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世界は子を愛す  作者: 大介
第1章 現実

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第53話 湧く感情

 クロアに助けられてから生活が大きく変わった。


 刺激的なことはあるけれど、クロアに危険はなく安全な日々だと思っていたのは何も知らない私の勘違いでしかなかった。私の命が狙われないようにクロアが立ち回ってくれていたから能力に殺されずに済んだ。それなのに能力たちをクロアの味方だと思っていたのは頭に来る。


 常識がないクロアは拷問監視役をお母さんと呼んでいた。私も家族がほしくて呼ぶことにした。何も知らない私はクロアが母と呼ぶ女が異常者だとは知らなかった。

 常識がないと知っていたのだから2人の関係を聞くだけでよかった。知ることができたのに現状に満足していたのは臍を噛むよ。


 能力たちが全て消えるまでクロアだけが命懸けで戦っていた。

 それに気づくことができなかった。


 極度の男性恐怖症にもなっていた。

 それにも気づくことができなかった。


 能力の嫌がらせでクロアの記憶を全て入れられたけれど、消してほしいとは思わない。クロアの全てを知ることはできなくても多くのことを知ることができた。

 私よりも過酷な過去を持つ人はいないと思っていたのに世界一残酷な拷問を耐え生き抜いた少女に助けられたと知ることができた。

 助けてもらったのだからできることは全力で頑張ってきたつもりでいたけれど、足りないと思わざるを得ない。クロアの努力量は桁が違う。万が一すら許さない気迫を感じる。

 全然足りていない。クロアに与えられるばかりで何も返せていない。


 多くを背負っても今の弱い私では簡単に潰れる。だから長女として家族を守ることに決めた。

 血の繋がりがなくても…、何も繋がりがないかもしれないけれど…、絶対に恐れない!長女として末っ子を叱る。私の考えを自信を持って伝える。

 そして結界内を徹底的に把握した。全員が協力してくれるように立ち回るのは経営者の娘や姉という立場が容易にしてくれた。だけど子供たちには真摯に向き合ってきた。


 そして感情把握を使いながら子供たちの派閥をなくした。

 働いてくれる女性たちの派閥もなくした。


 これから先のことを考えると必要ない。

 恐らく今日でほとんどの働いてくれる女性は契約解除することになる。


 完全に自分本位な計画。そして買い出しからその計画が始動する。どのようなことになるのかは予想できない。だけど何も恐れない。失敗すればやり直せばいい。命と精神が無事なら何度でも挑戦できる。成長が遅くとも前に歩み続けなければ長女を名乗る資格がない。

 それに孤児院の管理はできる。それが末っ子の勉強にもなる。クロアには少しだけ手伝ってもらうことになるけれど、最小限にしたい。


 私に抱きついて眠っているアディとローアの頭を少し強く撫でる。


「起きなさい!今日から大切な買い出しが始まるよ。」

「分かっているよ…。」

「んー、まだ早くない?」


 甘えん坊たちは可愛いけれど、昨夜伝えていない嘘の計画がある。

 それだけは心配していない。この子たちはクロアの自己犠牲を絶対に嫌う。


「いいから起きなさい!早く着替えて準備するよ。」

「はーい…。」


 顔を洗えば目も覚める。ディアとロディもクロアに起こされている。

 布団部屋を出て脱衣所に行き顔を洗い部屋に行き服を着替える。少し遅れてアディとローアが着替えのために入ってきた。


 鞄を肩にかけて部屋を出るとクロアはリビングのいつもの席に座っていた。


「クロア、時計を持っている?」

「持っているよ。分身は2人で1時間30分で交代だね。」


 クロアが思考把握しているのは分かっている。

 それよりもクロアの表情がいつもより少し柔らかい気がする。


 買い出しで何か起きるのか楽しみにしているの?


「クロア、楽しそうに見えるよ。」

「やはりこの感情は楽しいのね。姉さんの計画を知った4人はどうするのかな。」


 楽しいと思ってくれているのであればそれだけでいい。

 計画が成功でも失敗でもクロアが楽しんでくれる方が大切なのだから。


「今日は世界で二番人気の国だよね。男女平等の国を見つけるには時間が足りないと思う。できれば1週間は見てほしい。平日と休日の動きでも違いがあるよ。」

「分かったよ。1週間探してもなければ諦める。」


 クロアがそれだけ探してもなければ時間の無駄でしかない。国を作った方が早い。

 少しすると目を擦りながら末っ子がリビングに集まった。


「今日から始まる計画を伝えるよ。あなた達が全力で楽しみ楽しませないと後悔するからね。そのために自分勝手なことをしたと思っているよ。さて、聞く準備はできているのかな?」

「孤児院は楽しかったよ。何かしていたの?」

「分からないです。」

「お姉ちゃんの行動が計画なら家族のことしか考えていないよね。」

「確かにそうだけれど、私たちが楽しませてあげることができれば問題ないよ。」


 あなた達にはそれができる。できなければクロアに頼り続ける孤児院を運営することになる。

 その状態を許す末っ子ではないと知っている。


「子供たちは気が合う子たちで固まって遊ぶ。だけど孤児院の子たちには引越し先が決まるまで皆と遊びなさいと注意してきた。私が全ての派閥をなくした。だけど今日の買い出しから派閥を解禁にする。そして派閥の人数により計画が立てやすくなる。人の数だけ違った考え方があるから。それにより計画の質も良くなる。派閥が何組できてもいい。但し、1人でいる子だけは私が救う。自分の魅力を存分に発揮して派閥を作りなさい。今日からは楽しんで楽しませなさい。一体感はディアとロディが孤児院で遊んだ時点で終了。私とクロアは一緒の派閥だからあなた達が1人ぼっちなら入れてあげる。ディアとロディの場所は毎日交代。アディとローアは今まで楽しんできたのだから楽しませ方も分かるよね。あなた達は楽しむの?楽しませるの?それとも一緒に楽しめるのかな。質問はある?」

「お姉ちゃんが魅力出しているじゃない。」


 我慢させ続けるの?

 クロアは常に抑えているのにそのままでいいと思っているの?


 クロアが普通に過ごせない。それを家族が許容していいはずがない。


 嘘を吐いてディアをやる気にさせる。

 4人を率いて孤児院の子をまとめることができるのはディアだと思う。


「当然でしょ。クロアの派閥も作るのだから。ディアはクロアを笑顔にする計画を立てるのでしょ。私はクロアの派閥を作る計画を立てて既に始動している。だから孤児院で働いている女性たちの派閥もなくした。ディアとロディを待っていたのに文句があるの?クロアを笑わせることができるのは自分だけだと思っているの?クロアに友達ができたら笑顔になれるかもしれない。クロアが笑顔になれるようになったら笑声を出すのが堪えられない楽しい計画を立てればいい。それともディアはクロアの笑顔を封じたいの?一緒に笑える友達がいた方がいいと思わない?ディア、私は4人が正々堂々と勝負できる準備をしてきた。それに私が直接クロアを笑わせるつもりはない。問題があるのかな?」

「楽しんで楽しませて勉強して敵を倒せばいいんでしょ!何でフィオナ姉ちゃんはお姉ちゃんを笑わす計画を立てないの?」

 

 孤児院で働いている女性の派閥をなくしたのは個人の感情を見たかったから。クロアの派閥になるとは思っていない。クロアの友達になれるとも思っていない。人を不快にさせる悪癖が多すぎる。思考誘導で真面目に働いてもらっているだけで解除したら必ず孤児院から出て行く。

 友達になれる可能性があるのはミュリエルだけ。だけど彼女はクロアに遠慮している。人の過去を察する力が優れているから話しかけていいのか分からないのだと思う。

 その逆にオードリーは自分が一番不幸でそれを自慢のように話したいと考えている。同僚の過去を詮索するのは禁止にしたから彼女はクロアの過去を聞きに来る。

 クロアの男性恐怖症の症状を聞いたら何も言えない。クロアに不幸自慢できる相手は世界に1人もいない。同じ拷問を経験したクローディアが山のようにいただけ。

 

 それに末っ子の目的()を潰す姉にはなりたくない。


「審査するのに自分で計画を立てるのは反則だよ。クロアに友達ができたらいいなと思っているだけ。その友達がクロアを笑わせたいと思うことは問題ないでしょ。」

「それは確かにやりすぎだね。だけどお姉ちゃんの友達も私の派閥の計画会議に参加してもらうのはいいでしょ?」


 3歳児だからで済ませてもいいけれど、ディアには皆を率いてほしい。


「勿論いいけれど、私たちの派閥がクロアを笑わせる計画を考えるかもしれない。全てが思い通りにならないことは知っているね。それに4人全員がその権利を持っている。そして4人とも今日から孤児院で好きなように楽しみなさい。計画を立てなくてもいい。但し、勉強だけはしてもらう。ディア、今まで自分の言葉が問題になっていないのは何故か分かっているね。それとクローディアだから問題ないという言葉を使うのはやめなさい。クロアが小さく見える。クロアが凄いのはクロアが努力した結果でクローディアだからではない。反論は?」

「ないよ。お姉ちゃんをクローディアの枠に入れるのは間違っているね。」


 クローディアを誇っているのではなくクロアを誇っている。

 あの言葉は拷問されるために生み出されているのだから過去を見ても問題ないという意味が強かったみたいだね。それなら何も問題ない。


「分かっているのならいいよ。今日は世界で二番人気の国。だけど問題が起きると考えられる。世界で一番人気の国は最低だったよ。楽しんで楽しませて勉強して敵を全て潰しなさい。守るのはクロアだけではないよ。孤児院で働いている女性たちも守りなさい。大人を気絶させる結界は子供だけに張ってもらう。大人は普通の結界。質問がないなら行くけれど、ないの?」

「今日が一番大切なのに僕が不利です!」


 活躍の場は必ずある。

 平等な条件なのだけれど、不愉快で仕方ない。


「ロディ、余裕があればアディとローアを助けてあげて。余裕がなければ骨は折らなくてもいいよ。一番人気の国は2000人程に囲まれた。そして際限なく増え続けていった。そのときは日中帯だから同じではないと思うけれど、油断してはいけないよ。」

「朝一だからそこまで多くないと思うけど、どのように対処したの?」


 力のない女性なら逃げられないし逃がさないという状況にされた。

 篝火に突っ込み焼け死ぬ虫のようにしか思えない。だから虫のように焼き殺したかった。


「クロア、話しても大丈夫?」

「大丈夫だけれど、知っているから私が話すよ。姉さんと調理器具を買いに行ったらお店の店員が私たち以外のお客さんを外に出して鍵をかけた。そしてお店が男性たちに囲まれたの。だから店員だけは殺した。」

「そんなことがあるの…。一番人気の国でしょ。フィオナ姉ちゃん、何で今日は二番人気の国に行くの?」


 クロアが国探しを終えるまで目的の国がないからだけれど、ディアに皆を率いる機会にしてほしいから。3人との違いを見せてほしい。誰にも遠慮せず好き勝手に行動してほしい。3人は人の感情を気にしすぎる傾向がある。だけど今日だけはロディと張り合ってもらう。力ではディアが不利だけれど、人を率いる力はディアの方があると思う。ロディが誰も零れ落ちないよう行動すれば最高に楽しい孤児院になる。

 ディアは自分の正しさを疑わない。だから突き進む。間違っていたら叱ればいい。ディアの意思の強さと行動力に子供たちは惹かれる。


 その姿をクロアに見せてあげなさい!


「クロアに頼んでいる国探しには1週間必要なの。その間は人気順に行くだけだよ。今日は楽しみ楽しませ大人の女性たちを守り抜き敵を潰す。それが勉強にもなる。勢いで殺したらクロアの説教と謹慎。翌日の買い出しにも連れていかない。約束を守りやり遂げなさい!このことは私たち以外には秘密。準備はいいね?」

「いつでもいいよ!」

「勿論です!」

「頑張るよ!」

「全力ですね!」


 無計画ともいえる計画にしか思えない。それなのにクロアが何も言わないのは孤児院は自分だけで問題ないから。そして私の本当の計画を知っているから。楽しみにしているのは4人の行動。当然ディアの行動を一番楽しみにしている。だから見せてあげて。


 何も言わない。自分の意思で行動する自然な姿が一番輝く。

 周りの子たちを心配しすぎて鈍っていたら煽り倒すけれどね。

 

「クロア、転移をお願い。」

「分かった。頑張りなさい。問題ない情報は私に届くからね。」


 結界内の中心に移動した。既に人は集まっているみたいだね。クロアを見て驚いている子や見惚れている子もいる。孤児院で働いている女性たちの感情は今のところは大丈夫。


「今日からクロアを買い出しに連れていくよ。クロアは男性恐怖症。子供たち196人で守りなさい。そして孤児院で働いている女性も守りなさい。敵を倒せるのは子供だけだよ。そして敵を見つけることができるのはここにいる4人。ディア、ロディ、アディ、ローア。子供たちは好きな位置にいなさい。だけど私たちから離れるのは駄目。関係ない人を気絶させたら明日は連れていかない。それと今日から派閥解禁だよ。帰ってきてから好きなように集まって遊びなさい。但し、1人でいる子は私の質問攻めを覚悟しなさい。指示がなくても大人の女性に倒してほしいと頼まれたら気絶させてもいい。クロアに近づこうとする男性も気絶させていい。大人の女性のお小遣いは5万リン、先に渡しておくよ…。前回の反省を見せて。子供たちは袋に入るだけお菓子を買っていいよ。さて、準備はいいかな?」

「はい!」


 子供たちのことは心配していない。

 これから成長していく子たちだから何にも染まっていない。


「大人の女性たち、どのようなことが起きるのか見届けなさい。」

「分かりました!」


 彼女たちの感情把握を優先する。

 帝都に住んでいる女性たちがどのように思うのか知りたい。


「ブレッド、買い出しは近くにいる4人の誰かに収納してもらいなさい。今日から忙しくなるよ。男性の力を見せて。」

「お任せください!」


 問題なさそうね。クロアとの距離も考えている。


「クロア、お願い。」

「それでは出発します。」


 堅牢な国という感じだね。防護壁の造りもしっかりしていて見張りの兵士たちは姿勢がいい。

 クロアの存在を知ったこの国の王はどのような命令をするのかな…。


「ディア、ロディ、アディ、ローア、配置につきなさい。子供たちも好きな位置に移動して」

「はい!」


 4人が移動すると孤児院の子たちも移動を始めた。

 先頭でディアと一緒に敵を倒したい子、アディやローアと話したい子、ロディの周りはなるべく敵を倒したくない子が集まっている。思ったよりも偏りがないのはいいね。


「ブレットたちは視界を塞がないようにして。主役は子供たちよ!」

「分かりました!」


 子供たちは感情把握で相手を特定できない。

 ディアたちが敵を倒してほしいと頼むときに視界を塞がれると困る。


 人の動きを見ると私たちは正門にいて他に門が2つある。民家が続いていて噴水まで歩く必要がある。そこまで歩いたらクロアに結界を変更してもらおう。

 噴水までは距離があるから十分に感情を見ることができると思う。


「門が3つあり正門は商売人以外が利用しているみたいだね。ディア、噴水まで歩いて左右を見てお店を確認するよ。大人の女性たちは子供たちから離れないようにしてね。」

「それじゃあ進むよ。」

「分かりました!」


 ここから噴水が小さく見える。噴水の奥に見えるのはお城に続く階段かな。


「噴水までは民家が続いているね。クロア、予定より抑えていない?」

「民家から飛び出て来そうで怖いのかな。皆いるし大丈夫だよね…。」

「何を抑えているのですか?」


 予想通りオードリーが話しに入ってきた。確実に男性恐怖症の話をしに来たね。

 ミュリエルは観察している。何が起きるのか楽しみにしている。


「隠れるよう気配を薄くしているの。普通に歩くと男性に囲まれるから。」

「囲まれるのですか…。人数を聞いても大丈夫ですか?」


 聞いてもいいですか、大丈夫ですか、無理に言わなくてもいいです、といった言葉が嫌い。

 そのように思うなら話題にするべきではない。相手を見れば話したくても話せないのか話す気がないのかが分かると思う。


 男性恐怖症をクロアと比べたがっている。

 予想を裏切ってほしかったけれど、今後に期待するしかない。


「嘘だと思うかもしれないけれど、2000人以上だよ。噂だけで増え続けるから最後まで待っていたことがない。1割程度に抑えてもそのようになる。常に追いかけられるから魔法で止める。目的のお店に入ったら店員が私たち以外のお客さんを出して鍵をかけたのは予想外だった。だから記憶に残さないために分身で来ているの。男性恐怖症だけれど、自分を洗脳しているからね。姉さんが私のいる状況を知ってもらうのも大切だと言うから。」

「16歳なのに買い物をしたことがない。友達もいない。家族以外と話したことも少ない。今は話す練習と感情を覚えているところだよ。洗脳しても疲労が凄いから2時間が限界。買い出しの時間と同じだから頑張ってもらうことにしたのよ。」


 オードリーを心配しているね。お互いの過去を話せば仲良くなれるとは限らない。

 クロアの勉強になると思うから任せよう。


「あの子たちが成長した姿ですよね。感情を覚えるとはどういうことでしょう?無理して言わなくてもいいですからね。」


 好奇心が顔にまで出ている。この子には帝都で暮らす人としての常識がない。皮肉にもそれが他の女性たちとの違いになっている。


 帝都の女性たちなら義父を殺しているよ。働いている女性の中で男性を殺していない女性の方が少ない。正当防衛だから仕方ないけれどね。


「クロアに任せるよ。好きなようにすればいいから。」


 確実にクロアは曖昧に話す。オードリーでは受け止めきれない。


「組織に洗脳されていたから。一月前に洗脳が解けたばかりだから赤ちゃんだよ。それで男性恐怖症になった。オードリーもそれに近いはずだよね。」


 私の考えを確認して曖昧に話したのかな。

 近いはずがないと分かっているでしょ。オードリーに合わせてあげたね。


「ディア、ロディ、気づいているね。クロアは話していていいよ。」

「団結しているのが気に入らない。全員潰す!」

「ボキボキです!」


 この動き方は兵士だね。見張りから国王に伝わって捕獲命令が出たみたい。

 全てが思い通りだと考えている権力者が気に入らない。


 兵士を見てからのディアに期待している。


「何故名前を知っているのですか?」

「子供の顔と名前を全員知っている。襁褓の子の名前も全員に付けた。孤児院で働いている女性の顔と名前も全員知っている。頭が空っぽだから記憶するのは得意みたい。働いている姿を小さくなって見ているだけ。全員の契約書と名簿を作ったからね。」


 拷問監視役が口約束だけで大金を払うと言っていたから契約書を用意することにした。

 いや…、あの女のことを考えるのはやめよう。自分の愚かさは身に染みたから。


「凄いですね。男性恐怖症は私より酷いのでしょうね。聞かない方がいいですか?」


 オードリーには好感を持っていたけれど、既に無関心に近い。

 孤児院に残るでしょうけれど、殺されるようなことはしないでね。

 

 クロアに質問している内容を4人が聞いていると理解しているのかな。

 ディアとロディから怒りが漏れている。


「ごめんね。常識がないから分からない。洗脳していなかったら男性に触れると気絶する。声を聞くと震えて動けなくなる。何をされてきたのか聞いてみたいと思う?」


 自分より酷いと理解した。それだけでクロアを判断してほしくはない。

 この子とクロアが仲良くなるためには、これから楽しむことを考えるべきだよ。


 兵士たちが見えてきたね。


「大人の女性は子供たちの中に入りなさい!戦闘準備!」

「はい!」

「分かりました!」


 こちらに女子供と少数の男しかいないから楽な仕事だと考えている。

 少しずつクロアを見て欲を出し始めている。


 役得だとでも思っているみたいだね。


「それは…、克服できるのですか?」

「6年間の記憶を消すよ。そのために1年間は直接男性に会わないようにしている。」


 クロアの話を聞いて義父の記憶を消してもらうことを期待している。

 義父が孤児院で働く動機なのに大丈夫なの?


「記憶が消せるのですか。私の記憶も消してもらえませんか?」

「それなら同じ1年後にしよう。突然記憶を消すと性格が変わる可能性が高いからね。他の男性は大丈夫なの?」


 クロアに傷ついてほしくない。世界は何故クロアをこのよな目に遭わせるの。

 オードリーはクロアの言葉の意味に気づいてもいない。


「はい。話をする程度なら大丈夫です。1年後にお願いします。」

「分かった。本体に送ったから私が消えても約束は守られるよ。」


 そろそろだね。ディアは敵を見てどのように動くのかな?


「一旦停止するよ。ん?敵が兵士だね。不愉快だよ。武器からも守られてるから大丈夫。怖ければ無理しなくていいよ。今すぐ潰すぞー!」

「ボキボキです。全員ボキボキです!」

「殴って気絶させた方が早いね。」

「最初の敵が兵士…。この人たちは頭がおかしいね。」


 クロアを間近で見て欲の感情が強くなっている。

 どさくさに紛れて触りたいと考えているような気配だね。


 少しだけディアに助言しよう。約束に縛られてしまっている。

 いつものディアなら抜け道を探すのに今日は子供たちが周りにいるから慎重になっている。


 あなたの姿はそれではないでしょ!

 考えて行動することもできるじゃない。強く言い過ぎたかな…。


「クロアを国王への貢物にするつもりだよ。ディア、人を殺さず血を見せなければいいの。いつの間に大人になったの?好きなように暴れなさい!」

「分かった!フィオナ姉ちゃんも過激だね!」


 いつものディアならその言葉と同時にお城を潰している。

 煽った方がよさそうだね。


「このようなことが起きるのですか…。まるで女性を物のように考えているのですね。この国を選んだ理由があるのですか?」

「この国は世界で二番人気だよ。最初に話した国は世界で一番人気。1週間かけて男女平等の国を探しているところ。」


 働いている女性たちの感情も不愉快になってきた。その恐怖の中には何が混ざっているの。

 私の感情把握では詳しく分からない。歯痒い…。


 あとでクロアに確認するべきだね。


「ディア、ロディ、楽しんで楽しませているの?まずは自分たちが楽しんでいる姿を見せなさい。ディアは優しく暴れることを勉強しているの?ロディは周りを心配しすぎだよ。ディア、いつものあなたなら何をするの?ロディ、心配なら視界から消しなさい。国内に残して殺さずに血を見せなければいいの。子供が約束に縛られないで。抜け道を探しなさい!」

「真面目に暴れているのに怒られたよ。後悔してもしーらない。」

「分かりました。全力です!」


 ようやく普段通りの感情になったね。自宅で謙虚になりなさい!


「姉さん、少し煽りすぎていない?」

「クロアは話して買い物を楽しめばいいの。それにこの国が消えても私たちは困らない。」


 性欲で襲ってくる男性は気持ちが悪くて仕方ない。

 恋人や妻がいても関係なさそう。


「怖がって買い物できないと思うよ?」

「それなら買い物しなければいいのよ。今後はクロアを毎日連れていくからね。」

「ここを少し離れるから皆お願いね。城を潰してくる!」

「すごーい!」

「おー!」


 その気になれば行動が早い。兵士を見たら直行すると思ったのに遅いよ!

 ディアに張り合ってもらわないとね。


「ロディ、ディアは城を潰すみたいだよ。あなたは敵の姿を見えなくして終わりなの?」

「お城の中で武道大会です!勝者には王冠をかぶせます。参加者は襲ってくる男性全員です!」

「なにそれ?」

「何が起きるの?」

「ロディも本気を出してよ!」


 いい言葉が出たね。本気を出してもらわないとつまらないじゃない。

 ロディとディアが張り合ってくれないと孤児院が平凡なのよ。


「ロディ、あなたの本気が見たい子もいるみたいだよ。」

「少し待っていてください。王冠をかぶるのは私です。」

「かっこいい!」

「行けー!」

「女王様だね!」


 いいじゃない。それを見たらディアが更に暴れるよ。


「姉さん、ディアは兵士たちの両脚を突き刺すと思う。ロディは国王だけをボキボキにするつもりだよ。いいのかな?」

「広域念話を応用した強制命令だね。誰も見ていないから問題なしだよ。お城の中には行かないからね。」


 最高じゃない。動けなくすればいいのだから方法は自由。関係ない男性を潰すところも見えないし自分も血を見ないようにしているから叱れない。

 誰も殺していないし自傷するのだから原因不明だよ。


「戦争みたいになっていますね。クロアさんはどのくらい強いのですか?」

「一瞬でこの世界から生物を消せる。だから国を滅ぼすとか遊びだね。子供たちが笑っているじゃない。だから満足しているよ。」

「オードリー、そういうことだよ。子供たちが笑っているからいいの。ディアは軍隊が動くと面倒だからお城を潰しに行っただけ。」


 働いている女性たちの恐怖が強くなった。クロアの強さに怯えているのはあると思うけれど、絶対にそれだけではない。恐怖の感情を不愉快に思ったのは初めてだから。


「ただいまー!お城に続く階段を滑り台にしてきたよ。あとで滑りに行く?」

「行きたーい!」


 面白いことをしてきたね。

 ロディも周りの子の感情を考えて行動している。実戦を知っている2人は強いからね。


「あれだけ反発していたのにディアが一番やる気だね。今のは本体に記憶を送るよ。」

「予想通りだよ。クロアに繋がると知ればディアは絶対に負けたくないと考える。自分の派閥だけにするつもりでいると思うよ。」

「これが子供たちの派閥争いですか。別世界にいるみたいです。」


 今日で孤児院の子たちに4人の印象が強く刻まれる。

 それが孤児院を盛り上げる。


「オードリーはよく私と話せるね。他の女性は少し離れて様子を見ているのに。」

「何故か怖くありません。クロアさんの周りは空気が綺麗になっている気がします。」

「クロア、何割まで出せるの?」


 世界一安全な位置にいるから怖くないだけだよ。


 末っ子を揶揄ってみようかな。

 クロアの派閥を作るつもりはない。子供は子供と遊ぶのが一番。一時的に魅了されても遊ぶときは関係ない。クロアは孤児院に顔を出さないのだから。


「3割までかな。強制命令で縛っているから。」

「3割出しちゃおう。ここまで暴れたのだから後戻りはできないよ。」


 ディアは怒るだろうね。更に怒らせるけれどね


「3割出すよ…。やはり全員振り向くね。まあ、これくらいならいいかな。」


 子供たちが全員振り向いた。ディアが怒っているのが楽しい。


「ディア、ロディの頭が光っている気がする。何故かな?」

「ふふん!私はこの国を手に入れました。お城を潰して滑り台を作る子供とは違います。」

「ふーん、全く似合ってないね。みんな少し待ってて!この国が誰のものか証明してくるから。」

「2人は何をしているの?」

「アディ、関わったら潰されるよ。実力が足りない。」


 これからの孤児院で楽しみたいのであれば2人も努力しないとね。


「街の生活臭が消えました。今まで気品というものを余り感じたことがありませんでしたけれど、これが気品でしょうか?フィオナさんよりもありますね。」

「世界一気品があるのを抑えているだけなのよ。私もクロアの2割程度はあるという事かな?やはり黒髪にして気品が出たね。」


 私の気品もなかなかだと思ったけれど、他国では出せない。

 気配を消すように部屋にいる癖が幼い頃についたから直すのが難しい。


「大変なだけだからね。私が得したと思ったことは一度もないから。」

「確かに大変ですね。力がなければ怖いです。ですが男性と女性を魅了するのは凄いです。」


 最高に楽しいね。流石ディアだよ。


「お待たせ。ロディのは男性用だから。女王はティアラをかぶるんだよ。」

「綺麗だねー。」

「輝いているよ。」

「女王様だね!」


 これなら子供が子供を世話するように変えられるかもしれない。

 働いている女性たちは2人しか残らない。


「クロア、離れている女性たちは何を考えているの?」

「争いを見て恐れているね。子供が殴っているとはいえ相手は大人の男性で目を見れば本気だと分かる。帝国で育っているのに皇帝たちが何人殺しているのか知らないみたいだね。私が悪人を殺しているから被害者はいないけれど、もうすぐ被害者で溢れるようになる。」

「皇帝がいた頃からそのような国だったのですか?」


 オードリーは知らないと思っていた。

 クロアも本当の理由を隠している。何かがあるね。


≪念話≫


「クロア、恐怖している女性は今日で契約解除することになる。詳細な理由を教えて。」

「姉さんの派閥を作る計画は建前で4人に子供たちを管理させるのが目的。それも勉強になると思うしいいけれどね。何かあれば私が対処するから。それと感情は私の強さに対する怯えが強い。それに男性が寄ってくることへの嫉妬。あとは妬み。何を妬んでいるのかは分からない。」


 クロアには気づかれていると分かっていた。それも含めて楽しみにしていたのだと思う。だけどこの状況に慣れたら働いている女性たちはクロアを邪魔だという感情を強く出すようになる。帰ったらすぐに契約解除が決定したよ。


「クロアが出歩ける国だと恋人も夫も魅了されると考えているのよ。帝都に住む女性らしい考え方だね。殺し合い奪い合うのが当然だから。普通の男性もいるのに視界に入っていないみたい。大丈夫な女性は誰かな?」

「オードリーは質問が多いけれど、まだ大丈夫。ミュリエルは同僚たちを観察しているだけだから大丈夫。ミュリエルが一番賢いね。」


 オードリーよりも不幸な生い立ちでそれを表に一切出さない。

 ミュリエルは今を楽しむことを大切にしている。そして私たちといれば普通では経験できない楽しさが待っていると考えている。幸不幸は人により違うけれど、私たちといなければ経験できないことを楽しんでいるのはいいと思う。


「引越し先は用意してあるのでしょ?用意してあるのなら朝食の後に引越すよ。」

「用意してあるよ。誰も住んでいない森の中に完全隠蔽してある空き地を作った。姉さんの気持ちは分かったから怒らないでよ。」


 感情が漏れたかな?

 子供たちを怖がらせていなければ問題なし。


「クロアの分身に夜間の見回りと襁褓の子を任せることになると思う。それ以外は何とかしてみるつもりだから今日は観察してみて。念話を切るね。」


≪念話解除≫


「オードリーは恐れていないけれど、帝国について知らなかったのは残念だよ。まあ、私は常識を知らないし意外と身近なことは知らないものだよ。」

「すみません。何も知りませんでした。説得するべきでしょうか?」


 それは意味ないよ。

 彼女たちはお金で動くし今の状況に納得がいかないみたいだから。


「真面目すぎだよ。今日契約金を払って解放してあげるつもりでいるのに。私が全部やってもいいくらいだから気にする必要なし。」

「クロア、クズが触れたら気絶する結界で私たちを覆って。買い出しを優先するよ。」


≪多重念話≫


「ディア、ロディ、アディ、ローア。計画を変更するよ。子供たちと買い物を楽しんで。クズの排除は終了。帝国の女性たちが怯えていて話にならない。帰ってから契約解除することにした。このままだとクロアの自己犠牲で解決することになる。4人で協力してお風呂で溺れる子がいないように、1人で泣いている子がいないように対応して。夕食まではお願い。クロアを認めずに働く女性は必要ない。私たちだけでできることをクロアに見せつけるわよ!」

「任せてよ!」

「全力です!」

「問題ないよ!」

「見ていてよ!」


≪多重念話終了≫


 噴水が何故かディアの石像に変わっている。目だけ青いのが笑えるね。

 そして両手から水が出ているよ。


 それにお城に続く階段がない。

 ディアが作った滑り台になっている。大きすぎる!


「ロディ、ティアラをここまでかぶってきたけどいらないから噴水にかぶせるよ。ねぇ?今の気持ちを教えてよ。石像を壊したりするのは禁止だよ。そうだよね、フィオナ姉ちゃん。」

「これはディアが自分で考えて作ったものだから壊したり触ったら駄目だよ。ロディも悔しければ何か考えなさい。」

「ふふーん!いいでしょう。その挑戦を受けて立ちます。噴水が1つだと誰も決めていません。10秒で作ります…。この王冠も噴水にかぶせます。フィオナ姉ちゃん、問題なしですね?」


 黄色の目をしたロディの石像の両手から少し黄色い水をディアの顔に直撃させている。本物の魔力のようだね。怒っているディアのために平等に審査しよう。


「ロディ、魔石を使ったら反則だけれど、使っていないよね?下水も使っていないよね?」

「ふふん!大人の極みである私に魔石は必要ありません。そのような汚いこともしません。絵具を地下水に少しずつ垂らしているだけです。何故かその水が隣の石像の顔に直撃しているだけです。」

「今は関わったら駄目だね。力の差が凄い。」

「追いつかないと駄目だからね。努力するだけだよ。」


 今日の作戦は大成功だよ!

 アディとローアは石像を見て実力差を肌で感じ本気で努力する目になっている。


 子供たちは石像を見てからディアとロディを見つめている。

 やはり惹かれているね!


「ロディに反則行為なし。お互いに石像に触れるのは禁止だからね。クロア、楽しいでしょ。」

「この記憶を本体に送ったよ。4人の顔も一緒にね。」


 本当に楽しいね。子供たちが全力で楽しんでいるのを見ているのは楽しいよ。


「帰りに石像は壊すよ。このような低俗な国に2人の顔を残すべきではない。それでいいね?」

「勿論いいよ!今すぐ壊そうよ!」

「ふふん!帰るまではこのままです!」


 そろそろ買い物を楽しんでもらおう!


「みんな協力ありがとう!今から買い物を楽しんで。食べたいお菓子を袋に詰めてね。お金は近くにいる妹に払ってもらって。」

「はーい!」


 純粋な幼い子は可愛いね。この子たちがどのように成長するのかは分からないけれど、成人までにしっかり教育して外でも孤児院でも好きな場所で働けるようにしてあげたい。


 全員は難しくても多くの子を幸せにしてあげたい…。


「大人の女性も買い物を楽しんで。帰ってから話があるけれど、説教ではないよ。」

「分かりました!」


 この環境を特別だと思えないのは残念だよ。

 気持ちは人それぞれだから別にいいけれど、クロアを邪魔だと思うのは許さない!


「クロア、絶対に妥協しないよ。今日はクッキーの気分になれないから明日にしてね。あなたのことを否定する要素は全て排除していくから。」

「私には姉さんとクッキーを焼く以外の約束はないけれどね。小麦粉屋があったね。」


 それは脅迫だよ…。

 小麦粉屋の人は消されていないから大丈夫だね。


「いらっしゃい!」

「クッキーを焼くのに使う小麦粉はどれかな?」


 無知でも騙すつもりはないみたいだね。


「お菓子なら薄力粉ですぜ!」

「もしかして他の粉の使い方も詳しいのかな?」


 料理にも使えるかもしれない。知っておくべきだね。


「商売で取り扱っていますからね。3種類売っていますが薄力粉と強力粉があれば問題ありませんぜ。薄力粉はクッキーなどのサクサクしたお菓子。強力粉はモチモチした料理などに使われますよ。酵母を入れることにより美味しいパンも作れますぜ。」

「いいじゃないの。クッキーとパンの作り方を教えてくれたら売っている薄力粉と強力粉を全て買うわ。保存方法も教えてほしい。それと酵母が売っているお店も教えてくれると嬉しい。勿論それだけで情報を得ようと思わないよ。倍の値段で買うわ。どうかしら?」


 悩んでいるみたい。何を考えているのかな。


「150gでクッキの標準的な大きさなら10枚は焼けますぜ。300gが10袋ありますが一月で使い切ってほしいです。大丈夫ですかい?」

「妹と手作りを楽しみたいのよ。そのあと毎日毎食パンとクッキーを焼き続けるわ。基本が大切でしょ。もしここのお店で必要な材料や道具を揃えてくれたら手間賃も払うよ。どうかしら?」


 また考えている。真面目なお店みたいだね。


「温度管理はどの程度できますかい?」

「-20℃と2℃の保管庫があるわ。オーブンは100℃から300℃まで。計量器はグラム単位で量れる。ボウルもある。簡単なクッキーとパンでいいの。また買いに来るから新しいクッキーとパンを教えて。1種類ずつでいいから。難しいかな?」


 決断しみたい。ここで全ての材料と道具が揃うのは助かるよ。


「いいですぜ!よし、買ってこい。値段は誤魔化すな。下らねえ真似するんじゃねえぞ!」

「勿論ですよ。行ってきます!」


 商売仲間というより兄と弟といった感じだね。

 筋肉ムキムキで強面だけれど、優しい人みたい。


◇◇◇

15分経過。


 クッキーを甘く考えすぎていた。簡単なクッキーなのに温度と焼く時間から薄力粉の量によりバターと砂糖の量、卵の個数と混ぜる順番まで決まっている。

 パンは更に酵母を入れて寝かせる時間があるので意味が分からない。しかも寝かせる温度まである。それにより生地が膨らむ。現実逃避したくなるような説明が続いたけれど、全て手帳に書き込んだ。クッキーとパンは色が似ているから作り方も似ていると考えていた。だけどクッキーとパンを一緒に売っているお店を見たことがない。

 それが答えだよぉー!


 勢いでパンまで作ると言ってしまった。3歳児と一緒だよ…。


 帰ってきたね。

 手織りのカゴに色々な道具が入っている。説明中に使うと便利だと言っていた道具だね。


「これが計量カップです。水を量るのに使ってください。この網が付いた金属はふるいと言います。薄力粉や強力粉はふるいを振って塊がなくなるようにすると混ぜるときにムラがなくなります。これは木の棒ですがめん棒と言います。生地を伸ばすのに使ってください。生地の厚みに違いがあると同じ焼き時間でも焦げたり生だったりします。そしてこちらが生地を混ぜるときに使う木のへらです。ボウルから生地を取り出すまではへらで混ぜるといいです。この瓶に入っているのが天然酵母です。こちらが粉にしたものです。天然酵母は扱いが難しいですが美味しいパンが焼けます。自分で作ることもできます。紙に書いて入れておきました。塩もパン作りには必要です。あとクッキーの型を色々な形のものを集めました。既にあるものは抜きますので言ってください。」

「ありがとう。全て買うわ。」


 何故か増えているよ…。天然酵母とは何かな?美味しいパンが焼けるという言葉で釘を刺されてしまった。逃げることを許さない圧を隣から感じる。


 兄が計算している。何も言えない。天然酵母は必要ないと言えない。


「全部合わせて5万リンです。端数は切っておきましたぜ!」

「ありがとう。本当に助かるよ。大金貨2枚。私からの気持ちだから受け取って。この国に本屋はあるかな?家庭料理も覚えたいのよ。」


 クッキーとパンを甘く見ていた。天然酵母について書かれている紙を見て泣きたくなった。育てると書いてある。しかも扱いが難しく早く使う必要がある。

 粉と液を使ってパンを焼いてみて味の違いを確認しないといけないね。


「本は高価ですが料理の本があるかは知りませんぜ。見に行くのであれば噴水を越えて門との中間辺りに本屋がありますぜ。あれ?噴水の工事がありましたかね。」

「反対側なのね…。見に行くわ。小麦粉はどのくらいの期間で買いに来たらいいのかな?他のお客さんも欲しい人はいるでしょ。」


 噴水を潰したら駄目な気がしてきた。


 そして早く仮想体を作らないと孤児院と手料理を両立できない。

 私は甘いままだね。クッキーを一緒に焼く約束をしていたのに欲を出してしまった。


「今日のような買い方を毎月されてしまうと品切れになってしまいます。次回からは5袋ずつでお願いしますぜ!」

「分かったわ。それではまた来月会いましょう。」


 こういう男性もいるのに目に入っていない。

 帝都の暮らしに染まっている。他国を見ているのに勿体ない。


「ありがとうございます。お待ちしておりますぜ!」


 小麦粉のお店から少し離れた。


「クロア、天然酵母はどのような感じなの?」

「生きていると考えるべきだね。まだどれが酵母なのか分からない。果物の皮と砂糖で微生物を育てると書いてあったから他の微生物もいる気がする。姉さん、諦めて。」


 育てるという言葉に偽りなしなのね。クリスを頼るのもありなのかもしれない。


「噴水は戻せるのかな?」

「それは大丈夫だよ。この国の人にとっては大切みたいだね。滑り台と噴水は直すけれど、お城は放置だよ。」


 お城が潰れても人は生きている。生活できるから問題なし。


「それで十分だよ。ここでの買い物が終わったら反対側も見に行きましょう!」

「フィオナ姉ちゃんに油断も隙もなかったね。一番簡単なクッキーの作り方を堂々と聞けるのは強いよ。これで私たちの体が炭になることはなさそう。本屋に地図とか一般常識について書かれているものがあるといいね。お姉ちゃんは宮廷常識を覚えてもいいと思うけどね。」


 クロアはパンを期待しているの。材料を管理して手順通りに作ればクッキーは失敗しないはず。問題はパンなのよ。完全に油断と慢心だね。

 同時に2つ作ろうとする初心者はいない。


「地図なんて私が書ける。それより飲み物は売っていたかな?クッキーとパンには必要でしょ。」

「お茶の茶葉というものが売っていたよ。試飲できたから飲んでみたけれど、落ち着くいい香りだったよ。畳の部屋にいる感じに近いかな。少し苦いけれどね。買ってこようか?」


 わざと言っているでしょ…。何故かパンが入っている。約束していないからね!


「ロディ、アディに付き添ってあげて。結界の範囲を広げて邪魔者を入れないように。店員から見下されたら買わなくていい。それとアディ、絶対に作るために必要な道具と手順を確認してきなさい。そして転移で戻ってきなさい。」

「分かりました。」

「お姉ちゃんが本気だね。ロディ、早く行こう。」


 2人が小走りで門の方に走っていった。


「クロア、約束はクッキーを焼くだけだよ?」

「姉さんの好意を無下にするはずがないじゃない。オーブンを作れば両方焼けるよ。天然酵母ために小さなオーブンも作るよ。天然酵母の温度でパン生地も寝かせることができる。姉さん、準備は任せて。」


 徹底的に準備される。本物は油断も隙もないよ…。


「間に合ったー!茶葉が2種類あって緑茶と紅茶の葉を買ってきたよ。紅茶は輪切りのレモンを浮かせて飲んだり砂糖を入れたりすると楽しめるって…。家にポットがないよ。茶こし付きのが便利でいいって言ってた。」

「アディ、それがどのようなものか分かる?説明できる?」


 何故2つ買ってきたの?私と同じ過ちを…。

 これで3歳児に怒るのは間違っている。問題なのはここからだね。


「それは大丈夫だよ。だけど緑茶や紅茶を美味しくするのにも技術がいるって。茶こしという網に茶葉を入れて網から茶葉の味を出すみたい。早すぎると味がしないか薄味。遅すぎると渋すぎる。お姉ちゃん、最高のお茶を入れてね。80℃のお湯がいいみたいだよ。茶葉を入れすぎても少なすぎても駄目だから頑張ってね。」

「応援ありがとう。とても分かりやすい情報で本当に助かるよ。アディ、最高の味だと思うまで飲み続けなさい。」

「アディ、何故私を見るのです!巻き込まないでください!」


 仮想体必須じゃないの。お茶の入れ方まで覚えるの?


「大丈夫。80℃のお湯が用意できるようにするから。茶こしは多分ふるいに似ていると思う。アディ、あとでふるいを見てポットの絵と茶こしの絵を描きなさい。」

「クロア姉ちゃんも本気だね!分かったよ。覚えているから任せて!」


 本気を出すところが違うと思う。それにその余裕は何なの?

 恐怖しか感じないよ…。


「姉さん、緑茶で温まろう。紅茶も楽しみだね。レモンを入れてもいい。砂糖を入れてもいい。色々な味が楽しめるね。自宅での飲み物はお茶を基本にしよう。練習が大切だからね。姉さんは緑茶と紅茶を楽しませてくれるために調味料とお菓子をお土産にくれたのでしょ。私は妥協していないから大丈夫だよ。」

「寒くないよ!寒気がするだけだよ。情報が足りない。茶葉と水の量と時間は絶対に関係しているから。それを確認していくのは大変だよ。」


 クロアに余裕がありすぎる。まるで隙がない。終わったね…。


「姉さん、妹の努力を潰したら駄目だから黙っていたけれど、確認済みだから。はい、知らない振りをして練習してね。」

「店員の記憶から情報を抜いたのね。嘘でしょ…。ここまで細かく味を調節しているのは国王に出す緑茶と紅茶くらいだよ。世界の女王様も同じ味を楽しみたいの?」


 何故クロアの機嫌がいいの?世界の女王と呼ばれるのは嫌いなはずなのに。

 失敗した…、大失敗だよ…。


「姉さん、その辺の人が飲むお茶を楽しみにしているはずがないじゃない。まずは基本から楽しみましょう。世界の女王に出すお茶は世界最高にするべきでしょ?」

「基本は大切だからね。これを覚えて高みを目指すことにするよ。」


 やはり自分の言葉で追い詰められた。どんどん崖に向かって歩いているよ。

 崖だと思ったら噴水だった。何度見ても笑える!


 ティアラと王冠が盗まれないのは固定しているのかな。


「ディア、子ども全員を滑り台の上まで転移させて。作ったのだから滑らないと駄目だよ。」

「みんなー!滑るよー!」

「やったー!」


 また来たときに小麦粉屋は残っているのかな?

 お城が廃墟にしか見えない。


「この滑り台は凄いね。高さ10m、長さ20mはありそうだよ。」

「姉さん、私も滑ってくる。」


 あっという間に転移した。


 クロアには子供たちの笑顔が一番だね。純粋な子供たちの感情表現によってクロアは自分に湧く感情が何か知ることができるから。


「大人の女性で滑りたい人はいるのかな?」

「はい!」


 全員だね。この滑り台は気になるみたい。


「よし、皆で行こう!」


≪転移≫

お城の門に移動した。


「クロア、まだ滑っていなかったの?」

「ディアたちが滑り終わってから滑るつもりだったの。さあ、姉さんも滑りましょう。」


 何故クロアは私の背中を押すの?立ったままでは危険だよ…。

 滑り台を見たのが初めてで子供たちは立てないから座ったと考えたのかな。


「滑り台は座って滑るのよ。押さないで。危ないからね。」

「子供たちが立てないわけではないのね。さあ、滑りましょう。」


 子供だから楽しめると思っていたけれど、風が気持ちいい。

 それに楽しい。子供たちは孤児院に作ってほしいだろうね。


「滑り台を滑ったの初めてだよ。風が気持ちいいねー。作るのー?」

「これはいいね。丁寧に作らないと怪我しそうだからアダマンタイトと魔石で作ろうかな。」


 材料がおかしい。魔石で上まで転移させるの?


「本気で作るつもりだよね?」

「姉さん、私はいつでも本気だよ。子供の遊具だからと手加減はしないから。」


 今なら自分の感情を信じられるから作ろうと考えている。

 それに楽しい感情が少しだけ強く出ている。痛みが出ないように抑えているみたいだね。


「気持ちよかったでしょ。私が作った最高の滑り台だからね。」


 ディアの言葉はクロアへの挑戦状だよ。クロアは確実に張り合うよ。


「初めて滑ったよ。風が気持ちよかった。」

「天井からお風呂に突っ込む滑り台を作ろうかな。ぶつかったら危険だから対策が必須だね。」


 砂場に突っ込むのは危険だと思ったみたいだね。どのくらいの速さで滑るつもりなのかな?お風呂でも危険な気がする。子供がぶつかったら死ぬよ。


「死ぬよ!何で死ぬような遊具作ろうとしてるの?普通の滑り台は高さ2mくらいだからね。」

「ディアは何を言っているの?子供だけが滑るなんて言っていない。何故私がそのような小さな滑り台を作るの。ディアが作った最高らしい滑り台より滑るから。私は完璧な滑り台を作るからね。」


 真面目なことを言っているディアにクロアがおかしなことを言っている。

 世界が崩壊する前兆かな?


「何で遊具で張り合ってくるの?相当気に入ってるでしょ。」

「ディア、野暮なことは言わなくていいの。2人で協力して誰が滑っても怪我しない完璧な滑り台を作ればいいだけだよ。」

「姉さん、ディアの知識が役に立つの?2mの滑り台とか言っている平凡な3歳児だよ?」


 3歳児を煽っているね。私の言葉が台無しだよ。


「お姉ちゃんに滑り台で煽られる日が来るとは夢にも思わなかったよ。子供の遊具で子供に勝てると思ってるの?例えば何を作るの?」

「手摺りがあるけれど、全て透明な滑り台とか怖くて面白いでしょ。孤児院のお風呂の周りを滑って少しだけ深くした所に着水だよ。当然水飛沫が全員に降り注ぐようにするけれどね。そもそも孤児院のお風呂は砂を落とすために用意した遊び場だから。更に楽しくするだけだよ。」


 女の子だけだから問題なしのお風呂だよ。天井が高くなる気がする。襁褓の男の子が3歳くらいになったら男の子のお風呂も必要になるね。それに水中で着る服も必要だよ。


「本気すぎるよ!滑り台に対する情熱を自分の精神のために使うべきだね。」

「滑り台が精神を癒してくれた気がしたよ。どうでもいいことは受け止めずに滑らせればいいとね。勉強になった。」

「あとは家で話そうよ。本屋に着いたからね。」


 ディアの言葉も正しいけれど、クロアの考え方が変わるのであればその方がいいと思う。全て受け止めて自己犠牲で解決する。それだけはやめてほしいから。

 普通の遊具は大人が見ていなければ危険なものもあるけれど、クロアならその危険を減らせる。即死しないようにすればいい。無傷で安全にする必要はない。


 感情把握と転移で回復が間に合うのだから。


 本屋に入るのは初めてだけれど、独特な雰囲気だね。

 騒いではいけない気がする。


「すみません。家庭料理についてと遊具についてと常識についての本はありますか?」

「珍しいものをお探しですね。料理全般についての本はあります。遊具を研究した本もあります。常識とは何を基準にしたものでしょうか?」


 常識についての本がある。それが遥か昔に持ち込まれた本の写本であれば最高だね。


「子供を教育する場を作る予定です。ですから年齢に合わせて勉強する内容が記述してあるような本を探しているのです。ありませんか?」

「教育については写本されたものが多くあります。昔は熱心に子供を勉強させていたと分かりますよ。言葉、計算、歴史、理科が各年齢ごとにありますけれど、いかがされますか?」


 全て遥か昔の知識であればあって損はないね。


「すみません。理科とは何でしょうか?」

「生物についてや実験について年齢が上がるごとに難しくなっていきます。」


 魔法にも応用できる知識がありそうだね。


「全て買います。収納できる魔法がありますので大丈夫です。」


 そういえばこの国の人は驚かない。今まではどのような感じだったのだろう。


「魔法が使えることを余り驚かれませんね。何か理由があるのですか?」

「本を読むと魔法は誰でも使えるものだと分かります。誰でも手から魔力を出せるのですから魔法にまで届かないだけなのです。魔法を使っている描写が書いてある本はあるのですが魔法の使い方を解説してる本はありません。この国では子供の頃からある程度は勉強することになっています。魔力が出せることも知っていますが魔法を使える人はいません。逆にお聞きしますが魔法を覚える方法はあるのでしょうか?」

「魔力を無視し勉強することをやめて魔法を継承する技術は失われました。私も魔法が使えますが子に引き継がれるだけです。そして1万人程が繋いできたものです。文明は退化する一方。本の技術を誰も再現しようともしません。この中の本にはあるのではありませんか?電気と電球を研究して開発するだけで夜を明るくできると。」


 この老人は勉強に対して真摯な気持ちがあるから少し話したの?

 それとクロアのその知識はクリス経由かな?


「素晴らしいですね。国がお金を出し研究する施設を作り引き継いでいく。それが夜を明るく照らし空を飛ぶことに繋がるのに本の中の話だと考え誰も前に進まない。研究と発展は繋がっているのに国王は聞く耳を持たず優雅に暮らしているつもりでいます。お笑いですよ…。昔の庶民の生活を国王が優雅だと考えているのですから。本をお探しでしたね。料理全般については30万リン、遊具の研究は20万リン、勉強する本4冊が9年間で36冊あり1冊5万リンです。合計で230万リンです。」


 それだけの知識がある国でこの程度で満足するのね。


「確認をお願いします。あとお菓子の本はありますか?オーブンで手作りできるものがあると嬉しいのですが。」

「オーブンですとこちらですね。一般家庭用と宮廷料理人用がありますがどうされますか?」


 どうせ崖っ縁にいるのです。前進あるのみです。


「両方お願いします。学ぶことに損はありません。」

「素晴らしいですね。10万リンと50万リンですので合計で60万リンです。」


 本に書いてあるお菓子はお城で再現されているのかな。


「確認をお願いします。」

「はい。確かに頂きました。ありがとうございます。」


 孤児院に全力で臨むつもりがお菓子と料理で手一杯になりそう。


「店主さん、鉱石についての本はありますか?」

「鉱石についての本はありますよ。30万リンになります。」


 店主の老人はここにある全ての本を読んだことがある気がする。

 だから現状維持で満足する国王に不満を感じている。


「確認をお願いします。」

「はい。確かに頂きました。ありがとうございます。」


 店主にお礼を言って本屋を出た。

 外には末っ子と孤児院の子と働いている大人が集まっていた。


「子供たちはお菓子買えたかな?」

「はい!」


「大人の女性も買い物はいいかな?」

「はい!


「それでは帰るよ。クロア、綺麗にしてからお願いね。」

「そうだね…。それでは帰ります。」


 最後の他国での買い物は楽しめたのかな。私が何もしなくてもあなた達はお金をもらって帝都で暮らすことを選ぶ。殺伐とした国で殺し合い奪い合う。


 他国を見ても何故考え方が変わらないの?

 自分たちの住んでいる国がおかしいと思わないの?


 お金で集めたからお金で解散するのが普通なのかな。

 どちらにしてもクロアを否定する時点で追い出すから一緒なのだけれど。勿体ないよ…。

笑顔が一番です。中でも子供たちの笑顔が一番好きです。

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