1回戦の準備と思惑……
WBSSの準備……
佐伯は川上ジムで練習している。合宿で改めて気持ちを引き締め、まずはWBSS1回戦に向けて準備している。
練習自体は変わらないが、やはり問題はスパーリングパートナーである。喜多は練習生を見る事も必要とされている為、佐伯のスパーリングパートナーのみに集中という訳にはいかない。更に付け加えるなら、喜多だけでは佐伯のスパーリングパートナーは厳しい。佐伯のボクサーとしてのレベルは、それ程に上がっていた。
この問題に助け船を出したのは、石谷トレーナーである。石谷トレーナーは国内の近い階級の日本ランカーや東洋太平のランカー達のジムと交渉し、佐伯のスパーリングパートナーを上手く確保していた。佐伯のスパーリングパートナーは喜多を含めて5人、1人1~2ラウンドでスパーリングを行う形を取っていく。この辺は、流石石谷トレーナーといった所だろうか。
7月に入り、佐伯はスパーリングを本格的に始める。このスパーリングだが、普通のスパーリングとは少し違った形を取っている。
本来、スパーリングがメインでの練習となるとスパーリングに合わせて練習メニューを組むのであるが、それだとスパーリングで佐伯に圧倒されてしまう可能性が有る。スパーリングは、主に試合形式での練習の為にそこから強化する所を見付けたり、色々と反省点を確認して試合に繋げていく事が必須であるのだが、今の佐伯だと普通にスパーリングをすると反省点を見付ける前に相手をKOし兼ねない。その為、喜多は石谷トレーナーと話し合いスパーリングの前に普段の練習をさせる事にした。
普段の練習とはいうが、佐伯の練習はかなり厳しい。ロードワークから始まり、ロープスキッピング·シャドーボクシング·ミット打ち·サンドバッグ打ちと続く訳だが、ミットを持つのは喜多であり喜多が優しくミットを持つ筈がない。喜多のミットは、見ているだけで吐き気を催すくらいにきつい物となっており、佐伯も肩で息をしている。それを12ラウンド行い、そのままサンドバッグを打っている最中にパートナーが到着する形である。佐伯はへとへとになった状態で、喜多を含めた5人の選手とスパーリングをする形になる。確かにきつい練習である。
スパーリングの方だが、佐伯は苦戦していた。疲れが溜まっている時のスパーリング、相手は元気いっぱいであり、すぐに次のパートナーと交換していく。次々に元気なパートナーと休む事なくスパーリングとなり、更には最後は喜多とのスパーリングである。佐伯としては歯ぎしりの止まらないスパーリングとなり、この状況は暫く続く事となっていた。
一方の甲斐だが、こちらも西田拳闘会で毎日汗を流していた。合宿の肉体改造も有り、甲斐は一皮剥けた感じがする。サンドバッグを叩く音が、今までよりも力強くなっている様に感じられる。ラッシュにしても、今までよりも確かに続いている。早くも合宿の成果が現れている。
こちらもスパーリングで問題が発生していた。手塚もスパーリングパートナーをこなすのは難しくなって来ていた。手塚だけでは難しいと判断した篠原トレーナー、こちらも日本ランカーや東洋太平ランカー達をスパーリングパートナーとして用意した。こちらもパートナーは手塚を含めて5人、佐伯と同じ様である。スパーリングの順番としても、やはり練習終わりに近い所で組み込む形を取っている。佐伯も甲斐もトレーナーの悩みは同じ様である。
ただし、甲斐のスパーリングは佐伯とは少し違っていた。手塚とのスパーリングが終わり、筋力トレーニングやボディ打ちが終わった後にもう1度手塚とのスパーリングが待っていた。疲れが溜まった上に、ボディを散々打たれて更に体力を削られてから再度手塚とのスパーリングである。増して、手塚は手を抜ける程に器用ではない。ここで甲斐は、手塚にしこたまやり込められる事になる。こちらも、暫くは歯ぎしりの治まらない練習となっている。
2人は、7月の半ばまでこの練習を続けていた。7月の半ばと言ったのには訳が有る。7月半ばを過ぎると、2人は減量に入る。つまりは、7月半ばからは更に厳しい練習となる訳である。どちらのジム生も、この練習に見ているだけで参っている様である。
2人の成長が1番感じられるのは、実はこういう時である。その昔、2人がアメリカに行ったばかりの頃であれば、周りの人達に八つ当たりをしたり勝手に癇癪を起こしたりしていただろう。実際、佐伯も甲斐も日本に戻って来たばかりの時は、少なからずそういった行動をした事も有った。
しかし、2人はジムの筆頭として歩み始めている。その為に弱音等を吐く事は絶対にやってはいけない。そういった態度を見せ、背中で他のジム生を引っ張って行く必要が有る。今の2人は、確実にそれを実行している。この辺の精神的成長、これが2人の成長で1番大きい。正しい精神に肉体は付いて来る。2人は今正に、この言葉を体現しつつある。誰もが楽しみにしている訳である。
この先の道で、必ずお互いの道と交差する事が有る。その時に、お互い胸を付き合わせて、真っ向から正々堂々と戦う事になるだろう。一体、どんな試合をしてくれるのだろうか。
トーナメント、始まりが見えて来ました……




