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私の知らないわたし旅  作者: 秋乃しん
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憶い溺れる

冷める時が来るから


 真っ暗な視界に聞こえるのは私の思考回路。

冷たい気温を感じ始めて、もう時期に目が覚める。


一体これで何回目だろう。

夢を見た回数じゃない、私がわたしを忘れてしまう癖。引き攣っていた息も覚めて、わたしがここにいた理由も思い出も覚め始めてる。

私が見つけられなかった思い出も後悔も、またこうして思い出してしまうのはどうしてなのか。

忘れたはずだった。もう元に戻らないから、諦めたはずだったのに。


私がわたしじゃなくなった日はいつだっけ。


嫌な考えの中でようやく、覚ましたくもない世界に目をひらいた。


真っ白な天井を見てる。


「はぁー」


深い溜息をついて夢の余韻を掻き消した。

そして、重たい身体を無理に起こして、通う高校に着て行く制服に手をかける。肩に届くか届かないくらいな髪が跳ねていることを感じる。

寝相が悪いのはあの夢のせいだ。

でも、そんな夢のことを少しでも感じることができるならそれはそれで良いのかもしれない。


「ユキー、今日は学校いけるの?」


「今日はいくー」


下からの母の声に返事を返す。


母は私のこと心配してくれてるんだ。

でも、私のことを期待してる。だから嫌い。

勝手に期待して、勝手に失望されることが嫌い。幸せになってくれれば良いって言ってたくせに、そんな私の幸せを否定した。やっぱり。心配しているのはこんな私のことじゃない。将来、未来の私のことだ。私の心の中にあるものも、価値観も、言葉もぜんぶ。きっと[思春期]だなんて言葉に掻き消される。


わたしは殺されてく。


この世界がわたしを殺しちゃうんじゃない。私が殺しちゃうんだ。制服を着こなしたけれど、やっぱり部屋から出たくなくて足が霞む。

そして、頭の中でぐるぐる回る。そんな私の思考はわたしを責め立てていた。でも、常に憂鬱なこの世界で生きる為にはそうして居ないと駄目なんだ。


そんな時だった。


「いたいっ」


右手首に感じた痛み。それは何処かで覚えのある傷からのものだ。そんな刺されるような痛みに驚かされて、思わずに右手首を押さえ込んだ。

庇っている手首を自分の目にあわせて、誰もいない部屋で。隠すように、その痛みを見つめた。


「やめてよ…」


流れるように息が漏れる。足から力が抜けて崩れ落ちる。目から込み上げてきた熱い感覚と同時に、私を溺れさせるように喉は引き攣り苦しめる。

 あっという間に漏れ出した涙が私の頬を撫でてくれていた。そしてまた、私が暗くした思考は心地よさに変わりだした。

いつか見たこの傷。こんな感情も苦しさも、あの夢で見た時と同じで、あの夢の続きがあるなら、私がそう信じることができるなら。

 感情と思考が混じり、わたしを殺さないように、手首の傷にも涙が触れる。ぐちゃぐちゃな頭の中なのに、はっきりと思い出せた3人の顔は素敵で、思い出される風景が綺麗過ぎる。

ここにいる私も世界も。ぜんぶが汚く見えてしまう。人の為に生きることができない私も、同じ世界も。


だけど。


漏れ出している自分の感情を理解し始めてる。


私はここにいる。

どうしてこんなに辛いのか、苦しいのかなんてぜんぶこの世界のせいにすれば良い。だからもっと自分を好きになってあげないといけない。

誰の為にじゃなくて、わたしの為に。

私以外のことなんてぜんぶ決まってしまっていることなんだから。誰も決めることができない私自身を好きになりたい。そうならないといけない。

そしたらきっと、きっとわたしは彩られる。

私がわたしを彩ってあげられる日が来るなら。


だから、私を信じて。


感情は治る。引き攣る息も、流れていた涙もぜんぶ私のものだ。そうやって。私は考え出していた答えを、手首に感じる痛みを。


わたし達の為に。



 『そうだよ』



え?


突然に聞こえたのは微かな声。頭に流れ込んできた存在の声は、確かにわたしの声だ。


そんな声に驚いて、頭を研ぎ澄ましたけど、もう聞こえなかった。


ここにいる。


わたしはここにいる。


また流れ出してしまいそうな感情を堪えた。 


そしてゆっくりと感じる。


私がこの世界で生きる理由。


いつかまた、夢見ることができるわたし達を信じて。


 気持ちが心地いい。自然とこの先を見つめることができる。そんな気がする。整った息も、立ち上がっていた私も。何か大切なものを見つけた勘違いも無駄にならないように、こんな私ができることが答えになるように。


またいつか見ることのできる夢の続きを信じて。


目の前のドアに手を掛けた。

次で最後

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