第54話 去る人残る人
結界内の中心に戻ってきた。すぐに契約解除を始めよう。
忙しくなることは分かっている。新しい人が見つかるまでは休めるのかも分からない。それでもクロアを邪魔者扱いすることが分かっている女性たちを雇い続ける気はない。感情把握で自分のことを悪く思っている人たちを詳細に把握して命まで守るようなことをさせたくない。それに辞めろと言う必要もない。彼女たちは必ずお金をもらって辞める。
あなた達の力で孤児院を盛り上げて!
「ディア、ロディ、アディ、ローア。今後は夕食までお願いね。孤児院で魔法と感情把握を使うのは緊急事態を除いて禁止。お風呂が危険だと思うのであれば大きな子に小さな子を見るように頼みなさい。全て自分たちだけで解決しようとしない。協力して安全に楽しみ続けられる仕組みを皆で考えて実行しなさい。勉強しながら楽しみなさい。孤児院の主役は子供たち。任せたよ!」
「フィオナ姉ちゃん、任せてよ!みんなー、冷凍箱に行くよー!」
「はーい!」
やはり自然と皆を率いることができるのはディア。ディアの年齢を気にしている子は1人もいない。ディアの行動が間違っていると思えばロディが止めてくれる。2人と比べて力が足りないと考えているアディとローアも孤児院で安全に楽しく遊ぶ仕組みを考えることには積極的に意見を言うに違いない。誰一人欠けることを誰も望んでいないのだから。
自宅に帰ってきたら話を聞いてあげることも忘れない。
末っ子に任せて放置しない。クロアが見てくれているからと油断しない。
「ブレット、食事の用意をお願い。それと襁褓の子の世話もできる?」
「はい。両方お任せください!」
彼らは限界まで働き続けると思うから何か仕組みを考える必要がある。普通の人は休まなければ過労で倒れてしまうのだから。倒れて死んでしまった奴隷をたくさん見てきたのだから同じ光景をここで見るつもりはない。
「クロア、分身を交代して。少し長くなるかもしれないから。」
「大丈夫、既に交代しているから。流れは姉さんに任せるよ。」
クロアに頼り続けるのも間違っている。姉なのだからせめて矢面に立つくらいのことは最低限しなければいけない。孤児院は個人の力ではなく皆の力で盛り上げていきたい。
それでは始めましょう。
「それでは話します。7日間で200万リンの契約をして延長してもらっています。もうすぐ一月なので延長料金を上乗せして1000万リン。契約解除するのか決めて。明日からもクロアを買い出しに連れていく。常にあの光景が続く。今日中に私たちは帝都を出て何もない森に行く。引越し先の国はまだ決まっていない。クロア、解除してあげて。」
「少し待ってね…。もう何もないよ。」
皮肉にも問題が起きて残った子たちは悪癖のある子ばかり。
帝都で生き残るには必要な力なのかもしれない。だけど孤児院で働くには必要ない。
「出て行くのか残るのか決めて。質問があるのなら答えるよ。」
「何故今日にしたのですか?」
あなた達がクロアを邪魔だと思うことが分かったから。
「今朝から引越し先の国選びを始めたのよ。私たちには感情が見える。それは伝えている。あとは自分たちの方が分かっているでしょ。」
「私は残ります。」
「私も残ります。」
オードリーとミュリエルが残るのは分かっていた。ミュリエルにお願いしよう。
話し合いが終わるまでに理解してくれるだろうか…。
「ミュリエル、私たちに遠慮する必要はないから。どんどん話しかけてよ。それで聞きたいのだけれど、オードリーの悪癖に気づいている?」
「クロアさんに話しかけていたのはそれですか?」
やはりクロアとオードリーが話していた内容を聞かないし気にしていない。賢いし自分が感じていることを信じているのだと思う。働いてくれた女性たちの中で一番過酷な日々を過ごしてきたのに表に出さない。感情を表に出したら生きていけない場所で育てられたから…。
「それだよ。ミュリエルはそれでクロアに話しかけるのを遠慮しているのでしょ?幼い頃から私たちの周りには回復魔法を使える人がいた。そのような状況だと際限がなくなる。それにミュリエルは察する力が強い。それが必要な力だったと分かっているよ。同僚について詮索禁止を解禁にするから2人で話してきて。ミュリエルは好きなように話して。そのまえに残ると決めた2人には男性恐怖症とは違うクロアが3歳児のときの記憶を1回分だけ見せてもいいと考えている。安全は確認済みだよ。どうする?」
「そのときにも何かあったのですか?知りたいです。」
「待ってください!それを見たあとに立てますか?」
危機察知能力も高い。それがなければ生き残れなかった日々だから。
他の人は残らないと思うから暫くは唯一の同僚になる。仲良く働いてほしい。
「高級料理店のお弟子さん達はずっと座っていた。ミュリエルは間違いなく立てる。1回であなたのこれまでには届かないから。だけどオードリーは絶対に立てない。20万回以上経験したうちの1回、3歳児のときに経験した記憶だから。私はどちらでも構わない。見られて恥ずかしい過去だとは思ってはいないから。2人が別々に答えて。」
「私も立てます!3歳児のときに何があったとしてもそれで立てなくなるのはおかしいです。」
「オードリーさんは何も感じていないのですか?私は絶対に見たくないです。」
2人の過去を知っているクロアの判断に間違いはない。
それなのにオードリーは比べたがっているし負けたくないとまで考えている。
不幸だった過去があなたの自慢で誇りなの?それは余りにも寂しいよ…。
「ミュリエルは見なくていいよ。オードリーに見せた後に内容を話すから。それではオードリーだけに見せるよ。」
少し離れた場所にクロアとオードリーが転移した。
そしてすぐに絶叫がこちらまで響いてきた。孤児院には聞こえないように結界を張っている。
オードリーは円を描くように転がり続けている。芝生でよかったね。
クロアだけが転移して戻ってきた。
「痛みのない記憶で転がるのが不思議。3歳から10歳までは死ぬ直前まで魔獣に食べられていたんだよ。20万回以上とか頭がおかしいでしょ。痛みに耐えるために洗脳されていた。精神も魔法で作れるからね。この体の精神は何回壊れたのか知らないけれど、施設で生み出された直後から拷問が始まる。幸せと不幸せの基準は人により違うけれど、比べたがるのはよくないことだと思う。オードリーは一番不幸なのが自分でそれを自慢したがっていた。ミュリエルの過去に比べたら可愛いものだよ。姉さんは彼女の悪癖が孤児院で問題を起こすと考えて早めに対処した。」
「ミュリエルには彼女の悪癖の何が問題なのか指摘してほしい。そして過去ばかりを見ている彼女にあなたの生き方を伝えてほしい。自分の過去は話さなくてもいいから。働いてくれた女性たちの中であなたの生き方が一番素敵だと思っているよ。これからもその生き方を孤児院で見せてね。」
「分かりました。話してきます。」
静まり返っている。悲鳴や絶叫には慣れているはずでしょ。
「残ると決めた2人のうちオードリーには不幸を比べたがる悪癖があったから対処した。それでは話を続けるよ。どうするのかな?」
「コリーさんがいないのは何故ですか?」
殺したと思っているのかな?
クロアはこの質問を予想して殺さなかったの?
質問した女性はコリーの安否を全く気にしていない。辞めても殺されないのかを気にしている。本音で質問してくれた方が答えるのも楽なのに…。
「もぐもぐ食堂に行けば会えるよ。コリーは孤児院でお金を稼いだ後は働くつもりがなかった。だけど食堂の従業員が問題を起こし続けたので契約内容を変えた。引越し先の国で新しいお店を出店して営業が軌道に乗るまで資金援助する契約だけれど、お店を援助されても困る。何故なら働きたくないから。それでこの中にいる女性を狙った。結婚して少しだけ長く働けば祝儀が多くもらえると期待していたけれど、私が否定した。それでも孤児院にはお金を得る手段が残っているかもしれないと考えて引越し先が決まる前に婚約だけでもしておきたかったので焦っていた。皆から避けられ無理だと判断して出て行ったから結界内にいた記憶を消した。あなた達が辞めて結界の外で会ったら確実に狙われるから。妹を利用して残ろうとしていたけれど、奴隷商人に売られた妹が家族に会いたいと思うはずがない。女性をお金を得る手段だと考える男性が好きなら会いに行きなさい。」
「それなら高級料理店は何故消えたのですか?」
クロアの記憶を弟子2人に見せていると知って気になったの?記憶も消せて一瞬で殺されると知っているのに何故このような質問を続けるの?殺すつもりなら何も言わずに殺している。そのくらいは分かっているでしょ。
クロアがこちらを見て頷いた。
「あのお店は諜報員の教育場所。私に毒を盛って殺そうとしたけれど、毒が効かなくて殺せないから殺す手段を考え続けていた。関係者全員が諜報員が元諜報員。毒の矛先が家族に向く前に外に出した。何か食べると痛みを感じるように洗脳してからね。記憶も残している。その方が絶望すると大将が言っていたから。営業しているのかは分からないけれど、誰も殺していないよ。」
「私たちに何かしていたみたいですが何を解除したのですか?」
オードリーの話をしたのに自分は潔癖だとでも言いたいの?
先程から同じ女性が質問しているけれど、帰る方法とか自宅の現状を質問されると思っていた。辞める女性たちを親切にする理由はないと気づいていないの?
クロアが話し続けるみたい。
「あなたは手癖が悪い。邸で窃盗騒動を起こされたら困る。それなのに追い出さずにこれまでの給与を払う。何も知らないと思っているの?皆が残ってくれるのならお金を盗めるのにと考えている。魔法で本音を聞き出そうか?他の人も似たようなものだけれど。」
「クロアは働いてくれている女性たちの素性を調べた。そして問題を起こさないように悪癖だけを封じた。それを解除しただけだよ。自分たちの方が分かっているでしょ。」
「もういいです!辞めます。お金をください。」
ここまで周りの人に知られたら辞めるしかない。
だけど何も考えていない。
「1000万リンをどのように受け取りたいの?大金貨で100枚だと目立つね。持って帰れるの?辞める人を守るほどお人好しではないよ。」
「飛ばせるではありませんか!」
先程までクロアの力を恐れて質問していたのに平気でその力に縋ろうとしている。
不愉快だけれど、早く終わらせたい。
それに自宅が絶対に安全だと思っているの?
豪雨で何が起きたのかは伝えている。そもそも帝都に安全な場所はない。
現状が分からないのでクロアを見たら頷いた。
「それはいいけれど、あなたの自宅に知らない男性が3人いる。家族は逃げたのか殺されたのか分からないけれど、あなたは今すぐ飛ばしてほしい?私が嘘を吐く理由もないしあなたもそれがあり得ると分かっている。どうするの?あなたが注意したのに鍵をかけずに過ごしていた結果だよ。」
「最悪ですよ!親が喧しいから働きに来たのに貧民街の男たちに家を取られるとか馬鹿すぎます。私が無事に家に帰れる方法を教えてください。」
これが帝都に住む子たちの考え方なのかな。意見も出さず邪魔だと思う相手の力を借りることに抵抗がない。契約解除する女性を助ける義理は私たちにない。それすら分からないの?呆れるしかないね。クロアは思考誘導をいくつ付与していたのかな…。
このままでは終わらないから仕事として引き受ける。
クロアに頼るしかないけれど、無料で助けてほしくない。
「クロア、350万リンで男性3人を始末して家を綺麗にしてあげる仕事はどうかな?そのあとにお金と一緒に飛ばす。1人殺すのに50万リン、家の補強、修繕、清掃に200万リン、合計350万リン。格安だと思うけれど。」
「姉さんが決めたのならそれでいいよ。どうする?」
「給与から引いてください。残りは金貨でお願いします。それとナイフをください。」
安全に使えるお金を考えたら金貨か大銀貨。
お金を持っていると思われるだけで命を狙われる都市だから。
「少し待ってね…。はい、どうぞ。あなた愛用のナイフを作ったよ。」
「650万リン、金貨20枚が入っている袋が32袋と10枚が入っている袋が1袋だね。確認するのなら待っていてあげるよ。」
「必要ありません。つまらないことをしないのは分かります。ナイフありがとうございます。」
色々と考えてほしかった。長生きしてね…。
私は家族と子供たちを優先して守ると決めているから。
「お疲れ様。じゃあね。」
最初に飛んでいった彼女は無言で消えた。
ナイフだけに感謝していたのがとても悲しく感じる。
「50万リンで犯罪者を1人排除、200万リンで自宅を確認して綺麗にしてから飛ばすよ。」
「家族が生きていたら帰りたいです。死んでいたら残りたいです。それは駄目ですか?」
「それだけだと判断できない。全員生きていればいいのか、両親が生きていればいいのか、1人でも生きていればいいのか。知らない女性が家にいることも想定する必要があるみたい。」
妻と子供を殺して不倫相手と暮らしている。
感情が憎悪に染まっている。復讐した家であなたは笑って暮らせるの?
「帰ります。金貨でお願いします。2人を消して綺麗にしてください。」
「分かったよ。ナイフを2本あげる。常に携帯しておいた方がいいよ。」
「ありがとうございます。お世話になりました。」
感情のない言葉。
復讐した実感すら持てず前に進めるの?
「お疲れ様、じゃあね。」
祖国だからこの国を選ぶの?
他国を選べることを忘れているの?
家がある子はお金を払って帰っていった。確認して問題なければ50万リンで飛ばすことにした。だけどクロアが必ずナイフを渡しているのが帝都の危険性を表している。お金を持って帰ったら家族に狙われることも想定していると思う。
分からない…。
「クロア、邸の荷物も送ってあげているの?」
「送っているよ。姉さんが話したいみたいだね。」
気が利く妹だよ。私には勿体ないね。
「残ったあなた達に聞きたい。他国を見てきた。他国を選べる。それなのに帝都で暮らすことを皆が選ぶ。教えてくれないかな?私は帝都に魅力を感じない。野性的だとは思うけれど、何があなた達を惹きつけるの?」
「他国の女性を見て腹が立ちました。幸せに暮らしている表情をしていましたから。帝都の生活に染まっているので幸せな国だと目立つと思います。馴染める気がしませんでした。他国だと牢獄に入れられる気がします。それが理由です。」
「他国では男性に養われている女性ばかりでした。それに幸せを感じているのが不愉快です。この国では隙を見せたら命まで奪われます。ですが奪うこともできます。女性は力が弱いので不利ですが色仕掛けで油断させることもできます。性欲で動く男性には隙が多く楽に殺せます。性器に激痛が走ればあとは止めを刺すだけです。兵士たちに連携して襲われる女性は甘いだけです。兵士を1人ずつ殺せばいいのです。覚悟を決めている女性ならこの国で暮らすのが一番楽です。」
6人とも似たような話をした。帰っていった女性たちも同じなのだと思う。幸せな女性が働いているかもしれないとは考えない。男性に養われていると思い込んでいる。今朝だけでも出店していた女性を何人も見た。彼女たちはその出店で買い物をしていた。
そして殺しにこれ程まで染まっているとは思わなかった。男性を殺してきたと知っても強い女性だとは思えない。彼女たちは男性を殺すことを楽しんでいる。他国では殺せないから帝都を選んでいる。
最初の1人は自衛の結果なのかもしれなけれど、殺しに楽しみを見出してしまうと後戻りができないの。だから人を殺さない方がいいのかな。努力しても生き方を変えられないの?
彼女たちは殺しのない生活が続くと不満を持つ気がする。殺してきたから常に殺せる側にいられると考えているの?
クロアの力を借り続けている状況で強い彼女たちは1人で帰るのかな。
「殺されることに恐怖を感じないの?」
「隙を見せるから殺されるのです。用意していないから殺されるのです。覚悟が足りないから殺されるのです。普通に暮らして襲われたら殺すだけです。殺し続けるので恐怖はありません。殺されたら隙を見せて周りの様子に気を配らなかった自分が甘いだけです。」
自分ができる最善の用意をしていても拷問されるかもしれない。彼女たちがどれだけ用意していても楽にそれができる人が目の前にいる。それを知っている。それなのに同性だから安心なの?
彼女たちもオードリーと同じ気がする。過酷な環境で生きている自分を自慢したいだけで本当の恐怖を知らない。一方的に拷問され続ける恐怖を知ってからでも同じことが言えるの?私の記憶を見せ…。
「姉さん、それは違う。これまでの姉さんが正しいと私は思っている。精神を綺麗にしようと努力しているのにそのようなことをするべきではない。それで気が晴れるとも思えない。姉さんに得るものが何もないから全力で止めるよ。」
はぁ…、彼女たちに恐怖を教えた後のことを考えていない。間違いなくそのまま死ぬと分かっている。それなのに強い生き方をしていると考えている彼女たちの勘違いが許せなかった。今でも恐怖している私は笑われている気がした。全く何を考えているのよ…。
家族が最優先で次に孤児院の子たち。何も間違えていない。
「クロア、ありがとう。やはり未熟だよ…。彼女たちに現状を教えてあげて。」
「家族は助け合いでしょ。私が間違えたら姉さんが止めてね。それで6人は別の民宿に泊まっていたみたいだけれど、全て潰れている。私にも考えがあったけれど、あなた達の話を聞いていたら違う気がしたから自分で決めて。」
「何故違うと思ったのですか?」
星の爆発より難しそうだけれど、頑張ってみるね…。
クロアから怒りの感情が漏れている。私のためにごめんなさい。
それなのに怒ってくれている妹がいることが嬉しいと思う馬鹿な姉でごめんなさい。
家族にしてくれてありがとう…。
「6人がなるべく死なないようにするつもりだったけれど、死ぬのは怖くないし殺せるのであれば必要ないじゃない。人から与えられるのも嫌いでしょ。だから自分で決めて。もしかして決められないの?ここで用意できれば歩いて出て行ってくれる?」
クロアが言っているのは彼女たちが言ったこと。
自分たちの言葉で首を絞めているだけ。
「男性に与えられて幸せに生きている女性か嫌いなだけです。」
「今まで行った全ての国に自分の力で生きている女性がいた。あなた達はその人たちを下らない枠の中に入れた。何度も見ている。あなた達が買い物をしたお店で働いている女性も頑張っていた。姉さんを止めたのはあなた達に恐怖を教えるつもりだったから。間違いなく死ぬから止めた。姉さんの恐怖をあなた達が知る必要はない。私の拷問1回分の記憶で絶叫をあげた子がいたでしょ。姉さんの恐怖は私の何年分かな。それに自宅がある子は自分で決めたじゃない。あなた達だけ不親切にしているわけではないよ。親切にしてあげようとしたけれど、姉さんを馬鹿にしたから平等に対処することにしただけ。謝ったら殺すよ。口だけの謝罪は不愉快。だから決めてよ。」
誰も何も言わない。クロアが止めてくれなければ全員殺していた。
人間の寿命よりも生きている私が感情に流されるのは情けない…。
「犯罪者が住んでいる家を綺麗にして住めばいいと思うよ。他人が住んでいた家は嫌いなの?」
「商店街の近くで犯罪者が少なく住んでいる家はありますか?」
商店街の近くだと食糧を扱っていたお店以外は無事のような気がする。
それに近所の人たちは顔見知りだと思う。
自分の安全を確保してから殺したいの?
「帝都の人はほとんど犯罪者だから。商店街の近くだと別人が住んでいると気づかれるよ。そのあと何が起きるのかは知らないけれど、そこでいいの?」
強気に言っていた感情がこの程度のことで崩れている。
性欲以外で襲われる可能性があるのを怖がっている。
性欲で襲ってくる男性の目が怖いけれど、違う人もいみたい。
このまま無言が続いても困る。6人の中に6部屋ある民宿に住んでいた女性はいないの?
「6人でお金を出し合って民宿の犯罪者を殲滅して綺麗にして住むのは駄目なの?」
ようやく話し合ってくれた。住んでいた民宿の部屋数を確認していると思う。
「私が住んでいた民宿を綺麗にしてください。犯罪者は何人いますか?」
「2階に6部屋あって一階は食堂になっているところだね。食堂の奥にも部屋があるから7部屋。言っても信じないと思うから記憶で見せてあげる。14人住んでいて食堂の掃除が大変だから少し多めに取るよ。確認して。」
住んでいた子の頭に触れた。
夫婦で住んでいるのかな?だけど掃除が大変だという事は死体が多いか腐敗している。死体の臭を気にしない人たちだとすれば貧民街の人たちが思い浮かぶ。
「住んでいる人たちに知り合いはいないよね?民宿の家主もこの中にいないよね?」
他の女性たちが見守っている。確認するだけなのに長いね…。
「確認しました…。間違いなく私の泊まっていた民宿です。各部屋に2人ずつ住んでいます。食堂に死体を放置して生活できる意味が分かりません。死体は民宿を経営していた夫婦と部屋に住んでいた人たちです。皆ここを綺麗にしてもらっていいの?」
恐怖している。顔見知りの死体は辛いと思う。
だけどあなたなら恐怖より怒りの感情に染まると思っていたよ。
女性が聞いているのに誰も何も言わない。危険な場所だと考えているのかな?
貧民街の人たちに占拠されているのを恐怖している。
「その民宿は貧民街から近いの?南区域にあると思うけれど、どの辺り?」
「冒険者組合本部に近い場所です。それなりに安全だと考えていましたが大量の貧民が団結して襲ったのだと思います。」
貧民街の人たちは仕事をしていない。殺してお金や食糧を奪うか盗むしかない。
住む場所を確保しても変わらない…。
「民宿の間取りを教えて。設備も知りたい。」
「2階は客室でベッドと枕だけが常備されていました。1階は食堂とトイレとお風呂があります。トイレは下水道に繋がっていますがお風呂は上水道と繋がっていませんが週に一度入れる日がありました。食堂には孤児院の食堂よりも短いですか大人が座れる木の長椅子が木の長机の両側にありました。カウンター席は6脚です。食堂の奥には入ったことがありませんでした。夫婦の部屋と食材を置いておく小部屋がありました。」
私が全てを決めて死なれるのは嫌だな。それに自分たちで決めてほしい。
「あなたが扉かドアを新しく作るならどこが安全だと思うの?大きさも教えて。」
「表の食堂に使われていた扉は大きすぎるので危険です。仕入れに使っていた裏口も危険だと思います。人が1人出入りできるドアが食堂の扉を正面としたら左の奥の方、トイレの手前にあると嬉しいです。」
質問すれば答えられるのだから全ての要望を言えばいいのに。
「必要な家具や備品などを言ってみて。」
「2階の全部屋を一度空にしてベッドと枕と掛け布団が欲しいです。絨毯と座って使う高さの丸机と箪笥と鏡があると嬉しいです。夫婦の部屋は空にして調理場で使う薪やお金を置く場所にしたいと個人的には思っています。小部屋は消してください。食堂はカウンターが邪魔です。調理場を広くしてほしいです。」
結構要望が多いね。
「全て叶えたら実際にかかるお金を誤魔化さずに教えて。」
「1000万リン以上です。建て直すようなものですから。」
争って血塗れの部屋だろうし家具も壊れている可能性が高い。死体の腐敗臭が残る宿には住みたくない。こういうときに力がほしいと思ってしまうけれど、家族で協力するのだから料理を覚えることを優先するのは変えない。
「クロア、お願い。正面にあると思う民宿の看板と扉を消して。そしてカウンターと席を消して調理場を広くしてあげて。トイレは上下水道を使うものに変更。お風呂も上下水道と繋げて薪でお湯にできるようにして。排気筒を使ってお風呂で出る薪の煙や湯気、コンロやオーブンの熱を外に出すようにしてあげて。トイレとお風呂と調理場の壁は水で腐らないように。夫婦の部屋は空にして半分は薪で埋めて。そしてドアは要望通り。2階の部屋も要望通り。死体の臭いも血の臭いも完全に消してあげて。壁も補強して周りの家と馴染むように偽装。排気筒も偽装して煙を出す場所を増やして。1500万リン、1人250万リンでどうかな。内装も床も張り替えかもしれないけれど、やはり孤児院で働いてくれた女性たちはなるべく死んでほしくない。」
「姉さんは優しいね。全て消して作り直した方が早いよ。一瞬だから周りに気づかれない。クッキーとパンと緑茶と紅茶の準備をして待っているんだよ。一緒に作る前に基本は作ってみた。姉さんの計画は成功だったね。素敵な記憶がたくさん送られてきたよ。姉さんに笑わされたらディアが拗ねるね。今朝だけで感情がどれくらい増えたのかな…。感情が複雑で抑えるのが大変だよ。痛みと繋がらないようにゆっくり育てたいから。だから特別だよ。早く決めてね。」
誰よりも優しいのはクロアだよ。そして今朝は直接楽しみたいと思ってくれた気がする。楽しいことばかりで子供たちの笑顔が輝いていた。感情を知らなかったから大きくまとめて考えていたけれど、実際は楽しいの中にも多くの楽しいがあることを知った。不安や恐怖が全て痛みに繋がるわけではないことも知った。楽しくて嬉しくて座って待っていられなくてクッキーとパンを焼いているのだと思う…。
凄い圧を感じるよ。本を読んでいると思ったのに全く隙がない。だけど手作りのクッキーとパンは美味しい気がする。一緒に作るのも楽しみ。クロアは研究しながら作っているはずだから更に上を目指す必要がある。それも楽しまないとね!
「お願いします!」
「はい、記憶で確認して。6人で確認してみて。」
返事が遅くて作り終えている。6人の頭の上に順番に手を置いて記憶を見せていく。
女性たちの表情が柔らかいから頑張ってくれたのね。鏡を見ながらでないと仮想体の練習ができないのが情けない。100年も自分を消したくて仕方なかった。血塗れの姿を鏡で見たいとは思わなかった。部屋にいるときは血を洗い落とすことさえ許されなかった。だから自分の顔も印象にない。それに侍女という監視役がいたから…。
クロアのように強くなって戦うことを考えられなかった。自分の体内が見えるからそれを見て覚えようとも思わなかった。クロアは死ねないと分かって強くなる決意をしたのだと思う。私には死ぬ役目もあったから早く終わりたかった。違うのが当然だよ。年齢差なんて関係ない。
皆が記憶で確認したみたいだね。
「変更点はない?今の状態でいいのかな?」
「はい。ありがとうございます。残りは大銀貨と金貨でお願いします。」
「金貨20枚の袋が112袋で10枚の袋が1袋。大銀貨20枚の袋が225袋。750万リンが6人で4500万リン。クロア、全員にナイフも作ってあげて。」
股に武器を入れることを用心と言えるのが分からない。
「分かったよ。普通のナイフが2本、突き刺すことができる太いペンのような武器が1本。帝都ではこれが売っているの?それとも特注なの?」
「自衛用で売っています。これが股間に突き刺されば泡を吹いて倒れる人もいます。人数分ありがとうございます。それではお願いします。」
何故嬉しそうに言えるのかな。男に確認されたらどうするの?先に殺されるかもしれないとは考えないの?クロアの作った家を無駄にしないでほしい。長生きしてね…。
「お疲れ様、じゃあね。」
6人は笑顔で消えた。
「クロア、嫌な物を作らせてごめんね。やはり殺しを楽しんでいるのかな。」
「働いてくれた女性の多くが他国で働いている女性を見下していた。男から逃げた弱虫とか自分で生き方を決められない寄生虫だと思っていた。安全に男を殺して強がっているだけだよ。兵士みたいに協力して襲うのは論外だけれど、女性を襲う男性は性欲で他に何も考えていない人が多い。男性が襲った女性の人数を自慢するのと同様に女性は殺した男性の人数を自慢する。5ヵ国は実験に使われていたのかもしれないね。男女の理性が壊れている国をつくって維持していた。気持ち悪いから分身を消すよ。そろそろパンも焼けるから待っているよ。2人をお願いね。」
オードリーはまだ立てないみたい。
2人の座っている場所まで急いで歩いた。
「ミュリエル、どのような感じかな?」
「悪癖を自覚したようですがクロアさんの過去を聞いたことに絶望しています。性的な被害者だとしか思っていなかったみたいです。残酷な拷問をされていますが性的な被害もあるのですよね?」
ミュリエルが困っている。指摘してもうまく伝わらないの?
クロアについては余り詳しく話す必要はない。自分の話を少しはしておこう。
「勿論あるよ。洗脳を解いた後に過去を思い出したから酷くなったんだよ。大嫌いな男と一緒に笑顔でお風呂に入っているんだよ。薬を使った洗脳ではないから自然に見える。だから余計に酷くなった。私についても少しだけ話すよ。両親も知らず幼い頃からお城にいて王女の友達役だった。実際は王女のおやつ。焼かれて食べられたり生で噛み切られたりしていた。椅子に体と頭を固定され顔も食べられた。その憎悪の対象の王女を守るために体を鍛えさせられ魔法の訓練もさせられた。性的な被害でいえばクロアよりも私の方が酷い。だけど終わったことだよ。忘れることはできないけれど、前に歩かないと過去との距離が同じままだよ。死にたかったけれど、クロアに助けられて今は楽しめている。オードリーはクロアの被害が酷いから絶望しているの?比べて絶望しているの?」
「いえ、私は不幸ではありませんでした。酷い勘違いでした。」
まだ比べているの?クロアと比べて不幸ではと言っているの?ミュリエルもここまで酷いから困っていたのね。勘違いしたままで全く分かっていない。
これからも後ろを向いて生きていくの?それでは妹の顔も見えない。
「オードリーはまだ分かっていないの?あなたも不幸、クロアも不幸でいいじゃない。幸せか不幸なのか決めるのは自分だよ。自分ではない誰かを基準にしても意味がない。不幸を比べるな、自慢するな、誇るな。不幸は嫌な過去として箱に入れればいい。ミュリエルのように今を楽しみなさい。不幸を自分から話す子を慰めることはいいことだと思う。だけど自分からは聞かない。オードリーの悪癖が続けばディアかロディに殺されるかもしれない。クロアが過去を気にしていなくても妹たちは激怒しているから。拷問を1回見ただけでクロアを分かっているかのように話したら瞬殺されるよ。3歳児だから勢いで行動することもある。今のクロアを見なさい。ミュリエルを見なさい。子供たちを見なさい。犯罪者の過去を調べるわけでもないのだから気にしない。2人とも今日から夜勤なし。休みはいつ取れるようになるか分からないけれど、子供たちと楽しんで。これからも妹を見ていたいなら立ちなさい。2人のことを姉のように慕っている子たちもいる。私は2人だけ残すつもりでいた。予想通り全員が自分の意思で帝都に帰っていったよ。気にする必要なし。朝食に行きなさい。他国に行ったときのお小遣いが足りないと感じるなら毎月給与を払ってもいい。とりあえず今日まで働いてくれたから1000万リン。全員一緒だよ。今日は森に移動するけれど、引越し先の国が決まったら給与を普通の生活ができる額に減らす。国の平均給与を調べて少し高めには設定するけれどね。働く姿勢と勤続年数で給与は増えるよ。とりあえず受け取っておく?」
「お金の使い方が分かりません。」
「お小遣いで十分です。飲み物とお菓子しか買いません。」
必要になったら使えばいいわね。私があれこれ言うべきものではない。楽しんでいればそのうち使い道も見えてくる。だけどミュリエルもお金を使うこと知らないからクロアと一緒に買い物を楽しんでもらおう。次の計画が決まったよ。オードリーと私も入れて4人で買い物だね!
「孤児院が落ち着いたら勉強を教える。2人は教える側になれる?教わる側になる?」
「勉強をしたことがないので教えられません。」
「私は教わる側です。計算とかできません。」
勉強は将来必ず役に立つと思う。私もするつもりでいるから2人も巻き込もう。1年後ならクリスも分身して勉強を教えてくれるはずだから。
「2人も私と子供たちと一緒に勉強決定!早く朝食をとって子供たちの前に姿を見せなさい。心配している子がいる。他の女性たちが辞めた理由は契約を延長しなかったことにして。本当の理由は他国の女性が不愉快だとか男を殺したいとかだけれど、本当のことを話すのが正しいとは限らない。それに派閥なんてどうでもいいの。これからの孤児院を盛り上げたかっただけだから。クロアは楽しいという感情を覚えた。森の結界内は遊べる場所に変わるよ。2人ともここの環境を利用して自分の幸せを見つけなさい。早く行きなさい。キャロルも不安に思っている。ケイシーが責任を感じている。オードリー、真っ直ぐ前を向きなさい。子供に悟られるような表情で孤児院に行かないで。いつも通りで行きなさい。今を楽しみなさい。2人とも出発しなさい!」
「はい!」
2人以外が自分の意思で辞めるのは予想通りだったけれど、理解できないことばかりが続いて疲れた。よく分からないけれど、殺しがよくないと感じることができた。
話を聞いていると襲われて絶体絶命の状況のような気がした。とても殺し続けられるような話をしていなかった。クロアが殺人犯を殺さなかったのは5ヵ国を滅ぼすことになるから。自衛とはいえ殺しを経験していない女性がほとんどいないのは異常すぎる。
貧民街の人たちも豪雨が人を殺す好機だと考えた。だけど何も変わらない。分かっていて殺して住み着いているのだろうか?目立つ行動をし続けたら殺されるのに…。
理性を壊す実験ではなくドラゴンにとって都合のいい餌場になっていたと思う。今回で学んだよ。理解できない国があり理解できない人がいる。それを考えても疲れるだけで何も得られない。だから家族のことを考える時間にした方がいい。未熟な部分もよく見えた。気が利く妹だよ…。
万引き常習犯に近い感覚で殺しをしています。




