第114話 娘の想い
リオリナに乗って空を飛び夕暮れになり自宅に帰ってきた。鶏以外の鳥を図鑑以外で見るのは初めてで、手の平ほどの小さな鳥やジェニーよりも大きな鳥が空を飛んでいたのが新鮮に感じた。
今はリビングの椅子に座るリオリナの脚に座りジェニーを抱っこしてお母さんとアンジェの帰りを待っている。
リオリナは空を飛んで満足しているみたいなので私は目を閉じた。
空を飛ぶのは気分転換になるのでいいと思う。
◇◇◇
念話中。
「リア、お母さんが分身だけではなく本体も何日か子供と一緒に過ごすと言っているので私も一緒に残るね。問題は起きないと思うけれど、何かあったら連絡するよ。」
「分かった。仲良くなったときは人間として生きてみるの?」
目を開けて時計を見ると19時を過ぎていた。
アンジェのお母さんが育てる子を優先していないか確認するべきだね。
「そのつもりはないけれど、周りの子の年齢が10歳を超えたとき同じ年齢にするかもしれない。」
「アンジェが楽しく過ごせればいいよ。そっちでお母さんの本体と一緒に眠るの?」
母親の愛情だけではなく友達と遊ぶ時間も必要なのかもしれない。
アンジェの好きなように生きて前世の嫌な記憶を塗り潰してほしい。
「お母さんの本体が私を抱きしめて眠ることになっているよ。」
「それならよかった。アンジェ自身の気になることもすぐに教えてね。」
アンジェのお母さんであることは間違いない。
母親に愛され友達と楽しく遊びながら歳を取るのはいいことだと思う。
そのように思うだけで何も知らないけれど…。
「リアは気にしすぎだよ。困らせたくないので何かあれば我慢せずに言うね。」
「絶対だよ。とにかく楽しんでね。」
前世を乗り越えたときアンジェが何を選択しても受け入れる。私がアンジェを縛るのは間違っているし人生を選べるだけの努力はしてきたと思うから…。
「それでは、おやすみー!」
「おやすみー!」
念話終了。
◇◇◇
「リオリナ、2人は向こうで過ごすみたいだからお風呂に入って寝よう。」
「はい。リア様。」
大人の姿で初めてのお風呂なのでリオリナがどのように接してくるのか気になっていたけれど、お風呂の中で私の隣に座って凄く凭れ掛かってきた。リオリナを赤ちゃんみたいだと思った。
お風呂から出てジェニーに寝間着を着せた以外はいつもと余り変わらない。
布団に入る前に目覚まし時計を7時45分に設定した。
大人の姿になると自然と目が覚めるのは偶然ではないみたいなので、目覚まし時計が鳴るまでは目を閉じていた。抱きしめられていると眠り続ける方が不自然なのかもしれない…。
目覚まし時計が鳴ったので音を止めてジェニーを起こし3人で脱衣所に行き顔を洗って着替えた。
着替えたジェニーを抱っこすると眠った。
時間は8時少し前だけれど、リビングの椅子に座らずそのまま資料館に向かった。
≪分身≫
「今日もよろしく。」
「分かった。」
資料館に入り勉強している子に挨拶して昨日と同じ皆が見える席に座った。
「ジェニー、起きなさい。」
「なにー?」
反抗期は卒業したけれど、敷地にあるものは全て自分が作らなければ気が済まなくなっている。
昨日の午前、私が資料館の壁掛け時計を音の鳴るものに作り変えたら、眠っていたジェニーが突然起きて拗ねながら細かく設定できるように作り変えた。
不機嫌な顔で眠っているジェニーも可愛いけれどね。
「妖精種の人を人と呼ぶのか子と呼ぶのかどちらがいいと思う?」
「全ての生命はお母さんの子だよ。だから子でいい。」
自分で全ての生命の母と言っているね。
「分かった。眠っていいよ。」
「はぁぃ…。」
眠るまでが早い…。
勢いよく話したけれど、すぐに眠るためだね。
今のところ手を挙げて質問する子はいない。
休憩時間に妖精種の子が一緒に遊ぶ方法を考えてみよう。
うーん…、魔法で体の大きさを同じにしても厳しい。
私の考えが甘かったよ…。
今はお風呂だけでいいかな。サウナは用意しても利用しない気がする。それと一緒に遊ぶ方法がなくても一緒に遊べる遊具の当てはある。だけど私の提案で敷地を変えて行くのは違う。
手を挙げている妖精の子がいる。
あの子はベティだね。
「質問をどうぞ。」
「リア様は2人になっていますが、それを覚えれば楽に勉強できますか?」
確かに気になることだと思う。
「私が2人に分かれている分身魔法を覚えれば同時に違うことができる。そして分身魔法を解除すれば分身が得た知識や経験を得ることができる。だけど分身は自分が分身だと知っていて君が楽をするために作り出されたと知っている。分身が君を裏切らない理由は何かな?」
「私が魔法で作ったからです。」
そのように思うのが普通なのかもしれない。
皆の視線を感じるので気になる内容のようだね。
「不正解。分身も君と同じで楽がしたい。それが裏切る理由になる。分身を裏切れないように作ったとしても、裏切れないことに対する怒りが裏切る理由になる。だから分身が解除されてもいいと思える自分になることが大切。知らなければ裏切られて最悪の場合は殺されるかもしれない。絶対に裏切られない方法を考えるのは自信がない証拠。結論を言うと絶対はないよ。」
私の分身について聞いてくるかな?
「リア様の分身も裏切るのですか?」
私自身が本体を裏切った分身だから理由があれば裏切るだろうね。
「私の分身は裏切りたい理由があれば裏切る。自分が分身だと考えてみても裏切る理由があれば裏切るからね。だけど裏切る理由がなければ裏切らない。偶には自分と向き合うのも大切だよ。」
「はい。分かりました。」
少し残念そうだね…。
勉強は自分のためにするのだから楽を考えては駄目だよ。
効率よく勉強する方法を考えないと。
私の分身は早く解除されたがっている。ジェニーを抱っこできるのは私だから。これはジェニーが望んでいることだから私と交渉しても意味がない。それに私を裏切ればジェニーと会えない。
ジェニーの分身を抱っこしたければ望めばいいけれど、寂しいと思う。
疑問が見つかった…。
「質問するけれど、妖精と木妖精が今の言葉を使っているのは、森人に覚えさせられたから?妖精種が集まって森で暮らしていた記憶は継承している?森人は他種族と交流していた?自由に発言してほしい。」
太陽か世界が絡んでいる気はしているけれど…。
「妖精種が集まって森で暮らしていた頃から今の言葉を使っていました。森人は非常に排他的で森人と奴隷の妖精種だけで暮らしていました。」
プリムスの発言に気になる点がある。
「妖精女王は今の言葉を使っている記憶しか継承していないの?外敵から身を守る魔法は使える?」
「一番古い記憶でも今の言葉を使っています。それと妖精種が外敵から身を守る必要はありませんでした。魔獣に見つかることはありませんでしたから。」
見つからないのは流石にあり得ない。
「蛇のように体温を見て襲ってくる外敵もいるよ。」
「妖精の行動範囲は木妖精に守られていましたので蛇は簡単に潰していました。ですから外敵だと認識していませんでした。」
最も古い記憶でも今の言葉を使っている。
妖精種の生息域に巨大な蛇はいない。
都合がよすぎるね…。
「教えてくれてありがとう。」
≪結界≫
皆に聞かれたくないので防音した
「ジェニー、起きて。」
「なにー?」
起こすのが可哀相に感じるほど眠たそうな表情をするね。
「太陽の核に世界を作り直した回数は記録されていた?」
「世界の管理を楽にするために太陽が今の言葉を全ての生命に入れた。知能の低い生命は忘れるけれど、同族と意思疎通できる生命は今の言葉を使っているよ。」
太陽の力があればできる。
それに太陽らしい理由だと思う。
「太陽に精神を与えてしまったのは竜種か人間だと思っていたけれど、違うの?」
これについては不毛な考えだと理解しているけれど…。
「太陽の精神が空だった場合は竜種か人間の可能性が一番高いけれど、空に入るだけで得られる能力が強すぎると思う。太陽に能力を付与して精神を入れた存在がいるとすれば次元が違うし何がしたいのか分からない。太陽とお母さんの殺し合いを除けば、太陽は言葉を入れるために生命を滅ぼしているけれど、世界を作り直したのはお母さんが初めてだよ。それと妖精種の外敵については世界が記憶を消した。魔法の知識も消した。都合よくするためにね。」
世界が妖精種を森人の奴隷にするために都合よくした。
最低な理由だよ…。
その世界を放置していた太陽は同類で同罪。
「最も気になることを聞くよ。何故私に記録を読む能力を付与しないの?」
「お母さんが私に記録を消せると教えたんだよ。自己満足していた屑の記録は全消去したよ。それと私がいつから世界の核に隠れていたのか太陽も認識できていなかった。お母さんが完璧に隠蔽しているよ。」
確かに私が教えたことだね。
ジェニーは私の娘だと自覚していたので不愉快な記録を消した。私は理不尽な殺され方をしていると思っていたので仕方ないね…。
「私は常にアンジェの姿だった?年齢は25歳の方が多かった?」
アンジェに前世の姿をさせる訳が無いと思うけれど…。
「お母さんは常にアンジェの姿だよ。アンジェが前世の姿でいることは苦痛だからね。年齢は圧倒的に12歳が多いよ。だけど私を隠したときは25歳だと思う。抱っこされている事とお母さんの年齢に違和感を覚えないから。お母さんは太陽に気づかれずに私を抱っこしていたときがあると思う。私の記憶を消して隠したけれど、そのときの経験が残っている気がする。」
太陽に殺されていたのに経験が蓄積されているのは、最も能力の高かった私が世界に仕掛けを残した可能性はある。いつの日か太陽を消すために。
そして25歳の私はジェニーを抱っこしていたけれど、太陽に殺されると判断してジェニーを世界の核に隠す直前に記憶を消すのはあり得る。
最初から1人でいるのと1人にされたのでは精神に大きな差が生まれる。
ジェニーが私に捨てられたと思って憎まれていたかもしれない。
過去の私は経験を魔法で操作できた可能性があり、今の私は過去の私が太陽を殺すために思いついた姿で、精神に異常があるのも過去の私が用意した策かもしれない。
「色々と繋がったよ。眠っていいけれど、偶には自分で起きて行動しなさい。」
「はぁーぃ…。」
起きて行動する気のある返事ではないね。
≪結界解除≫
事実を教えても復讐できないし奴隷のときに経験した酷い記憶はジェニーが消してくれている。それに事実を教えることで理不尽な扱いを受けた怒りが森人に対する憎しみを強くする可能性がある。
復讐したければ止めないし世界の規則を破れば平等に粛清するけれど。
皆から迷いを感じる…。
質問の理由を知りたいのかな?
「質問があれば聞けばいいよ。それで怒ることはないから。だけど同時に質問されても答えられないからね。」
今度は誰が質問するのかで迷っている。
視線で確認している…。
このままだと決まらないね。
「プリムスかベティ、どちらのことかな?」
「はい。何か分かりましたか?」
予想通りプリムス。
質問されたのだから気になるのは当然だね。
「プリムスも考えれば分かるよ。外敵に見つからないのに森人に見つかったのは何故だと思う?」
当時は思考誘導されていて気づけなくされていたと思うけれど、今なら考えればすぐに分かることだから妖精女王なら必ず違和感を覚える。
「あっ…。森人に体温が見える能力はないはずです。何故今まで気づかなかったのでしょう。それに捕まった記憶がありません。捕まえたときの記憶を消す意味はないと思いますので、森人の神が妖精種を1人残らず奴隷にしたのですね。隠れている妖精種全員を奴隷にするのは森人の力だけでは無理だと思います。私の返答は森人に都合がよすぎます。言葉については分かりませんけれど。」
充分に理解できているよ。
「言葉については森人が身近にいたのと他種族と会話していないので気づけなかった。こればかりは仕方ないよ。だけど言葉を理解できる全生命が同じ言葉を使うのは不思議だと思うでしょ。世界の管理人は世界中の生命を苦しめて楽しむつもりでいた。私とジェニーが殺したのは世界の管理人を魔法で生み出した存在。世界の管理人と同じで生命を苦しめて楽しんでいたよ。これ以上の話は勉強しないと理解できないと思う。」
世界の核と太陽の核と星魔力について話すつもりはないけれど、絶滅して蘇ったことに気づけたら、太陽の遊びと私の過去について話してもいいと思っている。
「難しくて理解できないと思います。リア様が勉強を勧める一番の理由は何ですか?」
「知識がないと知ることが大切だから。例えば相手の強さが分からない人でも私の存在を知っていれば攻撃しない。娘を狙ったら死ぬよりも辛い目に遭わせる。知っているだけで何人の命が救えるのか分からない。極端な例だけれどね。」
私が世界の支配者だと記憶に入れて伝えるのか映像で伝えるのか決めていないけれど、知っていても攻撃してきたり奴隷にしようとする人はいると思う。見せしめのために惨殺するだろうね。
それに知識があっても人間が争うのは知っているけれど、全種族が勉強したらどのような世界になるのかは見てみたい。
「勉強することの大切さがよく分かりました。森人は大勢死にそうですね…。」
「私が最強だと伝えてから挨拶に行くけれど、神に選ばれたと思い込んでいるからね。絶滅しないように惨殺することになると思う。惨殺された同族を見て現実を知る方が後の被害者が少ない。会話が成立するのなら殺さなくてもいいけれど。」
腐った世界に選ばれた存在で恩恵を受けていたのだから私の言葉は聞かない可能性が高い。腐った世界が助けてくれなかった理由を探すかもしれないので、世界に不要な存在だから殺したと明確に伝える。怒らせる行為だと分かるけれど、怒らせずに殺したことを伝える方法は知らない。
チリンチリンと時計の音が鳴る。
ジェニーに作ってもらった資料館の中にある、皆の席から見える丸型の壁掛け時計は休憩時間の始まる音と終わる音が鳴る。あくまでも目安なので音が鳴る秒数は短くしている。
勉強時間と休憩時間は1分から120分まで、音が鳴る秒数は1秒から60秒まで設定できる。
今の設定は勉強時間が40分で休憩時間が20分、3秒音が鳴る。
「勉強を続ける子は無理しないで。お風呂は気持ちいいけれど、少し疲れるので勉強が終わった後に入るのがお勧め。私はいつもの場所で座っているよ。」
「はい!」
資料館から出るのは私の分身といつも同時。
言いたいことがあるみたい。
「真面目な交渉?」
「資料館を1軒にしてもいいと思う。本を左右で分けて私は真ん中の奥に座ればいい。」
その通りではあるけれど…。
「犬妖精と猫妖精が本体に代わってほしいと言ったの?」
「勉強を始めたばかりなのと私に分身だから本体に代わってほしいとは言えない。魔法についての知識もないので、分身は手抜きされているように感じる子も出てくると思う。妖精種で優劣が生まれる前に分身で勉強を見るのはやめた方がよさそう。早く解除して。」
その兆候があるという事だね。
最後の一言のために理由を考えた気もするけれど。
≪分身解除≫
今後不満に思う子が出てきそうな雰囲気を感じる。
分身について詳しく説明するよりも1人で見た方がいい。
≪広域念話≫
「資料館から全員出て。今から2軒を合わせて1軒にするよ。敷地の隣にある世界の資料館と繋げる可能性もあるので西側に作るね。ドアを開けて左側が犬妖精と猫妖精の本と勉強道具、右が妖精と木妖精の本と勉強道具。外に出たら全員石畳より東側に移動して。」
≪広域念話終了≫
資料館から慌てて出てくる子もいなくなった。
始めてよさそうだね。
「ジェニー、起きて。早くしないと私が作るよ。」
「西側に石畳を敷いてトイレと重ならない場所に2軒の資料館を合わせるのは終わったよ。もう終わりでいいの?」
一瞬で2軒の資料館が消えて私の考えた場所に新しい資料館ができている。
母親の思考を報告させて最速で作り直すのはおかしいでしょ…。
絶対に譲らない意思を感じるよ。
「石畳が重なる場所と資料館までの中間地点に街路灯を4本作って。それと私にネックレスを作って。念話をネックレスに繋いだら声を広げるようにしてね。」
「ネックレスだと私の頭が痛いでしょ。短くしたら煩いでしょ。真面目に考えてよね。だから魔石のイヤリングを作って付けたよ。左耳は相手の近く。右耳は中間。これで終わり?」
抱っこに妥協はないみたい。
「ありがとう。ゆっくり眠って。」
「はぁーぃ…。」
切り替えがよすぎるよ。
ジェニーが一番不満に思っていたことは娘だと気づいてくれない私だったかもしれない。その次は25歳になってくれない私かな…。
本音を教えてくれないのは知っているけれど、当たっている気がする。
娘だとすぐに気づけなかった私が悪いし、娘がいるのに12歳でいた私が悪い。
とにかく過去の私は超えないとね!
母子ともに本音を隠すのが得意です。




