第129話 自己分析
お祖母ちゃんの力を漠然と知っているだけでは敵の攻撃を防げない。
抜け道を見落として殺されるような終わり方はしたくない。
「お祖母ちゃんと同じ力で敵が資料館を壊そうとしたときに、敷地に使える魔力がなくても力が届いていれば壊せるの?それとも資料館を壊せる魔力と力が一緒に届いてなければ壊せないの?」
お祖母ちゃんは私に伝わるように意思を込めて頭をポンポンと叩いているのかな。
焦っているつもりはないのに落ち着きなさいと言われた気がした……。
「今の質問だと重要な部分が抜けているよ。」
「お母さんの力を使うには魔力が必要で、目的を実現するまで魔力を消費し続ける。実現不可能な目的のときは魔力の消費がとまる。だから敵は敷地に資料館があるか調べる。次に資料館を壊すために必要な魔力量を調べる。そして壊せると判断したら実行する。違ったかな?」
アンジェ叔母さんの声が幼くて面白い。
お祖母ちゃんに頭を撫でられてとても嬉しそうにしている。
アンジェ叔母さんが寂しそうだから勢いで言ってみたけれど、本心では甘えられる環境を求めていたとしか思えない。
愛情に飢えていたのかな……。
アンジェのお母さんでは駄目だったの?
頭をポンと叩かれて、小声で「集中しなさい」と言われた。
今考えることではないけれど、お祖母ちゃんは何かに気づいているね。
「お祖母ちゃんは敵も同じ力が使えると思う?それと私の力も自我が芽生えるの?」
「推測だけれど、敵がリアと同じように力を使いこなせるなら実験をしていないと思う。それとジェニーの力は自我が芽生えないようにしたよ。力が敵対したら大変でしょ。それに力を制御できていないジェニーには従わないかもしれないからね。」
信頼関係がなければ自分より弱い人の指示に従うのは癪だと私でも思う。
力に力を制御してもらえれば楽になると、甘えたことを考えているようでは駄目だね。
さて、切り替えよう。
敵がお祖母ちゃんの力を十全に使いたい可能性は高い。
そのくらいお祖母ちゃんの力は規格外だから。
「ねぇ、世界の核はお母さんの力じゃないの?誰が指示を出したか分からないように、魔法式を核に送り込んでいない?」
アンジェ叔母さんの言葉で最悪の推測が脳裏に浮かんだ。
その推測を否定できる根拠を見つける必要がある……。
何故か分からない……。
自然と殺意が湧いてくる。
推測が間違っていないと確信しているの?
「――世界の核に指示する方法は当たっているよ。何か繋がりはあると思っていたけれど……。お母さんは検証済みなの?」
「リアの検証では魔力が使われたよ。人体実験が嫌いだから推測で充分みたい。」
「私が検証するよ。生命力が削られても回復できるし、これは確かめておいた方がいいと思うから。」
お祖母ちゃんが机の中心に核を作った。
駄目だ……。
外れている気がしない。
どんどん殺意が湧いてくる。
お祖母ちゃんが私の頭を撫でながら「落ち着いて。リアは大丈夫よ」と小声で言った。
落ち着けないよ!
推測が当たっているという事でしょ!
「お祖母ちゃんの記憶領域はどこなの?お母さんはお祖母ちゃんに力の使用を隠せるの?」
「私の記憶領域は脳だよ。リアと別れているけれどね。それと隠せないよ。」
力が最初からお母さんのものなら当然だよ。
もう確定でしょ……。
「アンジェ叔母さん、確認しなくていいよ。核は言葉を理解できないし魔力で人を判別できないから。それにお祖母ちゃんの力を削れば世界の核だよ!それで切り離しているの!?封印しているの!?」
「ジェニーが激怒している理由が分かったよ。重なっているからね。」
どちらを選ぼうと重なっている部分は使えない。
だけど安定させるために封印しているはず……。
世界の核に記憶領域を与えていないのは、自我が芽生えた力が何をするか分からないから。
だけど主人格がいて力が自我に芽生えている状態なら利用しやすいように調整できる……。
ふざけるな!
「敵は封印しているよ。謎は残るけれどね。」
お母さんに力があるのは謎だけれど、考えても分からない。
お祖母ちゃんが背中をトントンと叩いてくる。
冷静になれかな?
とても冷静だよ!
敵の目的が違っていても関係ない!
現時点でお母さんを人柱にしているのだから殺す!
違う、殺すなんて優しすぎるね。
拷問して殺して生み出して拷問する仕組みを作って永遠に繰り返す。
お祖母ちゃんが私のおでこに手を置いた。
ひんやりとしていて熱が下がっていく気がする。
「殺意に染まったら思考が鈍るよ。それに敵の処理方法を決めるのはリアでしょ。あなたが無謀な行動をしたらリアが死ぬことを理解しなさい。」
それだけは許せない!
私の行動でお母さんが人柱になるのは絶対に許せない!
「私は冷静だよ。力に自我が芽生える前後の記録で精神に違いはあるの?」
「勿論あるけれど、精神は随時変わっていくので、私の自我にあたる記述を見つけることはできないよ。そもそもリアの精神は解読できないからね。」
意味も規則性もない文字列を解読することはできないからね。
それにお母さんなら記録されることも想定しているはず。
対策を知りたくない……。
想像するだけで殺意が湧いてくる。
「お母さん、世界の核の力なら私に付与することができるでしょ。このままだと戦えないよ。」
「世界の核からお母さんをけっ――。」
唇を噛んで無理やり発言をとめた。
血の味がするけれど、それはどうでもいい。
殺意に染まろうと絶対に言わない。
それにしても視界に影響が出ているの?
羽虫が飛んでいる……。
「ジェニー、なんで発言をとめたの?」
「視界に羽虫かちらついてイライラするからだよ。お祖母ちゃん、魔力不足で敷地を管理できていないの?」
自分のこめかみをグリグリしながらお祖母ちゃんの目を見た。
「まぁ、敷地は足手纏いになっているからね。」
アンジェ叔母さんが厳しいことを言っているよ。
「魔力は足りているから自動化を確認してみるよ。」
「終わったら教えてね……。」
未だに怒りが湧き続けるし目がチカチカしてきた。
「アンジェ叔母さん、力を付与すると戻せないよ?戦いが終わった後に戻すと消せない違和感が残り続けるからね。」
「この戦いは力が必須でしょ。勝たないと終わりだからね。」
敵を殲滅しなければならない。
どれだけの保険があるか分からないのが本当に厄介だね。
「今すぐ敵を殺したくて仕方ないけれど、アンジェ叔母さんもそうなの?」
「敵を見つけてからだよ。攻めてくる敵に対処しながら拠点を見つけないとね。ところでジェニーの殺意が強すぎて妖精種は耐えられないでしょ。お母さんが結界を張っているの?」
最悪だよ……。
完全に忘れていた。
「赤ちゃんが泣き喚いても眠れるように結界を張ってあるよ。」
「流石お祖母ちゃんだね。アンジェ叔母さんは敵に攻めさせて拠点を見つける方針なの?」
「魔力を使った場所を索敵で見つけるしかないからね。」
お祖母ちゃんが私の頭を撫でている。
私の怒りを抑えるためかな?
「お祖母ちゃん、遅いよ。手伝った方がいいの?」
「敷地は広いでしょ。妖精種の子に見つからないように一瞬で消滅させる必要があるでしょ。魔法式を構築するのが難しいの。」
「妖精種が子を増やすのを禁止にすれば簡単にできそうじゃない?」
はぁ、すごい疲労を感じる……。
そういえば血の味がしない。
お祖母ちゃんが治してくれたのだと思う。
回復魔法の発動にも気づけない……。
怒りで殺されることを自覚したのに抑えられない。
一度でも激怒したら終わりなの……?
「終わったよ。リアは大丈夫。結界内に異常なし。言いたいことがあるよね?」
「ここは太陽でしょ?何で無計画に突っ込んだの?それに私が思考誘導されていたことに気づくのが遅いよ。」
思考誘導された私が悪いに決まっている……。
お祖母ちゃんに八つ当たりまでして情けない。
「私も思考誘導されていたよね?最悪だよ……。全然気づかなかった……。」
先程までが嘘のように落ち着いている。
発言はとめることができても感情は操られていた。
これが敵の攻撃だったら……。
「2人にはリアに頼りすぎていることを自覚してもらう必要があった。それと思考誘導していたのは私だから気づくのが遅いのは2人だよ。アンジェが力の付与を望み、ジェニーが『リアを消す』と言えば2人とも気づくと思ったけれど、アンジェは気づけなかったね。恐らく思考誘導されたときの悔しさが足りない。ジェニーは思考誘導されている状態を維持するだけでなく、相手を探すべきだよ。まだ言いたいことがあるかな?」
実際はお母さんに依存しているよ……。
何も確認せずに呑気に話し合いができるのだから。
お祖母ちゃんはお母さんを最優先に守る。
そのために私たちを確認するのは当然だと思う。
感情を抑えることができなかった。
簡単に矛先を代えられて味方を攻撃する危険な存在。
それが今の私だね……。
「精神の中で仮想体に感情制御の訓練してよ。」
「私も力は求めない。敵に利用されたくないから感情制御の訓練して。」
「力が使える敵との戦いに間に合わなかったときは?」
当然聞かれると思っていたよ。
「お母さんの精神の中で眠らせるか封印して。」
「私も同じでいいよ。」
「1人だけ生き残るのは嫌だという事だね。早速訓練を始めて敵について考えよう。」
絶対に間に合わせる。
絶対にお母さんを勝利させる。
お祖母ちゃんは嘘を吐いたと言っていないのだから。




