第133話 私の目覚め
イリアが推測と同様の行動をしてきたのであれば間違いなく利用されている。
魂を使った攻撃が相殺されただけで動揺している様を見るに演技や罠に感じない。
アンジェを乗っ取った存在の本体が元凶に違いない。
元凶は確実に今の私より強い。
唯一の救いは無から魔力を創造できる存在ではないこと。
私を殺す準備は整えられているけれど……。
≪ジェニーと敵を関わらせないで≫
<私の判断で部屋の状態を変えるよ>
≪よろしく。私を侮辱する言葉に気をつけて≫
<勿論だよ。ジェニーを敵に狙わせない>
敵が動く気配はない。
私たちの言動を楽しんでいるのだろう。
「イリア、まだ動揺しているの?戦う気がなければアンジェを置いて消えて。」
「勘違いしていますね。あなたが動くのを待っているのです。」
アンジェに危害を加えないように洗脳されている。
愛おしい娘だと思い込んでいるはず。
「それならアンジェを布団に寝かせてきて。」
「アンジェを手元から離すことはありません。」
鬱陶しい……。
次の言葉で動かなければ攻撃だね。
「アンジェ、場違いな小物を早く消しなさい。」
「乱暴な言葉ですね。小物はあッ――。」
アンジェの右手がイリアの胸を貫いた。
吐血しながら愕然とアンジェを見たイリアの顔に左手を当てて頭を消滅させた。
倒れ掛かるイリアの残骸とクローディアを消滅させてから椅子の上に立ち、困っているかのように眉を寄せて両手を広げた。
アンジェの体を幼くしたのはこのためか……。
自身が血塗れになるようにイリアを殺した。
私を不快にさせて楽しむ、それだけの為に。
元凶に近づくほど腐敗臭が酷くなる。
「小物でも役に立つんだよ。君には分かるでしょ?」
「魔力と本物の魂を集め続けた。親の性根まで教えてくれたよ。」
私の言葉を聞いて楽しそうに笑っている。
この世界は屑ほど笑顔になる……。
「手厳しいね。私の功績は知っているでしょ?」
「魂と核を自作 。世界の文字を解析。本物の核に干渉したのはやりすぎだね。」
口が裂けているかのようにニンマリと笑った。
本気で誇っているみたいだね。
「流石だね。それなら魂を集めた理由も分かるよね?」
「遊んでいたら集まっていただけでしょ。」
不満げな表情をしている。
下らない言い訳まで用意してあるのだろう。
「本当は気づいているでしょ。星が心を得るこの世界は間違っているんだ。心を得ても不幸にしかなれない……。だから世界に会うための方法を必死に模索したよ。生命を苦しめても魂を積み上げても世界は会いに来てくれなかったけれどね……。」
内容は酷いけれど、演技が様になっている。
大勢の私に話してきたようだね……。
「太陽が心を得ていたのか……。心を得た理由は知っているの?たくさん功績があるのに自分自身を知らなければ失笑だよ。」
両手を重たそうに広げて首を左右に振りながら「やれやれ」と呟いている。
自然に心を得たと思っているのか……。
「星から心を与えられたと思っていた君の言葉とは思えないよ。自分が世界だと宣言までしていたじゃないか。それに星が生きていると言っていたのは嘘だったの?」
私を操っていたときの言葉と思考で挑発してくるとは思わなかった。
恥という感情を知らないみたいだね。
「星の核に精神を入れ換えられて心が変わったから、星から心を与えられたようなものでしょ。それと世界の力を生み出した存在がいる太陽に向かって、私が世界だと宣言した。世界の力が使えれば世界を名乗ってもいいでしょ。そちらの価値観に合わせたのに酷いね。それに星が生きていると感じていたのに、疑似精神が潜んでいたのは本当に残念だった。ところであなたの名前は?太陽ではないでしょ。」
その程度なら後付けでそれらしく答えられる。
私に難癖を付ける余裕はなさそうだね。
怒りが漏れている。
星が人に悪意を持つ原因は人だと思っていた。
人の愚かさに際限はないから……。
「私の名前はサンディです……。余り時間は残されていませんが死ぬまで忘れないでください。憂鬱なのは初めてですよ。君は本当に酷いですね……。永く苦しめてしまいそうです。」
「辛いなら自滅すればいい。太陽の名前をサンディに変えてあげる。」
最初から殺すつもりなのに殺意を向けられても何も感じない。
これでも会話を続けることの方が怖い……。
「君と同じ顔の人にも酷い言葉を浴びせられてきたよ。人数は聞かないでね。死んでも何も残らない人だから仕方ないでしょ。」
私が挑発を気にも留めないことは知っているはず。
まさか、ジェニーを狙っているのか!?
≪本気で警戒して≫
<大丈夫。部屋から出さないし念話もさせない>
「見ているのに飽きて、自分の手で殺してきて、殺す相手を強くすることにした。私を強くする方法は見つからないと思う。これが生命の限界だよ。私を殺すことに飽きたら退屈な時間を過ごし続ければいい。」
サンディが退屈に耐えられるとは思えない。
殺されるつもりはないけれどね。
「安心してよ。君との戦いに飽きたら親子と戦う。それにも飽きたら家族と戦う。豊かな想像力がなければ遊び方も思いつかないよ。」
分かっていた。
私が殺されても遊びが終わる訳が無い。
予想できていたことを言われただけだ。
それなのに……。
「消滅する準備はできているの?それとも私の攻撃を待っているの?」
「君は本当に分かりやすいね。戦う場所は用意してあるよ。さあ、移動しよう。」
サンディが転移魔法を使った。
魔法に抵抗することなく身を任せる。
転移した時間は1秒にも満たない。
ここで戦う理由が透けて見えるけれど。
白色の平面は血を見たいから。
空気があるのは苦しむ声が聞きたいから。
サンディはアンジェの大人の姿で私を見ている。
分身で作った人形に入って仮想体であることを隠している。
この技術はクロアが生みの親だと思う。
本気で下らない……。
「恥ずかしくないの?」
「生命を愛しているからね。それに攻撃が当たらないと盛り上がらないでしょ。」
今から始まるのは戦いではなく私を嬲り殺して楽しむ遊び。
サンディはそのように思っている。
ここで仮想体を一体消滅させたところで戦局は何も変わらない。
それでもお前は必ず消滅させる!
「もう話すのも面倒だから始めよう。」
「君はいつも死に急いで自爆する。本当に興醒めだから盛り上がる方法を考えたよ。君が死んだら娘は蘇らせてでも拷問する。娘の拷問が見たければ君も蘇らせてあげるけれど、どうする?娘を拷問するのは次の君がここに来るまでだよ。酷いことを言われたのに優しいでしょ。」
ジェニーを拷問するつもりなのはこいつだけ?
本体が決めたの?
絶対に許さない!
口の中に血の味が広がっていく。
握りしめた拳が震える。
目がチカチカしてきた。
怒りで気が触れそうなのに頭は思考を続けている。
それなのに見つからない……。
今の私ではジェニーの拷問を防げない。
私が弱いから守れない……。
悔しくて悔しくて、余りの悔しさに全身が震えて、頭が麻痺したかのように一つの答えしか出さなくて、笑いながら両腕を切断された痛みさえどうでもよくて……。
すぐに諦める覚悟ができた。
ジェニーの隣には私の仮想体がいる。
2人が平和に暮らせる世界のためになら私でいることを諦める。
心の中で「助けて!」と叫んだ。
【何があったの?】
悔しくて言葉にできないから記憶を見て。
【どうしてすぐに私を呼ばないの!?】
私が変わってしまう可能性が高いから。
【全く、私たちはどちらも私でしょ。何も変わらないよ。】
そうかもしれないけれど、変わってもいい。
ジェニーの幸せな未来を守れるのなら何だっていいよ。
≪部屋に私の声は届く?≫
<――今なら大丈夫だよ>
「ジェニー、愛しているよ。そこにいる私も全く同じだよ。」
――だから、だから私が変わっても気にせず幸せに暮らしてね。
私が本気で戦えば誰にも負けない。
そうでしょ?
【その通り!私が世界最強だからね!】
心の中で崩れていた私を私が背中から抱きしめた。
私たちを優しい光が包み込み目を閉じた。
光が収まり目を開けた。
下卑た笑みを浮かべたサンティが私を見ている。
「お前は世界最強を知っている?」
心が世界最強を気にしている。
それを心地よく感じながら世界最強の戦い方を考えてみる。
怒りやすく涙もろい私。
考えることが好きだけど弱い私。
世界だと信じていても無能力な私。
最強だと信じていても能力を使いこなせない私。




