強者を知る時……
何やら不穏な空気……
佐伯と甲斐は、世界タイトルマッチに向けて、毎日厳しい練習に没頭している。世界チャンピオンが見える状況にあり、2人の集中力も日に日に増している様である。
そんな最中、エリック·ロペスの世界タイトルマッチが決まった。対戦相手は、WBA世界フェザー級レギュラーチャンピオンであるジョン·パルバー(19戦19勝14KO)であり、10月19日にラスベガスで試合となった。プロ2戦目での世界タイトルマッチ、チャンピオンを獲得すれば間違いなく世界最速である。
このニュースを受け、池本はジョシュに連絡を入れた。
「すまない、ジョシュ……明後日そっちに行く、悪いがパルバーのジムまで付き合ってくれ!」
「構わないけど、ラリオス達はいいの?」
「今回はな……それから、エリックのタイトルマッチのチケットを頼む」
「それは任せておいてよ!」
ジョシュに電話した2日後の9月12日、池本は1人でロサンゼルスに向かった。
ロサンゼルスに着いた池本をジョシュが迎える。
「とりあえず、今日は休むんだろ?」
「いや、今からパルバーの所に行く……明日には日本に帰る予定だ」
「弾丸ツアーだね?……よし、パルバーのジムに行こうか?」
池本はジョシュの案内で、パルバーの所属する[ファイティングジム]に到着する。池本は当たり前の様に入って行く。
「パルバーは居るか?」
「池本、失礼だろ?」
「誰だ?……失礼な奴……池本だな?」
「確認しなくても分かるだろ?」
「……何の用だ?」
「パルバーに用事が有る……居るのか?WBA世界フェザー級レギュラーチャンピオン、ジョン·パルバー!」
「……うるせぇな…何の用だ?」
「居たのか、良かった……悪いが、スパーリングをさせて貰いたい」
「何を言っているんだ、パルバーは防衛戦間近なんだぞ?」
「腑抜けたパートナーより、よっぽど練習相手にはなると思うがなぁ……怖いなら話しは別だが?」
「誰が怖いって?……いいだろう、用意してリングに上がれ!」
「待てパルバー、相手は池本だぞ?」
「安心しろ、壊すつもりはねぇよ」
池本は更衣室に入り、すぐに着替えてスパーリングの準備をした。
池本とパルバーのスパーリング…………
パルバーは左ジャブを放ち、なかなかのスピードで左に回っていく。流石に世界チャンピオンである。その動きやパンチのレベルはかなり高い。ましてフェザー級である。池本と比べて速いのは当たり前である。
対する池本だが、しっかりとガードを上げて距離を取っている。池本にしては珍しく、本来のスタイルとは全然違う。それでも池本である。華麗な動きを見せ、パルバーのパンチを受ける事なく左ジャブを返していく。
パルバーは更にスピードを上げ、池本に襲い掛かる。左ジャブから華麗なコンビネーションを出し、再三池本にパンチを放っていく。
池本はこのパンチをガードし、そのパンチの威力や切れをしっかりとガード越しに感じていた。どうやら、池本には考えが有るらしい。
パルバーは構わず池本にパンチを放つが、池本はパルバーのパンチを潜る様にかわし一気に間合いを詰めると、そのまま電光石火の左ボディを打ち込んで距離を取った。ここで終了のゴングが鳴る。
池本とパルバーはリングを降りて来る。
「スパーリングの意味は?」
「何となくだ」
「本当か?……佐伯と甲斐の為の偵察じゃないのか?」
「俺がそこまでやる必要はない……ちょっと気になってな……」
「エリックか?」
「そんなとこだ」
池本はパルバーから離れて行く。
「どうだ池本、パルバーは強いだろう?」
「そうだな……」
「さて……エリックを倒すとするか!」
「頑張れよ……」
池本は着替えてジムを出て行く。出て行く直前、
「パルバー、懐に入られた瞬間に左アッパーだ」
それだけ言うと、池本はジョシュと帰って行った。
池本とジョシュは歩いている。
「池本、パルバーは勝てそうか?」
「……無理だな……エリックは別次元だ……」
「そうか……パルバーはいい選手なんだけどね……」
「確かにな……しかし、怖さが無い……厳しいだろうな……」
「池本、左アッパーは何なんだい?」
「せめてパルバーが納得出来る様に……かな…………少しはエリックに、本気を出して貰わないとな……」
「成る程……少しは楽しみだね?」
「確かにそうだな……日本の馬鹿2人は、今頃必死に練習してるだろうな」
「それは確かだね!……しかし、厄介な奴が同じ階級に居るよね?」
「それを幸運と取るか不幸と取るかだな」
「幸運なのかい?」
「いいかジョシュ……なかなか会えない強者と対戦する機会が有るんだぞ?……俺なら、幸運と捉えるがね」
「そうかなぁ……普通は不幸だと思うんじゃないかなぁ?」
「ラリオスも俺の意見に賛同だろうな」
「そうなの?」
「当たり前だ!…俺はラリオスと同じ時期で本当に幸運だと思ってる……あんなに強くて、素晴らし男は居ない……あいつとの対戦は、間違いなく俺の誇りだ!」
「……珍しいね、池本がラリオスを褒めるなんて……」
「褒めてねぇよ、事実だ……ラリオスに言うと、調子に乗るから内緒な!……あいつ、調子に乗るとうるせぇんだ……」
「それは僕も分かってるよ……内緒にしておこう」
この後、池本はジョシュの案内でホテルに泊まった。翌日の朝には、池本は日本に戻った。何を考えているか分からない池本ではあるが、池本の眼力は確かな物である。この渡米が、佐伯と甲斐にどう影響するのだろうか。
何を考えているのか……




