。孤児院の子たちを呼び戻すことはできる。だけど全て自分たちで世話するのであればね。私は何も手伝わない。助けたければ人間の寿命と同じ年数は孤児院に捧げなさい。あなた達はどのような決断をするの?」
胸の内で燻っていると思われる感情を完全に消すため。助けられたかもしれない。何かできることがあったかもしれない。そのような感情を全て消すために話した。命は平等ではないと突き付けた。この子たちはまだ幼いけれど、知っておかなければならない。
「何もないのなら勉強しなさい。クローディアを強くする実験のために100万人以上が犠牲になっていると考えられる。その中にクローディア自身も含まれる。それについて生き残ったクローディアは知っておくべきことだと考えている。失われた命を背負う必要はない。私たちも実験された側なのだから。」
「その通りだね。クローディアが最初に家族だと洗脳される人形は人を食べる。1年で5人しか食べない訳が無い。本当の被害者はもっと多いと思う。少なくても100万人だよ…。」
末っ子4人は何も言えないと思う。桁違いの被害者の上に今があり生きているのだから。その被害者がクローディアを強くする実験によるものだと知れば4人は失われた命について考える。勉強する内容もその考えにより変わる気がする。強くなるのは当然でそこから先は何を目指すのか…。
「黙って座っていないで勉強に行きなさい。孤児院の子たち200人近くよりもクロアの方が可哀想な目に遭っている。3歳で死んだクローディアが何人いたのか分からない。人は戦争でも殺し合う。自分と関わったことがある人だけが可哀想だと思うのなら人形を倒すのをやめなさい。全ての子が可哀想だと思うのなら世界中の戦争を止めなさい。人形は操り人形で首謀者は死んでいる。何かしたければ強くなりなさい。弱ければ何もできない、選べられない。何をするために強くなるのか考えながら勉強しなさい。そしてクロアがいなければ強くなる環境さえ整えることができなかったと理解しなさい。幼いことを言い訳にして動けないのであれば私がクロアに頼んで人形を殲滅し世界を滅ぼす。皆が死ねばこれ以上は悲しい思いをする子もいない。それが嫌なら勉強に戻りなさい!」
「勉強に戻るよ!何もしなくていいから。」
「戻ります。今から勉強です!」
「勉強して選べられるようになるよ!」
「強くなるしかありません!今は何もできません。」
末っ子4人は発言してすぐに資料館に入っていった。
ミュリエルが私のことを見ている。言いたいことがあるのかな?
「どうしたの?何か言いたいことがあるのかな?」
「話すのはもう少し大きくなってからでもよかった気がします。」
「ミュリエル、クローディアは強くなるために実験され続けてきた。だからあの子たちは普通の3歳児ではない。人が産んだ子でもない。私たちは研究員が生み出した存在。3歳児として生み出された直後に魔獣に食べられる拷問を受ける。普通は体が死を選ぶような痛みなのに精神だけしか壊れてくれない。そして魔法で新しい精神が作られる。この実験場の残酷さを誰よりも知っていて力がなければ何もできないことも知っている。ミュリエルも3歳の頃から人を殺す力があったら素直に悪の組織に攫われた?貧民街で生活した?実験場にいる人の頭には爆弾が仕掛けられていた。いつでも皆殺しにできるように。この地に住む人の命は等しく無価値だと考えられていた。ここには強くなれる環境があり努力すればするほど何者にでもなれる。全て無価値の実験場で特にクローディアの命は酷かった。体内は爆弾だらけで全て即死に繋がる。拷問を耐えて殺し合うのは同じく拷問を耐えたクローディア。それを捻じ曲げたからアディとローアを助けることができた。あの子たちは幼くても人を殺す力を手にすることができる。だから命については考えなければならない。これでいいかな?」
それが一番の理由だね。人を殺すことができるのだから幼くても命について考えるべき。それにより勢いだけで殺すことがなくなる。殺した後に考えるのではなく殺す前に殺すべきか考えることができるようになる。
「確かに3歳の頃から人を殺す力があれば全てを殺して手に入れたと思います。殺したことを後悔することもないでしょう。よく分かりました…。私も勉強に戻ります。」
ミュリエルは早歩きで資料館に入っていった。
「本当に賢い子だよね。自分や他人の命の価値を決めるのは自分で、何も考えずに殺し続けることは危険だと考えられる。クローディアは殺せる命の数も救える命の数も普通の人とは違う。だから普通に暮らしている人よりも命について考えなければならない。それにしてもクリスはよく気づいたね。それなりに状況を話したの?」
「話したよ。クリスが生きていた時代での知識が前提になるけれど、脳を洗脳することは不可能だと思っている。精神も脳にあるけれど、精神についての研究は行われていてそれなりに分かっていたみたい。人形が強制命令を使えることは知っていたので刷り込みの可能性が高いと考えた。強制命令が解除された後は何を命令されていたのか本人しか分からない。最悪な脳への攻撃だと言っていた。姉さんが届けさせたお茶とクッキーのお陰で話を聞く機会ができた。研究中は声が耳に届かないから。強制命令は孤児院に住んでいるから確実に発動する。一月はディアが冒険者として活動を始めた頃のことだけれど、それはないと考えている。7日間で十分だと思われる。抗う辛さを考えると間違いなく一生解けない。それに子供として誰が見ても違和感を覚えない強制命令を複数かけられている可能性が高い。記憶を消しても刷り込みは無意識に近いから記憶とは別の場所に保管されている可能性がある。諦めた方がいいとはっきり言われたよ。姉さんはどのように思っているの?」
クロアにも迷いがあるのかもしれない。せっかくだから私の予想も伝えておこう。孤児院の子たちは救えないけれど、できることがあるのかもしれないから。
「少し話の内容は変わるけれど、人形の中に首謀者がいる可能性があると思っている。権力者が簡単に滅ぼされるとは思えない。全ての実験は権力者の体を作るための実験で成功していないので封印を解かない。実験場に記憶を複製した人形を封印しておいた方が安全だよ。封印を解いていたら攫って拷問した方がいいね。更に魔石に記憶を入れている可能性があるから魔石も砕いた方がいい。」
「権力者しか知らない結界で隠された実験場。隠れるのには最高の場所だね。流石姉さんだね。魔石を砕いて記憶の復元を不可能にして封印されている存在を攫うよ。ここで嫌がらせをしてきた人形は指示待ちで動かないからね。強制命令で動かす。最高の拷問を贈るから任せて。」
権力者たちは終わったね。所詮ただの権力者。世界の女王様とは勝負にもならない。これから本当の恐怖を知ることになる。この星が滅びるまで…、他の星に魔獣が住む森を作れば更に長く拷問できる。クロアならそれも考えていると思うから言わなくてもいい。
「クロア、小麦粉が売っている国を他に知っている?」
「昨日買った周辺の国には売っているよ。あの辺の気候に適しているのかもしれないね。お菓子のほとんどに薄力粉と砂糖とバターと卵と牛乳が必要だから牛と鳥も育てようかな。」
世界の女王様はお菓子の女王様になるつもりなの?全てを育てて手に入れるという発想がお菓子を作りたい人ではない。女王様にとっては全てを自分で育てて作るのが趣味のようだね。
「クロアが積極的に行動してくれるのは嬉しいけれど、売ってくれないよ。その人たちの生活が懸かっているのと生活に余裕がないと思う。この世界に良心のある人は少ない。そのしわ寄せが生産職の人に必ず行く。つまり買い叩いて高く売るのが多くの商人たちだと考えている。人と関わる計画か余り関わらない計画かどちらがいい?」
「日々の生活が苦しい値段で食材を買い叩かれる。ギリギリの生活をしているので売れないし大金を渡すと奪われる。姉さんが計画を考えてくれたのなら安心だね。移住などはなしで食材を良心的な値段で買う人として行動したい。」
私たちが関わると小さく動いているように見えても大きな動きになってしまう。クロアにはできないことがほとんどなく大金まで持っている。お互いに得するようにしなければならない。そして今後のために大きく動いてみよう。
「クロア、移動をお願い。クッキーの残りを2枚ずつ袋に入れて出せるようにしておいて。一番大きな家に直接行くよ。」
「分かったよ。交渉は姉さんに任せるね。」
クロアは分身を作ると私と一緒に1軒の家の前に移動した。周りを見ると家が疎らにあるけれど、木の策で囲われているだけで警備としては手薄だと思う。ここは戦争とは無縁の土地なのだと思う。そして目の前の家が一番大きいけれど、来客用のために広く作られているだけのように見える。外観を見ても凝ったものはなく絢蘭豪華とはほど遠い。
「おはようございます。この辺り一帯の街長の自宅だと思って声をかけています。食材の購入の交渉に来ました。話だけでも聞いてくれませんか?」
少しして玄関のドアを開けてくれたのは普通のおじさんだった。着飾っていることもなく特徴が何もない。贅沢な暮らしはできていないのだと分かる。街長でも普通の暮らしをするのも苦しいように感じる。
「商人だべか?とりあえず入ってけろ。話しば聞がねえと何もわがらねえでな。」
「ありがとうございます。それでは失礼します。」
「失礼します。」
街長は机に案内してくれた。
私たちは促されるように椅子に座ると街長が正面に座った。
「さで、どのような話しだべ?」
「ここら辺では悪徳商人に買い叩かれて生活が苦しいと考えています。それを改善し適正価格でお茶、砂糖、薄力粉、強力粉、牛乳、バター、チーズ、卵、を買いたいと考えています。用意できるものだけで構いません。適正価格は月の給与30万リンです。但し、まじめに働いている人からしか買いません。私たちは感情が見えます。悪徳商人や悪人は農地に入れないようにすることも触れたら消滅するようにもできます。農地内で殺人を企てた人を殺すこともできます。人を生き返らせる事と洗脳を解くこと以外は全てできると考えてください。クロア、クッキー2枚を街長に渡して。薄力粉と卵とバターと砂糖で作ったクッキーです。どうぞ食べてみてください。」
「はい。どうぞ。」
クロアは小さな透明の袋に入っているクッキー2枚を街長に手渡した。その透明の袋は何なのかな?艶があり光が反射している。
「それではいただくだ…。んめー!なんじゃこりゃ!すげえべ。これはすげえべよ。なるほどなぁ。手入れさしてねえ畑で取れたものはいらねえが真面目に仕事してれば買ってくれるわけだな。ここら辺で全て揃えることができるべ。ただオラでは正確に判断できねえべよ。」
「クロア、農地の地図を書いて真面目に働いている人の家だけ色を変えて。作物が育っているところは全て範囲に入れてね。それと念のためにクッキーを2袋置いていって」
「2袋だね。それでは見てくるよ。」
クロアはクッキー2枚が入った袋を出してから消えた。袋を触るとツルツルしている。無敵紙を利用したものなのかな。袋だけでも売れそうな気がする。
「私の案では悪徳商人と悪人は消すべきだと考えています。妙な噂を流されると買い物もできません。それと真面目に働いていない人は収入がなくなります。そのための補助金も用意します。但し、どのように渡すのかは街長が決めてください。買い叩かれている状況で真面目に働ける人は余りいないでしょう。私の予想では1割か2割だと思います。真面目に働いている人とだけ交渉しても構いません。街長が決めてください。」
「難しいべ。あの子が戻ってきたらでいいべか?」
何か感じるものがあったのかもしれない。この人は純粋な心を持っているのでクロアが特別な存在に見えても不思議ではない。魅力的な美少女だと追いかけてくるだけの馬鹿とは違う。
すぐにクロアが戻ってきた。仕事が早すぎる。
クロアが地図を街長に向けて置いた。街長は真剣な表情で地図を見ている。状況は深刻だと地図を見なくても分かる。
「クロア、何軒の家があって何軒の家が真面目に働いているの?」
「えっと55軒の家があって、食べられない生活をしているのを考慮すると15軒。何も考慮せず真面目に働いている家は8軒だよ。」
大体予想通りだけれど、街長は心底困ったような顔をして腕を組んでいる。
「8軒の家には30万リン、7軒の家には20万リン、残りの40軒の補助金のために800万リンを今すぐ用意することができます。どのようにするのかは街長が決めてください。」
「待ってくんろ…。適正価格はそんな額だべか?」
適正価格も決めていない。他の街との交流もなさそうだから卸値を聞けない。買い出しに行って売った商品の値段を見ても売っている人が商人と違うから自分たちの収穫したものだとは分からないし聞いても別の街の名前を出されるに違いない。もしくは存在しない街の名前を…。
「冒険者組合の受付の女性の月給が20万リンです。できれば収穫量により給与を変えたいのですが私たちでは分かりません。だから街長に決めてほしいのです。収穫量を管理しているのは街長でしょう。真面目に働いていても収穫量が少なければ給与を減らしても構いません。あくまでも目安の金額でそのお金を今すぐ用意できるという事実があるだけです。但し、今後は他の商人に売らないという契約もしてもらいます。真面目に働けば全ての人に給与を払います。クロア、食材から品質の悪いものだけを取り除くことはできる?」
「できるよ。全て買えば楽でいいね。」
「そんなことまでできるべか…。」
それなら品質の悪いものも買えるし値段を下げればいい。
「全ての家のものを買いますから絶対に混ぜない事と家が分かるようにしてください。街長がそれぞれの家の月給を決めてください。品質が良ければ後で上乗せします。翌日には上乗せ分を持ってきます。それでどうですか?例えば街で売られている値段で買いましょう。それなら分かりやすくありませんか?」
「街で売られている値段の1割でいいべ。そんで10万リンにはなるでな。10万リンと収穫量を考えた額を考えるべ。品質が悪ければ収穫量が多くても10万リンでいいべ。そんでも今までより十分に多いだべな。全ての家にこんがらのことを通達するべ。翌日でもええが?」
1割で買っても10万リンにしかならない。相当買い叩かれている。卸値は聞かない方がいい。適正価格で買うという事だけが伝わればいいのだから。
「クロア、結界は張ってくれた?」
「張ったよ。」
仕事が早すぎるよ!
「ここからはお金とは違った話を少しだけしましょう。ここでの食材は買い続ける契約ができそうですから少しだけ贈りものをします。食材の数だけ願いを叶えましょう。お茶であれば種類も数に入れて構いません。悪人を消し殺人を企てた者を殺すのは含まれません。お茶が1種類なら8つですね。但し、真面目に働かなくなった場合は全て元に戻し私たちは去ります。願いは農地全域に適用します。真面目に働ける願いと日常生活の負担を軽くする願いを叶えるのが最善だと思います。クロア、このくらいはいいよね?」
「これだけ広大な土地を買い占めるなんて姉さんも大胆だね。お菓子が何でも作れそうだよ。邸の8人には余ったお菓子を売りに行かせよう。」
それは大切だね。私たちも無職だけれど、邸の8人が無職なのは気に入らない。
とりあえず大銀貨が20枚入った袋を55袋出した。街長への給与は金貨20枚でいいかな。
「大銀貨20枚が55袋と街長への給与は金貨20枚でどうですか?お金がないと説得力もないでしょうから。街長に収穫量から適正価格を考えてもらうのですから毎月払います。」
「オラも給与をもらえんか。真面目に働けという事だべな。それで願いとは何だべ?お茶の種類で増えると12くらいになんべよ。例えでいいから言ってみでくんねえか。」
クロアが私を見ている。分かっているよ。
「上水道で願い1つ。下水道で願い1つ。全家庭の台所に上水道を繋げるので願い1つ。トイレを上下水道に繋げて専用のものに変えるので願い1つ。用水路を引くのも願い1つ。用水路の場合は地図に線を引いてください。溜め池を作るのも願い1つ。地図に場所を書いてください。全ての家を綺麗にして修理して強化するのも願い1つ。皆が集まる集会場を作るで願い1つ。地図に場所を書いてください。これで8つです。これは私たちの誠意であり、あなた達が裏切れば全て元に戻します。クッキーを夫人に配ってあげてください。クロア、クッキー2枚入り13袋は残っていないかな?」
「全部で15袋にすれば30枚になるね。ここでの収穫に期待して全部出すよ。合わせて25袋。街長が好きなように配ってね。」
「分かってんべ。裏切りはしねえよう見張る。これは確実に揉めるぞ。男と女でも揉める。明々後日に来てくんろ。売り物から全て用意しておくでな。おーい、お客さんにお茶出しくれ。」
2階から女性が下りてきた。普段着に着替えているから寝ていたわけではなさそう。邪魔をしないように下りてこなかったのかもしれない。
「あんた、どういうお客さんなの?」
「特上のお客さんだ。全ての家の全ての食材を10万リン以上で買ってくれる。そこからオラの仕事があるべ。お前もクッキー食ってみろ。すんげえぞ!」
「夫人、どうぞ。」
透明な袋に入っているのが珍しいのかクッキーの色が濃い黄色で焼き加減が気になるのかしっかり見ている。覚悟を決めたのか袋からクッキーを1枚取り出して食べた。
「んー!こんなに美味しいクッキーを食べたのは初めてです。材料は秘密ですか?」
「一番簡単なクッキーだべ。お菓子を作る腕から契約内容まで全て桁違いだべ。とにかくお茶を出してくれ。」
「今日の契約内容は食材を全て10万リン以上で買う。街長が収穫量や食材を見て金額を増額する。私たちが品質を見て金額を増額する。街長の増額できる金額は10万リンまで。私たちは無制限。食材の数だけ願いを叶える。叶える願いは後日契約書を作る。それと裏切り内容についても契約書に書きましょう。皆がお金に目が眩んで仕事を真面目にしなくなった。他の商人にも食材が高く売れると考えて私たち以外に売った。真面目に仕事して私たち以外には売らない。必ず購入しますので安心してください。簡単にするとこうなりますね。例えば玉露のように1年に一度しか取れないようなお茶を扱っている場合でも毎月給与は出します。畑の手入れは必要ですから。病人がいたら治します。クロア、全員に回復魔法をお願い。」
「分かったよ。回復終わったよ。」
街長の体が一瞬光に包まれた。不思議そうな顔をしているのは何か病気があったのかな?
「肩と腰の痛みが消えたべ。ただの腰痛でも病人としてくれるべ?」
「加齢による痛みは無理だけれど、それ以外の痛みは全て確認する。食材を購入するときに教えてくれたら治すよ。」
「契約書に加齢以外の病気や痛みは治すと書いてください。但し、働いている家族のみです。噂を広めて他の人が治療を望んでも裏切り行為としますね。特別扱いは人を変えます。お金を持つと人は変わります。願いも人を変える要素です。厳重に注意してください。全て消えます。勘違いした行動は今後の人生を苦しくします。街の住民全員がです。街で罰を与えるなら見逃します。簡単なことですが守れない人が多いのです。全ての住民の生活が懸かっていると考えてください。」
夫人がお盆にお茶を乗せて目の前に置いてくれた。見た目は緑茶だけれど、香りが違う。夫人にお礼を言って一口飲む。甘みが強い。苦みをほとんど感じない。私はクロアを見た。
「玉露も売っているの?これは街の中だけで飲んでいるの?」
「売ってんべ。明々後日には用意するつもりだ。おーい、お前これを見ろ。絶対に裏切者が出ねえように妻たちで夫を見張るようにしてくんろ。」
「とんでもない条件ですね…。何も売るものがなくても畑の管理のために最低でも10万リンはいただける。体は既に治してくれましたね。あんた、願いは揉めるよ。どうするの?」
やはり願いはやりすぎだったのかな?だけど自分たちで決めた願いを全て消されるのは辛いはず。約束を守る決意を固めて仕事してほしいけれど…。
「この地図を見ろ。この人たちは真面目に仕事しているやつが分かんべ。こいつらの発言ば優先することにする。他のやつらは何も言えねえべ。裏切者が出たら全て消える。街で罰を与える限りは見逃してもらえるが外の街にこれが広まったら終わりだ。とんでもねえ人たちだべ。下らねえ嫉妬や妬みでぶち壊さねえようにしてくんろ。何も作ってなくても10万リンば出してくれんだ。オラが収穫量や食材の希少性などを考えて10万リンまで給与を増やせる。更にこの人たちが品質の確認をして無制限で給与を増やしてくれる。年中取れる食材ばかりじゃねえ。そういうことも考えねばならねえ。オラも給与を20万リンもらえんだ。遊べねえべな。それに最低額の10万リンとオラの給与を先払いしてくれてる。普通に暮らせるんだべ。真面目に仕事すれば少し贅沢ができるかもしんねえ。この辺りの農地一帯に悪人も悪徳商人も入れねえようにしてくれてる。怖えのが馬鹿なやつが出ることだ。そうだ。遊んでるやつを追い出すのはええか?畑がねえ次男や三男にも仕事を与えられる。」
「勿論いいけれど、畑がないなら畑を増やしてほしいと願えばいいと思うよ。土も耕して同じ状態にしてあげるから。」
「街長も視野を広げないと勿体ないです。余っている人がいるのなら仕事させた方がいい。」
2人が唖然としてクロアを見ている。畑を耕すまでは分かるけれど、同じ状態にするはおかしいと私も思うからね。
「生物は無理だよ。命を生み出すことはできないから。畑の成分を解析して全く同じ畑にするだけだからね。」
「地図に書き込めばいいから。空き地のままにしないのであれば問題ないよ。畑を増やしても誰も仕事をしない方が問題だから。」
「そうだべな。それは無責任だべ。畑を広げて手伝わせた方がええがもしんねえ。よし、契約書ができたべ。」
「そうでした。自己紹介がまだでしたね。私はフィオナ、妹のクローディアです。よろしくお願いします。名前も契約書に書いてください。妹のクローディアを契約者にしてください。」
契約者がクロアなのは譲れないからね。
「分かったべ。これでいいべな。確認してくんろ。」
「書くところを見ていたからいいよ。問題ない。街長の心も濁っていない。」
「一応私が確認しますね。」
街長から契約書を受け取り内容を確認する。その方が街長も安心できるから。
契約者:クローディア様。
契約内容:アボット街の全食材の購入。以下に詳しく内容を記載する。
1、アボット街の農耕地一帯に悪人が侵入できない結界が張ってある。悪人が触れると消滅する。
2、月額の最低給与は10万リン。食材が取れない月も畑の管理費として支給してもらう。
3、街長が収穫量、収穫数、収穫月などを考えて上限10万リンまで給与を増やすことができる。
4、契約者が食材の品質を確認して給与を増やす。上限はなし。
5、他の商人に食材を売ることを禁止する。
6、加齢による痛み以外は治してもらえる。
7、アボット街で売ることができる食材の数だけ願いを叶えることができる。願いについてが後日新たな契約書に記載する。
8、契約者を裏切る行為により契約内容を破棄する事とする。但し、街で罰を与えたり追い出すことは裏切りに当たらない。
裏切り行為は真面目に働くことをやめる。契約内容を広める。他の商人に食材を売る。
「街長、追い出す前に私たちの前に連れてきて下さい。契約内容の記憶を消去して結界の中に入れないようにします。」
「そんで追い出しても噂ば広がらねんだな。分がったべ。それを追加すれば大丈夫だべか?」
クロアが地図に印をつけていく。そこまで詳しく分かるの?
「街長、印をつけた家の人は裏切る可能性が高い。仕事を辞めたがっていてお金があればそれを元手に近隣の都に移住するつもりでいる。夫婦で移住するつもりだから監視は不可能。移住した人たちは貧民街に住むことになるから不幸になる。飢えて死ぬか残飯を漁るのが一般的だよ。結界から出られないようにして買い物を誰かが代行する。それで見極めてみるといいかもね。私はどちらでもいいよ。」
「出られないようにしてくんろ。今日中にお金を配るから街の者で見張るべ。」
「決まりましたね。それでは明々後日を楽しみにしています。失礼しますね。クロア、帰るよ。」
「またね。楽しみにしているよ。」
クロアの転移で自宅に戻ってきた。分身は消えて本体はお茶を飲んでいた。
「クロア、街が裏切る可能性はどのくらいあると思う?」
「街は絶対に裏切らないよ。街長の近くにある家は大丈夫だと思う。結界の端の方に家がある人たちが危ない。次男、三男に無理やり畑を用意してあげた場所だから。姉さん、街と契約したように見えるけれど、実質は街を買っているよね。」
当然クロアは気づいているね。
それでもお互いに利益のある契約内容にしたよ。
「間違いなく世界で有数の豊かな街になる。街を購入する契約にすると仕事をさせられていると考えて食材の質が落ちる。あくまでも食材を買う契約だという事にしておいた方がいい。1割で買っても10万リンにしかならない。1年に一度しか収穫できない食材だと一月1万リンも使えない。読み書き計算ができないから騙されて契約させられる。生産者を潰す商人は潰す。それと邸の8人に読み書き計算を教えさせて買い物にも付き添わせる。8人が無職なのは気に入らない。今までの給与を払って追い出したくなる。そしてお店もしてもらう。買った食材で質がよく使いきれないものは高級品として売ってもらう。クロア、女王様として命令しておいて。」
信者たち男性は1年間外に出ていてほしい。出ないのであれば働いて利益を出してほしい。
「男性には厳しいね。私も遊ばせておくのはどうなのかと思うからその方向で働いてもらおう。それでは料理部屋を増築しようかな。クッキーを大量生産しつつ新しいお菓子も作らないとね。」
「それはいいけれど、クッキーを入れていた透明な袋は無敵紙なのかな。」
何か新しいものを作り出している可能性もあるけれど、無敵紙だと思う。
「そうだよ。透明にして艶々にしただけの無敵紙。だから燃やせるし切れる。それと男性たちに結界が張ってあるから常駐して読み書き計算を教えて買い物にも付き添って騙されていないのか確認するように伝えた。私がお店を作る予定だから売り子をしてとも伝えておいた。お金を出している以上の利益をお菓子で出せばいいのよね?」
「それが理想だけれど、クロアの趣味だからお金儲けにはこだわらなくていいよ。それに美味しいものを作る途中の失敗作でも売れるから。それと結界に触れて消えた悪徳商人が貯め込んでいるお金は街に還元しよう。」
奪ったお金は返してもらうよ。私たちの支払いも楽になるし街に渡せるお金も増やせる。お金を与えすぎると人生を壊してしまう可能性があるから調整が必要だけれど。
「姉さんもやり手だね。詐欺をして儲けたお金は返してもらわないとね。」
「その通り。返してもらうだけだよ。明々後日が楽しみだね。」
どのようなことを願いにするのか。働く利便性を高めて生活で苦労している部分を改善するだけで今までの暮らしが嘘のように変わる。
それと貧しい暮らしを強いられていた大人たちはどのようなことになるのか。うまく適応できればクロアの趣味に使える食材が大幅に増え買い出しで探す必要もなくなる。しかし住民が環境の変化に適応できずに欲に負ければ契約破棄される。
実験場にどのような人が住んでいるのかなるべく多く見ておきたい。
都会に行けば何とかなると思っている人もいます。




