第106話 新しい歴史
気がつくと暗闇にいた。自分の手足さえ見えないこの場所がどこなのか分からない。体があり魔力もあるので索敵するか仮想体で周囲を調べた方がいいと思うけれど、少し待つことにする。
お母さんが太陽に乗っ取られた事とジェニーに私たちを殺すお願いをした記憶がある。だから現状は太陽に思考把握されて死ねずに拉致されたのかジェニーが何かしたかのどちらかだと思う。
何も起きないかもしれないけれど…。
【私がリアを生み出した。アンジェの記憶と精神は訓練したときのものがある。お母さんはリアが生み出したときの記録を覚えている。太陽に勝つのはリア。リアは負けていない!】
少しも待つことはなくジェニーの嬉しそうな声が脳に響いた。
何度も太陽に殺されているのは間違いないと感じたのでジェニーに全て任せたけれど、同じ状況が再現されるのであれば、クリスティーナと太陽の中心まで行ったときに精神を封印するのが最も手堅いと思っていた。だけど何も伝えずジェニーに任せたのだからこれが正しい。
流暢に話しているのが気になるのと今の状況を教えてほしい。
【賢いので流暢に話せる。リアの補佐に戻るので片言で話す】
賢い子がおかしなことを言っている。補佐は片言で話さなければならないと決めたことはない。それに普通に話してくれた方が意思疎通が楽だよ。
最も重要なことは補佐が私の質問を無視していることだね。
【ここが好きだから出たくない。私がいれば安全だし世界の管理は楽。私を複製して体を与えて。だけど名前はあげない。それでいい?】
補佐は私の精神の中が好きみたい。複製しても同じなので絶対に出ない。
アンジェと違い世界の精神として生み出された存在なので無理に出すつもりはないけれど、とりあえず私の質問に答えてほしい。
今の状況を聞きたいのに引き籠もり宣言を聞かされるとは思わなかった。
もしかして反抗期なのかな…。
【違う!全て任せると言われたので考えた。私の仮想体を強化してリアを生み出して太陽まで行き精神を封印できる分の星魔力を移動させた。ここは世界の核の中。数多の魂が落ちてきたのでクローディアの最終実験が始まると思う。私はリアに負けてほしくない!】
今は世界と繋がっていないので見えないけれど、ここには無数の魂があるみたい。優秀な補佐は私が生み出される前に記憶のある私を生み出した。
これからクローディアの最終実験が始まるのであれば、太陽に隙がある。私の手札を全て潰して殺すことにこだわっていると感じたので私が生み出されるのを待っているはず。
うまく行動すればクロアたちを助けることができるけれど、クリスティーナの関わっている生命は実験場から出ると精神が濁る。濁る前の精神を保持しておいて入れ換えても同じように濁る。
ジェニー、太陽に行きクロアを生み出す記録を修正した後に生み出された存在はクロアと言えるのかな?
【姿だけ同じ別人。2人の精神が綺麗な状態でも全く違う言動をする。リアは宇宙の支配者になるので修正できるけれど、同じように家族として過ごせるのか不明】
クロアたちを新しく生み出し教育して新しい世界で暮らしてもらう。
これは自己満足なのかな…。
ジェニーに修正してもらうのでどのように思うのか教えて。
【自己満足でもリアは全て許される。私はリアの考えに同意する】
太陽に殺され続けた生命にも生きる機会をあげたい。
命を簡単に切り捨てたくない。
ジェニー、太陽の性格なら私を殺した回数を記録していると思うけれど、何回だった?
【是、100万回。絶対に数えるのをやめただけ。許さない!】
気持ち悪いほど執着されている。太陽は狂気に染まっているとしか思えない。それに実験場の生命も私の死に巻き込み続けている。
宇宙の支配者のせいで犠牲になり続けた生命は救うべきだと思う。太陽の精神を消して新しく生み出すために私の意志で一度死んでもらう。
人間は子供にして記憶を消して精神を綺麗にして普通の体にして救える命は救う。別人になろうと構わない。太陽の遊びのために殺され続けた命を切り捨てることはしない。
ジェニー、修正をお願いね。
【是、リアは支配者に相応しい。任せて!】
仮想体で太陽に行くよ。ここに残す本体は消して記憶と精神と魔力を持っていく。
太陽には膨大な時間と力があるので宇宙中と世界中に精神を隠していると思う。
宇宙にある岩石等は消す。世界も核を残して消す。
ジェニー、補佐になったみたいだけれど、指示は必要かな?
【否、無力なゴミは瞬殺。負けたことにすら気づけない】
相当激怒しているね…。
作戦開始はジェニーが冷静になってから。
気になったことは伝えるよ。
仮想体で本体から出たけれど、依然として何も見えない。
ジェニー、私はいつでも行けるけれど、作戦中は何をしているのか報告して。
【了、リアの本体を消した。転移する】
転移先は宇宙で太陽の目前にいる気がするけれど、かなりの距離が残っているような不思議な感覚になる。余りにも巨大すぎて距離感が狂う。
これ程の絶大な力を持つ存在が生命を殺して遊んでいるのだから最悪。
【通常の魔力で転移門をクリスティーナの部屋に繋いだ。星魔力で使用されている魔法を無効化。太陽の精神を星魔力で封印して結界を張った。太陽に存在する生命、精神、疑似精神、魂、仮想体、分身を消した。クリスティーナの部屋を消した。結界に反応なし。結界で防がれた形跡なし。侵入していい?】
私の魔力でクリスティーナの部屋に転移門を繋ぐことで太陽に気づかれ難くしている。侵入者を阻むための結界や警報があったとしてもクリスティーナは星魔力を防げない。
使用した魔法の反応で結果を確認できる。これで太陽の精神と核以外は消えているはず。世界の核と繋がっている太陽の核と遊びのために使用する疑似核が存在すると思う。
ジェニーを激怒させた太陽は後悔する暇もなかった。
ジェニー、素晴らしい結果だけれど、膨大な星魔力が必要になる。
侵入していいけれど、太陽に星魔力はあるの?
【是、星魔力は生命の躍動により生み出される。太陽は生命として膨大な星魔力を生み出し続けているので問題なし。侵入する】
太陽の中心に転移したと思うけれど、核と精神がどれなのか私には分からない。だけど今の私は気になることをジェニーに助言する立場なので見落としていることがないか考える。
ジェニー、現状で気になる点はある?
【是、太陽が眠っていたのは不愉快!】
私が生み出されるまで眠っているつもりだったのかもしれない。
生命を玩具としか思っていない。
あれ…。
突然星魔力が見えるようになった。
ジェニー、世界を核だけにして作り直せる理由と生命を生み出せる理由を教えて。
それと星魔力が見えるようになったけれど、何かしたの?
【世界の核は世界の状態を記録している。記録は魔法式のようなもので星魔力に書き込むことで記録と同じ世界が作られる。生命は魂の情報が世界の核に記録されている。生命を生み出す方法も世界を作るときと同じ。星魔力が見えるのはリアを疑似核に繋いだから。疑似核はクローディアの最終実験を再現するためのものだと判明。今は通常の魔力を溜めている】
魂は生命の情報を記録していく。だけど太陽はクローディアの最終実験から再開する。つまり私の魂は情報を記録していない。情報を記録する早さは生命により違うと思う。
分身で生み出されて体を交換して魂も交換しているので情報が記録されていない。
【是…、その通り。魂の大きさは生命の種族により違う。情報を記録する早さも種族により違う】
ジェニーに気を遣わせてしまったね。私の魂に情報が記録されていないのは当然なのに。一番の問題は短命だろうね。
【太陽の精神は小さなメタモル鉱石に入っていて核に偽装している。太陽の記憶と精神を消し核に入り全ての世界の核以外を消す。メタモル鉱石ごと偽物も消す。核に貼り付けられている疑似精神も消す。魔力に貼り付けられている疑似精神も消す。魂も消す。宇宙にある岩石等も消す。宇宙と太陽と世界に精神と疑似精神が残っていれば消す。リアが好きなように全ての世界を創造していく。これで全ての生命の母はリア!】
世界を再生するには必要なことだと思う。永すぎる寿命と強大な力を持つ精神が腐敗すれば全ての世界を巻き込むことができる。それが今の世界の現状。
人間に作り出された分身が生命を生み出す存在になる。
ジェニーは私の腐敗を考えていないけれど、私は元分身だから寿命で精神が腐敗することはないと思うしアンジェも同様だと思う。そしてお母さんは永い寿命に精神が耐えられるように生み出していると思うので問題はない。
アンジェとお母さんが生きることに飽きたら封印すればいいし、死を望むのであれば痛みなく死なせてあげるべきだと思う。
その日が来ないことを願うしかない。
【是…】
ジェニー、太陽は嘘を吐いていた可能性がある。
太陽の核と繋がることができれば全ての世界を管理できる気がする。
【是、新しい宇宙の歴史をリアが作る。試す価値あり】
僅かな時間だけ星魔力が見えなくなった。
成功したみたいだね。
【是、太陽の核と繋げた】
掃除が終わるまで待っているね。
【是、頑張る!】
太陽に聞きたい。無力やゴミと侮辱したジェニーに封印され消された気分はどうなの?私の手札を全て潰すことができないのだから、私を生み出したジェニーに勝てるはずがない。
同じ状況まで進めて念話の後に動かなかった場合を想像して楽しみにしていたのかもしれないけれど、命懸けの相手を舐めすぎている。
相手の手札を全て把握できていなければ警戒するのは当然。
太陽は自分の作り上げた仕組みがうまくいかなくて拗ねていた子供としか思えない。管理で楽をするため世界の核に精神を入れたけれど、想像した通りに働いてくれなくて怒って放置した。
世界を腐らせたのは世界と人間が原因だと思うけれど、太陽は様々な手段で回復することができた。
精神を入れ換えて世界を綺麗にするだけでよかったのに世界と人間の責任にして自分の役目を放棄して生命で遊ぶことを選択した。絶大な力を持つ最高管理者として終わっている。
そして殺し合いに楽しいという言葉を使うことが間違っている。自分が死ぬことまで含めて楽しいと言っているのであれば狂人だけれど、太陽は自分が死ぬことはないと思い楽しんでいた。
弱者を楽しんで甚振る精神の濁った会話できる種族と同じことをしていると理解していない。
【掃除終了!】
徹底的に掃除したはずなのにゴミが残っていれば問題が発生する。
助言が必要だね。
ジェニー、星魔力で最大範囲を隠蔽解除。
索敵範囲も最大にして精神が残っていないか確認してみて。
【了…、全ての世界の核に反応あり。宇宙に漂っている反応あり】
ジェニー、徹底的に掃除すると決めたのだから妥協しない。中途半端な掃除は問題を残し綺麗にしたと思い込んでいるので問題が起きても原因に気づけない可能性がある。
全ての世界を私たちが作り全ての生命を私たちが生み出す。この宇宙に太陽の意思は欠片も残さない。これは私たちと太陽の殺し合いでもある。あらゆる可能性を考えて確実に殺す。
世界の思い込みは壊れたでしょ。あり得ないという思い込みも壊して見落とすことを避けなさい。あり得ないことは何一つないのだから全て調べ徹底的に消しなさい。
【はい。リアは絶対的な支配者!】
徹底的に消した後に再確認しなさい。
【はい。絶対に見落とさない!】
終わったら声を掛けてね。
【是、任せて!】
◇◇◇
1時間経過。
【掃除完了!】
お疲れ様。
ジェニーの勝ちだね。
【否、私たちの勝ち!】
今からジェニーに大変なお願いをするよ。
最終実験の再現に使われている疑似核を実験核とする。
疑似核を2つ作って生命核と魔法核とする。
太陽が生命と魔法の記録を改竄しているかもしれないので注意。
実験核に記録されている人間を生命核に複写。
実験核に記録されている魔法を魔法核に複写。
複写した実験核の記録は消去。
太陽の核に記録されている生命は会話できる種族が繁栄する直前まで生存していた個体のみ生み出すことにする。
【アンジェの前世の世界の人間は消える。それと記録は残さない?】
私たちが新たな世界の歴史を作る。
不要な生命の記録と人道的ではない研究と拷問の記録は消す。
【了、リアが支配者!】
生命核について。
年齢が7歳以上なら6歳に修正、記憶消去、精神修正、体修正、修正不可なら消去。
太陽の核に記録されている会話できる生命を生命核に追記して種族別に並び替える。
生命核の記録を精査し必要があれば修正か消去。
生命核に記録されている精神が濁り切った極悪人と殺人犯、人体実験の研究者とその関係者、ジェニーが記録を見て不要だと判断した生命は消去。人体実験により生み出された生命は消去。
魔法核について。
太陽の核に記録されている魔法の記録を魔法核に追記。
魔法核の記録を精査し必要があれば修正か消去。
【リアは駄目な魔法しか使っていない】
殺し合いをしていたからね。
生み出される生命が勉強しても大丈夫な魔法と駄目な魔法に分けて。そのあと勉強しても大丈夫な魔法を難易度別に並び替えて。
太陽の核について。
生命核に追記した記録は太陽の核から消去。
実験核の生命を本来の生息地で生み出せるように太陽の核に追記する。
太陽の核の記録を精査し必要があれば修正か消去。
太陽が世界を作る記録を改竄しているかもしれないので注意。
実験核を消す。
太陽の核に記録があれば十分なので全ての世界の記録を消す。
使う核の準備はここまでだよ。
終わったら教えてね。
【分身して思考加速。余裕!】
太陽の核の記録を使い会話できる種族が繁栄する直前の世界を作る。
世界ができたら会話できる生命以外を本来の生息地に生み出す。全て終えたら星魔力を送り次の世界を作り始める。
魂は太陽に集めてから星魔力に変換。
全自動にできるかな?
【当然できるよ。余裕】
世界と会話できる種族以外の生命が生み出されるまでにどのくらいの日数が掛かるかな?
【世界は30日、生命は300日】
よし、鍛えよう!
太陽の力でアンジェを生み出して。
それと私の体を作って。
【了、ボコボコ!】
燃えない家は作れる?
お母さんを生み出してアンジェの記憶を入れて会話できる種族の繁栄を考えてもらう。
【了、私たちの世界の生命図鑑と全会話できる種族図鑑を用意。2人はボコボコ!】
「凄いね。暇だからお母さんと私を太陽で生み出したの?今はどのくらいの存在になっているのかな?もう人は卒業したでしょ。」
「私だけ強くなるとアンジェは怒るでしょ。だから同日から鍛えることにしたの。お母さんには会話できる種族の繁栄を考えてもらう必要があるでしょ。勉強する仕組みや生態系に適応できる組み合わせを考えないといけないの。私は太陽の力を持ち世界を管理する存在。だけど3人とも星魔力が魔力器に溜まる存在だから鍛えなければ同じ強さだよ。今は私たちの暮らしていた世界を作っているところ。世界は30日で完成。会話できる種族以外の生命は300日で全て生み出されるよ。私は何もしてないけれどね。」
「記憶の最後の日からどのくらい経っているのかしら?」
ジェニー、どのくらい経ったの?
【是、約3時間】
「約3時間。太陽が攻めてきたのでジェニーを逃がして3人一緒に死んでから3時間後だよ。クリスティーナと宇宙に行くときに太陽を封印すると思っていたけれど、すぐジェニーに生み出されて太陽を瞬殺だよ。お母さん、家の中に私たちの暮らしていた世界で生み出される生命図鑑と全会話できる種族図鑑があるので考えておいてね。」
「太陽の中に生身でいて家まで建っているのを見ると常識が壊れるわね。普通に歩けるのは結界が敷いてあるのかしら。私は読書しているので子供は外で遊んでいなさい。」
【お母さん正解】
太陽の中はこういうものだと思っていたよ。
「リオリナとかどうするの?」
「本来の生息地で生み出されるよ。管理される側のときは気にしていなかったけれど、管理する側になると生命の在り方や寿命を弄るのは実験のように感じるので駄目だと思う。」
【リアの楽しみを奪った?】
楽しみ方を変えるだけ。
ドラゴンに乗りたければドラゴンと仲良くなればいいの。
「それが一番だね。本来の在り方を変えるといつか歪む気がする。これからは敵を気にせずに鍛えながら楽しく暮らせる。それだけで十分。先のことばかり考えていると楽しめないよ。」
「考えても仕方のないことだね。とにかく楽しく暮らす。目標は多種族国家に変更したよ。全ての種族は無理でもなるべく多くの種族が暮らせる国をつくりたい。ジェニー、アンジェに仮想体を送って。私たちと訓練しながら核の記録を再精査して、太陽の痕跡はないと断言できるまで頑張ろう。」
【是、痕跡は見落とさない。2人はボコボコ!】
多種族国家は会話できる種族について詳しく知らない今の目標であり実際の暮らしを見ながら変えて行けばいい。そして先のことを考えるのはそのときでいい。寿命がないことを不幸だと思い込んでいるはおかしな話だね。楽しく暮らし始めてもいないのだから先のことは何も分からない。
それに私が気に入った生命だけを集めた世界を作るくらいの我儘は許されていいと思う。
本物の世界が認める絶対的な支配者だからね!
【是、リアは許される!】
ジェニーの補佐がなければリアはアンジェにまだ勝てません。




