54/147
ナツ22
黒くて暗いものは嫌いですか?
「えぇ!なにこれ!」
だんだん足が消えていっているのを目の当たりに、慌てて砂浜に腕を着いて抵抗してみたけど、ゆっくりとゆっくりと空間に足を引き込まれる。
「助けてぇ!」
住宅もなければ人影なんて尚更にない。そんな場所で、響きもしない声は波の音に打ち消されていた。
そんなことをしている内に、みるみると吸い込まれていく足はほとんどなくて、とうとう腰に到達していた。
『ユ…き』
「えっ、こわっ!なに!」
何処からなのか。女の子の声が聞こえる。
それも掠れていて、とても弱々しいもの。
『こっちで、いんだよ?』
次は、はっきりとした声.わたしよりも少し可愛らしい声がする。しかしそれは、狂気に溢れたものに感じた。
瞬間。
一気にわたしの身体から力が抜ける。
目を瞑ってしまっていた。
酷く優しくて、居心地の良い場所なんだけど、すごく辛い。そして暗い場所にいる。
でも。
もうずっとこのままでも、いいかも…しれない。
「なにも…見えない」
よろしゅうお願いしやす。