世界へのステップ·甲斐……
こちらも、世界戦が決まったみたいです……
甲斐は西田拳闘会で、本日も練習している。
甲斐はサンドバッグを叩くラウンドを増やしている。どうやら、渋崎と孔明との立ち合いから何かヒントを貰った様だ。そんな甲斐を西田会長が呼ぶ。
「甲斐、12月25日にタイトルマッチだ!」
「はい!」
「場所は代々木アリーナだ!」
「はい!」
甲斐は話を聞くと、会長室から出て行く。すぐに手塚から声が掛かる。
「甲斐、スパーやるぞ!」
「はい、お願いします!」
甲斐と手塚はスパーリングする。
甲斐と手塚のスパーリング…………
手塚は頭を振りながら左ジャブ出し、前に出て行く。手塚の戦い方は、この戦い方しかない。徹底した接近戦で相手を悉く粉砕し、世界チャンピオンまで登り詰めた。そんな手塚が、走り込みから鍛え直し身体を作り直して来た。手塚の動きは現役と遜色無い物となっている。
一方の甲斐だが、サウスポーから右ジャブを放ち、こちらも前に出て行く。甲斐も主戦場はインファイトである為、手塚との距離が被る。お互いが射程距離に入った。
ほぼ同時に2人はパンチを放つ。2人共に、ぎりぎりでお互いのパンチを避けた。これを皮切りに、激しい打撃戦が展開される。リング中央で1歩も引かずに、2人はパンチを出し合う。お互いにいいパンチを放つが、クリーンヒットは無い。
手塚はガードを上げ直撃を避ける様にしており、甲斐は手塚のパンチを上手く捌いていた。接近戦の打撃戦でお互いのパンチが当たらない、なかなか珍しい光景ではあるが、見応えは充分以上に有る。白熱のスパーリングとなっている。
この打撃戦は、なかなか動かない。2ラウンドに入ると、更に連打が上がって来るが、それでもお互いにクリーンヒットを許さない。どちらが上か、意地を張っている様にも見える。今分かる事は、2人が超が付く程の負けず嫌いという事である。
3ラウンドも打撃戦は続く。恐ろしく強く速いパンチが、お互いを襲っている。気の抜けない打撃戦である。このスパーリングで、甲斐は練習していたパンチをまだ使っていない。どんなパンチなのか、気になる所ではある。
4ラウンド、スパーリングが動く。接近戦は変わらないが、有効打が入らないと感じると、手塚は強引に距離を縮めクリンチをする様な距離にする。その刹那、下半身のバネを生かして左ボディを放った。間合いの殆ど無いこの位置で、手塚は渾身の左ブローを出した。
甲斐は手塚が入って来ると、瞬時にオーソドックスに構えを変えた。手塚が左ボディを放ったタイミングからわざと少し遅らせて、手塚のボディに左ブローを放った。手塚のボディは当たる瞬間に甲斐がいなす形になり、甲斐のボディは手塚を捉えた。一瞬手塚の表情が変わるが、手塚は構わずに右のブローを返す。その時には甲斐は、サウスポースタイルになっており、手塚の右は軌道が少しずれていた。甲斐は頭を沈める様に手塚のパンチを交わしながら、右フックを手塚にクリーンヒットさせた。
手塚は少し後退する。甲斐は前に詰めて来る。このタイミングで終了のゴングが鳴った。
「それまでだ」
池本の言葉で、2人はリングを降りて来る。
「手塚、練習生を見てくれ……甲斐、たまにはミットを持ってやる」
『はい』
甲斐はヘッドギアを外し、グローブを付け変えてリングに上がった。
池本はミットを持ちながら、実に上手く動いている。絶妙なタイミングで足を引き、甲斐のスイッチに対応している。改めて、池本の優秀さが分かる。ミット打ちは少しずつ激しくなり、最初こそ甲斐は感触を確かめる様にパンチを放っていたが、2ラウンドからは池本のミットに翻弄されていく。ミット打ちが5ラウンド終了した。
「サンドバッグを打って出直しだな」
「俺は…はぁ、はぁ……まだやれます…はぁ、はぁ……」
「肩で息してる奴のミットは持たねぇよ……手塚なら、意地でも肩で息はしなかった」
「はぁ、はぁ、はぁ……俺は甘いですか……はぁ、はぁ……」
「自分でいいと思えばそれまでだ……自分で考えろ!」
池本はリングを降り、甲斐はサンドバッグへ移動した。
甲斐は練習を終え、帰って行った。池本に言われた事が応えたらしく、かなり気合いの入った練習となっていた。
ジムの片付けは、本日は手塚である。池本は黙って片付けの手伝いをしている。片付けが終わる。
「池本さん、ありがとうございました」
「は?……俺は何もしてねぇぞ?」
「いや……ミットを……」
「持ちたくなっただけだ」
「しかし……やっぱり助かりました」
「……現役と変わらない実力だと感じているが、スパーリングで上をいかれた……そんな所か?」
「はい……スパーリングパートナーが厳しいと感じます……まだまだ強くなるし、困ってますよ……」
「その割には、顔がにやけてるな?」
「現役じゃないって事ですよ……俺は、今はトレーナーです。選手が強くなる事は素直に嬉しい……」
「う~ん……それはそれで構わないんだが……今はまだ早いんだよなぁ……」
「????」
「エリックとロベルトの試合は見たか?」
「はい!……ロベルトを左だけで完勝……流石にレベルの違いを感じますね……」
「……レベルの違いか……しかし、いつかはぶつかる相手だ。それが佐伯なのか甲斐なのか、どちらにしても避けられない……満足してる場合じゃねぇんだよ……」
「まだまだ先でしょ?」
「やる事やってれば、あっという間さ……満足するのは、その後だ」
「……確かにやる事はたくさん有りますからね……よし、気合いを入れ直すか!」
「頼むぞ、手塚!」
「はい!」
甲斐も成長している。手塚ですら、スパーリングパートナーが務まらないくらいに強くなっている。
しかし、世界は広い。強い者は必ずおり、少なくともエリック·ロペスは実在している。本日の池本は、本当に的確で的を得たアドバイスをしている。手塚は改めて、甲斐を鍛える覚悟をした。
世界チャンピオンが見えて来ました……




