第102話 太陽の遊び
「妹に実験を監視されているのでしょ?世界と繋がっている別体ではなく分身で私たちの相手をするのは馬鹿にしているね。」
「実験してほしいのでしょ?優先してあげているのだから感謝しなさい。それに手加減しないと勝負にならないわ。そのくらい分かっているのではないの?」
勿論今の私たちが勝てないのは知っている。ある程度耐えられたとしても数多くの生物の命が失われ星に集まっている魔力の消費が酷く何もできなくなってしまう。
そして世界一周を楽しみたいのに世界を荒らしたくない。
「お母さん、娘が血塗れになっていくのを見たいの?早く終わらせてよ。」
「リア、何を言っているの?黙って記憶を消されるつもりなの?」
「リーリアの前で記憶が消されるのは嫌だったの?本当に我儘な子ね。」
リーリア姉さんには見せたくない。戦うことになった責任を感じている気がするし私たちが血塗れになるところを見れば心に傷ができてしまう。記憶を消したとしても元通りになるとは限らない。
「アンジェ、分身と無理して戦えば星の魔力消費が多すぎるのと、大陸が消えて救った命まで失われてしまう。だけどお母さんの対処次第で殺し合いになることを忘れないでね。」
「本気みたいだね。お母さん、私たちが納得する対処をしてくれるでしょ?」
「仕方ないわね。リーリアは馬に戻して全ての馬を保護区域に移動させましょう。そしてあなた達の記憶を消して終わりにしてあげるわ。」
分身は嘘を吐くのが下手すぎる。
雑に作られたのかな?
「お母さんに期待した私が間違っていたよ。母親らしく説教で終わると思ったのに残念だね。アンジェもお母さんに言いたいことがあるでしょ。」
「リアの期待が凄いね…。お母さんは全ての命を自分の子として愛しているけれど、それだけで人体実験されても拷問されても気にしないとよく分かった。いつから洗脳されていたのか知らないけれど、本当に残念だよ…。」
「分身の私が太陽に洗脳されるはずがないでしょ。今日から実験を手伝いなさい。あなた達を甘やかしすぎたと実感しているわ。潔く諦めなさい。」
分身を作り出したのが世界と別体のどちらか知らないけれど、洗脳されているのを隠していない。そして太陽が望んでいる実験を知らないけれど、分身は私たちを洗脳して利用するつもりでいる。
本当の目的は別にある気がするけれど、それが何かは分からない。
挑発してみよう!
「洗脳中のお母さん、魂を魔力に変える実験を手伝ってほしいと言えないの?」
「リア、洗脳されていても流石にそれは隠すよ。無駄な情報収集に終わったね。さて、始めよう。」
「本当に生意気な子ね。あなた達は傀儡にすると決めたわ。」
「それは困るわ。今から説教しないといけないのよ。分身は消えなさい。」
分身の背後に転移してきた妹は見た目をお母さんと同じにしている。
もしかしてお母さんと呼んでほしいのかな…。
分身を消したけれど、作り出した主だけにできる消し方のように見えた。分身に抵抗する気配を一切感じなかったからなのかもしれない。
「計画が失敗したと思ったよ。お母さんが遅刻した理由は何かな?」
「まずは助けに来てくれてありがとうでしょ?リアの言葉を聞くと半日で世界を乗っ取ることはできて当然だと考えているのかしら?」
妹は洗脳されていない世界と同等の存在なのに違和感を覚える。
洗脳されている別体を見てきたから?
「世界を即乗っ取ることができなければ失敗だと分かっているでしょ。太陽は私たちを殺せる機会を何度も見逃して遊んでいるのだから別体に妹を洗脳させるとは思えない。妹は別体と同じ記憶を持つのが絶対条件だけれど、別体は手抜きで同じ記憶にする可能性が高い。その記憶で世界の能力を得る方法が分からなければ別体を消して世界に命令するしかない。そのあとは世界の精神を封印するだけ。私は妹に実験を監視させていると発言し思考してきた。太陽は面白がって妹の存在を許可するに決まっているよ。妹が洗脳されていたら失敗。生み出された意味を理解してくれなくても失敗。太陽は実験結果を知っていて遊んでいるかもしれないけれど、私たちに残された時間が分からない。計画を進めるにも強くなるにも世界と別体が邪魔だよ。」
お母さんの目つきが変わり激怒している。
世界にしては感情制御が甘い…。
「太陽は聖域と保護区域の生命をいつでも殺せるようにしていたのよ。最短で行動すれば文字の読み書きを勉強する前に乗っ取ることができたわ。だけどリーリアとジェリアの頭が爆発していた。この宇宙で痛みなく死ねることは幸せなのでしょ?死んでも蘇らせられる自分たちのことしか考えていないわね。それなのに自力では何もできない。私がここに来たのはリアの他力本願に付き合ってあげたのと、あなた達に聞きたいことがあったからよ。あなた達と関わった生命を幸せにしてあげましょうか?幸せにしたいのか不幸にしたいのか答えなさい。」
「何故そんな酷いことを聞くの?これから3人で解決方法を考えればいいでしょ。」
力を手にして世界を乗っ取った後に気づいて八つ当たりに来たみたい。
太陽の遊びは本気で醜悪だよ。
「アンジェ、私は死ねない存在にされたのよ。あなた達を手伝う理由もないわ。それに無力で無能なあなた達は何の役にも立たない。今はあなた達が考えていたことを聞いているだけでしょ。逃げたら死と拷問が続くことになるわよ。」
実験を監視していれば死ねない存在にはならなかった。それなのに手にした力に酔って好き放題に暴れた結果を私の責任にしている。
お陰で私たちは助かったけれどね。
「私を思考把握しているでしょ。太陽に遊ばれる存在になった気分はどうなの?私はどちらも選ばない。数十億年太陽に遊ばれる世界代表が好きにすればいいよ。八つ当たりで私を拷問する?太陽に遊ばれる日が近づくけれどね。それと誰も人質にならないよ。リーリア姉さんは話しすぎたね。それに私たちは本気で死ねることが幸せだと思っている。助けてほしいと素直に言えば、太陽に遊ばれない存在になれる方法を教えてあげるよ。」
「リアを拷問するなら私も拷問して。素直にリアに助けてもらうのが一番だと思うけれどね。」
痛みを感じる体で死ねない恐怖は凄いでしょ。
お母さんはどうするの?
「ふざけないで!リアが私を助けるのは当然なのよ。拷問される前に早く言いなさい!」
拷問されても言わないと気づいているでしょ?
「気分が良いから教えてあげる。世界代表になったのはお母さんが世界で一番希少な存在になったからだよ。世界の記憶を持ち世界の能力が使えて痛みまで感じる存在。だから世界の子が同じ状態になれば希少な存在は代わる。私が世界の能力を得たら太陽を潰すつもりなのは知っているでしょ。」
「リア、それは危険すぎるよ。何故いつも自分を犠牲にするの!?」
「世界の子が全てを背負うのね。素晴らしい考えだわ。3人で太陽を潰す計画を考えましょう。」
妹の発言後に知らない記憶が私に流れ込み世界の核と見えない力で繋がれた。繋がれていることは感じているのに何も見えないのが気持ち悪い。
そして繋がれた状態では星の外に出ることができないと感じている。洗脳されたお母さんがそのように言っていたけれど、検証する必要がある。
それに理解していなくても魔法の使い方が分かる。だけどこれでは成長できない。記憶を整理して不要なものは消し魔法は解析して理解していく必要がある。
魔法はアンジェに頼んだ方がいいね。
≪記憶追加≫
妹に追加された記憶をアンジェに追加した
「アンジェ、不要な記憶は消して魔法をまとめてほしい。お願いね。」
「記憶を得るだけで強くなれたと勘違いするね。私に任せて。」
「私に頼らないのは偉いわね。今後も2人で頑張りなさい。」
精神を見るときと同じように意識すれば魂を見ることができるみたい。
気になるので実際に魂を見てみる。
今まで見えなかった胸の中心に見えるのが魂だね。
直径10㎝ほどの白い球体が火で燃えているように見える。
球体の表面に見える光る青い文字は名前かな?
世界の能力はお母さんが使っていた能力は分かるけれど、他にも何かできる気がする。
知りたいことを思い浮かべるだけで知ることができるのは便利だね。
≪2重結界≫
内側だけ物理反射と魔力反射の結界で妹を閉じ込めた
≪転送≫
妹が世界中に隠した分身や仮想体を結界の中に入れた
≪結界消去≫
妹と妹の分身と仮想体の結界を消した
世界内に限ると思うけれど、消したいものを簡単に消せる能力は危険すぎる…。
≪火魔法≫
結界内を高熱の火柱で焼いた
妹の魂が結界をすり抜けて落ちていく。重力か未知の力で世界の核に自動で集まる仕組みなのかもしれない。数十億年の記憶があっても知らないことが多すぎる…。
≪無属性魔法≫
結界内で魔力を爆発させた
≪封印≫
世界の精神の封印を上書きした
≪洗脳解除≫
自宅と敷地と保護区域にいる生命の洗脳を解除した
≪封印≫
自宅と敷地と保護区域の生命を封印した
≪結界≫
自宅と敷地と保護区域の結界を上書きした
≪結界解除≫
妹と妹の分身と仮想体を全て消せたのか確認してから解除した
世界と繋がっているだけで魔法を上書きし消すことまで簡単にできてしまう。この星ではできないことがないのだとすれば、太陽と繋がる相手に勝つ方法が分からない…。
太陽は足掻く私たちを見て楽しんでいるのだろうか?
もしくは違う楽しみ方をしているかもしれない。
「リア、世界の能力を手に入れるところまで計画していたの?」
「太陽に遊ばれた…。私はお母さんの妹を洗脳されていない世界にして、痛みのある体で死ねない恐怖をどのように思うのか知りたかったの。そして私たちに何をするのかも気にしていた。だけどお母さんの妹の魂はクリスだったよ。太陽と世界はクリスを洗脳できないはずなのに私が世界と繋がっているのを偶然だとは思えない。言動と思考で本心を悟られないようにしていたのに、太陽の思惑通りに動かされているようで不気味だよ…。」
え…。
何で!?
何でなの!?
絶対に嫌だ…。
それだけは絶対に嫌だよ。
「リア、急にどうしたの?顔色が悪いよ…。」
アンジェは疑わないと決めているでしょ!
この程度で揺らぐな!
「アンジェの魂に太陽の子と記載されているのが見えたから。太陽の遊びがアンジェと私の殺し合いになる気がしたんだよ…。」
「絶対にない!太陽と世界に洗脳されようが自殺する。何度も戦わされるのであれば何度でも自殺する。絶対にリアと戦わない。魂のことはよく分からないけれど、私たちを生み出した存在の考えた文字が記載されているだけなのかもしれない。リアは自分の魂の文字が読める?」
首を曲げて自分の胸の中心を覗き込む。
頭がクラクラする…。
「私の魂も太陽の子だったよ。この遊びは何だろう?」
「リアが『思惑通りに動かされている』と言ったけれど、太陽は実験を繰り返して遊んでいるかもしれない。私が太陽で洗脳されていたら星を消せているのか不明だね…。生命を生み出すのは太陽の力で簡単にできると思う。私たちは魂を交換したいけれど、できるのか検証する必要がある。それに太陽なら嫌がらせを仕掛けているよ。リア、魂が作れるのなら消すと水が出る魂と封印すると水が出る魂を作ってみて。」
冷静になろう…。
問題は何一つ解決していない。
お母さんが妖精を生み出した記憶はない。機械を使ったのか分からないけれど、魂を交換することは間違いなくできる。
私たちの体を簡単に作ることができる世界の能力なら生命を生み出せる気がする。だけど体を作ったときの記憶もない。生命を生み出すことに繋がる記憶は意図的に消されている…。
左右の手を伸ばして、左手に封印したら水が出る【封印水】と、右手に消したら水が出る【消す水】という名前の魂を想像する。手の平の上に小さな光る玉が出現し少しずつ大きくなっていく。
大した時間も掛からず【封印水】と【消す水】の魂ができた。光る青い文字も魂に記載されているので魂の名付けに近いと知ることができた。
しかし魔力消費がないので未知の力を使っていると思われる。
この力も解明しなければならない…。
右手の【消す水】を消す想像をする。
魂は簡単に消え同じ大きさの水玉が手の平に落ちた。
≪封印≫
左手の【封印水】を封印した
魂は消え同じ大きさの水玉が手の平に落ちた。
最悪の結果だよ…。
「アンジェ、魂の交換は妖精にしているので大丈夫だよ。世界の能力で生命を生み出すこともでそうだけれど、魔力が減らないので未知の力が使われていると思う。魂の文字は名前に近いけれど、別の意味があるかもしれない。そして見た通り最悪の結果だよ。想像するだけで何でも仕掛けられそう…。時間制限があるかもしれないし、敵の仮想体や分身が入っていても驚かないよ。」
「これは流石に厳しいね…。そうだ!私たちは生まれて間もない赤ちゃんだし世界と太陽の責任だよ。だから世界に詳しいお母さんに丸投げしよう。」
頭が働かないのでそれでいいのか分からない…。
記憶が消されているのでお母さんでも世界に詳しくはないと思う。
正常なお母さんと話してみたいので生み出そう。
魂の名は【クロニクル・ワールド】、私と同じ記憶と体のお母さんを生み出す。
目を閉じて記憶に残るお母さんの姿を見ながら集中する。
魔法使いはこれができるので見た目を変えないで済む。
生命を生み出すときには大切だね。
「リア、いつまで目を閉じているの?アンジェ、私を海に落としてから丸投げするつもりだったのかしら?それに世界と太陽の責任ではなく太陽だけの責任でしょ。それでリア、私を世界の核と繋げていいの?」
お母さんに気遣われているのかな…。
「丸投げするなら早く繋ぎなさい!」と言われると思っていたよ。
繋がれているものをお母さんに渡す想像をした。
「繋がった?私は思考停止状態だよ。冷静になろうとしたけれど、知るべきことが多すぎるし魂が時限爆弾なら詰んでいる。しかもこれが繰り返されていると思うとうんざりだよ…。」
「本当によく頑張ったわね。世界の能力で作ることができる最高の体に変えておきましょう…。記憶を確認したけれど、現状の知識だけでは解決できない問題が多いわ。別体の分身と仮想体を全て消せているか分からない。妹の分身と仮想体を全て消せているか分からない。救った生命の魂に仕掛けがしてあるかもしれない。太陽が魂を保持しているのか不明だけれど、別の世界が何か仕掛けたものを保持しているかもしれない。この世界が保持している魂にも仕掛けがあるかもしれない。太陽が世界に魂を送るのを止める手段がない。今日は太陽がこの遊びを繰り返しているのか考えるよりも休息するべきよ。魂の文字を気にしていても仕方ないわ。」
話し終えたお母さんはアンジェと私の胸の中心に手を押し当てた。
魂を新しい魂で押し出して交換したのだと思う。
気づくと布団部屋の布団の中に移動していた。
服も寝間着に変わっている。
いつもの癖でお母さんに抱きつくと背中に手を添えてくれた。
何故だろう…。
この温かさを私は知らない。
お母さんの指摘した問題に気づけなかった。魂の文字に関係なくどうしようもない状況になっている。全ての問題を解決する手段はあるのだろうか?
眠気に耐えながら考えようとしていたらお母さんが私の頭を優しく撫で始めた。お母さんの温かさも合わさり余りにも心地良くて耐えるのを諦めた。
これまでのお母さんと何が違うのかな…。
悪質です。




