第13話 期待
「昨日は不甲斐ない姿を見せてしまったわね。お陰様でもう大丈夫よ。早く冒険者組合を運営できるようにしましょう。外装と内装を調えた後に新しいカードとプレートを用意するわ。私とカンナカムイの眷属を3人ずつ。もしかしたら友達が遊びに来るかもしれないわ。給料は月30万リン。3人だけで問題なく運営できる能力がある。休日は自由に行動してもらうつもりよ。私たちのギルドに入りたいのであればギルド長との面接次第にするわ。気になることや問題があれば教えてちょうだい。」
朝食をとった後にこれからの予定を話すことになった。ギルド長はクローディアだからクロアが面接官で問題なし。私はお母さんと一緒に寝ることや勉強するのが大変そうだよ。これ以上はちょっと無理かなー。体を壊したら大変だからね。最強はどんなときでも立たないと駄目だから。
(最強さん、大変ならお母さんと寝るのを代わってあげる。勉強だけしていなさい。)
【勉強を続けるためにはお母さんと寝る必要があるの。癒しなの!】
(それなら勉強しなかった日は私がお母さんと寝るからね。)
【今週以降ならいいよ。だけど1日交替だからね。それでいいでしょ?】
(それでいいよ。それとディアが面接して。私は精神が歪んでいるから平等に見れない気がする。)
【面接には影響ないと思うけどクロアがやりたくないなら私がやるよ。人を判断することが不安だと思う気持ちも分かるからね。】
そういえば気になってたんだよね。眷属って何?
「お母さん、眷属ってどんな人たちなの?ドラゴン以外を見下したりしないよね?」
「ドラゴンにはいくつもの派閥があって私とカンナカムイは派閥の長をしているの。長の考え方に共感したドラゴンが派閥に入るわ。そして長が派閥の子たちを守ってあげていたの。派閥を襲うようなドラゴンは絶滅させたから守ってあげる必要はなくなったわ。但し、派閥の人数により世界を管理するための会議に参加することができるようになるの。人を見下すことはないと思うけれど、見下したら殺すしかないわね。ドラゴンだから長にも強さが必要なのよ。」
ドラゴンは最終的に強さに繋がる。それに目立つと近寄ってくるというのが気に入らない。自分たちで目立つものを作ることができないだけじゃないのかな。それを管理すると言って上から目線で他種族から奪い取るんでしょ?力自慢のドラゴンがやりそうなことで考えただけでもイライラする。近寄ってきたらドラゴンに変身させて素材として売る。んー、売れるかな?
目立つギルド名と組合名を考えないとね。組合とは真正面からぶつかってみようかな。
「楽しめるなら問題なしだね。私たちのギルド名は【オールマイティー】組合名は【冒険者組合総本部】フローラ、運営が始まる前に説得しに行ってもいいよ。行っても行かなくても死ぬ人が多い気がする。孤児院の計画を進めるか説得しに行くかは自由だからね。知らないうちに死んでたってなると嫌でしょ?だから伝えておいたよ。」
「ありがとうございます。私は孤児院の計画を進めます。一度生き残る機会を得ているのです。それよりも空腹な子たちには時間が余りありません。そちらを優先します。」
「何も問題ないわ。ギルド名が凄いわね。事実をギルド名にしただけだと誰が気づけるかしら。ところで組合の裏に宿舎を用意した方がいいかもしれないわ。友達が来たら泊まる場所がないもの。いよいよ本格的な準備が始まるのね。」
「問題なさそうね。それでは各自行動を開始してちょうだい。」
皆が席から立ったから私も立ったけどすることがない。
クロアに代わって大丈夫かな?
【クロア、交代して。】
(そうね。交代しましょう。)
皆の予定を聞いてすぐに代わるのがディアらしい。その切り替えの早さが羨ましい。どちらにしろ寝る前に交代しろとうるさいだろうけれど、それは約束だから仕方ない。私も計画していることがないしフローラを手伝うのが一番かな。
「フローラ、今日は何するの?」
「帝都に1軒ある孤児院を訪問して移住してもらえるのか確認します。その後に孤児院を建てるために建築屋に行くつもりです。」
「孤児院の設計図があれば私が建ててもいいよ。時間がないのでしょ?」
「それでは孤児院に行って移住してもらえるのであれば建物ごと移住をお願いします。その建物を補修、補強すれば建物を用意する必要がありません。」
≪加護:建物を補修と補強することはできるかな?≫
<問題ありません>
全力他力本願に染まってしまいそう。できないと言われる気がしない。
「補強と増強は可能だけれど、場所をどこにするか決めた?」
「ここの横にしようと思っています。子供たちが住むので離れていると守りにくいと思いました。」
お母さんに結界を頼めば大丈夫そうだね。
「それでは行こう。」
「はい。よろしくお願いします。」
帝都を4つに分けるように十字の表通りがあるけれど、孤児院は南西にあるみたい。私たちの家は北東で冒険者組合は南東にある。
表通りを二度渡り南西地区に入り孤児院に向かうと地面にゴミが落ちていたりボロボロの家が目立つようになってきた。風が吹くと生ゴミの腐ったような悪臭が漂ってくる。
「以前貧民街があるって言っていたけれど、どこにあるの?」
「南の防護壁に沿って東と西の隅にあります。帝都は南に行くほど所得の低い人たちが集まっています。そして防護壁に近づくほど更に所得が低くなります。南側の地区で比較的裕福なのは表通りから見える範囲だけです。」
汚いものを隅に追いやっているみたい。
村で畑を持てない次男三男が出稼ぎに来て仕事に就くことができず家にも帰れないので、貧民街が出来上がるのかな?
「お金持ちは汚いものを見たくないという事だね。」
「その通りです。帝都なのに呆れてしまいます。それに奴隷は禁止されているのですが形だけなのです。暴力を生業としている組織が管理し奴隷売買が公然と行われています。賄賂が区長や警察に流れていますから無法地帯に近いのです。貧民街に近づく程それが顕著になります。孤児院はそこまで奥にはありませんので比較的安全です。見えてきましたね。あの教会のような白い建物がそうです。」
木造の建物で全面が白く塗ってある。屋根の上にあるのは鐘かな。外壁は色が剥げていたり穴が空いている所が見える。全体的にボロボロで手入れがされていない。お金がなくて手入れできないのかもしれない。
フローラがドアをノックした。
「こんにちは、フローラと申します。話をしに来ました。ここの代表はいらっしゃいますか?」
孤児院の中からドタドタと走ってくる足音が聞こえる。金色の十字架が付いたネックレスを首から下げている修道服を着た女性がドアを開けた。
「お待たせしました。ここの代表をしておりますアルマです。どのようなご用件でしょうか?」
「新しい冒険者組合ができるのはご存知ですか?一緒に孤児院も運営したいと考えております。貧民街にいる孤児たちも集めた孤児院にするつもりです。場所は北東区です。そこで孤児院に必要なものを一緒に考えませんか?孤児院には子供の人数に合わせて補助金を出します。そしてあなた達をあらゆる暴力から守ることをお約束します。どうでしょうか?」
「孤児院には子供が5人いますが大人は私1人です。ちなみに現状ですとどれくらい補助金が出ますか?」
「補助金がいくら必要か教えてください。今もらっている補助金も教えてください。」
アルマさんが言いたくなさそうな表情をしているように見える。どちらを言いたくないのだろう?今もらっている補助金を教えると今後もらえる補助金が減らされるかもしれないと考えているのかな?
私も会話に参加してみよう。
「今もらっている補助金を知りたいのは区が孤児院をどのように考えているのか知りたいからです。移住してからは貧民街の孤児を集めるのも目的ではありますが、教育も行えるようにしたいと考えています。衣食住は満足してもらえるようにします。例えばですがアルマさんには月20万リン、子供1人1万リンだと苦しいですか?子供たちにはお腹いっぱい食べて欲しいのですが贅沢は避けたいのです。独り立ちした後に苦労するかもしれませんから。」
アルマさんの表情が和らいだように見える。私の提示した額は悪くないみたい。
「区からもらっている補助金は月に3万5000リンです。贅沢を覚えると独り立ちした後に大変だという思いは分かります。普通の生活ができるのであれば移住を希望します。」
「アルマさんが信用できる大人はいますか?大人1人で子供5人の世話ができると考えると大人が必要になります。一緒に生活しても苦にならない人がいいのですが。」
私たちが雇った人がアルマさんと気が合うとは限らない。今のアルマさんには自由な時間がないと思うから持てるようにしてあげたい。
「私は神に仕える者ですので教会から出ることはなく結婚することもありません。帝都での生活が余りに厳しくて村の教会に帰ったシスターならいます。手紙を出せば来てくれるかもしれません。3人しか大人の知り合いがいませんのでみんな来てくれても4人になります。」
「分かりました。では手紙を出していただいて揃ってから人を雇うか決めましょう。それでどうでしょう?」
フローラが焦っているのかな?子供が増えたときのことを考えるよりもまずは現在の生活状況を知る方が大切だと思う。
帝都には上水道と下水道があるけれど、貧民街に住む人たちは使用料を払えない気がする。孤児院はどちらだろう?
「飲み水はどうしていますか?トイレを下水道と繋いでも問題ありませんか?」
「人を雇うことについてはそれで構いません。トイレを下水道に繋いでいただけると助かります。以前は上水道も使っていたみたいですが毎月の使用料が払えないので止められてしまいました。今は井戸水を汲んで使用しています。」
【クロア、下水道に繋いでも大丈夫なトイレか確認しないと。話を聞いてたらクロアもフローラも考えが足りない。アルマさんは助けてもらえると思ってるから希望を言ってるだけ。建物の中も見てないのに何ができるの?建物を移動させたら中を確認して。】
(その通りだね。ありがとう、助かったよ。)
「子供たちを全員外に呼んでください。建物を移動させます。」
「理解できないかもしれませんが、それが可能な人なのです。」
私も以前はできなかったから理解できなくても仕方ない。
「分かりました。すぐに呼んできます。」
アルマさんは急いで孤児院の中に走っていった。
「フローラ、貧民街には何人くらの孤児がいるのか分かる?」
「捕まって奴隷として売られるので逃げ残っている子は余りいないと思います。奴隷の子を救うとなると20人から30人はいるはずです。」
「奴隷も助けるのでしょ?世話する人を雇って教師も雇ってとしている間に売られてしまう気がするけれど、大丈夫かな?」
「奴隷を買うのは高級住宅街に住む貴族たちで売れ残りは組織の下っ端になります。全員を救うのは無理かもしれませんがほとんどの子を救えるはずです。」
高級住宅街にいる奴隷の子は感情だけで分かるかな…。組織の下っ端は潜入するしかない。組織に染まっていたら子供でも救うのは無理な気がする。
「お待たせしました。子供たち全員です。」
子供が5人。20人増えると考えてあらかじめ広くしておこう。
≪加護:孤児院を家の東側の空き地に移動させて。この建物を5倍の広さにすることを想定して。お願い≫
<お任せください>
建物が一瞬で消えて皆が唖然としている。フローラも唖然としている。何でかな?
≪加護:ここにいる8人を孤児院の前に移動させて≫
<お任せください>
フローラが何で知らない場所に来たみたいな表情をしているのかな?
「フローラは子供たちを見てて。アルマさん、中を案内してください。」
「は、はい、どうぞ入ってください。」
緊張している。やはり未知の力は怖いのかな?
「アルマさん、この建物は平屋かな?」
「はい、そうです。」
「大人が増えることを考えた場合、部屋数は今のままで大丈夫?」
「はい、もともと住んでいた部屋を使うので大丈夫です。」
「全ての部屋の広さを5倍にするつもりだけれど、広い部屋でいい?」
「5倍!今の広さで十分ですので5人分に分けてください。」
要望が出た。加護に任せるには内容を知らなければ無理だね。
「こちらが浴室です。以前は浴槽に上水道の水を溜めていました。」
「子供が20人だった場合、浴槽を深さそのままで5倍の広さにするのか、2つに分けるのかどちらがいいですか?」
「5倍の広さにしてください。子供が大人数で入れると助かりますから。」
「分かりました。5倍の広さにします。」
「こちらがトイレになります。」
「このトイレは汲み取り式ですね。上水道と組み合わせた便座のあるトイレを使ったことがありますか?」
「あります!あれは楽でいいですよね。このトイレを下水道に繋ぐのは無理がありましたか…。」
「使ったことがあるのなら大丈夫です。便座の背についている貯水タンクに手動で水を溜めなければいけません。そちらのトイレに替えますので何室必要ですか?」
「トイレまで替えていただけるのですか!水の使いすぎに気をつけます。それでは5室お願いします。子供たちが増えるとトイレで並ぶ姿が目に浮かびますから。」
「分かりました。トイレは5室ですね。」
「こちらが台所です。コンロを2台にしていただけますか?それと蛇口も2本にしていただけると助かります。」
「分かりました。そのようにします。」
「こちらが私の部屋になります。隣に同じ大きさの部屋を4部屋お願いします。」
「分かりました。建物の補修と補強も同時に行いますが他に要望はありますか?」
「すみません。あとは子供が増えてからでないと想像できません。」
「気にしないでください。それでは魔法を使いますから外に出ましょう。」
アルマさんと一緒に早歩きで外に出た。
「今から魔法を使うから孤児院から離れて。左に見える家の前に集まるのが安全かな。」
子供たちは魔法に興味津々のようだ。ワクワクしているのが伝わってくる。
≪加護:孤児院を補修、補強、浄化して5倍の広さに。高さはそのままで会話の通りにお願い。できそうかな?≫
<何も問題ありません。お任せください!>
≪加護:ありがとう。素晴らしいね!≫
<検証の一環ですのでお気になさらず>
「アルマさん、会話した通りになっているか確認をお願いします。」
「わ、わ、分かりました…。」
少し待つとアルマさんが笑顔で外に出てきたから大丈夫みたい。
「何も問題はありませんが凄く綺麗になっていました。まるで新築のようです。」
「一緒に綺麗にする魔法を使いましたから。問題がなくてよかったです。」
「ここは子供たちが外で遊んでも大丈夫でしょうか?」
≪念話≫
「お母さん、孤児院の子供たちが外で遊べるように家の敷地全体を結界に入れれる?」
「殺意や敵意を持っている人を入れないようにすればいいのね。簡単よ。」
≪念話終了≫
「芝生のある範囲なら大丈夫です。それと買い物はアルマさんにお願いしたいのですが子供たちは大丈夫ですか?」
「はい、この子たちは私が買い物に行くのに慣れているので大丈夫です。子供たちも陽の下で遊べるようになってよかったです。」
外で遊ぶと誘拐され奴隷として売られるかもしれない。帝都だと思えない。
「アルマさんが外出中に突然眠った人は殺意を向けてきた人です。気をつけて下さい。」
「分かりました。気をつけます。」
≪加護:アルマさんを保護対象に追加して≫
<かしこまりました>
「フローラ、私のできることはもうないから家に戻るよ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
「それでは私は失礼します。またねー。」
「またねー。お姉ちゃん!」
「ありがとう。お姉ちゃん!」
元気な子たちが声をかけてくれたので私は家の中に入った。
この子たちの笑顔が見れただけで満足かな…。
階段を上り自室のベッドに寝転がる。
【何を不貞腐れてるの?クロアが見たかったフローラの計画だよ。】
(分かってて言わないで。)
【お母さんはクロアのためにフローラを融通してるんだよ。組合本部の従業員に一度生き残る機会を与えるだけでいいなら本部長を殺してから警告するだけでよかった。今なら間に合うよ?みんな一晩しか経ってないのに焦りすぎ。】
(私はフローラに利用されたの?)
【それは違う。クロアが手伝ったからあのような形になった。それでクロアが気づいただけだよ。】
(フローラの計画の何を見たかったのか分からない。何に憧れていたのかな?)
【クロアが期待しすぎてるだけ。アルマさんと話してても感じたでしょ?こっちから助けたいと言ったから仕方ないけどね。言えば叶えてくれるなら要望は増えるよ。最初に出会ったブレンダさんが違っただけ。あの人を基準にしたら駄目だよ。私たちにとって特別だからまた会って話したいんじゃないの?】
(その通りだね。期待しすぎていたんだね。私も何か考えるよ。ディア、交代して。組合も好きにしていいよ。)
ディアには全てを覆す力があります。




