ナツ11
あ、久しぶりですね
走り回りどこへ行こうと、街中で水飛沫が飛び交っている。
水風船を持つ子供も、水が勢いよく出ているホースを上に向かって放っているお爺さんも、同い年くらいの若いみんなも楽しそうに、まるで心がつながっているよう。
屋台も地面ももうびしょ濡れで心配にもなるけど、やっぱりそんな心配もしていられない。みんなが困っていないから、きっと大丈夫なんだ。
一度は足を止めて考え込んだけど、直ぐに走り出す準備をした。そんな時だった。
「おら、捕まえたぜー!」
足を掬われて頭に手を回される。
「わぁ!」
驚いた反動で、自然とナツの首元に手をかけた。
「お姫様だっこだぜ、嬉しいだろ?」
頭の悪そうなことを言うナツは歯を見せて笑う。
「少しだけ」
また恥ずかしさを隠すため、開き直って見せる。そしたら、ナツは一度わたしを見た。
同時にも偶然にも、その瞳がわたしの目と合ってしまった。
「おぉ、おおお」
「な、なに?」
「ユキ、可愛いな」
鼻の下を伸ばしてそう言うナツに対して、熱くなっている顔を見られないようにビンタした。
「きもいー!」
びしっ!
「いたっ!」
怯むナツだったけど、「元気が出た」なんてことを言って、わたしを抱えたまま走り出した。
「ちょっ!危ないよー!」
ナツが地面に足着くごとに揺れを感じる。
「前見てよ、ユキ」
「えっ?」
揺れている視界に目を凝らして目の前を見た。
「飛び込も!」
「まってまって!」
否定も無意味に、勢いついた身体にしがみつく。
揺れが収まる。
けれど体制は高く上がって空中に浮かんでいる。
スローモーション見たい。
気づいた時には、水がわたしの体にまとわりついていた。
バシャーン!
何度も感じる青春らしい水飛沫に飽きることもなく、息をするために水面から顔を出した。
あははは。
同時に笑い声が聞こえて、つられてわたしも笑ってみた。
「楽しかった?」
「うん!最高だったぁ!」
プールに飛び込んだわたしの白いワンピースは、水の中でゆらゆらと形を変えている。
「似合うなー」
「ドレス見たいだよね」
見惚れているらしいナツの目をさらに奪うため、身体を揺らして見せると、ワンピースがゆらゆら揺れる。
「ユキ、どう?少しは気が晴れた?」
唐突に思ってもいないことを聞かれたので首を傾げる。
「何のこと?」
「いや、なんでもないや」
こんな時、いつもはあどけない表情を見せてくれていたナツの虚な顔に、何か隠しごとでもあるのかと不思議に思う。
わたしとナツしか入っていないプールサイドで足をバタバタさせている。
まだ街の中は盛り上がっているようで安心できる。いつか終わってしまうという時間が来ることを忘れさせてくれた。
ありがとうございます