世界へのステップ·佐伯……
世界戦が決まりました……
佐伯は世界戦に向けて、川上ジムで厳しい練習をしている。
佐伯が着替えて来ると、川上会長から会長室に呼ばれ中に入る。喜多はすでに中に居た。
「佐伯、調子はどうだ?」
「いい感じです」
「そうか……12月15日、ヒカルド·クゥトゥアと試合だ……横浜アリーナだ」
「……世界戦が決まったって事ですね?」
「その通りだ」
「……よし、必ず勝つぞ!」
佐伯は会長室から出て行った。
「喜多……しっかり頼むぞ!」
「はい……浮き足立たない様に、しっかり練習させます」
「よろしくな!」
「はい!」
喜多も会長室を出て行った。
佐伯の練習は、基本は変わらない。池本か徳井がロードワークに付き添い、その後でジムワークに移っていく。違う事と言えば、本日よりスパーリングが開始される事である。勿論、パートナーは喜多である。世界戦に向けて、本格的に始動となった。
スパーリング…………
佐伯と喜多が対峙している。2人に共通する事は、お互いにスピードが武器のボクサーであるという事である。佐伯も喜多も左ブローを放ちながら、物凄いスピードでリングの中を動いている。
高速の動きの中、高速のパンチが飛び交うが2人はそれを被弾しない。佐伯は避け、喜多はガードしている。このスピードの中でクリーンヒットしない、2人のレベルの高さが伺える。
2人のスパーリングは熱を帯びていく。佐伯も喜多も更にギアを上げ、手の付けられない様な戦いになっている。現役の佐伯も去る事ながら、喜多の動きは全盛期のそれを超えている様である。
そんな激しいスパーリングだが、佐伯が少し違って来ている。いつもなら、スパーリング中にどこか集中力を切らす事があり、パンチを被弾する事がある。才能が有る故に、ムラが有る性格をしている。この辺の甘さが佐伯の弱点だと思っていたが、このスパーリングにはそれが無い。佐伯の集中力が凄い。
これには訳が有る。久我の道場に行った際、渋崎の打つ事が分かると言った発言である。佐伯はそれを探しながら、スパーリングに望んでいる。目を凝らし、その事に集中しながらスパーリングを進めている為、今の佐伯には喜多の動きさえゆっくりに見えている。
喜多との激しいスパーリングが4ラウンドになった時、喜多の右ストレートを出される前に佐伯は自分の右ストレートを被せた。打とうとした喜多にクリーンヒットである。
喜多は一旦距離を取り試合を立て直したい所だが、佐伯は間髪入れずに攻めて来る。喜多も応戦してはいるが、強いパンチは放つ前に佐伯が被せて来る為に打つ事が出来ない。佐伯優勢のまま、スパーリングは終了となった。
この後佐伯は、しっかりとジムワークを終えて帰路に着いた。
喜多はジムが終わると、戸締まりをしていた。その戸締まりを徳井が手伝っている。徳井は本日、川上ジムに来ていた。
戸締まりが終わった喜多に、徳井が話し掛ける。
「喜多……やられたね?」
「ああ、やられた……参ったな、パートナーも務まらなくなりそうだ……」
「喜多自身は、現役よりも強いくらいなのにね?」
「……現役と比べてどうかは分からないが……俺では持て余しそうだ……大したボクサーになって来たよ、あのクソガキもさ……」
「……確かに強くなってはいるけどさ……難しいのはこれからだよね?」
「そうなんだ……確かに世界チャンピオンになる実力は有ると思うし、なって貰わないと困る……しかし、何が有るか分からないのがボクシングで、世界チャンプがすんなり勝たせてくれるとは思えない……」
「更にその先も見据えるとなると……手放しで褒める訳にはいかないね?」
「その通りだ……俺は世界チャンピオンがゴールだった……佐伯はそれじゃダメだ、更に上に行って貰わないと……俺では役に立たないのかな……」
「……喜多……馬鹿さ加減が増してるよ……お前じゃなきゃ出来ない事が有る筈だ……そこをしっかりやっていけよ」
「俺じゃなきゃいけない事?……それは何だ?」
「自分で探せ!……少なくとも、俺や池本さんでは出来ない事が有る筈だよ」
「…………有るか無いかは分からないが……やれるだけはやるさ……俺も佐伯も、悔いが残らない様にな」
戸締まりが終わり、2人はジムから出て行った。
徳井が歩いていると、池本が声を掛けて来た。
「どうだ、佐伯と喜多は?」
「いい感じですよ……喜多はお馬鹿が増してますけどね!」
「いい傾向だ」
「池本さん、喜多のトレーナーとしての素質は……」
「向いてるな……かなり素質は有るんじゃねぇか?…なかなか居ねぇかぞ、選手の為に現役を超えるトレーナーは」
「それだけ、選手と運命を共同する覚悟が有るって事ですかね?」
「そうだろうな……選手としても良かったが、トレーナーとしても一流だな」
「……喜多はいいとして、手塚はどうですか?」
「愚問だな……あいつも選手の為に現役を超える決意をしてるよ……あいつもトレーナーとしては一流だな」
「選手の為に自分を追い込むトレーナー……それに応える選手……」
「直接激突した時……どんな結果が待つのかだな?」
「そうですね……どんな試合になりますかね?」
「さて……楽しくなりそうだとしか言えないな…………そうだ、これを賭けにしよう……ラリオス達も参加させて……」
「賭けですか……面白そうですね?」
「実現しなかったら、トレーナーと選手まとめてスキンヘッドだな!」
「好きですねぇ……そういえば、誰もスキンヘッドになった奴は居ませんね?」
「そうなんだよ、楽しみにしてるのにさぁ……徳井、涼しくしてやろうか?」
「遠慮します!……すぐ悪巧みするんだから!」
「そう言うなよ……手塚の髪、また坊主にでもするか?」
「それはナイスアイデアです!」
どうやら、2人の悪巧みは決まった様だ。
佐伯は世界戦に向けて、今の所は順調である。
佐伯のやる事は、まだまだ有ります……




