第113話 相互理解と平等性
私が抱きしめているジェニーと私に抱きついているリオリナの温かさを感じながら何度か目が覚めたけれど、午前7時になるまでは目を閉じていた。
大人の姿になっただけなのに自身で起きられたことを不思議に思う。
見た目が変わっただけではないのかもしれない。
ジェニーの背中を軽く叩いて「朝だよ」と小声で話し掛けると、目が覚めたジェニーは私の精神に隠れた。あの人と極力関わらないために…。
リオリナの手を軽く叩くと「リア様、おはようございます」と背後から聞こえたので「おはよう」と返した。
アンジェも起きているので脱衣所に行き顔を洗って服を着替えた。
私の服はジェニーが大人用に作り変えてくれている…。
本当に優しい子だね。
ジェニー、おはよう。
【おはよう…】
リビングに行くとリオリナが私の席に座ったので、リオリナの脚の上に座ると抱きしめられた。私の見た目に関係なく独占したいのは変わらないみたい。
アンジェは受け入れてくれているけれど、お母さんは何か考えているように見える。
≪念話≫
「アンジェ、お母さんが自分勝手なことを言ったら、アンジェのお母さんとして新しく生み出すよ。何か意見はある?」
「昨日の話し合いを無下にするようなことを言ったらいいよ。」
≪念話終了≫
【予感がするの?】
大人の私を見て子供の教育に巻き込もうとする可能性が高い。
「リア、あなたは大人のままでいるのかしら?」
「そうだよ。ジェニーと姉妹に見えるからね。」
ジェニー、記憶を保護して。
【了】
「ジェニーの母親として行動するのね。それなら他の幼い子の母親にもなれるでしょ?」
「アンジェ、何か意見はある?」
「はぁ…。何もないよ。」
ジェニー、お願い。
【了、対処が早いね】
優先順位が変わったからね。
【そうだね…】
性格を変えるためにお母さんを消してもらったけれど、何も思わなかった。
どうでもいい人だと思っていた気がする。
ジェニー、私は愛情を与えてもらってお母さんを信じたの?
【愛情で信じていても流れ出る。お母さんにとって大切なのは感情を維持する相手だから。今は私とアンジェだけ】
どうでもいいと思ってしまうのが早いみたいだね。
【そうだけれど、世界が安定するまでは今のままでいいと思う】
新しいお母さんとアンジェは世界一重要な規則を決めるので期待しよう。
【本当は興味がないけれどね】
疲労困憊で生み出したお母さんがアンジェと私に愛情を与えてくれたことが奇跡だと思える。太陽で眠っていた日数を除くと、1週間も経っていないのに自分本位であることを隠さなくなった。
太陽を恐れ私たちの方が強いので大人しかったけれど、自身が安全だと思った途端に本性を見せてしまった。
「お母さんはアンジェの考えで子供を教育するの?」
【お母さんも知らないでしょ。アンジェは臨機応変だよ】
「アンジェの考えを知らないので学校で確認するわ。何もなければ行きましょう。」
「今日は何もないよ。それでは行くね。」
お母さんとアンジェは転移で学校に移動した。
アンジェが愛情を感じていなければ教えて。
【分かった】
ジェニー、呼ばれる前に出てきなさい。
【分かったよ…】
精神から出てきたジェニーを抱っこする。
私の首に手を回して出てきたのがとても愛らしい。
「リオリナ、8時になるまでボーっとしよう。話したいことがあれば聞くよ。」
「午前の勉強が終わった後はどうしますか?」
午後は資料館に行くつもりがないので決めておいた方がいい。
「問題がなければ同じようにボーっとしているか、妖精種の人と話したり一緒に遊ぶか、リオリナに乗って空を飛ぶ。それ以外でもリオリナが決めていいけれど、ジェニーが一緒にいるのは絶対だよ。」
「分かりました。今日は空を飛びましょう。我慢するのが楽になったと感じたら妖精種の人と話したり遊ぶことにします。午前の4時間だけ我慢すればリア様とジェニー様を独占できますので心に余裕があります。」
思考誘導による補助があるリオリナには余裕がありすぎたかな。
質疑応答を全て終えた後に休憩時間を使って何をするのか考えておこう。
分身も犬妖精と猫妖精の質疑応答をしているので、一緒に楽しく何かできたら仲良くなれると思う。
「それでは8時までボーっとしよう。ジェニー、目覚まし時計を机の中心に作って。ベルが鳴るのは8時だよ。」
「ん…、目覚まし時計作った…。」
「時間を気にせずにのんびりできるのはいいですね。」
机の中心にベルが2つ付いている目覚まし時計が作られた。
デジタルの目覚まし時計を作ると思ったけれど、眠気を我慢して勢いで作った気がする。
ジェニーは既に眠っているので私も目を閉じて目覚まし時計が鳴るのを待つ。
孤独ではない静かな時間はいいものだね。
ジリリリリリンとベルの音が響いたのでベルの間にあるボタンを押して止めた。
設定を確認するために目覚まし時計の裏側を見たけれど…。
8時と20時にベルが鳴るのかな?
ジェニーの背中を軽く叩いて起こすと眠たそうに目を擦っている。
「ジェニー、目覚まし時計を作ったのだから汎用性は高い方がいいよ。」
「ん…、作り直した…。」
目覚まし時計に秒針と同じ太さの赤い針が追加された。
今は8時を指しているけれど、裏側に回すことのできる赤い摘みがあり赤い針を動かすことができる。縦に上下する黒い摘みの横には【午前・午後・1日・なし】と浅く彫られていてベルの鳴る時間帯を設定できる。
汎用性は高くなったけれど、ジェニーが作った目覚まし時計だから面白い。
「リオリナ、勉強に行こう。」
「はい。分かりました。」
リオリナが私を抱きしめるのをやめたので立ち上がる。
リオリナが椅子から立ち上がるのを待ち一緒に資料館に向かう。
勉強する時間は自由だと教えたので念話する必要はないと思っていたけれど、私たちが歩いていると妖精種の人が待っていて一緒に歩くので念話することにした。
≪広域念話≫
「私たちは午前8時に自宅を出て資料館に向かい正午に帰るよ。30分毎に休憩時間を入れる予定だけれど、皆の勉強する様子を見て調整するからね。」
≪広域念話終了≫
≪分身≫
「質疑応答で犬妖精と猫妖精に関わる望みなら叶えていいよ。全妖精種に関わる望みなら念話するか合流して。」
「分かった。」
分身と別れて西側の資料館に入ると既に勉強している人がいた。
根を詰めすぎて投げ出さなければいいけれど…。
リオリナが椅子に座ってから私とジェニーは皆が見える席に座った。背後にはホワイトボードがあり学校の先生になった気分。
皆の勉強を見て回ることはなく質問されたときに答えるようにしている。
ジェニーは熟睡しているので私の仮想体をボコボコにしているジェニーの仮想体に、昨日の休憩時間に手を挙げた順番と名前と種族の記憶を私に入れてもらった。
愛情を持ってジェニーを抱っこしているので自力で起きられないと思う。
妖精の子が手を挙げた。
「質問をどうぞ。」
「はい。文字を読む勉強は本を読むために必要だと分かりますが文字を書く練習は何の役に立つのでしょうか?」
敷地から出ることを想定して答えよう。
「敷地から出て様々な国に出入りし自由に旅をするためには身分証が必要で、身分証を作るときには名前と住所を書かなければならない。出店したいと思ったら文字を書くことが日常になる。その他にも文字を書く場面はたくさんあり必要になってから勉強してもいいけれど、周りで勉強している人と一緒に楽しめるのか分からないよ。」
「文字を書けないと楽しめないのですか?」
説明が下手だね…。
私が勉強しない人にされたら嫌だと思うことを伝えよう。
「勉強している人と勉強しない人が一緒に文字の読み書きが必要な場所で楽しむことを想像してみて。そのときに勉強しない人が「私の代わりに文字を読んで」「私の代わりに文字を書いて」「私の代わりに計算して」と君に頼んできたとき「私に任せて」と言える?勉強を始めたばかりの幼い子になら言えると思うけれどね。」
「絶対に言えません。勉強しない人のために勉強している奴隷ではありません。勉強を自分でする価値がよく分かりました。」
文字の読み書きの勉強で奴隷という言葉が出てくるとは思わなかった…。
妖精種の人はたくさん森人に奪われてきたのだとよく分かる。
長命種のため世代交代が遅い森人を教育で更生させることができるとは思えない。粛清の恐怖でも難しいと思う。
妖精種も長命種なので森人とできた罅を埋めるのは相当厳しい。
全種族が暮らす多種族国家は余りにも前途多難…。
アンジェが方針を変えてくれたらいいのだけれど。
「はい。全ての勉強を終えたとき、勉強しない人と力の差はどのくらいありますか?」
木妖精の子が手を挙げた。
敷地にいる勉強しない同族を邪魔だと思っているね。
勉強に終わりはないと教える必要はないかな。
敷地の隣にある資料館の勉強まで終えれば気づけるから。
「竜と小鳥くらいの差になると思う。君に罰を与えることはないので正直に答えて。敷地にいる勉強しない同族が邪魔なの?敷地で暮らす人の規則を皆で決めたい?」
「邪魔ですし恥だと思っています。皆の勉強により敷地はどんどん快適な住処になっていくと思うのです。それを何もしない同族が享受するのは許せません。リア様の提案で用意してくださったお風呂も当然のように入りました。森人を見ているようで不愉快になります。だから敷地で暮らす人の規則は勉強している人だけで決めたいです。私は勉強するのを義務とし勉強しない人を追放したいです。そして規則は資料館で勉強することにしたいです。」
勉強しないのは木のように生きていくからだと思っていたけれど、新しい施設は見に来て積極的に利用する。その姿勢が森人に見えるのだから間違いなく嫌悪している。
この子の考えた規則にすれば敷地に残った勉強しない木妖精は義務を教えてもらえずに追放される。
皆を集めて話し合いをする前に確認しておこう。
「勉強が義務になったとしても勉強しない木妖精には教えない。早く追放して挿し木で子を増やしたいと思っている。間違っていなければ追放したい一番の理由を教えて。」
「間違っていません。一番の理由ですが『リア様の選別を通過した選ばれた存在』と言っているからです。『何もする必要はなく敷地にある全ての施設を利用する権利がある』とまで言っています。『神に選ばれた存在』と言っていた森人と同類です。」
森人の奴隷だった妖精種には許せない発言をしている。
辛い日々を一緒に耐えてきたのに…。
席から立ち上がりジェニーの背中を軽く叩いて起こすとまた目を擦り眠たそう。
やはり母親の愛情があれば眠り続けることができそう。
「ジェニー、害はないので見逃したの?興味がないので見逃したの?」
「気に入らない思想だけれど、お母さんが悲しむことではないので放置した。それに木妖精の問題だから訴えてきたら対処方法を考えればいいと思っていた。」
頭を前後に揺らしながらでもしっかりと答えたのは流石だね。
これは木妖精の問題とするべき。
追放するために突如として敷地で暮らす人の規則を変えるのは平等性に欠ける。
「今から対処方法を考えるので起きていて。床に下ろした方がいい?」
「ふぁ…。眠気に抗うのが本気できついので下ろして。食事が必要ないのでお母さんに抱っこされていたら眠り続けると思う。」
昨日不満を吐き出せて落ち着いたのかな。
可愛くて素直な甘えん坊だね。
≪念話≫
「勉強している人を北側の芝生に集めて。敷地で暮らす人の規則について話し合いをする。」
「分かった。」
≪念話終了≫
「今から規則について話し合いをすることにした。北側の芝生に移動するよ。」
「はい。」
私とジェニーが歩き始めると皆が椅子から立ち上がった。
最初に私とジェニーが資料館を出る。
話し合いの後も勉強は続くので分身は解除せずに石畳の上を歩いて、資料館を過ぎた辺りで西側の芝生の上を歩く。
私たちは資料館を背にして勉強している子が集まるのを待つ。
すぐに集まってくれたので話し掛ける。
「芝生の上に座って…。現在敷地で暮らす人の規則は敷地と私たちが作る国で争うのは禁止と会話できる他種族と争うのは禁止。これを変更して、敷地と敷地の出入り口と繋がる国で争うのは禁止。この規則は私以外に変更できないことにする。変更した理由は世界の規則と敷地で暮らす人の規則を明確に分けるため。そしてここからが本題。敷地で暮らす人の規則は勉強している人が決める。多数決ではなく話し合いで皆を納得させた後に私も納得すれば規則に追加する。今日は別としてこれからは規則を考えた人が皆を集めて納得させてから私に話して。この意見に反対の人は手を挙げて。ジェニー、手を挙げている人がいたら名前と種族を言って発言を促して。犬妖精と猫妖精は広域念話を使ってね。」
「分かったよ。」
思考把握を使えば私も手を挙げている人が分かるけれど、魔法の知識があれば相手を簡単に騙すことができる思考把握を使う気にはなれない。
だから世界の記録で知ることができるジェニーに頼んでいる。
「誰も手を挙げていないよ。」
「ありがとう。規則が提案されているので今回は私が伝えるよ。勉強を義務化して勉強しない人は追放する。規則は資料館で勉強する。これは木妖精の提案なので規則に追加するか木妖精の問題にするか先に決める。規則に追加したくない人は手を挙げて。」
勉強を始めて2日目なので今後のことを予想するのは難しい。
だからこの規則が追加されるのは怖いと思う。
とりあえず私も手を挙げよう。
「何でお母さんが手を挙げているの?」
「提案した人に決めてほしいことがある。どこまで勉強すれば追放対象から外れるの?どのようにして勉強したと判断するの?好きな分野だけを勉強したい人もいると思うけれど、特化することは決して悪いことではない。だけど好きな分野だけを勉強するには他の分野もそれなりに勉強する必要がある。それでは提案した人が自分の考えを皆に伝えて。」
ジェニーが静かに私を見ている。
「ジェニーちゃん、何かな?」
「皆に助言するよ。お母さんが勉強した人と認める最低条件は敷地の資料館の本を全て勉強した人。好きな分野だけを勉強するには『他の分野もそれなりに勉強する必要がある』と言っていたけれど、それは資料館の全ての本。敷地の資料館には人間が18歳までに勉強する本しかなく、勉強を義務とするのなら全て勉強するべき。全て勉強した人には敷地の隣にある世界の資料館に入室する権利を与える。それでは木妖精のオードリー、自分の考えを伝えて。」
助言ではなく追い詰めているようにしか聞こえなかったよ。
勉強を義務にする日は来るのかな?
木妖精は髪と服にこだわりがあって見ていて楽しい。
オードリーの髪はショートヘアで服は黄色のノースリーブのワンピース。
美女は何を着ても似合うね。
「すみません。浅慮でした。木妖精の問題に切り替えてもいいでしょうか?」
切り替えが早いのはいいことだと思う。
知らないことを指摘されても意固地にならず柔軟に対処できる子だね。
「勿論いいよ。この休憩時間に話し合う?」
「はい。勉強しない同族を追放したくない人は手を挙げてください。」
資料館で気持ちは全て言い終えている。
仮に勉強していたとしても【選ばれた存在】と主張する人は許せないと思う。
「シンディー、気になることがあるの?」
両端の横髪を編み込み耳にかけて後ろに流し蔦で結んでいる。
服は青のマーメイドドレスで黄色の透き通るようなショールを羽織っている。
「救う機会を一度も与えなくていいのですか?森人の奴隷にされていたのに残っている木妖精の半数以上が選ばれた存在だと思っているのは不愉快ですけれど。」
「森人に救われた同族はいません。保護していただいても500人程しか残りませんでした。自分で努力するつもりがあれば残ることができました。何も考えていない人も残りましたが僅かな時間で選ばれた存在だと思い込みました。本当に愚かです。私たちは選ばれたのではなく救われたのです。だから勉強して少しでも恩を返すために努力するべきなのです。リア様を森人の神と同類のように扱うなどあり得ません。」
「お母さんは無欲だけれど、勉強して恩を返そうと思うのはいいことだよ。それに森人の神はお母さんが消した。格が違うのに同類はあり得ない。シンディー、お母さんが救った人にどのような救う機会を与えるべきだと思う?」
機嫌の良いジェニーを見ていると情けなく思う。
お母さんは偽の世界の別体を参考にして生み出した存在なのだから、消すことを躊躇う必要はなかった。そして真っ当な感覚を持つアンジェに愛情を与えてくれる存在を生み出しておくべきだった。
気づくのが遅いし遠回りしている…。
手を挙げた人を追い詰めるのは別の話だけれど。
「シンディー、絶対に罰を与えないので思ったことを言えばいいよ。」
「ああ…、あの…、その…。私も救われることはないと思っています。追放されて当然だと伝えてから追放すればいいと思ったのです。伝わるか分かりませんけれど…。」
「なるほど。少し待ってね…。」
突然多くの木が石畳を挟んだ正面の芝生に植えられた。
魔力が漏れているので勉強しない木妖精だと分かる。
ジェニーは何をするのかな。
「君たちに質問がある。早く別体を作り出さなければ追放するよ。」
呼び出された木妖精はジェニーの威圧を感じてすぐに別体を作り出した。
微風のような威圧でも守る方法を知らなければ耐え難いと思う。
「昨日できたばかりだけれど、お風呂に入ったことがある人は手を挙げて。私は嘘を見抜けるので騙そうとしたら即追放だよ。」
全員が手を挙げている。
敷地の施設を使う権利があると思っているのは間違いない。
「何故お風呂を知っているの?誰に聞いたの?早く代表で話す人を決めて。」
「私が話します。施設が増えたので皆で様子を見に来ました。同族が服を脱いで入っていたので同じように入りました。」
勉強しない木妖精が一緒に入ったら出た人がいると思う。
権利があると思い込み自分勝手に行動するのは傲慢だよ。
「お風呂が用意された理由を聞いてから入ったの?敷地の施設は誰でも自由に使っていいと話した覚えはないよ。」
許可を得る必要があるとは言っていないけれど、敷地の施設を自由に使っていいとは言っていないので、許可を得る必要があったのかもしれないと考えるべき。
施設を用意した人の言葉なので反省するのが最善。
「同族が入っていたので問題ないと思いました。私たちより先にお風呂に入っていた同族と違いはありません。誰でも自由に使っていいとは思いませんが木妖精が使っていたのですから私たちも使えます。」
反省するとは思っていなかったけれど、暴論を吐くとはね。
木妖精には個がないと言いたいのかな…。
「勉強していた木妖精はお母さんがいつでも入っていいと許可している。その場にいなかった君たちは許可されていない。お風呂に入っていた同族に自分たちも入っていいのか聞いた?何故用意した私たちに確認するという事ができないの?特別な施設なら入れないようにするはずとか言わないでよ。私たちの自宅に誰でも入ることができるのだから。」
「聞きましたが『誰でも入っていいとは言われていません』と答えました。自分たちだけ楽しんで私たちに嫌がらせをしていると思いました。私たちにだけ許可が必要であれば平等ではありません。」
この人はジェニーの話を信じるしかないのに平等ではないと発言した。
ジェニーの話を真面目に聞いていれば出ない言葉だよ。
「平等ではない理由を言って私が納得できなければ追放する。ジェニーの発言が嘘か本当か君は分からない。だから敷地を管理しているジェニーの発言を信じるしかない。そしてお風呂に入っているのは私が許可した人と言っているのだから、全員に許可が必要で平等だよ。」
「許可が必要だと知らされていません。施設についても知らされていません。それなのにお風呂に入ったことで追放しようとするのが平等ではありません。」
「平等でした」と反省する機会をあげたのに、本当に愚かだね。
それに与えられるべきだと思っている。
【選ばれた存在】と思い込んでいる影響かな。
「大前提としてお風呂は木妖精に必要のない施設。だけど別体なら利用できるのでお風呂を用意した場にいた木妖精に入っていいと言った。そして何も知らないのに施設を用意した私たちに確認せず利用するのは問題がある。君たちが自分勝手にお風呂に入ると本来の目的が潰される。事前に確認してくれたら目的が潰れないように木妖精の利用する時刻を決めているよ。施設について何も知らないのに自分勝手に利用したのは君たちが初めて。追放する理由は私たちに不満を持っているから。敷地は不平等だから森で平等に暮らせばいい。森に移動する前に言いたいことがあればどうぞ。」
「私たちに確認せず木妖精に不要な施設を用意しています。別体なら利用できても時刻を指定されます。完全に除け者です。それに保護しておいて不満を持てば追放するのは最低です。不平等を押し付け除け者にし不満を持たせて邪魔者を追放するのは独裁です!」
勉強しないのは好きにすればいいけれど、本性が酷すぎる。
「ジェニー、殺す価値もない。分かったね?」
本気で殺す目をしている。
ジェニーはその目をしてほしくない。
「はーい…。」
不満を隠す気がないね。
今のままでいてほしいけれど。
「木妖精が優遇されているのは栄養を得るだけで分かります。木妖精に不要な施設も環境維持の負担を軽減するために用意されました。お風呂は体を綺麗にする施設です。木妖精に占領させないため時刻を指定されても仕方ないでしょう。施設について知らなければリア様に確認するのは当然です。森人から保護していただき、最善の環境を維持していただき、勉強することができお風呂に入れます。…最低?…不平等?…独裁?これらはあなた達の自己紹介ですか?それと【選ばれた存在】を追放したいと望んだのは私で今は勉強している木妖精の総意です。よろしくお願いします。」
オードリーが話し終えた直後に勉強しない木妖精は消えた。
追放を望まれている人と話して面倒だと思った。
今後は追放を望む人と私が納得していれば追放してもいい気がする。
「良い機会だから言っておくよ。私は完璧な存在ではないので間違った言動をするときがあると思うけれど、理由を確認せず不満を溜めるのなら森で暮らして。私たちに不満がある生命は敷地で暮らす必要はない。だから確認するけれど、先程の木妖精を追放した言動で間違っていると思うことがあれば手を挙げて。指摘されたことに怒って罰を与えることはない。だけど指摘した人が間違っていると皆が思っているのに間違いを認めず意固地になれば追放する。これは当然だと皆が納得してくれると思う。それでは確認したいことがあれば手を挙げて。」
確認したいことがあっても最初に手を挙げるのは勇気がいるので、プリムスかクラーラだけしか今回は手を挙げないと思う。
だけど木妖精の問題なのでプリムスが有力。
皆と自然に話せるようになれば手を挙げてくれる人も多くなると思う。
今回は手を挙げても罰が与えられないところを実際に見てほしい。
「妖精女王のプリムス、発言して。」
手を挙げてくれた!
恐らく種族の違いによる疑問だと思う。
「はい。確かに勉強しない木妖精の行動は不愉快でした。それに発言していた人は追放されて当然だと思います。ですが他の人の意見を聞かずに発言している人と同類だと見做して追放するべきだったのでしょうか?」
木妖精の種族特性を知らず客観的に見ていると1人の発言に皆が巻き込まれたように見える。私も詳しくは知らないのでクラーラに教えてもらうのが一番。
「客観的に見るとその通りだね。木妖精のクラーラ、種族特性を説明して。」
「はい。先程は勉強しない木妖精が集められました。この時点で集められた側は共通点が分かります。そして種族特性により共通の目的で話し掛けられたときは、最初に発言した人に全て託します。そのため発言した人の責任は連帯責任になります。それに発言する人は根を繋げて意見を共有していますので代弁している状態に近いのです。ですが意見の違う人がいれば発言します。先程は1人だけが発言していましたので全員同じ意見だと証明していたのです。」
私が思っていたよりも連帯責任だと明確にできる。
クラーラに教えてもらえてよかった。
「ありがとうございます。木妖精の種族特性を知っていると全く違った光景に見えますね。せっかくですので妖精の種族特性を話します。女王が支配できる妖精は200人程ですが力により人数が変わるかもしれません。支配されている妖精は女王の命令に逆らえませんが、部族を守るための命令に限ります。女王は女王候補を1人指名でき女王が死ねば女王候補が女王の知識を継承して新たな女王になります。女王が女王候補を指名せずに死んだ場合は最年長の妖精が女王になりますが知識は継承されません。女王が支配できない人数を生み出した場合は新たな部族が誕生し最年長が女王となります。森人は妖精が知識を得るのを禁止しました。そして部族を守るためには女王の命を守ることが必須とだけ教えました。それにより女王を人質にして妖精を酷使することができたのです。勉強すれば部族を守る方法が必ずしも女王の命を守ることではないと考えることができるようになるでしょう。」
女王が人質になっているので妖精は逃げることもできず森人に従うしかなかった。
これは妖精に詳しくなければできない最低な方法…。
「森人は神から与えられた知識を悪用したの?」
「クズは妖精を奴隷として酷使する方法を教えた。他に手を挙げる人はいない?」
既に評価は最低なのに底を突き破りそう…。
奴隷にされるのも、拷問されるのも、人体実験されるのも、殺されるのも、あらゆる方法で数多の生命が苦しむ姿を娯楽にしていたとしか思えない。
「お母さん、いないよ。」
隣に立っているジェニーを抱っこして頭を優しく撫でる。
眠気に抗うのはやめたみたい。
「私たちは休憩を終えて資料館に戻るけれど、疲れている人は休んでいていいからね。昨日の続きは次の休憩から聞くよ。」
私の発言を聞いた皆も芝生から立ち上がり休憩を終える。
これから妖精種の人数が増えていくけれど、皆で話し合って協力するのか施設を広くしてほしいと望むのかどちらだろう…。
協力するけれど、施設を広くしてほしいと望まれるのが理想だけれどね。
ジェニーはリアの温もりがなければ安心して眠れません。




