第50話 調理器具
「クロア、先程の国は候補から消してね。それと男女平等の国を探すことはできるのかな?」
「言葉の意味は分かるけれど、それを判断できる行動は何かあるの?」
日常生活を知らないからだね…。
先程の国が男尊女卑であれば店主の考えも想像できる。絶対に許せないけれど。
「女性も男性と一緒に働いている。家やお店で料理を作るのは男女どちらでもいい。家族は同じ机で同じ時間に食事することができる。お風呂に入る順番が決まっていない。最低でもこのくらいの条件は満たしていてほしいかな。」
「何日か夜まで見ていれば分かりそうだね。それが理想的な国なの?」
これで駄目なら国をつくってもいいと思う。
家族が笑顔になれるのであれば、それだけでいいのだから。
「クロアにとって理想的であってほしい。ドラゴンが男性で人間を女性にすると分かりやすいのかもしれない。お互いを尊重して生活しているのか力で屈服させて従わせているのかが重要だね。」
「姉さんは私がドラゴンに追われているのかもしれないと考えてくれたんだね。世界になかったらどのようにするべきなの?」
言っておいて存在しない可能性が高いと思っている。先程行った国が男女平等だと言っているのであればクロアを追いかけてきた男性と権力者を皆殺しにしたい。
「国をつくるのが一番になってしまう。クロアが責任を持つべきではないと思うけれど、孤児院にいる子は不幸になる可能性が高くなる。孤児院から出たら普通に接しているつもりでも殴られるのかもしれない。男性には力で勝てないという怖さを知らないのがとても危険。言葉だけでは正しく伝えられない。ここはとても理想的な環境だと思うけれど、世界はそこまで綺麗ではないから。」
「なるほど…。孤児院では教えられないし生涯知らないまま過ごしてほしい。家族の幸せだけでいいのに重たくなっているね。4人が楽しく遊んでいるから見捨てることはできない。誰も遊んでいなかったとしても見捨てられないのだろうね。とりあえずオーブンを改造しよう!」
無理やり話題を変えたね…。
クロアには孤児を見捨てることはできない。幼い頃から不幸な経験をしてきたからと孤児の子が不幸でも無視できる性格ではない。
幼い頃に誰か助けてほしいと望んでいたはず。誰も助けてくれない辛さを知っているクロアは孤児を助けずにはいられない。
「150℃から10℃ずつ温度調節できて250℃まで上げられたら最高だね。中の温度が分かると尚いいね。空気は温めると膨らむから空気の出入口は必須。オーブンは空気を温める調理器具だね。上から空気を温めてほしいのと空気を逃がすための出入口を雨が入らないように家の外に繋げると部屋が暑くならなくていいと思う。それと水は沸騰すると100℃までしか上がらないよ。沸騰させ続けていると水は水蒸気という気体になって減っていくから注意しないと鍋が焦げることになる。氷が浮いている水は0℃だよ。温度を分かりやすくするために水を利用したのだと思う。できそうかな?」
「少し待っていてね…。」
クロアは鍋を作って水を入れてコンロの上に置いて火を点けた。
とりあえず作った鍋にしては綺麗だね。
「鍋の金属は何かな?取っ手は熱くならないの?蓋まで作ってあるのね…。」
「鍋の金属は銅だよ。厚さ1mm、直径30㎝、高さ50㎝の角を取った円柱。左右対称で頂点から3㎝下に2つ付いている取っ手も銅だよ。直方体で縦5㎝、横5㎝、厚さ3㎝で角を取った。蓋は直径33㎝、厚さ3mmの円柱で中心に取っ手になる直径3㎝、高さ5㎝の円柱を付けたよ。蓋の裏側には直径30㎝、幅2mm、深さ2mmの溝があるよ。鍋の底と内側以外は全て透明な無敵紙が貼り付けてあるけれど、今更ながら無敵紙で温度対策しているだけなのが気に入らない。工夫がないよ。100℃を知りたいだけだから別にいいけれど、姉さんはこれを使いたいと思う?」
工夫をしすぎて頭が麻痺しているのかな。鍋の外側は熱くない、錆びない、汚れない、そして壊せない。取っ手には隙間もなく溶接もしていない。今は使う予定のない蓋に溝までありずれないようにしている。それに透明の無敵紙とは紙なの?ガラスに近いのかな。
ドワーフがこの鍋を見たら何を思うのだろうか。
心が折れる気がする…。
「勿論使うよ。欠点が何もないよ。世界一の鍋だと思う。気になっているのは無敵紙は滑るよね。持ち運びは大丈夫なの?」
「鍋だから人の皮だけは滑らないようにしているよ。鍋を持つときに手が濡れていたら危険だからね。」
人の皮だけと簡単なことのように言っているけれど、勉強し続けているクロアには簡単にできるのだろうね。無敵紙を完全に把握している証拠だよ。
滑らなくて熱くないのであれば私の要望もできるのかな。
「それなら鍋に付いている取っ手を消してもいいと思う。鍋の中に違う大きさの鍋を入れることができるから場所を取らなくて便利な気がする。小さい鍋には取っ手を付けれるようにすればいいんだよ。鍋を挟むことができる棒状の取っ手があれば小さい鍋でも熱くないよ。」
「姉さんのやる気は凄いね。料理を覚える前から後片付けまで考えている。コンロの火の熱を感じる鍋の大きさには棒状の取っ手を付けられるようにするよ。」
もしかして今のは煽られたのかな。「後片付けを考えるほど料理ができるの?」と煽られたのかもしれない。いや…、間違いなく料理ができない私の被害妄想だよ!
クロアに煽られたら涙が出るに決まっているからね。
「クロア、銅貨は変色するから体に悪いのかもしれない。銀も変色するし金と白金は変色しないけれど、高いから調理器具には使われていないと思う。銀は毒によって変色するから王族が使う食器は銀だけれど、調理器具として使うことについては何も知らないの。店主に何も聞けていないから違うお店で聞いてこようか?」
「大丈夫だよ。姉さんの話でよく分かった。フライパンは鉄が多いみたい。鍋は銅が多かったけれど、内側が知らない金属でメッキされていた。鉄の鍋もあったし複数の金属が混ざっている鍋もあった。金食器と銀食器も売られていた。純金、純銀として高価な値段で売られていたみたいだけれど、他の金属が混ざっていた。店主も騙されているのか共謀しているのかまでは分からないけれどね。つまり鍋は純金が無難だね。」
クロアが話したのは知っている情報の一部でしかないと思うけれど、一緒に歩いて見ていたはずなのに金と銀の食器を見ていない。
分身のクロアが仮想体を作り店内の商品を全て調べた。お店にあった全ての商品を再現できるけれど、店主が信用できないから知らない金属が使われている調理器具は使いたくない。
メッキされている金属も信用できない。複数の金属が混ぜられている合金も信用できない。作っている職人は別の人たちだと思うけれど、本当のことを言うとは限らない。それに作っている人が正しく理解していなければ感情把握でも分からない。
それに聞きに行くことにより誤った情報を得る可能性がある。それを私がクロアに言えば無下にできないと考えたのかもしれない。
水を沸騰させるだけなのに色々と考えされられる。クロアはこのような疑問をそのままにせずに納得できるまで調べるのだと思う。
仮想体を作ることすらできていない今の私では無理だし3歳児でも無理だね。
物思いに耽っていた間に鍋が金に輝いている。取っ手も消えている。クロアを見ていると魔力と魔法は可能性に溢れていると思わされるね。
鍋からブクブクと沸騰し始めている音がしてきた。
「クロア、沸騰し始めたね。水蒸気は透明で見えないけれど、その白い靄みたいなものを湯気と言うんだよ。お風呂の白い靄みたいなものも湯気だよ。湯気は水蒸気が冷えたものだから簡単に水に戻る。湯気に手を当てると水になるからよく分かるよ。」
クロアが湯気に手を当てている。すぐに手が水で濡れるはずだよ。
「姉さんは物知りだね。手の温度が36℃程だとすれば湯気が冷えて水に戻るわけだね。料理をするときに水蒸気と湯気を外に出さないと天井から水滴が落ちてくる可能性があるね。何も考えずに料理用の部屋を用意したけれど、天井が腐ることを考慮していない。魔石で浄化しているから家のお風呂も孤児院も問題が起きていないだけだね。毒料理店とは別で姉さんが見たことのある調理場はどのようなものなの?」
「お城にいたから参考になるのか分からないけれど、別の建物を用意していたよ。窓も大きくて風通しをよくしていた。地面には平らに切断した岩を敷き詰めていた。天井や壁も水蒸気や熱が当たるところは岩にしていた。岩は熱や水に強いのかもしれないね。」
親を知らない。もしかしたらお城で働いている人の中にいたのかもしれないけれど、誰か分からない。売られたのか攫われたのか分からないけれど、お城は最低な記憶しかない。
家族がほしかった。
家族なら助けてくれるし守ってくれるはずだと思っていたから。
私は助けられてクロアたちと家族になった。だけど血の繋がりがないから不安だった。
母ではなく姉を選んだのも同じ立場でいたかったから。クロアは私を母にすることで不安を取り除こうとしてくれたのかもしれない。だけど私に母は身分不相応だと思えた。
クロアは16歳で常識を知らないという負い目が今はあるみたいだけれど、長女に相応しいのはクロアだと思っている。気を抜くと自分を妹だと思ってしまうからね。
それでもクロアが姉として認めてくれているから、これから先も努力できる。
ディアとロディを叱ったときに家族でいることを否定されることも覚悟した。しかし言葉には反発されたけれど、それだけだった。
クロアは静かに聞いてくれるから別として今日から4人同時に常識を教えることになる。ディアとロディまでうるさくなったら大変だね。
クロアが「黙りなさい!」と言えば一瞬で静かになると思うけれど、笑顔が好きなクロアは4人が楽しんでいるのを眺めている気がする。
想像していたものとは全く違うけれど、最高の家族だよ!
調理場やオーブンについて考えているクロアを見ながら何を考えているの…。
「クロアは山が噴火したときに出る赤黒くてドロドロのマグマを知っている?」
「知っているよ。魔法で使えるけれど、本当のマグマなのかは未検証。魔法が覚えていたものだからね。何か面白いことを思いついたの?」
魔法が覚えていた…。
研究員が覚えさせておいたのか偽物なのかどちらかだろうね。
「マグマが冷えると岩石になるけれど、冷え方によって岩の模様が変わるんだよ。噴火した後にマグマは急激に冷えるけれど、些細な違いで模様や色が変わるみたい。マグマが元になってできた岩だから熱には強いと思う。オーブンを岩で作るのであれば役立つのかもしれないと思って言ってみたよ。エルフが噴火の影響を小さくするために動いていると聞いたことがあるけれど、本当なのかどうなのかは知らないの。エルフに会ったことがないからね。」
「姉さんのお陰で魔法を調べることができるよ。それにたくさん知識を教えてもらえた。ありがとう。だけど過去の記憶は無理して思い出さなくてもいいからね。」
感情に僅かな変化があったのかな。家族を把握していると知っていたけれど、私が想像できるような方法ではなさそうだね。
確かに嫌な記憶の知識ではあったけれど、重労働させられた程度のもの。雑用として王女と離れて暮らせていれば不満はなかった。
王女の友達が仕事だと言われたのに軽食代わりにされ雑用や護衛まですることになった。
殺したい相手を守るために体や魔法を鍛えるのはとても不愉快だった。それに何か遭ったときに王女たちが逃げる時間を稼ぐ役目まであった。
だけど今は違う!
私は弱いけれど、アディとローアを助けるためになら命を懸けられる。
「姉さん、家族の誰かが寿命以外で欠けたらこの星を爆発させるからね。当然関係者は空間庫にある魔石の魔力が尽きるまで拷問だよ。星の爆発前に宇宙に飛ばす。なんてね…。冗談だよ。」
世界の女王様は冗談を言わない。感情把握で考えていることがここまで分かるのかな。思考把握とか新しい魔法を作っている気がする。
全力で生き抜いてきたクロアは安易に死を選ぶことが許せない。命懸けで助けるなら全員が助かる方法を探せという事だね。
「姉さん、オーブンを作っている最中だと忘れているのかな。私の説教は評判が悪いけれど、今夜にでも体験してみる?」
「な…、何を言っているのかな。オーブンの上部には切る、100℃、200℃、300℃と書かれていて、その下には横に摘みを動かす隙間があり縦に22本線が書いてあるから10℃ずつ変化するようにしたのだと分かる。切る、100℃、200℃、300℃の線は太くしてくれているから間違えない。摘みは角が取れた立方体で中心に縦線が書いてあるから温度を設定しやすい。それと300℃の横のガラスに23℃と表示されているのはもしかしてオーブンの温度なの?」
何ができるのかは見た目で想像できるけれど、何故これが簡単に作れるの?
構造が全く理解できない。
「姉さん、オーブンを作っているのに部屋の温度を表示していたらおかしいでしょ。温度が変わると消して新しく書き直すの。姉さん、200℃に設定してから扉を開けてみて。」
摘みを200℃まで右に動かす。約5秒後にガラスの表示が200℃に変わった。摘みを動かす時間を考えて摘みが止まっている時間により温度を変化させるようにしたのね。
扉の上部に∪型の取っ手が付いていて掴んで開くと熱気を感じる。ガラスの表示が一瞬だけ199℃になったけれど、200℃に戻った。
オーブンの温度は常に測っているみたいだね。
中が明るいのは天井に付いている魔石の光。
扉を閉めてオーブンを切ってみた。表示は200℃のままだから中がまだ熱いと分かる。
「クロア、クッキーの生地を乗せる金属は熱を持ってほしい。だけど生地が焦げ付かないようにしたいの。普通は油やバターを塗ったりするけれど、何かいい方法がある?それと生地を乗せる金属は薄くても大丈夫だから細く低くて長い直方体を左右対称に付けると、板を多く入れることができるから一度に多くのクッキーが焼けるよ。どうかな?」
「姉さん、金属は早く温まってほしいの?ゆっくりがいいの?」
クロアは更に先を見ているみたいだね。
「クロアの魔法技術だと早い方がいいよ。上下同時に焼けるからね。」
「少し待っていてね…。」
クロアはまたコンロに火を点けて鍋の水を沸騰させた。
鍋の中に金、銀、銅、の棒を入れた。
解析できるのは凄いよ。
「熱が伝わるのは銀が一番だね。次に銅で金は銀や銅と比べるとかなり伝わり難いみたい。鍋に銅が多かったのは安価で熱が伝わりやすいからなのかもしれないね。メッキも熱が伝わりやすい金属なのかもしれない。という事でクッキーを乗せる板は銀に決定だね。それと姉さんの問題も解決できるよ。銀板の上には熱を通す無敵紙を貼り付けて下には普通の無敵紙を貼り付ける。上下が分からなくならないように板を取り出すための取っ手を付けるよ。でも下の段のクッキーの色が見えないから左右からも照らす?」
「まずは成功してからにするから問題ないよ。それとクロアにとって無敵紙ではなくて便利紙だね。紙というのもどうかと思うくらいだよ。メッキに近いのに透明だからね。やはり最初の人形を守っていた無敵紙は使い物にならない?」
今のクロアなら紙と同等にしか感じないと思う。
「全く駄目だね。作った人は魔力や魔法と真摯に向き合っていない。魔法式も雑で魔力消費も多い。子供の落書きだよ。それよりもオーブンは1℃ずつ調節できるからね。目盛には縦線がないけれど1mm動かせば1℃変わるよ。10℃ずつ変更するほうが大変だったからね。だけど摘みの裏に刺さっている金属の厚みは0.8mmくらい。1mmにすると2つの温度の間に入る可能性があるから薄くした。0.8mmでも間に入るけれど、そのときは温度を現状維持するようにしてある。温度は摘みが同じ位置で5秒停止していると変わるよ。変更点は板を何枚も入れられるようにするだけでいいの?」
「変更点はないけれど、クロアにとってこのオーブンはどのように感じているの?」
温度の変更方法を聞いても温度の測り方を聞いても今の私では理解できないと思う。
クロアの魔法技術がどれ程なのか分からないけれど、遥かに上だという事は分かる。だからオーブンを作ってみて何を感じているのかを知りたい。
「姉さんから聞いたことはできるように作ったよ。排気筒も工夫してあるから全ての調理器具から出る水蒸気や湯気や熱を外に出すようにできる。温度を調節できるようにしただけで特別ではないからいいと思うよ。」
「クロアにとって特別とは何なの?」
あれだけのことができるのに特別ではない。私が要望を言ったから普通のオーブンとそれほど変わらないと思っているのかもしれない。
普通は温度計を見ながら薪で温度を調節する。摘みを動かすだけで思い通りに温度を変えることが凄いことなのだと知らない。特別なことだと知らない。
常識を知らないクロアは世界の常識を変えることができる。
「美味しいお店の料理やお菓子を魔力や魔法で複製する。孤児院の料理も私が用意する。ボタンを押せば料理やお菓子ができる。魔力と魔法で日常から楽しみを奪っていく。便利な力だからこそ使い方を間違えてはいけないと思っているよ。」
「特別すぎるよ!とりあえずクッキーについて思っていることは何かある?」
余りにも特別すぎて何を言えばいいのか分からない。何を勉強すればそのようなことが可能なの?魔力と魔法の話をだとは思えない。
世界は魔力でできているのだから全て魔力で複製できる。
クロアは世界を学んでいる。誰でもできることだけれど、誰もできていない。特殊な文字と言っていたけれど、簡単に理解できるものではないはず。
世界を誰よりも憎むクロアは魔力を通して世界と繋がっている。
「焼くときの生地の厚さと温度と時間は知っている?小麦粉の量によりバターと砂糖の量と卵の数が決まると思うけれど知っている?小麦粉には種類があるのを知っている?重さを測る調理器具がないから知らないよね。失敗決定です!」
「ボウルで混ぜて黄色くなった生地を棒を使って薄く伸ばして丸型で切り取っていくだけではなさそうだね…。クッキー屋の人にはそのように教えてもらったよ。」
完全に無知なる者だよ。
私とクロアはお互いにお菓子作りを知らないけれど、必要な知識が何なのかをクロアの方が知っている。私は安易に考えすぎていて何も分かっていない。
「クッキー屋の人が教えてくれるはずがないよ。小麦粉屋の人の聞くのが一番だと思う。それに毎日買い物に行くのであれば冷凍箱だけでいいと思うけれど、保存するのであれば冷蔵箱も必要だと思うよ。冷凍箱は-20℃だけれど、全ての食材をそのような温度で保存していいとは思えない。2℃くらいで保存した方がいい食材もあると思う。それで重さを測る調理器具は買うの?作るの?」
「私でも使える秤を作ってください!」
情けなさすぎるよ…。
「グラムという単位は知っているけれど、何か基準になるものはあるの?」
「水1ℓが1kgで1kgは1000g。縦、横、高さが10㎝の立方体の水が1000g。縦、横、高さが1cmの立方体の水が1g。重さを測る調理器具を秤と言うんだよ。」
グラムを知っているだけの妹に秤を作ってと頼むのは非常識だね。
「そういうことに詳しいのだから、お菓子や料理にも活かさないと駄目だよ。」
「はい。その通りだよ。」
今まで秤が必要だとは思わなかった。火加減で黒焦げになると思っていたけれど、火加減が正しくても成功しない。正確な材料の重さすら知らないのだから…。
そもそもクッキーを焼くときの火加減を知らない。オーブンの火加減を知っていただけ。末っ子を説教した日に次女に説教されるとか酷すぎる長女だよね。
評判の悪い説教を避けられそうもない。
「できたよ。秤に取り外し可能な金の皿と合計ボタンと個別ボタンを用意してみた。ボタンは押しても戻ってくるからね。合計は全ての重さを量りたいときに使って。押すのは一度でいいよ。個別は何かを入れる度にボタンを押して。それに冷凍箱と冷蔵箱を縦に並べて両方の扉を右開きにして部屋の左奥に置いたから。」
外枠が付いている丸い金の皿だね。砂糖などの材料を直接乗せて量ることも考慮して金にしたのだと思う。魔石から外すと裏に短い立方体が付いていた。魔石には同じ大きさの窪みがある。
しっかり反省しないと駄目だね…。簡単に作っているように見えるだけ。クロアは特別ではなく誰よりも努力している。クロアだから簡単にできると考えていたらあの女と一緒になる。
勉強してきた知識の中に利用できるものがあったから早く作ることができたのだと思う。
金の台にボウルを置くと魔石に貼り付けられたガラスには300gと表示された。合計ボタンを押すと同じく300gと表示された。ボウルの重さは300gだという事だね。
ボウルに水を入れると343gと表示された。43gの水を入れたと分かる。
個別ボタンを押すと0gと表示された。ボウルに水を入れると22gと表示された。もう一度個別ボタンを押すと0gと表示された。ボウルに水を入れると36gと表示された。更に水を入れると78gと表示された。材料の重さを量り間違える方が難しいよ。
合計ボタンを押すと443gと表示された。全ての重さはいつでも知ることができる、
水で重くなったボウルを秤から下ろすとガラスの表示が消えた。親切だね。
親切すぎるよ!
「何故このようなことができるの?」
「1gを量るために耐久力を下げた魔石を使って重さという力がどのような世界の文字になるのかを知る。特殊な文字というのもおかしいから世界の文字にしたよ。1000g、100g、10g~1gまでね。台は魔石を2つ重ねているよ。上の魔石は重さを量り下の魔石はそれをガラスに表示する。各ボタンの下には金のバネが入っているけれど、ボタンも魔石で台が平らになるまで押せば魔法式の値を変える。合計ボタンは合計の重さを引く値を0にする。個別ボタンは合計の重さと同じ値を引く。その結果を下の魔石に渡せばガラスに表示してくれる。オーブンのときは世界の文字に変換して温度を変えているよ。ガラスに表示するときには世界の文字を人の文字に変換しているのは一緒だね。」
やはり世界を勉強している。人の文字に変換していると言っているから世界の文字は勉強しなければ読めない。何年勉強しているの…。
世界を理解することが簡単なはずがない。
「世界の文字は誰が考えたの?」
「世界が考えて魔力が読み取ることができるのか魔力が考えた文字だと思う。姉さん、5000℃の火の球を出せる?」
格が違う。
「無理だよ。自分が出せる火の球の温度すら知らないのだから。子供でも分かる火は熱いという知識だけで火の球を出す。自分が想像できる範囲で火の球を熱くする。クロアがオーブンを作ったとき100℃は知ることができたけれど、300℃までは知らない。このオーブンは能力で作ることができない。能力では1℃ずつの変更は不可能。一番の差は何になるのかな?」
「どのような魔法でも1つの魔力にしか魔法式は書けないの。そして能力を使うとほとんどを想像や記憶で埋めてしまう。それが魔法式なら1行で済むことが多い。だからディアに自分で使える魔法でも調べて勉強しなさいと言ってきた。だけど今は楽しく遊んで人形のことを忘れてくれたらいいのにと思っているけれど、それだけは無理だろうね。」
敗北感はないし心が折れたわけでもない。魔法を勉強する時間ができたら勉強したいと思っている。それに本物を知ることができた。これは今までの曖昧な感情ではない。確信している。
世界の女王様はクロアだよ!
「子供の夢を大人が潰すことはできないよ。」
「ディアとロディが楽しく遊んでくれたらよかったけれど、2人は張り合っているし意地っ張りだからね。4人とも本気で楽しんでいるから見に行けないのが残念。私は明日のクッキーが炭になっていなければ食べるね。まずは4人に味見してもらうよ。私では感想が言えないからね。」
説教の仕返しを考えている4人が味見する。
買ってきた高級クッキーでも不味いと言われそうだよ。
「説教の仕返しが始まるのね。全力3歳児は説教されると負け扱いなの?ディアとロディにも狙われている気がするからクロアとの模擬戦を避けられないね。」
「私は強くなれないと思ったら模擬戦してあげると言ったんだよ。模擬戦が説教になっているのは何故なの?解決するには5体1で模擬戦だよ。アディとローアには結界を張ってあげるけれど、恐怖を教えてあげないとね。」
世界一の恐怖で全員瀕死だよ。それにクロアは対人戦の経験がないに等しい。
手加減できるの?
「恐怖でも人は死ぬんだよ!クロアの手加減は生きていればいいのでしょ?必ず体のどこかを吹き飛ばすよね。絶対にむーり!」
「私はそこまで酷くないよ。何故か結界から熱が伝わるとかその程度だからね。姉さんのクッキーのように温めてあげるよ。」
結界の新しい使い方を知ったよ。
優しい言葉で拷問すると言われたのは初めてだね。
「指先とつま先から炭化していくのでしょ。それは拷問でしかないよ!そもそもクッキー作りをクロアも協力してよ。」
「なるほどね。調理器具を3台作っても協力したことにはならないんだ。そうだよね。姉さんは料理も作るから。多数決で決定しよう。もうすぐ帰ってくるからね。」
言葉選びを完全に間違えた。恐怖で頭が麻痺しているよ…。
「クロアも一緒に作って楽しもうよ」と言うつもりだったのに!
「ただいまー!」
「みんなお帰り。楽しめたみたいね。まずはこの部屋に来てよ。」
終わったね…。
「みんな見てよ!オーブンを作ったんだ。100℃から300℃まで1℃ずつ調節できるようにした。目盛は10℃ずつにしてある。そしてこれは秤だよ。1gから量れるし食材や調味料を入れる度に0gにして計算しなくても済むようにしてある。合計の重さはいつでも表示できるよ。そして冷蔵箱も作ったんだ。料理するのなら凍らせたら駄目な食材や調味料があると思ってね。そのあと姉さんに何を言われたと思う?クッキー作りに協力しろと言われたよ。模擬戦が決定したかな?」
「フィオナ姉ちゃん、それはに酷いよ。クッキーのように温めてもらえばいいじゃない。」
「フィオナさん、お熱があるようです。冷凍箱で冷やすといいです。」
「クロア姉ちゃんに世界の重さを教えてもらった方がいいよ。」
「お姉ちゃん、世界一危険な人は家族にいたんだよ。世界は狭いよね。」
この絶望的な状況を回避する術を私は知らない。
世界は狭かったようです。




