エリック·ロペスの試合……
エリック·ロペスの世界戦……
池本達は観客席に腰を降ろした。なかなかいい席であり、この5人が座っているのは迫力が有る。元世界チャンピオンが3人居る訳であるので、当たり前と言えば当たり前である。
試合はKOが多く、どれもが白熱の試合になっていた。順当に勝つ試合が有れば、番狂わせも有る。逆転KOも有り、見ていて飽きない。流石にボクシングの本場である。
セミファイナルが終わり遂に本日のメインイベント、挑戦者エリック·ロペス VS WBAチャンピオン、ジョン·パルバーの試合となった。
会場の電気が消され、最初に青コーナーの花道にスポットライトが当たる。そこにはエリックの姿が有り、エリックの姿がオーロラビジョンに写し出されると花火が盛大に上がる。その後に[魔王]が流れ、エリックはゆっくりと花道を歩いて来る。リング前に着くと、リングに軽く頭を下げてリングに上がる。
続いて赤コーナーにスポットライトが当たり、パルバーの姿が浮かび上がる。パルバーがオーロラビジョンに写し出されると、こちらも花火が上がり派手である。乗りのいいダンスミュージックと共にパルバーが軽快に花道を歩いて来る。そのままリング前まで来ると、パルバーは一気に駆け上がりトップロープを飛び越えてリングインした。
2人がリングに上がると、会場の電気が着けられる。
少しの間を置き、アナウンスが入った後にお互いの国歌が流れる。その後はアナウンスで選手紹介が有り、お互いが1度リング中央に歩み寄る。レフェリーから注意事項を聞き、お互いが各コーナーに別れるとゴングが鳴った。
エリック·ロペスVSジョン·パルバー…………
エリックは左ジャブを放ちながら左に回って行く。その一連の動作が滑らかであり、この動きを何千何万回と繰り返して来た事が分かる。
対するパルバーだが、こちらはエリックを追い掛ける様に左ジャブを出しながら前に出て行く。パルバーは最初から打ち合い覚悟で試合に望んでいる様だ。パルバーの左ジャブは速く、その身体の切れ等から仕上がりの良さが伺える。2人の駆け引きやパンチのやり取りを誰もが楽しみにしていた。
しかし、この夜の試合は観客の思惑通りにはいかなかった。
パルバーがエリックのパンチをガードしながら距離を詰め様とても、エリックの返しの速い左ジャブはそれを許さない。パルバーの前進を止め、距離を保ちながらエリックは試合を進めて行く。
1ラウンド、2ラウンドはパルバーもそれでも強引に距離を詰める場面が見られたが、3ラウンドからエリックがギアを1つ上げ、左ジャブの威力や切れ、スピード等が確実に上がっておりパルバーはエリックのパンチの前にガードをするだけで精一杯になっていた。
それでも試合を投げないパルバー、エリックの打ち終わりや相討ち覚悟でパンチを出していく。当たれば、確かに逆転の可能性は有る。
この決死のパルバーのアタックは、それでもエリックには届かない。エリックはパルバーに的確にパンチをヒットさせ、打ち終わりには同じ場所には居ない。空振りのパルバー目掛けて左ブローを更に的確に捩じ込んでいく。
5ラウンドも中盤を過ぎた頃、パルバーの左瞼はかなり腫れ上がりどれだけ劣勢かを物語っていた。
ガードを上げるパルバーに対し、軽快なフットワークから次々にパンチをヒットさせるエリック、右のブローも交えながら後はパルバーを何時仕留めるかと観客は思っていた。
5ラウンドが終わった時、
「池本、ここまでだな……」
「残念だが、我々が考えているよりエリックは強いらしい……」
「決まりですかね……」
ラリオス·ミゲール·徳井が言葉を発したが、池本だけは何も喋らずにエリックに指示しているミッキーに注目していた。ミッキーがエリックから離れる際、池本が確かに少しだけ口角を上げた。
6ラウンドに入り、試合は動き出す。先程までは距離を取っていたエリックが、前に出て来たのである。間合いが詰まり、手を出せば届く距離でエリックはパンチを出していく。
パルバーは距離が縮まった事でガードを捨て、玉砕覚悟でパンチを出していく。こうなると、パルバーには逆転KOしか道は残されていない。
激しい打ち合いが予想されたが、それは悉く裏切られる。パルバーのパンチを冷静に対処し、エリックは自分のパンチを確実に打ち込んでいる。距離が変わっただけで、試合自体は何も変わっていない。それでもしつこくパンチを出すパルバーに対し、エリックはパルバーの右ストレートを潜り込む様にかわして懐に飛び込んだ。
その瞬間、エリックの頭が弾ける。パルバーの左アッパーがエリックを捉えたのだ。池本の言葉とスパーリングの時に池本が入って来たタイミングで、パルバーは左アッパーを放っていた。
まともに貰ったエリックは、2·3歩後退する。パルバーは一気に前に出て行き、エリックに渾身のパンチを何発も放っていく。ガードしているとはいえ少しずつ後退していくエリック、パルバーに一気にコーナーまで押し込まれる。
パルバーは更に勢いを増し右フックを放った瞬間、パルバーの頭が弾ける様に跳ね上がり、パルバーはそのまま後方にダウンした。エリックは、あれだけパルバーに攻め込まれながらしっかりと観察し、パルバーの渾身の右フックにカウンターで右アッパーを合わせたのだ。このパンチがパルバーの顎ごと意識もろとも刈り取った。
エリックはゆっくりとニュートラルコーナーに歩いて行くが、レフェリーはカウントを数える事なく試合を止めた。パルバーはそのまま、担架に乗ってリングを降りて行った。
6ラウンド1分42秒、エリック·ロペスはKOにてWBA世界フェザー級のチャンピオンベルトを獲得した。
試合が終わり、エリック陣営は記者会見を行っている。
池本達はパルバーの控え室に向かった。池本はスパーリングをしている為、一応は義理立てしている形である。
「ああ……池本……」
「無理はしなくていい」
「いや……お礼を言いたい……お前が居たから、俺は一太刀返す事が出来た……少しは顔色を変えられた……」
「おう、見事だったぞ」
「……この先は、お前達に託すよ……」
「おう、何とかしてくれる奴が居るからな!」
池本はパルバーと握手をして控え室を出た。
「池本、あの左アッパー……」
「ああ、あのタイミングしかないからな……」
「その後のエリック……やはりただ者ではないな……」
「日本の2人、どう感じてますかね?」
「やる気になって貰わないと、凄く困るんじゃないの?」
5人は話をしながら帰路に着いた。
同時刻、エリックとミッキーは記者会見をしていた。
記者達の質問に答えを返す2人だが、何処と無く不機嫌さが伺える。特にミッキーの顔に笑顔は無い。
「最後に、今日の試合についてお願いします」
「……私の考えを理解し、その上で挑戦する奴が居る。その男の育てたボクサーを、必ずエリックが粉砕してくれる。こんなに試合が待ち遠しく感じるのは、久しくなかった……あの男、絶対に許さん」
ミッキーはそう言うと、エリックを引き連れて足早に帰って行った。どうやら、ミッキーには池本がパルバーに入れ知恵をしたのが分かっている様だ。その上で、池本達が育てている2人のボクサーに的を絞るつもりの様である。
強いエリックを、どうやって攻略するのか……




