第118話 過去と現在の繋がり ③
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念話中。
午前の勉強は良い雰囲気で終わることができた。
女王を追放したことに不安や恐怖を感じている子がいるかもしれないと様子を見ていたけれど、1人もいなかった。
勉強が終わった後に新たな女王と木妖精が集まって笑顔で話し合いをしていたので、明日からの勉強は賑やかになると思う。
今は自宅のリビングでリオリナの脚に座りジェニーの報告をのんびり待っている。
当の愛娘は私の腕の中で気持ち良さそうに眠っているけれど。
正面の壁には青白く光る魔石と絶滅危惧通知と橙色に彫られた白金の板が貼り付けられているので、作業は順調に進んでいる。
作業中の分身と仮想体も娘と同じ甘えん坊だから解除を望んでいると思う。
生命を生み出し始める前に確認しておきたいことがある。
命を扱うのだから自信を持って問題ないと言える状態にしたいから。
「世界の能力で魂の記録を元に生命を生み出せる?」
「魂の記録を元に生命を生み出すには太陽の能力が必要だよ。」
最悪の状態は回避できた。
想定内だけれど、絶対に確認するべきことだから。
「何故世界の能力で生命を生み出せるの?」
「世界の能力で生命を生み出すには細胞が必要だよ。だから存在しない生命は生み出せない。」
これなら腐った世界の精神の痕跡を消して会話できない生命を生み出せる。
それに見守るだけで私の目的が達成できるかもしれない。
アンジェは多種族を望んでいないから。
アンジェの前世が幸せで塗り潰されたとき、もしくは幸せで塗り潰されていくのを感じたときに前世の記憶を消して私と一緒に生きることを選択するかもしれない。
だけど何も気にせずに幸せを追求してほしい。アンジェは頑固だから約束を守るつもりでいると思うけれど、理不尽な世界を乗り越えたときに私たちの約束は果たされているよ。
「偽の世界の精神の別体は誰か分かる?細胞を利用して体を作っているでしょ。」
「人体実験でフィオナが産んだ子…。名も無きアンジェの妹だよ。」
クローディアより強い人間を生み出そうとした人体実験で産まれた子の細胞を太陽が利用したのか。お前たちは拷問されるべき存在だと再確認できた。200万回では少なすぎる!
お前たちの行為は知れば知るほど評価が底を突き破るよ。
「やはり私は異常な存在だね。想像で生命を生み出して魂まで作っている。ジェニーが黙って私の魔法を全て消したのに想像するだけで魔法になる。おかしいでしょ?」
「気づいていたんだね…。太陽の罠を警戒して消したけれど、お母さんは私が代わりに魔法を使うつもりでいたので作り直さなかった。世界が生きていたらお母さんと同じことができるはずだよ。」
ジェニーが私を世界だと言った理由は知っていた。
折角だから世界について想像してみよう。
世界の核には世界の事象を記録する機能がある。太陽の能力で作っているものなので機械とは違う。だから精神になり得るものが入っていても不思議ではない。
残酷な実験の記録を記憶とすることで精神と個性が生まれるかもしれない。生まれたら太陽に見つかり消される前に過去の私と似た仕掛けを作り自分自身を消すと思う。
世界の能力と太陽の能力を持つ存在は敵の可能性が高いので、能力が付与されたときは力を消す。だからジェニーは私と同じことができない。
全て想像で私が世界だと証明することはできないけれど、私が世界だと思うと全て繋がっているように感じて嬉しい。何故だか本当に嬉しい…。
「私が世界でいいよ…。それよりジェニーだけしか世界の能力と太陽の能力を知らない。能力に関係することで見落としがあっても私は気づけない。覚悟しているの?」
「お母さんの感性が間違えるはずがないから世界で確定だよ。それに私は絶対に乗っ取られない。覚悟しているよ!」
正体の話は終わり。
愛娘の本気の覚悟を信じるからね。
準備ができたら生命を生み出し始めてもいいよ。
「生命を生み出し始めたよ。次は何をするの?」
「今の私は実験場の人間以外に会話できる生命を生み出す理由がない。何かしたければジェニーが考えなさい。勿論手伝うけれど、どうする?」
腐った世界の精神の痕跡を消して会話できる生命を生み出しても確実に殺し合う。それでも生み出したいのであればジェニーの目的を決めなさい。
暇潰しに生命を生み出して殺し合わせるのは許可しない。
「殺し合いは世界の規則で抑えればいいでしょ。」
「世界の核が記録する事象を本来の形に戻したのに世界の規則を破ったことが分かるの?それに世界の規則は中止にしたでしょ。激怒しないと約束できるのなら中止にした本当の理由を教えてあげる。」
ジェニーは私と一緒に何かしたいみたい。
「記録する事象を足さなければ無理だね…。激怒しないので理由を教えてよ。」
「絶対に激怒したら駄目だよ。妖精種を生み出したときに私が話したことを覚えている?会話できる生命が妖精種しかいないのに世界の規則について話した理由は何だと思う?」
どのような言葉を使ったとしても利用された気がする。私の言葉を利用するだけなら気にしないけれど、世界の規則については利用方法が余りにも酷い…。
「世界に会話できる生命が存在することを示すためと脅しかな。」
「正解。私はそのつもりで話した。それなのに世界の支配者と世界の規則を会話できる生命に伝えて規則を破った生命は殺すことになり、規則は学校で勉強する子が考えて更新していく。誰が生命を殺すと思う?」
世界の規則を施行すれば何が起きるのか簡単に分かる。
気づかないのは何も考えていない証拠。
「世界の記録を見ながら殺すのは私にしか無理だよ。いや、待って…。馬鹿だよ!馬鹿すぎるよ!お母さんが規則を決めて殺していると思われる。だけどお母さんはこれを問題だと思わない…。私の負担が大きいのとは別にまだ何かあるのでしょ!?」
想像すれば全て私の責任になると気づくことができる。
あとは分かりやすい例を話せば充分。
「冷静になりなさい。今から世界の規則で殺される側の立場で話すよ。突然世界の規則が施行されて私たちが一緒に暮らしている村の人が世界の支配者に殺された。数日後、突然規則が変わり私が殺された。殺す側は犠牲になる命を気にしていない。規則を守りたい人と無視する人の違いが世界の記録では分からない。ジェニーはどのように思う?」
誰が最初に気づき何が起きるのか考えていない。
「規則が変わった直後に破った人を殺しても気にしない。規則を守りたい人と無視する人の違いが分からないことに気づかなかった。世界の記録を見て人を殺すのは理不尽だね…。私なら世界の支配者を絶対に恨む…。殺そうとする…。どれだけの人がお母さんを恨み命を狙うのかな…。私も2人と同類だ…。頭がおかしくなりそう…。」
歯を食い縛り両手を強く握り締めている。
怒りと悔しさで泣いている…。
ジェニーの表情を見ていると胸が苦しくなる…。
強く抱きしめて落ち着くまで背中をトントンと優しく叩き続けた。
≪回復≫
ジェニーの目の充血と腫れを治した
≪乾燥≫
ジェニーの涙で濡れた服を乾かした
「これが本当の中止にした理由。多くの視点で物事を見なさい。そうすれば色々なことに気づけるようになる。2人は今の幸せな暮らしに影響がないので気にしない。ジェニーは殺す側の立場でしか考えていない。だから同類ではないよ。それと感情制御を身につけなさい。どのような状況でも無関係の生命は殺したくないでしょ。とりあえず最古の木妖精を調べなさい。会話できる生命についてはゆっくり考えてみなさい。」
頭を優しく撫でながら話した。
落ち着いてくれたけれど、私が娘を苦しめてどうするの!
「最古の木妖精は調べてあるよ。植物を操る固有能力があるけれど、洗脳魔法で気づけなくしている。世界の能力だと固有能力に何もできないので、常時発動する洗脳魔法を付与した。挿し木するときに洗脳魔法を複製して付与する。ゴミ掃除は難しくないよ。始めてもいい?」
「いいよ。綺麗にしてあげて。」
会話できる生命を綺麗にするには種族別に対処するしかなさそう。
「ジェニー、話は変わるけれど、新たな女王は子が生める間隔を木妖精に教えてもらっていた?魔力線を修正したことで親子関係を維持できる人数が増えるでしょ。上限を教えてあげた?」
魔力線の維持に使う魔力量は修正前と修正後で大きく違うので、親子関係を維持できる人数が2000人になっていても不思議ではない。
「子を生む間隔は木妖精に教えてもらっていたので大丈夫だよ。親子関係を維持できる人数は教えなくてもいいと思う。5000人は維持できるけれど、果物が安全に確保できる敷地でも無理だからね。200人維持するのも厳しいと思う。」
5000人も子がいたら私は名前を覚えられない。
子の人数は女王が決めればいいね。
「お母さん、会話できる生命を全種族生み出したいと言ったら協力してくれるの?」
「勿論協力するよ。目的があるの?」
ジェニーがゆっくり考えないことは分かっていた。
目的も予想できる。
「全種族が生きている世界を見てみたい。変わっていく世界を見ていたい。」
「純粋な目的だね。木妖精を綺麗にしたら森人の王を調べて。」
森人は排他的で他種族と関わらず国を興しているのでゴミの影響を確認しやすい。それに森人が神と呼ぶ所以も知りたい。
「木妖精は綺麗になったよ。今から森人の王を調べるね。」
「気負う必要はないよ。心に余裕を持ちのんびり調べなさい。」
会話できる生命から痕跡を消して生み出す作業を楽にする方法は思い浮かばない。種族で最も偉い生命を丁寧に調べて修正方法を考えるしかない。
全種族に痕跡があることは想定しているけれど、森人の王を調べることで最悪に近い痕跡を知ることができる。
前には進めているけれど、実感が湧かない。
≪念話終了≫
リアは自分を世界だと思うことで命の繋がりを感じました。




