第121話 後始末 前編
昨日、リオリナに乗って飛行しているときに夕日が沈み世界が闇に染まるのを見て月が必要だと感じたから、ジェニーに「なるべく早く月をつくってほしい」と頼んだ。
自宅に帰ってから少し話してアンジェは学校に戻った。お母さんと一緒に眠りたいのと学校で暮らしている子が心配みたい。
アンジェは普通の人間として幸せに暮らしてほしいと思っていたけれど、アンジェの想いを無下にすることはできない…。
本当に頑固な姉だよ…。
妹の想いに気づいているのに譲ってくれないのだから。
目を閉じて考えていたら8時のベルが鳴った。
椅子に座り私を抱きしめているリオリナに声を掛ける。
「リオリナ、資料館に行くよ。」
「はい。リア様。」
リオリナの膝から下りて玄関で靴を履きドアを開けた。
妖精種の子が周りに集まってくるのはいつも通りだけれど、少し距離が遠い。怖がっているわけではなく適切な距離が分からなくて困惑しているし緊張もしている。
「姿が変わった理由は資料館で説明するけれど、今まで通りでいいよ。」
皆に聞こえるように声を出したけれど、近づくのを躊躇っているので慣れてくれるのを待つことにした。今の私が何度も声を出すと命令だと思われる可能性が高いから。
資料館に入ると中にいた子たちが呆然と私たちを見ている。
視線を感じながらいつもの椅子に座り皆が座るのを待つ。
「ジェニー、私を観察していなさい。」
「勉強が始まるんだね…。」
皆が椅子に座って私を見ている。
大丈夫そうだね。
「それでは説明を始めるよ。世界が私とジェニーの姿を変えたの。昨日までは双子の姉の姿を借りていたんだよ。だけど姉が本来の姿に戻ることになったので私が世界に頼んだ。『私と娘を世界が望む姿に変えて』とね。世界は生きていて私の声は世界に届く。難しく考えずに私はそういう存在だと思えばいいよ。質問があれば手を挙げてね。」
この状況で手を挙げられるのは木妖精だと思っていたよ。
「クラーラ、どうぞ。」
クラーラは「はい!」と元気よく返事をして椅子から立ち上がった。
「リア様は世界の支配者ですが今のお姿の方が畏敬を感じます。これまでと何が大きく変わったのでしょうか?」
普通の会話で世界の支配者だと言われると少しこそばゆい…。
力を試すまでもなく太陽の能力で作った体よりも今の体の方が強い。自然界で暮らす木妖精が畏敬を感じるのだから世界に近い存在になっているのだと思う。
「昨日までは太陽の能力で作った体。今は世界の能力で作った体。身近な存在だからこそ畏敬を感じているのだと思う。大きく変わったのは皆と私たちの距離だよ。」
「リア様が身近な存在になったからこそ凄さを感じることができるのですね。世界に声が届くと言われましたが話すこともできるのでしょうか?」
当然気になるよね。
会話できると思うけれど、確認してみよう。
「確認するから待っていてね。」
≪話せるでしょ?声を出したら駄目なの?≫
<今日まで話す機会がなかっただけです>
≪声を変えているの?私と同じ声だと思っていたよ≫
<生まれたときから同じ声です。声が違うのは年齢の差でしょう>
≪生まれたの?最初から世界の核に存在していたと思っていたよ≫
<私は生命の誕生が切っ掛けで生まれたと考えています。核にいる年数を考えれば最初からいたようなものです>
≪核の記録を覚えているの?それとも世界を見ていたの?≫
<両方です>
≪あなたは生命が滅びるのを防がないの?世界が滅びるのを防がないの?≫
<生命の意思を尊重します>
≪最初に世界を滅ぼした生命は核に詳しそうだね≫
<完全ではありませんが核を操作することができました>
≪それでもあなたを観測することはできなかった≫
<その通りです>
≪太陽の能力で本物の核は作れない≫
<その通りです>
≪私の体は核の力で作ったの?それともあなたの力で作ったの?≫
<核の力です>
≪私を生み出したのは疑似精神が関与して世界を滅ぼしたから?≫
<その通りです>
≪あなたの何を利用して私を生み出したの?≫
<精神を複製しました>
≪あなたの精神が分身に宿る仕掛けを作ったの?≫
<その通りです>
≪一人目にこの体とあなたの知識を与えていれば太陽の疑似精神は楽に消せたはず。何故それをしなかったの?≫
<失敗すれば核を調べるでしょう。それに核を消される可能性もあります。生命存続のために危険な賭けをすることはできません>
≪殺された子をどのように思っているの?≫
<元が分身の疑似生命です。役目を終えたら消えるのが道理でしょう>
≪私にも役目があるの?≫
<あなたはとても役立つので特別扱いしています。このまま生命のために活動するのであれば消すことはありません>
≪転送≫
世界の核に宿った存在を引き剥がす
≪結界≫
引き剥がした存在を星魔力の結界に閉じ込める
≪無属性魔法≫
結界に閉じ込めた存在を消滅させる
≪会話できる?≫
魔法が発動しないから消滅確定
≪結界解除≫
≪会話できる?≫
魔法が発動しないから世界の核に宿る存在はいない
これまでの準備が全て無駄になったけれど、仕方がない。
本物と同じ世界の核が作れないのだから他に方法がない。
≪私とジェニーを世界の核に記録≫
≪念話≫
「ジェニー、世界の核を見て私たちの体に問題がないか確認して。それと太陽の能力に問題がないかも確認して。」
「確認するよ…。私が分かるように説明してよね!」
ジェニーと同じ能力を持つ滅びた人種が保険を用意していなかったとは思えない。保険ごと滅びたのであればいいけれど、保険だけが残されている可能性がある。
太陽の疑似精神を消してから過去の後始末ばかりでうんざりだよ…。
≪念話終了≫
「お待たせ。世界に仕事を頼まれたので自宅に帰るよ。敷地の拡張とかは仕事が終わってからね。今日中に終わらせるから心配しないで勉強を続けて。リオリナ、勉強が終わってから帰ってきなさい。」
私たちが途中で帰宅したことは一度もないから不安を抱かせてしまった…。
自宅に帰るにはそれなりの理由がなければ説得力が足りないので仕方ないけれど。
「リア様がいなければ世界は簡単に壊れてしまう気がしました。お仕事頑張ってください。」
「分かりました。リア様。」
≪転移≫
皆に手を振ってから自宅の玄関に移動した
靴を脱ぎ説教部屋に入ってからジェニーを床に下ろした。
「体と能力に問題はなかったよ。自宅に帰る程の作業があるの?」
「調べてみないと分からないよ。ジェニーは星魔力を部屋に集めて。」
ジェニーは無言で頷いた。
説教部屋が星魔力の青白い光で輝いていく。
ジェニーの姿がぼやける程の星魔力が集まってきた。
≪今から世界を確認するから魔力器に星魔力を補充して≫
<任せて>
自分の魔力を使うから魔力切れにならないように仮想体に補充を頼んでおく。
≪隠蔽されているものの数を世界の核に記録≫
世界全体を調べる
魔法が終わっても説教部屋の星魔力は減ったように見えない。
本当に素晴らしい魔力だね。
「ジェニー、世界の核の記録を確認して。」
「お母さん、0だよ。」
何もせずに隠れている存在はいないようだね。
私が魔法を作ってジェニーに使ってもらえばよかったよ。
「ジェニー、部屋の星魔力を使って太陽に転移して。」
「お母さんは本当に無茶苦茶だよね…。」
太陽に来たのが久しぶりに感じる。
それよりも娘に呆れられたのが切ない。
【隠蔽されているものを転送で集める】魔法を作ってジェニーに付与した。
≪念話≫
「宇宙の管理者に説明は必要ないね。使い終わったら消しなさい。」
「お母さんと太陽に来たときのゴミ処理と同じように使えばいいのでしょ。本物の世界の核が作れないから転送する座標を指定して結界で包んで消滅させる。座標を指定することはできるけれど、それ以外の魔法式が理解できない。お母さんは絶対に特別な存在だよ!」
愛娘は純粋で可愛いね。
私を思考把握して得られた情報は無価値だと知っているでしょ。
ジェニーのお陰で気づけたとっておきの情報を教えてあげる。
世界は本当に生きているんだよ。
私は自分を指差して笑った。
≪念話終了≫
ジェニーが叫ぶ前に念話を切断した。
私の成長を感じるよ。
お母さんのバカー!と叫んでそうですね。




