第103話 期待
お母さんに体が揺らされているけれど、起きたくない。
少し強めに背中を叩かれ始めたけれど、起きたくない。
起きたくないのは何故かな…。
「2人とも起きているでしょ!顔を洗って着替えてリビングに集合!」
「はーい…。」
アンジェも起きたくなかったみたい。
そのようなことは初めてだと思う…。
脱衣所に行き顔を洗い終えてからアンジェに話し掛ける。
「アンジェは寝起きが良いと思っていたけれど、珍しいね。」
「お母さんがこれまでと違うように感じたからかな…。世界の別体だったお母さんを人にしただけとは思えないよ。リアが何かしたのでしょ?」
私は何も考えられない状態でお母さんを生み出している。世界の別体を嫌っていたのは間違いないので無意識にアンジェのことを想っていたのかもしれない。
新しくお母さんを生み出すのであれば、アンジェに愛情を与えてくれる人がいいと想ったとしても不思議ではない。それを正直に言うのは恥ずかしいね。
よし、誤魔化す!
「私は世界の別体が嫌いだからね。記憶にある姿を見ながら生み出したけれど、疲労と混乱で何も考えられなかったよ。今のお母さんを避けたいと思う気持ちにはならないから私の理想なのかもしれない。」
「リアは限界だったからね…。確かにリアの望むお母さんなのかもしれない。それが私にも影響を与えている気がする。そういうことにしておくよ。」
確実に気づかれている…。
恥ずかしいので無言で着替えてリビングの椅子に座った。お母さんはお茶を飲んでいたけれど、私が座ったらお茶を用意してくれた。そしてアンジェが座ったときにもお茶を用意していた。
これまでのお母さんと違う。
全く違う。
別人だと思うくらいだよ。
「大切な家族会議を始めるわよ。昨晩太陽と念話で話したけれど、太陽はあなた達を評価しているわ。そして何度も繰り返しているのは事実だけれど、理由はあなた達が必ず世界に殺されてしまうからよ。世界はクリスティーナを排除するためにあなた達を利用して殺しているの。その行動に対して太陽は怒ったけれど、太陽と世界の制約で太陽は世界に攻撃できないし洗脳するにしても生命のためにしかできない。それも2人のためだけではなく全ての生命に対して有効な内容にする必要があるの。それで今の洗脳は『世界のために力を使え。世界の意思で無駄に命を奪うな』となっているわ。この洗脳をしている理由はあなた達が一番長生きできるからよ。他にも太陽は世界の記録に『この世界を出て好きな世界で楽しめ』と記載しているわ。【太陽の子】についても他世界の核を破壊するための爆弾だと記載しているのよ。アンジェが太陽まで行ったけれど、太陽がこの世界に転移させた生命はいないわ。それに【太陽の子】は5つあるの。使い道が分かったでしょ。あなた達に生命がいないと疑問を抱かれないように魔力は太陽が補充しているわ。それだけではなくあなた達は世界に洗脳されていたの。『この世界から出るな』とね。更に世界の精神の封印は必ず解けてしまう。未知の力、太陽は星魔力と呼んでいたけれど、それがなくなるから。太陽は星魔力も補充できるけれど、世界の精神の封印を持続させることに繋がるので制約違反になるそうよ。あなた達の意見を聞かせて。」
「なるほど…。5つの世界は汚染と病原菌により救える生命がおらず、1体でも魔獣を転移させてしまうとこの世界が滅びることになる。そして太陽は6つの世界を滅ぼしてほしいという事だね。だけど生命を守るために洗脳できるのに何故太陽は生命を守らなかったの?」
クリスティーナと生命の誕生した星を巡ったとき私は中に入って様子を見ていない。だから他世界の現状を知らない。だけどクリスティーナの行いを考えると他世界は取り返しがつかない状態になっていたとしてもおかしくはない。アンジェの言う通り太陽が生命を救えていないのが疑問だけれど…。
それと世界の記録を調べる力について気になる…。
「太陽は『世界を守れ、生命を守れ』と言葉を変えて何度も洗脳したそうよ。6つの世界にとって守るべき世界は核だけなの。守るべき生命は核を守るために利用できる生命だけなの。このように世界は太陽に洗脳されても核を守ることしか考えない。そして太陽は制約で核を守るなと洗脳することができないのよ。」
「洗脳しても性根を変えることはできないという事だね。だけど偶然とは思えないよ?」
「お母さん、世界の力を渡して。私も記録を調べてみたい。それと調べ方を教えて。」
偶然ではなさそうだけれど、先にアンジェを助ける方法を考える必要がある。
お母さんが記録を見たことで今までと違う形になっているのかもしれない。同じ魂で何度も同じことを繰り返しているので私は疲労して今のお母さんを生み出した気がしてきた。
「はい。背中に能力があった頃のように話し掛ければ記録について教えてくれるわ。」
私に能力を渡すことに全く躊躇がない。妹の記憶で私が世界の別体を嫌っていたことは知っているのに、お母さんは私が怖くないのかな…。
アンジェの言葉でお母さんを生み出したことで間違いなく流れが変わっていると思う。
「ありがとう。2人は今後について話し合っていてね。」
「お母さん、滅茶苦茶なことになるのが今決定したよ。リアは問題を解決してくれるけれど、何故か大問題に気づくからね。」
助かるための方法にこだわりはないから…。
アンジェの言う通り大問題が毎回待っているけれど。
≪これでいいのかな?記録を教えてくれるの?≫
<是>
言葉を理解できるみたいだね。
不思議に感じるのがおかしいのかな。
≪名前はあるの?世界の能力なの?≫
<否>
名前もなく世界の能力でもない…。
気になることを先に確認するべきだね。
≪この世界で現在使用中の魔法はあるかな?≫
<否>
≪私を洗脳した存在を順番に教えて≫
<【クローディア】、【クリスティーナ】、他世界、世界、【クリスティーナ】>
魂の名で答えているね。
それよりも洗脳されすぎだよ!
≪最後の【クリスティーナ】は洗脳されていないかな?≫
<世界に洗脳された>
太陽が洗脳したと思っていたけれど、世界が洗脳していた。
それなのに世界は精神を封印されている。
≪世界の精神の位置を【クリスティーナ】に教えた存在はいる?≫
<世界>
一連の出来事が世界の洗脳によるものであれば、私たちを殺すために敵対しているのを明確化させた可能性がある。私の意思で妹を生み出しただけでは私たちに力を使えない。私たちを無駄に殺せない。
現状は精神を封印され世界の能力を奪われたと無理やり解釈できる。洗脳されていてもこのようなことをするのだから太陽が生命を守れなくても仕方ないのかな…。
≪世界の記録を変更することができる存在はいる?≫
<否>
≪世界の記録を消すことができる存在はいる?≫
<太陽>
≪太陽は世界に生命を生み出せるの?≫
<是>
≪無条件で?≫
<この世界に実在した生命に限る>
≪太陽が私たちを世界に殺させないようにしていることを知っていた?≫
<否>
これなら繰り返していても世界に気づかれない。
≪【太陽の子】は太陽が核に届けたの?≫
<是>
≪【太陽の子】が入れられていたのは誰?生きている存在を固有名で教えて≫
<アンジェリア、アンジェリア、プリムス・コンティネント、リーリア、ジェリア>
私を混乱させるためだろうね。
何度も繰り返しているのは間違いないと思うけれど、世界の記録を気にしたことが一度もないとは思えない。精神の封印に未知の力、星魔力が使われているのを知っているのだから能力を無暗に使うはずがない。
私たちを殺し続けているのは無知の世界なのかな。
別の存在が関与している気がする…。
≪私がこの世界の核を破壊するとしたらどのように思うの?≫
<嬉しい>
嬉しい!?
これは感情でしょ!
≪何故嬉しいの?≫
<不明>
うーん…。
≪世界の記録を見飽きた?≫
<否>
違うみたい。
≪世界の記録を見続けているよね?≫
<否>
この回答には違和感を覚える。
≪記録を見たくないのか、見せてもらえないのか、それ以外のどれかな?≫
<見せてもらえない>
絶対におかしい。
見せていないことに悪意を感じる。
≪あなたは核にいるの?≫
<是>
≪座標を教えて≫
<0.0.0>
本物の世界の精神で決定。
偽物を消せるのか確認しよう。
≪核に精神がなくなると世界の能力は使えなくなる?≫
<否>
≪封印されている精神を核を破壊せずに消せる?≫
≪是≫
無知な偽物と本物は格が違う!
≪必要な魔力量は?魔力球で教えて≫
<50個>
星を消せそうな魔力量が必要なんだ。
≪私の魔法技術で封印されている精神を消せる?≫
<否>
そうですよね…。
付け焼き刃の力で精密な魔法制御ができるはずがない。
≪方法を教えて≫
<くり抜いて上空に転送して爆破>
≪何故くり抜くの?核は大丈夫なの?≫
<本来核に存在しない物質。核は自動修復される>
大問題を見つけてしまった…。
アンジェは私のことをよく分かっているね。
≪1人でつまらないでしょ。私の精神に入っていいよ≫
<不明>
数十億年孤独だったので自分の感情が分かっていないだけのような気がする。
≪無理やり私の精神に移動させてもいいのかな?≫
<是>
記録が見えるようになっても孤独は寂しいよ…。
≪精神追加≫
座標(0.0.0)の精神を私に追加
私の記憶を見ながら話し方を覚えてね。
【是】
「本物の世界の精神を私の精神に入れたよ。お母さん、世界の能力に記録を教えてくれる機能なんてあるはずがないでしょ。便利だと思って何も考えずに情報を聞くから駄目なんだよ。反省してね。私は今から偽物を消してくる。」
「滅茶苦茶もここまでくると大物だね。お母さんは反省してよ。」
「世界に2つ精神があったという事ね。乗っ取られているじゃない。言葉が通じるのに返事が片言なのは何故なの?」
何故私たちの言葉を理解できるの?
【不明】
「言葉が通じる理由は不明みたい。世界の精神だから言葉が通じると思えばいい気がする。返事が片言なのは偽物に情報遮断されていたからだよ。だから会話を知らない。賢いからすぐに覚えるよ。」
「話したのはリアとお母さんが情報を聞いたときだけじゃないの?会話している記録を見たことがないので返事は片言になる。言葉については世界の精神という理由で十分だよ。」
「世界を救ったあと太陽に念話しなさい。向こうから連絡できないのよ。リアの滅茶苦茶に大混乱するでしょうね。任せるのでしょ?とても安心だわ。」
私が実行したら世界が滅びそうなので反論できない。
大問題についても後で話そう。
≪転移≫
敷地の結界の上に移動した。
名前がないと不便だから君の名前はジェニュイン・ワールド。
愛称ジェニーね。
【是】
ジェニー、世界の魔力を魔力球にして集めて。
【了】
足りないね。
≪魔力化≫
太陽の光と熱を魔力に変換する
太陽と念話することも考えて魔力が溜まったら私と代わって偽物を消して。
【是】
私の記憶は酷いものばかりでしょ。面白いかな?
【面白い】
今まで会話する映像を見たことがなかったからだね。
何を見ても面白く感じていると思う。
リオリナの記憶を戻して洗脳せずに私を独占しすぎないようにする方法はあるかな?
私を2人にするとかは駄目だよ。
【是】
できるの!
独占しないようにするの?それとも独占欲を軽くするの?
【両方できる】
リオリナらしさは消したくないので軽くする方法を教えて。
【最も独占している状態の記録があるので一時的に魔法で精神を抑制し鍛錬してもらう】
なるほど!
私にはできないという事が分かったよ。
【是】
ジェニーと自宅で一緒に暮らしたいけれど、自分の姿はあるかな?
それとも好きな姿がある?
【リアと一緒。目の色を変える】
本物の世界の姿を誰も知らないのでそれでいいね。
ジェニーは生命が好きなの?
【好き】
本物が生命を好きなら安心だね。
新しい感情は誰が埋め込んだの?
【太陽】
大問題が更に大きくなったよ…。
人の姿の太陽が埋め込んだの?
太陽の力で埋め込まれたの?
記録でそのように記載されているの?
【記録で記載されている】
それだと本物の太陽なのか分からないね。
記録で太陽と記載されているの?
【是、最上位の権限で記録されている】
太陽が核に異物が埋め込まれたことに気づけない理由は分かる?
【メタモル鉱石だから。世界に存在するあらゆる鉱石と同化する】
埋め込まれた直後に核と同じ鉱石になるのか…。
太陽が生命を滅ぼしたいのなら小細工は必要ないので、別の存在が生命を嫌っているのかもしれない。太陽に対応してもらうのが一番だね。
何故メタモル鉱石だと分かったの?
この世界にもあるの?
【あらゆる物質の情報が記録されている。この世界にはない】
宇宙に存在するあらゆる物質を記録しておくことで、世界が問題を独自に解決できるようにしているのだと思う。ジェニーがこの問題を対処できなかったのは何故?
【星魔力がなかった。生命がいないと星魔力が生まれない】
問題が大きくなりすぎている…。
生命が誕生する前の出来事なのは最悪だね。
流石に大混乱するどころではないね…。
太陽と世界の制約さえ正しいのか怪しく感じる。だけど宇宙で太陽を洗脳できる存在がいるのはおかしい。記録を改竄して誤認させたのだとしても桁違いの力が必要になると思う。
ジェニーは太陽と同格の存在を知っているの?
【否】
世界にも寿命はあるよね?
【是】
それなら太陽に寿命があってもおかしくはない。太陽の寿命が尽きれば宇宙は滅びる気がする。そして新しい太陽が生まれるのだと思うけれど、ジェニーは太陽の精神が何か知っているの?
【否】
滅びたとき太陽の精神が残っていて生命に恨みがあるのだとすれば私たちの敵になる。私たちを殺し続けているのもこの存在なのかもしれない。
滅びた太陽のときは生命が誕生しなかったのかもしれない。太陽に協力してもらうのは当然だけれど、努力すれば戦えるようになるかな?
【リアは可能かも】
その根拠はあるの?
【宇宙の歴史を今から変える】
それはジェニーの力だよ。
ジェニーは5つの世界の精神も救ってほしい?
【大勢で暮らすと楽しい】
早速私の言葉を覚えたね。
【魔力溜まった】
≪除去≫
≪転送≫
≪無属性魔法≫
≪結界≫
この光景に世界の滅びを感じる…。
物凄い轟音と共に上空が火の海になった。地上は茜色に染まり激しく揺れている。
青空に戻ると雲が消えている。地上は爆発の影響で未だ揺れている。
熱を感じなかったのは結界で防いだからだと思う。
そうしなければ地上も火の海になっていた。
何故交代しなかったの?
【必要ないから】
◇◇◇
念話中。
「リア、空が焼けたように見えたけれど、地上は大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。今の爆発がどうでもいいと思うくらいの大問題が発生しているけれどね。今から太陽と念話するけれど、過去の太陽と戦うことになるかもしれない。憂鬱だよ…。」
生命を繁栄させたら必ず来る。
既に標的にされている可能性がある。
「鍛える必要があるという事だね。あとで説明よろしく。」
「初めて荷が重いと感じているよ。」
念話終了。
◇◇◇
核とメタモル鉱石のどちらが硬いの?
【メタモル鉱石】
精神の入っているメタモル鉱石を破壊するのにあの威力が必要だった。
普通の存在では加工も無理だと思う。
どの程度の大きさのメタモル鉱石を砕いたの?
【1㎝の立方体】
精神を入れているだけだから小さいよね。
この問題が人に降り懸かるのはおかしいでしょ!
【がんばれ!】
一緒に頑張ろうと言ってよね!
【手伝う。だけどリアは負けない。負ける気がしない!】
ジェニーはリアに死ぬつもりがないことに気づいています。




