試合当日……
遂に佐伯の世界戦……
佐伯は少し早めに会場入りした。控え室に入り、ゆっくりと着替えてから気持ちを落ち着ける様にその場に軽く横になった。
(世界タイトルマッチ……まずはここをクリアしないとな…………徳井さん達はしっかりとチャンピオンになった。俺の後には拳人が控えてる……繋げないとな……)
佐伯は密かに決意していた。
試合が始まり、どんどんと進んで行く。本日は判定の試合が多く、佐伯の出番は予定より少し遅くなりそうである。
佐伯はしっかりとアップをし、試合に備えていた。
「やってるかい?」
「徳井さん!」
「準備は出来てるかな?」
「はい、世界チャンピオンになる準備はバッチリです!」
「そう、なら安心だ……そのうち、池本さんも来るからな」
徳井が出て行くと、すぐに池本がやって来る。
「体調はどうだ?」
「悪くはないです!」
「そうか……甲斐は甲斐で世界戦の準備をしている。お前がこける訳にはいかねぇぞ?」
「当たり前ですよ、あいつにプレッシャーを掛けます!」
「頼むぞ」
「はい!」
池本は控え室から出て行った。
試合はセミファイナルまでが終わり、いよいよメインイベントである。佐伯の控え室には、川上会長·石谷トレーナー·喜多の姿が有る。
「佐伯、準備はいいか?」
「いつでもどうぞですね!…やっと世界チャンピオンですよ!」
「口だけはいつも通りだな」
「何言ってんですか、この次に拳人の世界戦が有るんですよ……遅れを取る訳にはいきません!」
「なかなかいい答えだが……しっかりと足元を見詰めろよ。重要な事だぞ」
「そうだ、池もそうだった。油断大敵だ!」
「石谷トレーナー、会長、任せて下さい。世界チャンピオンのベルト、ジムに持って帰りますからね!」
入場の合図が入る。
「喜多、お前が締めろ!」
「はい……やる事はやった。ベルトを取って来るぞ!」
「はい!」
佐伯達は控え室を出て行った。
横浜アリーナの電気が消え[月光]が流れる。青コーナーにスポットライトが当たり、そこには佐伯の姿が映し出される。佐伯は軽く左のパンチを放ち、ゆっくりと花道を歩いて来る。後ろには、会長·石谷トレーナー·喜多が続く。リング前に来ると、佐伯は軽く深呼吸をしてから一気にリングを駆け上がり、トップロープを飛び越えてリングインした。
続いて乗りの良いダンスミュージックが流れ、赤コーナーにスポットライトが当たる。そこにはヒカルド·クゥトゥアの姿が有り、ヒカルドはゆっくりと花道を歩いて来る。ヒカルドの後ろにはセコンド陣がおり、WBCのチャンピオンベルトを高々と上げて入場して来る。ヒカルドはリング前で右手で十字を切り、軽く祈りをするとリングインした。
2人の入場が終わると会場の電気が付き、国歌斉唱に移る。最初はヒカルドの祖国、ブラジルの国歌が流れる。ヒカルドは目を閉じ、左手を胸に付けて静かに立た済んでいる。
続いて日本国歌に移る。佐伯は目を閉じて静かにしている。集中を高めている様に見える。
アナウンスが入り2人の紹介が終わると、両雄はリング中央に歩み寄る。レフェリーから注意事項を受けると、2人は一旦コーナーに戻る。
「カーン」
ゴングが鳴った。
1ラウンド………………
佐伯は左ジャブを放ち、いつも通りのステップを踏んでいる。世界戦も試合の1つだと言わんばかりの、本当にいつも通りの立ち上がりである。
対するヒカルドだが、こちらは佐伯対策を練って来た様である。佐伯のジャブをしっかりガードし、距離を詰めて行く。佐伯とやるのにアウトボクシングでは部が悪いと踏んでいる様だ。ヒカルドは佐伯のジャブを受けながら、そのジャブをかわすタイミングを計っている。
この立ち上がりだが、佐伯はヒカルドの狙いを読み取っていた。読み取った上で、佐伯は真っ向からヒカルドを潰す事を選んだ。
佐伯はギアを上げ、ヒカルドに対して次々にパンチを繰り出して行く。左ジャブを何発も放ち、ヒカルドが左ジャブに気を取られるとすぐに右ブローを混ぜて攻撃を仕掛ける。その作業はまさに電光石火の如く、ヒカルドが打ち返しても佐伯を捉える事は出来ない。更に佐伯は、ヒカルドの打ち終わりに自分のパンチを被せており、ヒカルドがやりたい事を逆にやっている感じである。
しかし、相手は世界チャンピオンである。簡単には流れを引き寄せられない。ヒカルドは佐伯のギアが上がった事を確認すると、自分のギアを1つ上げる。頭の振りが速くなり、左ジャブを返しながら佐伯を追い掛けていく。
1ラウンドからお互いに、手の内を隠す事なく流れを掴みに掛かっている。始めから目の離せない試合になっている。
1ラウンド後半、ヒカルドは佐伯の左ジャブをかわし出す。佐伯の放つ左ジャブをヒカルドは悉くかわし、佐伯との距離を詰めて行く。
佐伯はヒカルドに距離を詰められるが、戦い方を変える事はしない。左ジャブを中心に放ち、打ち終わりには同じ場所に居ない事を実践している。
それでもヒカルドとの距離が詰まって来る。ヒカルドは佐伯のパンチを掻い潜る様にかわしながら、佐伯との距離を詰めて行く。佐伯が右ストレートを放った時にヒカルドは佐伯の懐に飛び込んだ。
次の瞬間、ヒカルドの頭は弾ける様に縦に揺れた。佐伯の左アッパーがヒカルドを捉えたのだ。ヒカルドは堪らずに右膝をキャンバスに着く。レフェリーは間に割って入って来る。
「ダウン、ニュートラルコーナー!」
レフェリーから指示を受け、佐伯はゆっくりとニュートラルコーナーに歩いて行く。レフェリーがカウントを数えるが、ヒカルドはすぐに立ち上がり、カウント8でファイティングポーズを取る。
「ファイト!」
レフェリーの腕が交差された所でゴングが鳴る。1ラウンド終了である。
試合は始まったばかり……




