第131話 私のお母さん
リビングに来てからお母さんの気配が少しずつ変わっていくけれど、クローディアの記憶が追加された影響ではないと思う。
お母さんを変えられる記憶は存在しないと思うし、存在してはならない。
既に普通の人が見ると心が壊れる残虐な拷問と人体事件の記憶がある……。
存在するなら加害者を生み出して同じ苦しみを味わわせるべきだと思う。
洗脳と思考誘導が解けた影響で変わっているとも思えない。
お母さんが伝えてくれていた愛情は本物だから……。
今は抱っこされているのにお母さんの愛情を感じない。
別人としか思えないけれど……。
アンジェ叔母さんの視線を感じた。
お母さんに前世の家族について聞きたいのだと思う。
「アンジェ、私に聞きたいことがあるの?」
「ディア、私の母はフィオナなの?姉は同じ名前を付けられただけなの?」
お母さんの雰囲気が少し重たくなった。
アンジェ叔母さんの家族は敵が生み出したんだね。
「――それは違うよ。アンジェは私の妹で髪色が記録と違う。クローディアは私の娘で名前と瞳の色が記録と違う。難しいことだけれど、気にしないでね。とにかくアンジェは気が済むまでお母さんに甘えて。――家族が入れ代わることはもうないよ!」
クローディア本人が話しているとしか思えない。
隠す気はなさそうだね。
「屑だった両親が他人だと知れて清々しいよ。本来の髪色に変えた方がいい?」
「同じ記録から生まれても別人だよ。みんな本物で命がある。だから本来なんて気にする必要はないよ。ちなみに記録されている髪色は白銀色だよ。」
アンジェ叔母さんが無理して笑っている。
家族の前で強がらなくてもいいのに……。
さて、確認しよう。
「お母さんの子は生きているの?」
「今は封印されているよ……。娘の名前はクリスティーナ、愛称クリスだよ。」
これで確定だね……。
クローディアが魂を利用してお母さんを乗っ取った。
自分の心を上書きして自分以外の経験を消している。リビングに来た直後は精神が変わり始めたばかりでお母さんの気配が残っていた。
お祖母ちゃんの力を借りるか、お母さんが自力で体を取り戻すしかない。
経験は私にあるので戻せるけれど、心はどこにもないから……。
ふぅ、自制するのが辛い。
お祖母ちゃんは親馬鹿だからクローディアが望まない死を受け入れない。
間違いなく蘇らせる。
それなのにクローディアは死んでいた。
クローディアが望まなければあり得ないはず。
お祖母ちゃんが現状を受け入れているなら何もできない。
不幸な世界を終わらせてくれるので最悪ではないけれど。
≪転移≫
リオリナの席に座った
「お祖母ちゃんは乗っ取りを許すの?クローディアだから許したの?」
「――なるほど。私は盲目な馬鹿親ですね。魂から記憶を取り出せたことしか見ていませんでした。乗っ取りは許しません。ディア、あなたは自分の意思で世界から消えました。目的を言いなさい。消す前にそのくらいの猶予は与えます。」
お祖母ちゃんが乗っ取りを否定してくれてよかった。
消す前に少し話したいだけだよね?
「まだ馴染んでいないのに気づくなんて優秀ね。私の子にしてあげてもいいわよ。お母さんは散々自分の子を見殺しにしてきたでしょ。私が自然に蘇るのを待っていたからではないの?」
私のお母さんは一人しかいない。
寝言を口にするな!
「私は中立な存在です。ディアと関わり方を間違えたことで世界が荒れました。そのため自分の子と関わる規則を作りました。多くの子を見殺しにしたのは事実です……。しかし、精神で目覚めたときは力を貸しています。ディア、あなたに命を語る資格はありません。」
クローディアが切っ掛けで規則を作った。
お祖母ちゃんの力が世界に与える影響を抑えるためだね。
規則を作った後に自分の子が実験で殺され続けたのは想定外だと思う。
自分の子が殺される度に規則を少しずつ変えた気がする。
お祖母ちゃんは自分の子を溺愛しているから……。
創造主に感情があるのは残酷だと思う。
自分自身を封印できれば救いがあるけれど、効かないと思うし維持できない。
子を生んだのはお祖母ちゃんの心を守るためでもあると思う。
「お母さんを乗っ取った理由を早く言って。母親の優しさを無下にするの?」
「母親の優しさなら焦らせないでよ。完全に馴染まないと間違った理由を言ってしまうかもしれないでしょ。」
お祖母ちゃんを理解していないの?
お母さんを完全に消しても蘇らせることができる存在だよ。
「ディア、無駄な悪足掻きをせずに早く言いなさい。」
「それよりジェニーが落ち着いていることに違和感があるよ。」
お祖母ちゃんを無視しても大丈夫だと思われている。
私から促してみよう……。
「思考誘導と洗脳が解けたからだよ。お祖母ちゃん、理由を聞くのはやめよう。」
「嘘を吐くことは分かっています。それでも聞こうとした私が間違っていました。」
それでも消さないのが答えだね。
「リアに新しい体を用意するべきだよ。お母さんは私がクリスのために世界から消えたことを知っているでしょ。それに当時の人間が間違った方向に進んだら私が止めるべきだと思ったのよ。」
「乗っ取りは許しません。ディアは後始末するのが嫌でクリスを言い訳に世界から消えました。ディアが生きているときに人間は間違った方向に進んでいました。もういいですね?」
世界の力を見せびらかして研究させたのか……。
軽率すぎるし、放置して世界から消えたのは無責任すぎる。
このまま話していても無意味だからお母さんに任せよう。
「乗っ取りが駄目なら私を蘇らせてよ。クリスと一緒に暮らしたいの。クリスを本気で愛していたと知っているでしょ。娘が封印されていると聞いたのに消されたくない!」
「お祖母ちゃん、迷っているの?すぐに決断できなければ今と同じ状態のクローディアをお祖母ちゃんの隣の席に生み出して。お母さんはお祖母ちゃんの娘に相応しい状態にして。」
これが実現すればお母さんの手札が増える。
お祖母ちゃんはクローディアを消せないので実現してくれる。
「お母さんは娘を殺すことができないでしょ。ジェニーも納得してくれたし、私を生み出した後ならこの体をリアに戻すことに反対しないよ。」
「ジェニーが私の決断を遅いと思うのは当然ですね。ジェニーの提案通りにします。ディア、あなたを許すことはありません。勘違いしないでください。……私の言葉に説得力はありませんね。」
お祖母ちゃんの隣の席にクローディアが生み出された。
私の隣の席にいたときと同じ状態だからいつでも瞬殺できる。
私の隣に座っていたクローディアが白く発光した。
発光はすぐに収まり私のよく知るお母さんに戻った。
えっ!?
いつの間にかお母さんに抱っこされている。
「お母さん、私の経験からお母さんの経験を消して。努力せずに賢くなるのはよくないでしょ。」
頭をポンポンと叩かれた。
お母さんに抱っこされていると凄く癒させる。
「洗脳と思考誘導が解けた状態で初めて考えたので勘違いしているね。ジェニーが成長したときに私の経験を活かせるので消す必要はないよ。疲れているでしょ。眠っていてもいいし話を聞いていてもいいよ。」
お母さんがいない状況を私に経験させるために体を取り戻さなかったみたいだね。
今になって消耗していることに気づいた……。
眠たいけれど、話し合いの結末までは見届けよう。
「終わったら眠るよ。私が始めた話し合いだからね。」
「責任感まで身に付けて偉いね。頑張って起きていなさい。」
「責任感」でクローディアの様子を窺ったけれど、無反応だね。
世界で最も無責任な人が創造主の娘なのは笑えないよ……。




