世界へ……
2人の目標は、まずは世界チャンピオン……
佐伯も甲斐も世界タイトルに向けて、練習を上げて行く必要が有る。そんな事を考えていたある日、喜多の元に電話が入る。
「喜多か?」
「何ですか?」
「合宿するぞ……佐伯に言っとけ、手塚にも連絡頼むな」
「あの2人も呼ぶんですか?」
「居た方が、ある意味具合がいいぞ?」
「……確かに……分かりました、連絡します……何時からですか?」
「明後日だな!」
「分かりました!」
この後、喜多は西田拳闘会に連絡を入れ手塚に池本こらの話を伝えた。手塚も思う所は有るらしく、この合宿に参加する事になった。
合宿当日、集合場所はいつもの駅前である。
今回の合宿は3泊4日であり、いつものペンションに行くらしい。池本は誰よりも早くに来ていた。その後に徳井が来る。
「池本さん、早いですね」
「おう、暇だからな!」
「ライバル2人で相乗効果ですか?」
「馬鹿だなぁ……もう1組ライバルが居るから、倍率ドン更に倍だ!」
「ちょっと古くないですか?」
「そうだろうな……高松さんから借りたビデオに入ってた……いつか使おうと思ってたんだ!」
「成る程……しかし、ピッタリですね!」
「だろ?」
朝からくだらない話題で盛り上がっている2人、
「お待たせしました!」
「早いですね?」
「あれ?……手塚は?」
「一緒じゃねぇのか?」
「来てないけど?」
そんな話をしていると、少し遠くから物凄い勢いで手塚が走って来た。
「すいません……はぁ、はぁ、早く起き過ぎて……はぁ、はぁ……2渡寝しちゃいました……」
「……馬鹿だとは思っていたけど……」
「本当に馬鹿だよね……」
「うるせぇな、間に合っただろ?」
「お前等、そう言うな……来てくれれば、今はそれでいい……」
池本は背負っているリュックを降ろすと、中から電気制のバリカンを出した。
「なかなか出来ねぇからな……合宿でダメだった奴は、これで丸刈りだ!」
「何が入ってるのかと思えば……どうりで楽しそうな筈ですね」
「徳井、何で余裕なんだ?」
「何が有るか分からねぇだろ?」
「俺達も可能性有るよな?」
「ていうか……俺達にしたいんじゃないのか?」
「連帯責任だ!……この意味、分かるな!」
「やっぱりね!」
『!?』
「絶対負けねぇぞ、佐伯!」
「はい!」
「あいつ等を坊主にするぞ、甲斐!」
「勿論です!」
「……大差なかったら、やっぱりですか?」
「当たり前だ!…大差なければ、4人全員だ!」
『うわぁ……』
何やら、最初から大変な事が起こりそうな予感がする合宿である。
ペンションに着いた一向、オーナーに挨拶をする。
「あれ?……会長も石谷君も居ないの?」
「今回は俺達だけです」
「会長達は、やる事がいっぱいですからね!」
「「お願いします」」
「お?…2人はトレーナーだったよね?」
「はい、絶賛修行中です!」
「覚える事はたくさん有ります!」
「そっちは確か……コビット君にパークビュー君だったかな?」
「「日本人です!」」
「佐伯昴、世界チャンピオンになる為に来ました!」
「甲斐拳人、誰よりも強くなる男です!」
「……口だけ男達です」
「「池本さん!」」
「はっはっは、真顔でそれだけ言えれば大丈夫だね?……しかし、池本君は相変わらず楽しいね……はい、鍵」
「ありがとうございます」
「すいません、暫く騒がしくします」
「気にしないでよ、楽しみなんだからさ!」
みんなでオーナーに頭を下げてペンションに向かった。
着替えてすぐにロードワークに向かう。本日は全員でロードワークの様である。
池本と徳井が先頭を走り、ダッシュを混ぜたりジグザグに走ったりとかなり過酷なロードワークとなっている。増して、走っている場所は舗装していない道の為に走っている方はそれだけできつい。
そんなロードワークを事も無げに、池本と徳井は先人を切って走っていく。その後ろに喜多と手塚が、必死の形相で付いて行く。この4人が現役だった時を思い出す様な風景である。
現在の現役2人はというと、喜多と手塚の後をしっかりと付いて来ている。しっかりとバトンは繋がれているらしい。
ラスト2km程に差し掛かった時、
「さて、行くぞ!」
「ビリは坊主のポイント高いからね!」
『!?』
「徳井もビリなら坊主な!」
「え~!」
いつもの勝負が始まった。
最初に池本と徳井が戻って来る。続いて4人が殆ど同時に到着する。
「……みんなビリだな」
『え~?』
「しょうがないよね、大差無いんだから!」
「という事は、4人も坊主が出来るのかぁ……バリカンの出番、増えそうだ!」
「池本さんが嬉しそうな顔してるよ……」
「手に負えないな……」
「昴、暑いから坊主にでもなれば?」
「お前がなればいいだろう!」
最初から、かなり激しくなっている。
ジムワークに移る。最初にやる事は、それぞれパートナーを変えてのスパーリングである。佐伯は手塚と、甲斐は喜多とスパーリングをする。
佐伯と手塚のスパーリング…………
佐伯は左ジャブを放ちながら左に回って行く。切れの有るジャブを放ち、華麗なフットワークを見せている。
対する手塚だが、こちらは頭を振って左ジャブを突きながら前に出て行く。手塚のこの立ち上がりは、現役の頃から変わらない。
佐伯は手塚の現役時代を知っている為、左ジャブを突きながら近寄らせない事を前提にスパーリングを進めていく。懐に入られると厄介だと思っている様だ。鋭い左ジャブに交えて、時々右のブローを打ち込む佐伯、右ブローもスピードを意識したパンチになっている。
手塚は佐伯のパンチに臆する事なく、前に前に出て行く。時々佐伯の左ジャブを被弾するが、それでも構わずに歩を進める。佐伯の左ジャブを手塚が強引に額で弾くと、佐伯はすぐに右フックを放つ。これを掻い潜り、手塚は一気に佐伯の懐に飛び込んだ。
すぐに左ボディを放つ手塚だが、佐伯はこれをガードし細かいパンチを放ち距離を取ろうとする。手塚はこの佐伯のパンチをしっかりと踏ん張る事で距離を取らせず、そのまま接近戦へと巻き込む形になった。
佐伯は距離を取れないと感じると、すぐに接近戦に応じる。佐伯は先に先に手を出していく。
しかし、相手は手塚である。手塚は佐伯のパンチをしっかりガードしながら自分のパンチを返していく。佐伯も頑張ってはいるが、手塚に少しずつ圧倒されていく。
ここで佐伯の雰囲気が変わる。さっきまでガードするので精一杯だった手塚のパンチを佐伯は避けながら、自分のパンチを返していく。それも、カウンター気味に手塚にヒットさせていく。
手塚が少しずつ後退していき、佐伯は逆に前に出て行く。佐伯の右ストレートが手塚にヒットし、距離が出来た事で佐伯はすぐにアウトボクシングを展開した所でゴングが鳴った。
甲斐と喜多のスパーリング…………
甲斐はサウスポーから右ジャブを放ち、前に詰めて行く。頭を振り、喜多に的を絞らせない様にしている。
喜多は距離を取りながら左ジャブを放っていくが、左ジャブの切れとスピードが凄い事になっている。どうやら、喜多も現役時代を越えているかもしれない。
甲斐は喜多のパンチをしっかりガードしながら、前に出て行く。今の甲斐は少しくらいの事では前進を止められない。甲斐は右ジャブを返しながら、喜多との距離を縮めていく。
その刹那、喜多の右ストレートが甲斐を貫く。咄嗟に甲斐は頭を捻ったが、それでも前進は止められた。喜多はそのまま、すぐに距離を詰めて2·3発パンチを見舞うと、またすぐに距離を取って左に回り始める。
甲斐は頭を振りながら、改めて喜多を追い掛けていく。左ジャブを放ち、低く低く前に出て行く。甲斐が後半歩、間合いを詰めればと思うと喜多は自分から間合いを詰め、電光石火のコンビネーションを見せて離れる。甲斐にはやり辛い相手である。
喜多が三度、距離を縮めると甲斐の雰囲気が変わる。喜多の見事なコンビネーションを甲斐はしっかりと避け、最後の喜多の1発に自分の右ブローを被せた。
喜多はこれを間一髪で避け、距離を取ろうとバックステップするが、甲斐は喜多を逃がさない。喜多に合わせる様に前に詰め、そのままインファイトに喜多を引きずり込む。
喜多は事を理解しすぐにパンチを放っていくが、甲斐はこれを避けていく。頭を振り、近いこの距離でクリーンヒットを貰わない。更には細かくスイッチし、喜多から微妙な距離感を奪っていく。その上で甲斐はパンチを返していき、喜多にクリーンヒットをさせている。
喜多が破れかぶれで振るった右フックに対し、甲斐が見事にカウンターを合わせた所でゴングが鳴った。
この後、佐伯と甲斐はサンドバッグを打ち、池本の持つミットを打って本日の練習を終了とした。合宿初日から、佐伯と甲斐の成長が見られるスパーリングとなった。
なかなか見事なスパーリングであるが、池本の顔が険しい。どうやら、この男は納得していない様子である。
厳しい合宿……




