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世界は子を愛す  作者: 大介
第3章 実験の結末

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第125話 葛藤

 敵の攻撃が終わったので玄関に転移して靴を脱ぎリビングの椅子に座った。

 いつもと違いジェニーの温もりがないので寂しい……。


 ――精神に隠蔽している仮想体を作った。


≪ジェニー、世界の力は危険だという事を忘れたら駄目だよ≫

<危険な力だと思っているけれど、お母さんは何を気にしているの?>


 いつもと同じように聞かれただけなのに思考を放棄しているように感じる。

 私の勘違いならいいのだけれど……。


≪魔法を使うときは世界の核か自分自身を座標の中心にする。だけど今は世界の核がない。それでも世界の力で自分自身以外を座標の中心にすることができると思う?頭の片隅に置いておけばいいからね≫

<お母さんは最悪の状況でも関係なく先のことを考えているんだね。解決できる自信があるから?>


 思考放棄だけではなく現実を見ていない……。

 敵に初めて狙われたことが原因なのだろうか?


≪何を言っているの?本気で一緒に戦うつもりがあるの?≫

<当然だよ!お母さんに相談しながら力を使うことになると思うけれど>


 このままでは敵と戦えない。

 まずは縋れるものがない状態にしよう。


≪力が使えない、暴走する、操られる。実戦では何が起きるか分からないのに、ジェニーは世界の力がなければ勝てないと思っているの?≫

<絶対に勝てないよ!お母さんが考えているのは絶望的な状況だよ!>


 だけど私が戦うから絶望的な状況だとは思っていない。

 本来ならゆっくりと向き合うべきなのに……。


≪絶望が戦わない理由になるの?敵に操られている方がよかったの?敵が目的を達成するか飽きるまで絶望は終わらないからね。私には戦う理由がなくなったので皆と話したら寝るよ≫

<何を言っているの!?絶望を前提にして戦わないのはあり得ないでしょ!>


 ジェニーが敵に利用されて何をしたのか教えるしかない。

 愛娘の精神を追い詰める日が来るとは思わなかった……。


≪私が敵対した理由と何をしたのか記憶を見なさい。それで私の言っていることが分かるよ≫

<お母さんがそこまで言うのなら確認するよ!>


 ――実体になり私の胸に抱きついてきたジェニーを抱っこして結界で包んだ。

 私の服を強く握りしめているので背中をトントンと叩く。


 感情が乱れていて言葉にならないみたいだね……。


「私が戦わない理由は分かった?」


 気持ちが整理できるまで待ってあげたいけれど、敵は待ってくれない。

 急いでジェニーが敵に利用されないようにする必要がある。

 私はジェニーを殺してまで戦うつもりはない……。


 現実を受け入れて敵と立ち向かえる状態になれば利用されることはないと思う。


「――私を守るために敵対したんだね……。それに敵は私を狙ってくる……。」

「そうだね……。ジェニーが狙われる。洗脳して同士討ちをさせるかもしれない。ジェニーを生み出して私と戦わせるかもしれない。敵と戦えばジェニーを何人も殺す可能性が高く、私の娘がその中にいない前提がなければ戦えない。そうでしょ?」


 戦うのであれば最悪を想定しておかなければならない。

 私はいつまで冷静でいられるだろう……。


「敵に勝てば私を蘇らせることができるかもしれないでしょ。それは駄目なの?」

「私に子殺しを望むんだね……。蘇らせることができたら母親失格の私は消えるよ。」


 ジェニーなら提案してくるかもしれないと思っていたけれど、実際に言われると頭がおかしくなりそうだよ……。


「何でそんなことを言うの!?私もお母さんを殺して蘇らせたでしょ!」

「その通りだね……。今から私を殺して蘇らせることができる?あと5分で12時だから早く殺してね。蘇った私は敵を殺すことを最優先にするよ。」


 娘だと気づいていたら頼まなかったとは言えない。

 私の落ち度でしかないから……。


 思考誘導されていなくてもジェニーは私を殺せるの? 


 子殺しと親殺しは同じだよ……。

 自分の意思で殺してしまったら親子には戻れない。


 ジェニーがハッとした表情を見せたので気づいたね。

 それでも私を殺せる?


「お母さん、なんで何も言わないの!?」

「何を言えばいいの?」


 ジェニーは優しいので私を殺せないよね……。


「お母さんは全て気づいているでしょ!はっきり言ってよ!」

「現実を受け入れなさい。そして前を向きなさい。」


 私の服を強く握りしめながら震えている。

 悔しいよね……。


「おかしいよ……。お母さんの記憶があって、同じ精神なのに、簡単に利用されて、最低なことをしているのに気づけなかった……。抗えると思えないんだよ……。お母さんの精神にいたら敵は私を利用してお母さんに攻撃すると思う。だけど離れたくない。一緒にいたいよ……。」


 静かに暮らしたいだけなのに敵の目的も分からず命を狙われ続ける。

 ジェニーが恐れる必要も悲しむ必要も苦しむ必要もない……。


「私からジェニーと離れることはないよ。ジェニーは今の自分を知ることができた。凄い成長しているよ。ジェニーが敵に利用されて私を攻撃したら一緒に死のう。ジェニーを孤独にはしないから。」

「絶対に孤独にしないでよ……。」


 勝利を約束できなくてごめんね……。

 ジェニーの頭をポンポンと叩くと私の胸に顔をうずめた。


 12時を少し過ぎたとき玄関のドアが開いてリオリナが帰ってきた。


「リア様、ただいま帰りました。」

「おかえり。今から話し合いをするので自分の席に座ってね。」


 リオリナは寂しそうに「分かりました」と言って席に座った。


 ――少し待つとアンジェとお母さんがリビングに転移してきて自分の席に座った。

 アンジェが無言で席に座るのは珍しい。

 いつも通りの表情に見えるけれど、緊張が伝わってくる。


「早速始めるよ。30分前に敵の攻撃で世界は崩壊した。結界の外は宇宙だけれど、幻影で隠しているよ。これまで使ってきた世界をつくる能力と生命を生み出す能力は敵が用意したものだと分かった。敵の強さはジェニー以上でそれ以外は不明。何もなければ結界内の環境は維持できるよ。理想は太陽の魔力を自由に使いたいけれど、敵に占拠されている。今後について皆の意見を聞かせて。」


 私と同じ服を着た私と同じ顔の敵が南側の壁に背を預けている。


<来た>

≪見れば分かる≫


「話し合いをすると聞いたので来ましたが、私の席は用意してありませんね。」


 背後から声が聞こえたアンジェとお母さんは慌てて振り返った。

 ジェニーは心配そうに私の顔を見ている。


 私はジェニーの背中を撫でながら優しく微笑んだ。

何故か結界内に敵がいました。

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