第116話 過去と現在の繋がり ①
資料館の奥の椅子に座りジェニーを抱っこしながら皆の勉強している姿を見渡す。
妖精種の残酷な女王を追放してから勉強している子の雰囲気が変わった。今までは命令されて勉強していたのだと思う。
これなら落ち着いて思考できる。
過去の私が経験を蓄積する仕掛けを作ったとする。隠す場所は世界の核が適切だと思うけれど、太陽に隠し通すためには過去の私に見つけられるわけにはいかない。
私は太陽の精神を消してから世界の核を隠蔽解除したけれど、これまでに殺された私が一人も核を調べていないのは疑問が残る…。
世界の核の中心にいた精神を助けた私は何人もいたと思うから。
ジェニーの背を軽く叩いた。
可愛い顔で睨まれても怖くないよ。
≪念話≫
「ジェニー、正直に答えて。太陽の核の記録で世界の核に隠された頃と救出された回数を調べたでしょ。結果を教えなさい。それと調べたら報告しなさい。」
気にならないはずがない。
調べられるのだから調べるに決まっている。
「確かに調べたけれど、お母さんが確信を持っているのはおかしいよ。太陽が記録を消していない前提になるけれど、私が隠された頃は不明。20万回以上も救出されているけれど、記憶に何も残っていないよ。」
ジェニーの母親だという確信はある。だけどジェニーを生んだ記憶はない。
それが仕掛けに関係しているのであれば…。
とりあえず疑問を解消しよう。
「当初はジェニーと私の精神が同じだからジェニーが私を生んだと言っていた。そしてジェニーを生んだのは太陽だと言っていた。この頃は何が事実か分からなかったし余裕もなかった。だけど落ち着いて考えればおかしいことに気づく。何故嘘を吐いたの?」
ジェニーは私の精神に入った直後に母親だと気づいた。だけど私は何も気づかない。
母親だと確信を持っていても不安になる。だから精神が同じであり立場を逆にすることで私に疑問を持たせたかった。私に気づいてほしかった。
ここまでは想像できるのに太陽が生んだと嘘を吐く理由が分からない。
仮にそれが事実だとしてもジェニーなら言わない。
最も憎んでいる存在だから…。
「ジェニーの言葉を一切疑わない私に怒っていたんだね。ごめんね…。」
怒りをぶつける先がなくて自暴自棄のような発言をした。
娘の気持ちに気づけなかった…。
「一人拗ねていた私が悪いよ…。私には余裕があったから。お母さんの指示で動いて見落としたことも教えてもらえる。全て一人で背負っていたお母さんに余裕がないのは当然だよ。だけど私が精神に入った直後から特別扱いしてくれている。それに気づいたのが昨日だから遅すぎるね…。敵か味方か判断せずに余裕がないときは全て信じて余裕ができたら確認する。嘘を吐いても疑われないのは私だけ。それで何を確認したいの?」
世界の核の中心にいた精神を私の精神に入れたのは敵か味方か判断するためなのに、精神に入れた直後から全く気にしていない…。
ジェニーに嘘を吐かれても疑問にしか思えない。
「私の精神に入る前と後で記憶に違和感を覚えない?精神に入る前の嘘は私を騙そうとしていた。だから私の精神に入れて調べるつもりでいたけれど、入れた直後にジェニーと代わった気がする。だけど精神に入れる前の嘘まで気にしていなかったのは駄目だね。それと核の中にいた記憶はほとんどないでしょ。偽物に記憶を消されたかもしれないと言えるから。」
ジェニーは私の精神に入った直後に母親だと気づいている。
そして精神に入る前に嘘を吐く理由がない。
「核の中にいた記憶は半年もないよ。えっと…、これは明らかに違う…。お母さんの精神に入って浮かれていたよ。全て自分の記憶だと思って何も気にせず同じ口調で話していたから。私はお母さんの精神で生まれて核の中心にいた精神の記憶を複写されているという事だね。不愉快な記憶は消すよ。何か分かるの?」
記憶を消す決断が早いね。
世界の核に隠されている仕掛けは私の記憶か精神に移動して私が死ぬとき核に戻される。世界の記録により私の中に移動するのは分かる。だけど死ぬとき核に戻す方法が分からない。
死ぬときの状況は様々で死んでから仕掛けを起動させ続けるのは不可能。過去の私が作った仕掛けだから絶対に戻るようにするはず。
不確定な言動を除外すると思考と感情しか残らない。だけど一瞬で殺される可能性もある。
核に戻る条件が複数あれば可能だろうか…。
「お母さんは難しく考えすぎだよ。核を星魔力で隠蔽解除されたら仕掛けを消すように作っておく。お母さんにある仕掛けが私にもあれば隠蔽解除された後に隠蔽してある仕掛けを核に複写できる。経験の蓄積はお母さんが死を覚悟したときだけでも充分だよ。仕掛けが作られた以後は全員の経験を蓄積していると考えるのはお母さんの優しさ。仕掛けを作った過去のお母さんが今のお母さんより優しいとは限らないからね。」
過去の私が未来の私の死を無駄にしない方法を考えるとは限らない。
ジェニーはとても賢いし私は大馬鹿だ…。
「女王を追放する前も『難しく考えすぎ』とジェニーは言ったけれど、私に本心を隠す必要はないよ。『完璧な存在ではないので間違った言動をするときがある』と私は言ったけれど、間違えすぎだね…。ジェニーに私の理想を押し付けてしまった。ごめんね…。」
分身が同じ経験で自我を持ったとしても個性は違うと知っているのに、私を基準にしてしまっていた。過去の私は太陽に殺されることを憎んで仕掛けを作ったかもしれないのに…。
「お母さんの精神は仕掛けを作った過去のお母さんと絶対に同化していない。同化したら剥がして消す。太陽に勝ったのは私たちだよ。それとお母さんの精神を治そうとしているのに経験の場所はまだ見つからない。それなのに過去の仕掛けが経験だけを蓄積しているとは思えない。精神を入れ換えているのだと思う。記憶と精神は脳にあるので経験がどちらに含まれるのか分からないけれど、過去のお母さんは精神にあると判断した。そのせいでお母さんの精神は10万年以上も命を狙われる重圧に耐えている。精神に問題ができて当然だよ!仕掛けを今すぐ見つけて消す!」
ジェニーができないことを過去の私たちができるとは思えない。
だからジェニーの予想通りだと思う。
過去の私を美化しすぎていた…。
太陽に勝つために経験を蓄積しているかもしれないと思った。理由はそうなのかもしれないけれど、太陽に勝つために必要な経験が何か分からない。
経験には様々なことがあるのに脳の同じ場所に蓄積されていくとは思えない。
少し考えれば分かることなのに私の思い込みは酷い…。
「ジェニー、精神に問題があることを何故言わないの?私にできることは少ないけれど、隠しても気づかれると知っているでしょ。それに新たな問題を見つけてしまった。2つあるけれど、1つはジェニーが妖精種の祖先を調べた結果で変わる。もう1つはジェニーが消そうとしている仕掛け。思考と感情で起動して精神を隠せる。追加で記憶も隠せるのなら危険度が跳ね上がる。ジェニー、調べたら報告しなさい。疑われるのが怖くて黙っている必要はないよ。私は疑わないと自分でも言っていたでしょ。」
太陽で不要なものを全て消した後に自分のことについて調べたけれど、救出された回数が余りにも多くて私に疑われるのが怖くて黙っていた。
それに自動化で世界の核の中心に入る精神を確認する前に消したことを後悔している。
だけど太陽の精神が用意したものは全て消すべきだから気にする必要はない。
自動化でアンジェがいつ私の精神に入ったのか黙っていると思う。
理由は問題ないと判断したから?
妖精種については魔力線が気になって調べたはず。
太陽の核の記録で女王と子の関係を調べてみたけれど、思考誘導はされていない。子が使える魔法の隠蔽を維持する程度の可能性がある。
妖精種の子は生まれたときから子を生む魔法と女王候補を決める魔法を覚えているでしょ。
妖精種の魔力線については最初に飛ばしたときに残った子が女王にならなかった。魔力線の長さを魔法式で設定していなければ女王は魔力切れで全ての魔力線が切断されたと思う。
魔力線に余計な効果を付け加えたのは腐った世界の精神だけれど、森人の奴隷にするためだとは思えない。実験のついでだと思う…。
余裕のある母親に隠し事ができると思わない方がいいよ。
「怖い怖い、怖すぎるよ!私の精神に問題があるので入れ換えていると断言できるけれど、気づいているでしょ。経験の蓄積でお母さんの感性が鋭いのなら私も同じはずなのに違うからね。隠し事ではなくて調べたばかりなの。調べずに答えにたどり着くのはおかしいよ。腐った世界の精神が関与しているので最悪を想定したのでしょ。それと仕掛けは私たちの精神に隠蔽されていたよ。星魔力で隠蔽解除するしかなかった。反応で仕掛けがあると分かったけれど、消えたので内容は分からない。私も危険だと思っているけれど、どうするの?」
本当に危険な問題だね…。
私でも作れる仕掛けで最悪な結果を生み出すことができる。
「ジェニーは実験場の人間を修正したけれど、絶対に気づける?似た仕掛けを簡単に作れる?」
「絶対に気づけるよ。それと似た仕掛けは簡単に作れる。世界の記録を見て起動する。思考と感情で起動する。隠蔽解除されたら消す。だけどお母さんの指示通りに動くことしかできないよ…。」
指示通りに動くことを気にする必要はないよ。
ジェニーは私ができないことをしてくれているのだから。
「アンジェの記憶に太陽だと認識するものがないと確認してから、記憶と精神を通常の魔力で保護して別けて結界で隔離。お母さんも同様に対処して。記憶と精神を星魔力で隠蔽解除して状態を確認。結界は太陽の能力を付与された存在が意思を持ち動くことを想定して。太陽に殺される前にアンジェの記憶と精神を保護したときの魔力は通常の魔力だった?通常の魔力で保護したのなら確認をお願い。」
仕掛けがあっても起動していなければ運が良い。
「通常の魔力で保護したよ。確認してくる!」
記憶に認識するものが追記され精神が付与されるのであれば対処できるけれど、精神が乗っ取られて記憶を付与されたときに対処する方法はあるのだろうか…。
最悪を想定して考えなければならない。
太陽の核にアンジェの前世の記録が残っていたのであれば保護しておくべきだった。太陽の精神を消して殺し合いが終わったと思った。重圧から解放された気分でいた…。
今は最悪を想定した対処方法を考えるべきだね。
「お母さん、現在は2人とも問題ないよ…。記憶は反応がなかったけれど、精神は記憶と太陽の能力が付与されて意思を持った。仕掛けが消えていたので即消した。最悪だよ…。」
「アンジェの精神を作り直すものが太陽に残っている?」
消すように指示したのだから何も残っていない。
気にせず現状を教えて。
「アンジェの前世の世界の人間が消えると言ったけれど、アンジェの記録はなかったよ。魂もなく太陽の核に魂の情報も記録されていなかった。アンジェのお母さんは私がアンジェの精神を複製して生み出したからだよ。起動条件が分からないので放置は危険だね…。」
「太陽の能力で保護した精神を情報にすることはできないよね?」
私を不愉快にすることだけは得意だよ。
最初からアンジェを保険にするつもりで全て消している。
お前だけは特別扱いする…。
「それは無理だよ。できたらお母さんの精神を情報にしているから…。」
「気にしないで。アンジェの精神を保護して封印魔法と睡眠魔法を試してみて。」
とにかく確認するしかない。
アンジェだけ救えないのはあり得ない。
「分かった。試してみるよ!」
「よろしくね。」
アンジェは前世を忘れるほど幸せになってほしい。そのあとに何を求めるのか分からないけれど、アンジェの決断は尊重するつもりでいた。そのための覚悟はしていた…。
お前が原因でアンジェと別れるつもりはない!
アンジェの幸せを奪うな!
「封印魔法は無効化されて意思を持ったよ。睡眠魔法は反応がなかった。眠らせて調べることはできると思うけれど、仕掛けは見つけられないと思う。」
睡眠に反応がないのは眠る必要のない存在なので見落とした?
体の有無で起動条件を変えている気がする。
体があるときは長期睡眠で起動するかもしれない。
座標確認している可能性がある。
ジェニーに何度も言われている。
私は難しく考えすぎだと。
簡単に考えればいい。
お前如きの仕掛けが私の娘に通用する訳が無い。
「ジェニーが最強だから難しく考える理由はない。仕掛けは星魔力があるので動く。動くための星魔力を内包していても隠蔽されていても実在するのだから結界で吸収できる。保護した精神から星魔力を完全に取り除く。そのあと隠蔽解除してみて。うまく行けば仕掛けも吸収されているよ。それとゴミから太陽の能力を剥ぎ取り痛みを教えなさい。」
拷問は嫌いだし魔力の無駄だと思っているけれど、お前は特別だよ。
遊びで殺され続けた命の痛みを知れ!
「仕掛けが起動するよりも早く吸収する。成功したらゴミに絶望を教えるよ…。」
星魔力の隠蔽解除に反応できるのだから仕掛けも星魔力で作られている。
隠蔽されていても星魔力に魔法式が書き込まれている。
ジェニーなら間違いなく消せる。
お前は本当に見苦しい。
散々遊びで殺してきたのに後ろ汚い。
「お母さん、成功したよ!アンジェの精神から星魔力を吸収したらゴミの記憶と精神が出てきたので隔離してある。どうすればいいの?」
「アンジェとお母さんの仮想体と分身を消して綺麗な精神と入れ換えてから説明して。仕掛けについて聞くことや思考することが起動条件になっているかもしれない。ゴミ処理を忘れたら駄目だよ。」
アンジェに教えてから精神を入れ換える…。
私を不愉快にするのが得意なお前はそのように考える可能性が高い。
「分かったよ。仮想体と分身を消してから精神を入れ換えて説明する。ゴミは一組あれば充分だね。アンジェとアンジェのお母さんから取り出したゴミは消すよ。痛みを感じるようにして200万回は殺す。専用の核を作って自動化して死んだ回数を記録する。お母さんに負けたゴミだと記憶に刻み込んでから始めるよ。」
ジェニーは一度も私の腕の中から出ていない。
本体を動かす価値もない存在。
それが今のお前だ。
数十億年も共にあった能力を使いこなせていない。仕掛けが起動すればどのような状況でも対処できると思っていたかもしれないけれど、甘すぎる。
遊びの最中に起動するのを楽しみにしていた可能もあるけれど、絶対的な存在に命を狙われている状況でアンジェの精神を星魔力で隠蔽解除してみようとは思わない。
お前が遊んでいただけだとよく分かる。
200万回の理由は秘密だろうね。
支配者と管理者に特別扱いされる幸せを噛み締めてほしい。
ジェニーは現在のリアがいいのです。
過去のリアが混ざって変わってほしくないのです。




