第107話 愛情
家の外で訓練しているとお母さんに声を掛けられた。夜だと言われても太陽に夜は来ないので時計で判断したと分かるのだけれど、ここにいると時間の感覚が狂いそう。
アンジェと一緒に家に入るとお母さんはリビングの椅子に座っていた。机には2冊の本が開かれていて鉛筆で紙に何か書いてある。
ジェニー、私たちと家に結界を張っているの?
結界が見えないけれど…。
【否、家と先程いた場所まで結界で包み27℃で固定。3人は力不足で結界が見えない】
ジェニーの扱う最小魔力はまだ感知できていない。
努力する最強を追い越すのは大変だよ。
【笑、頑張れ!】
なるほどね!
本物の世界の精神がこれでは腐敗して当然だよ。
【是、人の影響を受けた結果。リアは人を卒業したけれど】
超人を目指していたのに宇宙の支配者だと思われているからね。
このまま話を続けると煽られるのが分かっているので気持ちを切り替えて椅子に座った。
【笑、現実逃避】
私の性格が悪すぎて涙が出そう…。
【笑、面白すぎて涙が出そう】
はい、ここまで!
【了!】
「お母さん、今まで暮らしていた世界に生み出す人種は決まったの?」
「とりあえずジェニーに歴史を教えてもらいましょう。リアに遊んでほしいのは分かるけれど、椅子に座って説明してちょうだい。」
「ジェニーは何か隠しているのかな?」
ジェニー、歴史を話したら私の精神に戻ればいいよ。
どのような歴史でもジェニーに責任はないから。
【是、分かった】
ジェニーが私の隣に椅子を作り座った。
姿は私と同じだけれど、髪と目がとても綺麗な青色だから星魔力を意識している気がする。
「人種が繁栄する前の世界で生命が存在した世界は1つ。そして竜種が生態系の頂点。だけど世界は人種を繁栄させるために竜種を消した。人種は繁栄したけれど、人間の繁栄が最も早く別の人種を奴隷、強制労働、人体実験に使った。魔力のない生命はいるけれど、魔力のない馬と牛と鶏は人間の実験で作られた生命。太陽はその世界と全く同じ世界を作り出した。その世界に人間と実験で作られた生命以外を生み出した。しかし太陽が作り出した世界は人間に侵略された。これには世界も関与している。人間以外の生命で実験する人間に人間で実験するように思考誘導し知識も与えた。太陽が作り出した世界は3つで生命が繁栄できる世界は4つ。4つの世界は同じにするつもりだったけれど、やめる?」
「竜種以外にも強い魔獣はいたと思うけれど、竜種を消すだけで人間が繁栄できる状況だったの?それと人間以外の人種を絶滅させた理由を知っている?」
竜種の存在により人間が繁栄するのは遅くなると思うけれど、世界が消さなくても絶滅させられた気がする。世界の関与がなくても生命で実験していたのだから、人間を実験対象にするのは時間の問題だったと思う。
人種の中で人間の欲が最も強いのは証明されたけれど。
「最上位の竜は人になれるし賢い。世界の秩序を竜が守っていた。他にも強い魔獣はいたけれど、竜がいたので縄張りから出ない。世界から知識を与えられた人間は特別であり別の人種を劣等種だと認識した。魔法で日々の生活が豊かになり選民思想が生まれた。人は人間だけという理由で別の人種を絶滅させた。世界が協力していたので逃げられない。」
「世界の関与がなくても人種が同じ国で平等に暮らせるのか分からないね。最上位の竜が世界の秩序を守っていたので人種は生きていけたのだと思う。」
「短命種だけ別の世界で争わせておけばいいよ。短命種の過剰な繁栄は世界の害になるから。お母さんは短命種を管理したいの?」
生命の在り方を変えることに躊躇がないのだから人体実験も争いで負けた人種を捕まえてすればいい。私が人種の共通の敵になれば平和に繋がると思うけれど、そこまでする気にはなれない。竜種を共通の敵として人種を結束させる気にもならない。
私は人種の管理者ではないから。
「リア、人種を教育するのはやめたの?」
「とりあえず実験場にいた人間は教育するよ。勉強しないと殺されるか奴隷にされるから。だけど生きる機会は平等であるべきでしょ。それ以外は今のところ何も考えていない。」
「お母さんはどうしたいの?実験場の人間だけでも5万人はいると思う。勉強内容を魔獣と戦える程度にしても教えるのは大変だよ。」
「実験場の人間はリアの要望により、記憶消去、精神修正、体修正、年齢を6歳以下にしている。基礎知識も入れる?」
基礎知識を入れても成人して国を管理し自衛できるまでは保護してあげないと危険。頑丈な防護壁で守られている国は目立つし間違いなく狙われる。
「リアは実験場の人間を何年保護するつもりでいるの?」
「最短で10年かな。国を管理し人種と魔獣から身を守れるようになるまで。100万回以上も殺されているので多少は贔屓するよ。教育次第で争わない人間になるかもしれない。迎撃は仕方ないけれどね。」
「100万回…、太陽の執着が気持ち悪いね。とにかく他種族を差別せず争いを好まず自然と共存できる人間に教育できたら、世界の在り方を変えられるかもしれない。」
アンジェの言った通りになれば最高だけれど、争わない人間の情報はないので試してみるしかない。失敗したとしても情報が増えるのだから無駄ではない。
短命種の可能性を探るにはちょうどいい気がする。
「歴史と竜種について話すつもりだったのに私が5万人の人間を教育することになっているわね。普通に考えて1人で5万人は無理よ。保護するのだから500人から始めて乳児を世話する人を先に育てる計画でいいかしら?」
「せめて1万人から始めて5000体の分身で教育してよ。基礎知識は入れておくので更に勉強するのか遊ぶのかは本人次第にすればいいでしょ。5100体の分身を作り出せば乳児も世話できるよ。お母さんは訓練していないので星魔力について理解していないね。」
「3万体の分身を作り出して全員を一度に世話すればいいでしょ。手抜きする理由はないよ。」
「500人…。歴史を話しても無駄だったし戻ろうかな。」
星魔力を使ったことがないお母さんは具体的な意見が言えない。歴史について話をさせたのにお母さんが何を言いたかったのか分からない。
同じ世界が4つある事と、竜種が世界を管理していたけれど、世界に消されたという情報だけで十分だと思う。世界と人間が腐っているのは知っているのだから。
ジェニーは大切な情報を隠すようなことはしない。
「仕事がある。戻るね。」
椅子と一緒にジェニーが消えた。
会話に参加しているのが面倒になったからだと思う。
ジェニー、人種と妖精種と竜種は別枠にして指定された世界以外では生み出さないで。
【了、最初の世界はお母さんに任せる?】
そのつもりだけれど、会話していると不安になる。
「お母さん、最初の世界に生み出す人種は決まっているの?」
「リアはすぐに決められるのかしら?」
「お母さん、リアはすぐに決められると思うよ。」
人種のことしか考えていない気がする…。
【是、世界を気にしていない】
「実験場の人間、人間、獣人、小人、蜥蜴人、有翼人。資料館は赤道上にある最も大きな大陸の中心に配置して結界で守る。精神が濁っていたら入れない。本は持ち出せないし破損もしない。そして資料館を中心に国をつくる。国民は実験場の人間にして教育方法は学校と同じ。但し、私たちが教育するのは実験場の人間だけ。勉強する施設があることは世界中の人種に伝えるけれど、勉強するのかは自由。実験場の人間を世界最強にして人種に対しては迎撃を基本にする。争いの多い世界は1つでいいし短命種を見極めることができる。決定でいいの?」
「お母さん、リアは人種を特別だと思っていないよ。これだけでも十分すぎるほど特別扱いしている。世界の管理者であって人種の管理者ではないからね。」
「短命種を争わせることが目的なの?それで何が見極められるの?」
お母さんは何を言っているの?
【不明】
「争うのが短命種でしょ。争い続けて滅びるのか争うことをやめて共存するのか見るだけだよ。言葉だけで争いをとめることはできないからね。」
「前世では人間だけになっても資源や領地を求めて争っていたけれど、世界が関与しなければ共存できるのかな?」
「それなら争わないように保護すればいいでしょ。」
お母さんは本気で何を言っているの?
【不明】
お母さんを解析しても問題はない?
【了、問題なし】
「お母さんが世界と繋がって人種を保護し続けるの?その世界に縛られ続けるし、人種だけを保護していたら多くの種が絶滅することになると思うけれど、それは気にならないの?」
「お母さん、争うことを悪いと思っていない短命種を保護して争わないように教育するの?洗脳か思考誘導を使わなければ力で抑え付けることになるけれど、それでいいの?世界が関与しない短命種を見たいのにお母さんは真逆の方針なの?保護するのであれば世界の女王として君臨し続けるしかないよ。」
「争うのが分かっていて保護する力があるのだから保護すればいいでしょ。女王に君臨し続けなくても争わない日が来るかもしれないのよ。」
星魔力の強さを理解していないお母さんが力に溺れているとは思えない。どのような理由があろうと人種の保護しか考えていないお母さんに太陽の力を使わせるべきではない。
あとから力に溺れるかもしれないし面倒事は減らしておきたい。人間の味方をした腐った世界と人種の味方をするお母さんが一緒にならないとは限らないのだから…。
【リアの楽しみを奪った?】
ジェニーのせいではないよ。
「人種のことしか考えていないお母さんは今の力を持つのに相応しくない。だから世界の力で作れる体に変える。そして世界の女王になるために記憶のないジェニーの複製を入れるので名前を付けてあげて。ジェニー、お母さんが保護して教育するのは凡そ何人かな?」
【500万人】
「お母さん、500万人だよ。体を変えていい?アンジェはお母さんを手伝うの?」
「手伝わないよ。腐った世界と似たことをするつもりだから…。」
「世界を腐らせた精神と同じにしないで。あなた達には人種に対する愛情がないのね。世界の力があれば十分に保護できるわ。早く変えなさい。」
ジェニー、お母さんの思考に異常はない?
【是、成功する思っているだけ】
「分かったよ。どのような状況から保護を始めるの?当時の住居を用意して、そこで暮らしているところから保護を始めるの?」
「人種が魔獣に襲われているのを見かけたら助けるよ。だけどお母さんの考えでは愛情が足りないのでしょ。洗脳か思考誘導せずに教育できたらいいね。」
「資料館は用意して。そして500万人を封印して魔獣に襲われない部屋に並べてちょうだい。」
本気で言っているの?
【是、笑えない…】
「その部屋が簡単に作れると思っているの?砂漠に並べて結界で守れば十分でしょ。」
「無茶苦茶だね。国をつくれと言っているようなものだよ。」
「砂漠に並べるのは非常識よ。人種に愛情がないわね。それなら資料館に500万人を並べる地下室を作りなさい。」
先のことは何も考えていないの?資料館を中心に国をつくるのであれば地下室が邪魔で上下水道の配管を通すのが難しくなる。
耐久性を考えると柱が大量に必要で、砂に寝かせるのが嫌なのだから石材を敷き、魔石で照らさなければ何も見えない。
そこまでしても地下室は邪魔になるので確実に消される。
「ねえ、馬鹿にしているの?広大な地下室は一度使えば消されるし資料館を中心に生活と勉強する施設を作るのであれば邪魔になる。私たちは普通の人ではないので気づいていないのかもしれないけれど、人種は食事するしトイレも必要だよ。本当に決定でいいの?途中で投げ出したり思考誘導か洗脳で誤魔化したらお母さんを消すから。」
ジェニー、お母さんは人種を愛しているね。
【是…、本物の愛情は人種に平等かも】
「リアに生み出されたのに私たちより他人を優先するとは思わなかったよ。まだ何も計画していなくて手探りで始めるのでしょ。お母さんができたと思ったのに残念…。」
「あなた達が私と一緒に人種を保護しないのが悪いのよ。それに洗脳と思考誘導を使うはずがないでしょ。馬鹿にしないでちょうだい。決定でいいわよ。」
「ジェニー、精神を複製して記憶のない精神をお母さんに入れてあげて。お母さんは資料館で目覚めるので人種の保護を頑張って。それと精神に名前を付けて世界と繋げてね。」
お母さんを封印して。
【了】
お母さんの体を世界の力で作れるものに変えて。
【了】
太陽について、星魔力について、私たちについての記憶を消して。
人種を保護することは覚えていられるでしょ?
【了、家で会話した内容で問題ないものを残した】
お母さんの気が触れる可能性もあるので生命核、魔法核、核の守りを徹底しておきたい。
ジェニーに任せてもいい?
【是、私と同じ精神が入っているので万全にする】
最初にできる世界を第1世界と呼ぶね。
第1世界の資料館の結果と地下室と人種の封印には魔力を使って。
【是】
私の年齢を25歳にして服も合わせて。
【了】
髪が腰まで伸びたけれど、邪魔だと思わない。
背が伸びてアンジェを見下ろしていることに違和感を覚える。
「今日からアンジェは私が抱きしめて眠るよ。」
「前世の姿なのにリアだと少し違って見えるよ。赤ちゃんが大人になって姉を抱きしめるのは変だと思うけれど、お願いするね。寂しい気がするから…。お母さんは世界の別体だった感覚が残っているのかもしれないけれど、私たちの考えを全く理解してくれなかったので仕方ないね。お母さんから私たちについての記憶を消したでしょ。お母さんと呼ぶのも今日で最後だね。」
アンジェはすぐに気づくね。
封印しているので記憶を消すのは当然だと思えるのかもしれない。
「その通りだよ。世界に縛られ人種の保護に縛られることを譲らなかった。最初は脅して教育するしかないと思うし、力を得た人種が女王の君臨を認め続けるのか疑問だよ。だから逆らった相手を派手に粛清して二度と逆らわないように脅すしかないと思う。それと実験場の人間は私たちが育てようと思っているけれど、それでもいい?」
「教育しても争いが起きて女王でいることを否定されたら精神が濁りそう。本当に馬鹿だよ…。実験場の人間を育てるのはいいけれど、繁栄させるの?」
人間を育てるのであれば先を考えておく必要がある。繁栄させるのであれば世界の法を作って破った国や個人を消すのが一番だと思う。
「最初にできる世界を第1世界と呼ぶことにしたの。それで第2世界も全く同じ人種を生み出して世界の法を作ってみる?」
「国際法だね。色々と思いつくけれど、育てる子たちに考えてもらうのが一番かな。基本的なものは最初に周知して破ったら粛清を10年続ければ効果はあると思うよ。」
どのような世界になるのか分からないけれど、試してみるしかない。
【是、情報は大切!】
「それでは第1世界ができるまで眠ろう。その方が訓練で使える魔力量は多いからね。」
「太陽の中は暇だからそれがいいよ。」
今から第1世界に送る魔力を溜めておいて。魔力があれば衣食住は用意できる。そして世界ができたら最初に人種を生み出して資料館の地下室に封印する。
お母さんを資料館の中に送る前に私たちを起こして。
【是】
ジェニー、私たちの服装を寝間着に変えて。
【了】
アンジェに並んで布団部屋まで歩いた。
小さいアンジェが凄く可愛い。
見え方が変わるだけで気持ちまで変わるとは思わなかった。
布団部屋に入り襖を閉じて同じ布団に入り横向きに寝て小さなアンジェを抱きしめた。今の私ならアンジェを愛情で満たせる気がする。
「恥ずかしそうだけれど、起きたときには私に抱きついて寝るのが普通になっているよ。」
「恥ずかしいに決まっているでしょ…。だけど想像していた以上に落ち着くよ。赤ちゃんより甘えん坊なのは内緒だからね。」
私は元分身だから愛情に鈍感な気がするけれど、アンジェは前世の影響が残っているので甘えたい気がする。そして起きているときに甘えるのは恥ずかしいので布団の中で抱きつくのだと思う。
私は本気でアンジェを可愛いと思って抱きしめているので少しでも愛情を与えることができていれば嬉しい。
「アンジェ姉さん、おやすみ。」
「ジェニーはリアの影響を強く受けていると確信したよ。おやすみ。」
ジェニー、おやすみ。
あとはお願いね。
【ボコボコにされすぎて起きるかも!】
やはりアンジェの勘違いだね…。
ジェニーはリアが大好きです!




