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天使のルールブック~必ず誰かが死んでしまう物語  作者: 花鶏柄四季
理解出来なきゃ鵜呑みにしろ、それが楽な生き方だ。
2/5

第一話 ベルナドット

 神の戴冠。

 神の世代交代を儀式的に執り行う非常に面倒で、無駄に長ったらしい離席我慢大会ってやつだ。

 

 神のお仕事は一つ、この国の肥料となることだ。

 

 神とは国内でも、内包する神力の保有量が多い者を対象に選出され、その力を常に国のありとあらゆる機能へと供給されるために必要な、言わば燃料代わりにされてしまう。

 

 神の神力とは、国の血となり肉としての機能を果たす、要は体の良い生贄みたいなもので、唯一の利点と言えば、国への最高位の奉仕活動とかいう頭の可笑しな名誉が送られるくらいなもんだ。

 

 「…フォス…フォス」

 ラズの声か。ああ、めんどくせえ。このまま狸寝入りでもしちまおうかな。

 「…フォス……フォスっ!!!」

 次第に語彙が強まる。

 

 睡眠を妨げる行為がこの世で最も罪の重い犯罪だと知らないのか?このあたし様の眠りを妨げようとは命知らずで死にたがりの様だ、最初の仕事は、「ラズ・イストワールとの一騎打ち」なんて魅力的すぎるお仕事じゃねえかよ。

  

 「そう語彙を強めるものじゃないぜ、ラズ・イストワール君。押してダメなら引くべきだ、思わず目を開けたくなくなっちまっただろ?」

 「化粧直しで本格的な就寝に入る天使は、この国でもきっとあなただけだ。それにここで引いたら、あなた式典終了まで眠り続けるでしょ」それもいいかもしれなかった。

 

 もう一回寝ちまおうかな。

 

 「乙女の支度は時間が掛かるんだ。寛大な心で寝かしてくれなきゃ未来の伴侶は見つかんないぜ?」ウグなんて正にその類だ。あいつはあいつで支度に半日を費やす時間の浪費家だと記憶している。

 「ウグを引き合いに出すのであれば意味は無いですよ、あの子はああ見えてあなたにだけルーズであって、副官としての彼女は仕事と命令にはとっても忠実な子です」おいおい、それは酷いじゃねえかよ。勢いあまり余って式典前にヒト騒動起こしちまいそうになったよ。

 

 「…何が、ウグというスタイルだよ」身内に甘々すぎるぜ、全くあたしは。

 「フォス、行きましょう。オニキスが待っています」

 

 女の園に立ち入る侵入者ラズ・イストワール、化粧直しでほんの少し瞑想に入ったからといってこいつを呼んだ天使どもの事はこの際別としてだ、女がお色直しの最中(…ん?ああ、瞑想に耽ってる間に終了したのか)という女が戦闘準備をしている最中の部屋に土足で踏み入るこいつの顔は何故にこれほどまで冷静沈着なのか理解が出来ん。

 

 指を差してラズに言う「可愛げがねえのな、お前」

 

 「師に似たのでしょう」あたしの指を右手で上から下へと下ろすラズ。

 「お前の師は可愛い奴の筈だぜ?」覗き込んで顔を伺うあたし。

 

 今更師の急接近などありがたくもないのか、くるりと背を向け出口に向かい「じゃあ、反面教師ですよ」

 

 後姿が皮肉を吐いた。

 

 吐いた皮肉にあたしも返そう、あたしの大好きなラズ・イストワールへ最後の贈り物だ。

 「反面教師の最後の授業だ、イストワール君」全員出席、病欠は許さん。

 

 あたしの師が嘗てそうであったように、あたしもあたしの弟子に一つ知識を与えよう。

 例えば、あたしとあたしの師が共に作り上げた最高傑作の話とか。

 

 「…衛兵…ですか」きょとんする顔ですら絵になるなんて罪な男だ、ラズ・イストワール。

 「正式には制御甲冑と呼ばれる鎧が動いているんだが、アレ自体は先々代の神が作っていたものに師が原型を、あたしが実用段階まで引っ張ったんだ。」

 

 「だから、国の防衛任務にあいつらを連れて行っていたのですね。前々からフォスと衛兵との関係性は同僚連中の間でも噂になっていましたから、漸く得心がいきました。」得心がいったのならそれらしい表情をしてくれりゃあこっちとしても張り合いがあるってのに涼しい顔しやがって。

 あたしの言う「知識」に嘸かし興味があるのだな、他の事などどうでもいいくらいに。

 

 「知識ってのはその制御甲冑についてだが、何処まで知ってる?」

 ラズは賢い。けれども、あくまでそれは一般教養の範囲を出ない優等生レヴェルで賢いって意味合いだ。それ故に返ってくる内容は当たり障りのない、市井に広がっている程度のもの。

 

 「衛兵システム其の物をオニキス様が国家機密扱いにしたから、知識については程度が知れます。強いて言えばオニキス様と同じ匂いがしたぐらいでして―」

 流石あたしの副官、嗅覚まで一線級とは御見それした。ただ―。

 

 「オニキスの神力は、都市機能其の物の根幹となるよう造られてる。そいつを守る衛兵システムにオニキスの神力が流用されてんのは当然のこと、制御甲冑は防衛戦において個の力でなく物量で押し切る戦術をメインに設計されてる。兵装の一部にもオニキスの神力が組み込まれているから、戦闘中は特に微量の神力が漏れているんだ」実際、衛兵が破壊された時点で神力が空気中に霧散する仕組みにしたから、特にあいつの神力が数秒間だけ拡散されちまう。お陰で敵の目くらましにもなるんだが、鼻が良い奴は余計混乱しちまうから天使との混戦は避けるよう通達してたが、こいつは勝手に加勢しに来るから質が悪い。

 

 「戴冠式とは言え、継承されるのはあくまで指輪だけで王冠は形式上用意したに過ぎないってことは知ってるな。衛兵システムを司ってるのがオニキスが薬指に嵌めてる指輪だ。あたし色の鮮やかな朱色の指輪、それが衛兵システムのマスターキーになってる。衛兵が使いたきゃ指輪を奪取して嵌めちまえ。そうすりゃ国中の衛兵が手となり足となり、文字通り傀儡に出来ちまう。」傀儡とは、我ながら言い得て妙だ。衛兵然り天使然り、神すら例外でなく、イレギュラーは許されない。難しく頭をひねくり回して理屈をこねくり回した末に神とは何か提唱されようともあたしたちはそれを理解しようとしない。理解ではなくそれがそうであると嚥下するのみ。それがこの世の法則だ。そしてその法則こそがこの世で最も絶対的なモノとなる。神など取るに足りん下賤な羽虫と切り捨てられるほどに絶対的なルールだ。

 

 だから、あたしがここで神になるのも、ラズ・イストワールに知識と呼ぶほどでないほんの少し先にある現実を教えたのも、その世界の法則に則った行動に過ぎない。大過じゃねえ。 

 

 これがルールなんだ。

 

 「…もうすぐです」

 ああ、もうすぐだな。

 

 「ウグに聞いた」

 ああ、聞いた。

 

 「どうします」

 どうもしねえ。

 

 「何かしてほしいですか」

 自惚れんな。

 

 「相も変わらずですね」

 敬老の精神を抱かれるほど離れちゃいねえからな。

 

 「あたしの教えを全うしろ、でなきゃお前をぶっ殺す」

 師匠と弟子、女と男、神と天使、時に並んで時に連れてあたしは歩いた。名実ともに神の国、お誂え向けの吐き気がするほど清潔で眩暈がするほど白い回廊を歩いた。先に見えた二枚扉が前に立つや否や、向こう開きに1人勝手に開かれた。

 さあ、開場だ。ここから先が戦場さ。

 

 「【空域の血溜まり(ベルナドット)】が逢瀬に来たぜ、オニキス」


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