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世界は子を愛す  作者: 大介
第3章 実験の結末

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第128話 兆し

 突然イリアの雰囲気が鋭くなった……。

 圧し潰されそうに感じる程の強い威圧も出している。


 目的があるのかな?


「2人に足りないのは情報の更新。リアの予想と推測が変わるのは新たな情報を得たときに更新しているからだよ。2人は考えていないことがよく分かるでしょ。敵の目的がいくつあるか分からないけれど、リアは一つ見つけたよ。当然教えないけれどね!」


 お母さんが考え続けていることは知っているよ。

 だけど敵の目的を見つけていたことは知らない。


 足りない情報はない――。


「そこまで!思考誘導しなくても2人の思考を操るのは簡単だね。餌に気づいたら何も考えずに喰いつく魔獣と同じだよ。これが罠なら視野を狭めた直後に殺される。本気でリアの作戦を補強する気があるの?アンジェ、今考えるべきことは何か答えなさい。」


 お祖母ちゃんの声で思考を中断した……。

 お母さんが目的を見つけたと聞いただけなのに、私も目的を見つけようとした。


 これが敵の言葉だとしたら……。

 隙だらけで戦いに集中できていない。


 お祖母ちゃんが威圧を出しているのは緊張感を持たせるためだね。


 お祖母ちゃんの予定通りだと思う。

 私が役立たずだと自覚するには充分だったから。


「敵から身を守る方法と敵を見つける方法だよ。」

「その通りだよ。まずは調べることから始める。結界の構成と今の場所だね。敵に攻撃する方法は攻めてきた敵を調べて即時に対処するしかない。――私の授業はここまでかな。2人で協力して始めなさい。質問がなければアンジェとアンジェのお母さんをどうするか決めよう。」


 お祖母ちゃんの雰囲気が和らいで威圧も霧散した。

 背中の冷や汗がお祖母ちゃんの言葉を忘れるなと伝えてくれている。


「今の場所が上空を見て分からなければ結界の外に出るしかないよ。この結界はお母さんしか出られないでしょ。お母さんの仮想体が協力してくれるの?」

「ジェニー、何もしていないのに想像で決めつけるのはやめなさい。調べても分からなければ私に相談しなさい。他に質問がなければ始めるよ。」


 確かに事実を知ることができるのに想像で決めつけるのは駄目だね。

 間違いなく今の私は焦っている……。


 絶対にこれは治すべき欠点だよ。


「リアを裏切ったアンジェが何を言ったのか教えて。それを聞くだけで充分でしょ。」

「それもそうだね。『リアは殺す以外の解決方法を考えない。命を救う方法も考えない。それに私の言葉に関係なく殺す。だから私が新たな手段を見つけても無意味でしょ』と言ったよ。これはリアがアンジェに一緒に戦えるか聞いたときの返答。戦いたくないとは言いたくなくてリアの責任にした。」


 本当に腹立たしい!

 お母さんと一緒に生き延びてきた記憶があるとは思えない発言だよ!


 お祖母ちゃんに頭をポンポンと叩かれた。

 はぁ、感情制御ができていないね……。


「話す価値はないよ……。私の手で殺すべきなら2人を呼び出して。」


 パチンとお祖母ちゃんが手を叩く音が聞こえた。


「終わったよ。さて、2人で相談しながら情報を集めて何が起きても慌てないように備えなさい。私は保護者としてついていくから安心してね。ジェニー、楽をするために力を使ったら駄目だよ。例えば靴を履いて外に出るためとかね。」


 この感じはお母さんと一緒だね。

 私のすることはお見通しみたい。


「ねぇ、お祖母ちゃんは髪色か年齢を変えてよ。」

「これでどうかな?」

「どこがお祖母ちゃんなの!?色気がありすぎでしょ!リアより男性を虜にするよ!」


 柔らかくて温かくてとても落ち着く。

 声は少しだけ低くなったね。


 男性を虜にするとかはどうでもいいよ。

 それよりアンジェ叔母さんの顔が赤くなっているのは何故かな?


「アンジェを抱きしめて寝てあげるから落ち着きなさい。」

「アンジェ叔母さん、良かったね。外に出る前に結界の構成を調べるよ。」

「もぅいいょ……。好きにして……。」


 アンジェ叔母さんが虜になっているようにしか見えない。

 顔が真っ赤っ赤でそのうち湯気が出そうだよ。


 集中しないとね!

 気持ちを切り替えて結界の構成を調べよう。


 力が発動しないように意識することをやめた。

 敷地を包んでいる結界を解析して。


 頭に魔法式が流れ込む。

 自分の記憶を見ながら魔法式を解読していく。


 光と熱と魔力を吸収して精神は消滅させ魔法式は消去する。

 吸収した魔力は結界の維持に使い、余った魔力は敷地に放出する。


 魔力を魔力器に溜めているのは結界内の魔法だったんだ。


 気になるのは魔法式に時間を入れることはできないはず……。

 落書きとしか思えない魔法式を消去していることに何か意味があるのかな。


 事実を伝えてアンジェ叔母さんと一緒に考えればいいのにお母さんを意識してしまう。

 怒られたばかりなのに、なんで私は成長していないの……。


 お祖母ちゃんに頭をポンポンと叩かれたら少し冷静になれた。


 それ以外は全て弾いている。

 結界内は魔法で全て整えているという事だね。


 結界を出入りできるのはお母さんとお母さんの魔法のみ。

 私が出入りできたのはお母さんの魔法の一部になっていたからだと思う。


 敵は結界の構成を知らないのかな?

 お母さんを生み出せば攻め放題だよ。


 とにかく全てを伝えた。


「敵の侵入前と後で結界の構成を変えているの?」

「結界の構成は変えていないよ。結界内で発動している魔法は変えたけれどね。1人だけ生み出せる通常魔力を空中に集めておいた。今はやめたけれどね。」

「お母さんは空中にある魔力に魔法式を書き込めるの?」


 アンジェ叔母さんの質問で気づけた……。


 結界が吸収した魔力に書き込まれている魔法式を消去する瞬間に力を使って追記できるとしたら、結界を破壊できる可能性が高い。

 お母さんは力を使って一瞬で書き込まれる魔法式を警戒して消去することにした。

 力と力のぶつかり合いだから書き込める魔法式の文字数を想定できる。


 本当にお母さんは凄いよ……。

 お祖母ちゃんは何回頭をポンポンと叩くのかな?


「勿論できるよ。敵は大量の魔力で結界内を満たして、力で結界内の魔力に魔法式を書き込み、大量の魔力を使った強い侵入者を生み出したつもりでいるけれど、弱くなるように結界内の魔力を調整していたよ。」

「敵の侵入する方法に気づいて対策しつつ侵入させるなんて普通はできないよ。お母さんはなんで自分を出入り自由にしたの?敵が生み出さないことを確信していなければできないよ。」


 敵は侵入が成功したと思っているので更に大量の魔力を結界に吸収させた。

 結界の構成が変わらないので侵入方法に気づいていないと思えるから。


 完全にお母さんの計画通りだよ。


 結界の構成を調べただけなのに私の未熟さを痛感する……。

 お母さんの邪魔にならないように何もしなかった私は本当に馬鹿だよ。


 お祖母ちゃんに少し強く抱きしめられた。

 とても温かくて眠たくなる。


 私を落ち着かせてくれていることが分かる。

 ついでに私が役立たずな理由を教えてほしい。


「敵はリアを操れないので生み出さないよ。全く、すぐにリアと比較して意気消沈する。2人は自分の選択で大切な人の生死が決まる極限の状態を経験していない。敵は格上で何が切っ掛けで殺されるか分からなくても、生き延びることができるかもしれない決断をする。2人がリアになる必要はないよ。リアが増えても作戦の補強はできないでしょ。リアと比較するくらいなら自分らしさを追求しなさい。それと自分らしさが何か考えたら駄目だよ。2人は自分らしさを既に持っていて、今から成長させていくの。成長すれば自然と自分らしさが見えてくる。赤ちゃんには難しかったかな?」


 馬鹿すぎて嫌になるよ……。

 お母さんと同じ記憶があってもお母さんの気持ちは分からない。

 それに命懸けで決断して生き延びてきた経験が軽いはずがない。


 お母さんに追いつくために同じ経験はしたくない。

 普通に生きることを望んでいるお母さんに敵が無理やり選択を押し付けた。


 絶対に許せない!

 お母さんが繋いでくれた命を途絶えさせない!


「お母さんが思考誘導されないと思い込ませるための罠かもしれないよ。根拠はあるの?」


 頭をポンポンと叩かれた。

 よくできましたという事かな?


「今のリアを本気で思考誘導しようとしたけれど、できなかったよ。ところでアンジェも抱っこされたいの?」

「アンジェ叔母さんも3歳になればいいよ。お祖母ちゃんに抱っこしてもらって一緒に考えよう。その方が落ち着いて思考できるよ!」

「それならお願いしようかな……。」


 アンジェ叔母さんを3歳にしてお祖母ちゃんが抱っこした。

 照れているけれど、とても嬉しそう。


 実体で抱っこするとは思わなかったけれど、体温は大切だからね!


 恐らくお母さんは普段の状態でも検証していて、敵が心を壊そうとしてきたので限界に近い状態で思考誘導されないか検証した。

 お母さんが生き延びるために辛い決断をしてきたからだね……。

 今までならお母さんは凄すぎると思うはずなのに、とても悲しいよ。

イリアの授業が続いています。

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