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世界は子を愛す  作者: 大介
第3章 実験の結末

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第130話 復活

<・・・・・・>


 ……声が聞こえた気がした。


<・・めな・い>


 私に話し掛けているの?

 何を言っているのか分からないけれど。


<目覚めなさい!>


 命令されるとは思わなかったよ。


<ジェニーが人体実験に利用されてもよいのですか?>


 声が脳内をグルグルと回っているように感じる。

 ――言葉の意味を理解したときに意識が沼底から浮上した。


 それだけは絶対に許さない!

 どうすれば防げるの!?


<私が精神を治癒します。ですが貴女は今のリアではなくなります>


 精神が歪むほど洗脳と思考誘導を重ね掛けされているからね。

 最優先が変わらなければそれでいいよ。


<最優先は洗脳と思考誘導に抗って得た本物の想いです。失われることはありません>


 それなのにこの様は情けない……。

 動けない上にジェニーを手離してしまった。


 今すぐ治してほしい!

 あなたに頼むのは初めてではない気がするよ。


<期待してしまいます……。それでは始めます>


 寂しそうだね……。

 この姿の本人を知っているのかな。


 体が軽くなっていく。

 余りの差に浮いているように感じる。


 ――カチャ。

 胸の辺りから鍵を開けたような音が聞こえた。

 それと同時に記憶が流れ込んでくる。


 何度も名前を変えた。

 何度も姿を変えた。


 リアでも……。

 明らかに負けだね。


<終わりました。気分はどうですか?>

≪イリア、遅いよ!私は消えないと言ったでしょ!≫


 イリアを目覚めさせない方法は人体実験で調べたのだと思う。


 疑似精神が貼り付くのをやめて私ごと封印できると思ったのが大間違い。

 感情を与えすぎた結果だろうね。


 私の記憶が戻ったのは初めてなの?


<あぁ、初めてです!ディアがいなければ目覚める意味がありません!>

≪相変わらず過保護だね……≫


 本当に酷い世界。


 ……これは何だ!?

 クロアの記憶に嚇怒しそうだ!


 ……クリスティーナ。


<過保護なのは当然です!>

<クリスは封印されています。危害を加えようとしたら制裁です>


 クリスは救えるんだね……。

 イリアが見守ってくれていたのなら安心だよ。


 それでもこれは許せない!


 クリスティーナがクローディアを拷問した。

 名前だけを見れば娘が私を拷問した。

 姿だけを見れば私の母が私の娘を拷問した。


 姿が少しずつ変わっていく様が私に近づけようとしているように感じる。

 私に対する嫉妬だけでこのような凄惨な行為をしたのか?


 醜悪なお前たちを魂ごと砕く!


≪イリア、リビング以外を封印してジェニーとアンジェを救いに行くよ≫

<準備できました。リビングに転移します>


 4人が驚いて私を見ている。

 何故アンジェが幼くなっているの?


「魔力を動かしたら殺す。ジェニーとアンジェに指示を出しても殺す。」


 疑似精神2人が嫌らしい笑みを浮かべている。


 ジェニーとアンジェの様子がおかしい……。

 私を敵と認識して攻撃してくるのも時間の問題だね。


≪イリア、実体化して。ジェニーとアンジェの精神を治癒して保護するよ≫

<言い忘れていました。私はディアの母親です。次から『お母さん』と呼びなさい!>


 今言わなくてもいいよね?


 ジェニーが疑似精神をお祖母ちゃんと呼んでいたの?

 お母さんと呼ぶのは別にいいけれど、凄く嬉しそうだね。


「誰なの!?お母さんの姿で騙そうとしても無駄だよ!似ているけれど、気配が違う!」

「リアではないね。誰なの?」

「疑似精神、お前らが口を開いたら殺す。」


 疑似精神から余裕が消えないけれど、お母さんの力を知らないようだね。

 誰にも見せていないし精神を解析しても分からないけれど。


 私の隣に疑似精神と同じ姿でお母さんが実体化した。

 ジェニーとアンジェに同じように呼んでもらうためだろうね。


「私はクローディアだよ。精神を治癒して魂の記憶を受け継いだリアでもあるけれど、この姿と受け継いだ記憶はクローディアのものだからね。それにリアは操られていて負けたから。気配が違うように感じるのは精神を治癒したからだよ。さて、約束通り報復しにきたぞ!」


 どうして反応がないの?


「ジェニーとアンジェの精神を治癒しました。ジェニーは『お祖母ちゃん』、アンジェは『お母さん』と私のことを呼びなさい。ディア、胸元に転送するから抱っこしてください。」


 同じ姿にしたのは2人に呼ばれたいからだね。

 指示するなら違う姿でもよかったと思うけれど。


 転送されてきたジェニーを抱っこした。

 困惑しているね……。


「ジェニー、どうしたの?気になることは聞いて。それとお母さん、情報収集が終わったら結界内のごみを処分して。」

「相変わらず可愛げがありませんね。」


 疑似精神2人の体が魔力に変わった。

 2つの魔力が玄関と天井に向かって飛んでいく。


 隣から落胆する溜息が聞こえた。


 曲がりなりにも世界の力を使っていたので、お母さんの気持ちが分かる。

 焦って自殺するとは思わなかった。


 お母さんは完璧に制御できる。

 世界の力はお母さんの力だからね。


「ジェニー、悩んでいるの?」

「考えていたんだよ。お母さんまで操られていたのなら敵は何がしたいの?」


 目覚めた世界の力を手に入れるつもりだろうね。


「お母さん、目覚めたことを敵に気づかれたことがあるでしょ。」


 あるだろうね。

 お母さんには警戒する理由がない。


 目覚めを防ぐことはできても目覚めた後に封じることはできない。

 お母さんが使う世界の力を敵が使うことはできない。


 私だと気づけば目覚めを防ぐこともできない。


 それに世界を制御することは生命にできない。

 至極当然のことでしょ……。


「あります。目覚めた私の力を奪うために実験を繰り返すのは予想外でした。敵の目的はジェニーで私を目覚めさせてアンジェに体を乗っ取らせることです。ディアの言葉を元家族と研究員は信じていないようです。『イリアを従わせることはできないし私から奪うことはできない!』と何度も伝えていたのに残念です……。」


 アンジェと同じ精神が敵の中にいるのか……。


 クロアとリアの記憶だけでも実験の残酷さがよく分かる。

 不可能な目的のためにどれだけの命を弄んできた……。


 ――決めたよ。


 お前たちの罰は精神が綺麗になるまでクロアが経験した拷問を続ける。

 綺麗な精神で殺した命の数だけ死を経験させる。

 当然だが正常な精神を維持する。


≪お母さん、できるよね?≫

<勿論です。大雑把なディアに任せられません>


 視界の端で疑似精神2人が消滅した。

 ……。


「私がお祖母ちゃんを目覚めさせることはできないの?」

「できません。詳細は省きますがディアの魂を宿す人だけです。そして私が全ての力を貸すのもディアだけです。ディアが世界に存在するので私はここにいます。」


 世界を豊かにする研究の結果がこれだよ。

 私の目は腐っていたね……。


 クロアとリアのお陰で自分の過ちに気づけるよ。

 それに綺麗な目に交換できていると思う。


「アンジェは私の妹だからお姉ちゃんかディアと呼んでね。気になることは何でも聞いて。2人が納得したらお母さんに封印を解いてもらうから。」


 話しながらドア側の椅子に座った。

 アンジェを抱っこしているお母さんは私の正面に座った。


「お母さん、勝てるの?」

「敵を殺すだけなら私だけで充分だよ。皆を守るためにお母さんの力を借りるけれどね。」


 私の本気は誰にも見せていない。

 それに誰でも使える世界の力だけでは今の私に勝てない。


「記憶が増えただけで強くなれるの?」

「記憶と魂が揃ったことで強くなったんだよ。私の存在意義と力の使い方を思い出したからね。」


 魂から記憶を取り出せた理由は気にしていないね。

 昔の行動を振り返ると私でも嘘にしか思えない理由だよ。


 ……母親失格だね。


≪リアとお母さんが敵に負けたのは、リアの心が壊れたから?≫

<その通りです。リアはジェニーとアンジェを守るために戦いました。ですがアンジェを殺し続けて心が壊れました。そのためジェニーが自爆しました。3人一緒に死ぬことを選んだのです>


 予想はしていたけれど、実際に聞くと腸が煮え返る!

 ジェニーに聞かせなくてよかった。


「今のお母さんは誰を殺しても心を消耗しないの?」

「お母さんの子として戦うから大丈夫だよ。」

「私は偶然ディアに宿った力だと何度も伝えたはずです。」


 世界に関与するつもりはなかったのに子が欲しいと思った。

 眺めているだけでは退屈だから人間を観察していた。


 感情を理解したのもそのときだね。


 お母さんが人間に私を産ませたので私には母が2人いる。

 お母さんが私に宿らなくても力に気づけたと思う。


 私にだけ特別な力があるのはおかしいでしょ。


 人間が変わってしまったのは世界を豊かにしたいと思った私の責任。

 大切だった愛娘に普通の暮らしをさせてあげられなかったのも私の責任。


 私の指示だけで力を使っていたことを後悔しているの?

 お母さんが本気になれば違う未来にできた。


 だけどお母さんが気にすることではないよ。

 二度と自分の意思で世界に関与しないと決めていたのでしょ?


 私を産んだ母に気を遣っている。

 私を普通の人間にしなかったことを後悔している。


「娘に隠し事はできないよ。私のために新たな世界を創造しなかった。当初から私に『お母さん』と呼ばれたかった。私の母だと認めて推測の間違いを指摘してよ!」

「色々な生命の子育てを見ていました。人間を見ていたときに子が欲しいと思いました。それ以外は概ねその通りです。私の意思で解決することは好ましくありません。」


 勿論分かっているよ。


 何をしても自分の思い通りになる世界。

 それが当然で自分の力だと思ったときには精神が濁っているだろうね。

ジェニーが母親を疑うでしょうか?

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