わたし旅21
よろしくお願いします
しばらくの間、力を緩めてくれなかったハルの腕から顔を出す。すると、弱々しいハルの瞳がわたしを見ている。
だからわたしは、笑ってみせる。
「ユキは僕に色をくれたんだ。大切にしたいのに、ユキの為にって決めたのに。ごめん勝手なことして、ほんとに、ごめん」
「わたしはハルから我儘されたかった」
ずっと求められたかった。
だから今こんなことになっていて、この世界の秩序なんて関係なくて。ぜんぶこれが答えでいいって、そう思いたくて。
「ユキ、歩こう」
「うんっ!」
立ち上がるハルに両脇を支えられて、持ち上げられた。
「これから、ユキに話があるからさ」
「え!聞かせてよ!」
「お説教だよ」
「え、いやです」
「僕も嫌だ」
2人で、線路に沿って歩き始める。
こうして、ハルと長い距離を歩けるんだから、いっぱい話したい事もあって、甘えたいこともある。
「ハルはさ、わたしと居て苦しいことってなに?」
「そんなのいっぱいあって選ぶのは難しいよ」
「ひど!もう少しビブラートに包んでよ」
「それを言うならオブラートだよ」
「いいの!ボブラートだよ!」
「誰だよ、ボブラートって」
こんな会話でいい。わたしがそれでハルを感じれるから、きっとハルも同じで、わたしを感じてくれているから。
「ハルからもらったメモどっかにいっちゃったんだよねー」
「いいよ、あれは僕が仮に作った決まりだからさ」
「えぇ、そうなの?」
「本当ならユキはもう帰ってないと行けないんだけど、ユキのせいでぜんぶが変わったから」
ハルの言葉に対して、気恥ずかしく感じたから、態とらしく、手を組んでわたしらしい態度を取る。
「凄いでしょ、わたし」
「うん、頭悪いけどね」
「うるさぁい、いっつもハルは一言余計だよね!」
「ユキ、本当に好きだよ」
「え?な、なんですか?ふへへ!へへ、へへへ」
「気持ちわる」
唐突な言葉に跳ね上がった感情が漏れる。
「わたしもハルのこと好き」
「うん」
隣で照れるように頷くハルの手を握った。
もう少し、感情をぶつけられる表現の仕方があればいいんだけど、これしか知らないから、あとは身勝手になるだけ。
だんだん強くなる日差しを感じて、もしかすればもう直ぐでナツの街に着くんだろうか。
「んふんんーんー」
鼻歌を披露する。
この世界にいる間に、少しずつ上達していることを実感している。そんな自信はあった。
「前から気になってたんだけどさ、それはなんの曲?」
「オリジナルだよー!」
「そうなんだね、それなら音痴ではなさそうだね」
「えー?どう言う意味なのー!わたし音痴じゃないから」
風が吹くと同時に、わたしの声は流される。
潮風が鼻につき、2人して立ち止まった。
そして、心の中でずっと待っていたナツが、もう目の前にあった。
見覚えのある駅のフェンスに、駆け出した砂浜も目に止まる。暑い夏の気温は嫌になるけれど、やっと来たこの場所で、駆け出さずにはいられなかった。
今はハルと一緒に居て、このナツの街にやってきたから、ナツと会うのはすごく楽しみだった。
あの砂浜に並ぶハウスの中に、見覚えのあるナツのおじさんのお店がある。
きっとそこに行けば、アイスが待っているはずだ。
ありがとうございます