第17話 始まりに向けて 前編
「お母さん、ありがとう。眷属の人たちが来るのは明日でよかった?」
「何故今気になったの!?もう邸に来ているわよ。6人とも女性にしたわ。あなた達に求婚を迫る馬鹿がいるかもしれないもの。分かっていて無駄な犠牲を出す必要はないわ。」
私たちに求愛する男性は死ぬのかな?
「お母さん、今から無言で集中するけれど、部屋に戻った方がいい?」
「構わないわよ。好きな場所で集中するべきだわ。」
いつもの椅子に座った。
部屋に戻る気にはなれなかった。何故ならディアの反応が気になるから。
「それならここで集中するよ。気にしないで。」
「ええ、私にできることが何もないわ。」
目を閉じてディアにお母さんを見せないようにしておく。今は姿が見えるだけでイライラしている可能性が高い。全てを話すには精神を綺麗に作り直す必要がある。今の状態では受け入れてくれないだけではなく反発されるかもしれないから。
【お姉ちゃん、何で部屋に戻らないの!?】
(ディア、後で説明するから今は私を信じて。)
やはりお母さんに敵意を向けるように精神を作り直されている。だけどディアは私と違って思考誘導や精神操作に慣れているわけではない。突然違う気持ちが湧き上がるようになっても、それに抗うことができるはず。純粋だから抵抗力が強いわけではないのが怖い。私の記憶を見るだけで敵意が殺意に変わってしまうから。
【分かったよ。何すればいいの?】
(ディアとクロアと加護と全能力の精神に付与された全ての思考誘導を解除。お母さんが死黒森でこの体を初めて回復したときまで自己回復の記憶を消去。加護に自己回復が壊れたときに共有していた記憶が何か確認。とりあえずここまでお願い。)
よかった…。私の話を聞いてくれた。
≪自己回復:私とクロアと加護と全能力の精神に付与された全ての思考誘導を解除して≫
<かしこまりました>
≪魔法:お母さんが死黒森でこの体を初めて回復したときまで自己回復の記憶を消去して≫
<かしこまりました>
≪加護:自己回復が壊れたときに共有してた記憶が何か分かる?≫
<勿論です。主が光ってクロアと融合したときの記憶です>
【お姉ちゃん、次は何をすればいいの?】
(ここからは少し任せて。)
思考誘導の解除で自己回復が何も言わなかったのだから私の考えで間違いないはず。だけどここから先は間違えることが許されない。確認できることは全てしておく必要がある。
≪自己回復:保護しているものが何かある?≫
<ありません>
≪自己回復:思考誘導は精神の活動に影響を与えることで間違いない≫
<その通りです>
≪自己回復:記憶を見るだけで思考誘導を付与することはできない≫
<その通りです>
≪自己回復:記憶の追加や消去により思考誘導を付与することはできない≫
<その通りです>
≪自己回復:記憶の追加や消去により思考誘導が解除されることはない≫
<その通りです>
≪自己回復:自己回復は自分に思考誘導を付与することができる≫
<その通りです>
【お姉ちゃん、その通りばかりだけどいいの?】
(大丈夫だよ。私の予想通りなのか確認しているから。)
≪自己回復:能力にどのような思考誘導を付与することができる≫
<能力ですと…。この体が特定のものを見たとき、この体が特定の行動をしたとき、この体が特定のものに触れたとき、特定の言葉を聞いたとき、特定の記憶を見たときです>
≪自己回復:人に思考誘導を付与するなら無数にできる≫
<その通りです。精神が動くことなら全て思考誘導に繋げられます>
本当に嫌になる…。私の13年間は全て自己回復に操られてきた。そして操り人形の私を通してお母さんも操り人形にしている。ニョロ母さんも自己回復の被害に遭ったと考えていい。同じ能力があるからだとか何も関係がなかった。私が触れている人には思考誘導を付与することができたのだから。
≪自己回復:方法が違えば全ての思考誘導を精神に付与することができるよね?≫
<その通りです。同じ方法は上書きされます>
【何それ…。お姉ちゃんはこんなのに抗ってたんだ。そして自己回復を壊した。凄すぎだよ…。】
(本気の思いは消せないし変えさせないから。私にはそれだけがあれば十分。それに私は1人で戦ったわけではないよ。相手は天才だから天才に頼るのが一番だよ。)
【頼ったのは自己回復を壊すときだけでしょ?抗ったのは関係ないじゃない。】
(私は大丈夫だから。大切な確認をしなければならないから待ってて。)
≪自己回復:主の精神が壊れる記憶を見ても大丈夫?≫
<記憶であれば大丈夫です>
≪自己回復:記憶でなければ許せないという事だね?≫
<間違いなく許せないです>
(そうだよね…。ディア、自己回復に記憶を共有させて、昨日の朝食までの記憶を元に私たちの精神を綺麗に作り直してもらおう。解析はしなくていいからね。)
【何で?解析することは大切じゃないの?】
私の精神の解析結果を見るとディアがどのような行動をするのかが分からない。自分の責任だと考えてしまう可能性がある。それだけは絶対に許容できない。
(私を信じて。解析はしなくていいから。)
【分かったよ。お姉ちゃんを信じる。】
≪自己回復:加護と全能力と記憶を共有して≫
<かしこまりました>
≪自己回復:昨日の朝食までの記憶を元に私とクロアの精神を綺麗に作り直して。思考誘導や精神操作されていたけど絶対に再現しないで≫
<かしこまりました>
(ディア、今ならお母さんが大好きだよね?)
【うん、大好きだよ。あの記憶を見たら加害者だと思ってたのに…。それが正しくないんだね?】
(すぐに私の考えを話さなかった理由はディアが私に不信感を覚える可能性があったから。私に相談したとき不安だったでしょ?)
【そうだね。何だか分からないけど不安だから相談したよ。】
(不安だから私に相談した。それなのに精神操作と思考誘導されている状態が続くと不安の理由が私になる。私がいるから不安になると考えるようになる。最終的にディアが私を消す指示を自己回復にさせるのが目的だね。ディアの精神の3歳児がいると判明したから利用された。純粋すぎてディアは不安に耐え切れなくなる。昨晩ディアは自分の精神を作り直した。簡単な思考誘導でそれができてしまう。まずはディアがお母さんの自己回復の中にいたのがおかしいと思わせる。そして精神を作り直した後にあの記憶を見てお母さん達を加害者だと思えば完了。ディアは自分の精神が綺麗に作り直されたと考える。私の予想は違うかな?)
【お姉ちゃんを不安の理由にするかは分からないけど後半は全部正解だよ。】
(ディアと私は勘違いをしていた。させられていたと考えるべきかな。壊れた自己回復の復讐のために。復讐の理由はクローディアの本物の精神を砕かれたから。復讐相手はお母さんとニョロ母さんとゴミ2人。お母さんの自己回復はディアを守るために奪った。お母さんが鍛錬を止めないのは壊れた自己回復の思考誘導が原因。何故なら復讐するためにはドラゴンのように強くなる必要があった。ディアは綺麗な状態でお母さんの自己回復が保護していた。ディアも壊れた自己回復に言われたことを逆に考えてみて。)
【壊れた自己回復は嘘を吐いてた。私は自己回復を記憶消去すれば正常に戻ると思ってた。そして私とお姉ちゃんの精神を作り直すことを推奨してきたのは壊れた自己回復。最悪だよ…。お姉ちゃんと私を姉妹だと言っただけで信じちゃった…。本当に馬鹿だよね…。】
≪加護:ディアを励ませる言葉が何かある?≫
<壊れた自己回復は主を信じさせるためにクロアの気持ちだけは嘘を吐いていません>
【早く言ってよ!落ち込む理由なんて全くなかったよ!】
(嘘でしょ!?反省はしてほしいな…。)
【お姉ちゃんは秘密会議の内容を一切知らないの?天才に頼ったんでしょ?】
(知らないよ。ディアが秘密にしたことを話すとは思っていないし聞いても教えてもらえないと分かっているから聞いていない。ディアが精神を作り直したら協力してと加護と魔法に頼んだ。ディアが秘密会議しているときに私も加護と魔法の3人で秘密会議だよ。)
【それでも凄いよ。ほとんどお姉ちゃんの計画でしょ?】
(不得要領は何が何だかよく分からないという意味だよ。ディアを馬鹿にする言葉選びには感心しちゃうね。□護さん。)
【そうだよね。私がイラつく言葉の選択は□護さんが得意だから。お姉ちゃんらしくない言葉ばかりだと思ったよ。】
<敵を油断させる作戦です!>
(私と話しているときに秘密会議を始めて、その中で自己回復が何か言い始めたら指示を待たずに加護と魔法が動くことになっていた。一度目の『不得要領』が情報収集と準備完了の合図。私が何も言わないことで了解の返事とした。そして私の予想だと計画通りに進んでいない。私は自己回復の思考誘導が記憶消去しても残ると気づいたけれど、ディアは気づいてなかったでしょ?)
【記憶消去して全員同時に思考誘導してから最優先を確認、記憶消去して最優先を確認したよ。】
(記憶消去と確認は一緒にしてもらう予定だったの。自己回復を油断させるためにはそれが一番だと思ったから。昨晩の秘密会議がうまく働いたのかもしれない。記憶消去して確認は一度でよかったんだよ。保険として二度することにした。記憶消去してもしなくても最優先は主だと言うから。ディアが思考誘導の効果を確認するためには自分以外を最優先にするしかないよ。)
【記憶消去して確認するのは油断させるためだった。私の指示で記憶消去しても思考誘導が残ると思ったのは間違いだった。うーん…、3歳児にあんな作戦無理!】
(そう言うと思った。だから自己回復が壊れずに秘密会議が終わったら、魔法が自己回復の記憶を完全消去、加護が自己回復を記憶閲覧禁止にする予定だったから。作戦は失敗する前提だった。それで私が嘘でしょ!?もしかして偶然なの!?と驚いたの。一番悪いのは二度も私を除いて秘密会議したディアだからね。私と加護と魔法は嘘を吐いて心が痛いよ…。)
【そこまで考えてたら実行すればよかったじゃない。3歳児に頼るのがおかしいよ!】
(自己回復の思考誘導について聞いたでしょ。それにディアが精神操作までされていた。何が切っ掛けで何が起きるのか分からない状況だったの。壊れた自己回復は絶対に復讐したいはずだから偶然の出来事で何かすることはないと考えていた。だからディアの記憶消去で何も起きないのなら最終手段を行える。加護たちでも自己回復の思考誘導や精神操作の内容までは把握できない。それに昨晩と今朝が同じだと考えると危険でしょ?私の精神が作り直されているから動けない。私からディアに話しかけることもせずに沈黙して機会を待っていた。ディアがお母さんと寝るのを中止にしたときに自己回復の計画が始まったと分かった。ディアの精神が作り直されたと知って凄く後悔したよ。守るべき一線を越えるほど狂っているとは気づけなかった。解決したことだし重たい話はここまで!ディア、やりたいことを見つけたよ。睡眠だよ、す、い、み、ん。場所はお母さんの隣だからね。)
【私の中にいればお母さんの隣だよ。守りは万全だから安心して眠ってて。実は昨日の記憶ないんだよ。精神を作り直したせいだと思うんだ。だから1日延期ね。】
(はぁ…、知ってた。一番の噓吐きはディアだとね。私に休んでいいよと言ったのに全く休ませてくれない。せめて今から代わってお母さんに説明してよね。私は寝る!)
【はぁ…、3歳児に責任を押し付けるんだ。全力他力本願が暴発する可能性が高いよ。それでもいいのかな?この国なくなるよ?】
(3歳児ならこの程度が限界。私が□護さんと密約している可能性にも気づけない。流石に『今すぐに!』と言い訳するのは計算外だったよ。解析結果でそれはないからね。急いで何か言わなければならないと思って『今すぐに!』でしょ?みんな分かっているから。笑わせて自己回復を壊す予定だったのでしょ?復讐するのは無理だとね。)
【伝わってなかったみたいだね。全力他力本願の私は□護さんに全能力の管理を任せたんだよ。能力の問題を主に解決させるとかあり得ないから。□護さん、『今すぐに!』解決しろと言ったの。分かるかな?】
<笑止千万>
(笑止千万の意味は非常にばかばかしいこと、おかしいことだよ。しかも私たちの声だね…。少しだけ活躍したくらいで調子に乗っているのかな?本当に誰も止めてくれないよね。一緒にいる意味があるのか分からなくなるよ。私はお母さんと話しているからディアと仲良くしていて。)
【友達になったばかりの自己回復は可哀想だけど秘密会議始めるから。普段の作業を片手間に全員参加。『今すぐに!』】
<魔が差しました>
動き出したら止まらないのがディアだよ。よく分かっているよね、□護さん。
目を開けるとお母さんが机に肘を立て両手で顔を支えて私を見ていた。
「お母さん、ようやく全て話せるよ。13年前から始まった計画を潰せたから。」
「そう…、全て聞くわ。私も無関係ではないのでしょ?」
お母さんが望むのなら全てを話した方がいいのかもしれない。だけど今の状態で話すことが正しいのか分からない。お母さんと自己回復に付与されている思考誘導を解除してからの方がいい気がする。そうすれば精神の負担も変わるはずだから。
操られるために作られた私とお母さんの精神は違うよね…。できることから先にしよう。
<クロア、止めてください。説教で加護と能力を破壊した世界初の主が誕生してしまいます>
流石に早すぎるでしょ!?
主を守るための強力な能力である自己回復を悪用すれば凶悪な能力になります。




