第14話 決断と解放
≪加護:3人に念話を繋いで≫
<かしこまりました>
◇◇◇
念話中。
「今から緊急ギルド会議を開催します。至急自宅に集合してください。」
念話終了。
◇◇◇
ふぅ…。本気で腹立たしいけど怒りを前面に出すのは止めないとね。
ベッドから起き上がり部屋を出た。少し歩くと2階からお母さんが椅子に座っているのが見えた。階段を下りていつもの椅子に座る。ニョロ母さんとフローラは一緒にドアから入ってきた。
何で私が働かないといけないのかな?お母さんが2人もいるのにおかしい。どうせ呼び出された理由も分かってるよ。
「緊急のギルド会議という事で集まってもらったけど話し合うのではなく私の決断を伝えるだけだよ。冒険者組合総本部の計画を中止する。冒険者組合本部の従業員たちに3日後までに退職しなければ制裁を加えると告知する。それでも残っていた従業員たちをどうするのかは検討中。元本部長の邸は友達や眷属の住居に使えるからこのままで問題なし。それと会議が終わるまで動かないでね。計画を中止した理由が分からない人は手を挙げて。」
フローラだけが手を挙げている。予想通り2人は気づいてたみたいだね。私も気づいてたから人のこと言えないけどクロアのために動いてあげようと思わないのかな?全ての経験が私たちの糧になるとか考えてそうだよ。嫌な経験を無理にする必要はないと思う…。
お母さんと一緒に寝たいから言わないけどね。
「フローラ、あなたを追い出すことが決定したよ。仲間だったという事で殺さない。記憶消去を望むならしてあげる。追い出す理由は約束を守らなかったこと。これまでの計画はあなたが同僚を殺したくないと訴えたから進めていた。あなたが言った『一度生き残る機会を得た』というのはこちら側の考えでしかない。今のあなたは同僚の命に興味すらない。だからあなたを追い出すと私が決めた。ここに来て2日しか経ってないから元いた場所に戻れるよ。荷物が重いなら運んであげる。最後は格好よく無言で出て行くといいと思う。」
「待ってください!同僚に死んでほしくありません。私は約束を守っています。」
当然出て行かないよね…。
それくらいのこと私でも分かってたよ。ほんの少しだけ期待したけどね。
「私の勘違いだと言いたいのかな?それなら嘘を吐いたら死ぬ魔法をかけるよ。その状態で先程と同じことを言ってあなたが生きてたら追い出すのを止めにする。嘘を吐いたかどうかはあなた自身が判断することになる。約束を守ってると本気で思ってるなら死なないよ。」
「嘘を吐いたら死ぬ魔法だと知る術がありません。私を殺せば終わりではありませんか。」
受付としてクロアたちと話してるときの記憶を見たけど酷くなってる気がする。人の気持ちを考えない。何をするにしても自分が正しいと思い込む。
本来なら私を疑うのは怖いと思うんだけどこの人は何とも思ってない。この状況でも自分の思い通りになると考えてる気がする。
「うーん…。だったら嘘を吐いたら右腕が切断される魔法にしよう。私とあなたに同じ魔法をかけて、私が嘘を吐いて証明すればいいのかな?」
「それなら2人の腕を切断すればいいだけです。」
約束を破ったと自覚してるから証明させないつもりだね。
「それならあなたが信用してる人は誰?」
「ディアとクロアです。」
そう言うと思ったよ。だけど信用してる人じゃなくて利用できる人でしょ。私たちの力を知って利用できたことで自分を見失ってしまったのかもしれない。最初の計画の時点で酷いから絶対にそうだとは言えないけど。
「私を信じてるのに疑ってるのは何故?」
「私を追い出そうとしているからです。」
「話題を変えるよ。あなたは孤児を救出しようとしてるね。方法を教えてよ。」
「孤児院に住む大人が増えたら貧民街にいる孤児を救出して、組織に捕まっている孤児を救出して、奴隷として売られてしまった孤児を救出します。」
「どうやって貧民街にいる孤児を救出するの?」
「ディアかクロアに頼めば簡単に救出できます。」
「貧民街にいる孤児を簡単に救出できる方法なんて知らないよ。具体的な手順があるの?」
「嘘を吐く理由は何ですか?私を追い出すためですか?」
「あなたは何をするの?」
「ディアかクロアに頼むのは私にしかできません。」
十分だね。終わりにしよう。
≪加護:フローラは殺意を向けられたことがある?≫
<ありません>
≪加護:フローラから5日間の記憶を消せる?≫
<この時から5日間でしたら可能です>
≪加護:流石だね!フローラを眠らせて5日間の記憶を消して保護対象から外して≫
<お任せください!>
フローラは倒れるように机にうつ伏せになり寝た。
「ニョロ母さん、フローラを住んでた場所に戻せそう?」
「民宿だから部屋が空いてないかもしれないわ。」
「荷物の量は?」
「大きめの鞄に入る程度よ。」
仕事を辞めるように言ったのはクロアだから最低限の保障はしておこう。同じ帝都に住んでるから絶対に会わないとは限らない。
ドラゴンは約束を守れなかったら殺すのが普通だけど、ニョロ母さんも殺すとは言ってないから記憶を消して追い出すのが無難かな。自分の意思で出て行ってほしかったけどね。
「それなら住んでた民宿か近くの民宿に1ヵ月分の料金を支払って部屋を借りて。それとポケットの中に大金貨2枚を入れて冒険者組合本部を辞めたと書置きしておいて。もしも荷物の中に私たちのことを書いたものがあれば処分して。余裕を持たせて5日間の記憶を消したよ。ここからはお母さんとニョロ母さんに任せるね。」
「随分と面倒を見てあげるのね。利用されたのに殺さないの?約束も守れない人なのよ。」
敵意や殺意を向けられてもいないし損害もないに等しい。殺さなくても私たちに影響のない人なら殺す必要はないと思う。クロアやお母さん達を馬鹿にされたら殺すけどね。
フローラを2人に任せれば認識阻害した状態で飛べるから民宿まですぐに着くし、予想外の問題が起きても対処できるから安心。
「お母さんの言いたいことは分かるよ。それにクロアを利用して落ち込ませたから殺したい気持ちもあるけど後味が悪すぎるし、悪意がないからいい人だと思うのは危険だと勉強になった。フローラの計画に賛同したのがそもそもの間違いで私たちにも非があるから最低限の保障をすることにした。」
「早く別れることができてよかったと思うわ。お互いにね。」
ニョロ母さんがフローラを横抱きにしてお母さんと一緒に飛んでいった。
≪加護:私の声をゴミ竜王に変えて冒険者組合本部にいる従業員たちに念話を繋いで≫
<かしこまりました>
「竜王だ。冒険者組合本部で働く従業員たちに告げる。不正や賄賂により腐敗している従業員は必要ない。本日から3日後までに退職せよ。真っ当な従業員だと自称するならば4日後の朝に出勤したまえ。試験に合格したら給与を増やして採用しよう。心配せずとも試験は簡単だ。一切不正や賄賂に関わっていないと宣言するだけでよい。それが嘘であれば死ぬだけだ。この話を信じるも信じないも自由。冒険者を集めて私の討伐を狙うも自由。それでは4日後の朝に出会えるのを楽しみにしている。」
≪加護:ありがとう。私の声を戻して≫
<かしこまりました>
≪加護:ブレンダさんに念話を繋いで≫
<かしこまりました>
「こんにちは、ディアだよ。新しい冒険者組合を作るのは中止にしたよ。だけど冒険者組合本部を乗っ取ることにしたから近づかないようにしてね。落ち着いたら連絡するよ。」
「急な方針転換だね。話を聞ける日を楽しみにしてるよ。」
【クロア、頼みたい仕事があるんだけどいいかな?】
(私も頼みたい仕事があるの。いいかな?)
【3歳児に仕事を頼むとかおかしいでしょ!とりあえず何を頼むつもりなのか言ってみてよ。】
(孤児院を元の場所に戻して。今なら2時間の記憶を消すだけで済むから。)
【孤児院を頼むつもりだったのに…。子供たちを助けなくていいの?】
(私たちが助けるべきではないよ。子供たちの笑顔を見ると助けたくなるけれど、それをするのは国や街の仕事だから。それに何か引っかかっている気がしたけれど、その理由が分かった。帝都での生活が厳しいと村に帰った大人たちは子供たちを見捨てた。それに働いて稼ぐつもりもなかった。シスターは働いたらいけないのかもしれないけれど、生活が苦しいのに補助金頼みなのは間違っている気がする。それとディアは直接アルマさんと話してないから強く感じてないみたいだけれど、彼女は欲深い。必ず私たちとの約束を守らない日が来る。フローラの計画に賛同したのが間違っていたと考えたのだから綺麗に清算しておこうよ。冒険者を一緒に楽しむのが一番の目的だからね。)
お姉ちゃんがそう思うならそれでいいよ。本当はもっと重たい気持ちがある癖に私が責任を感じないように言ったのでしょ?世界中にいる不幸な子に対して心の底から可哀想だと思えない。子供の笑顔を見るのは嬉しいけど悲しくもある。生きることも死ぬことも選べなかったもんね…。
(ディア、聞かなくていいよ。知りすぎるのがいいとは限らないでしょ。フローラのことも知りすぎたら殺すことになると思って話すのを止めたのでしょ。)
【何で先読みできたのかな?誰に何を聞くのか当てたら止めるよ。】
(お母さんが私を回復したのが思考誘導によるものかどうか自己回復に聞くのでしょ?私の精神を固定しているのを解除して柱をディアにして。私は絶対に変わらない。その方がディアも安心できるでしょ?)
【お姉ちゃんは当てちゃうんだよね…。少しは自分のことを心配してよ。お母さんへの依存は個性として納得してくれたのにどうしたの?】
(私だけのときは依存しているのをどうすることもできないと思っていたけれど、この体はディアのもので、今はディアを通してお母さんを見ているんだよ。ディアがお母さんをどのように思っているのかが大切になっている。だからお母さんへの思いを動かせないのが息苦しく感じる。ディアに対する思いは依存を超えているから。ディアが消えて私が残るのは許されないんだよ。お母さんへの依存が固定されていてもディアを最優先にする。精神が歪んでいるように感じるのは、それを実現させるためだと思う。精神が綺麗になったのではなくディアが最優先だから兄の死に何も感じなかった。私はそのように作られているよ。なかなかの自己分析でしょ?)
【そんなのおかしいよ。全然楽しくない!】
≪自己回復:お姉ちゃんの自己分析は正しいの?≫
<その通りです。精神が残ってしまった場合を考えてそのようにしてあります>
≪自己回復:使い捨てにして残ったら奴隷にするなんてふざけてるの?修復して!≫
<精神を修復することはできません>
≪自己回復:今のお姉ちゃんの精神を複写して綺麗な精神に貼付して。歪んでる精神は解放してあげて。それならできるでしょ?≫
<主の行動を制限される可能性があります。本当によろしいのですか?>
≪自己回復:私はお姉ちゃんの妹でいたいの!やりなさい!≫
<かしこまりました>
(同じ無知なのだから姉も妹も関係ないでしょ?本当に無茶をしたね。自己回復が怒っているかもしれないよ?)
【無知な姉妹でいいんだよ。それに自己回復はこの体に刻み込まれた恐怖を甘くみてる。能力も成長中だと思うからそのうち理解してくれるよ。ところでお姉ちゃんは直感がよく当たるのに何でフローラの計画に賛同したの?】
(家族を全員呼んだ意味がなかったね。教養があって自分で考えてみなさいと言われるのはまだ分かるけれど、何も知らないのに誰も教えてくれないのは酷いよ。何があっても力で解決できると思っているのかもしれないけれどね。それにあの場にはどうしようもない人が2人もいたから仕方ないのかもしれない。)
【家族を呼んだら状況が悪化するのは予想外だよね。お姉ちゃんもそう思ってくれてよかったよ。】
直接的ではなくてもお姉ちゃんがお母さんを批判したのは初めてじゃないかな?あの場で一番強くて冒険者組合の創設者なのに何も言わないのは酷いよ。ゴミ2人は即座に処分するべきだった。
コンコンコン。ドアを叩く音がする。
「どうぞー!」
ドアが開くとアルマさんが入ってきた。
「すみません。フローラさんとの会話が途中でしたのでお伺いしました。それと補助金を受け取りに来ました。」
少しだけ話をしてみようかな。お姉ちゃんの気持ちが分かるかもしれない。
(嫌な気がする。絶対に後悔するから止めておいた方がいいよ。)
【私にとって大切なものは変わらないから大丈夫だよ。】
(自己回復は我儘な主に怒っていいと思う。)
「フローラは私たちとの契約を守らなかったから帰ってもらったよ。補助金は25万リンだったね。」
「それで急なお呼び出しだったのですね。フローラさんについては残念ですが約束していただいた補助金は55万リンです。」
(あの短時間で補助金について話すのは凄いね。どちらから話題にしたのかだけが気になる。)
【お姉ちゃん、私はもう疲れたよ…。代わって。】
(限界を知るべきだよ。頑張って!)
「私がアルマさんに言ったのは25万リン。それでもあなたは喜んでいた。今までの補助金でも生活できてたのに何故55万リンも必要なの?」
「確かに25万リンでも嬉しいです。ですが約束していただいた補助金は55万リンです。」
「約束したのはフローラかな?そのお金の使用目的を教えてくれない?」
「フローラさんとの約束です。補助金の使用目的は自由ではないのですか?」
「衣食住が揃えば満足でしょ。25万リンでもそれが叶う。だから増えた補助金の使用目的を聞いてるんだよ。孤児院をあれだけ改善したのに大金が必要な理由が分からないからね。」
「お金が多くて困ることはありません。余ったお金は自由に使わせていただくつもりです。補助金とはそういうものではありませんか。」
「贅沢はよくないと言ってたでしょ。贅沢すると言ってるように聞こえるよ?」
「子供たちに贅沢させるのはよくないと言ったのです。大人であれば問題ありません。」
「よく分かったよ。教えてほしいことがある。シスターは働いたら駄目なの?」
「働くことが駄目ではありません。私たちは神に仕えていますので個人資産を持つことが許されないのです。ですから働いたとしても教会のお金という事になります。」
≪加護:孤児院を元の場所に同じ形で戻せる?補修と補強はしたままでいいよ≫
<問題ありません>
≪加護:指示が長くなってしまうけど問題ないかな?≫
<勿論問題ありません!>
【流石お姉ちゃん!嫌な気持ちにしかならなかったよ。】
(流石妹だよ!自己回復に謝りなさい。)




