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世界は子を愛す  作者: 大介
第3章 実験の結末

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第111話 母と子 前編

 実験場の人間を育てることについて、お母さんに手渡された紙を見ながら明日のことを考えていたら問題に気づくことができた。

 これでは幼い子の感情を全く気にしていない。


 お母さんも気にしていないのは手渡された紙を見れば分かる。


 客観的に見れば奴隷の子を買い集めて国をつくるのと変わらない。

 我儘で独善的で宇宙一の力まであるのだから本当に最低だね…。

【リアは違う!】


 可愛い娘が否定してくれたけれど、私の失敗だよ。


 ジェニー、明日の準備をお願いね。

【了、私たちだけで育てられるので問題なし】


 甘えん坊だね。

 2人だけになりたいの?

【違う!事実を言ったの!】


 確かにその通りだね…。


「お母さんは実験場の人間の教育をどのように考えているの?」

「あなた達が私に押し付けたのでしょ。何か考えることがあるのかしら?」


 口を開こうとしたアンジェを視線で止めた。

 お母さんにはとても任せられない。

【是】


「お母さんはアンジェと一緒に行動して。教育は私とジェニーがするよ。」

「せめて理由を言いなさい。」


 正直に話しても納得しないだろうね。

【是】


「私たちが教育をお母さんに任せた理由を考えていない。教育される幼い子の気持ちも考えていない。押し付けられたと思っているのだから交代に文句はないでしょ。」


「確かに幼い子の気持ちは考えていなかったけれど、あなた達が私に任せた理由があるのなら説明すればいいでしょ。」


「未来のことを何も考えていないからだよ!何もすることがなく退屈な日々を精神を濁らすことなく過ごすことができるの?」


 アンジェが「先のことばかり考えていると楽しめない」と言ったのに…。

 怒っているアンジェの気持ちは分かるけれど、お母さんと揉めてほしくない。

【気づいているのは私たちだけ】


 それはそれで残念だよ…。

【確かに…】


「退屈な日々は精神が濁りそうね。つまり私の精神が濁らないように教育を任せたのでしょ。それなのにアンジェと一緒に行動してもいいのかしら?」

「どちらでも同じだよ。世界で過ごす理由は自分で見つけるべきだから。」

「頼まれたことを続けるだけの日々は飽きる可能性が高いからね。」


 100年程度であれば問題ないけれど、長い歳月を過ごしていくと頼むことが必ず負担になる。頼まれなくて精神が濁った場合は頼まなかった側も精神が濁ってしまうかもしれない。

 それだけは絶対に避けたい。

【是】


「なるほど。それでリアはどうしてほしいの?」


 これまでの会話が全て流されたね。

【理解不能】


「それが駄目だと言っているの。決められなければアンジェと一緒に行動して。」

「リアは私のことを気にしすぎだよ…。」


 大切だから気にするに決まっているでしょ。

 それにお母さんはアンジェのお母さんだからね。

【是】


「任されたことを放り出すのは気になるのよ。私は子供の教育をするわ。」


「それなら子供の感情に配慮してよ。記憶のない幼い子が増え続けていく状況は異常だから。お母さんは神が救った子の教育を任されたことにする。神が救った子は5万人いるけれど、一度に全員を教育するのは無理なので少しずつ教育する子を増やしていく。お母さんは神と話せる巫女でも女王でも何でもいいので好きな役を貫いてよ。」


「不信感を抱かせないためにはお母さんが神に任されたことにするのが一番だね。」


 お母さんの教育に問題があれば報告して。

【リアが育てた方がいい】


 お母さんの精神が濁る可能性が高い。

 アンジェのお母さんだからできる限り避けたい。

【アンジェに甘すぎ】


 本当に大切だから。


「5万人の子を母親として育ててあげればいいのね。それなら大人になっても仕事が決まっていない子を追放するのはやめて。仕事を一緒に考えてあげれば問題ないでしょ。」


 一緒に考えて働くことができれば問題ないよ。


 アンジェはお母さんと一緒に教育することを決断する。

 お母さんが心配で妖精種に勉強を教えることができないから。

【そこまでする?】


 今晩お母さんに抱きしめられて眠るので可能性は非常に高い。

【当たったら凄い】


「お母さんの計画で進めていいけれど、愛情を持って育ててあげて。それと粛清対象になるような教育はしないでね。」

「世界の規則と国法を考えるので大丈夫だよ。手伝ってほしいときは言ってね。」


 アンジェがお母さんの発言を聞いて心配になっているでしょ。

 だから「手伝ってほしいときは言って」と声を掛けた。


 明日になれば更に心配になる。

【アンジェのことしか考えていないね】


 本気で大切だから。

 ジェニーのこともね。

【…】


「私が差別するような子に育てるはずがないでしょ。だけど6歳未満の子は一度に育てたいので手伝ってもらうわよ。さて、今晩の話し合いはここで終わり。お風呂に入りましょう。」

「リア様、行きましょう!」

「命懸けで我慢した後は私たちを待つ余裕もないの!?」


 2人を無視してお風呂に入るつもりだね。

 明日から私の近くにいる生命を結界で守って。

【当然!】


 リオリナは私を抱っこしたまま立ち上り脱衣所に向かった。

 脱衣所に入ってから床に下ろしてもらえたけれど、私が服を脱ぎ終えたらすぐに抱っこされてお風呂に入った。そしてお風呂の中で私を下ろして背後から抱きしめられた。


 宇宙の支配者になってもこれには抗えないね。

【何故か眠たい…】


 ジェニー、おやすみ。

【おやすみ…】


「リオリナ、あとはよろしく…。」

「はい。任せてください!」


 リオリナが本当に嬉しそう…。


◇◇◇

翌日。


 リオリナの声で目が覚めた。

 大人になっても抱きしめられたら眠ってしまうのか気になる。


 ジェニー、おはよう!

【おはよう…】


 挨拶で照れる必要はないでしょ。

【照れていない!】


 アンジェもお母さんに起こされたみたいなのでリオリナと3人で脱衣所に行き顔を洗って着替えた。

 お母さんが魔法で楽をするのは変わらないみたい。


 記憶と同じことを無意識にしているだけなのかもしれないけれど。


 着替えたらリオリナに抱っこされた。

 リオリナは私を抱っこしたままリビングの椅子に座った。


 リビングテーブルには人数分の椅子が用意されているけれど、リオリナが1人で座る姿は想像できない。私を抱っこできなくなったらジェニーを抱っこすると思う。

【拒否!】


 ジェニーを最初に抱きしめるのは私だから安心して。

【それは別問題!】


 1万年後でも1億年後でも私は大丈夫だから安心して。

【それは知っている】


 素直になるまで私の溺愛が続くよ。

 素直になっても続くけれどね。

【それも知っている】


「お母さんを転送で体育館に移動させてから6歳の子を男女50人ずつ生み出せばいいよね?」

「要望通りになっているのであればそれで構わないわ。」

「お母さんは生み出された直後の6歳の子を100人まとめることができるの?」


 できなければ教育は無理だね。

【是】


「分身して興味を持たせるので大丈夫よ。アンジェは最初から手伝ってくれるのかしら?」

「アンジェ、お母さんを手伝いたいのなら妖精種の勉強は私が分身して教えるので大丈夫だよ。」

「リア、ごめんね!お母さんが心配だから手伝うよ。」


 予想が当たってしまったね。

【怖いよ!】


 素直に行動できるアンジェが羨ましい?

 お母さんとアンジェに施設の記憶を入れてあげて。

【了、羨ましくない…。リアに記憶を入れなくてもいいの?】


 私にはジェニーがいるでしょ。

 案内してくれる日を楽しみにしているからね。

【気が向いたら…】


「これで施設の案内は大丈夫だね。今気になることがなければ2人を転送してから100人生み出すよ。今後気になることがあったら随時教えて。」


「施設が丁寧に作られているわね。私はないけれど、アンジェはどうかしら?」


「リアのためにジェニーが気合を入れて作ったのでしょ。私の知っている学校より遥かに利便性が高いね。リア、実験場の人間が全員成人した後に残りの生命を生み出して。国づくりを邪魔されたくない。」


 私のために気合を入れて作ってくれたんだね。

 ありがとう!

【私が凄いだけ】


 それは私が一番よく知っているよ。

 本当は素直になりたいこともね。

【違う…】


 そうだね。

 今は違うという事にしておくよ。

【…】


 私たちに邪魔されたくないと言えるのはアンジェだけだね。

【リアはアンジェに甘い】


 アンジェも私に甘いのでお互い様だよ。


 話が逸れてしまったね。

 ジェニーが一生懸命に作ってくれた施設を使うのは私たちではない。

 国づくりも私たちが深く関与することはないと思う。


 それでも気にせずに環境を整えてあげられる?

 今後頼まれることが増えると思うけれど、それに対して不満はない?

【気にならないし不満はない】


 その言葉に嘘はないね?

【本当だよ】


 それならいいけれど…。


 僅かでも違和感を覚えたら必ず教えて。

【分かった】


「お母さんはアンジェと一緒に子供を教育して国づくりもするという事でいいの?」

「お母さんは国づくりに同意していなかったね。いいの?」

「勿論いいわよ。アンジェが私と一緒にやりたいことは全てやりましょう。」


≪念話≫


「アンジェは感情移入しやすいお母さんの精神が濁らないようにしたいのでしょ。負担が大きければお母さんと別行動するべきだと思うけれど、どうするの?」

「お母さんと一緒に眠ると負担が解消されるので問題ないよ。やることがなくなった後にお母さんの精神が濁ったら仕方ないと思う。それまでは一緒に行動するよ。」


 愛情が負担を解消してくれると感じたのかな…。


「お母さんと一緒に行動してアンジェの精神が濁ったら終わりでいいの?」

「それだとリアが納得できないよね…。だからリアが安心できる状態の私を生み出して。これでリアが私を心配しすぎなくても大丈夫だよ。」


 全然大丈夫ではないよ…。


 とにかくアンジェが同意してくれたので生み出すことに罪悪感はないし、ジェニーの仮想体がアンジェの精神にいるので、いつでも記憶を保護できる。

 精神が濁っていてもアンジェを消すのは辛いけれど、それが私の役目だね。


「分かった。アンジェも全力で楽しんでよ。」

「当然だよ!世界征服してみたかったからね。実は私が最高権力者だから面白いでしょ。」


≪念話終了≫


 アンジェが笑顔で過ごしているのを長く見ていたい。

 私の半身だと思っているから。

【全身アンジェだよ】


 静かだと思ったら煽る機会を待っていたの?

 愛情で負担が解消されるのか検証する?

【アンジェを信じているので必要なし】


 ジェニーはアンジェが好きだけれど、信じてはいない。

 信じているのは私だけでしょ。

【秘密】


「2人とも準備はいいかな?」

「いつでも大丈夫だよ!」

「私もいいわよ。それと計画に追加で親子の婚姻を必ず阻止してちょうだい。思考誘導で感情を調整すればできるでしょ。」


 アンジェが驚いてお母さんを見ている。


 発言した当人は何も考えておらずジェニーに任せる問題でもない。

 思考誘導を使えない人が思考誘導すればできると思っているのが滑稽だよ。


 ジェニー、お母さんの追加した計画はできそう?

【余裕!】


 余裕?


 世界の記録を見て粛清するのとはわけが違う。

 戸籍を記憶して全国民を感情把握と思考把握して恋愛に発展しそうな対象者を思考誘導しなければならない。


 それに親子の婚姻を阻止するだけでは足りない。

 三親等内の婚姻を阻止しなければ血のつながりが濃くなる。


 それにより障害を持つ子が産まれやすいのは歴史が証明している。


 ジェニー、本当に余裕なの?

 僅かでも違和感を覚えたら必ず教えてと言ったばかりだよ。

【忙しいです…。ごめんなさい…】


 自分を追い詰める強がりはやめなさい。

【はい…】


 障害を持つ子を治すことはできる?

 性格が変わってもいいから。

【それならできる】


「思考誘導で阻止するのはジェニーの負担を考えると問題外だね。だから国法で三親等内の婚姻を禁止にする。そして婚姻届の提出を義務化し戸籍管理を徹底する。婚姻届が提出されたときに過去の戸籍と照らし合わせれば書類上は婚姻を阻止できる。もしくは国法で禁止にしておいて何も伝えずに障害を持つ子が産まれたら報告するのを義務化する。報告があればジェニーに治してもらう。性格が変わることもあるけれど、それも込みで治癒とする。私が提案できるのはこれくらいだよ。」


「お母さん、思考も感情も世界に記録されないんだよ。戸籍を全て記憶して思考誘導する対象なのか判断しなければならない。それに三親等内の婚姻がいつまで続くのか分からないので終わりが見えない。だから思考誘導で阻止するのは無理がある。教育する子のことを考えると過去の戸籍は伝えずに産まれた子に障害があれば報告するのを義務化してジェニーに治してもらうべきだよ。」


「教育する子のこと考えると過去の戸籍は伝えない方がいいわね。」


 自分の考えを反省する気はないみたいだね。

 もしかしてお母さんは娘に愛情を与えればいいと思っているだけなの?

【その可能性が高い】


 お母さんとお母さんの分身とリオリナの思考誘導なら問題ない?

【絶対に問題ない】


 アンジェの負担を軽くしてあげたい。

 問題に向き合うのは間違いなくアンジェだから。


 お母さんとお母さんの分身は教育する子に感情移入しすぎないようにして。

 リオリナは妖精種と一緒に勉強しつつ精神を鍛えられるようにして。

【分かった】


「それでは2人を体育館に転送するよ。」

「いいよ!」

「私もいいわよ。」


 2人を体育館に転送してから100人生み出して。

【了】


 椅子に座っていた2人が移動した。

 この光景が当たり前にならないように気をつけよう。


「リオリナ、妖精種と一緒に勉強しに行くよ。精神も鍛えてね。」

「分かりました。命懸けで鍛えます!」


 リオリナは私を抱っこしたまま立ち上がり玄関に向かった。

 私に靴を履かせ、私を下ろすことなく自分の靴も履いて外に出た。


 視線を多く感じるので勉強するのを待っていたみたい。


≪広域念話≫


「今から勉強するよ。私が分身してアンジェの代わりに教えるので安心して。勉強したい人は敷地の真ん中にある2軒の建物に集まってね。建物を今から資料館と呼ぶよ。出入口を正面にして左手側が木妖精(ドライアド)と妖精用の資料館。右手側が犬妖精(クー・シー)猫妖精(ケット・シー)用の資料館。途中参加でもいいので慌てないでね。」


≪広域念話終了≫


 ジェニー、3歳児として自分の分身を作り出して。

 母親と同じ身長はおかしいでしょ。

【教えるのを手伝えと言えばいいでしょ】


 ジェニーが3歳児の分身を作り出した。

 そのあと私は25歳の分身を作り出した。


 そして私の分身がジェニーの分身を抱っこした。


【何しているの!】

 分身が分身を抱っこしているだけでしょ。

 ジェニーの分身は嫌がっていないので問題ないね。


 何故嫌がらないのかな?

【分身に聞いて…】


 あれ!?


 12歳と25歳の私の身長は余り変わらない。

 12歳なのに抱っこされているのはおかしい気がする。

【年齢の問題だよ!】


 リオリナの精神が鍛えられたら自宅のみにするのが無難かな。

【確実に濁るからね】


 私たちが歩き始めると勉強したい人が集まってきた。


 妖精は早い者勝ちのように私たちの肩に座り、座れなかった妖精も資料館に向かう木妖精(ドライアド)の肩に座っている。

 犬妖精(クー・シー)猫妖精(ケット・シー)は私たちと一緒に歩いたり追いかけっこをしながら資料館に向かっている。


 賑やかで楽しいね。


 リオリナは耐えているけれど、命懸けの雰囲気ではない。

 思考誘導の調整が上手い証拠だね。


 昨日のリオリナを見て思考誘導の強さを決めたの?

 威圧が漏れない程度に抑えているみたいだね。

【正解】


 ところでジェニーは知っているのかな。

 何を楽しみにしていると思う?

【知らない…】


 知らないと思ったよ。

 分身の解除が楽しみだからね。

【他に楽しいことを探すべきだよ!】


 既に見つけてあるよ。

 ジェニーの分身の記憶を私に入れてね。

【絶対に嫌だ!】

ジェニーも分身解除が楽しみです。

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