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世界は子を愛す  作者: 大介
第2章 命

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第101話 双子の絆と母娘の不和

 アンジェに方針変更までの出来事を念話で伝えたら『お昼からリーリア姉さんと応接室で話したい』と言ってきた。姉さんの気持ちを疑っているのではなく確認したいことがあるみたい。

 私がアンジェを疑うことはないので問題はないけれど、姉さんが何故か緊張している。


「私が生み出されたときアンジェは精神の中にいたんだよ。アンジェは前世の記憶があって、私の姿は前世のアンジェだよ。だからアンジェはお母さんの娘の姿になった。今の私たちは双子で名前も同じでお互いのことは聞かなくても大体分かるよ。アンジェは双子の姉だけれど、私の決めたことに付き合ってくれるの。世界一周を一緒にする家族だよ。何故緊張するの?」


「アンジェがリアの保護者ではありませんか。確認ではなく私を調査したいのでしょう。疚しいことはありませんが調査されると思うと緊張しても仕方ありませんよ。あぁー、怖い…。」


 疚しいことがないのに緊張する理由が分からない。


「緊張して何もしないのは時間の無駄だから早速行動するよ。」


≪転移≫

姉さんと自宅の玄関に移動した


「私の真似をして靴を棚に置いて。今から料理部屋に行くよ。アンジェが『リーリア姉さんのために飲み物を用意してほしい』と言っていたからね。優しいでしょ。この体は飲食が必要ないけれど、味は分かるのでアンジェと話すときに何を飲むのか決めに行くよ。飲食しても排泄はないからね。」

「凄い体ですね。アンジェと話せばリアとクロニクル様の関係が分かりますか?」


 姉さんは私とお母さんの関係が気になるみたいだね。疚しいことはないけれど、私を心配している本当の理由は違うのかもしれない。

 アンジェと私にお母さんのことを聞いて評価が上がることは絶対にない。それに全てを知ったらお母さんに失望するかもしれない。


「姉さん、アンジェは話してくれるけれど、絶対に期待しないで。今回の問題を解決でもしない限りお母さんの評価が上がることはないよ。私とお母さんは喧嘩しているとか誤解があるとかそういう状態ではないの。絶大な力を持つお母さんに一度も助けてもらったことはない。姉さんならこの一言で分かってくれるでしょ。」


「その一言で納得しました。アンジェと話すときリアにも伝えますね。」


 納得した…。

 私が気づけていない感情に気づいているのかもしれない。


 奥のリビングテーブルではお母さんとプリムスが話している。

 少し歩いてテーブルまで近づいた。


「お母さん、妹は生み出してくれたよね?」

「生み出したわよ。実験している私を監視させればいいのでしょ。少しは母親を信用しなさい。」


 プリムスがいるので言い合うつもりはない。


「信用されることをしてよ。今でも心に余裕があるね。姉さん、料理部屋に行こう。」


 プリムスは私とお母さんの雰囲気を感じたのか話さなかった。

 姉さんも無言で私についてきてくれた。


 料理部屋に入り気分を切り替えるために両頬を叩いた。


「姉さん、木の葉を使った飲み物と果物を使った飲み物のどちらがいいかな?」

「落ち着けそうな木の葉を使った飲み物がいいです。」


 本当は違うことを言いたいはずなのに黙っていてくれる。それが私を気遣ってくれていると分かるので嬉しいと思える。姉さんは問題を見て見ぬ振りをする人ではないから。


 湿度0%の容器のドアを開けて中からお茶の葉が入った袋を3つ取り出した。

 緑茶、烏龍茶、紅茶。


「姉さん、葉の匂いを嗅いでどれを飲んでみたいのか教えて。それと温かいのか冷たいのかどちらがいいのかも教えて。同じ木の葉を発酵させて味を変えているんだよ。」

「同じ木の葉なのに全く香りが違いますね。先程まで馬でしたのでこれに惹かれます。それと冷たい方がいいです。」


 緑茶の茶葉は牧草に似ていると言えるのかもしれない。お茶にすると乾いた草原の匂いと味かな。どちらにしても姉さんが好みそう。

 緑茶を冷水ポットに入れて冷蔵庫で冷やしておく。


 お茶の葉の入った袋を容器にしまい棚からグラスを2個取り出す。

 そして取り出したグラスに水を入れた。


「姉さん、アンジェの前で本番は嫌だと思うので練習しよう。冷たい飲み物はこのグラスで飲むの。私の真似をして飲んで。一度で全部飲む必要はないからね。それと机に置くときは割れないように優しくだよ。こうしてグラスを口に付けて溢さないように飲むの…。口を開けすぎないようにね。舌を伸ばすのもよくないよ。それとグラスは噛んだら駄目だよ。あとは傾けすぎないようにすれば大丈夫。」


「練習しなければ確実に馬でしたね。水を口の中に入れてあげればいいのですね…。失敗することなくできた私は人になれましたか?」


 何を言っているのか分からない。

 グラスで水を飲めなくても人だからね。


「歩けるようになった子はできるので私より大人だね。流石姉さんだよ。」

「馬鹿にしていますね。人になったのだからできて当然だと言いたいのでしょう。違いますか?」


 全く違います。


「姉さんは人になったのに何を言っているのか理解できないだけだよ。水を飲めなくても人は人でしょ。歩けなくても走れなくても馬は馬でしょ。人に『人になれましたか?』と聞かれても人だとしか言えないよ。姉さんは人の姿をした馬のつもりなの?ドラゴンにはなれるけれど、人だからね。もしかして勘違いをしていたの?」


「聞き方を間違えただけです!反抗期の赤ちゃんはもう少し優しくなった方がいいですね。私の聞き間違いに気づいて『一度で上手の飲めて凄いね!』と言ってほしいところです。」


 恥ずかしくなって拗ねて赤ちゃんを責めるのはどうかと思う。要望通りに今から言っても馬鹿にされたと更に拗ねるのが分かるので勉強に行こう。


「姉さん、昼まで勉強するよ。」


≪転移≫

姉さんと資料館に移動した


「姉さんは文字の読み書きを最初に勉強してもらうよ。空いた時間は魔力の使い方について私が教えるね。今日から勉強はできそう?」

「人として生きていくのには必要なのでしょ?私だけ遊んでいるつもりはありません。」


 今回の問題を解決する前提で話しているね。解決してから勉強すると言っても私は何とも思わないのに、全く疑ってくれないので全力で解決するしかない。

 姉さんに文字の一覧表とノートと鉛筆と消しゴムを手渡して、鉛筆の持ち方から文字の書き方を教えていたらあっという間にお昼になっていた。


「姉さん、お疲れ様。応接室に行こう。」

「勉強していると時間が早く感じますね。それでは行きましょう。」


≪転移≫

姉さんと応接室に移動した


 既にアンジェはソファに座っていたので姉さんと私は反対側のソファに座った。


転移門(ゲート)

冷蔵庫に入れた冷水ポットとグラスを3個取り出した


 3個のグラスに緑茶を入れる。

 そしてアンジェと姉さんと私の前に置いた。ポットは机の中心に置いておく。


「私は聞かれたときにだけ答えるので2人で話してよ。」


「リーリア姉さんが私に質問したいと思ったんだよ。だから何でも聞いて。」


「分かりました。遠慮なく聞きますね。リアは『信じられる人が少しいればいい』と言いました。リアの信じられる人はアンジェだけで私が追加された気がします。私が感じたのはリアが全くお母さんを信じていないことです。絶大な力のあるクロニクル様を信じていないのは何故ですか?」


 姉さんは私のことをかなり細かく把握している。

 私がお母さんを信じていないことに確信を持ったとしても、ここまではっきり口にするのは勇気がいると思う。姉さんは私が心配で他のことは気にしていないと思う。

 だから私が守らなければならない。


「リアは何も知らず敵の中に放り込まれたんだよ。敵だと知らないリアは皆を信じようとしたけれど、敵意と殺意を向けられ死ねとまで言われ殺されかけた。世界には数多くの命が生きているけれど、他にも命の生きている世界はあったんだよ。だけど命の生きている全ての世界で人体実験と拷問が当たり前に行われていた。だから救える命を全てこの世界に移動させたの。そして拷問を黙認していた世界を消した。数多くの命を救ったのか、世界を消したのか、何が理由か分からないけれど、太陽に目を付けられた。リアは太陽に世界の子だと言われて母親を知ったんだよ。それに絶大な力を持つお母さんは自分で解決できたのに何もせずに傍観していた。お母さんはリアを生み出して敵の中に放り込んだ以外で何もしていない。リアを助けたことが一度もない。そして多くの命を救ってほしいという思いはお母さんがリアの中に埋め込んだの。太陽が想定外の行動をしているのは仕方ないとしてもお母さんの責任は大きい。それなのに娘を助ける方法さえ碌に考えてくれない。詳細を説明しなくてもリアがお母さんを信じていない理由は十分に伝わるでしょ。」


「それだと拷問を黙認していた世界との違いはリアを生み出したことだけですか?」


 今の話を聞いて最初にそこが気になるのは凄いと思う。

 そして違いはそれだけしかない。


 太陽が全ての世界を洗脳していたのかまで考えると話が大きくなりすぎてしまうけれど、その可能性がないとは言えない。その場合は命が拷問され人体実験されるのを太陽が認めていることになる。

 だからこの宇宙は生物が苦しむために存在すると思った。


「その通りだよ。あとは私をリアの精神の中に入れたくらいだね。今晩からリアは姉さんに抱きついて眠るので抱きしめてあげて。他に聞きたいことはある?」


 そのつもりでいたけれど、アンジェに言われると恥ずかしい…。


「最初から全ての世界が太陽に洗脳されていた可能性があります。アンジェはそれでもリアが勝つと信じているのですか?」


「私たちは二心同体だったの。リアが間違っていることをするのは注意するけれど、それ以外では無謀だろうと全力で協力するのが双子の姉である私の役目。リアと一緒に歩くのが好きなの。だから勝敗は気にしていないし信じているとか関係ないよ。私が勝手に決めたことだからね。それにリアの決断を甘く見ない方がいいよ。私たちは全てが憎いので滅びるつもりでいたのに、リーリア姉さんを守るために太陽を潰すことにしたのだから。戦うための努力は私たちに任せて姉さんは基本から勉強を始めてね。」


 アンジェらしい答えだね。私の計画に協力してくれるのに成否は気にしない。成功するように調整してくれるのにアンジェはそれを何とも思っていない。

 私もアンジェと一緒に歩くのが好きなのでお互い様だよ。


 滅びるつもりだったのも太陽を潰すことにしたのも姉さんは知っているので何を聞くのかな。


「アンジェはリアの負担にならないようにしているのですね。消滅を選んでいたとき2人は死ぬことができたのですか?」

「お母さん次第だね。死ぬために全力なんて馬鹿らしいでしょ。」


 死ねない可能性が高い。

 それでもいいと思うくらい全てが下らないと思っていた。


「確かにそうですね。それとアンジェはかなり大人に感じますけれど、何故リアの決断を尊重するのですか?アンジェが計画を考えてもリアは一緒に歩くと思いますよ。」


「私の前世は全てに絶望して自殺した。だけど今世で二心同体だったときにリアの見ているものや考え方が好きになったの。だからリアの望みに協力することにしたよ。すぐに方針を変更したことや姉さんをドラゴンになれる人にしたことも教えてくれる。私に隠していることがあるとすれば今は誰にも言えないこと。リアは独断専行せずに相談してくれるし頼ってくれる。前世の私には家族がいたけれど、本当の家族だと思えるのはリアだけ。双子で名前も一緒で私の前世の姿を選ぶくらい可愛い妹なの。」


 アンジェは前世の影響で全てを憎んでいる。私も似たようなものだけれど、リオリナを守りたかった。だからこれまで生き残ってきた…。


 アンジェが計画を考えたときは当然協力するけれど、前世で自殺した影響で生きることに積極的ではない。そのため私がアンジェを巻き込む。

 アンジェが死ぬと私も死ぬようにすれば生き残る方法を考えてくれる。今回は私が滅びるつもりでいたので、アンジェは無理に私を生かそうとはしない。


 私たちは苦痛だけの人生を知っている…。

 特に私たちは生きているだけでは幸せになれない。


 それはともかく消滅でも無謀な戦いでも大切な家族に報告するのは当然で、相談するし協力してもらう。アンジェの方が賢いので理由もなく独断専行することはない。

 それに大好きな姉の姿がいいに決まっている。


「2人がお互いのことを分かるのも当然ですね。それではリアに話しておらずアンジェの意見を聞きたいことがあります。私はリアが辛そうにしているので理由を聞きました。死ぬこともできない理不尽な状況だと思っていますがアンジェの話を聞いて分かりました。リアが本当に辛いのはクロニクル様をお母さんと呼んでいることです。人の赤ちゃんは母親に抱きついて眠るのでしょう。アンジェはリアが私に抱きつくことを当然のように話しました。アンジェは気づいていたのですか?」


 姉さんの話を聞いた直後にこの体になって初めて喉が渇いた。グラスの緑茶を飲み干してもまだ渇いている気がする。冷水ポットから緑茶を入れてすぐに飲み干した…。


 お母さんと呼びたくない。

 それが死ねない恐怖よりも辛いのかな?


「気づいていないよ…。リアはお母さんに抱きついて眠ったことがほとんどない。お母さんを信用していないので、これまではリアを独占しようとした人に抱きついて眠っていた。それで今晩からは姉さんに抱きついて眠ると思ったんだよ。リアの様子を見ると本当のようだね。姉さんはそこまで感じ取ることができたの?」


「リアがクロニクル様に実験を指示する会話を聞いていましたが、クロニクル様を憎んでいると感じました。その本音に気づかないようにしていると感じました。母親を気遣っているとは思えませんでしたので何が理由か考えていました。リアがクロニクル様と険悪になりすぎないようにしているのはアンジェのためです。アンジェはお母さんに抱きついて眠っていませんか?」


「待って!アンジェはお母さんに抱きついて眠りたい理由を自分でも分からないはずだよ。仮に私とお母さんが本気で仲違いしたらアンジェはお母さんに抱きついて眠らなくなるの?」


 アンジェがお母さんと眠らなくなると感じていたのだとしたら姉さんの言っていることも分かるけれど、私とお母さんの仲とアンジェとお母さんが一緒に眠ることは関係ないと思っている。


「確かに私はお母さんに甘えたい理由を自分で分かっていない。抱きついて眠りたい理由も分かっていない。だけどお母さんとリアの仲がこれ以上険悪になればお母さんを避けるよ。リアはそれを感じていて会話できる程度に抑えていたのであれば私のためになるね。辛い思いをさせてごめんね…。」


「アンジェがお母さんに甘えたいのは何か理由があるんだよ。私は気にしていないしアンジェのために我慢していると分かれば辛くもない。それと姉さんはこの件に関して何も考えず言わないで。」


「分かりました。それではアンジェが聞きたいことはありませんか?」


 アンジェがお母さんに抱きついて眠ることをやめてしまうと、お母さんの動きが予測できない。姉さんの話が発端だとして消しに来る可能性もある。

 私が言えたことではないけれど、姉さんは自分の命を大切にしてほしい。


「リーリアがリアを誑かしているのがよく分かったわ。消える前に遺言はあるかしら?」


 穏便に終わらすつもりはないらしい。

 殺気を感じて姉さんが怯えている…。


「姉さんが気にすることは何もないよ。この人は最初からそのつもりだったの。世界は痛みを感じないので何も怖くないのが羨ましいよ。2対1で勝てるつもりなの?本気で消すよ。」

「ここで始めたらプリムスまで巻き込むよ。宇宙に行こう。ねぇ、お母さん。」


 お母さんの唇は優雅な弧を描く。


「偶には親子喧嘩も悪くないわね。海上で遊んであげるわ。」


 お母さんはアンジェと私を巻き込み海上に転移した。

 世界の別体なので何度でも蘇ることができるし目の前にいるのは分身でしかない。


 全く、面倒だね…。

リーリアは殺気に怯え話しすぎたと後悔しています。

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